「お引っ越し?」
「はい。その、残念ですけど……」
放課後。一夏と教室に残ってぼーっとしていれば、おずおずとした様子の山田先生がそれを伝えてきた。後ろには腕を組んだ関羽もとい千冬さんもいる。お引っ越しと言われても一体誰が引っ越すのだろう。俺かな? やっと一人部屋が用意できたんですね! やっぱり男女が一つ屋根の下というのはいけない。ほら、こんなヘタレでも理性がハジけちゃえばどうなるか分からないし。
「そういう訳だ。分かったな織斑」
「えっと……入るのは誰なんですか?」
「デュノアだ」
ほうほう。一夏がいなくなってシャルルさんが新しくルームメイトになると。男同士だからホモでもない限りなんの問題もないね。男同士男同士。本当、オトコドウシだから。ここまで現実逃避。
「織斑先生」
「どうした植里」
「断固拒否します」
「……ほぅ」
ギロッと千冬さんに睨まれる。か、体が動かない、だと(困惑)。こちらへ向けられた双眸がキランと光って石化の術でも発動したのかと思ったぜ。大丈夫大丈夫。動かないだけで石にはなってないから。むしろ石になってたら大騒ぎだよ。死亡確定だよ。
「や、あの、えっとですね」
「なんだ」
「今さら俺たちを引き離す必要はないかと……」
「別にそう言っている訳ではない。デュノアをお前に
それつまり引き離してるんですけど。つーかぶっちゃけると俺が言いたいのはそういうことではない。一夏と同じ部屋じゃなくなるのは確かに少し寂しいが、それすら些細な問題である。重要なのはその一夏がいなくなった後の同居人。シャルル・デュノア。男だから無問題? ハハハ、ふざけろ。あいつ女だよ。原作知識あるから知ってるって言ってんだろーが。
「何より既に決定した事だ」
「……ま、マジすか」
「しょうがないって、蒼」
違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。一夏よ、お前は盛大な勘違いをしている。てかこんな理不尽があって良いのかよ。同じ部屋にさせたのはアンタだろ千冬さん。くそっ、お、俺のことを好き勝手弄んでくれやがって……(意味深)。この責任はとってもらいますからね!
「用件は以上だ。織斑は荷物をまとめて部屋を移動するように」
「あ、はい。分かりました」
それだけ言って踵を返し、千冬さんはスタスタと教室を出ていった。残された山田先生はというとおろおろわたわた慌てている。あの人、もう話すことは無いとでも言うのだろうか。しかしこればっかりは認められない。引いてはやらない。最後の最後まで足掻き通してやると決めた。今決めた。心に決めた。ならばどうするか。簡単なことである。
「……ッ!!」
「ちょ、蒼っ!?」
全力全開で走り出す。教室の扉をくぐって方向を急転換。ずざっと滑りそうになるのをなんとか堪えてまた走る。目指すはちっふー。前方10メートルかそこらに見えている背中だ。てか歩くの速くね? 全然距離が縮まないんだけど。俺かなり思いっきり走ってるんだけど。見られたら確実に怒られるレベル。あれ? おかしくね?
「ぜぇっ、はぁっ……ちょっ」
速い速い速い! ちょっと速いってあの人。なんなの、島風なの。はっやーい! うん待って。マジで待って。ただ追い付こうとしてるだけなのになんでこうも全力疾走維持せにゃならんの。ほら周りから変な目で見られてんじゃんやべぇちょっとガチで待って千冬さん!
