ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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3周年記念企画、最初は 鴨武士さん です。

陽日の睡眠はあのビーストに果たして通用するのか……?



マイペースと愛の神 【3周年記念企画】

 ベッドの向こうから腕を引っ張られる。折角大きなベッドで寝れているのになんて無粋な。

 

「マスターさん! どうして何時も何時も寝てるの!? ちょっとは私の相手をして下さーい!」

 

「駄目……小学生の相手は無理、嫌、眠い。嫌な顔せずにお世話してくれる金髪の人を呼んでください」

 

 逆側から頭を撫でられる。

 

「全く……しょうがないわ。ならあの女なんて忘れる程、私が思いっきり甘やかして依存させてあげるわ」

 

 ちょっと目を開けると、そこには模様の書かれたお腹が……

 

「その歳でそんな破廉恥な格好している娘はちょっと……引く」

「引くなっ!」

 

 何で俺はまたこの2人の相手をしているのだろうか?

 

 子供の相手は面倒なんだ。眠いし、眠い。

 しかし、そんな俺の心情などお構いなしに……イリヤとクロエだっけ? は、俺の周りでキャキャと騒がしい。

 

「クロエ」

「何っ!」

 

 怒りながら返事をする褐色肌の娘に、俺は自分の頭を指さした。

 

「膝枕」

「……全く、しょうがないわね?」

 

 直ぐに表情が柔らかくなった。俺はイリヤを手招きする。

 

「……! 抱き枕だね、マスターさん!」 

「違う」

 

 俺は再び頭に指を向けた。

 

「2倍膝枕」

 

 こうして、俺のより心地の良い睡眠の為の研究は進むのだった。

 

 

 

「ふーん、私を召喚しておきながら、一度だって相手してくれないマスターさんがどんな方だと思ったら……睡眠大好きな自堕落さんですか」

 

 睡眠過多のマスター、陽日の事を調べ監視する小さな影があった。

 

「……しかも、ここ最近のシャトーに現れるサーヴァントが殆ど幼女だなんて……私の手にかかればあっと言う間に堕とせますね」

 

 そのサーヴァントの選出には母性を抱かない子供の英霊が騒がしく、陽日の眠りを妨げられるかもしれないというエドモンの策略があった。

 

 しかし、このアサシンのサーヴァント、愛の神カーマには関係の無い事だった。

 

 彼女は特異点での戦いで破れ、力を失った後に召喚され、面倒くさがりな陽日にろくに育てられていない。

 

 そんなカーマでは大人の霊基に成るのは難しいが、その問題はマスターが子供好きなら関係ない。

 カーマの目に妖しい光が宿る。

 

「愛が歪む場所だなんて、やさぐれた愛の神である私にこれ以上にないくらい相応しい舞台じゃないですか」

 

「大奥での借りを返すついでに、愛に溺れさせてあげましょう……ふふふ」

 

 

 

 夢の中じゃなくて現実でお世話してくれればなぁと思う今日この頃。イリヤとクロエの膝枕は寝心地は悪くなかったが、やはり抱き枕は必要かもしれない。

 

「……ふぁ……」

 

 夢の中でも寝て、起きたばかりなのであまり眠気は無い。さっさと起きて朝食を作ろう。

 今日は休日だが、両親は旅行に行っているので家にいない。

 いや、旅行じゃなくてフィールドワークだったけ……?

 

「どっちでもいいや……うん?」

 

 寝起きの頭をかきながら、不意に匂いに気がついた。これは、味噌汁だろうか?

 

「泥棒が味噌汁を……それは泥棒なのか?」

「随分お寝坊さんですね。もう10時30分ですよ? 家で1人なのに、そんなゆっくりで良いんですか?」

 

 扉が開かれ、見た事ない小さな娘がこちらを見ていた。白い髪に紫色の……チャイナ服だろうか? 

