ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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大変お待たせしました。3周年企画3回目は デジタル人間 さんです。

3週間もお待たせして本当に申し訳ありませんでした。

今回はまた毛色の違うマスターの登場です。


小学四年とヤンデレ・シャトー 【3周年記念企画】

 

「ただいまー」

 

 玲兄ちゃんの声が聞こえてきた。俺はソファーから顔を上げて返事をした。

 

「おかえりー!」

 

「おう、真か。宿題は終わったか?」

「うん。今ストーリー進めてる」

 

「なんだ、まだ終わってないのか?」

「しょうがないじゃん。兄ちゃんと違ってレアなサーヴァントそんなに持ってないんだから。それに、俺はもう小学4年生だから、クラブとかで忙しいんだよ」

 

 兄ちゃんはFGOで一番レアなキャラを沢山召喚してる。俺はまだ3体位しかいないのに。

 

「あー、そういやそうか。何クラブだっけ?」

「アウトドアクラブ」

 

「アウトドアか……俺はソフトボールとかだったなぁ」

 

「知ってる。先生がよく兄ちゃんの打った球が校庭の外に行って大変だったって言ってた」

 

 やっぱり兄ちゃんの力は何かおかしい。でも、兄ちゃんは優しいから怖くない。

 

「一回、車にぶつかって先生と一緒に謝りに行った事もあったか……まあいいや、母さんは?」

 

「母さんはスーパーに行ったよ」

「んじゃあ、今の内に風呂にでも入ってくるかぁ」

 

 そう言って自分の部屋へと向かった兄ちゃんから目を放して、俺はゲームの続きに戻った。

 今日の夕食はなんとなく回鍋肉な気がする。

 

(まぁ、冷蔵庫にキャベツがあるってだけなんだけどね)

 

 けど、俺の感は当たって今日は回鍋肉だった。

 

「玲、学校は? 喧嘩は?」

「別にしてないし」

 

 仕事で帰りが遅い父さん以外の家族で集まり、囲む夕食の時間には母さんと兄ちゃんの会話が流れる。普通じゃない程強い兄ちゃんも、母さんの前では大人しい。

 

「……ん、ごちそうさま」

 

 2人の話は長くなりそうなので、俺は先に机を離れて自分の部屋に戻り、明日の準備をしておく。

 

 兄ちゃんと一緒にゲームをすると少し寝るのが遅くなるので、今の内にちゃんとしておかないと。

 

「……スマホは目覚ましが聞こえる様に枕元に置いておこう」

 

 ……? 何だろう? 何か嫌な感じがする……?

 

「真! スマブラするぞ!」

「うーん! 今行くー!」

 

 

 

「……あれ、此処何処?」

 

「む……?」

 

 急に全く知らない景色にいた。

 辺りを見渡すけど、なんだか暗くてよく分からない。

 

(あれ……寝た、よね? え、誘拐された……!?)

 

「こんな小さな子供が、此処に来るとはな」

「……! え、あ、アヴェンジャーのサーヴァント……!?」

 

「子供とはいえ、マスターでは間違いないようだな……おい、ゴルゴーン! どうなっている!」

 

 FGOで見た事がある黒いマントに白い髪の人は、暗闇に向かって声をかけた。

 

「知らん。条件を満たしたマスターの反応があったから呼び出したまでだ」

「子供は対象外だと説明しただろう……仕方あるまい」

 

 なんでか喧嘩しそうだったけど、マントの人がこちらを見た。

 

「お前には悪いが、此処はヤンデレ・シャトー。夢の中に現れる監獄塔だ」

「やん、でれ……?」

 

 何ですそれ?

 

「まぁ、お前がマスターとして一緒に戦ってきたサーヴァントに会える場所……とでも言うべきか」

「え!? 本当!? ジャンヌ・ダルクとかBBに会えるんですか!?」

 

((よりによって何でそいつらなんだ……))

 

「でも、やっぱり一番は最初の星5のライ――」

 

「――いや、残念ながらお前の会えるサーヴァントは1騎だけ。そして既に決まっている」

「へー、誰かな?」

 

「そいつと適当に過ごしていればこの夢も終わる。まあ、精々楽しんでいけ」

 

 言い終わるとマントの人は何処かへ行ってしまった。

 

 

「……此処は本来、そんな生易しい場所ではなかろう? 説明しなくてよいのか?」

 

「サーヴァントとて、此処でなら多少の手心は加えるだろ。仮に受けた精神的ダメージが大きければ、記憶には残らず、コチラに二度と戻っては来ない。

 そもそも、元を辿れば貴様が原因だ」

 

「ふん……」

 

(今日を無事に乗り越えれば……ふふふ、我とて、選り好みの権利くらいあっても良かろう?)

