IS学園には行事が目白押しだ。体育祭や文化祭といった一般的なものからISに関するものまでよりどりみどりちゃんである。みどりちゃんって誰やねん。それはどうでもいいので一先ず置いておくとして。その中にはクラス
「来たわね、一夏」
「そりゃ来ない訳にはいかないし……」
よって現在。五月。鈴が転入してきてから数週間が経ったこの日はちょうどそのクラス対抗戦が始まるわけでして。しかも一回戦から相手は二組だったわけでして。二組のクラス代表は無理矢理変わった鈴なわけでして。最初からクライマックスな予感がするわけなのでして~。……はっ、プロデューサーにならなきゃ(使命感)。
『両者は規定の位置まで移動してください』
「最初に言っておくわ。……微塵も手なんか抜かず、全力をアンタにぶつけるから」
「いいよ、それで。むしろその方が良いかな。真剣勝負ってそういうものだし」
それをピットで見ている訳なのだが、普通に試合前の雰囲気だなーというのが感想である。ちっぱい騒動が無かっただけでこうも変わるものなのか。いやはや胸囲の問題はまさに驚異的だね。胸囲だけに。
「……なんだか寒気がしますわね」
「奇遇だなセシリア、私もだ」
「奇遇だな二人とも、俺もだ」
せやなー、寒気がするなー、いやーほんと五月だってのに寒さがまだ残ってるかー。……はい、すいません。ちょっと魔がさしたというか我慢できなかったというかなんというか。これくらい多目に見てほしい。一夏のギャグよりかはマシだろう。どっこいどっこい? 人生で言われて一番きつい言葉ですね……。
『それでは両者、試合を開始してください』
「いくわよ一夏っ! 長年の想いと胸の怨み! この手で打ち砕いてやるわ!!」
「特にそういうのはないけど全力で相手するよっ!」
試合開始を告げるブザーが鳴り響いた瞬間に迫り合い、しのぎを削る二人。鈴ちゃんはちゃっかり胸のこと根にもってんのね。そればっかりは俺関係ないよ? でっかい身体になった一夏、もしくはそんな身体にした束さんが全面的に悪い。でもおっぱいは正義だから仕方ないと思うの。ジャスティスおっぱい。おっぱいジャスティス。これテストに出るから覚えておくように。
(……そういやこれって途中に謎の無人機が乱入して一夏がやばくなるんだっけ? いやでもなぁ、原作なんてもうあって無いようなもんだしなぁ……)
ふんふむと考えてティンと来た。
(ぶっちゃけ来るわけないよね!)
俺がクラス代表をやってるならまだしも一夏なのだからそんなことはあり得ないと思いたい。いや、一夏だからこそあり得るのかもしれないが。とりあえず警戒だけしとこうそうしとこう。普通に考えて乱入とかありえないと思うんですけどねー。
◇◆◇
乱入しますた。わーにんぐわーにんぐ!
「マズイことになりましたわね」
「マズイことになったな」
「マズイことになっちゃいましたね」
以上、三名からのコメントでした。いやみんな冷静すぎない? 原作知識である程度覚悟完了してた俺はともかくとして君らはなしてそんなに思考が冴えてるのん? 冴えっ冴えじゃないですか。冴えすぎてもう冴えない彼女とか言ってられない。加藤ちゃん凄くメインヒロイン。
「さて、どうしましょうか箒さん」
「ふむ、どうする蒼」
「どうしますよセシリア」
「いや、箒さんが」
「む、ここは蒼に」
「セシリアさん!」
「落ち着け馬鹿共」
フランスパンパパーンと小気味いい音が響く。今日の出席簿アタックはキレがよろしいですね。
「千冬ネキ!」
コッペパーン!
「織斑先生だ」
「イエス、織斑先生」
やれやれ、とんだ暴力教師だぜ。ま、それに耐えて従ってやってる俺は実はとても凄いやつなんだけどな(ドヤァ)。やっぱりそんなやれやれ系主人公は駄目ですね。もっと突っ張っていかないと。ケンカの相手を必要以上にぶちのめし、イバルだけで能なしの教師には気合いを入れてやり、料金以下のマズイ飯を食わせるレストランには代金を払わない。これ鉄則。やれやれだぜ。
「落ち着いたな、ならばこれを見ろ」
「遮断シールドがレベル4に……しかも扉が全てロックされて……あのISの仕業ですの?」
「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできない」
「ふむ。手詰まり、という訳か……」
……や、やれやれ、だぜ(白目)。まぁ知ってたっちゃあ知ってたから良いんだけど。いや良くない。あの二人の実力をある程度知っているとはいえ心配なものは心配だ。例えその後の展開を知っていても。……つーか色々と前提条件が崩れてるから展開も何もあったもんじゃないのよね。ぶっちゃけ今の一夏なら無人機くらい軽く粉砕できそうだし。
「あいつらならば下手をしない限り大丈夫だとは思うが……浮かない顔だな、植里」
「……なんつーか、嫌な予感がするんすよね」
「嫌な予感、か……」
こう、よく分かんないけど。胸がざわつくってのはこういうことを言うのだろうか。ざわ……ざわ……。きたぜぬるりと……。いや、来なくていいんですけどね。
数分後。予想より早いスピードでこちらがシールドをこじ開けるより先に乱入者を倒してしまった二人なのだが、見事にこの嫌な予感が的中する。性別が変わっても根本的な部分が織斑一夏だということを忘れていた。いやほんと、変な汗かいたっつーの。