 

「えーっと……どちら様で?」

「ええ……マスターさん、酷い……召喚した私の事、忘れちゃったんですか? 」

 

「召喚? マスター……あぁーそっかそっか、サーヴァントの人かぁ」

 

 ちょうど良いタイミングで来てくれた。

 

「ごめんね、何時もうたた寝しながら遊んでるからストーリーとかあんまり覚えてないんだ。えーっと、自己紹介して貰っても?」

 

(え? この人本当に私の事知らないんですか? あの大奥の事も? 

 ……もう酷過ぎてドン引きですけど私は愛せますし、寧ろ今日の目的には知らない方が都合が良いですね)

 

 何か凄いジト目で見られている様な……

 

「では簡単な自己紹介を……私はカーマ、クラスはアサシンです」

 

「カーマ、カーマ……うん、覚えた」

 

「そうですか。

 では、マスターさんの為に朝食をご用意しましたので食べて下さい」

「ありがとう」

 

 と言いながら俺は先ず顔を洗う為にトイレに向かった。

 

「……ふぁぁ……」

 

 いけない、いけない。

 サーヴァントの人がお世話に来てくれた安心感で眠気が……頬を軽く叩いてから朝食を食べる為に食卓に着いた。 

 

「はい、味噌汁とご飯、それと鮭です」

「いただきます」

 

 俺は食べ始めるが作った本人であるカーマは、やはり他のサーヴァントの人同様に食事は不要な様で、こちらを見てはいるがご飯に手を伸ばす事は無いようだ。

 

「それでマスターさん、今日の予定とかあるんですか?」

「うーんと、洗濯と買い物……」

 

「それは全て私がやりましたよ?」

「え? 本当?」

 

 ベランダへと視線を向けた。確かに洗濯物が干してある。

 そしてキッチンには昨日母親に頼まれたトイレットペーパーが置いてある。普段から使っているのと同じだ。

 

「お金は?」

「手持ちがありましたので、払っておきました」

 

 助かるなぁ……あれ、でもサーヴァントの人って他の人に見えなかった様な?

 

(まさか愛の神の私が気を惹く程度の矢しか放てないとは思いませんでしたが、矢で買い物させた後にトイレットペーパーをひったくりに盗ませて転ばせ、ゴタゴタの内に回収出来たので問題ないですね)

 

 どうやって買ってきたか考えると眠くなるのでやめておこう。

 

「ありがとう、凄い助かるよ」

「いえいえ、愛の神である私にかかれば何の問題もありません」

 

「え、愛の神なの?」

 

(食い付きましたね? ふふ、この年頃の男なんて色恋沙汰に悩む時期でしょう? 私の力が欲しいですか?)

 

「それは大変だね」

「……え?」

 

 愛の神だと言った彼女を僕はもう一度良く見た。

 

(あの年でウェディングプランナーなのかな? それとも恋愛相談とか? 

 でも愛の神だから……あ、キューピッドなのかな? 翼があって裸で弓矢を撃つ……あ、だからあんなに薄着なんだ)

 

(な、何故あんな同情的な視線を……? もしかして、何か愛に苦い思い出が? いえ、アレは私を哀れんでいる目……?)

 

「大丈夫だよ。毛布は沢山あるからね」

「??」

 

 その後、カーマの用意してくれた料理を食べた俺は食後の歯磨きの後、自分の部屋に戻ってきた。

 

「それで、食事の時も聞いたんですけど今日の予定は……?」

「無いよ? あ、買い物と洗濯、ありがとう。本当に助かったよ」

 

 うっかり頭を撫でてしまったが、まあいいか。嫌な顔はしてないし。

 

「じゃあ、俺寝るね」

「……え? 冗談ですよね?」

 

「ううん、寝るよ? 休日だしゆっくり休みたいなぁ……あ、カーマも寝る? 布団出すよ」

「……え、えぇ……?」

 

 何故か戸惑っている彼女の為に俺は押し入れから布団を取り出し、毛布も2枚出した。

 

 枕も綺麗に置いて……よし、寝よう。

 

「遠慮しないで寝ていいよ?」

「そ、それでは……」

 

(あぁ、そうか。このロリコンさん、起きてる私に手を出すのが怖くて眠っている最中に襲おうとしていますね?

