俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

7 / 95
やっぱ美少女にちゃんとした服着せちゃ駄目だろ。

 織斑一夏(♂)が織斑一夏(♀)になった翌日。当人より軽くとも精神的負担のかかっていた俺は、未だほんのりとした朝日がカーテンの隙間から射し込もうとも布団に潜っていた。あぁ~、あったかくて気持ちいいんじゃあ~。朝飯とか作るのダルい。起きるのさえ億劫だ。よし、そうとくれば極限的に腹が減るまで起きないことにしよう。そうしよう。多分その時には一部の部位が硬化して弾かれ無効無効がついてる。あとダメージカットもだっけ。極限化システムは絶許。せめて石の効果時間長くしろよゴラァ!

 

「ふあぁ……ねむ……ぐぅ」

 

 そのまま意識を深くまで沈めようとしたとき、聞き慣れたチャイムの音が鼓膜を揺らす。ピンポーンってやつ。なんだなんだ、こんな朝っぱらから押し掛けてきやがって。変な押し売りとかだったら殴る。男でも殴る。女の方なら徹底的に面会を拒否します。起きて早々拷問にかけられるみたいなもんすよ……。さて、しかしながらこうして考え込んでいても相手は帰る様子を見せない。二度目のチャイムが鳴らされた。ふむ。何故だろう。ちょっと嫌な予感がしてきたぞ。波乱の予感。あれ、そういえば昨日もこんなことがあったような。

 

「……い、今行きまーす」

 

 き、気のせいだよね(震え声)。そう。昨日は何も無かったんや……平和な一日やったんや……。友人が女になったとか、そういう取るに足らない事しか起こってないんや。めっちゃ取るに足るじゃん。取り敢えず来客の確認よりも先に己の体を見る。よし、今日もばっちりモテない男の子してるな! セルフ罵倒。ドMじゃないから精神がゴリゴリ削られてーら。ちゅらい。玄関まで来たので素早くドアノブを掴んで捻った。ガチャリと音をたてて扉が開く。

 

「はい、どなたで──」

「よっ」

 

 そう言って片手をあげたのは、どこからどう見ても百人中百人が美少女というような美貌の美しい女の子だった。めっちゃ意味被ってる。落ち着け落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。よく見てみろ。腰辺りまである長くて艶のある黒髪。優しい雰囲気を醸し出す少し垂れ目気味な瞳。服の上からでも十分な主張をしてくるおっぱい。尚且つ体は健康的な細さ。服装は清楚さを感じさせる。え、なにこのパーフェクト美少女。街歩いたらナンパどころかスカウトされるまであるんじゃねぇの。一目惚れしそう(童貞感)。だが、この人は女性だ。そして俺は植里蒼。察しの良い人ならもう分かったと思うが、知人の共通認識が吃ることである自分がこんな美少女をまともに見れるか。いや、見れない(反語)。

 

「ごめんなさいっ!」

 

 バタンとドアを閉めた。ふぅ、誰だ今の。俺の知ってる人にあそこまで可愛い女の子はいない。先ず知ってる女の子の数が少ないけど。うん。この話はやめよう。一方的に自分から傷付くだけだ。さっきも言ったがドMちゃうねん。申し訳ないが自傷行為はNG。まぁ、何のようがあったのか知らんが、今の対応で帰ってくれる筈。もう一度ベッドに潜り込んで寝るぞーっ、とくるり踵を返す。同時にドアが叩かれた。

 

「おい! なんで閉めた!?」

「ヒイッ!?」

 

 やだ、随分と気性が荒いですよこの人。全く最近の女性はなんてこった。もっと大和撫子みたいに清楚じゃないと男なんて捕まえられませんぞ。ごめん、今の俺の趣味嗜好全開。亭主関白とまではいかないけど、優しい女の子と恋がしたいんだ。贅沢とか言うな。だから童貞なんじゃねーのとか言うんじゃねぇよちくしょう。理想が高いのは分かってる。ええ、分かってますとも。

 

「し、失礼ですけど、どなたで……?」

「織斑一夏ですけどッ!!」

 

 ゲートオープン、界放。

 

「なななんだよ一夏かよおおお驚かせんじゃねーよ」

「落ち着いてるつもりだろうが落ち着いてねーぞ」

 

