例えば俺がもし今以上に調子に乗った転生者なら、この世界はどうなっていたのだろう。女性相手に吃ることもなく、イケメン一夏を死ねクソ野郎と距離を置き、ハーレム横取りして俺が主人公していたらどうなっていたか。その様子を想像した時に、なんとも言えない物足りなさというか、不満足感みたいなものに襲われる。これじゃない。こんなんじゃ全然満足できない、と。思わずチームサティスファクションに入っちゃうレベル。
「……と、まぁこんな感じ、かな」
「シャルル……」
「ごめんね一夏。今まで嘘ついてて」
要するに、あれだ。なんつーか、どうにも俺ってやつは意外とこいつに惚れているようで。いや、箒もセシリアも鈴もシャルルさんもラウラさんも勿論素敵な女性ですよ? ええ、思わず吃っちゃうくらいには。けどやっぱり一緒に居て安心するのはこいつだし。むしろハーレム要らないから一夏が良いまである。うんうん。愛するって良いことだね。これぞ良き夫ってやつよ。……
「……蒼」
「ん? なんだよ」
「私、ちょっとキレそうかも」
「どうどう。抑えろ抑えろ」
気持ちは分かる。シャルルさんの話は要約するとパパの会社が経営危機だから男装して注目浴びてちょっとIS学園にいる男性操縦者とその専用機のデータ盗ってこいよというものだ。うん。事前情報ありでかなり気持ちが構えられていた俺はともかく一夏は初耳。親の都合に振り回されてる状況のシャルルさんを千冬さんと重ねてたりするのか。僕には分かりません。てか分かってるなんて言えるわけがないだろ。
「……おかしいよ、そんなの」
「一夏……」
「ただ一方的に利用されるだけの関係なんて、親子のそれじゃない。生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずなのに……」
これ、何も言えねーな。言う資格がない。前世含めた数十年。ある程度の家庭環境と両親に恵まれてぬるま湯にひたっていた凡人の俺では発する言葉すら見つからない。慰めとか同情とか先ずいらないだろうし。こういう時に無口キャラは便利だと思う。ずっと喋らなくてもいつも通りだから。今度から無口キャラ目指してみようか。
「ねぇ、蒼」
「おう?」
「解決策、ある?」
「一応あるにはあるぞ」
必死に頭を捻って考えたところ、出てきたのは三つ。この問題で重要なのはシャルルさんが女だとバレたらヤバイということ。デュノア社が経営危機に陥ったことでこの一連の出来事が発生したこと。そして第三世代型の開発が遅すぎて最早手遅れ気味なこと。ふんふむ。やっぱり真面目モードは照れますな。こう、なんか、黒歴史が量産されてる気がしていけない。あとで思い返したら絶対布団にくるまってゴロゴロしちゃう。
「ソッコーで思い付いたのは特記事項第二十一。覚えてるだろ?」
「あ、うん。確か……『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に所属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』だっけ?」
「お前全文覚えてるとかやべぇな……(戦慄)」
流石は基本高スペックなくせに弱いと思われがちな原作主人公。よく考えたらあり得ないほどチートなんだよなこいつ。まさに選ばれし人間。ぶっちゃけ人間やめてる。織斑さんたちが吸血鬼? ハハハ、この世界終わったな(確信)。
「それによると三年間は大丈夫ってことになる。その間に策を考えることも可能だけど、根本的な解決にはなりませんよね?」
「蒼? 口調がおかしくない?」
「俺たちが結託してどうにかシャルルさんの男装を隠し通すという手もある。でも、それも原因の解決にはなりませんよね?」
「うん。ちょっと話し方が変、かな?」
これじゃ、俺……シャルルさんを救いたくなくなっちまうよ……(霧並感)。
「そこでだシャルルさん。二者択一。好きな方を選んでほしい」
「え? なにを?」
「一つ、シャルルさんが本当にシャルル君になる。二つ、シャルルさんとしての自由をもぎ取る」
「……そ、そんなこと、出来るの?」