◇◆◇
「──で、無茶して突っ込んで叩き斬った挙げ句にこの様か。よく死ななかったなお前」
「あ、あはは」
誤魔化すように笑うそいつにじとっとした視線をくれてやる。本当ならこの暇潰しに持ってきた読みさしの本で頭をぶっ叩いてやりたいところですけど。そこは怪我人だから仕方ない。全身に軽度の打撲ですってよ。いやほんと仕方なさすぎて八つ当たりしちゃうレベル。
「笑い事じゃねえわアホ。なに? 観客に被害が及ぶといけないから無理矢理切り込んで? 倒したと思ったらまだ力が残っててそれを身の危険すら省みずに切り裂いて? ……馬鹿だろお前」
「い、いやでも、あの場面はああするしか……」
「……もういい。ちょっと寝てろ」
今のは俺に対してもですね。うん。ちょっとクールダウンしろよ植里くん。熱くなるのはキャラじゃないでしょうが。こういう時こそクールに行こうぜクールに。
「……なるほどな。一夏があんなこと言うのも分かる気がするわ」
「? なんのこと?」
「“二度と、こんなことするんじゃねえ”って」
「……あー……」
初めて理解できた。何度言われてもイマイチしっくり来なかったけど、今回の件でばっちり分かりきってしまった。これはあかんね。どうも感情とかそこらがごっちゃごちゃになりそうで怖いわ。変なこと口走りそう。既に口走ってるかもしれないけど。マジで考えがまとまらねぇ。あー、なんかイライラする。
「あれだけ人に言っておきながら自分だって無茶してんじゃねえか」
「い、いやー……あはは」
「だから笑ってんじゃねえよお前俺がどれほど心配したと思ってんだ一瞬頭真っ白になったんだぞ無事だと分かってもこうして話すまで気が気じゃなかったんだぞ暇潰しに持ってきた本だって1ページすら頭に入ってこねぇし千冬さんの話も殆ど要点しか覚えてねぇしちょっと泣きそうになっちゃうしマジなんなの俺」
「ちょ、蒼。落ち着いて、落ち着いて」
どう見ても落ち着いてるだろうがコラ。
「……心配した。分かるだろ、お前」
「う、うん。そりゃあ……ね……」
「次からは気を付けてくれ。お前に死なれると……なんだ。寝覚めが悪いっつーか……あぁもう。正直言って泣くからな。絶対」
「……うん。ごめん」
謝るなら最初からするんじゃねえよ。……とか衝動的に言ってやりたくなるけど、今は完全に頭に血がのぼっちゃってるから余計なこと言わない方がいいわな。俺が。これは流石に自覚しますって。もう顔とか真っ赤なんじゃないかと。
「そんじゃあな。安静にしてさっさと治せ」
「あれ、もう行くの?」
「今お前といるとなに口走るか分からん」
「そっか……。ねぇ、蒼」
「なんだよ」
「ありがとうね」
「……そりゃどうも」
ピシャリと扉を閉める。あー……うん。ちょっと校内でも散歩しようそうしよう。じゃないと落ち着かない。つーか何かしてないと無理。だらだらと足を運びながら廊下を進む。ここに来てからずっと一夏と一緒にいたからか、隣に誰もいない状況が少し珍しくて、同時にどこか寂しかったり。
◇◆◇
「……ほい。烏龍茶で良かったっけ?」
「……うん、良いわよ」
夕暮れの少し冷たい風を浴びて思考も冷静さを取り戻したきた頃合い。なんとなく通り掛かった廊下で鈴とばったり出くわしたのついさっきのことだ。一目見ただけで元気がないことは丸分かりだったが。……一応友達だからそれくらい分かりますよ?
「……」
「……」
二人しかいない教室で隣り合わせた机に座り、それぞれが飲み物を手で弄りながら沈黙が流れること数十秒。無言。予想はしていたけどかなりキツイ。今日は大分精神に負担がかけられますね。
「一夏さ、やっぱ変わってなかったのよね」
「……」
「口調も性別も女になってるのにそのまま。相変わらず格好良いやつよ、ホント」
「……そっか」
腐っても……って言い方が適当なのかは分からないけど、立派なラノベ主人公である。おまけにイケメン。そりゃあ性転換しても格好良いのだって頷ける。最近めっきりその様子を見なかったから忘れていた。女に馴染みすぎなんだよなぁ……。
「……だから余計思うのよね。あの時告白してれば~とか、もし一夏のままなら~とか」
「……おう」
「結局、あたしがいけないんだけどね。意気地の無かった自分を責めるべきなのよ」
にかっと笑って鈴はそう言った。決して綺麗な表情とは言えないような曇り具合。まるで決壊しそうなダムみたいにたまってる涙とか、引き攣った口の端とか。お世辞にも笑ってるなんて言えたもんじゃなくて。
「……なぁ、鈴」
「……なによ」
「今度、どっか遊びに行こうぜ」
「ぷっ。なにそれ、デート?」
「ちげーよ。……弾や数馬も誘ってさ、また皆で集まろうぜ。そんで馬鹿やって、はしゃいで……んで、めいっぱい笑おうぜ」
思いっきり、大口開けて。
「……そうね。アイツらも私がいなくて寂しがってるだろうし」
「んなこと言ったら弾に噛み付かれるぞ」
「大丈夫よ、あんなチワワ」
「チワワって……なにその無駄な可愛いさ」
確かに女性からの圧力で怯え上がる小型犬っぽさはありありと見てとれますけど。それにしてもチワワは酷くないでしょうか。まぁ弾だからいっか。
「可愛いもんよ。あんなヘタレ」
「鈴、そのワードは俺にも刺さるぞ」
「ぶっ刺さりなさい。一夏と付き合ってる代償よ」
「酷いことで……」
(多分)1巻終了