ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
久しぶりのこのシリーズ……2部でもやりたいけど捕まると絶殺ムードな展開が多いし……て言うか敵側にマスターがいるからやり辛いです。鬱苦手な小心作家ですので。
「――避暑ついでに水着剣豪の聖地ラスベガスに行って聖杯、もしくはそれに類する魔力ソースの回収と水着霊基の安定化が今回のミッションだよ」
「ガッテン承知! 大船に乗った気で任せな! この天才剣士葛飾応為が一緒いるんだ、どんな敵だろうとバッタバッタと切り捨ててやらぁ!」
と、やる気満々な葛飾北――応為(セイバー)と共に水着剣豪七番勝負へと乗り込む事になった俺達。
レイシフト先で出会った宮本武――伊織から説明を聞いていたが、元気一杯な葛飾応為が一番ボスっぽいカジノ・キャメロットに乗り込もうと駆け出し、慌ててそれを追い掛ける事になった。
「知らないのであれば教えましょう。
バニーこそ、カジノの正装です。故に私は水着剣豪の1人、水着獅子王を名乗っています」
そこに待ち受けていたのは見えない壁とラスベガス最大のカジノを運営する水着獅子王。
彼女は応為を導いた宮本伊織が、水着剣豪のなんたるかを教えるべきだと、半強制的に2人を1対1の決闘空間に閉じ込めた。
ここまでは、もし俺が夢の中で記憶を封印されていなければ知っていた話の流れだった……しかし。
「勝負あり! 勝者、宮本伊織!」
(やば……態と霊基を落とした状態にしたのにマスターの前だとついつい本気が……これがブレイクゲージって言う物なのね)
「っぐ……やっぱぁ、天下の二天一流に勝つにはまだ早かったか……」
「いえ、素晴らしい勝負でしたよ。
ですが、この決闘の元締めは私です。
本来なら、負けた水着剣豪の挑戦権を剥奪する所ですが……特別に、別のモノを頂きます」
「別……?」
チラリと、彼女の視線がこちらを向いた。
……嫌な予感。
「マスター、どうぞこちらに」
「マスター殿……って、まさかマスター殿を貰おうってか!? それは吹っ掛け過ぎだろ!」
「黙りなさい。水着剣豪との勝負に二度目の機会を与えられるのです。これ位は当然の代償です」
「う……ま、マスター殿! 別に行かなくても、オレが……最強を諦めれば良いだけだ。ジークフリート殿だって水着剣豪だし……」
「いや、大丈夫だ」
「マスター……」
「応為ちゃんだったら、必ず獅子王を倒して最強の水着剣豪になれるさ。
だから、それまで待つよ」
「お、おう……! 任せとけ!」
こうして、俺はカジノ・キャメロットに囚われる事になったのだった。
「……あの」
「んだよ、出てぇなら父上に言いな。父上以外は、牢屋の鍵にも、マスターに触るのも禁止だとよ」
「いや、そうじゃなくてそれ……」
俺が指差したのは罰則として牢屋の中に囚われている筈の俺の夕飯が乗せられたワゴン。
綺麗な皿に名前の分からない外国の料理がフルコース並みの種類で用意されており、スイートルームの様な牢屋の机に次々と並べられていく。
因みに現在俺は牢屋の外側に手錠で鉄格子に繋がれた状態でいる。
「何か問題がありますか? もし日本食が食べたいのであれば今からでも作り直させますが」
「いや……明日からはそうしてくれると嬉しい」
「わかりました」
その間、バニー姿の獅子王、アルトリア・ペンドラゴンは俺を背中から抱きしめて頭を撫で続けている。
「全く……父上、ちょっと位オレもマスターと――」
「――モードレッド、余計な事を言うと今後はマスターとの会話も禁止します」
「ちぇ、分かったよ……」
ワゴンの料理を全部並べ終わったモードレッドは足早に出ていった。
「さあ、今外しますね」
手錠は外され、何故かそのまま獅子王が一緒に牢屋に入ってきた。
