ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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読者様の中にはタイトルでお気付きになられた方もいると思いますが今回は例のアレです。

毎度の事ではありますが――
・悪属性付加に対する解釈違い
・キャラ崩壊
・ヤンデレ過多
――にご注意下さい。


悪性のヤンデレ

 

 

「エドモンがそんな……流行りモノに乗る奴だとは思わなかったなぁ」

「何を勝手に失望しているんだ貴様は」

 

 今回の悪夢の説明を聞いて俺はガッカリした。

 悪属性付与なんてそんな……SNSとかで溢れ返っているシチュエーションに頼るのか。

 

「貴様が何を言おうと今回はこれで行かせて貰う」

「もうどうせ旬なんて過ぎて――」

 

 マフラーで叩かれた。

 

「ふん、戯言が過ぎたな。

 今回は4騎の悪性を付与されたサーヴァントを相手に逃げ回ってもらう」

 

(顔が少し後ろに退いただけで全然痛くない辺り、こいつの彼氏度を再確認出来た……)

 

「って言っても、前もなんかそれっぽいのなかったか? 皆がオルタ化する奴」

「違う。

 悪属性が含まれると言う事は、今まで意識的か無意識的に避けてきた悪行にも手を染める言う事だ。他のサーヴァントを利用したり、罠に嵌めたり……何だったら霊基に刻まれていた禁忌を犯す事もあるだろうな」

 

 清姫が嘘を吐いたり、エルドラドのバーサーカーが美しさを利用したり……あり得るのか?

 

「兎に角、普段の英霊には無い狡猾さに翻弄されん様に気を付ける事だ」

 

 

「えへへ……ピグレットぉ、よく来てくれたねぇ!」

「……到着早々捕まってる事に関して説明してくれます?」

 

 まるで時間を止められたかの様な唐突さに驚くしかなかった。

 

 魔術の本や怪しげな道具の置かれた魔女の部屋の中でオケアノスのキャスターに抱きつかれていたのは、ヤンデレ・シャトー送られて目を開けたのと同時だった。

 

「もう、マスターったら……私は魔女なんだよ? 転送の位置を弄るなんて朝飯前だよ」

 

 早速反則的な手を使って来たか悪属性……!

 流石に全サーヴァントの属性まで把握してないけど、オケキャスは元々悪じゃないのか。

 

「今ね、バレンタインデーの時に作った薬の改良品を用意してるんだけど、どうかな?」

 

 そう言って笑いながらフラスコを見せ付けてくる。

 

「の、飲み物みたいに勧められてもなぁ……」

「だよねぇ。私もまだマスターを豚にするのは違うと思ってるから、これはお仕置き用に取っておくよ」

 

 フラスコを机の上に置くと、再びこちらを見る。最初からずっと笑い続けているのが怖い。

 

「ふふ、何をそんな怯えているのさ?

 そんなに私が怖いかい? 大丈夫だよ。私は鷹の魔女、君のサーヴァントだ。そうだなぁ、今日はたっぷり世話をしてあげるからね?」

 

 そう言って彼女は普段とは違う香ばしい香りの料理を持って来た。

 

「唐揚げ、牛ステーキにコロッケ……さぁどんどん食べると良いよ?」

 

(きゅ、キュケオーンじゃない……だと? いや、悪属性になったからカロリー的な意味で豚にしに来てるのか?)

