ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
今回多分R17まで行くかもしれない結構ギリギリな描写があります。運営さんの反応によっては転移するかも……
「っむ……1週間でヤンデレポイントが2000とは……素晴らしいです」
「ははは……(いや、お前がチョロい)」
目の前でスマホを見つつパフェを食べているエナミ。彼女のヤンデレポイントはスイーツを奢ればその料金だけ減るシステムらしく、今日は少し大きめのパフェを奢ったので-550(サイフ)ポイントだ。
「はい、あーん」
「あーん」
スプーンをこちらに向けるが食べさせられることに慣れているので、躊躇無く食べる。
「……恥ずかしがらなかったのでプラス10ポイントです」
「何その理不尽」
上昇値も1つ1つは意外と微々たる物で、あんまり気にならない。
「……所で、最近は妙な悪夢を見たりしていませんか?」
「んー……まあ、例の悪夢は続いてるよ」
「そうですか……なら毎日1000ポイントプレゼントします!」
「何でだよ!? そんなログインボーナスみたいなノリで増やすな!」
「先輩ったら、急に私の中に入りたいだなんて……-100ポイント減らしちゃいます!」
「どうやったらログインの一言でそんな勘違いをするんだ……」
顔を赤らめるエナミに溜息を吐きながらも、俺は苦笑いを浮かべるのであった。
(手作り弁当で-3000ポイントは結構デカかったな……あれ、もしかして俺たかられてる?)
「さあ、今日も愉快な悪夢の時間だ! 覚悟はいいか!?」
「アヴェンジャー、お前、水を得た魚の様に活き活きしてるな……」
前回ヤンデレ・シャトーから生還したせいか、目に見えてテンションが高い。
「今回はまた1人でヤンデレ・シャトーに行ってもらう。サーヴァントは3騎だ」
「……少ないな。なんか嫌な予感がするんだが」
「なんの問題も無いだろう? ただ、いつもの様にやり過ごすだけだ」
どう考えても怪しさ満点だが最初から俺に拒否権は無い。
「さあ、精々楽しめ! 次回は休息を入れる事を約束しよう!」
(休息を入れなきゃならないほどハードなのか……)
「さあ、散ってくるがいい!」
もはや死を覚悟しながら俺は悪夢の始まりを迎えた。
「先輩、おはようございます」
「お、おはよう……」
目覚めると何時もの無機質な廊下ではなく、狭い一室のベットの上。
シールダーのサーヴァント、マシュが目の前にいた。
上半身を起き上がらせ、マシュを見る。
「なんか懐かしい光景だな……そっか、ヤンデレ・シャトーの時には何時もマシュが出迎えて――」
「――嬉しいです、先輩! そんな事まで覚えていてくれたんですね!」
抱き着かれた。しかもそのままマシュはベッドに上って俺に跨がる。立ち上がっていた俺の体は再びベッドに倒され、マシュは俺の顔をグッと見つめ続ける。
「ちょ、ちょっとマシュ!?」
「私も覚えています。昨日私は体を弄られ、マスターの首が、あの忌々しい犬と繋がっていた事を……!」
マシュの手が俺の首に伸びる。そっと置かれた筈なのに俺はまるでギロチンが触れたかの様な戦慄をおぼえる。
「ああ、汚い……私が……綺麗にします……ん」
「っ! ま、マシュ……!」
マシュは頭を下げて首を舐め始める。くすぐったいが、それ以上に本当に何かを舐め取ろうとしてるかの様な力の強さが伝わってくる。
「はぁ、っちゃ……れろ」
「……っ……」
不気味に思い、無言になってしまう。
静かな部屋の中で只々マシュの舐める音だけが響く。
「っ! 先輩……勃ちましたね?」
突然マシュは俺の下半身を見て嬉しそうにそう言った。
(やばいっ! これは始まったら絞り取られる!)
「先輩、私と気持ちよくなりませんか……?」
「えーっと……か、勘弁してもいいですかね?」
俺のその言葉にマシュはまた頭を下げた。
「れろ、れろ……んちゅ……」
先より激しくなった舌の動きに俺は血の気が引いていくのを感じる。
「……綺麗になりました。先輩、私と気持ちいい事をしませんか?」
「……」
答え方がまるで分からない。どうすれば拒否できる?
「……れですか?」
「へ……?」
「誰ですか? 先輩を、私の先輩を誑かしているのは?」
マシュは両手で俺の頭を抑えると、唇を奪った。
「んー!? んー!!」
「っちゃ、っぅん、ん、あ」
激しい。
何度も悪夢で体験したキスの中でも、今までで一番激しいキスだった。
「っはぁ、っはぁ、っんー!」
「んっちゅ、ん、ぅあ……」
離れたと思ったら更に続くキス。
(息が、苦しい……!)
