「……、」
朝。ちゅんちゅんという鳥の鳴き声は聞こえないが、立派な朝ちゅんという奴だろう。なんせ昨日の夜、俺たちは大人の階段を登った。やったぜ。植里くんは果てしない優越感を得ている。あくびを一つしてからごろんと寝返りをうち、隣のそいつを見た。
「綺麗、だよなぁ」
コイツ。本当に男だったのかと疑うくらいに。いや実際男だったんですけどね。今はバリバリ女の子やってるが。普通に考えたら釣り合わないどころか烏滸がましいレベルだよなぁ。こんな美少女と俺みたいなのが付き合ってるなんて。嬉しいけど。正直一生大事にしていきたいけど。
「……おい、一夏。起きろ」
「う、うぅ……ん……」
もぞもぞと動きながら抵抗の意思を示すうちの嫁さんは世界一可愛い。異論は認めん。しかし、うん。やっぱり疲れてたりするのだろうか。いつも規則正しい生活をして早寝早起きだというのに、今日は俺の方が早く起きてしまった。まぁ、少しっつーかなんつーか、理性が吹き飛びそうでしたし、自分の。
「一夏。おい、朝だって」
「まだ……ねむ……」
だからもう朝だっつってんだろ。じゃけんさっさと起きましょうねー。ほっぺをつんつんと突付きながら起きろ起きろと呼び掛ける。もしくはゲットアップでも可。続けていれば流石に違和感を覚えたのか、すっと瞼が持ち上げられて薄く目が開く。
「おはようだな、一夏」
「……おは……よう……」
くぁっと口元を手で抑えながらあくびをして、んんーと声を漏らしながら上半身を持ち上げ──るのは良いんだけどお前自分がどういう状態か分かってんの? いやわかってねぇな。確かに整ったソレラは凄く綺麗で良いんですがね、えぇ。
「まだ寝惚けてんな、お前」
「へ? ……っ、あ、え……ぅ」
今気付くのかよ。恥ずかしそうにまた布団の中へもぞもぞと入っていく姿は良いですね。癒される。朝からテンションがアゲアゲだ。いつもは低い。もう朝からテンションだだ下がりしているくらい。朝ってなんか絶望感が無い? あぁ、今日も行かなきゃ……みたいな。今は少し違いますがね!
「腰とか大丈夫か?」
「……す、少し」
「少しか」
「普通に動く分には、多分、大丈夫、かも」
不確定要素満載である。何はともあれ気遣ったり手助けしたりとやることは沢山。話を持ち掛けたのは俺なのだから責任はきちんと取る所存だ。勿論将来的なモノも視野に入れて。父さん、母さん。息子は無事結婚出来るかもしれません。
「……とりあえず起きるか」
「だ、だね」
この後に不意打ちでほっぺにキスをしたところ耳まで真っ赤にしながら俯く乙女が居たらしい。随分と可愛らしい人ですね。
◇◆◇
「蒼さん」
「ん?」
クラス別のバスに乗り込んでペットボトルのお茶を飲んでいたところ、トントン肩を叩かれて名前を呼ばれる。くるりと振り向けばそこにはニコニコ微笑むセシリア。なんだろう。綺麗な笑顔だって言うのに嫌な予感がする。隣の一夏も何か感じ取ったようだ。自然、身構えていれば。
「昨夜は、お楽しみでしたね?」
「ブフォッ!? げほっ、ごほっ!」
「ちょ、な、セシリア!?」
ちょっと待て。ちょーっと待てよオイ。待て。待ってくださいセシリアさん。貴女なんでそれを知っていますのん? まさか見られてた? 千冬さんよォー、あんた人が殆ど通らないような位置って言ったじゃあないっすか。嘘だったんすか、千冬の姉御よォ。
「な、なんでそれを……」
「朝から随分と仲良しでしたので」
「セシリア。そういうの駄目だって……」
「あら、幸せを祝うくらいよろしいでしょう?」
果たして祝う気はあるのだろうか。いや、ない。
「セシリア、お楽しみとはどういうことだ?」
「ラウラさん。それはですね、お二人が──」
「そこまでだセシリアッ!!」
「それ以上は駄目だよッ!!」
「むぐぐっ」