 仕方ねーだろお前。だってお前。もうちょっとでぼく心の絶甲氷盾発動してたよ。バースト発動してたよ。確実にあの展開はライフ減少してました。だって心臓めっちゃ痛かったし。バクバクいってたし。胸筋突き破って飛び出るかと思ったわ。ズバーンて。

 

「朝飯、その様子だとまだか?」

「え、いや、まぁ。……そ、そうだけど……?」

「ならちょうどいい。今日も作ってやるから、部屋入れてくれ」

 

 にこっと笑ってそう言う一夏ちゃん(昨日より可愛さ三倍増し※当社比)。なにこの子可愛すぐる。思わず顔が赤くなるのを実感してしまった。やべぇー……一夏ちゃんの破壊力やべぇー……。イケメンなりの挨拶スマイルがこうも変化すると、もう何も言えねぇよ……。加えて服装がきちんと女の子してるから余計マズいですよ!

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「そ、それで、きっ……今日は何しに来たんだよ」

「ん? 何って、分かるだろ? お前」

 

 一夏ちゃんお手製のお味噌汁(減塩)を飲みながら聞くと、妙に威圧感のこもった顔でそう言われた。怖い。一夏ちゃんかわいいけど怖い。なるほど、これがコワカワイイ系女子って奴ですね! 可愛いけりゃ何でもいいと思ってんじゃねえぞオラ。オラオラ。悪とはてめー自身のために弱者を利用しふみつける奴のことって承太郎さんも言ってるだろ。身勝手な女性のふるまいは現状法律で裁くことが難しい。だから、俺が裁く! え? 女性と会話すら出来ない俺が? 無理ぽ。

 

「逃げられると思ってんの?」

「すいませんでした(戦慄)」

 

 日本人の考案した最も効率的且つ美しい謝罪方法DO☆GE☆ZAを実行。やだ、何か新しい扉開けそう……。多分それ禁断の扉。開いたらもう戻ってこれなくなるじゃねえか。ストップストップ。そんなに意気揚々と進むんじゃありません。お前死ぬぞ(社会的に)。クラスの女子からキッモーとか言われただけでゾクゾクするような変態になってもいいのか。よくないだろ。多分、きっと、めいびー。しかしさっきから色々と伏せカード多すぎんよ……。大嵐は、大嵐は手札に無いんですか!? いや、むしろ今は一夏のターンだしエンドサイクで十分だろ(KONAMI感)。うん。ちょっとカードネタ多いな。自重。

 

「あのあと、俺がどうなったか知ってるか?」

「聞きたくないです一夏さん」

「千冬姉にランジェリーショップから薬局まで幅広く連れ回されたんだぞ」

「聞きたくねぇつってんだろ」

 

 そう語る一夏の顔は妙に清々しかった。こいつ、悟ってやがる。でも千冬さんは悪くないんだ。きちんと俺からの頼み事を完遂させてくれたので、むしろグッジョブですよ。一夏が駄目そう? かまへんかまへん! こいつの事だから縁側でお茶飲んだらもう忘れてるって。ん、それを忘れずここで話しているってことは。あっ……(察し)。ヒールトリガーにかけろ(自重)。

 

「なぁ、分かるか? 実の姉から女のいろはを教わったんだぞ。どうしてくれるよ」

「さすがは千冬さん、俺には出来ないことを平然とやってのける。そこにシビれる! あこがれるゥ!」

「……」

「すいませんちょっと調子乗ってました」

 

 本日二度目の土下座。無言でにっこり笑ってくるとか一夏マジでこえーよ。こいつだけは本気でキレさせちゃいけない(戒め)。いっそ手を出してくれた方が楽だと思いました。あぁ、ISヒロインって今思えば優しかったんやなって。一夏へ理不尽な暴力を振るっていたのはこんな心境にさせないためだったのか。ははっ、ワロス。ごめんでも今の状況はワロエナイわ。

 

「蒼、安心しろって言ったよな?」

「えっ、いや、そその、えぇっとぉ……」

「 言 っ た よ な ? 」

「はいッ」

 

 拒否権なんて無かったんや……。

 

「覚悟はいいか?」

「よくないです」

「いいか?」

「だからよくn」

「 い い か ? 」

「俺はできてる」

 

 肯定最高や! 否定なんて最初っからいらんかったんや!

