ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回は本当にお待たせ致しました。

遅れた事に関しては、この作品を楽しみにしている皆さんに本当に申し訳ないと思っています。

記念すべき100話目です。ぜひ読んで下さい。


ヤンデレ・シャトーの100夜目

 

「……来たな、我がマスター」

「残念ながらお前はまだ引けてないけどな」

 

「些細な事だ。此処では多くの者がそう呼んできた。俺がその呼び名で呼んでも差し支えまい」

「で、今日はなんだよ? ヤンデレ・シャトーならさっさと始めてくれ」

 

 エドモンの様子がおかしい。こういう時には必ず嫌な悪夢が用意されている。長い間それを味わってきた俺は、そう確信している。

 

「今日は貴様が悪夢に訪れる百夜目だという事は知っているか?」

「え? 百夜って事は……百回目なのか、この悪夢」

 

 そんな事を数えていないのか……彼氏ヅラのあだ名を持つエドモンが…………

 

「彼氏力高過ぎかよ……」

「貴様は俺を怒らせたい様だな……!」

 

 威嚇の様に衣服を逆立てたエドモンに謝ると、鼻を鳴らして説明を続けた。

 

「……今回は記念すべき夜、故に多くは語らずにお前を塔へ送る。

 病んでいるのは4騎、とだけ言っておこうか」

 

「分かったよ……」

 

「最後に1つだけ助言だ。

 “真実を見つけろ”」

 

 

 

(真実……一体なんの事だ……?)

 

 意味深な助言を頭の中で繰り返しながら、ヤンデレ・シャトーの廊下から立ち上がった。

 

 辺りを見渡してみると、取り敢えず誰もいない。

 

「……ちょっとだけ、座るか」

 

 なんとなく、壁に背中を付けて腰を落ち着かせる。

 

「もう100回目の悪夢かぁ……そう言われるとそんなに長くやってるって実感なかったなぁ……いや、正直そんな感慨深い思い出でもないけどな。殺されたら覚えてないし」

 

 そんな事を口に出しながら、エドモンのヒントで幾つか考えてみた。

 

(真実を見つけろ……これが悪夢終了の目標なのか? でもそれなら態々、助言なんてもったいぶらないよなぁ……)

 

(一番ありそうなのは物語系キャスターによる認識改変か……)

 

「だとしたら気を付けるなんてまるで意味がないだろ……」

「ちょっと、何を1人でブツブツ喋っているのかしら?」

 

 驚き、パッと振り向くと其処には白い髪と白い肌、まるで死人の様な見た目とは対象的に燃え続ける炎の様なサーヴァントが、黒の水着を着て立っていた。

 

「……ってなんだ、ジャンヌか」

「なんだはこっちのセリフよ。マスターこそ何しているのよ」

 

 良かった。ジャンヌ・オルタは現実世界での俺のサーヴァントだ。ヤンデレ・シャトーの影響を受けてはいない。

 

「いや、エドモンから“真実を見つけろ”なんて、助言を出されてさぁ、ちょっと考え込んでてさ」

 

「……ふーん……真実、ねぇ?」

 

 ジャンヌは俺の言葉を聞いて考える様な仕草をした後に、少し笑った。

 

「(余計な事を……)余り気にしなくてもいい……とはいかないわよね? 此処の他のサーヴァントは揃いも揃って色狂いなんだから」

「そうだよな…………っ!」

 

 そんな会話をしていると、廊下の暗闇から誰かがやって来る。

 警戒したジャンヌは俺に背を向け、刀の柄に手を置く。

 

「……誰だ!?」

 

 震える声を抑えながらそう言い放った俺の目に映り込んだ、新たなサーヴァント。

 

 その姿を見た俺は――――安堵した。

 

「……なんだ、茨木童子か」

 

 その金髪と2本の角に、思わず安堵した。

 

「おい、何故吾に武器を向ける? 今夏は吾の力を借りていたであろう? まさかその恩義を忘れたか?」

「ジャンヌ、武器を降ろして」

 

