オリ主「座れ」
ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。小鳥のさえずりが聞こえてくる。あれだ。この鳴き方は「べ、別にアンタの事なんかちっとも知らないけど折角だから鳴いてあげるわよっ! ふんっ! ほら、さっさと起きなさいよ!」という鳴き方だ。凄いツンデレな小鳥ですね。案外想像してみると可愛かった。手のひらに乗りながらツンデレて来るんでしょ? 可愛い(確信)。
「蒼ー、朝だよー?」
そうだな、朝だな。それがどうした。残念ながら何人たりともこの俺のぐっすりスヤスヤ睡眠タイムを削ることは許されんのだ。眠い。寝たい。あと今日は休日だしゆっくりしたい。外に出たくないでござる! 絶対に外に出たくないでござる!! という訳でもぞもぞと抵抗の意思を示す。
「あーおー、朝だってー」
ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。やめろ、そんなに体を揺するんじゃねぇ。うっかり意識が覚醒しちゃうかもしれないだろうが。もう覚醒してるんじゃないのというツッコミは無しで。ワイは寝るんや。何がなんでも惰眠を貪ってやるんや……。
「起きないのー?」
「……うぅん……」
ごろりと寝返りをうつ。くそう、なんだこの諦めの悪さは。粘り強い。凡人系漫画の主人公くらいには粘り強い。もしかしてお前は自分が劣る状況で常に勝ち続けてきたとでも言うのか。原作を思い出したら確かにそうだなとか思ってしまった。なんてこったい。やはり主人公パゥワーは偉大。
「……起きないとキスするよー? なーんて……」
なん、だと(驚愕)。
「あ、蒼? 本当に起きてないの?」
いいえ、起きてます。つーかどうすれば良いのこの状況。大人しくしてれば良いの? それとも目を覚ました方が良いの? どっちなんだい。教えてくれよ俺の中の俺。至急脳内会議を開始する!
『議題はキスを回避するか否かだが』
『受け入れろ。それが男だ』
『で、でもキスとか恥ずいし』
『それな』
『ばっかお前。それでも俺か』
『そうだ。どんと構えろって』
『ちくわ大明神』
『ほんとそれな』
『誰だ今の』
誰だ今の。ともかくとして答えは一応決まった。男植里、この場面は待ちに徹します。ほら、俺だって立派な男の子ですし。幾らヘタレチキン豆腐メンタルだからと言って性欲が無いという訳ではないのだ。発散する場が殆ど無いのが最近の悩み。
「じゃあ……お、起きない方が悪いんだし」
はいはい。起きない俺が悪いから。なんて軽く考えていたら唐突に唇へ柔らかい感触が走る。そしてなかなか離れない。こいつ、マジだった(愕然)。ヤバイ。何がヤバイって最近色々とあったせいで余計に幸福感がヤバイ。もしかしてこれ、目を覚ましたらホモが声真似してるとか無いよね? なんか心配になってきた。唇から柔らかい感触が離れた瞬間に、確認のためぱっちりと目を開く。
「……随分大胆な起こし方だな、一夏」
「っ!? え、あ、蒼!? 起きてたの!?」
「さっきので完全に目が覚めたわ」
心臓がバクバク言ってて安眠どころじゃない。多分すました話し方してるけど顔は真っ赤なんだろうなー、俺。まぁ目の前のそいつも顔真っ赤ですが。ちなみに一夏と同じ部屋になった……もとい戻ったのは最近のこと。つまりシャルロットが女だと公表した後である。
「おはよう、一夏」
「お、おはよう、蒼」
「……」
「……」
なんだか、気まずい。仕方無いよ。俺たちまだ純粋なお付き合いの途中ですから。ラブラブちゅっちゅでイチャつくなんて当分無理よ。……なんか付き合う前より距離が離れた気がするけど、本来これが普通なんだよな。うん。むしろ前の俺たちがおかしかった。そうに違いない。
「と、とりあえず蒼は着替えたら?」
「お、おう。……つーか、今日って何かあったっけ?」