「出来る。断言しても良い。俺は本気ですよ、シャルルさん。あとは貴女次第ってヤツっす」
原作一夏にあって俺にないもの。それらはとても多くて数えきれない。格好良さだったりハーレム力だったり家事力だったり鈍感ラノベ主人公力だったり強さだったりと色々だ。言ってしまえばほぼ全てにおいて下位互換。劣っている。劣化というのも烏滸がましいたかが凡人に出来ることは少ない。
「……どうして、そんなに……」
「あ、別に優しさとかじゃないっすよ。えーっと……ああそう。あれです。自己満足です自己満足。シャルルさんを救った俺SUGEEEEみたいな」
「まーたそうやって捻くれる……」
「ほら、俺って性格悪いですし」
逆に俺にあって原作一夏にないものは極僅かだ。両手の指で数えるほどしかない。けれどもその中に、この世界で一番でかいものがある。ジョーカーとも呼ぶべきそれを俺は持っている。一夏には無かった。けれども俺にはある。圧倒的かつ絶対的な効力を誇るカードが。
「……やっぱり蒼は優しいと思うよ、僕」
「あの、やめてください。マジで。恥ずかしいんすよ。ちょっと察して」
「なにを照れる必要があるの? 変な蒼」
「うぐっ……」
IS世界に転生した時の攻略ポイント。可能であれば天災とイイ感じの雰囲気を作っておく。どこがどうイイ感じなのかは聞いてはならない。
◇◆◇
結果としてシャルルさんが決めたのは後者。普通の女の子なのだから当然である。男装だって自分の好きでやったことではないのだ。かなりというか男の俺より様になってるのは流石としか言いようがないけど。そのシャルルさんは現在ちょっと部屋を出ている。勿論男装をして。理由? 余計な詮索をする人は嫌われますよ。お花でも摘みに行ったんじゃないっすかね。
「それで、あんなこと本当に出来るの?」
「出来る。多分。八割くらい。いや五割か」
「段々確率が下がってるんだけど……」
うるせぇ。俺だって分かんねぇよ。もしかしたら1%をきるかもしれないし、九割九分大丈夫かもしれない。はたまたどう足掻いても駄目な可能性だってあるし、気まぐれで了承するというのもやりかねない。つくづく読めない。と、ここまで言ってしまえばもう答えが出ているようなものか。
「束さんに土下座して頼む。それだけだ」
「あの人、動くかなぁ……」
「さぁ。そこら辺は賭けと俺の交渉術によるな」
口はおろか肉弾戦でも一切勝てる気がしないのは仕方ない。天災だからね。細胞レベルでオーバースペックだからね。睡眠薬が効かないって完全に人間をやめてるんですけど一体どんな生活したらああなんのあの人。自分の発明で肉体強化施してんじゃね?
「……あ、そういえば蒼」
「ん? どうした?」
「シャルルの裸、ばっちり見たんだよね」
……あっるぇー? おかしいぞー? 一夏さんよ。その話は
「え、いや、お前、さっきアレ受けたからもうチャラに……」
「ならないよ。狙ってやったとか聞いてないし」
「……ゆ、許して」
「駄目」
おぅふ。いや、そりゃあね、ラッキースケベなら別に許されると俺だって思ってた。でもこれ違うのよ。意図的な犯行なのよ。ラッキースケベに見せかけたパーフェクトSE☆KU☆HA☆RAにもなっちゃう。あれ、これ訴えられたら死ぬじゃん。なにやってんの俺。馬鹿だろ。危険な橋渡りすぎじゃねえか。一歩間違えてたらそのままムショ暮らしかよこえー……。ん? まさか手遅れ?
「今度休みがとれた日」
「へ?」
「開けておいてよ。……二人でどっか行くから」
「お、おう。……分かった」
えっと……これってつまりデートってことっすかね?
◇◆◇
『もすもす
「……束さん。久しぶりっすね」
『そうだねー。ざっと二ヶ月くらいかな? なんなら秒単位で正確な時間を叩き出せるよ!』
「いや、良いっす。なんか怖いんで」
『あはは、言うねーあっくん! ……で、要件はなんだい?』
「束さんって、まだ俺の知識に興味あります?」
『んー? まぁ、私たちの物語がある異世界から来た、なんて言われて興味持たない方がおかしいよね!』
「ならそれ全部話すんで、ちょっと手を貸してほしいんですけど」
おい