がばっとヤベェことを口走りかけたセシリアに襲い掛かったのは箒とシャルロット。妥当な処置です。ラウラさんの純情ハートに何てことしてくれようとしてんだ。全く。あと人の性活をあまり言い触らすんじゃないよ。さっきの言葉通りであれば言い触らす以前に結構な人に気付かれてそうだが。
「ならば蒼兄。教えてくれ」
「ラウラ。気にしないでくれ。ホント。お願いだから」
「む……お願いとあらば仕方無い」
「や、やれやれだぜ……」
やれやれ系主人公は以下略。真相がかなりバレていると知った一夏は隣で顔を隠しながらもうやだなんて呟いている。またしてもお耳が真っ赤。いつもとの違いがあったんだろうね。仕方無いね。割り切ろう。
「昔からの幼馴染みに先を越された私と鈴の気持ちを考えてみろ……! ネエサン、コロス」
「箒さんの目がマジですわ」
「落ち着いて、箒。お願いだから」
「先を越された……? あぁ、なるほど(察し)」
ラウラが察した、だと(驚愕)。もうだめだぁ……おしまいだぁ。いや待てまだチャンスはある。諦めるんじゃない俺。勘違いならワンチャン。
「知っているぞ。こういう日は赤い飯を炊くのだと部隊の者が──」
「よしよしラウラ。こっちに来ようか」
「お赤飯、炊いてみたいですわね」
「セシリアやめて。遠慮しておいて」
「姉サン死スベシ慈悲ハナイ!!」
「箒は戻って来てよぉ!」
シャルロットさん大変そうだなー。事態の収拾お疲れ様です。後で労って上げよう。頭に手を当てて唸っている様子はみんなのまとめ役兼お姉さんみたいだ。やっぱり凄く良い人なんだよなぁ。
「ねぇ、植里蒼くんっているかしら?」
あ。
「俺ですけど……」
「君が……あぁ、うん。確かに、ね」
わ、ワーニングワーニング。静かに警戒。この人の動きはしっかり覚えている。原作にて一夏にキスをしたが故にヒロインズが不機嫌になったあの場面。そのキスをした人こそこの女性。名前を──。
「私はナターシャ・ファイルス。『
「あ、えっと……さ、さーせん?」
「ふふっ。どうして貴方が謝るのかしら。むしろ此方としては感謝しているくらいなのに」
「あ、あはは……」
だって貴女福音さんに対する愛が凄かったような覚えがありますし。
「ありがとうね、男の子。それと──彼女さんを大切に、ね?」
「え、あ……う、うす」
くるりと振り返ってナターシャさんはバスを降りていく。やべー。耳元でぼそっとそんなことを囁かれるものだからつい驚いてしまった。と、とりあえずキスされなくて良かったわ。……今更になって警戒する必要無かったかもと思ってみたり。
「……そりゃあ、大事にしますよ」
「へ、ちょ、蒼?」
さらさらと一夏の頭を撫でながら考える。中学三年へと上がる春休みに起きた出来事。あの時から俺の人生は大きく変わった。変えられた、かもしれないが。友人が女になって、色々と苦労させられて、途中で事故ったりなんかもして、眼鏡をかけるようになって、紆余曲折ともスムーズとも言えないような過程の末に恋人になって。
「なぁ、一夏」
「な、なに、蒼」
そこからまたISを動かしたりして、天災に捕まって一時行方不明なんかになって、IS学園に入学することになって、原作通りの流れを体験して。うん。これだけでも随分と充実した一年間と少しだったことが分かる。もう一般人とか気軽に言えねぇよこれ。俺のアイデンティティーが。とまぁ、そんな感じなのである。長いようで短いようで。そんな過程を一言で表すとするなら、そうだな。
「俺、今めっちゃ幸せだ」
俺の友達が美少女になったから凄くマズい。
完結。
三ヶ月もの間ご愛読ありがとうございました。4kibou先生の次回作にご期待ください!(次回作があるとは言ってない)
エロシーンが無い? オカシイなぁ、心の綺麗な人には見える設定なんですが(すっとぼけ)
しかしながらようやく一息つけそうです。連載はやっぱり厳しいのよー(白目)まぁ、毎日投稿してた自分もどうかしてたと思いますが。何はともあれこれで終わり! 閉廷! 以上! みんな解散!