俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

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オリ主によくある過去の話ってやつだね。

『俺の友達の話なんすけどね。そいつ、妹が居るんすよ。あ、今は居ないんすけど』

『……亡くなった、のか?』

『いや、まぁ……ちょっと色々ありまして』

 

 最初の印象はどうだったか。そう、たしか。

 

『結構良い妹だったらしいっすよ。そいつにも優しく接して、何を思ったか甘えてくるような奴で』

『……随分仲が良かったのだな』

『そりゃあまぁ。そいつも馬鹿みたいに甘やかしてましたし』

 

 頼りない。そんな印象だった。どこか芯の通っているようにも見えるが、全体的に頼りない。こんな男のどこを教官が評価しているのかと何度も考えるくらいに。

 

『その妹、スゲーんすよ。クラスの人気者で、誰とでも仲良くなれて、友達も多くて。もうリア充の権化って感じで』

『……』

『そいつが言うには、ちょっと羨ましかったけど、妹が幸せならそれで良いとかなんとか』

『……良い兄妹だな』

 

 その印象は一応当たっていた。女子に対して決して強く出ることはなく、殆どと言って良いほどキレない。温厚な性格とも言えるが、臆病な奴だとも言える。

 

『まぁ、そんなんだから仕方が無かったんでしょうね。馬鹿なそいつは妹を庇って死んだんすよ。即死だったらしいです』

『……妹の方は、どうなったんだ?』

『そこからは俺も知りません。聞いた話はそこまでなんで』

 

 一度戦ってみれば、驚かされた。毎日代表候補生に囲まれて訓練をしている所為か。四月からISに乗り始めたにしては中々良い動きをする。油断していたところへ貰った一撃がかなり重く、一瞬焦らされたほどだ。

 

『……誰かを救っても、自分が死んでしまっては意味が無いだろう』

『ははっ、厳しーっすね。……妹はともかく、そいつはきっと幸せですよ』

『……なぜだ?』

『だって、最愛の妹を救って死ねたんすよ。死に方としては最高ですよ。最低ですけど』

 

 だが、こいつの強さはそこではない。実力ではない。どこか見えない何かが、この男の強さに繋がっている。

 

『……一つ、聞いて良いか』

『なんすか?』

『……お前に、妹は居るのか?』

 

 そして多分、それは私には無いもので。

 

『居ませんよ。……少なくとも、今は』

 

 植里蒼(コイツ)特有のモノなのだろう。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「気がついたか」

 

 カーテンを挟んだ向こう側からそんな声が聞こえてくる。誰かと頭を悩ませるまでもない。千冬さんの声だ。女性にしては若干低めの声は少しキツい印象を与えるが、その分頼もしく感じられたりもする。相変わらず千冬ネキはええ声やなぁ……。

 

「私……は……?」

「全身に負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう。無理をするな」

「何が……起きたのですか……?」

 

 話しているのはラウラさんだろう。先程の戦闘の影響で凛々しく力強い口調は面影もなく、酷く弱々しいものだが。うん。これもこれでありっつーかなんつーか。可愛いっすねラウラさん。おっといかん。シリアスだよシリアス。空気を読まねば(使命感)。

 

「ふぅ……。一応、重要事項(・・・・)である上に機密事項(・・・・)なのだがな」

 

 ん? なんか今の言い方おかしかったな。少し威圧をかけるような感じというか。んん? 一体誰に威圧をかけてんだよ千冬さん。ラウラさんか? 病人にそんなことするのはちょっと酷くないっすかね。

 

「VTシステムは知っているな?」

「はい……。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム……。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれは……」

「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

「…………」

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志……いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

 知ってた。いやぁ、VTシステムは強敵でしたね! お陰で意識が綺麗に落ちましたよ! IS装着してても意識落ちるとかあるんだな。それともあれか。俺のISがもう限界ギリギリだったのか。まぁ、結構攻撃受けちゃってたし仕方が無いことだろう。

 

「私が……望んだからですね」

 

 望んだ。多分、千冬さんになることを。千冬さんみたいになることをラウラさんは望んでいた。だからVTシステムはそれに応えた……って感じか。一夏との仲が良かろうが悪かろうが、この人の千冬さんへの敬愛は変わっていない。だから、一夏を越えるために力を望んだのだろう。……これ間違ってたらくそ恥ずかしいな。赤面必至。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

 

 うおっ、ビビった。いきなり大声出さんといて下さい。心臓に悪いです。もし俺が心臓弱い人だったら死んじゃってるかもしれないよ?