「えーっと……」
「食事は私もご一緒します。一応、扱い上は捕虜の様な物ですが、マスターである事には代わりありません。私が見ていない所で怪我でもしたら大変ですから」
いや、だとしても落ち着かないんだが……
「ふむ、何か問題でも? ああ、もしかして食事の席で私の正装は少々堅苦しいでしょうか?」
「正装……」
身に纏っているのはバニー姿だが、そう言えば彼女はカジノの正装だと公言していた。
「では、脱ぎましょう?」
「は、あ、いや待て!」
自らの服の上に手を置いた彼女を止めようと慌てて言葉を出したが、彼女は真っ白な水着に変わっていた。
「……ふふ、どうしました? 敵の前で肌を晒す程、隙の有る女だと思いましたか?」
「あ、いや……」
「残念ですが、今のマスターと私は敵同士です」
そう言って彼女は椅子に座っている俺の元まで近付くと、耳元に囁いた。
「ですが……私のマスターになって頂けるなら話は別です」
そう言って布一枚でしか隔たれていない胸を押し付けられ、誘惑に心が揺れる。
「あの剣士も張りのある体ではありましたが、こう言った経験は無いのでしょう? 私が手取り足取り、教えて差し上げますよ?」
「……いや、俺は、葛飾応為やマシュ達を裏切るつもりはない」
一度冷静になって俺はそう答え、彼女を拒む様に両手で押した。
「……そうですね。マスターならそう答えると理解していました。
……冷めてしまうといけませんし、頂きましょう」
それから、無言になった獅子王と会話をする事もないまま時間が過ぎていった。
「では、おやすみなさい」
「おやすみ」
こうして、彼女は出て行った。
次の日、俺はスイートルームの牢屋の中、7時に起こされ規則正しい生活を送る事になった。
運動不足にならぬ様、朝食と歯磨きの後に俺はプールへ連れてこられ、そこにはモードレッドとガレスがいた。
「あ、マスター!」
「よう、来たな」
「……あれ、ジキルは?」
「カジノの方の手伝いだよ。オレやこいつは、危なっかしいから朝の準備には参加しなくて良いってさ」
「ですが、こうしてマスターのお手伝いという名誉ある仕事が出来るんです! さあ、先ずはこちらに――あだだだだだ!?」
突然ガレスが叫びだした。
「え、ちょ、大丈夫!?」
「おいおい、忘れたのかよ……父上がマスターに触んねぇ様に魔術を掛けてたんだろ」
「うぐ……そうでした……うう、王は意地悪です」
「ふん、円卓の崩壊原因がランスロットのヤローの不貞だったからだろ。父上はマスターが他の女に現を抜かして欲しくねえんだ」
「モードレッド! その話を蒸し返すのはランスロット様に対して不敬ですよ! それにマスターは不貞を働いたりしませんよ!」
「へぇ、お前だってマスターが欲しんだろ?」
「そ、そ、そんな事……で、でも王がその……いない時くらいなら私が側にいても……」
カジノ・キャメロット、早速ブリテン同様の崩壊が起こりそうなんだが……
「ほら、取り敢えず泳ぐぞ! 先ずは軽く1000m!」
「全然軽くない!」
その後、彼女達はアーサー王の魔術のダメージを無視して何度か俺に触れようとしその度に痛みに苦しみ続けた。
「ふふ……この痛みを超えれば、私はマスターの隣に相応しい騎士に……いだだだだ!」
「っち……だが、オレの欲しいもんはどんな障害があろうが……あだぁ!」
しかし、傍から見るとどんどん威力を上げているようにも見える。
「――2人共、マスターの世話、ご苦労」
触った腕を抑えて痛がっている2人に顔色一つ変える事なくそう言い放った獅子王はプールの中の俺に手を伸ばすとニコリ微笑んだ。
「さぁ、上がりましょう」
俺の手を握り一切痛いが走らない様を見せ付けるように、ゆっくり俺を引き上げた。