 

「どうしたの? ああ、もしかして白米かい? 大丈夫だよ、ちゃんと用意したから」

「あ、あのー……キュケオーンは?」

 

「キュケオーン? ああ……アレは駄目だ。スタミナがつかないからね。育ち盛りのマスターはもっとしっかり食べないといけないでしょ」

 

 おいおい……キュケオーン捨てるとかマジで禁忌犯してるぞ、この魔女。

 

(って冗談行ってる場合じゃない……! とはいえ、この料理を食べるのも……)

 

「……もう、マスターはそんなにピグレットになりたいのかな? うふふ、ならはっきり言ってくれれば良いのに」

 

 そう言ってフラスコの中身をスポイトで抜き取ると、一滴ずつ全ての料理にかけた。

 

「ほら、これを食べて豚になるといい。そうなってもちゃんと世話はするからね」

「ぶ、豚にはなりたくない……!」

 

「んー? もう、はっきりしないマスターだね。折角の料理が無駄になっちゃったじゃないか……でも良いよ。新しいのを持ってくるから、それはしっかり食べるんだよ?」

 

 食べたくないと言えなかった俺は、彼女が再び持って来た料理を平らげた。

 

「満足してくれたみたいだね。

 これから私の料理以外は食べちゃ駄目だよ? 食べたら豚になる薬を入れておいたからね」

 

 とんでもない地雷を仕掛けられたんだが。

 

「そうそう、もし部屋から出て行きたいなら諦めてくれ。この部屋の外は私以外のサーヴァントが君を求めて駆けずり回っているからね。魔術で細工はしておいたから、そもそも開けられないだろうけど」

 

 脱出もちゃんと封じられてる。

 

「勘違いして欲しくないけど、私の望みは監禁なんかじゃなくて君がずっと隣にいてくれる事だ。あんまり怖がられたくないんだけどな」

 

 無茶言ってくるし……誘拐、脅迫と犯罪行為しかやってないのに何処に安心できる要素があるんだ。

 

「まぁいいよ。君が怖がらなくなってる頃には、私から逃げようなんて微塵も思わなくなるさ」

 

 そう言って彼女は椅子に座って机に向かった。特に縛られなかった俺は部屋を歩いて扉を開けようとしたが、やはり魔術で弾かれて開ける事は叶わない。

 

 それを知っているのでオケアノスのキャスターもこちらをチラリと見るだけで特に咎めもしない。

 

「でも悪属性になった他のサーヴァントが大人しくしている訳も無いよな……」

「ねぇ、他の女の話はしないでよ」

 

 キャスターは杖を俺の首に引っ掛け自分の元へと引っ張った。

 

「痛っ!」

「そこまでデリカシーが無いなんて思わなかったなぁ。この部屋の中なら自由にしてもいいけど、私以外のサーヴァントの事は忘れてよ。

 君を助けるのは私だけなんだから」

 

 言い終わると彼女は力を弱め、杖を放した。

 

「……ん? なんだ?」

 

 彼女は椅子から立ち上がると扉の前に立った。

 恐らく魔術で消音しているので俺は何も聞こえないが、耳を澄ましている様子を見れば彼女にだけは聞こえているのが分かる。

 

「水音? 水を壁にぶつけているのか? そんな物でこの扉が破られると――のわぁぁ!?」

 

 オケアノスのキャスターの体を扉が壁まで攫って行った。

 まるで高波の様に斜めの角度を下げながら壁まで吹き飛んでその表面には墨で荒れ狂う海が描かれていた。

 

「重畳、重畳! へへへ、すとりーとあーとってのを一度やってみたかっただが、こりゃいいなぁ!」

「葛飾北斎!?」

 

「おうおう、おれは応為だってぇの! ますたぁ殿も覚えが悪いねぇ?」

 

 花魁姿で筆を手に持ちやって来たのは葛飾応為だ。小さなタコの姿になった北斎の姿は見えない。

 

「いいね、これ。とと様の力を全部この墨入れに封じて使ってやったら、魔力も絵の調子もよくなってなぁ」

 

 墨で書かれたバツ印が頬に付いているが、それを気にした様子もなくニカッと笑いながら黒い瓢箪を見せる応為。

 

(今さらっと父親を封印したとかとんでもない事を言ったんだけど……!)

