ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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本日はエイプリルフールです。

ツイッターにて嘘を吐いてみたものの、多分FGOの新作に話題を掻っ攫われているでしょう。
取り敢えず清姫に燃やされない程度に楽しみましょう。


まだ見ぬヤンデレ

 

「喜べ、マスター。貴様は全てのサーヴァントを召喚した」

「やめろ。エイプリルフールでも、吐いて良い嘘と悪い嘘があるぞ……!」

 

 エドモンの開口一番の言葉に4月1日を警戒していた俺は戦慄した。

 

「この悪夢は所詮幻だ。此処での出来事が真実か嘘かなど些細な違いでしかない。召喚できていない者を召喚出来た程度の夢を見るくらい良いだろう?」

 

「だけど俺の召喚できていないサーヴァントって基本的に星5のやばい奴なのでは……」

 

 まあ最高級の性能と知名度、生前のスケールが他のサーヴァントよりも大きい英霊が多いからな。

 

「では、霊気の格が少し低い者に相手をさせよう」

「て事は……星4? ……んー、誰がいたっけ?」

 

 星5なら源頼光とかスカサハとか直ぐに思い浮かぶけど、星4の女性サーヴァントで誰が召喚されてなかったと聞かると直ぐには答えが出ない。

 

「さぁ、楽しんでくると良い」

 

 ……今のセリフが妙に引っかかった。

 

「楽しんでくると……? っ! あ、まさかお前エドモンじゃ――」

 

 ニヤリと、エドモンでは無い姿を真似した誰かが嘲笑っていた。

 

 

 

「どっかで見た事あるぞこの展開……!」

 

 ヤンデレ・シャトーについた筈の俺は壁に深々と刺さり固定された鎖が俺の両手と体を纏めて何重にも巻かれている。

 

 案の定力を込めて抜ける様な代物ではなく、俺が体を縮こませても拘束は緩まない。

 しかも拘束は両足と両腕にも別のモノが付けられているみたいだ。

 

「くっそ……エドモンに化けてたの、誰だあの野郎……!」

 

 ミステリーの始まりみたいな展開に悪態を吐きながらも辺りを観察する。

 

 どうやらシャトーの中で間違い無いようだが動けないしサーヴァントもいない。

 裁きの間の壁に拘束されているようでなのでサーヴァント個人に捕まった訳ではなさそうだ。

 

「此処で騒ぐのは駄目だ……サーヴァントが一気に集まってくれば厄介だ」

 

 ……捕まったまま誰も来なければいい。 

 そう考えない訳では無いが、そうは行かない事を知っているので、聞こえて来た足音に身構える。

 

「……マスター……? え、あ、大丈夫ですか!?」

 

 現れたのは白いタイツ? に身を包み、腕には物々しい篭手を装備して、白いシニヨンを2つ付けた頭が特徴的なサーヴァント。

 宝具は仕舞っているのか見えないが、彼女の事は知っている。

 

「秦良玉……?」

「はい! この塔の何処かにまだ見ぬマスターがいると聞きましたが……兎に角、鎖を壊してしまいましょう!」

 

 意外だ。秦良玉は槍を取り出すと鎖に突き立て破壊した。

 

 ヤンデレだったら俺が自由を奪われている姿を見て拘束を解こうかどうか悩む筈なんだが……

 

(もしかしてあの偽物野郎、ヤンデレ・シャトーって言うのも嘘なんじゃ……)

 

 槍が振り下ろされ、大きな粉砕音と床をへと降り注いだ金属音が静寂に包まれた監獄塔へと鳴り響いた。

 

「……っ!」

 

 これで俺の体は壁から開放され自由となった。

 だが依然として両手両足は拘束されており、自由に歩けはしない。

 

「ありがとう、秦良玉。次はこの腕輪と足枷を……」

「…………」

 

 槍を振り降りした体勢のまま、秦良玉は答えない。だが、瞳は俺をジッと見つめている。

 その瞳に数秒前まで確かにあった曇りなき光が消えている。

 

(鎖の破壊が引き金だったか……!?)

 

 唐突な変貌に驚いた俺は召喚できていない彼女のこの先の行動に身構える。

 

「……え、え……そちらも、破壊しますね……」

 

 何か戸惑っている様だが彼女は俺の頼み通り、槍を向けて――放して、俺を抱きしめた。

 

「が、我慢できません!