「シャワーを浴びて、更衣室で着替えて水分補給はこまめに行ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
言われた通り、シャワーを浴びて男性用更衣室に入ると、タオルが手渡された。
「ありがとう」
「いえいえ」
…………いや、待て。
「何で此処に!?」
「勿論、監視の為です。プライバシー保護の為、更衣室には監視カメラを置いておりませんのでマスターが妙な動きをしないか見張っています」
「いや、着替えたいんだけど……」
「どうぞ。私はマスターの裸を見ても問題ありません」
いや、見られる事に問題があるんだろう。
「……!」
そこで俺は思い付いた。
水着のまま適当に体を拭いてから、カルデア礼装へと切り替えた。
どうやら切り替えと同時に体を乾かしてくれる様で、特にどこか濡れた感じはしない。
「……なるほど、礼装を切り替えましたか。
まぁ、籍を入れる前ですしみだりに裸を晒さないと言うなら、私も賛成します」
誰と誰が籍を入れるんだ? とは聞かなかった。怖い。
「残念ながら、私はカジノに戻らせて頂きます。そろそろ、大事なお客様も来られるでしょうし」
「大事なお客様?」
「ええ、他の水着剣豪です」
「ちょっと、まーちゃんが此処にいるって聞いたんだけど、どゆこと!? まーちゃん達が来たら、倒した水着剣豪がその身柄を貰うって聞いたんですけど!」
「おや、これは珍しいですね刑部姫。引きこもりの貴方が私のカジノまで来るなんて」
「良いから答えて!」
「ええ、倒した水着剣豪がマスターの身柄を預かる、その通りです。
私に挑み、私の用意した舞台で戦い、破れた上でマスターを手にしたので、約束を破っていませんよ」
「でも倒した筈の水着剣豪の挑戦権が残ってるじゃない!」
「別に挑戦権とマスターは、同時に剥奪する必要はありませんよ? 私はマスターだけを預かり、挑戦権はそのままにしました。
刑部姫、貴女が負けたと言う知らせも当然こちらに届いています。彼らと徒党を組むのであれば許しますが、今の貴女に私に挑む資格は無い」
「…………」
『以上です。己のカジノに戻りなさい』
俺は今のやり取りをモニター越しに見せられていた。
水着の刑部姫が帰っていくと、獅子王はカメラに向けてウィンクをした。
“どうですか、貴方を守りましたよ”と言わんばかりの笑みだ。
「……マシュ達、頑張ってるなぁ」
俺がいなくとも刑部姫に勝てたのなら、心配しなくても数日中に俺を救出してくれるだろう。
皆には悪いが、このカジノで羽を休ませて貰おう。
「とは言え、流石に何でも出来る訳じゃないけど」
カルデアの通信は勿論、ネットはあるが連絡手段になりそうな物へはアクセス制限がある。
「スマホもないし……外に出るには、獅子王の許可と誰かの付き添いが必要だけど……あ、呼び出しボタンがある」
外と言ってもカジノの中やプールだけだし、営業中だと獅子王は俺をカジノの中には入れさせない。
円卓内ならともかく、カジノ客の女の目には入れさせないつもりなのだろう。
「皆、早く来てくれないかなぁ」
取り敢えずテレビを付けた。
特異点の影響なのかこのラスベガスの情報しかないが、なんと丁度水着剣豪同士の勝負が流れている。
「……あ、応為ちゃんと武蔵の戦いだ。再戦って事はリベンジマッチか」
どうやらもう始まってから結構経っていた様で決着は着いた。応為ちゃんの勝利だ。
「あの霊基の武蔵ちゃんに勝てたか……うん、めっちゃ強くなってるな応為ちゃん」
『さぁ、残ってんのは後3人! 待ってろ水着獅子王! マスター殿は返して貰う!』
「……いやいや待て待て。七色勝負じゃなかったけ? え、殆ど1日で4人も倒したの?」
早過ぎだろ……本当に天才剣士だった?