 ふふふ、良いでしょう。愛の神である私を襲おうだなんて愚かな人間でも私が愛してあげましょう……)

 

 カーマは目を閉じて寝たようだ。うん、折角だから一手間かけよう。

 そう思いすぐ横のテーブルに手を伸ばした。

 

(それにしても、そこらの人間にしては随分良い布団ですね。毛布柔らかさも申し分ないですし…………ん? これは、ラベンダー……?)

 

 

 その後、いくら待とうが襲ってこない陽日を待つ内に、買い物に魔力を使ったカーマも気付かず内に睡魔に誘われ眠っていた。

 

 

「……っは……ね、寝てしまったんですか、私が……?」

 

 4時間後、カーマは普通に起きた。布団も毛布も乱れた様子はなく、当然衣類は無事だ。

 

「……えぇ……ちょっと待って下さい。何もかも想定外です。

 自堕落なマスターと思っていましたが私に手を出さないとかどうなっているんですか? 枯れてるんですか?」

 

「すぴぃ……ぐぅ……」

 

「しかも……遅く起きた筈なのにまだ寝てますし……熟睡ですねこれ」

 

 こうなったら愛の神らしく自分から襲ってやろうかと考えるが、それは短絡的だと思い直す。

 

「此処は当初の予定通り、私が甲斐甲斐しくお世話をしてこの自堕落人間を更に駄目な人間にする必要がありますね……」

 

 幸い、現界が終わるまでまだ時間はある。なので彼女は早速、掃除を始め、夕飯の準備も開始した。

 

 そして料理が出来上がると部屋まで料理持って行った。

 

「マスターさん、ご飯ですよ」

「んぁ……うん、食べりゅ……」

 

 フォークで運ばれたご飯を陽日は何の警戒もせずに食べ、その様子にカーマはほくそ笑む。

 

 元々、出来る事なら極力動くのを嫌う陽日にとってカーマは願ってもない存在であり、彼女の行動に感謝すれど疑う事は無い。

 

(チョロ過ぎですね。ふふふ、このままお風呂に誘導して骨抜きにしてあげましょう……!)

 

「ありがとう、美味しかったよ」

「っ……いえ」

 

 礼を言いながら頭を撫でた陽日は立ち上がり、皿を持っていこうする。

 

「あ、食器も私が洗います! マスターさんは待っていて下さい」

「そう? 何から何までありがとう」

 

(ふふふ、精々今の内に子供扱いしてて下さい)

 

 しかし、台所まで食器を持っていたカーマが部屋に帰るとそこには陽日の姿がなかった。

 

「あれ? マスターさん?」

「んー呼んだ?」

 

 返事をし、後ろから現れた陽日は濡れた髪をタオルで乾かしていた。

 

「……お、お風呂、入ったんですか?」

「? うん。流石に、汗かいちゃったし」

 

 予想外の入浴にカーマは内心ショックを受けていた。まさか自分の行動を先読みされたのかと疑いの表情を浮かべる。

 最も陽日にはそんな気は一切無いが。

 

「あ――」

 

 しかし、そこで時間切れ。

 カーマの体は消え始めた。

 

(まぁ、現界のシステムを弄ったので後数日間は私のターンですし、まだまだ私も本気じゃありません)

 

「え、大丈夫? なんか薄くなってるけど……」

「ええ、今日はここまでです。ですが、明日もまた来ますので、マスターさんのお世話をさせて下さい」

 

「ん、分かった。今日はありがとう」

 

 

 

 次の日、普段通り学校があった陽日は授業が終わると帰宅部らしく最速で家に帰ってきた。

 

「はぁ……真面目にするのって疲れるな」

 

 だが家のドアノブを握った瞬間、彼は笑みを浮かべた。これでようやく寝るからだ。

 

「ただいまー」

「お帰りなさい、マスター」

 