 マスター、お許し下さい!

 私にはこの想いを……怪しげな術に掛かっているのを自覚しておりますが、抑えようとする度に強くなるこの愛を、止める事が出来ません!」

 

 そう言って二度と離れないんじゃないかと思う程に深く俺を抱きしめ、同時に抑えようとしているのは確からしく必要以上の力は込めていない。

 

「……せ、せめてこれを解いてからでも……」

「暫しお待ちを……もう少しこの感触を味わえば必ず、必ずや……!」

 

 駄目だ。本気で離れない気だ。

 

「……あ、そうです。私に与えられた個室にご案内します」

「いや、先ずこれを解いてくれない!?」

 

 腹一杯になっても食べな食べなと料理を追加してくるお婆ちゃんみたいに話を聞いてくれないので、我慢出来ずに悲鳴の様な声で怒鳴ると彼女は漸く放した。

 

「も、申し訳ありません……マスターの頼みを聞かず、私利私欲に呑まれるなんて……」

「落ち込まなくて良いから……さっさとこれを壊して、両手がもう痛い」

「はい。それでは失礼して……」

 

 槍を構える彼女に手錠を差し出していた所で見落としいた危険性に気付いた。

 

(……あれ、ちょっと待て。

 鎖が切っ掛けで秦良玉の様子がおかしくなったんなら、これを壊されたら――!?)

 

 無情にも振り下ろされる槍。手錠は鎖部分が壊れたせいか、光の粒子となり消失した。

 

(しまった! くそ、逃げようと逃げようと、拘束から抜け出す事しか考えて無かった!)

 

 自分の迂闊さに気付いてももはや手遅れだ。

 鎖を壊した秦良玉の様子がまたおかしくなっている。

 

「……こちらも壊しますね?」

 

 俺が何か言う前に足の鎖を両断した秦良玉はそれが消えるのを見届けると、頬を赤らめてこちらを見る。

 

「……はぁ……マスター、私は忠義を尽くします。今宵始めてお会いした貴方にこんな気持ちを抱くのがおかしな事なのは理解しています。

 けれど……悪い気はしません。それきっと貴方が私の様な非才のサーヴァントを大切にして下さると、この霊基の奥底で理解してるからだと思います」

 

「いや待て、思考を放棄するな……! 本当に今日あったばかりの俺にそんな気持ちを抱くのに違和感がない訳ないだろう! 家族や帝への忠義をそんな簡単に上回って良いと思ってるのか!」

 

 何とか絞り出した情報で彼女を説得してる。ヤンデレ・シャトーに始めて現れたサーヴァントは好感度が低い。責め立てて冷静にさせれば或いは……!

 

「わ、私は……!」

 

 頭を抱えだした秦良玉を見てもう一押しだと確信した。

 

「――とぉーう!!」

 

 だが、青い流星が唐突に、それはもうはた迷惑な速度で秦良玉と俺の間を通り過ぎ際に、当然の様に攫われました。

 

「マぁ――」

 

 秦良玉の呼び声もあっという間に聞こえなくなり――

 

「――ゥター!?」

 

 キレイに地面を踏んで、彼女の前へと戻ってきた。

 

 機械の腕で俺を掴んだ半武装状態のこのサーヴァントを俺は知っていた。

 去年の夏、散々戦ったから未だに覚えている。

 

「ふぅ……ちょっと落ち着きました。

 何故か……マスターくんのお姿をレーダーで捉えた瞬間に、胸の中で収まりが効かないほどの憎しみとかドキドキとかが込み上げてしまい、拘束させて頂きました!」

 

「あ……そ、それは私もですが――」

 

「なるほどなるほど! このハレンチタイツな方に絡まれていたのを見て、私のコスモ刑事としての魂が、マスターくんを救えと燃え上がったのですね!」

 

 あー……この人話をややこしくした上に俺の説得を無に帰す気だぁ……

 

「い、いえ別に私は……って、誰がハレンチタイツですか! そちらこそ、こんな場所でその武装は物々し過ぎで怪しいです!」

 

 確かに、顔と下半身以外は装甲に見を包んでいて戦闘準備万全なフォーリナー、謎のヒロインXXは怪しさ満点だろう。本人は真面目なつもりでも、彼女の発する言葉がギャグにしか聞こえないのも問題だ。

 

「む、それは私のこの姿が第ニ再臨……いえ、セカンドフォームだと知っての事ですか? 正式名称は長いので覚えてませんが……兎に角、マスターくんのサーヴァントでありながら、迷惑をかける様な方は弁護士も待たずに切り捨てさせて頂きます!