「ん……っんー……」
「んー! ん、んっぐ!」
酸素を求めていた俺に、マシュは唾液を飲ませてきた。
そして、漸く解放された。
「っはぁっはぁっはぁ」
「っはー……先輩、気持ちいい事、しましょう?」
マシュは俺の額に親指を添える形で頭を両手で抑えた。
「先輩、もう一度キスしましょう」
「ちょ、ちょっと待って!」
流石に呼吸困難になりかけたキスを何度もされるのは勘弁だ。もう一度されたら、気を失うかもしれない。
「先輩、私は先輩に選択権を与えていますが、先輩は私の意思で呼吸すら出来ずに苦しむんです」
マシュの口が近づく。それだけで呼吸が荒くなる。
「怯えないで下さい。そんな事をして欲しいんじゃないです」
マシュは愛しそうに俺の頭を撫でる。
「先輩は私のマスターですが、私がいないとあっさり死んでしまうか弱い存在なんです」
マシュの手が止まるが、顔は俺の耳まで近づく。そして、そっと囁き始める。
「他のサーヴァントだって危険でしょう? 首輪をつけられたり、ナイフを突き付けられたり、燃やされそうになったり……」
「ですから、先輩が体も心も預けていいのは私だけなんですよ……ん」
今度は貪る様なキスではなく、短い、唇だけのキス。
「先輩、私に先輩を一杯ください……先輩を守れる様に、側にいられる存在になる為に……」
マシュが優しく俺を抱きしめる。俺はそのままゆっくり目を閉じて……寝息を立て始めた。
「先輩……? 寝ちゃいましたか?」
(…………安心して寝たフリしよう)
「あはっ! これで先輩の心は私のモノです! もっともっと依存させてあげますからね、先輩……」
(ああ、依存系ヤンデレのマシュが、俺を依存させるつもりだったのね。そうすればお互いが依存しあって一生一緒に……)
何それ怖い。
「……ん? 鳥肌、でしょうか?」
(ヤバ! バレた!?)
「大丈夫ですよマスター……貴方の唯一のサーヴァントが直ぐに温めてあげますからね……」
どうやらバレなかった様だ。俺は別の事を考え始める。
(マシュのこの感じ、ヤンデレ深度が上がってるよな……だけど今の今まで他のサーヴァントがやって来ないし……)
「マスター……ああ、抱きしめてるだけで体が火照りってきました……」
「――転身火生三昧」
唐突にドアが吹き飛ばされる。やはり俺のセリフはフラグになるのか。
「……式さん対策に耐久を下げて即死耐性を付けたのが仇になりましたか」
「汚らわしい……何故
「見て分かりませんか? 先輩は私の隣で寝ています。私が側にいる事を許されたんです!」
「誰が寝ているですのかしら? マスター、狸寝入りそこまでです。目を開けなければ、そこの塗り壁女と一緒に燃やして差し上げます」
(怖い怖い! ど、どうすれば……)
一瞬悩んだが、清姫が怖いのですぐに目を開けた。
「……寝たいのは本当なんだけど」
「先輩!?」
「でしたらマスター、私の隣で寝させてあげます」
清姫は扇子を構える。
(こんな狭い部屋だぞ!? 炎なんか撃たれたら直ぐに全部燃えて、部屋の酸素があっという間に無くなるぞ!?)