 

「ますたぁ殿、こんな薬臭い所さっさと出ちまおう。魔女の部屋に興味がない訳じゃないが、使い方の分からない薬は高い酒より厄介そうだ」

 

 部屋の中を一目した応為は薬を諦めたが、筆を握り直すと扉に描いた波の下に、鎖に縛られ沈んでいる鷲を描いた。

 

「あっぐぅ!?」

 

 扉からたちまち鎖が伸びて、下敷きのままだったキャスターを縛った。

 

「へへへ、思い通りに描けるのは気持ちがいいねぇ」

 

 満足そうに頷くとこちらへ向き直っていつも通りの笑顔を見せる。

 

「さ、こっちだますたぁ殿」

「あ、ああ……」

 

 廊下に出て俺の前を歩く応為。彼女は本当に機嫌が良さそうだ。

 

「へへへ、ますたぁ殿。おれはぁ今すっごく嬉しいのさ。

 力が溢れるってのもあるが一生描きたいモノが決まって、それが側にあるってんだから幸せさ!」

 

 言いながら応為は扉を開いた。

 その中には、無数の、数多の方法で描かれた――俺の絵があった。

 

(床や天井にまで……写真より怖いぞ……)

 

「ここにあるのは全ておれの、応為の絵サ」

 

 鏡の様にそっくりな物もあれば漫画風に描かれ、彼女と唇を重ねようとしている物もある。

 

「ますたぁ殿には少々目に毒かもしんねぇな。まあ、おれも恥を晒す様なもんだしお互い様って事で我慢してとくれい」

 

 自分の部屋なので気安く入っていく応為の後を、恐る恐る歩いていく。

 進めば進むほど絵の数は増えていく。

 

「――さあ、此処がおれの、いやこれからはますたぁ殿の部屋にもなるさ」

 

「っ――!?」

 

 ――応為が扉に手を掛けた瞬間、緩んだ扉の隙間から俺の全身をゾワりと駆け抜けた。

 

「はぁはぁ、はぁ……っ!?」

 

 訳がわからない恐怖に数秒息を止められ、肺が空気を求めて乱暴な呼吸をした。

 

「んー……やっぱし、ますたぁ殿には辛いようだね」

「な、なんだ……! 扉の先に何が――」

「――神様さ。邪な、だけどねぇ?」

 

 その言葉に、彼女のクラスであるフォーリナーの単語を思い出す。

 

 いくら悪属性になったとは言え、彼女だけで北斎を封印するなんて少々おかしくとは思っていた。

 

 そもそも、葛飾北斎こそ座に名を刻んだ英霊の筈だ。その彼を封じて、応為が自由にその能力を扱える筈がない。

 

 だが、この世界の存在では無い異界の神ならば理を外れた現象も起こす事が出来る筈だ。

 

(つまりこの部屋の中にSANチェック必至の神様がいる訳か……駄目だ、心よりも先に体の方が震えて来る……!)

 

「うーん、ますたぁ殿が壊れちまうってのはやだねぇ……しょうがないから、少し待ってくんなぁ」

 

 応為は未だに絶望的な気配を放ち続ける扉を開いて1人中に入った。

 

『確かこの辺にこの前の電子世界とやらですけっちしたのが……あったあった』

 

 扉の先で何かが起こった。

 恐怖の根源が消えたのか、俺の体は残響で少しだけ震えていたがそれも直ぐに止んだ。

 

「まぁ、あれでいいか。ほら、これで行けるな?」

 

 部屋から出てきた応為はまだ少し足取りのおぼつかない俺を部屋の中へと引っ張った。

 そこにいたのは――紫の髪で包帯を巻いたデカい幼女。

 

「き、キングプロテア……!?」

「ああ、そんな名前だったか。まあ、***様の隠れ蓑にはピッタリだなぁ」

 

 部屋の中で窮屈そうに体育座りをする彼女は、やがて口を開いた。

 

「――――」

 

「まあ、この瓢箪の駄賃くらい払わなくちゃぁな」

 

 どうやらサーヴァントの声と姿に置き換わっただけで中身は邪神のままの様だ。だが、その発音は常人の俺には何一つ理解出来ない。

 