「ちっ、千冬、さんっ!!」
「……」
大声で叫べばピタリと歩みが止まる。いつの間にか周りには人っ子一人いない。どこまで走ってきたんだろ。未だに校内で迷いそうになるから少し不安である。ともかくこれでやっと落ち着ける。膝に手をついて息を整えること数秒。すっと顔をあげれば、此方を見下ろす千冬さんと目が合った。
「なんだ、蒼」
「あのっ、シャルルさんのこと、なんすけど……」
「デュノアがどうかしたのか」
「……き、気付いて、ますよね?」
沈黙。じっと見詰める視線だけが交差する。やだ、そんなに見られると濡れちゃう。むしろ立ち上がっちゃうんじゃね? ステンバーイ……ステンバーイ……。
「さぁな。ただ言えるのは、私はお前のことを信じている」
「どういう意味っすか……怖いんですけど」
「安心しろ。デュノアは問題ない。むしろ問題があれば意地でもお前たちには関わらないよう手を回すさ」
「ばっちり知ってるじゃん……」
なにが問題ないの。問題しかないよ。バレてしまったシャルルさんがハニートラップとか仕掛けてきたらどうするの。無いとは思うけど。彼女がいるんだからそんなの効くわけもありませんがね。ふふん、世界唯一の男性IS操縦者なめんな。
「私としてはお前が知っていることに驚いたが」
「いや、普通に考えてアレに気付かない訳が」
「一切バレていないだろう?」
「……そっすね」
いやほんと凄いわ。誤魔化してるのに一切気付かれなスーパー美少女デュノアさん。略してごいすー。
「ではな、植里」
「……うっす。織斑先生」
あ、今気付いたけど通常モードだったのね。どうりで雰囲気が柔らかい訳である。出来ることならいつもその貴女でいてください。そう切に願いたいところではあるが、こういうのも特別な感じがして悪くない。むしろ良い。なんか凄いオリ主っぽくね? 最近の俺ってオリ主っぽいよね? 遂に秘められた力が……! ない。
「……とりあえず教室戻らないと」
いきなり飛び出して来たもんだから色々と面倒くさくなる予感しかないが。
◇◆◇
「なんか、やっぱり寂しいね」
「ん? ……あぁ」
あの後クラスへ戻ったら何か生暖かい視線を向けられました。どうやら一夏と離れたくないがために千冬さんへ直談判しに行ったと思われたようです。正直怠かったので特に否定もしなかったよ。うん。もうそれで良いや。初対面の女子との相部屋をどうにか回避しようとするヘタレなんて真実よりかはマシだろう。ほら、植里くんも格好良く見えるでしょうしWin-Winってやつですね。
「そうだな。少し寂しいかもな」
「あれ、やけに素直」
「うっせ。別に良いだろうが」
「それもそっか」
というわけで現在。部屋に戻った俺と一夏はシャルルさんが来る前に準備を終わらせようと共同作業の真っ最中。変な意味ではない。ただ荷物を纏めているだけ。断じて変な意味はない。ラッキースケベとかも存在しない。
「一夏。ほれ、歯ブラシ」
「あ、ありがと。……コップは?」
「一緒に投げると危ねえだろ。ほれ」
「はい。気遣いするならまず投げないでね」
ごもっともです。
「あれだ。ほら、お前を信頼してるから」
「ふふっ……信頼、かぁ」
けっ。嬉しそうな顔しやがって。大体あれだ。一夏の身体能力と俺の身体能力を比べた場合、一夏から投げられたボールを俺が素手でキャッチするなど到底無理だが、俺から投げたボールを一夏が素手でキャッチするのは可能なのである。男のくせに弱っちぃ。
「よし、終わり。……蒼、ちょっと」
「なんだよちょっとって」
「良いから、ほら」
「……ったく」
ちょいちょいと手招きする一夏の元へとゆったり歩いていく。荷物はまとめ終わった。あとは部屋を移動するだけなのだが、一体なんだというのか。近くに来たところですくっと一夏は立ち上がり、ぎゅっとネクタイを掴んでそっと引き寄せた。今日はよくネクタイを掴まれますね。優しい力でぐえっとならなかったのが幸いか。
「んっ……」
「ちょっ!? お、おまっ……」
「……なに焦ってるの。頬っぺたでしょ」
「い、いや、それでもだな」
恥ずかしいものは恥ずかしいというかなんというか。童貞に冷静でいろと言う方がおかしい。理性プッツン行きそうになっちゃうから。
「……それじゃあね、蒼。また明日ってことで」
「お、おう……。ま、また明日」
吃りェ……。
うまれたままの姿で
えっちぃ展開で
さーびすしーんで
とうとつに巻き起こるラキスケで
ありとあらゆる展開で輝く
おっぱい。それは希望。