 普段の習慣で言っただけの挨拶に返事が帰って来ると思わなかったので、少し目をパチパチさせたが昨日見たその幼い姿を思い出した。

 

「あー、えーっと……カーマ?」

「はい、マスターのサーヴァントのカーマですよ? 今日もお世話させて頂きますね」

 

 予想外、と言うかすっかり忘れていた彼女のお出迎えにちょっと嬉しくなった。

 家に着いたら宿題をする前に仮眠を取るのが彼の日課だが、今日は家事を考えずに済むのでいつもより多く寝れそうだ。

 

「まあ、もう掃除も洗濯も終わってるんですけどね」

「あ、そうなの? 本当にありがとう」

 

 相変わらず子供だと思っている陽日は彼女の感謝しながら頭を撫でる。

 

(本当に子供だと思っているようですし、私の本性を知ったらどんな顔をするか、見物ですね)

 

「それじゃあ俺は寝るけど」

「なら、私も寝ます」

「ん、布団出さないとね」

 

 その言葉にカーマは笑顔で提案をした。

 

「その必要は無いですよ」

「ん?」

「膝枕は、要りませんか?」

 

 徐々に距離を詰めようと、カーマがそう提案すると陽日は首を横に振った。

 

「……抱いていい?」

「っ!? え、えぇ! 構いませんよ!」

 

 予想外の言葉に少々面食らったカーマだが勝利を確信してその誘い応じ、そして落胆した。

 

「……ん……」

「だ、抱き枕ですか……いえ、流石に飛躍し過ぎだと思っていましたし、ある意味納得しましたが……」

 

 密着したまま寝た陽日に呆れつつも、カーマは結局自分からは何もしない。

 

(……とは言え、まだまだ依存が足りていませんね。仕方ありません。明日は朝から会いに来ましょう)

 

 休日だった昨日とは違い、2時間半の仮眠を取った後陽日は目を覚ました。その間、カーマを放す事は無く、彼女も陽日の腕の中から出ていく事はなかった。

 

「よし、宿題しよう」

「宿題、ですか?」

 

 椅子に座りノートと向かい合う陽日を見てカーマはもう1つ彼を堕落させる方法を見つけ、ほくそ笑んだ。

 

「では、それも私が――」

「あ、これは俺がやるから良いよ」

 

 しかし、意外にも断われた上で頭を撫でられた。

 

「え、遠慮しなくても良いんですよ?」

「いや、勉強はしっかりしないと母さんにも父さんにも申し訳が立たない」

 

 そこに初めてしっかりとした陽日の意思を見たカーマは説得を諦めた。

 

(つまり、アレを任せてしまう程に堕落させれば良いんですね)

 

「それじゃあ料理を……」

「あ、今日は母さん達が帰って来るから大丈夫」

 

「そう、ですか……」

 

 両親にはカーマの姿は見えないとはいえ、帰ってきてしまえば物を動かすのも難しくなる。

 

 別に物を動かしているのが見つかっても幽霊扱いされ騒がれる程度で仮に陽日が説明しても妄想、幻覚と思われるだろう。

 

(これでは一緒に入浴するのも難しいですね……)

 

 カーマは消えたフリをして監視に徹する事にした。生活の中に彼を堕落させるヒントがあるかもしれない。

 

(そもそも、あんな自堕落人間の両親なんて、一体どんな……)

 

『ただいま!』

 

 30分後、玄関から聞こえてきた挨拶に気配を消して両親の姿を見に向かった。

 

 そこにいたのは機能性と動きやすさを重視した服装とパンパンに膨らんだバックを背負った男女だった。

 

「ようちゃーん! たーだーいーまー!」

「陽日、元気にしてたかぁ!」

 

(うるさい……)

 

「うーん、元気だよ」

 

 部屋から出て返事を返した陽日。表情は若干呆れつつも嬉しさを含んだ物だ。

 

「そうかそうか! 今回もお土産沢山持ってきたぞー!」

「ごめんね、直ぐにご飯作るからね! ちゃんと食べてる?」

 

「お土産ありがとう。うん、食べてる」

 

 意外な事に、陽日の両親は国内国外問わずフィールドワークで活躍する名の有るカメラマン夫婦だった。

 

「よっし! 陽日、母さんの料理が終わるまで一緒に風呂に入るか!」

「うん」

 

「ようちゃん、何食べたい?」

「今回の現地の料理で」

 

「そうだ、写真を見るか! 父さん、今回も旅先の可愛い娘の写真いっぱい撮って……あ、母さん消した!?」

「はっはっは……何の事でしょう?