 え? 何ですかマスターくん? この方はセイバーでもフォーリナーでもない? 

 何を言いますか! 私とマスターくんの仲です! 今度ラーメンを奢って頂けると勝手に約束した上でなら絶滅危惧種のランサーも遠慮なくお掃除します! なので私の部屋の掃除はおまかせします!」

 

 勝手に話が進む……しょうがない、一か八かだ。

 

「ま、マスター!?」

「む、マスターくん……?」

 

 俺は2人の間に立ち、ヒロインXXから秦良玉を庇う様に手を広げた。流石に殺させる訳には行かない。

 

「XX、ステイだ」

 

 なんか、此処で死んだ方は永遠に召喚できなくなる気がする。

 

「……しょうがないですね。マスターくんは稼ぎも燃費も悪い私を養ってくれる程に優しいのは知っていますので、此処は見逃して差し上げましょう」

 

「マスター……」

 

 しかしこれでは秦良玉の好感度を上げてしまったか。折角説得出来そうだったのに。

 

「……む? マスターくん、危ない!」

「え――ぐっ!?」

 

 ヒロインXXに横に押され、俺の体は地面へと倒れた。

 見上げれば俺の立っていた場所で秦良玉の槍がXXの手の甲の装甲とぶつかっていた。

 

「どう言うつもり、ですか……!? 今の今までマスターくんに庇われていたのに……!」

 

「去れ! この方は私のマスターです!」

 

「要領を得ませんね! ならなんで、マスターくんを貫こうとしたんですか?」

 

「……貴女は――いえ、ここは一度引きます」

 

 秦良玉は倒れたままの俺を一見し、悲痛な表情を浮かべるとその場から去っていった。

 

「……不穏ですね。この塔ごと切り裂いておきましょうか?」

「いや、それはやめとこう」

 

「そうですか……一先ず、私の部屋に避難しましょう」

 

 

 

「と言う訳で、これが私の部屋です! 一人暮らしの上に残業やら長期出張で荒れ放題ですが、どうか寛いで下さい!」

 

 ゴミ屋敷には初めて入ったなぁ……

 

 流石に足の踏み場も無いので、目に付くゴミを片付けながらスペースを確保した。

 

「そうだ……ヒロインXX」

 

 部屋に帰ったからか武装を解除し、水着姿で寛いでいるゴミ屋敷の主に話しかけた。

 

「ん、なんですか? カップ麺ならあと2分15秒待って下さい」

 

「いや、そうじゃなくて……この塔にはどうやって来たんだ?」

 

 もう今更な質問かもしれないが、今までは夢だとわかっていたし、目覚める方法があったので野暮だと思って聞かなかったが、あのエドモンの偽者が危険な奴かもしれない。

 一応情報を集めておこう。

 

「何かセイバーの様な、フォーリナーっぽい反応が感じられたので気まぐれでこの太陽系を移動していた時に、この塔を見つけたんです。

 余りにも怪しいので中に入って調査しようと思って宝具ブッパして中に入ったら……出られなくなりました」

 

 駄目だった。やっぱり役に立たない。

 

「子供が作った仕掛けに捕まった魚か」

「酷いです! その通りなので言い返せませんけど!」

 

 そんな話をしていたが、部屋の周りが汚すぎて少々落ち着かなくなってきた。

 

「……掃除しよう」

 

 俺は立ち上がると先ずはゴミ袋を手に取り、散らかしっぱなしのコンビニ弁当の箱やカップ麺のカップ、割り箸、ペットボトルにビールの空き缶、レシートにチラシやらを全部片付けた。

 

「おーお……心なしか部屋が広くなりましたね」

 

 ホウキがあって良かった……畳の上に落ちているポテチやらパンのかけら、ホコリを全部掃き取る。

 なお、この家の主はその間に椅子でせんべいを頬張っている。

 

「働き者ですねマスターくん。お姉さん感激です。後は台所もお願いします……」

 

 割り箸やらの使い捨て品は全部ゴミ袋に入れたと思ったが、台所にもあった。

 洗って使いまわそうとして、結局洗っていないのだろう。

 