「勝てると思って――」
「転身火生三昧!!」
なんの躊躇いも無く放たれた宝具。炎の龍がマシュを横から吹き飛ばした。
「そ、そんな……なぜ宝具を2回、も……?」
「魔力薬、飲めば一瞬で魔力が回復します」
清姫が懐から青色の液体の入ったビンを取り出し、飲み干した。
「ですが、やはり旦那様から直に魔力が欲しいですね」
「っく……!」
マシュはなんとか立ち上がろうとしているが、この状況に俺はろくに動けず、どうすればいいかまるで分からない。
令呪……しかし、今までの状況が果たして使用するべきか悩ませる。ここ連日ずっと1度きりの令呪を使い続けていたので、令呪の数は1つだけ。使えばそれまでだ。
「さあ、マスター? 一緒に愛の巣へ参りましょう」
清姫は俺の手を繋ぐと、部屋の外に出た。
「……そうそう、マスターを汚したバツです。燃え尽きなさい!」
「き、清姫っ!?」
部屋へと放たれた炎は燃え盛り、部屋全体を燃やし尽くすのに時間は掛からないだろう。
「マシュ! っく、今回復を――」
「――マスター、他の女の元に行けるなどとは思わないで下さい」
魔術でマシュを治癒する事を思い出した俺だが、清姫がそれを許さない。服を捕まれ、筋力で部屋から放される。
「マスター、他の女など忘れさせてあげます……そして思い出して下さい。貴方の妻が私だという事を……」
「っく……マシュ!!」
叫びは届かず、俺は只々清姫に連れて行かれた。
「旦那様……ふふ、あぁ……! なんと気持ち良い響きでしょうか!」
清姫に連れて行かれた俺は壁に足を鎖で繋がれ、両手は普通の手錠をかけられて、ろくに動けない状況に陥っていった。
マシュを殺した清姫を憎みきれないのは、前に清姫の消滅の瞬間を見たからだと思いたい。
(つまり、どうせ生き返るから大丈夫って思ってるんだな、俺は)
「旦那様、さあご飯ですよ?」
「……食欲が無いな」
とても飯が食べられる心境ではない。だが、清姫は飯の盆を俺の側に置くと箸で掴んだご飯をこちらに向ける。
「はい、あーん」
「……食欲が無いんだ、そっとしてくれ」
床に寝転がり、不貞寝を始める。この部屋に入ってからは一度も清姫と顔を合わせていない。俺の自分でも理解できていない意地が、せめてもの抵抗でそれを行っているんだろう。
「ではせめて汁物を――」
「いらない」
きっぱり断る。憎しみなのか悲しみなのか分からない感情が心で這いずり回っていてとても不愉快だ。
「……」
「お怒りですか、私に?」
「……」
「何故あの女を悲しんでいるのでしょうか? 貴方は私を愛すだけでいいのに」
「っ! 清ひっ!?」
怒りに任せて目すら合わせていなかった清姫へと振り返るが、同時に驚愕した。
「あっは! 他の女の話でと言うのは少々癪ですが、漸く私を見てくれましたね、マスター!」
清姫の下半身は、まるでラミアの様な鱗に包まれた長く細い蛇の姿をしていた。
「さあ、愛してあげます! 縛りつけて差し上げます!」
「うあ!?」
下半身がこちらに伸び、足の鎖を壊しながらも俺の体を締め付け捕らえた。
「っぐ、ぬ、抜けられない……!」
「ああ、マスター……」
上半身、蛇ではなく人型の清姫がこちらに近付き抱き着く。
同時に、下半身の締め付けが強まる。
「っぐ……!」
「あまり暴れないで下さい、さもないと……」
「折れてしまいますよ?」
「っひぃ……!」
龍は好きだ。かっこいいしそもそも現実には存在しないのだから恐れる必要がない。
しかし、蛇は嫌いだ。子供の頃から理由もなく蛇だけは苦手だった。何故かも分からない恐怖を感じる。生物の教科書や図鑑の写真にですら、だ。
「……アハハ! マスター、マスターが私を見てくれました! 私を見て、こーんなにも恐怖を……」
「う……ぅ……」
折れそうだ。足でも骨でもなく心が。
何より怖いのが俺を捕えている蛇の下半身ではなく、人間と姿形が変わらない筈の清姫の姿の方が、こちらを飲み込もうとする蛇に見える事だ。
「あぁ、すっかり怯えてしまって……マスター……ん」
舐められた、頬を。軽く舐められただけなのに、まるでそこから体全体が痺れるかの様な感覚に陥る。
「……あ……ぁ……」
「可哀想なマスター……食べちゃいたいくらいです」
「うあああぁぁぁぁぁ!!」
恐怖に耐えきれず、叫んだ。
「あああぁぁぁぁぁ!」
叫んでいるせいか、錯乱しているせいか意識が曖昧になる。
視覚も、聴覚も、触覚すら感じない。
「ぁぁぁぁぁ……」
記憶すら――そこで途切れた。
「お目覚めですか、
目が覚めた。何か、とてつもなく嫌な物を見た気がする。
ふと、隣にいたメディアを見る。何故だか、心がざわつき、やがて落ち着いた。
