最初の予感はいつだったろうか。そう。あれは確か数日前。そろそろパートナーを確保しないとやばいなーなんてぼんやり考えていたところに出会ったセシリアへナンパを実行した時だ。思えば、その瞬間から俺の運命は既に決まりつつあった。
『お誘いは嬉しいですが……ごめんなさい。わたくし、既に箒さんとペアを組んでますの』
『マジっすか』
すっかり忘れていたが本来ならセシリア、そして鈴はラウラさんに怪我を負うほどフルボッコにされてトーナメントに出場できなかったのである。だがそんな事件が起きた様子はなく、またセシリアもピンピンで全くの健康状態。あ、流れ変わったなと思わざるを得ない。つまるところの原作崩壊。以前からあったにはあったので特に驚くことでもないが。いや、一夏がTSしてる時点でもう原作通りとはいかないし。
『最初は鈴さんと組む予定でしたが、誘ったときにはもうパートナー申請をしておりまして……そんな時に箒さんから誘われたので是非、と』
『お、おぉう。マジっすか……』
そしてまさかの追加攻撃。数少ない学園内で知り合いの女子を全員一気に潰された。一夏はシャルルさんと組ませたから無理。セシリアも箒と組むらしく断られた。挙げ句の果てに鈴は最早パートナー申請を済ませている。はい。俺と交流のある女子が全員消えましたー。いやぁ、実に素晴らしいですね!(錯乱)ちなみにラウラさんと組むのは論外である。なして千冬さんモドキとやり合わなあかんのや。
『? どうしました蒼さん。顔色が悪いようですが』
『ああ、いえ、なんでもないっす』
『具合が悪いなら保健室でお休みになられた方が良いのでは? なんならわたくしが連れて行きますわよ?』
『大丈夫っす。ホント、元気ですって』
『なら良いのですが……』
心配してくれる女神セシリアへ感謝と祈りを捧げながらその時は走り去った。運命にスイッチがあるとするならこの時点で押されていたに違いない。そうして歪に噛み合った歯車は動き出す……やだ、中二スイッチ入っちゃってる。
「どうした植里蒼。そんなところに蹲って」
「いや、なんでもねーっす。マジで」
どうしてこうなった。今日は待ちに待った人もいるであろう学年別トーナメント当日。結局ペアを組めなかった人は抽選で決めるということで気軽に構えていれば来たのはラスボスでした。やっぱり人生ってクソゲーやな。これもうラウラさんの機体にVTシステム搭載されてないの祈るしかないやん。ちょっと優しくなってるこの人ならワンチャンあるかもしれん。いやもうワンチャンあってくれ。
「言っておくが、無様だけは晒すなよ。貴様の評価がどうなろうが私には関係ないが、教官の品位を下げるような真似は許さん」
「いや、それは無理っす」
「……ほう、何故だ」
ラウラさんの冷たい視線が俺を射抜く。ちょ、怖い怖い怖い! 怖すぎますよラウラしゃん! めっちゃ寒気がしたじゃねえか。一瞬吹雪の中に身を投げ出されたのかと思ったわ。死ぬ。
「い、いや、俺、基本死に物狂いで藻掻くんで」
「……そうか。ならいい」
あり?
「精一杯やるようならそれで文句はない。手を抜いて負けようものなら少し手を加えるが」
「あ、あはは……頑張りまっす」
「雀の涙ほどの期待はしているぞ、男性操縦者」
それ全然期待してないじゃないっすか。ちくしょう。完全になめられてやがる。まぁ、ラウラさんと俺では戦力差がヤバすぎるので仕方無いと思いますが。……つーかあれだな。妥当に行くと一回戦の相手はあの二人になるワケだが、うん。活躍できる気がしねぇよラウラさん。
「しかし運が良い。まさか初戦の相手とはな」
「あ、トーナメント表出たんすね。えっと……」
はい。案の定でしたー。蒼くん完全に死んだよ死んじゃったよ。植里は衰退しました。織斑一夏&シャルル・デュノア。この二人とは以前戦って散々不意打ちかましたから結構読まれて嫌なんだよなぁ。読まれないよう努力はしてるんですが。
◇◆◇
「よろしく蒼、ラウラ」
「随分と余裕だな、貴様」
「よろしくっす一夏、シャルルさん」
「よろしく、だね」
こらラウラさん。きちんと挨拶しなきゃ駄目でしょうが。挨拶するたび友達増えるんだぞ。スゲーだろ挨拶。ぼっちのコミュ障も挨拶すれば友達出来るんだぞ。先ずコミュ障は挨拶すら出来ませんでした。はい。気持ちは分かる。どうも、女子限定で酷いコミュ障を発揮していた植里くんです。
「行くぞ、織斑一夏」
「こっちこそ、ラウラ」
「優しくお願いしまーす」
「そのお願いは聞けないかな、僕」
試合開始まであと五秒。四、三、二、一──開始。
「「叩きのめす」」
「仲良いなお前ら」
「本当だね、蒼」
……ん? 試合開始と同時に飛び退いて距離をとった筈なのに、どうしてこうも近くからシャルルさんの声が聞こえてくるんですかね。あっるぇ? 至近距離でアサルトライフルを構えるシャルルさんの姿が見えるんだけど。ナゼアナタガココニイル。
「いやぁーっ!? シャルルさんめっ! それめっ!」
「戦闘に駄目も何もないよっ!!」
弾幕ってこういうのを言うんですね。正直死を覚悟したよ。即座にこの機体専用武装であるロッド(笑)を取り出してぶん回す。何発かもらうのは覚悟の上。手中でくるくると回して銃弾を弾いた。一応これでもエネルギーは溜まるらしいのでありがたく活用させてもらおう。流石は束さんだぜ!