「素晴らしい快進撃ですね」
「おわぁ!? び、びっくりした……」
情けない俺の反応に彼女は笑顔で返した。件の獅子王が俺の背後に立っていた。
「これは少々、急いだ方がいいかもしれませんね」
「な、何を急ぐって?」
「式です」
目が点になった。いや、待て待て……本気か?
「因みに、誰と誰の式……?」
「ふふふ、更衣室の中で既に分かっているのでしょう? 私とマスターの結婚式です。
大々的に行いたいですが、同時に誰も彼も呼べば妨害されてしまいますので……海の上などはどうでしょう?」
そう言って彼女は宝具である船(正確には高機動型大広間)の上でのウェディングプランをこちらに見せて来た。
「あの……」
「どうかしましたか?」
「俺達、まだラスベガスで出会ってからあまり会話もした事も無いと思うんだけど……結婚式まで早くない? 先ずは互いに理解を深めてからでも……」
「なるほど……つまり、まだマスターは私を、結婚するのに相応しい女だと思っていないのですね?」
「……まぁ、平たく言えば」
「でしたら問題ありません。私に相応しい男性はマスター以外いませんし、マスターの全てを理解し管理出来る者は私だけですから」
「いや、それなんの説得力もないけど?」
「このカジノの中でこれからもずっと過ごすのですから、私以外の女性はマスターを見る事も叶いません。なら、もう私達が結ばれるしかないでしょう」
「……モードレッドとガレスは?」
「おや、マスターはあの2人が気になるのですか? 分かりました。式が終わったら首を瓶に入れてマスターの部屋に飾りますね?」
怖い! 身内にも容赦なしか!?
「ですが、マスターは私の事が一番好きですから、その必要はありませんね?」
「え、えっと――」
「ありませんね?」
俺は、黙って頷いてしまった。
「では、明日は朝から式を始めます。服等は既にこちらで準備していますし、式自体は簡単な物です。あまり緊張せず、最高の式に致しましょう」
そう言って彼女は牢屋の鍵を閉めて出ていった。
「……く、令呪はやっぱり封じられているか……」
こうなっては一刻の猶予もない。脱獄してでも此処から出なくては……!
「だけど、部屋には監視カメラがある。もし仮に此処にドリルがあっても直ぐに円卓の誰かが止めに来るだろう……応為ちゃんが間に合えばいいんだが……そう都合良くも行かないだろうし……」
水着剣豪はあと2人。誰が残っているかは知らないが、連戦すれば応為ちゃんの魔力が持たないだろう。
「……仕方ない」
(ガンドと緊急回避のスキルで牢屋を開けに来た2人をやり過ごして、カジノにいるサーヴァントに助けを求めよう)
かなり運任せだし、そこにいるサーヴァントまで獅子王に協力する側だったら捕まって終わりだが、何もしないよりはマシか。
(夕飯までまだ時間があるし、なるべく悟られない様に普段通りにしていよう)
制限されたとは言え速度は申し分ないネットサーフィンを楽しんで時間を待っていると、モードレッドと獅子王が降りてきた。
「さてマスター、お待ちかねのディナータイムだぜ」
「夕食を運びますので、先ずはこちらの手錠を――っ!?」
しかし、牢屋の鍵が開けられる前にけたましい警報が鳴り響いた。
『巨大な魔力が接近中!
巨大な魔力、結界に衝突!
