ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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どうも、3週間程空いてしまいました、スラッシュです。

今回、投稿に遅れた理由はスランプ以外の何物でも無いです。定期的に陥ってしまいますが乗り越えて続けて行くつもりですので、その度に読者様方を待たせてしまう事をお許し下さい。



ヤンデレ・ワルキューレ

 

 

「ねぇねぇ、起きた?」

 

「お、起きてますが……?」

 

 唐突に顔より上から声を掛けられながらも、俺は返事を返した。

 

「ふふふ、私が一番みたいだね?」

 

 ピンクの髪のワルキューレ、ヒルドがベッドで寝ている俺の上に乗っていたのだった。

 突然始まった為、状況はよく分からないが目の前にサーヴァントがいる以上、どうやらヤンデレ・シャトーの様だ。

 

「一番って、他の姉妹は?」

「やだなぁ、マスター……私達にオルトリンデもスルーズも要らないでしょ?」

 

「いや、要らないって……同じワルキューレで姉妹だろ?」

「確かに、思考も情報も共有して統一されるけど、私はマスターまで共有や統一なんてしたくないなぁ……そうだ……っん」

 

 ヒルドは短く唇が触れ合うだけのキスをした。それだけ気分が高揚したのか、彼女の顔に赤の色が現れる。

 

「……マスター、私を壊してよ」

「は……はい?」

 

 その言葉が何かイヤらしい意味に聞こえて妖しい雰囲気が漂い始めたが、ヒルドは構わず続けた。

 

「ブリュンヒルデお姉様は英雄を愛して壊れてしまった。

 今の私はシャトーの影響で一時的にマスターを普段よりもっと好きになってるけど、マスターが私に愛をくれたらきっと私もその愛を返す形で壊れると思う」

 

 壊れると言う言葉の意味が、俺の想像通りなら間違いなくワルキューレという枠組みから彼女は外れるだろう。

 

「だけど、それはヒルド達が忌み嫌う行為の筈だ」

 

「そうだね。ワルキューレは皆、お父様の命令を優先し、最重視するからね。

 だけど、この塔の中ではその限りではないみたい……英霊の分霊だからかな? 

 オルトリンデとスルーズもそれは一緒でね、同期を試みても大体ノイズだらけで2人の事も居場所くらいしか分からないんだ」

 

 言いながらヒルドは唇を指でなぞり、愛おしそうに笑った。

 

「だから、もう壊して。壊れる程に、君の人間らしさを私に刻み込んで……っんん」

「それは断る」

 

 2度目の口付けは手の平で受け止めた。

 

「っはぁ……ん、まひゅたぁの指、んっ……!」

「ええい! 舐めるな!」

 

 ヒルドの口は止まらず、両手で手首を抑えて俺の指に舌を滑らせて来た。

 それを乱暴に振り払い、彼女を睨んだがヒルドは特に気にした様子は無い。

 

「んふふ、マスター……そろそろ、シテいいかな?」

「だから……断る!」

 

 俺は上に乗ったヒルドを引き剥がして体を起き上がらせ、ベットから出た。

 

「って、此処はマイルームじゃない……?」

「うん、そうだよ」

 

 出口を見るとシステム的な扉では無く、ドアノブの付いた扉だ。

 だが、眺めた後に手を伸ばそうとする俺の前に、ヒルドが割って入って来た。

 

「駄目だよマスター。此処から出ちゃ駄目」

「何でだ? 他の姉妹がいるからか?」

「ううん、違うよ。

 マスターが此処を出ると、私に会えなくなっちゃうんだ。そんなの、嫌だよね?」

 

「会えなくなる?」

 

「今日は私達、3人同時に現界してなくて普段通り1人なの。

 だけど、貴方がここから出て行けば私は代替で交代されるの」

 

 つまり俺が部屋から出る度にオルトリンデかスルーズと入れ替わる訳か。

 

「だから、此処にいて、ね?」

 

 しかし、彼女の入ってはいけないスイッチが既に入っているのは丸分かりなので脱出しないと俺の身が持たない。

 

「悪いね。【ガンド】!」

 

 スタンを打ち込んで彼女を避けて前へ進む。

 

「……マスター……! なん、で……!?」

「悪いな。俺は誰も選ぶつもりは無いんだよ」

 

 ドアノブを捻って部屋の外へ出た。

 しかし、その先には別の部屋が存在していた。

 

「本棚が、迷路みたいに……っ!」

 

 その後ろからは眩しい光が放たれ、俺は急いでドアを閉めた。

 

 どうやらヒルドの代替が行われている様だ。

 

「前にサーヴァントがいない事を信じて、行くしかないか……!」

 

 大小様々な本棚が行く手を阻む中、俺は只管出口を目指して進んだ。

 