 あ、ようちゃん、猫の写真を見ましょう」

 

「甘いな、母さん! この16号機にも……あ、こっちはメモリーカードが無い!?」

「あ、今日の朝燃えないゴミと一緒に捨てたかも」

 

「母さーん! おのれ、かくなる上は旅先で買った本を――」

 

 

「――……あの」

「……んー?」

 

 ベッドに倒れ込んだ陽日にカーマは少し申し訳なさそうに聞いてみる。

 

「抱き枕、要りませんか?」

「んー……今日はいいや」

「そ、そうですか……」

 

 帰ってきた騒がしい両親の相手で疲れに疲れ切った陽日はもはや何かする力は残されていなかった。

 

 抱きしめられ、喋り続けられ、学校でも使わない量のカロリーを消費した。

 彼の眠りの理由には間違いなくあの両親のスキンシップが一因であった。

 

「別に、アレを鬱陶しいとか思った事はないけど、流石に参っちゃうなぁ」

 

 陽日の弱音にカーマはそうですよね、と同情のフリをする。

 同時に、陽日へのアプローチを考え直していた。

 

(困ったのはこちらです。あの愛、ベクトルこそ違いますが重い上に、それにマスターさんが応えようとして縛られています)

 

 しかし、当の陽日は全く別の事を考えていた。

 

(母さんと父さんが煩くて寝られない……とは言えないよなぁ。

 ……でも勉強は真面目にしないとベッドのグレード下げられちゃうから頑張らないとな)

 

(うーん……与える側にさせるべきでしょうか? ですが、それは私の得意分野ではありませんし、仮に矢を使うにしても魔力が全然足りませんね……)

 

「では、私はもう帰りますね」

 

「うん、またねぇ……」

 

 その後、数日に渡ってカーマは現実に現れ両親の目のない所で陽日を依存させようと家事を手伝い、膝枕や抱き枕をし続けていた。

 

「よしよし」

「子供扱い……いえ、別に良いんです」

 

 2日経っても5日経っても、良く働くカーマを陽日は頭を撫でて礼を言うが、勉強を任せる事はしないし、手を出す事も無い。

 

 寧ろ、学校の帰り道にお菓子を与えたりジュースを出したりと礼に関しては余計動く様になってきた。

 

「あ、うまい棒とかチョコバットあるよ、食べる?」

「食べます」

 

「……なんか、変な食べ方してない?」

「ん……れろ、なんのことれふか?」

 

 逆にカーマは徐々に焦りの混じった苛立ちを燻らせていた。最初から自堕落な人間にも関わらず性欲が無いのか、一切性の片鱗すら見せない陽日。

 

 数日前の彼女ならそんなマスターですら愛してみせると涼しい顔をしていたのだが、連日の現界でヤンデレ・シャトーを利用し続けたせいで、遂に愛を司る筈の霊基にすらその病みの影響が出ていた。

 

 

 

(……今日は、ご両親は不在ですね。騒がしいのがいない今が好機です。子供っぽいお菓子なんかではその場しのぎにもなりませんからね……?)