 

「三年間、お世話になるぞ★」

「ひえぇ……」

 

 星が黒いよ一夏。普通そこは(こう)じゃないの。なんなの、お前の心象を表してるの。だとしたらその原因は誰だよ馬鹿野郎。俺ですね、はい。これがインガオホーってやつか。くそっ、何が駄目だったんだ。ただ逃げようとしただけで優しかった友人がこんなにも怖くなるなんて。ショッギョ・ムッジョ。

 

「……それと、蒼はそのくせ(・・)直したいか?」

「な、何が」

「だから、女の人相手に吃るくせだよ」

 

 言われて考える。正直こうも長く続いているものが直るとは思えないが、あっても良いことなど一つとして存在しない。出来ることなら直したいと思う。それはもう積極的に。……なんだが、どうしてそれを一夏が聞いてくる? そこがどうも分からん。何か直す手立てがあるとかなら別だけど。

 

「……直したいが、どうしてそれを聞く」

「そんなの決まってるだろ」

 

 言って一夏はすぅっと息を吸い、吐く。自分の胸元に片手を置いて、閉じていた瞳をゆっくり開ける。ついでに口の端を吊り上げてにっこり。一言。

 

「ついでに私が(・・)直す協力をしてあげるからっ」

「ッ!?!?!!?」

 

 がたごとどったーん。ビビりすぎて盛大に床へと身を投げ出した。痛い。マンションだし床が固くて痛い。カーペットとか敷いとけば良かった。肘とか肩とかぶつけた部分がジンジンする。マジで痛ぇ。どうにか立ち上がって、全ての元凶をじろりと見詰める。そいつは赤くなった頬をぽりぽりとかいて、実に恥ずかしげにぽつり。

 

「や、やっぱ恥ずかしいね、女口調」

「い、いいい言いながらきっちり女口調じゃねぇかオイバカやめろ」

 

 心臓に悪いです。あと体にも悪い。さっきこけて軽く怪我しちゃったし。つーか俺ホント女性に対する免疫無さすぎだろ。一夏って分かっておきながら口調を変えただけでこれって、重症通り越して手遅れじゃね? 直すこと実質不可能じゃないすか? 一夏も一夏で恥ずかしいんならやめろよ。お前の女口調なんか誰も得しねーだろうが。むしろ俺にピンポイントでダメージ与えてる。勘弁してくれ。極限化してねぇから肉質くっそ柔らかいんだよ。俺の肉質どこ殴ってもヒットストップかかるぞ。

 

「……まぁ、何だかんだ言って蒼には助けられてるし。女になった今なら役に立てると思ってな」

「お、おおおう。そ、そっか」

 

 顔が熱い。目を見れない。心臓が飛び出そうだ。これは酷いですね患者さん。マジでアウトですよ。女物の服を着て、女っぽい喋り方を意識して、こいつ本当に男だったのかと思う友人と部屋で二人きり。軽い逃がさない発言までされるという始末。なんだこれ。なんだこれ。こいつ本当に一夏だよな。本当の本当に一夏だよな。くっそ可愛いいんですけど。めちゃくっそ可愛いいんですけど。よく考えてみろよお前。自分がTSして精一杯な筈なのに、ちょっと相談に乗ったくらいの友人に対して気を遣うとか、こいつマジでやべぇよ。うっそだろオイ。うっそだろオイこの野郎。

 

「だから、一緒に直していこうぜ……じゃなくて」

 

 ぶんぶんと首を振って、再度此方を見る。

 

「いこうよ、蒼」

 

 にこりと微笑み。

 

「うっ……あ、えっと、その……は、はい」

 

 嘘だろ嘘だろちょっと待てよここまでとは思わなかったぞ予想すらしてないぞだってあの唐変木がたかが女になっただけで色気の欠片もねーだろとか思ってたし正直外見だけで期待してなかったのにやべぇよちょっと並みの女子より女子してるんだけどどういうことなの意味不明理解不能理解不能理解不能。

 

 

 

 

 ──俺の友達が美少女になったから凄くマズい。

 

 




朝起きて確認したらマジで日間一位だったんだけど。こんな設定もクソも内容が無いような小説が一位でいいんですか(震え)本当にありがとうございます(本音)

感想が沢山来て返信出来ていませんが、きちんと読ませてもらっています。おまいらの優しさに涙不可避。

あと、別に作者はホモじゃないからね(目そらし)。うん。どうしてホモが沸いてるんですかねぇ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。