 

 

「……こ、今度は何処……?」

 

 俺はキョロキョロと辺りを見渡した。夢の中だからだろうか、長い机が段差段差で並べられ、その先に教壇がある。

 行った事は一度もないけど、アニメや映画に現れる大学の教室みたいだ。

 

「此処は時計塔の教室を真似た空間だ。私と君の為のな」

 

 聞こえてきた声に驚きながら教壇に目を向けた。そこには先まで誰もいなかった筈なのに、金髪で青い服の女の人が立っていた。

 

「――」

 

「――どうした我が弟子? 普段よりも小さい気もするが……」

「ライネス、師匠……!?」

 

 FGOに登場したライダークラスのサーヴァント、ライネス師匠だ。

 俺が一番最初に召喚した星5のめっちゃ強いサーヴァントだ。

 

「本当に、ライネス師匠だ……!」

 

 俺は嬉しくなって階段を小走りで下りて師匠の元に急いだ。

 

「あ――」

 

 しまった。急いで降りていたら体が前のめりに倒れて――

 

「――トリムマウ!」

「かしこまりました」

「うわ!?」

 

 地面にぶつかる前にひんやりとして柔らかい何か――水銀がメイドの姿をした魔術礼装、月霊髄液のトリムマウに抱きとめられていた。

 

「全く……危なっかしいぞ我が弟子。

 まさか、あの落ち着きのあった君の正体が子供だとはな……」

 

「大丈夫ですか?」

「うん、ありがとう! トリムマウって、ひんやりしてて柔らかいだね」

 

「全く、別の意味で目が離せないな」

 

 改めてトリムマウに触ってみる。水銀って学校だと危ないから試験管の中でしか見たことが無かったけど、トリムマウはまるでスライムみたいで、少し指で押すと金属の硬さを感じられる

 

「わー……!」

「私の体が気になりますか?」

 

「――トリムマウ!」

 

 師匠が呼ぶとトリムマウはスライムみたいな、半球体状に変化した。

 

「全く……師匠の私が話している時は弟子の君はこちらを見るべきだろう?」

 

「ごめんなさい……」

 

 ライネス師匠は怒っているようだ。もちろん、トリムマウに夢中で話を聞かなかった俺が悪かったのでちゃんと謝ろう。

 

(トリムマウめ、私を差し置いてイチャイチャするんじゃない。全く、まだまだ教育は必要か)

 

「でも、ライネス師匠に会えて嬉しいです!」

「私もだが、その台詞は出来ればもっと早く聞きたかったぞ?」

 

 まだちょっと機嫌が悪そうだ。

 

「ごめんなさい」

「ん、もう良い。あまり気安く頭を下げるな。確かに私は君の師匠だが同時にサーヴァントでもある。

 そんな調子では他のサーヴァントに示しがつかないだろう」

 

 そう言ってライネス師匠は俺の手を握った。

 

「行くぞ」

「え、何処にですか? それに、なんで手を」

 

「また転んだりしないためだ。

 そして行き先は……私の部屋だ」

 

 そう言ってライネスさんは丸い形状のままのトリムマウを先に行かせて俺の手を掴んで歩き出した。

 

 教室を出ると、その先には学校らしくない明るい高級感のある廊下が続いていた。

 

「どうも時計塔の教室らしき場所と私の廊下が繋がっている様だな」

「これ、ライネス師匠の家なんですか?」

 

「そうだ。まあ、夢なので多少の変化はあるが……此処だな」

 

 扉を開くとそこには部屋があった。

 だけど、俺の知っている部屋とは違う。何だろう、本が多いとか高級そうな物が一杯だとかそんなんじゃなくて……危ない気がする。

 

「ライネス師匠?」

「どうした?」

 

「此処の本って危ないんですか?」

「いや? そこは特に危険は魔導書とかは入れてはいないが……どうかしたか?」

「あ、なんでもないです!」

 

(……まさか、本棚の裏の隠し部屋に気が付いたか? 調教用にと面白そうな物を詰め込んだが……いや、そんな訳が無い。恐らく、直感の類いか)

 

「まあ、魔術師とも成れば簡単には明かせない秘密もある。もっとも、弟子の君に見せるのは何の問題もない。見たいかね?」

 

「え、遠慮しておきます」

 

「そうか。懸命だな」

 

 ライネス師匠の意地悪そうな顔に断って良かったと胸をなでおろした。

 

「さて、少し話をしよう。私に君の事を教えてくれ」

 