「はぁ? 何言ってんの? こいつはアンタを狙う色狂いの1人よ。私が此処で切り伏せてあげる」

「待ってくれよジャンヌ! 忘れたのか!?」

 

「何を? あんまり私の邪魔をするなら――」

「――近所に住んでる後輩の茨木童子だよ! 忘れたの?」

 

「…………はぁ?」

 

 

 

 今、お互いに睨み合いを続ける2人のサーヴァントは、少し混乱していた。

 

(……こいつが後輩? 何を寝ぼけた事を言ってるの私のマスターは!?)

 

 ジャンヌ・オルタはその手に1冊の本を出現させ、少しページを捲る。

 

 そこには、現実の世界でマスターと彼女自身が契約するシーンが大きく描かれていた。

 この本は彼女の作った、魔術の込められた同人誌だ。

 

(サンタのちびっ子とトモダチになったキャスターの力で作った同人誌……これと私のアヴェンジャーの頃の権限でマスターを私抜きでサーヴァントの前に立っていられない腑抜け野郎にした筈なのに、コイツは大丈夫ですって!?)

 

 記憶改変を使い、切大の記憶を都合の良い物にした筈だと怒るジャンヌ・オルタ。

 

 そして、その視線の先の茨木童子をジッと睨みつける。

 

 対して、睨み付けられた側である茨木童子はニヤニヤとしてやったりと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

「――!」

「どうしたの茨木童子?」

「セ――んんっ! 切大! 可愛い後輩はお菓子を所望する!」

 

「ああ、何時ものね……シャトーの中でも、あるもんだなぁ」

 

 ジャンヌは正体不明の光景を目の当たりにし、どうすれば良いかと考える。

 当たり前のように茨木にチョコレートを差し出す自分のマスターを見て、段々と不機嫌になってきた。

 

「む……何をしている? いつものアレで渡すが良い」

「いつもの? ……あ、口移しで?」

「はぁぁぁ!? く、口移しぃぃぃ!?」

 

 とんでもない単語を聞いたジャンヌは思わず叫んだ。

 

「……どうしたのジャンヌ?」

「いやいやいや、明らかにおかしいでしょう!? アンタいつも嫌がってるわよね!?」

 

「え? いつも茨木童子にやってるけど?」

「嘘よ嘘! アンタ、エドモンからヒント貰ったのに一切違和感持たないつもり!?」

 

「…………あれ……? そう言われるとなんか……おかしいような? 

 ……俺の後輩ってこんな小さくなかった様な……」

 

 その言葉にジャンヌはニヤリと嗤い、茨木童子は明らかに動揺した。

 その調子、その調子とマスターを心の中で激励する。

 

「そもそも……サーヴァントをどうして召喚して、何で召喚できたんだ?」

「だぁぁ! 余計な事まで勘付くなぁ!!」

 

 瞬間、マスターの後頭部へと柄の強打が飛んできた。

 

 

 

「いっ! ……痛いな……何処だ、此処……」

 

 痛みに頭を抑えながら目覚めると、そこは黒い色のベッドの上だった。

 

「――いい加減、正体を見せたらどうなのよ! BB!」

「……へー……流石に、見破られちゃいましたか。良いでしょう、センパイが起きる前に正体を見せて貴女をデリートしちゃいましょう!」

 

 その横では刀を構えたジャンヌ・オルタとおかしな口調の茨木――いや、自白したので間違いなくBBだ。

 

「BBちゃん、フォームチェーンジ!」

 

 そして魔法少女よろしく謎の光に包まれて、その姿を顕にした。

 光の拡散と共に飛び散るエフェクトが中々凝っている。

 

「健全な変身シーンで年齢制限をしっかり守る、万能AIのBBちゃんでーす!」

「……貴女、ちょっとは周りを見たら?」

 

 そう言って刀を抜いたジャンヌの切っ先は右に真っ直ぐと向けられ、釣られたBBの視界に目を覚ました俺の姿を捉えられた。

 