「あ、凌がれちゃったか」
「へっへーん! どうよシャルルさん! 今の俺スーパーウルトラハイパーミラクルファンタスティックにロマンチックで格好良くない?」
「なら次は……」
「あれ? 無視? ちょっとお兄さん悲しいよ?」
出来れば突っ込んで欲しかったなー。とかやってるとラウラさんに手を抜いていると判断されて手を加えられる(意味深)かもしれないのでもっと真面目
「これとか、どうかな」
「へ? あぁ、ショットガンっすか」
「正解。ついでに──お味は?」
最悪ですね!
「うっおおおおおお!? ちょ、シャ、シャルルしゃん! 激しい! 激しいって! 撤退!」
「あ、逃げた」
全力で飛んで逃げ回る。ショットガンこえーっ。なんとかロッド(笑)を振り回して最低限の被弾に抑えたとはいえシールドエネルギーは地味に削られている。チャージブレードもまだ溜まっていない。つーか溜まってもろくに使えない。なにこの産廃。くそが! こんな機体を作りやがったのはどこのどいつだこの野郎!! テメェだよおっぱいラビットゴルァ!!
「マジ使えねー……なにこの機体。今更だけど。俺が勝てないのはどう考えてもこいつが悪い」
「押し付けるのはどうかと思う、よっ!!」
「けど、なっ! 流石に、作ったのが、束さんなら、押し付けたくもなる、わっ!!」
無闇矢鱈にロッド(笑)を振り回しまくって防ごうとする意思だけ示す。勿論当たっちゃってるからね。全部叩き落とすとかいう真似は出来ません。ある意味これが棒で良かった。くるくる回してれば盾みたいになるし。ええ、ISの補助があればなんとかやれます。
「うーん。イマイチ当たらないなぁ。……なら」
「え、なにを──って近っ!?」
「ゼロ距離ならどうかな?」
どうも何もありません。死んじゃいます。なんとか離れようと試みるもそうそう離してくれる訳もない。シャルルさんってばそんなに俺のことが好きなのかい? 思った瞬間に恐らくラウラさんと一夏が戦っている方向から殺気が飛んできた。はい。ごめんなさい。別に口説いてる訳じゃないっす。
「これでっ!!」
「やっべ……」
激しい銃声と共に撃ち出された銃弾が体を叩く。タイムラグほぼゼロじゃねえか。衝撃に痛いと思う頃には既に遅く、飛行中の体勢を崩して思いっきりふっ飛ばされていた。今ならサッカボールの気持ちが分かるわ。ボールは友達。それつまり友達はボール。だからって友達蹴るのはどうなんですかね。なんて阿呆なことを考えていたところ、逆側から強い衝撃を受けてその場に止まる。
「ったぁ……あれ、ラウラさん?」
「植里蒼か。悪いが、話している余裕は無いっ!」
「……ガチ戦闘っすか」
そりゃそうか。うちの
「僕との戦闘は本気じゃないの?」
「いや、十分本気っすよ?」
「嘘つき。いつもの蒼ならダメージ覚悟で突っ込んで来る筈だよ」
「きちんとした戦いなんで堅実にやりたいんすよ」
「へぇ……」
どうやら信じてもらえなかったようだ。つーことは当たり前のように他の人達にだってバレている。セッシーやモッピー、鈴ちゃんが手抜き野郎と罵倒してくる未来が見えるぜ。千冬さんに至っては特別指導の可能性も考えなくてはならない。精々今後の展開に期待。
「つか、二人で先ず俺を潰せばかなり簡単に勝てるでしょうに」
「一夏が、ラウラとは一対一でやらせて欲しいって言ったからね」
「んだその我が儘。ったく、本当あいつは……」
「あはは……。僕に蒼を任せたのだって手を緩めちゃうかもしれないからだし」
どの口が言うのか。いつも訓練で容赦なく叩きのめしてくれるだろうが。そんな心配は全然無いってぼく知ってるよ。お陰で此方も全力で相手をすることが出来るけれど。うちの嫁さんは厳しいです。
「……ところで蒼。一つ聞きたいんだけど」
「なんすか?」
「あれって、何かの作戦?」
「あれ? あれって……」
じっとシャルルさんが見詰める視線の先には何があるのか。確認したいが戦闘中だし下手に目を逸らすとこれ自体が罠の可能性だってある。……んだが、周りの様子から判断してもちょっとこれはただ事じゃない。明らかに変な空気が流れている。つまり、ある意味で予想通りになったってことだ。
「……いいや、あんなの」
視線を向けた先に映るのは呆然と見詰める一夏と黒いナニカ。原作とかなり違っているから回避の可能性もあると願っていたんだが。残念なことにそうはならなかったようで。世界の修正力って奴ですかね。それともどこぞの誰かの陰謀か。
「
嘘は言ってない。見たのは初めてだ。無論、知ってはいたけど。