 ライネス師匠がそう言うと、トリムマウが部屋の扉を閉めた。

 

「え?」

 

「何を驚いている? 君の名前、好きな物、嫌いな物、私の事をどう思っているか、私の他に好きなサーヴァントがいるか……この機会に是非とも教えてくれたまえ」

 

「う、うん……良いですけど」

 

 何で部屋を閉めたんだろう? 聞こうと思ったけど、ライネス師匠がニコニコと笑いながら椅子に座ってしまったので聞くタイミングが失くなり、そのまま自己紹介を始めた。

 

 しきりに頷く師匠の裏では、メイド姿のトリムマウが何か忙しそうに手を動かしている。

 

「私以外に好きなサーヴァントなど、いるのか?」

「勿論、ライネス師匠が一番です! だけど、他の人のジャンヌ・ダルクが最初の頃すっごい強かったから最近来てくれたジャンヌも強くなって欲しいし、すっごい難しいイベントをクリアして手に入れたBBちゃんにも会いたいです! 師匠みたいな悪戯好きみたいだし、きっと仲良くなれると思い――」

 

「――ほほうぅ……? 弟子の分際で師匠を理解したつもりか? そんな生意気な口はこれか?」

 

 ライネス師匠に両頬を掴まれ引っ張られる。痛いです。

 

「ほいまへんでひたぁ……」

「全く……覚えておけ。私と似た奴などろくな奴ではないぞ」

 

「……でも、師匠は良い人ですよね?」

 

 痛む頬を抑えながらそう言うと、師匠はなぜか笑顔を隠す様に黙った。

 

「……ふぅ、君は一々こちらの毒気を抜いてくるな。トリムマウ、お茶を」

「かしこまりました」

 

 暫くするとトリムマウがお茶と、オレンジジュースを運んで来てくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「それを飲んだら、師匠らしく魔術の授業と行こうか」

「本当ですか!?」

 

 魔術! 難しい事は分からないけど、ゲームに出てくるガンドとか、マスタースキルの事?

 

「慌てるな。まあ、すぐに使える筈も無いだろうから期待はそんなにしない事だ」

 

 

 

(と、思ったのだがな……)

 

「師匠! ガンド出ました!」

 

「ああ、そうだな……」

 

 俺の指鉄砲から魔力の弾が飛び出てて、師匠の用意してくれた的に命中すると穴を開けた。

 

(おのれカルデア礼装……! 魔術が使えなくてがっかりする弟子にある事無い事吹き込む私の目論見を……!)

 

「瞬間強化は体が軽い! すっごい!」

 

(あーもう、可愛いな我が弟子は! あんまり跳ね続けると加減を間違えて天井に頭をぶつけるぞ? ふふふ、その時は頭を撫でてやろう……)

 

「……師匠?」

「ん、何かな?」

 

「そろそろ離して下さい……」

 

 瞬間強化で飛んでいたら急に抱き締められ、無言で撫でれられ続けるのは恥ずかしいのでボソボソとライネス師匠にお願いした。

 

「おっと、すまない……気をつけたまえ。身体能力を強化する魔術は加減を間違えるとあらぬ方向に体が動いて大怪我をするかもしれん」

「はい、気を付けます」

 

(危ない危ない。知らない内に弟子を我が物にしようと……ん? いや、そうか……師匠である私がそれをするのに何の問題がある?)

 

「よっし、次はこの魔術を――」

「――こっちを向け」

 

 呼び掛けられ俺は止まった。振り返った先で師匠が真顔でこちらを見つめていた。

 

「? 師匠?」

「よーし、良い子だ」

 

 一瞬、師匠の瞳に赤っぽい光が現れて消えた。

 

(……あれ……頭がモヤモヤする……)

 

 一度目を擦ってから師匠を見るとこちらを見て笑っている。漸く理解した。

 

(あ――そうか)

 

「イシスの雨!」

「なっ――!?」

 

(イシスの雨の練習ですね! 流石ライネス師匠!)

 

 と思っったら、ちょっとの間黙ったままの師匠は急に俺に背を向けると部屋の扉を開けた。

 

「少し席を外す」

「あ、はい」

 

 

 

(カルデア礼装……! いや、最後のあれはアトラス院だったが、そんな事は関係ない! 良くも小さな我が弟子にメガネなんぞ付けさせたな!?

 そんなもの、可愛いに決まっているじゃないか!

 く、いかん……この塔だとどうも普段の調子が出ない。だが、私が翻弄されるのは性に合わないし気に食わない……)

 

 弟子を可愛がってやろうとしても、流石にあの歳の少年では少々気が引ける……いや、この思考は恐らくこの私らしくもない感情のせいか?