「これで邪神様がますたぁ殿とおれを結ぶってんなら尚更だ」

 

「――――」

 

「え? ふ、服くらい自由に着させろてんだ! 後で裸を見せるから隠さなくていい、んなわけあるか!」

 

 なんだか、世間話に花を咲かせているようだ。

 

「と、兎に角ますたぁ殿から令呪を取ってくんなぁ!」

「……え?」

 

 あ、これ捕まったらやばい奴なのでは。

 すでに手遅れだったがそう思った俺はドアノブを掴んだが開かない。

 

(STR対抗ロール! 瞬間強化で蹴る!)

 

 だが、部屋が暗くて見えなかったがキングプロテアの長い髪――恐らく触手――でドアを物理的に抑えられているので自動失敗だ。

 

「し、しかも髪に捕まった……!」

 

「ジタバタしなさんな。***様の力で新しい腕が生えてくるから……魔術回路とますたぁ適正? は取られちまうけど」

 

「それは間違いなく発狂からの信者化エンドだ!」

 

 もう出し惜しみ出来ない。令呪全てを発動させてやる。

 

「全員助け――ぁっぐ!?」

 

 しかし、令呪の命令が発動する前にキングプロテアの髪は切られ、開放された俺は床に落下した。

 

「何もんだ!?」

「知らなくて結構です」

 

 応為の背後に回ったと同時に殴って気絶させた。

 

 まるで忍者の様な隠密で素早い行動だったが、キングプロテアへ向けて放たれたのは黄金の光だ。

 

「――カリバーンッ!!」

 

 

 

 邪神は倒れはしなかったが決して小さくないダメージと応為が気絶した事もあって、何処かへと還った様だ。

 

「……アルトリア・リリィ……?」

「マスター、無事ですか?」

 

 俺が彼女の姿に疑問符を浮かべたのは、彼女の格好が普段と少し異なっていたからだ。

 

 鎧を外した霊基は再臨による物だろうが、白百合の様なスカート部分がなくなっており、下半身には黒のショートパンツを履いている。

 それは、彼女の師匠を名乗る青いセイバー殺しを思い出させる。

 

「……あ! え、えっとこれはその……俊敏性を重視した装備というか、師匠の教えに従った言うか……!」

 

 俺の視線の先に気が付き顔を赤らめる彼女を見て、俺も気不味そうに視線を逸した。

 

「と、兎に角元に戻しますので、こちらを見ないで下さい!」

 

 そう言われ、視線を逸している間に服装を元に戻した様だ。

 

「……はい、もういいですよ」

「……」

 

 アルトリア・リリィ本来の姿に戻った彼女へ視線を戻した。

 

「それではマスター、早く此処を出ましょう。悪しき神は去りましたが、また現れるかもしれません」

 

 俺の返事を待たずに彼女は俺の手を取って駆け出し、廊下に出た。

 

 視線を動かし確認するが、少なくとも見た目から悪属性らしき物は感じられない。

 

(妙な事は謎のヒロインXと同じ服装だった事だったけど……もしかして、悪属性のリリィってあの人の影響を強く受けた状態の事なのか?)

 

 アルトリア・リリィは俺にとってヤンデレ・シャトー内の恐怖の1つだ。

 その純粋無垢な性格はヤンデレになる事で俺を、何を傷付けても守ろうとする狂気を持つ。

 

 そして今の彼女は純粋無垢な悪属性。

 一体何をしてくるのか予想もつかない。

 

「……此処が私の部屋です」

 

 部屋……と言われて通されたのは外見と反する木造の小さな部屋。王ではなく、選定の剣を抜く前の彼女が住んでいたであろう形になっている。

 

「小さい部屋ですが椅子は2人分ありますので、どうぞ!」

 

 取り敢えず座った。

 ここまで脅迫され圧倒される場面が続いていて参っていたので、休息は必要だ。

 

「はぁー…………」

「お疲れですか、マスター」

「まぁ、ねぇ……」

 

