「む、植里蒼」
「あ、ラウラさん」
これまた珍しい。この子とはあまり関わってなかったというか関わる理由が無かったというか、とにかくあまり親しい仲ではない。放課後に訓練のためアリーナへ行く途中でばったりと出くわしたのだが、正直気まずいのでさっさと逃げたい。あと怖い。やはり軍人というのがアレか。目つきが鋭くてちょっと慣れないんだよね。
「こんなところで何をしている」
「え、いや……ちょっとISの訓練をしに」
「ふむ。そうか」
「ええ、そうっす」
会話終了ォーッ!! イエス。このままスタスタと通り抜けてやるぜ。スタスタ。黙々と歩を進めてアリーナを目指そうとしたところ、唐突に視界の端からひょいっと銀色のものが生えてくる。……生えてくる? いや、ラウラさんはむしろ生えてな(ry
「あの、ラウラさん?」
「私も同行しよう。一度、貴様の実力がどんなものか見ておきたかったからな」
「……えっと、弱いっすよ?」
「聞いている。だからこそ、少し興味がある」
マジかよドイツガール。なに? 俺ってそんなに興味を持つ性質かなんか持ってんの? 自分が気付いてないだけで実は特別なの? うん。ありえねぇな。これも全部転生なんて非現実的な出来事を経験してしまったせいだ。こういうのは俺じゃなくてもっとやる気のありそうな人にしてください。オリ主できるような。いやまぁ別に転生させられて嫌ではないけど。ほら、なにより彼女が出来ましたし。
「手加減とかは……」
「いらないのならそうさせてもらうが?」
「……お、お手柔らかにお願いします」
「善処しよう」
ラウラさん知ってるかい。善処するってのは決して了解したという意味では無いんだぜ。手加減とかそういうのは無しだということですか? 俺相手に? いやいや、まさかラウラさんに限って弱い者イジメのようなことをする訳がない。原作で鈴とセシリアがぼっこぼこにされてたような気がするけどそれも別の目的があってつまりここで俺をぼっこぼこにするような可能性は限り無く低いと願いたいけれどそうも言えないカモシカもシカもたしかにシカだがアシカはたしかシカではない。
◇◆◇
「もぅマヂ無理……サレンダーしょ」
「こんなものか」
立てない。勝てない。当たらない。ないない尽くしで途中からないってなんだっけと思うほどだった。それこそない。あれ、ないってなんだっけ。いやある。それあるー。だからこの状況もありなんだ。うつ伏せに倒れ込んだ俺の近くへふわりと降りてくるラウラさん。流石ですね軍人さん。ISの扱いが天と地の差。月とスッポン。必死に策を練りまくったけどほぼ駄目にされた時の絶望感よ。上手く隠し通しても勘とか言って回避するから怖い。経験値が違ぇわ……。
「時間にして二十分。その力量にしてはよく保ったものだと思うが」
「それはどーもっす……いや、全然攻撃できませんでしたけどね……」
「だがシールドエネルギーは三分の一以上持っていかれている。私相手にこの戦績は誇って良いぞ」
まぁ結局勝ったのは私だが、とドヤ顔で言ってくるラウラさんに可愛さを垣間見た。なるほど、これが後にIS本編で可愛さを大爆発させ数多のファンをブラックラビッ党に引きずり込んだ彼女の隠された素質か。……一体何を言っているんだろう、俺は。
「お疲れ様、蒼」
「おぉう、一夏。乙~……」
「満身創痍とはこのことですわね」
「違うぞセシリア。これはヘタレだ」
うん? いつの間に俺は罵倒されるようなことをしたのかな? 記憶を手繰り寄せてみても全く覚えが無いんだがそこんとこどうなのよ箒さん。ジロッと睨めば真顔で事実だろうと言われた。酷いや。自覚してるから言い返せませんし。ヘタレにだって人権はあるんですよ!