 

「ふぅ……落ち着くまで少々弟子と距離を――ん?」

 

『真様』

『? どうしたのトリムマウ?』

 

 トリムマウの妙な動きを感知したので視覚を共有する。

 急に目の前に現れたマスターの顔に少々ドキっとする。いや、そもそも距離が近過ぎないか?

 

『っ!? な、何!?』

「な、何を抱き着いている!?」

 

『すみません、真様を見ているとどうも抱き締めたくなってしまいました』

 

『あ、あの……離してくれますか?』

『……もう暫く、こうさせて下さい』

 

 そのまま数秒間、トリムマウが我が弟子に抱き着いたまま時間が過ぎていく。

 

『……ねぇ、どうして抱きしめるの?』

『此処ではお嬢様との繋がりが強くなります。ですから、自然とお嬢様のしたい――』

 

「――我が弟子よ、真面目に練習しているか!」

 

 部屋に入ると同時に声をかけ、トリムマウを発声できない形状に変化させる。これ以上私の作り上げた師匠像を壊されては堪ったものではない。

 

「は、はい!」

「なんだ、私に隠れてトリムマウと談笑でもしていたか?」

 

「……はい」

「素直でよろしい。随分余裕がある様だな」

 

「一通り使いましたけど……」

「そうか……」

 

 …………では、私の手を遮る物はもう何もないな?

 

「……? ライネス師匠――」

「動くな。不慣れな催眠の魔術が外れてしまうだろう?」

 

 私の瞳の中で弟子の顔が驚きに染まり、見たかったその表情に思わず笑みが溢れる。

 

「――っうぁ……」

「っと、うむ。成功だ」

 

 目を閉じて倒れる弟子の体を支えながら私は本棚へと目をやった。

 

「トリム――いや、此処に残っていろ。全く、危うく私のイメージが欠片も残さず消え失せる所だったな」

 

 

 

「……ふぁぁ……此処、何処?」

「此処は君と私だけの秘密の部屋だ」

 

 知らないベッドの上で目を覚ますとライネス師匠が目の前で微笑んでいるけど、ちょっと怖い。

 

「……師匠、一体何を……?」

「ふふふ、怯えるな。まだ何もしていないぞ?」

 

「まだ……?」

「そう、まだだ」

 

 辺りは暗いけど、変な薬瓶や怖そうな金属製の道具が並んでいる。

 

「そう緊張するな。我が弟子、お前はとても良い子だ。ただ、その優しい心は私に向けて欲しい」

 

 よく分からないけど、俺はその言葉に頷いて返事をした。

 周回とかでずっと使って無理をさせてしまったのだろうか?

 

「う、うん。もっと師匠を大切にするよ」

「違うな。私が欲しいのはそんな言葉じゃない」

 

 師匠は両手をくっつけてハートのマークを見せてきた。

 

「私が欲しいのは愛だよ、愛」

「あい……?」

 

 あいって……好きとかの?

 

「まだ難しいかったか? 君は恋人になりたいとか、彼女になって欲しいとかそういった感情はまだ一度も抱いていないのか?」

 

「う、うん……なんかよく分からないし」

「そうかそうか……なら、これを飲むか」

 

 師匠は怪しい薬が並ぶ棚からピンク色の瓶を取り出した。

 

「カルデアの面白そうなキャスターから頂いた薬だ。愛を理解するのに丁度いいだろう」

 

「だ、大丈夫なの……?」

 

「何、君には毒への耐性があるだろう? それに私も飲む」

 

 そう言った師匠は早速蓋を開けた瓶の中身を全部口に入れると、俺の両肩を掴んだ。

 

「ら、ライネ――っん!?」

「んっ……」

 

 その衝撃で味もわからない薬を流された。

 

「っはぁ……な、何するの……あ!?」

「ふふふ、すぐに効果が……っぐ!」

 

 鼓動が急に早くなって、体が暑くなってきた。

 

「な、何っこれ……!?」

 

 体は汗がちょっと出てくる位には暑いのに、体は何故か震えている。

 

「あ……」

 

 近い。さっき直接口が触れたから当たり前だけど、師匠の顔がすぐに近くにある。

 気にしなかった訳じゃないけど、今はそれがなんだかずっと見ていたくなる。

 

「随分、情熱的な視線を向けてくるじゃないか」

「っ!?」

 

 師匠の青い目の奥から炎が見えて、まるでそれがこちらを飲み込もうとしている様に見える。

 

「良いぞ。そうだ。お前の師匠は私だ、私を見て……目を離すな」

 