 

 カーマは今日も現れた。

 

 クロエやイリヤはこんなに頻繁には現実には現れなかったので少々おかしい気がするけど、でも彼女だけなら騒がしくなく寧ろ家事全般をこなしてくれて大助かりだ。

 

 なのに、何もお返ししないのは流石に夢見が悪いので最近はお菓子とか買うんだけど女の子は好みはよく分からない。

 

 なので幼馴染でお隣さんのカナエを頼って今日はケーキを買って来た。幸い、家を開ける前に両親が持て余す程のお小遣いを残して行ってくれるので適当に3種類買って来た。

 

「ただいま」

「お帰りなさい、マスター」

 

 うん。今日も家にはホコリ一つない。その真面目さには感心する。

 

「マスター、今日は――」

「ケーキ買ってきたけど、食べる?」

 

「――! た、食べます……」

 

 キッチンの机でケーキを食べる。ショートケーキを美味しそうに食べるカーマにホッとしつつ、まだチョコケーキの入った箱をカーマの前に食べて良いよと置いておいた。

 

「よし、一眠りしよう」

 

 俺は部屋に入って寝る事にした。糖分を摂取したせいか直ぐには寝れないが、後もう少しで……

 

(……ん? カーマか?)

 

「……マスター、もう寝てるんですか?」

 

 返事をするのも面倒な程に睡魔が近いので何も返さないでおこう……

 

「……また、私を避けるんですね? そんなに私の愛がいりませんか?」

 

(あぁ……そっか、この娘もか……)

 

 俺はちょっと納得した。納得したので寝た。ヤンデレの相手はしない方が良い。

 

「そんなに寝たいなら……私がもっとよく寝れる場所をご用意しますよ……私の宇宙を」

 

 ……体が、ふわふわ浮いている感覚。外気と自分の体の温度が全く同じになったみたいな……

 

(ハンモックみたいだな……)

 

「マスターのベッドだけ、私の空間です。此処でなら、マスターのどんな欲望でも願いでも、叶えてあげます……さあ、私に見せて下さい」

 

 カーマが俺の手に触れた。

 小さく柔らかな膝が俺の頭に現れた。

 

 続いて寂しかった手に小さな体がやってきた。ぎゅっと抱きしめながら寝る。

 

(う、ん……もう、完璧だなぁ……)

 

 次第にラベンダーの匂いも鼻をくすぐり始めている。

 

「……嘘でしょう? 一週間かけて集めた魔力で再現した宇宙なのに……マスターは変わらず睡眠ばかり……!!

 も、もっともっと深い所にある欲望を……!」

 

 俺の脳裏にキッチンを綺麗にしてくれるエプロン姿のカーマが思い浮かぶ。

 別のカーマはきちんと服を畳んでくれている。

 美味しそうな料理を作ってくれている。

 

「っぐ、ま、不味いです……! もう魔力が……も、もっと欲望を! きっと、私を求める願いがある筈です!」

 

 そして、俺の横にカーマが現れた。

 

「き、来ましたか……! ようやく……! でも、もう維持できない!」

 

 しかし、その姿はすぐに消えた。

 

 なので俺は、手を伸ばした。

 

 ――本物のカーマに。

 

「……え?」

「ありがとう、カーマ。でも、もうそんなに頑張らなくて良いよ」

 

 俺は彼女を抱きしめた。途端に睡魔が襲ってくる……けど……一言位……寝言…………

 

「……力を抜いて、寝る時くらい、自由に……ぐぅ……」

 

「――」

 

 

 

 

 

 それからカーマは現実に現れなくなった。

 なんか妙な力を使ったのでその代償かもしれない。

 

「マスターさん! 今日は耳かきしてあげるね?」

「イリヤにそんな事やらせたら耳の穴が増えちゃうわよ? 私が耳舐めでマスターを綺麗にしてあげるわ」

 

「うーん、膝枕で……」

「えー、今日も?」

「抱き枕は要らないのかしら?」

 

 だけど――

 

「――イリヤさんとクロエさんですか……マスターさんはおねむなのに、耳元でうるさくしちゃ駄目じゃないですか」

 

 夢には現れる様になった。

 

「あー! マスター、また小さい娘を増やしたわね! このロリコン!」

「うーん、ガチャの結果でレッテル貼りされたー……悪夢だなぁ……」

 

「可愛そうなマスターさんですね。ふふふ、仕方ありません。まだまだお子様な御二人に変わって、私がお相手しますね?」

 