「せ、センパイ…!? お、起きていたんですか……?」

「まあ、少し前に」

 

 茨木から元の姿に戻った所を見られたと理解したBBは、若干顔を染めながら震える手で杖を俺に向けた。

 

「こうなったら……! 小細工無しで女神クラスのチャームで骨抜きにして……!」

「やらせる訳ないじゃない!」

 

 ジャンヌ・オルタの攻撃を防ぐ為に、突き出していた杖は俺から離れる。

 

「邪魔ですよ!」

「それは大変結構! 私も、ルルハワでの分殴らせて貰うわ!」

 

 斬撃に炎やら桃色の閃光が飛び交うポップな戦場に早変わりだ。少し離れた俺の近くにも流れ弾や火の粉が飛んでくる。

 

「ッグ……!」

 

 逃げ出そうとする俺だが、頭の中が何かゴチャゴチャする。

 茨木童子は現実での後輩で、BBは……? ジャンヌ・オルタは俺のサーヴァント?

 

 何か忘れている事を思い出そうとするがどうも情報がチグハグで、考えようと情報を繋げると頭痛に似た嫌な痛みが頭を走る。

 

「痛いし、気になるが……兎に角、一旦引こう」

 

 頭を抑えながらも姿勢を低くして扉へ向かう。

 その途中で逃走に気付いたBBが桃色光線をこちらに放ちもしたが、ジャンヌの妨害で掻い潜る事ができた。

 

「よし、これで……!」

 

 部屋を出た所で、一気に冷え込んだ。

 

 それは決して恐怖の余りで……とかではなく、床や壁に霜が出来ている事から実際にシャトーの廊下の温度が真冬の様な寒さだと俺に認識させていた。

 

 そしてその原因を見て俺が恐怖しなかったと言う訳でもない。

 

「――ようやく見つけたぞ」

 

 アナスタシアの様に周囲を凍てつかせる類の冷気は無いが、彼女を見た瞬間、心が凍ってしまうのでは無いかと錯覚してしまう程だ。

 

「スカサ、ハ――」

「――様だ。以前、そう呼ぶ様に言った筈だ」

 

 スカサハ・スカディはこちらに杖を向けると何かを描く様に数瞬ほど動かした。

 

「――うお!?」

 

 見えない何かに引っ張られる様に俺の体はスカサハ・スカディへと動いた。

 微笑みながら俺を待ち構えていたスカサハは、眼前の俺の背中に手を回してそっと抱きとめた。

 

「ふふふ、母に抱かれる幸福をしっかりと噛みしめよ」

「……や、やばい……! この感じは……!」

 

 背中を擦られると、その度に嫌な汗が吹き出す。

 

「ふふふ、神に恐怖する、今まで見せた事の無い平凡な人間らしき姿も愛するに値する」

「あ、あの……ちょ、ちょっと放してくれると嬉しいなぁ……なんて」

 

「っむ……どうやら、女神の愛が足りないと見える。

 何やら他の女の匂いもするし、ついでに掃除をしておくとしよう」

 

 再び杖を振るわれ、ルーンを描かれる。

 

 魔術の発動と同時に改変され隠されていた正しい記憶が雲影から出てきた太陽光の様に戻ってくる。

 

「…………あーあ!

 嘘だろ!?」

 

 そこで漸く思い出した。

 ヤンデレ・シャトーにやってくる際に、何か桃色チャンネルに出演されたり、聞いた事もない物語を朗読され、その後は意味不明な記憶が頭の中で湧いてきて、それを疑問を覚える事なく受け入れていた。

 

「いや、行動早すぎ……」

「私もゆっくり愛でてやろうと思っていたが、まさか直ぐに襲われるとはな」

 

 そう言って睨むスカサハ・スカディの視線の先には爆発した部屋の中から出て来たボロボロの2人がいた。

 