 そして、俺の頭を撫でた。だけど、それは師匠自身が何かを抑える為の動作に思えた。

 

 だんだん、撫でられると撫でられる程に安心して嫌な予感が薄らいでいく。

 

「し、ししょぉ……」

「ああ、我が弟子よ。お前は本当に愛らしいなぁ」

 

 師匠に触られた場所からどんどん力が抜けていく。その感覚がなんだか心地良くてそのまま頭をライネス師匠に預けたくなる。

 

「まるで犬の様だ。可愛い愛犬だ」

 

 師匠は撫でるのをピタリとやめると、今度は両手で抱き締めて来た。

 

「師匠、俺……今、すごく嬉しくて」

「君にそう言われると私も嬉しいよ」

 

 師匠の笑顔が、可愛い。

 

 ――可笑しいのは分かってるけど、今までに一度だって抱いた事の無い感情に考えるだけの頭が残ってない。

 

 だから、強く師匠を抱きしめ

 

「……どうした? 私を愛していいのだぞ?」

「……愛するって……どうすればいいの?」

 

「……そうか、失念していた。君はまだ子供だったな」

 

 ライネス師匠は仕方なさそうに微笑むと、すっと上半身を上げて見下ろしてきた。

 

「だが、大好きな愛弟子の精通が出来ると思うと、柄にもなく興奮してしまうな……ああ、本当に――」

 

 

 ――突然、その笑みは無に変わった。

 

 

『俺は体の主の意志は尊重するつもりだったが、これは幼子に使う手じゃないだろ』

 

 

「あ、あれ……?」

 

 気が付くと、ライネス師匠の部屋にいた。

 いや、いるのは問題ないけど……いつの間に寝ていたんだろう?

 

「っく……司馬懿殿め……」

 

 ライネス師匠は頭を抱えて苦しそうだ。

 

「だ、大丈夫ですか師匠?」

「うむ……薬の効果は無しか?」

 

「薬……?」

「なんでもない。

 ……仕方あるまい、健全にデートでもしようか」

 

「で、デート!?」

 

「ん? ……ははーん……本当に初心なんだな。デートだけでそこまで赤くなっては私の彼氏など夢のまた夢だぞ?」

「か、彼氏っ!?」

 

 こうして俺は師匠にからかわれながら、一緒に部屋の外を歩き続けた。

 

 

 

「――まあ、こんな所で終わる私では無いがな」

「し、師匠……? あれ、此処俺の部屋、もしかして……?」

 

 目が覚めても、師匠は俺の隣にいた。

 よく分からないけど、嬉しい。

 

(司馬懿殿の意識はシャトーに置いてきた。

 なので、此処で襲ってしまえば何の邪魔も無いだろう。現実世界で私が見えるのは私のマスターだけだしな)

 

 あ、そうだ。

 

「じゃ、じゃあちょっと兄ちゃん呼んでくる!」

「あ……」

 

(ふむ。まあ、見えないのだから問題はないだろう)

 

「――こっちだよ、こっち!」

「はいはい……サーヴァント実体化ねぇ……」

 

 部屋を開けて玲兄ちゃんにライネス師匠を見せた。

 

「ほら! 兄ちゃん、見える!」

「――」

 

 驚いているのか、玲兄ちゃんは固まった。ライネス師匠は愉快そうに手を振っている。

 

「…………真」

「なに、兄ちゃん?」

 

「先に飯食べててくれるか? 俺はちょっと話するからさ」

 

「? よく分かんないけど……うん、じゃあ、ライネス師匠! すぐ戻ってくるね!」

 

 

「どうやら私が見えている様だな、お義兄様? どうかしましたか?」

 

「……取り敢えず、うちの弟に手を出す悪ーい女に、拳骨といきますか」

 

「……え……いや、待て。可愛い義妹に暴力か?」

「あの良く分からん悪夢の住人は教育上よろしくないからな。あと誰が義妹だオイ!」

 

「教育上よろしくない? いや、私は只、弟子の初めてを全部貰いたいだけで……」

 

「よーし、表出ろ。女だろうがサーヴァントならボコボコにしても問題ないだろ」

 

「ふむ、なら此処は1つどうだろう? 退散の代わりに我が弟子の私物を1つ頂くと言うのは?」

 

「寝言は寝て言えっ!!」

 

 

 

 その日から、真の部屋には盛り塩が常備される様になった。

 




次回はツイッター側からの当選者です。

ぐだぐだイベントは水着ノッブが来ました。

ヤンデレ・シャトーだと扱いづ……何でもありません。
次回こそは、早く更新出来るよう尽力したいです。

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