 全然警戒は解けないけど。まだ危ないサーヴァントが目の前にいて全然気が抜けない。

 

「では、飲み物をお持ちしますね?」

 

 そう言って少し離れたキッチンに向かう。料理場を見て以前は肉を焼くだけの料理を振る舞おうとしていたの懐かしく感じる。

 

(まあ、流石に薬が盛られてそうだし飲まないか――)

 

 ――大きな打撃音が響いた。幸いにも何も壊れていない様だが、流石に視線はそちらへ向いた。

 

「……あ、アルトリア・リリィさん? なんですかその黒いのは?」

「これですか? 戦利品です!」

 

 

『悪属性いうてもうちは護法やさかい、派手に暴れるんもできひんわぁな』

『元々悪の癖に何を言ってるんだ』

 

『もう、ポチは相変わらずやわぁ……おや、瓢箪の中から酒の匂いが?』

『悪属性が重なって本性が出て来たな』

 

『もう、護法少女が酒は担ぐんは駄目やて』

 

『――では私がお預かりしましょうか?』

 

『ほんまに? 助か――』

 

 

「鬼退治の戦利品です!」

 

(護法少女がやられるとか夢も希望も無いバットエンドじゃ……?)

 

「因みに折角の宝具が消えてしまいますから、捕まえておいたんですけど……ちょっと待ってて下さいね?」

 

 そう言うと体を下げたアルトリアの方から開閉音が聞こえてきた。

 木製の部屋にあるまじき床収納――いや、地下部屋か。兎に角声だけが聞こえてくる。

 

『なんや? 旦那はんが来はったんやろ? うちに構ってくれるん?』

 

『なんやその杖? あんたさんの趣味やないやろ?』

 

『これは、アカン……!』

 

『……ブヒィ』

 

「鬼キュアァァァ!!」

 

 見えない所で起きてしまった悲劇に嘆きながら、思い出したかの様に部屋を飛び出した。

 

 走っているせいか、緊張感が恐怖で高まったせいなのか漸くアルトリア・リリィの悪性に関して1つの結論に至った。

 

(多くのアルトリア・ペンドラゴンは王として背負ってる物がある。だけど、未熟なリリィにはそれがない)

 

(彼女の悪とはつまり、王の名に縛られない事だ。騎士王でも暴虐の王であっても変わる事のなかったアーサー王の象徴となる剣にも槍にも、今の彼女は拘らない)

 

「他人の武器でも拾えば使う。

 ヒロインXの服装を真似してるのもその1つって事か……」

 

 広い場所、裁きの間に辿り付いた俺は息を整えつつ、物陰に隠れた。

 

(王となる為の道から外れた邪道……は言い過ぎか? でも、あれで成長したら……モードレッドになるんじゃないか?)

 

 そんな妄想をしながらも、裁きの間の入り口と階段への道を警戒する。

 

「……」

 

 来ない。静まり返った裁きの間で俺は汗を拭った。

 

「……」

「――マスター、何時まで隠れているんですか?」

 

 放たれた一言に体が弾かれる様に前へ倒れそうになったが、後ろから掴まれ強引に抑えられた。

 

「あ、アルトリア……!」

「すいません、そこまで驚くなんて……ずっと側に居たんですが気付きませんでしたか?」

 

 こいつは何を言ってるんだと思ったが、彼女の服装は再びスポーティな装いに変わっている。

 

(気配遮断まで使えるのかよ……)

 

「マスター、飲み物をお持ちしたのでどうぞ」

「いや、これ酒だろ!?」

 

「大丈夫です。

 鬼の酒ですのできっと良いお酒ですよ」

「何も大丈夫じゃないだけど!」

 

「っは! そうですね! マスターは婚約者である私に操を立てて、他の女の酒を飲まないでくれてるんですね? 嬉しいです!」

 