 

「お前は誰だ?」

「わ、私は……。私……は、……」

「誰でもないのならちょうどいい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい。何、時間は山のようにあるぞ。なにせ三年間はこの学園に在籍しなければいけないからな。その後も、まあ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」

「あ…………」

 

 か、カッケエ。

 

「ああ、それからお前は私にはなれないぞ。アイツらの姉は死んでも渡してやらんからな」

 

 らって。『ら』って。アイツ『ら』って。なんなんすか千冬さん。そんなこと言われたらもう一夏を幸せにするしか無いじゃないっすか。ズルイ人だ。

 

「それと、だ」

 

 なんて感動に打ち震えていればしゃあっと思いっきりカーテンが開けられた。犯人はヤス。違う千冬さん。目と目がばっちり合ってしまってこっちからすると何か気まずい。ここは何か言うべきだろうか。やっはろー? ひゃっはろー?

 

「お前は外傷なし。異常なしの健康体だ。起きたのなら真っ先に向かうところがあるだろう。行け」

「ちょ、一応怪我人……」

「だから怪我など無いと言っている。安心しろ。念入りに調べてやった」

「……えぇー」

 

 マジかよ早速逃げ道潰してきやがったよ。しょうがないのでダラダラとベッドから起き上がって扉へ歩いていく。もうちょっと休みたかったなー。実際どこも痛かったり変な感じはしないので元気なんですけど。千冬さんモドキ相手に良くやったよ。

 

「あ、そういやラウラさん」

「?」

「難しく考えなくても、ラウラさんらしさってきちんとありますよ」

「さっさと行け」

「はいっ!」

 

 千冬さんに急かされたのでダッシュで扉を抜けて廊下に出る。先ずは言われたよう、真っ先に向かうべきところへ行かなければ。うちの嫁さんのところに。

 

「……甘い奴だな、お前は」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「──という訳で、植里くん超☆元☆気!」

「ふーん、そうなんだ」

「良かったねぇ。あ、一夏、七味取って」

「はい」

「ありがと」

 

 あれ? スルー?

 

「ちょ、二人とも酷くないっすか」

「今回、私ちょっとキレてるから」

「僕もちょっと、うん。まぁ、ね?」

「えぇ……(困惑)」

 

 どうしてお二人ともお怒りなのかしら。俺ってなんか悪いことしました? いや、してない。してないぞ。記憶にある限り全然そんなことしてない。心当たりなんて一ミクロン無いんだからっ! ……マジでなんのことなん? 首をかしげながら天ぷら蕎麦を啜る。ちなみに一夏は海鮮塩ラーメン。シャルルさんは月見うどん。

 

「ISも無いのに突っ込むのを自殺とか蒼は言ってたけどさ、正直蒼のアレも自殺に近いよね。一歩間違えてれば死んでるよ」

「……で、でも生きてるし」

「そういう問題じゃないよ。僕や一夏ならまだしも、実力も経験も蒼はまだまだなんだから。突っ込むのは危険極まりないって」

「つーか俺、単純に一夏の手助けしたのになんでこうボロクソ言われなきゃならないんすか……」

 

 心折れるわ。

 

「蒼、私のことなめすぎ」

「え」

「あの程度なら一人で十分やれたって」

「」

 

 心、折れる、わぁ……。いやまぁ、確かに原作では単独でしかも結構余裕気味に対処してましたけど。あれ、てことは原作より強くなってるこいつなら完全に必要無かった? おぅふ……。

 

「確かに安全に出来たけど、だからって蒼が危険を犯す必要は無かった。……どれだけ心配したかと」

「うっ……すまん……」

「私のこと、信じてよ」

「……おう」

 

 でも、こっちだって心配だったんだから仕方ないだろと、声を大にして言いたい。


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