 だが、俺が中央にまでやってくると後方から大きな破壊音が聞こえてきた。

 

 チラリと後ろを見れば金色の髪が見えた。

 

「っく……! スルーズか!」

 

 どうやら槍で部屋の中に迷路を作っている本棚を貫き破壊しながら進んでいる様だ。

 

「マスター、お待ちを」

「いや、本棚穿ちながら何言ってやがる!?」

 

 しかし、真っ直ぐ直線に向かってきており、しかも全ての本棚が彼女によってこちら側に向きながら倒されているので退路も断たれた状態では――

 

「――捉えました」

 

 逃げ切れる筈もなく、出口までの間に本棚が後1つの場所で捕まってしまった。

 因みに、スルーズと向かい合う俺の顔のすぐ右で槍の先端が本棚に刺さっている状態である。

 

「怖っ!? 後少しで顔に刺さってただろ!」

「いえ、マスターを逃さぬ様、傷付けぬ様に細心の注意を払っていましたので、その心配は必要ありません」

 

 引き抜きながら涼しい顔でそう言い切るスルーズに恐怖しつつ、その表情を観察する。

 一見、無表情にも見えるが恐らくヒルドの件に関して、あまり穏やかではいられていない様だ。

 

「マスター」

「な、何――っ!」

 

 唇を舐められた。

 

「ヒルドが触れたのは、此処ですね?

 他に何処を触られましたか?」

 

 全てを上書きするつもりなのか、スルーズはその手で俺の体のあちこちに触れる。

 それが徐々に下に行くのは見逃せず、彼女の手首を掴んだ。

 

「……そこまでは、触られてないぞ?」

「そう、ですか……」

 

 納得していないと言う表情を浮かべつつもスルーズはその腕の力を抜いたの確認してから、手を放した。

 

「では、マスター先ずはこちらに」

「っうぉ!?」

 

「っはぁ!!」

 

 スルーズの腕が今度は俺の背中に回ると、そのまま抱き寄せてから辺り一面を槍で薙ぎ払った。

 

 ルーン魔術なのかは分からないが、槍を魔力的な力で強化したその攻撃は部屋を圧迫していた本棚を殆ど破壊し壁際へと押しやっただけではなく、俺の脱走を封じる為のバリケードとして扉を塞いだ。

 

「これで良いでしょう。

 流石に、マスターと過ごすには狭すぎましたので掃除させて頂きました」

「本気で言ってるなら、だいぶ掃除下手だぞ?」

 

 思わず皮肉っぽくそう言うと、彼女は恥ずかしそうに謝った。

 

「そ、そうですか……申し訳ありません」

 

 すぐに槍で辺りの本棚の残骸を掃除し始めた。当然、扉の周辺は避けて行っている。

 

 なので俺は下手な事はせずに座ってそれを見守った。

 

「お待たせしましたマスター。これでお怪我をする事はないでしょう」

「で、スルーズもこの部屋から俺を逃がす気が無いって事か?」

 

「勿論です。

 ヒルドは何やら怪しげな誘いを行ったようですが、私はマスターの世話をします。此処にいるだけで、マスターは何もなさらなくても大丈夫です」

 

 そう言うとスルーズはコンビニとかで売っているであろう食料と水を出した。

 

「これで一日分の栄養を賄えるそうですね。水もアルコールも糖分も入っていませんので健康的です」

 

 ……なるほど。ワルキューレは機械に近いと彼女ら自身も言っていた。

 俺の世話をするが、俺の好みとかは考えてくれない訳なのね……

 

「夢の中でも腹が減るから頂くけど……」

 

 箱が未開封な事を確認してから手を伸ばし、中の栄養食を口に運んだ。

 

「まあ普通だな」

「残念ながら此処には調理器具は無いので料理を振る舞う訳にも行かず……申し訳ありません」

「いや、別に良いんだけど……」

 

 何を盛られるか分かったもんじゃないし。

 

「それよりも、人間に恋して良いのか? あれだけブリュンヒルデとシグルドの事を――あれぇ?」

「っ……!? す、すみません……! マスターのご指摘した矛盾に関して、思考を巡らせたら……何故か涙が……!」

 

 俺はクールな筈の彼女の涙を見て、慌ててなだめた。

 

「わ、悪かった……意地悪が過ぎた」

「いえ、困惑させて申し訳御座いません……」

 

 ヒルドにも似たような質問をしたが、どうやらスルーズはヤンデレ・シャトーと自分の中の想いが上手く噛み合っていない様で、涙が出る程に混乱しひどく怯えてしまう様だ。

 

 だが俺に抱きつくとすぐ落ち着いて来た所を見ると、案外ワルキューレの演技に騙された気がしなくも無い。

 