「……全く……これくらい毎日やれば――ちょ、今度は何!?」

 

 急に後ろから抱きつかれ、水着で顕になった柔らかさを感じた。

 

「……だらしない大人でごめんなさい、マスターくん……

 私みたいなガサツ女にこんな事されてもって思うかもしれないですけど……お礼に、一緒に寝ませんか?」

 

 耳元で囁かれ押し付けられた胸に、ググッと体の中で性欲が込み上げて来るが流されまいと洗い物を続行する。

 

「そ、掃除や洗い物程度で大げさだって……いいよ、お礼なんて」

 

「……もう、はっきり言わないと分からないんですか?

 これからも、ずっと私を支えて欲しいんです。私にダメな大人で駄目刑事ですが宇宙とマスターくんの平和を私にこれからもずっと守らせて下さい」

 

 く……苦しい……! このシチュエーションでプロポーズされて断るとか、普通は絶対しないんだけど……! 

 

(マスターくん、洗い物の手が止まったり速くなったり……全然冷静じゃなくなって可愛いです。これは脈アリですね?)

 

 そもそも、何で急に積極的になって来たんだ……!?

 

 掃除か? 掃除なのか? 鎖壊させた時と同じ様に……掃除が切っ掛けになってるのか?

 

「もぅ……黙秘権を行使し続けるマスターくんは、もっとイヤらしく問い詰めますよ?」

 

 そう言ったヒロインXXは抱きしめていた両腕の力を緩めた。

 

「チャンス! 緊急回避!」

「へ?」

 

 するりと彼女の抱擁を抜け出し、俺はドアノブを握って外に出た。

 

「もっと自分を大事にしろよ!」

 

 そんな捨て台詞だけ残して。

 

 

「……ははは……フラれてしまったみたいですが……私がその程度で諦めると思っているのですか? この程度の絶望、コスモ刑事の私は慣れっこです。

 マスターくん……ヒロインXXは名前の通りの正ヒロインだと言う事を教えて差し上げ――ふぁぁ……なんか急にめっちゃ眠くなってきまぁ……」

 

 唯一部屋にいたヒロインXXは眠りについたが、部屋の中の影からもう1人の誰かが現れた。

 

「……お館様の人柄はだいたい掴めたか。

 やはり、悪い人では無いが……

 むぅ……今の私の霊基で誘惑出来るのだろうか?」

 

 小さな影は不安を少し口にして、主の元へと向かった。

 

 

 

「サーヴァントはあと1人みたいだな……エイプリルフールだからこれも嘘……って、そんな疑い方してたらキリがないか」

 

 部屋の数を確認し、サーヴァントは残り1人だ。だが、今の所その姿は見えない。

 

「秦良玉がまた現れたらどうするか……令呪は、なんで封印状態なんだよ……」

 

 最終手段の令呪も使えないとなると、ヒロインXXと別れたのが辛いか……いや、あのままだったらもっと不味い展開だった。

 

 だって顔がもう発情し切ってて、添い寝だけ、なんて状態ではなかったし。

 

「そもそも秦良玉のあの攻撃は何だったんだ……嫉妬に狂った……にしてはタイミングがおかしい……」

 

 秦良玉と言う英霊について俺が知っている事があまりないので、知らず知らずの内に地雷か何かを踏んでしまったのか? 

 

「……ええ。私は酷く怒っているのです」

「っう……! し、秦良玉……!」

 

「アレがどのようなサーヴァントだったかは知りませんが、私も英霊です。

 忠義を尽くすべき貴方を守護する事はあっても、その逆は絶対にあってはいけません」

 

 当然現れた秦良玉は再び俺に槍を向けた。

 

「確かに俺は君の忠義を、見誤っていたかもしれない……

 でも、だったら何で槍を俺に?」

 

「この槍には微弱ではありますが、悪党を怯ませる効果があります……もっとも、それはマスターに関係の無い話です」

 

 秦良玉は槍を下に向けた。

 

「……マスターはもう1人のサーヴァントの存在はお気付きでしょうか?」

「いや、どこに居るかも分かってないけど……」

 

「信じるかはお任せしますが、先程貴方の影に、確かにサーヴァントがいました。

 殺意が漏れて、初めて発見出来ましたが……」

 

 XXが防いだ槍は俺に向けられた物では無く影の中のサーヴァントが……と言う事か?