「何時の間に寝ていたんだ……? いや、待て!? 何でそんな格好なんだ!?」
頭が漸く目覚めた様だ。メディアは上着こそ羽織っているが、上も下にも履いてないだけではなく、俺達は何故か液体が染みている布団の上。
俺の下半身も、パンツだけだった。
「あぁ! マスター、とても逞しく激しくて……」
「う、そ……だろ……!?」
頭を抑えて、必死に記憶を書き出そうとする。しかし、気を失う前の記憶がまるで思い出せない。
「……うぅ……私との情事をお忘れですか……?」
泣き始めるメディア。
「…………ま、マジか……」
まさか自分がドラマや映画で見るような酔っ払った末の過ちの様な状況になるなど、誰が想像できるだろうか。
「マスター……式は何時に――」
唐突にドアを切り裂く音、後に板が転がる音が鳴る。
「――呼んだか? 良くもやってくれたなこの女狐!」
現れたのは、直死の魔眼を輝かせた式だ。
「っち、もう気付いたのね……」
「幻術の魔術でオレやマスターを惑わせて、オマケに事後まで演出しやがって!」
「え……?」
俺は急いで側にあった魔術礼装を着つつも、メディアを見る。
「……やっぱり、本番は同意の上でやりたいじゃない」
メディアが拗ねる様にそう言いつつ、魔力で普段着に戻る。
「っふん――!」
式が空にナイフを振るうと、俺の記憶が全てが正しい形で思い出された。
マシュへ火を放ったメディアに捕まり、縄で下半身を縛られ、真実を知り先まで忘れていた恐怖の記憶も戻ってきた。
「……最初から、清姫はいなかったのか……マシュの後は全て幻術か……」
「そういう事だ。
さあ、女狐! マスターは返してもらうぜ?」
「調子に乗らないで! アサシンのサーヴァントに私は絶対負けないわ!」
飛行しながら放たれた魔力の光線、ナイフでその全てを切り裂く式。
その中に、俺の姿の魔力弾が混じり放たれる。
式の動きが一瞬止まったと思ったら数秒前の倍の速度で切り捨てた。
「お前、オレがマスターの死の線を見間違えると思ってるのか?」
「ふん!」
懲りずに放たれる俺の形の魔力弾。式はその全てを切り捨てて行く。
そう、全てだ。
「っ!?」
「掛かったわね!」
式は自分の怒りに任せて俺の形の魔力弾を全て切り捨てながらメディアに近づいた。が、それも全てメディアの計算通りだ。
読み易い、操り易いその行動パターンは彼女の狙い通りの場所に誘い込めた。
「空間停止。流石に霊脈でもない場所で使うには苦労したけど、相手が誘導されてくれるなら設置地点に追い込むだけ。動き回る対象と周りの空間を止めるよりも当てやすい」
式はナイフを構えたまま、立ったままだ。指先1つ動かす事も難しい様だ。
「……っく……」
メディアはルールブレイカーを取り出す。
「終わりよ、両儀式」
「それは困るわね」
が、両儀式はまるで空間停止が最初からなかったかの様に停止した空間から抜け出した。
服装も白い着物へと変化し、握っている獲物も刀に変わっている。
「っな!?」
「お呼びでは無かったかしら? でも、派遣されてしまっては仕方ないわ」
俺のカルデアにはいないはずの、サーヴァント。
「セイバー、式……?」
「貴方がキダさん? この式の体、ちょっと貸して貰うわ」
俺の返事も待たずに、『両儀式』はメディアに近づく。
先までルールブレイカーで止めを刺そうとしていたメディアとの距離は近い。
「終わりよ」
「っぐ――」
辛うじてルールブレイカーで刀を防御したが、剣士ではないメディアに2度目の斬撃を防ぐのは不可能だった。
「あ、あと、少しだったのに……」
光の粒子となり消滅したメディア。
『両儀式』は静かに息を吐く。
「この場所……ヤンデレ・シャトーね」
「知ってるん、ですか?」
「騎士王さんや皇帝さん、女王さんとも戦った場所だもの。あ、キスに照れる私のマスターは可愛かったのも覚えてるわ! まあ、その後マスターも私も、光に飲まれて此処から退場しちゃったけど」
そんな事を笑いながら言った『両儀式』は突然ハッとしてその動きを止めた。
「いけない、いけない! それじゃあ、この事は式に内緒ね!」
「っは、はぁ……」
「じゃあね!」
別れの言葉と同時に式の服装も人格も元に戻った。
「……ん? あれ?」
「式! 大丈夫?」
「……ああ、大丈夫だが……オレは何をしてたんだ? まあいいや。ほら、マスター。オレの部屋に来いよ」
「え、えっと……」
サーヴァントは3騎、既に2騎が消えている以上、アヴェンジャーが増やさない限り、式しかこのヤンデレ・シャトーにいない筈だ。つまりは必然的に式と残り時間を過ごす事になる。
(まあ、アイスで済むなら……俺、感覚麻痺してないか?)