「マスター……温かいです」

 

 俺の方に首を預ける彼女から少しだけ視線を逸らし、部屋のドアを見る。本棚の残骸で塞がれたままだが、退かせば開けれるだろう。

 

「っん?」

「マスター、私を見て下さい」

 

 視線の移動に気付いたスルーズが手を頬に添え、強引に顔の方向を自分に向けさせて来た。

 

「部屋を出る事をお考えなのでしょうが、私はそうさせません。ヒルドにも、オルトリンデにも貴方を譲りたくはないのです」

 

 スルーズの抱擁は強くなる。

 だが、距離自体は短い。またガンドが使える様になれば他のスキルも組み合わせて直ぐに脱出できるだろう。

 

 

 

「マスター、不満はございませんか?」

 

 敢えて言わせてもらうならこの状態自体が不満しか無いのだが、恐らくそれを口にしても決してこのまま続いてしまうのだろう。

 

「職権乱用って奴じゃないのか? と言うか、視線が痛すぎるんだが……」

 

 いくつかある不満の中で最もどうにかしてほしかったのは、ジーッと俺とスルーズを見つめ続ける6つの視線だ。

 

「安心して下さい。彼女達は召喚される程確立された霊基を持っていませんのでこの塔の影響を受けておりません」

 

 色とりどりの髪色を持つワルキューレ達は全て宝具の力で呼ばれた彼女の姉妹達。

 

 恐らく全員は呼んではいないだろうが、スルーズは俺の脱走を封じる為に見張り役として6人程呼び出した。

 

 だが、いくら何でも瞬き1つもせずにこちらをじっと見つめられていては落ち着けない。

 

 しかもその間スルーズは一切俺から離れず抱き着いたままだ。

 

「で、何時までこのままなんだ……?」

「すいません……この感情で最初に思い浮かんだのが、ブリュンヒルデお姉様と……あの英雄のお姿で……け、決して真似をしたい訳ではないのですが……!」

 

 なるほど、真似したかったのか。

 カルデアに召喚された後の彼女は本を読んだりしていた筈だが……まあ、生で唯一見た恋人のやり取りみたいなのがあの北欧カップルなのだろう。

 

 なんかキャラに合わない程ベッタリしてくると思ったが納得した。

 

「それで……マスターは私をなんとお呼びになってくれますか? 現代では恋人を違う呼び方をするそうですが……」

「それもあの2人の影響だな?」

 

「い、いえ……別に、あんな男に“我が愛”呼ばれて嬉しそうなブリュンヒルデお姉様を羨ましいだなんて全く思っていおりません!」

「我が愛」

 

「――――っ!?」

 

 からかい半分でそう呼ぶと彼女の顔はうごかなくなり、徐々に赤へと変わりながら頭に付いた羽根が左右ともに直立してからヘナヘナと萎んだ。

 

「我が愛」

『――!!』

 

 そして、先までこちらをジーッと見ていたワルキューレ達も初めて一斉に目を逸らした。

 正直、言っている俺も恥ずかしいが此処まで周りの反応が良いと悪ノリもしたくなる。

 

「スルーズ、ごめんごめん」

「ま、マスター……な、何をあ、謝っているのか解り、かねま……」

「ごめん。我が愛」

 

「――!? ま、マスター! も、もう抑えなくても宜しいですね! 私、この体でマスターを…………っあ!」

 

 隙だらけだ。全て。

 

 俺の言葉に惑わされて、スルーズは距離をとられた事に気付かず、他のワルキューレ達は反応が遅れている。

 

 力技だが、瞬間強化と幻想強化の重ねがけで走った俺は扉の前に立っていたワルキューレだけ軽く退かしてドアを潜ったのだった。

 

「……っはぁ、っはぁ……お、終わりだろ……もう……」

 

 いや、よく考えろ。オルトリンデもいる。

 部屋から出ると代替されるらしいのでドアを行ったり来たりも考えたが、それで3人同時とか妙な事態になる可能性もあるので自重しておこう。

 

「この部屋……広いな?」

 

 多分大きさは先の部屋と同じだが、本棚がないのでその分広く感じる。

 しかし、本当に何もない。

 

「なんだろうな……最近、こんな感じの場所を何処かで……」

 

 思い出せない。最近、FGO、イベント、まで連想したのにそこから先が全然思い出せない。

 

「うーん……? もしかして思い出せない様にされてるのか?」

 

 だとしたら諦めるしかない。兎に角、今は目の前の危険を乗り切らないといけない。

 

 部屋の向こう側にはドアが無い。

 ここは行き止まりか。

 

「あれ? もしかして袋のネズミか?」

 

「マスター、こちらですね」

 