 

「……だけど俺のサーヴァントなら敵じゃない」

 

「……いいえ、敵です。闇に紛れ、他人の行いを覗く者が賊でない筈がございません」

 

 彼女は盗賊に何やら特別強い感情を抱いているらしく、それ故か悪しき者に厳しい様だ。

 

「先の方もマスターの知人の様でしたが、私からマスターを奪った盗賊です。霊基さえ整えば……!」

 

 槍を一振りした彼女はマントを着けた姿へと代わり、より強い霊基を俺に見せた。

 

「どちらも必ずや討伐致します」

 

 そう言った後に、怒りに固くしていた顔を彼女は緩めて笑った。

 

「でも先ずは、マスターへの非礼を詫びるべきでしょう。私の部屋はこちらです。どうぞ」

 

 背を向けた彼女はドアの前に立つと俺を手招きした。

 

「さあ、こちらです」

「……うん」

 

 気乗りしないが……仕方ないか。

 

 俺は秦良玉の部屋に入った。

 

 部屋は質素なアパートだったが、畳の匂いよりも先に鼻に入ってきたのはラベンダー香りだった。

 

「こ……これは?」

「マスターがゆっくり落ち着ける部屋をご用意しました。

 椅子や布団もご用意致しましたのでお休みになって下さい」

 

 椅子はビーズクッション、布団は(前にも見た)羽毛布団が並べられており悪夢の中でも快眠出来そうだ。

 

「では、こちらの牛乳をどうぞ。温めましたよ」

「ありがとう……」

 

(流石にあれに一度体を預けたら……寝れ……あ……これ、くす…………)

 

「……はっ……」

 

 秦良玉は力が入らずに崩れ落ちる俺の体を抱き止めた。

 

「……薬も睡眠もマスターは大変警戒しそうなので、先にそれらしい空間をご用意させて頂き、一服盛らせて頂きました」

 

(そして久しぶりの寝てるけど起きてる状態……何が起きてるのかが視覚では分からない分、余計に怖いんだが……)

 

「……ああ、愛しきマスター……膝をお貸ししますね?」

 

 布団に体が置かれ、頭は少し高い位置に置かれて人肌の温もりが感じられる。

 

「……ああ、マスター。私は貴方の寝顔を見せていただけて幸せです……」

 

 掛け布団を被せながら、感激しているのか彼女の声は少し震えている。

 

「これからはこの秦良玉……いえ、『良(リャン)』が、貴方の全てを仕切らせて頂きます。何もしなくても結構ですよ。

 ええ……ずっと、一緒にいましょう」

 

 頭をゆっくり撫でられている。どうせ寝たままなので例えどんなに恐ろしい愛を囁かれても体だけは動じる事はないだろう。

 

「ずっと……英霊である私と貴方ではそんな事、不可能なのでしょうか?

 駄目ですね。別れを恐れるなんて英霊らしくありません。でも、その時は貴方の魂もきっと、私が世話をしてあげます」

 

 死後の先約は既に冥界だの地獄だのヴァルハラだの、沢山あるので諦めて下さい。

 何処にも行くつもりは無いけど。

 

(ん? なんか……ラベンダーに混じって別の匂いが……)

 

「い、いけませんね……なんだ私も……眠く…………」

 

 頭に置かれていた手から力が失くなり、秦良玉は寝てしまった様だ。

 

「……ふむ。拙者の隠遁を見破る程の槍の使い手と用心していたが……お館様の世話役に徹するあまり警戒を解き過ぎたな。

 では、後は拙者がお館様を頂いて行くでござる」

 

 どうやら誰かに担がれている様だ。

 喋り方からして忍者……恐らくアサシン・パライソだろう。

 

「……お館様は大変なお方でござる。殿方として、女性に好かれるのは良い事だと思っていたでござるが、些か度が過ぎたご様子……おいたわしや」

 

 公式で薄幸忍者扱いされてる英霊に同情されたんだが……

 

「だが、もうお館様を襲う輩はこの塔の中にはおりますまい。

 拙者の忍びとしての役目は終わった故、此処からは傷付いたお館様を癒やさなければ……! 少々、この霊基に不安はあるが……」

 

 運ばれながらも、彼女の呟きがぶつぶつと聞こえてくる。何やら不穏な事を言っているが……

 