「っく、ロストベルトの女神様ですか……ジャンヌ・オルタさんのせいで面倒な人にセンパイが渡ってしまったじゃないですか!?」

「うっさいわね! アンタが私の本に変な上書きをするからでしょう! 先回りで組み込むって相変わらず無茶苦茶よね!」

 

 決着は着いていない様だ。

 

「本当ならお前達も愛でてやろう……と言いたい所だが、今の私は嫉妬深い女神の様でな。母ではなく女として、この者を愛そう」

 

 杖が向きを変える。抱きしめられている俺の首の横を抜けて、2人へ杖が向けられる。

 

「そして――お前達は殺そう」

「あらら……随分とキャラ崩壊が激しい方ですねぇ。元々病んじゃってる私とは大違いです!」

「それ、誇らしげに言う事かしら?」

 

 自慢げに宝具を構えるBBに呆れながらも刀を抜くジャンヌ・オルタ。

 どうやらスカサハ・スカディの力は理解している様で、2対1で戦うつもりの様だ。

 

「――頭を垂れよ、殺してやろう」

「――っな!?」

 

 瞬間、後方へと跳んだBBとジャンヌ・オルタがほぼ同時に地面へと叩き付けられた。

 

「な、なんてでたらめな展開速度……!」

「ルーンの範囲から跳躍して逃げるつもりだった様だが、生憎私の方が早かったな」

 

 まさか、ムーンセルで生まれた高性能AIのBBが計算違いをしたのか? 流石は神代の女神というべきか。

 

「では、殺そうか」

 

 それはなんとか止めないと……! そう思った俺は腕に力を込めてスカサハの肩を抱きしめた。

 

「スカサハ……様、それは駄目」

「マスター。私を止めようとする姿も愛らしいが、お前の健気な姿を見れば見る程、私はあの英霊を殺さねばならん」

 

 怒りの感情が伝わってくる。杖の先の魔力も心なしか荒々しく見える。

 

「……とは言え、お前の願いなら聞かない訳にも行くまい。

 だが、私達の関係は理解しているであろう?」

 

「……従者と、主」

「お前が私に従う。それが常だ。懇願は受け入れるが、それ相応の仕事をしてもらおうか」

 

 その言葉に質問を返そうとしたが、スカサハは指を俺の口に当てて塞ぐと杖を軽く振った。

 

「先ずは、城へ行こうか」

 

 当然の様に原初のルーンを使用して氷の城へと移動させた。

 

「ふぅ……」

 

 少し息を吐くと、彼女は俺を放して玉座に腰掛けた。

 

「やはり、人間の熱は私には熱すぎるな。

 だが、不思議ともっと抱きしめていたくなる」

「は、はぁ……」

 

「この塔、正直に言うと実にくだらんモノだと思っていた。

 愛なら既に理解していると……しかし、実際に今私が抱いている愛は、ラグナロクの前、神々に抱いた事もない物だった……」

 

 スカサハ・スカディは玉座の前に立っている俺を見ると、杖を振って先程の様に俺との距離を縮ませる。

 

「――こうなると、もはや誰が仕えているのかなど、どうでも良くなってしまう。

 お前と一緒に同じ場所に、いたいだけ……」

 

 体に頭を置く様に、彼女は全身の力を抜いている様だ。

 

「っこれは!?」

 

 それでありながら俺と自分の足元を囲む様にルーンを構築している。

 

「女神である私と一緒になろう……切大」

「い、一緒って……!?」

 

「女神と人間とでは寿命も価値観も、見えている全てから得られる情報も違う……」

 

 物悲しそうに語られるが、俺の中では既に手遅れの様な、最悪な予感がしてならない。

 

「ロストベルトの神霊だ。いずれはこの身どころか存在すらも完全に消えてしまう……そうなる物だと、覚悟していた筈だったが」

 

 ゆっくりと呟いてはいるが、このままでは俺の体は消える。

 

 メルトリリスの毒とは異なる。溶けて液体になるとかじゃない。

 お互いの霊基と体を混ぜ合わされる。

 