「僕はそこまでヘタレじゃないと思うけど」
「そりゃアンタが男だからよ」
「えっ、でも……う~ん……」
くっそ。好き勝手言いやがって。俺がヘタレなのとラウラさんに負けたのは関係ないだろいい加減にしろ! たしかにAICを警戒しまくって明らかに攻撃チャンスを自分から潰してたけど特に関係ないんだよ! はい。めちゃくちゃ関係ありますね。でも逆に考えてみるとそのヘタレがあったからこそ二十分も耐えれたのだ。良くやったぞ俺。さすがヘタレ。全然嬉しくねぇな。
「確かに強くはない。が、勝てないと分かっていながらも諦めずに戦ったその姿勢は評価する。もし少しでも手を緩めればベッドの上に送ってやったところだ」
あはは……笑えねーよ。
「あれ、私の時はもっと辛口じゃ無かった?」
「当たり前だ。貴様の時とは事情が違う」
「貴様って……普通に名前で呼んでくれても」
「ならば今度の個人戦、もし私と試合して勝てたのなら呼んでやる」
この二人は本当よく分からない。千冬さんのコネと権力を使ってドイツへ行ったときに会ったらしいのだが、特別仲が良いという訳でもなく、また酷いほど嫌い合っている訳でもない。どういうこっちゃ。一夏が言うにはラウラさんの態度、会った時より凄くマシになってるレベルだとか。初対面でビンタされたらしいぞ。そこで原作展開すんじゃねえよ。
「言ったねラウラ。今度こそ勝つ」
「次も勝つ、私がな」
……良きライバル。うん。なんかその言葉がしっくり来そうな展開である。おかしいな、この二人本当なら掘られ掘られて……間違えた。惚れて惚れられての関係なんだが。せ、世界が狂ってやがる。バタフライエフェクトってやつか! くそっ、全部は俺が転生してしまったからいけないんだ! さっさと死ななきゃ(使命感)。オリ主死すべし慈悲はない。
◇◆◇
「そういや一夏。例の件だけど」
「ん? 例の件?」
「ほら、シャルルさんの時のアレ」
「あぁ、アレね」
訓練が終わったあと、一緒に並んで部屋に帰る途中で話を切り出した。あの時一夏が指定したのは今度休みがとれた日ということだけなのでどうも曖昧である。あと仮に俺が休みをとれたとしても一夏がとれていなければどうにもならない。それらの問題を解消するためにもやっぱり話し合わないと駄目かなって。
「結局いつなんだよ。今週の日曜か?」
「いや、しばらくは待って欲しいかな」
「そりゃまたなんで……」
「ほら、蒼には個人戦で頑張ってもらいたいし」
うぐっ。痛いところをつかれた。先程ラウラさんにぼこられたばかりなので非常に。一夏はなんでああも簡単にIS使えてたのかね……。やっぱラノベ主人公と凡人の間には越えられない壁が存在しているのか。わざわざ代表候補生直々に教えられているというのに。
「……まぁ、なるべく頑張るわ」
「とか言いながら全力でやるんでしょ」
「知った風に言いやがってこの野郎……」
「蒼の事は十分知ってるから」
そりゃまぁ親を除いたら一番の理解者と言っても過言じゃねえけどよ。つかぶっちゃけ親より鋭いから時々怖いんだよなぁ……。なんとなくとか勘とかいうもので対応されるのは好きじゃありません。考えろよ人間だろバカヤロー。本能じゃなく理性でかかってこいよ!
「──あっ! 植里くん発見!」
「え? なになに? って人多っ!!」
「ん? ってなにあれ? 人多っ……」
「植里くん織斑さん! デュノアくん知らない!?」
焦った様子で詰め寄ってくる女子生徒。その背後には同じように駆け寄ってくる多くの人々が。ああ、これが人波ってやつですね。流されてく。なにもかも。
「シャルルさんなら確かまだ更衣室に──」
「ありがとうっ! 末長くお幸せにっ!」
「くそっ、先を越されたかっ!!」
「まだ間に合う! まだ、諦めきれない!」
「さよなら非リア! よろしくリア充!」
どたどたどたと走り去っていく女子生徒一同。ざっと見ただけで五十は軽く越えてる。どうやら狙いはシャルルさんのようだけど、はて。一体どんな用事なのだろうか。まぁ、イケメン貴公子ならなんとかなるでしょう。きっと。女性関連の事案についてはノータッチ決め込む。それが俺。
「ああそうそう。お二人さんにも教えてあげるわ、これ」
「なになに、『今月開催される学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』──」
あ。
「……一夏。シャルルさんのところへ戻るぞ」
「え? なんで?」
「シャルルさんが危ない」
やっべー、完全にこのこと忘れてたわ。っべー。マジっべー。どうしてこんな大事なことを忘れるのか。脳細胞死んでんじゃねえのコイツ。でも今は、そんな事どうでも良いんだ。重要な事じゃない。良いからさっさと行けって話。
朝起きたらホモハーレムを作っていた。
そんな夢を見てゾッとした今日この頃。全員男の娘ならいける(確信)