異常事態につき、カジノのお客様には速やかに避難をお願いします!』
ジキルの声のアナウンスが流れた。
「おいおい! 聖杯並みの魔力じゃねぇか!」
「この感じ……あの者か……! モードレッド! アロハの三騎士と共に迎撃準備を! 私もすぐに向かいます!」
「うっしゃ! 丁度接待業で暴れたくてウズウズしてたんだ!」
執事服から、鎧を纏った姿になったモードレッドはそのまま駆け出していった。
「マスターは必ず我々がお守りします。
夕食はすみませんが、ご自分で頂いて下さい!」
牢屋の中にワゴンごと運び入れた後に、獅子王は霊基を変化させ、階段を登っていった。
「ご自分でって……俺に1人で食べさせない気だったのか……」
仕方がないのでワゴンの蓋を開け、昨日の俺の要望通り(?)日本食になっている料理を見て……蓋を閉めた。
「待て、これって俺だけに食わせようとしたって事は薬でも入ってるんじゃ……」
先の警報も気になるし、俺は料理には手を付けずに誰かが来るのを待った。
「……!」
階段を誰かがコツコツと歩いて、こちらに近づいて来ている。
「……誰だ?」
やがて、牢屋の前には応為ちゃんとの一騎打ちで見た本気の姿の宮本伊織を名乗っていた彼女の――
「――マスター……発見」
「っ、武蔵ちゃんじゃない!?」
「っはぁ!」
手に持った大太刀を振り下ろし牢屋の鉄格子を切り裂いた剣圧は、いとも簡単に向かいにいた俺の体を壁まで吹き飛ばした。
「っがぁは!?」
肺の中の空気が空っぽになる程の衝撃に、俺は意識を手放すしかなかった。
「……マスター、こいつがいれば……最強の剣士に……剣豪に……!」
「――虚無に至らなければ、虚無を切れず」
「――剣の道に在らなければ……」
酷く感情の無い声に、目を覚ました。
「……う……」
体の痛みに耐えながら霞む視界が晴れる様に何度も瞬きをすると、そこには肌の焼けた宮本武蔵――の形をした影がいた。
「……目覚めたか」
「……だ、誰だ?」
「名は無い、唯の剣士だ」
彼女の膝に頭を預けている状態だった。
俺は起き上がるが、立ち上がれそうになかったので上半身だけを起こして辺りを見た。
――悲惨な光景だった。
「――獅子王! ……刑部姫! ニトクリス! メルト! 信長! ジャンヌ!」
水着剣豪が、剥き出しの大地に倒れていた。
「斬り伏せるのは容易だった」
「っく……今すぐ回復を――!?」
慌てて近付こうとする俺の前を刃が遮った。
「駄目。弱き者に手を差し伸べるな。お前の体も、魔力も、全て私の物だ」
「聖杯の魔力を持つお前にとって、俺の魔力なんて有って無いような物だろうが……!」
なんとか刃を潜る様に前へ出ようとすると、今度は服の襟を掴まれた。
「確かに。私が持っている魔力ならばお前など必要としない。だが、この形と精神を得た今の私にはお前という存在自体が必要だ」
「武蔵ちゃんの真似をする為に俺が必要だって事か? 悪いけど、そんなおままごとに付き合うつもりは――」
「――器の名など関係ない。頂きに立ち、最強を取るのみならば此処で斬る事も出来たが、この精神は貴様がいて始めて安定する」
「安定って……」
俺を部品か何かと勘違いしていないかと睨みつけてやると、武蔵ちゃんの形をした無表情の何かはそっと体に手を置いた。
「望むなら、この姿を好きにさせてやってもいい」
「誰がそんな事を頼むか!」
「何故だ? この剣士はお前の好む容姿をしているだろう?」
「形だけを繕った偽物を、本物の武蔵ちゃん同様愛せる訳ないだろ」
「理解出来ない。私はこの姿でなければお前を求めない。この姿では、お前は私を求めない」
「諦めろ。どの道、俺の仲間が来れば聖杯としてお前のリソースは回収する」
「仕方ない。では――」
「――そして、お前に俺は殺せない!」
手の甲が赤く輝いた。
令呪の力で、俺は自分の前にサーヴァントを瞬間移動させたのだ。