「夢の中の出来事……じゃ、すまない雰囲気だな!?」

「……安心しろ。私達の肉体を元に誕生する半人半神霊だ。異なる歴史の存在である私も、きっとお前の側にいる事が出来る」

 

 非常に不味い。これがゲーム本編なら間違いなくバッドエンドだ。

 

「令呪を持って命ずる! BB! ジャンヌ! 来い!!」

 

 2つの令呪が赤く光る。しかし――

 

「――駄目だ」

 

 そっと手を添えられただけで令呪の光は消え、1画だけが残された。

 

「くっ! カルデア戦闘服!」

「駄目だ」

 

 礼装を変える事も叶わない。

 

「大人しく受け入れろ……私、スカディの愛だ」

「な、なんとしてでも破らないと……!」

 

 そこで俺は考える。

 最後のサーヴァントだ。この状況で4騎目である最後のサーヴァントを呼び出すしかない。

 

(そういえばエドモンがなんか言っていたな……真実?)

 

 

 もしかして、この状況の事を想定していた上での助言だったのか?

 

 

 なら、“真実”は――この状況を打開出来る答えの事に他ならない。

 

 

 

「……スカディ!」

「っ! 名前で――んっ!」

 

 俺は彼女の唇を塞いだ。こんな事をする柄ではなかったが、状況も相手も最悪なら、これしかない。

 

「ぁ、んー! ぁつ、んんいぃ……ぁ!」

 

 強引に舌を入れる。熱さに驚いて逃げようとする彼女の舌を絡め、口内から体全体に熱を送る様に口付けを深める。

 

「んー……んっぅう……! は、はげし――んんん!」

 

 初めて感じる温度に悶えている様だ。 やがて、俺はそっと彼女の口を離れる。

 

 今のキスが初だったのか、余りの衝撃に少々やり過ぎたかと心配になるが、復活する前に俺は令呪に魔力を流した。

 

「令呪を持って命ずる!」

 

 さて、此処で“真実”を決める。

 

 このルーンを脱出するには、サーヴァントを呼び出すしかない。だが、誰でも良い訳じゃない。

 

 誰を呼び出せばいい? ルールブレイカーを持つメディア? 違う。

 ライダークラスのサーヴァント? そうじゃない。

 

「呼ぶのは――両儀式だ!」

 

 

 

 

 

 結果から言おうか。

 

 

 俺の答えは、合っていた。

 

 原初のルーンを直死の魔眼で切り伏せた彼女はスカサハから俺を奪い取って城を脱出した。

 その際に城のあちらこちらを殺していったので崩落を始めていたが、それはそれだ。

 

 そして廊下を満身創痍で歩いていたジャンヌ・オルタの同人誌を切り裂いて、BBは杖を持つ手ごと切断した。

 

 それをやっている間殆ど無言だったのが更なる恐怖を駆り立て、そのまま彼女の部屋へと運び込まれた。

 

 入って直ぐに色々あり過ぎて疲れていた俺を乱暴に床へと放り投げた。

 

「痛っ……! もがぁ!?」

 

 問い掛ける時間も与えずに、彼女は俺の口へアイスクリームのカップを縦に持って押し付けてきた。

 

「……」

「んっが、うほあほぁ!?」

 

 グリグリと、カップの端の部分が痛いくらい顔にめり込んだ。

 

 それを続けて数秒後、漸くアイスカップから手を話した式は、俺に向けて声を発生した。

 

「……女神の匂いは取れたか?」

「はい?」

 

「まだだな……」

 

 そしてまた口へとアイスカップをねじ込まれた。

 

「……もういいか」

「っはぁっはぁ、はぁぁ……! ちょっと、理解、出来ない……!」

 

「オレを喚ぶ為とはいえ、あの女神とキスしたのが悪い。

 思い出したらまた鳥肌が立ってきたな……ミント味行っとくか?」

「い、いや! も、もういいから!」

 