そう聞いた瞬間に一夏がむっとした表情を向けてくる。あ、これちょっと地雷踏んじゃったかもしれない。大きくなければ良いが。つか大きかったら即爆発&高火力の即死コンボなんであり得ないことを願う。
「……デート」
「さーせん」
躊躇なく謝る姿はまるで尻に敷かれた旦那のようだったと後に天才、篠ノ之束は語る。──いや語んなよ。
◇◆◇
「で、どこ行くのよ」
「ちょっと買い物かな」
天気は快晴。なんとも良いデート日和的な感じだが、俺にとっては太陽が眩しい。暑い。そして辛い。やはり外出なんて必要最低限でよろしいのだよ。歩くのも面倒ですしおすし。しかしながら買い物か。ふむ。ある程度予想はついた。この時期に買うモノと言えばアレしかないだろう。そう、IS学園では近日臨海学校が行われる。そのために必要なモノ。
「……水着か」
「まぁ、それもあるよね」
「はぁ……キッツゥ」
「本音は?」
「いやまぁ嬉しいですけど」
はっ。つい本音を。貴様一夏ハメやがったなぁ! 自分からハマったくせに何を言っているんだか。ちょっと恥ずかしいのでぽりぽりと人差し指で頬をかいていればクスリと笑われる。やめい。
「なら文句ないじゃん」
「いや、周囲の視線が……ね?」
「気にするだけ無駄だって。そんなの」
「男前過ぎる……」
うちの嫁がイケメンすぎてヤバイ。元がイケメンだから仕方無いとでも言うのか。なんなの。俺ってまさかヒロインなの? はっ、一夏が主人公で俺がヒロイン。無いな。無い無い。無いと信じたい。オリ主がヒロインってのはまだ分かる。うん。女性転生者とかTS転生とかでね? でも転生した男がヒロインってそれどういうストーリーだよ……いや、ありなのか(冷静)。
「大丈夫だよ。私が一緒にいるから」
「うわ、安心感の塊。頼りにしてるぞ」
「織斑さんに任せなさい、ってね」
「……まぁ、そっちは安心だよな」
「?」
間違っても『織斑さん』のところに『た』で始まって次に『ば』が入って最後に『ね』が来る人の名前を入れてはいけない。あの人に任せると五割の確率で良い結果を持ってきてくれるが同じく五割の確率でそれを上回るカオスな結果を持ってくる。例えばデュノア社に対してあることないことでっち上げ吊るし上げ、フランス政府を脅しに脅してシャルロットの件を不問にするとか。お陰で彼女は現在卒業後の生活に向けて考えることになってます。
◇◆◇
「ここだね、水着売り場」
「ソーデスネー」
うむ。実に目のやり場に困る。色とりどり選り取り見取りの水着が並んでいるそこは一種の別空間のようにも思えてお世辞にも居心地が良いとは言えない。あと回りからの「なに女性のテリトリーに入って来てんだカス」とでも言うような視線が怖い。完全な被害妄想。
「あ、そう言えば蒼は買うの?」
「ん? あぁ、後で無難なもの買っとくわ」
「うっわ、適当……」
「良いだろ別に。ほら、さっさと決めてこい」
ぐいぐい押してやればくるっと振り向く一夏。なんだね、そんな呆れたような顔をして。俺に何を期待したと言うのか。そういうの一番駄目だって君が知ってるでしょ。
「何言ってるの、蒼も一緒に来るんだよ」
「ですよねー」
うん。知ってた。
「……駄目っすか」
「駄目っすね」
そこまで言うなら仕方無い。このヘタレチキン豆腐メンタルで有名な俺が力を貸そう。むしろ足手まといにしかならない。ホント駄目ですねこの人。ぶっちゃけ一夏自身のセンスが良いから即座に決まりそうなんだよなぁ。
「とりあえず試着してみるから、判断よろしく」
「また難易度の高い注文を……」
そこから先はもう言葉で表現できなかった。いや、言葉で表現しようとする事すら烏滸がましい。つかしたくない。アレは一生俺の心の中に仕舞っておく。墓まで持っていく所存。時にきわどく、時に清楚な雰囲気を漂わせていたアレはヤバイ。試しすぎ。もう少しで理性イカれるとこだったぜ。全く、転生事情とは比べ物にもならないほど重要な記憶だ。ただまぁ、一つ言えるとすれば。
──黒のビキニ、良くないっすか?
ちなみに私としてはスク水もありかと(真顔)