「――マスター殿! 待たせたな!」
「私が保護します!」
「一気に行くよ!」
マシュの盾に守られ、その先で水着の応為ちゃんと武蔵ちゃんが刀を振って偽物と大立ち回りを演じている。
「っく……! なら、この者達同様、斬り伏せて――」
「――誰を倒したと?」
偽武蔵は振り上げた刃を瞬時に盾の様に構えて飛来してきたカードからその身を守った。
「……何?」
「お生憎様ね。同じセイバークラスじゃないと倒せない貴女相手に、本気で戦う訳ないじゃない」
獅子王とメルトリリスが立ち上がり、見れば床に伏せたまま銃を構えている刑部姫と織田信長が弾幕を張っている。
「っく――!?」
「リースXP!」
「メジェド様!」
水着剣豪達のコンビネーション攻撃に、防戦一方の偽武蔵。
「オレぁ、マスター殿を失った後、サーヴァントとして残っていた甘えを捨てた……最強の剣士になって、天女になるその時まで……マスターと笑う、その日まで!!」
四刀、1人と1匹の止まる事なく放たれる斬撃に遂に堅牢な守りは砕かれた。
だが踏み込みが足りない、否、相手の方が半歩下がったか。
「っく……! 武蔵殿! 後は任せた!」
「津波のデリバリー、此処で良いかしら?」
「ええ! これで、あの時と同じよ!」
グランドキャニオンを突然、大きな波が現れ辺り一面を水が覆い拡散と迫ってきた。
それを見て勝利を確信した武蔵ちゃん――同じタイミングで偽武蔵もほくそ笑んだ。
「――この時を、待っていたのは私の方だ」
彼女は自分を飲み込まんと迫る水を尋常ならざる斬撃で打ち上げ、水柱がサーヴァント達を囲んだ。
「しまった! まさか――!?」
「先打ち――巌流島!!」
島を爆破する魔剣破りではなく、島に立つ者共を両断する斬撃は――俺達を水飛沫の中で捉えた。
「……起きろ」
「ガハァッ! ッハァ、ハァッ……!」
口の中に入ってきた水を全て吐き出した。
俺を足で起こしたのは、やはり偽武蔵だった。
「私は至った、最強に。これもお前のお陰だ」
「ふざ、けるな……こんな滅茶苦茶な力があるんだったら、やっぱり俺なんか――」
「お前を餌に現れたサーヴァント、水着剣豪……私の糧となり、最強を示す指標となった。先の勝利はあの者達を呼び込み、我が虚の体に怒りの感情を齎したお前の功績だ」
勝手な事を……怒ったのはそっちの勝手だろうに。
「葛飾北斎。唯の絵描きが私に一度でも届いたのがその証だ。お前のお陰でオリジナルから奪えなかった感情を入手した。
だが、まだ完全ではない」
そう言って俺を持ち上げた。
「っぐ……何処に……」
「さらなる強者を求めて彷徨うだけだ。
お前にはこれからもこの体に感情の灯火を灯す炎となってもらう」
「は、離せ……!」
「断る。安心しろ。本物を倒した私こそ本物。つまらん事は考えずに劣情を抱け。情欲に溺れろ」
そう言って左脇に担いだ俺の顔を胸に当てた。
こうして……宮本武蔵の形をした特異点の元凶……仮に聖杯武蔵と呼ぼう。
彼女に無理矢理連れて行かれる旅が始まってしまった。
強者を求め、空の位を目指す剣鬼は頑なに俺を手放さす、理解の無い形だけの誘惑を繰り返すとなる。
分かりきった結末を簡単に説明すれば、バッドエンドだ。
人類最後のマスターは聖杯武蔵の反抗的な付き人として、他の特異点に向かう事も、異界に侵入する事も無く、只々剣の道の行く末を共にすることになったのだった。
「……私が憎ければ、宮本武蔵を恨むのだな」
「何?」
「私は、奴の空腹を満たす事と引き換えに生まれたのだからな」
「……む、武蔵ちゃぁぁぁぁぁんっっっ!!」
ボックスガチャ、何百個開けたって? 20個です。
今まで10個程度でしたし、個人的には頑張った方です。
次回はもしかしたら、久方ぶりの外伝の方を更新するからも知れません。ヤンデレ成分が少ない話になりそうなので……あっち最後に更新したのいつでしたっけ……?