「ほら、行くぞ」
式に引っ張られ、メディアの部屋を出ると、2人で式の部屋に歩いた。
「式には攫われてたから、隣で歩くのは新鮮だな」
「ん、そうか? ……そうだったな。マスターが寝てたからな」
そんな他愛のない会話が終われば、式の部屋に辿り着いた。
式は鍵を開けてドアを開いた。
「ほら、入れよ」
「お邪魔しまーす」
俺の後に入った式が部屋の電気を点ける。
「――っ! マシュ!」
驚愕した。部屋の中にはマシュが両手を縛られた状態だったからだ。
「マスターが悲しむと思ってな。マシュを救出して置いたんだ」
「あ、ありがとう式! あれ、足の包帯は……? まさか、足を火傷して……」
「サーヴァントがあの程度で焼けるかよ。今は幻術の中で苦しんで気絶しているだけだ。足の包帯はオレが巻いた。まあ、傷付けたのもオレだけど」
「……え?」
最後の言葉は聞き逃さなかった。
「い、今なん――ん!」
「自分でも分からないけど、どうやらオレは他人に見せ付けるのが好きらしい」
式はマシュの前に座り込んでいた俺を背後から抱き締めると、耳を甘噛みし始めた。
「し、式が、マ、ッシュを……!?」
「っう、ん……れろ……逃げられない様に、後マスターを汚そうとしたバツに、アキレス腱を切っといた」
「切っといたって、そんな――」
「焼けながら消滅してないだけ儲かりものだ。それにマスター、マシュの救出にメディアとの戦闘、随分魔力を使っちまったからな。魔力補給をしてくれ」
キスを始める式。同時に背後では布の擦り切れる音が聞こえ始める。
「ぅん……此処は……!?」
「ん……ぅ……っ」
「っちゅ……んぅ……むう、脱ぎながらだとやりづらいな」
俺の目の前で目を覚ましたマシュが目を見開く。
服を脱ぎながら式が俺とキスをしているから当然といえば当然だが。
「式、っさん! 何して――っつ!」
「お、起きたか。それじゃあ、マスター、始めるか」
「いや、ちょっと待て!」
「待たない」
着物を抜いだ式は、何故かその下に白いワイシャツを着ていた。
「マスター、何時もオレのこの服装を眺めてきたからな。この格好が好きだろ?」
白いワイシャツ美女、男の憧れである。
「せ、せん、っぱい……!」
「ああそうだ。そう言えば自分がいれば他のサーヴァントなんていらないとか言ってたな」
式は俺に向かって言った。
「マスター、俺の相手してくれないとアイツを殺す。今まで霊核を直接切った事は無かったし出来なかったが、消滅したらカルデアの召喚システムでも戻ってこないかもな?」
「っな――!」
「決断は早めに、だ」
ゲーム内ではサーヴァントに即死は効かない。少なくとも、今まで式を使って来て、一度もサーヴァントを即死させた事は無い。だが、もしこの場でそれが出来て殺されたら――
「わ、分かった……」
「せ、先輩!? 駄目です、それは――」
「マスターを守れないシールダーは黙っていろ」
式はキツイ一言を言い放つと、ワイシャツのボタンに手をかけ、その全てを外した。
「たーっぷり、愛してくれよ?」
足の痛みは消え去った。
頭の中で込み上げていた熱が急に冷めた。
私は目の前で行われた行為に僅かな、確かな興奮を覚えつつも、それを恥じ、己と目の前の幸せそうな女性を恨み、怨み、男性を想い、悲しんだ。
無力、喪失、虚無。
何かが体から抜けていくと同時に、赤い激情ではなく、闇の様な沸々と静かに湧き上がる感情が、ゆっくりと、私の中から私を飲み込む。
殺したい、愛したい。
喘ぎ声が殺意を呼んだ。
すまなそうな表情が嘆きを木霊させる。
もうじき夜が明ける。
だが、私のこの感情は日の光を浴びたとしても――歪な形を浮かび上がらせるだけだろう。
「…………あ、危なかった」
夢精、してしまったようだ。
不幸中の幸いか、行為が始まる前に起床時間を迎えたので干乾びる事は無かった。
しかし、自分に好意向ける2人の後輩の存在に、罪悪感を感じずにはいられなかった。
同時に、携帯から音がなる。
“先輩、夢精したからヤンデレポイント3000ポイントでーす♡ 今日は減点すると思わないで下さいね?”
ピンチは、継続中な様だ。
え、思ったよりエロくないって? 一体ナニを求めているんだ、このムッツリスケべ!(ブーメラン)
次回は一度短編集を更新してから投稿する予定です。お楽しみに……