 そう言うとカーマは、随分と成長した姿になった。

 

「……胸枕?」

「女体を枕としか考えない辺り本当に最低ですね…………なら、抱き枕は如何ですか?」

 

「……え、その胸で?」

「なんですかその信じられない物を見た顔は! どうせだったら一回位試してみますか?」

 

「駄目です! ロリコンで童貞のマスターさんは小さい娘との抱き枕じゃない安眠出来ないんです!」

「ほら、頷きなさい! 今すぐに!」

 

 いつにも増して二人のセリフが辛辣だ。

 

「……うーん、取り敢えず、元に戻ってくれる?」

「分かりました」

 

 案外あっさり戻ったカーマを俺は抱き抱えた。

 

「うん、これくらいがちょうど良い」

「掛かりましたね?」

 

 すると、カーマの宇宙が俺が寝ていたキングサイズのベッドまで拡がった。

 

「あ……体が……!」

「な、何よこれ!?」

 

「ふふふ、夢の中なら制限時間もありません。マスター、ほら貴方の望みを――」

 

「あーそこそこ……」

「此処ですか?」

 

 カーマの指が背中を突く。以前、母さんがツボ押しマッサージをされた時はよく寝れたと言っていたので、早速カーマの分身にお願いしてみた。

 

「もうちょっと強く……痛くしないで」

「我儘ですね……はーい、力抜いて――って、もう抜け切ってますね」

 

「……あの、マスターさん?」

 

 マッサージをしていない方のカーマが何か尋ねてきた。

 

「うーん……?」

「もしかして、それがあの時の最後の望みですか?」

 

「そうかもねー」

 

 あれ? マッサージの話を聞いたのは昨日だったけ……? 

 

「…………ふふふ、良いでしょう。ここまでコケにされたのは本当に貴方が初めてです。愛の神の力で、必ず堕ちて貰います」

 

「ちょっと! この格好は何よ!?」

「わっわっ!? い、いつの間に!?」

 

 うーん……流石にクロエの黒いボンテージとイリヤの白い猫耳と首輪にはちょっとドン引きするよ。

 

「ああ、クロエさんってそんなに支配欲の強い方だったんですね? イリヤさんはメス犬なんてはしたない格好を……それが貴女達の望みですか?」

 

「っぐ……この!」

 

 突然、クロエの周りから剣が何本も現れカーマへと向かっていく。

 

「危ないですね……!」

「マスターさん、危ない!」

 

 イリヤが叫んだが、俺へと飛んできた剣はマッサージをしていたカーマが受け止めた。

 

「こうなったらここにいる全員斬って私の一人勝ちよ!」

「わー、なんて身勝手な……ふふふ、そんな愛で私に勝てるとでも……?」

 

 ……あ、俺の近くのカーマが3人に増えた。うん、2人で守ってくれるのか。頭撫でるから頑張って。

 

「……ちょっと、マスターさん? 私の分身とイチャイチャし過ぎじゃないですか?」

「その怒り方は理不尽過ぎない? 自分で出したよね?」

 

 自分で自分に嫉妬する彼女の姿にヤンデレの闇を垣間見た気がする。

 

『よし、準備オッケーですよイリヤさん! 恋敵共を一掃しましょう!』

「よっし、いっくよ――」

 

 このイリヤの放った一撃で俺はカーマの宇宙の何処か遠くまで飛ばされる事になるのだった。

 

 まぁ、何処に行ってもカーマの分身がいるから眠るのには困らないけど。

 




次回はツイッター側を投稿します。楽しみにお待ち下さい。

また、まだ投稿されていない当選者の方はストーリーや登場キャラの変更も受け付けますのでメッセージでお送り下さい。

4章楽しみですね。虚無期間なんて呼ばれてますが、フリークエストや幕間、強化クエストで石を貯めながら待ちましょう。

そろそろ新しいヤンデレサーヴァント来ないかなぁ……
いえ、シャトーに放り投げれば全員ヤンデレですけど。

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