 やはり何を言っても好感度が勝手に上がる。嬉しそうに笑う彼女は酒の入ったコップをその場に置くが、何かに気付いて黒い瓢箪を取り出した。

 

「邪神の瓢箪が――震えてる?」

 

 もしかして葛飾北斎が封印を破ろうとしてるのか? 今開ければ御仁が復活するかもれない。

 

「開けちゃいましょう!」

 

 アルトリア・リリィは深く考えず瓢箪を開いた――

 

 

 

 

「なんでだよぉ、とと様ぁー!」

 

 葛飾応為は嘆いていた。触手に足と腕を掴まれ、霊基は第一再臨の物になり無理矢理招待客の席に座されている。

 

「私も嫌だぁ!! 今すぐ燃やす! マスターを殺して私も死んでやる!」

 

「はぁ……禄な目に遭わんかったわ……もうブゥブゥ鳴くんは懲り懲りやわぁ」

 

 他のサーヴァントも同じく座られた状態で触手に縛られ身動き出来ない。

 

「マスター。私、ずっとこの時を夢見ていました……」

 

「…………」

 

 驚きの超展開過ぎて理解が追い付かない。

 隣のアルトリア・リリィはウェディングドレスを着て嬉しそうにしており、俺達の前には教壇に立つ黒いタコ姿の葛飾北斎がいる。

 

 俺の服装もそれらしい白のタキシードに変わっている。

 

「なぁ……何で北斎さんがリリィの結婚式場を描いたんですか?」

『なーに言ってやがる。あの嬢ちゃんがおれを瓢箪の中から出してくれたからサ。

 封印の中にゃ異界の神サマの力が溢れてて、すぐに使わないと良くない事が起こっちまうからなぁ』

 

「応為さんの手助けは良――っう!?」

 

 他のサーヴァントの名前を出した途端、カリバーンの剣先が俺の首元に添えられた。

 

『口は災いの元だぜ、ますたぁ殿。

 てめぇの親父を封じるなんて、神サマの口車に乗ったからっ簡単に許す訳にはいかねぇさ。まあ、つまりはケジメって奴だ』

 

「とと様の裏切り者ぉ!」

 

『先に裏切ったのはお前さんだってぇの!

 ……お嬢ちゃんも待ちきれないだろうし、馬鹿娘の目が覚める様なアッツイ誓いの接吻をお願いするぜ? 写真の代わりに、この葛飾北斎がしっかり絵にして収めてやる』

 

 もうなんかやらないと行けない空気が出来上がっている。いやいや、駄目だ駄目だ。

 少なくとも此処にいるサーヴァント達の記憶に残ってしまう。

 

「えへへ……何だが、少々恥ずかしいですがとても誇らしいです」

 

 逃げ出そうと一歩下がる。リリィの花嫁のベールは、何故か舞い上がり彼女の顔を晒した。

 

「マスターさん、私……愛してます!」

 

 彼女の唇が、触れた。

 

 

 

「…………なんと」

「どうした、アーチャー?」

 

「うむむ……新宿の時の騎士王を元に計算していたんだが……ズレてしまったな」

「ふん。だがヤンデレ・シャトーはやり直しは出来ん。修正もな」

 

「おおっ! アラフィフ、割とこう言うの引きずるんだけど……」

「それにこれは彼女の善性がお前のスキルを上回っただけの話だ」

 

「此処でちゃんとしてくれていれば、マスター君の聖杯5個で作った指輪を渡させて永遠のハッピーエンドだったんだが……」

 

「だけど、このマスター君を恋路に追い込むの、私は非常に気に入ったよ。また今度も呼んでくれ」

 

 

「貴様がマスターに呼ばれれば、それも可能だろうな」

 

 





恐らくこのネタは生で食べられない位の鮮度でしょう。相変わらず流行りとかに乗り切れていないですが、楽しんで頂けたら幸いです。

因みに自分は新茶を呼んではおりません。持っている方の夢の中に悪性監獄塔の特異点が発生する事を願っています。

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