 自分の窮地を理解したと同時に、ドアはガチャりと開いた。

 現れたのは最後のワルキューレ、オルトリンデ。前の2人の妹だ。

 

「漸く会えましたね」

 

 オルトリンデがドアを潜り終わるとほぼ同時に、光の膜が唯一の出入り口を塞いだ。

 

「これで、私とマスターだけ。2人っきりですね」

「俺を閉じ込めて、どうする気だ……?」

 

 オルトリンデの顔はフードに隠れていて良く見えない。それはヤンデレ相手にはとても怖い事だ。

 

「……怒っているのですか、マスター?」

「いや、別に怒ってないけど……」

 

「そうですよね。

 他の2人に迫られても囲まれても、令呪すら使わずに逃げ果せたマスターなら、ドアを塞いだだけの私に怒ったりしないですよね?」 

 

 オルトリンデの背後で更に強く濃い光が壁となっている。

 

「私、ずっと見てました。

 代替を待っている時、マスターと他の2人の事をずっと……ずーっと」

 

 オルトリンデは大人しい性格だ。それ故に、病んでしまった時の危うさは計り知れない。

 現状、脱出の方法が令呪しかないのがそれを物語っている。

 

 最も、それを使わせてくれるかどうかは怪しい所だが。

 

「ずーっと……見てるだけでした。

 それだけの筈なのに……私は今、冷静さを失っています」

 

 槍を握る手が震えている。

 

「私には解りません。あの2人に向ける感情とマスターに向ける感情が一致してしまいます。スルーズもヒルドも英霊で、貴方に御せない状態なのも理解しているのに……私の心は貴方の疑心で満ちています」

 

「オルトリンデ」

「――マスターは、ヒルドとスルーズの事が嫌いなんですか?

 本気で逃げようとしていましたか?

 嬉しかったんじゃないですか?」

 

 オルトリンデはワルキューレの中でも内気で、心配性でもある。

 そんな彼女が今の俺に聞いているのは、俺が潔白かどうか確かめる為だ。

 

「いや、俺は本当に逃げているつもりだ」

「では、スルーズの事をあんな呼び方をしたのは何故ですか?」

 

「あくまで逃げる為だ」

 

 そう言い切った。

 言い切った瞬間、俺の足は切られていた。

 

「――っぐぁあ!?」

「安心して下さい。痛みを無くすルーンと共に刻みました」

 

 彼女の言う通り、痛覚は徐々に薄れていくが両足は腱を切られたせいか倒れたまま微塵も動かせない。

 

「マスター、貴方は卑怯です。

 私達姉妹を惑わせ、逃げる為に愛を囁く最低な男性です。その在り方は到底勇士呼べるモノではないでしょう」

 

「っぐ……!」

 

 選択肢を謝ったか。

 立っていられない俺は体も地面に倒れるとそのまま、オルトリンデを下から見上げる。

 

「ですが――私はそれでも貴方が好きです。寧ろ、ヴァルハラに選ばれなかった貴方なら私が好きにしても良いですよね?」

 

 オルトリンデは倒れた俺の頭を両手で持ち上げると自身の視線に合わせた。

 

「良かった。やっと言えますね」

 

 彼女は笑っていた。その顔に先までの憎しみは無かった。

 

「マスター、勇士では無い人間の貴方を私は一生愛します。だからもうヒルドに押し倒されてはいけません。もうスルーズを我が愛なんて呼んでは駄目です」

 

「オルトリンデだけのアナタでいて下さい」

 

 オルトリンデは何か薬を取り出した。

 

「それは……?」

「治療薬です。

 少々傷が深かったのでルーンでの治療では治せないのでこちらを使用します」

 

 ――勿論、治っても貴方はここから出られませんけど。

 それだけ言ってオルトリンデは液体状の薬を口に含むと傷跡を舐めた。

 

 

「ぁんっ! んん……」

「っ……!」

 

 そして、彼女が口を放すと傷が凄まじい勢いで塞がり、足も動かせるようになった。

 

「……まるで私の愛が貴方を癒やしたみたいで……嬉しいです」

 

 自分で傷を付けて何を言っているんだと言いたかったが、それと同時に周りの景色が消え始め、悪夢は終わりを迎えていた。

 

「マスター。今日の事、ヒルドとスルーズ、あの2人に教えても良いですか?」

 

 だが、オルトリンデは構わず恐ろしい事を言い出した。

 

「それは――」

「冗談です。

 だって、次に会う時マスターは……喋らなかった私をもっと愛してくれます。ですよね?」

 

 その脅しに、俺は黙って頷いて返したのだった。




ワルキューレの設定は他のサーヴァントと異なる所が多く、今回はいつも以上に適当な物になっているかもしれません。
そういった不満点は感想欄などで書いて頂ける幸いです。

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