「そうか? じゃあ、口移しだな」

 

 そう言ってイチゴのアイスカップを口に含むと、素早く近付いて俺の口内を蹂躙し始めた。

 

「ん……っちゅ、っはぁん……っ」

「んー、んっんん!」

 

 アイスが完全に溶けて、風味が無くなってもそれは続いた。

 

 それでも流石にずっと続く訳もなく式の口は離れていく。

 

「っちゅ……ん……ごちそうさん」

 

 離れて直ぐに式はゴロリと俺の横に寝っ転がった。

 

「……なぁ、マスター」

「はぁ、はぁ……なんだ?」

 

「……マスターは喚んでくれたけど、オレと一緒になら融けてくれるのか?」

 

 そう言って俺に向けてナイフを突き出した。顔の横にソレはあるが、麻痺しているのか疲れているのか、恐怖は感じなかった。

 

「それは嫌だ」

「即答だな。当然だけど」

 

 式は俺の手を握った。

 

「オレだって、女神様と同じ考えを持っている訳じゃないから。マスターが死ぬならオレの手で殺したいとは考えても、混ざり合うなんて……それも良いかもな」

「おいっ」

 

「冗談だよ、冗談。

 ……そろそろ、良いか」

 

 立ち上がった式を見て、ヤンデレ・シャトーの終了時間だと思い、俺も上半身を起こして――

 

「――がはっ!?」

 

 意味が分からない。恐らく俺の顔はそんな驚愕を隠す事なく晒していただろう。

 

「悪いな、マスター」

「しぃ……はぁぁ、きぃぃ……はぁっ!?

 がぁぁぁああああ!!」

 

 獣の様な叫びは悲鳴だ。

 俺の体を刺したナイフが、式の手で移動していく。

 

「難しいな。殺さずに殺すって」

「あああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 何故だ何故だと連呼したかったが、裂かれた体にはその為の酸素も血液も足りな過ぎた。

 

「マスターの体を覆う黒い魔力……マスターの心臓に隠れる桜色の魔力。

 そして……マスターの喉を通る紫色の魔力」

 

「ヒー……コッ、ヒー……!」

 

 体の真ん中を刺したナイフが心臓へ移動し、喉を通ってしまうともはや人間らしい呼吸も出来ない。

 それでもまだ体が動くのは、悪夢の中故か。

 

「今までは見えてても無視して来たけど、今回は流石に我慢できなかった。

 視えるって、本当に不便だよな。要らない物まで見えちまう」

 

 やがて人間としての体はその機能を停止させたが、意識はまだ悪夢の中だった。

 

 気が狂う程の痛みを口から吐き出し続けたい思いのまま、式の言葉が耳に届く。

 

「今回のは特別うざったいししつこいから、夢が覚める前に念入り殺しておくよ」

 

 痛覚が精神を貫通し続ける中、俺の体は止まる事なくナイフで刻まれ続けた。

 

 

 目覚めたら、忘れてしまうのか。

 そう疑ってしまう程に。

 

 目覚めを、忘れてしまうのか。

 そう確信してしまう程に。

 







100話目のヤンデレ・シャトー、如何でしたでしょうか?


今回、長い期間投稿が遅れてしまって本当にすいませんでした。
実はこの1ヶ月半近くの間で、自分が人間的にまだまだ未熟だと言う事を大切な人に教わりました。

それ故に、本当に突然ですが、今回でヤンデレ・シャトーの更新を一度停止させて頂きます。
自分自身の為にやらなくてはならない事が出来たので、今までみたいに片手間にヤンデレ・シャトーを執筆とはいかなくなりました。

かと言って、FGOを引退する訳でも無ければ創作活動を辞める訳でもありません。
この小説で培った力で、新しい小説を書いて見たいと思ってます。その際はお目を通して頂けたら幸いです。

色々落ち着いたらまた戻らせて頂きます。
本当に今まで、ありがとうございました。

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