「……お館様のお心は拙者が必ずや、掌握させて頂きましょう。

 小さくても“てくにっく”で満足させるのが現代風と黒い髭の方も言って追った故、存分に生前の経験を生かそう」

 

 あの野郎はぶっ殺すとして、このまま部屋に連れ込まれ目が覚めてしまえば彼女に喰われる……それは避けたい。

 

「……万が一の事を考えて、部屋を我が血で守るべきか」

 

 そろそろ起きたいんだけど……体には力が入らず、やはり意識だけ起きている。

 

「それにしても、随分強力な睡眠薬だったご様子。まだ眠りから目覚めぬのか……?」

 

 

「寝ているお館様は愛らしいですが、起きていただかないと……」

 

 

「……もう起きているのではないござるかお館様?」

 

 

「まだ……目を覚まさない……もう拙者……」

 

 

「う、うう……起きないでござる……

 これはやはり、寝ている間を襲うべき……? いや、だが……もう30分くらい待ってみるべきか……」

 

 起きない。本当に起きれない。

 律儀に待ってくれている彼女がそろそろ可哀想なので起きてあげたいが……

 

「も、もう……襲ってしまっても……だ、駄目でござる! お館様が起きている時に行わなければ……行わなければ……耐え忍ぶでござる!」

 

 健気……いや、待つ理由がふしだらだけど。ん……

 

「……あ」

「……お、お館様! 漸く目を覚まし――!」

 

 が、周りの空間が唐突に粒子へと変わり、ヤンデレ・シャトーは終わりを告げている。

 

「……は? え、え……ええぇ!?

 な、何故でござるか!? お館様が漸く起きて下さったのに!?」

 

「ごめん」

 

「う……い、いえ……決してお館様が悪い訳ではござらぬが……力及ばず、拙者こそ申し訳ない……」

 

 それだけいうとアサシン・パライソも消え、ヤンデレ・シャトーは消えた。

 

 

 

「で、結局お前は誰なんだ?」

 

「…………」

 

「答えろ……!」

 

「……俺はエドモン・ダンテスだ。それ以外の誰でもない」

「……え?」

 

「なるほど、エイプリルフールを警戒している様だな。だが安心しろ。所詮夢の中の幻だ」

 

「おいちょっと待て。先と同じ事言っていないか?」

 

「今回は貴様が召喚していない英霊を用意した。最高の霊格ではないが、侮り難き強者を用意しておいた」

「やっぱり先の奴が偽物か!」

 

「存分に楽しんで来るがいい」

 

 

 

「ふぁぁ……マスターくん、何処に言ってたんですかぁ? 起きたらいなくて心配したんですよぉ?」

 

「し、秦良玉は寝ていません! ちゃんとマスターの安全をお守りしていましたよ!?」

 

「よ、良かった……今度こそお館様を骨抜きにして見せるでござる!

 そのお体に私の“てく”を深く刻み込んでお見せましょう!」

 

 に……2度目かぁ……

 

「か、勘弁してくれよ……」

 

 何よりも問題なのは、俺もサーヴァント達も睡眠を取っていて元気な事だろう。彼女達の気合は先程以上だ。

 

(俺は結局寝てないみたいなモノなんだけど!)

 

 

 

 

「ふー……都合の良い日で助かったヨ。

 まさか変装を見破られるとはー……あれもシャトーの影響? いやはや、焦ったよ。

 まぁ、マスター君を虐めるのも可哀想だし、一旦充電期間としようかナ?」

 

 見下ろせばマスターは死に物狂いで巨大な生物から逃げている。

 

「いやぁ……若いねぇ! アラフィフの体じゃ、流石に逃げ切れないよ。

 だけどそろそろ強化が切れてチェック・メイト……

 と思ったら謎のOLのファンタスティックロケット……むむむ、軌道が計算し難いが、槍の子も黙っていないだろうネ」

 

 自分のヒゲをイジった後に、彼はクルリと背を向けた。

 

「さてと……私もソロソロ、可愛い娘を路頭に迷わせ親切に拾ってあげちゃおうか」

 





持っていない星4サーヴァント達を思い出せなくて若干苦戦しましたが、お気に召して頂けたら幸いです。

大奥は現在順調に爆死中で御座います。ステンノ様とワルキューレが重なりましたので良しとしましょう。(泣)
桜顔に嫌われてるのかなぁ……

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