ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

14 / 162
正直今回は公式設定とか超あやふやです。
……え、いつもの事だって?



ヤンデレ、ヤンヤン黒増し

 

 

「んー! 美味しいです!」

「そーかい」

 

 あの悪夢から目覚めた日、公開ディープキスを避ける為、俺がとった策は手作り弁当重箱&たまたま作ってあったチーズケーキだ。

 

 エナミはヤンデレだが、“愛は食事から、食欲は愛に勝る”が信条の彼女はこれでだいぶ機嫌を直したようだ。

 

「-4000ポイントしちゃいます!」

 

(やはりチョロいな、コイツ。最優先事項がどうのって話はどうしたんだ?)

 

「あ、でも次私以外の女で夢精したら2倍増やしますからね!」

 

 だが完全には許していないようだ。

 

「そもそも、どうやってそれを知ったんだ?」

「アヴェンジャーさんが教えてくれるんですよ!

 それと、キスを所望します! 今は誰もいませんし……んー」

 

(あいつ……)

 

「ほれ」

 

 唇をこちらに向けてくるこいつの口に唐揚げを突っ込む。

 

「ん……美味! って、違うでしょ!」

「箸は俺が口付けてたから間接キスだな」

 

「へ? ……あぅ」

 

「……なんでキスを所望したお前が照れてんだ?」

 

「……あはは、ギャップ萌え狙い、です」

 

 の割には顔が真っ赤になっているが……

 

「普段は先輩の事を考えていると、その……あまり、羞恥心とか、意識しないんですけど……不意打ちに弱くて……」

 

「ふーん」

 

 興味なさげに頷く。いや、これが演技で俺を自分の間合いに入れようとしているのかも知れないし……

 

「……先輩、ちょっと乙女心を分からせる為にデュエルしましょう。【強苦ダイナミストワンフー】でボコボコにしてあげます」

 

「【RR】に攻撃力の下がるカード+攻撃力1500以下破壊はキツすぎるだろ……乙女関係ないし……」

 

 この後滅茶苦茶デュエルした。

 

 

 

「ん……誰もいない?」

 

 お決まりの悪夢の中、しかしまた司会と説明役のアヴェンジャーがいない。

 こういう時は大抵ろくでもない事が起こる気がする……いや、この悪夢自体ろくでもない事の集合体だが。

 

「ヤンデレ・シャトーの中……みたいだけど……」

 

 廊下には俺1人、誰もいない様だが……

 

「先輩♪」

 

 弾んだ声で背後から俺をそう呼んだ。一瞬エナミが浮かんでピクっとしたが、この声はマシュだ。

 

「――マ、シュ……?」

 

 だが振り返って声を失う。

 俺を見ながらニコニコ笑っているマシュだが、服装がいつもと少し違う。

 

「ふふ♪」

 

 戦闘服である動きやすそうな鎧、なのだが色合いが普段の黒色の鎧に紫色のラインではなく、紅いラインに普段の黒より更に黒くなっている様な気がした。

 

 何より、その笑顔に俺は何時もの儚さも健気さも感じなかった。

 

 感じたのは、戦慄。

 

 その姿は――

 

「マシュ・オルタです♪」

 

 ――普段と真逆だ。

 

 

 

「怖がらなくてもいいじゃないですか、先輩?」

 

 妖艶な微笑み、誘う様な手付き、動作……普段のマシュなら絶対しない動きだ。

 

「……ま、マシュはどうした? 普通のマシュは?」

 

「あっは♪ そっちの心配ですかー……

 デミ・サーヴァントはサーヴァントと人間の融合体、その場限りの英霊ですので、(オルタ)がいるって事は、本体の意識は、今は私に上書きされてますよ」

 

 説明しながら体をわざと揺らしながらこちらに近づいてくる。

 

「じゃあ、先輩? ちょっーと逃げてくれませんか?」

 

「へ――!? っぐ!」

 

 とっさに後ろに倒れ込む。

 あと少し遅ければ右腕が持って行かれていた。

 

「マスター……私と一緒にいて……ずっと一緒に……遠くに、行っちゃダメ」

 

「主どの……両腕両足を斬って、牛若がお世話してあげますね? 私無しでは生きられない体にしてあげますね?」

 

「マスター……オレを、見捨てないで、お願いおねがいオネガイ」

 

「マスター、貴方を愛します。貴方を崇めます! 私の全てを、あなたに捧げます!」

 

「マスター! アハハハ、逃げないでずっと一緒にいてよ!」

 

 急に現れた5騎のサーヴァント。

 

(なんてこった! デオン、牛若丸、式にエウリュアレ、ブーディカまで……全員オルタ化してるのか!?)

 

 全員の目が赤く輝いており、持っている武器にも紅いラインが見える。

 言動が全員普段とはまるで逆転していて、顔からも正気がまるで見えない。

 

(それに……先から冷や汗が……)

 

「マスター? あ、そっか……この5人に何されたか、忘れているんでしたね?」

 

 唇に指を当て、まるで今思い出したかの様にそう言ったマシュ。

 

「っ!?」

 

 恐らく、俺が覚えていないこの悪夢が再開してすぐの記憶の事だ。

 

「マスターはね、この5人に……」

 

 一度、殺されちゃったんだよ?

 

 当たり前の事の様にそう言われ、気付いたら全力で逃走していた。

 

(はぁ!? 殺された!? クソ、まるで意味が分からんぞ! それに、このままだと追い付かれる!)

 

 無意識とは恐ろしく、既に魔術礼装による【瞬間強化】も使用して逃げ出していた。

 

(それに……なんであの5人もマシュも、他のサーヴァントと争わない? まるで、マシュが操って――)

 

「主どの、逃げないで下さい。やはり四肢はいりませんね」

 

「見捨てない! 離れないで! 逃げないで!」

 

 敏捷A+の式と牛若丸の足には、どう足掻いても勝てはしない。

 

「アハハハ! 逃げないと、先輩! 追い付かれたら死んじゃいますよ?」

 

(っく、マシュは“護る”意思が反転してるのか、ドSを通り越して只の鬼畜になってるし!)

 

「見捨て、ないで!」

 

 【瞬間強化】は続いている筈なのに、気が付けば前方に回り込まれている。

 追い越し際に足を斬られていないのが奇跡だ。

 

「うっ、ぐ……!」

 

「マスター、マスター、マスター!! はっはっはっは……」

 

 まるで俺を知り尽くしているかの様な常にリードする態度だった式は、只々俺に依存し求める異常な寂しがり屋になっている。俺を押し倒し覆い被さり、首元で匂いを嗅ぎ始めている。

 

「では、足を切り落とします。大丈夫です、痛みは直ぐ無くなりますよ」

 

 逆に俺に依存して俺に褒められるのが好きだった牛若丸は、俺の意思を無視して俺を束縛、もしくは依存させようとしている。

 

「や、やめろ牛若――!」

「――マスターは、オレを見て。 オレだけを見てよ!」

 

 牛若丸を止めようとするが、覆いかぶさった式が邪魔で立ち上がれない。

 

(駄目だ、このままじゃ――!)

 

 

 ――覆いかぶさる式の右後ろから、足が1本、血しぶきを上げながら飛んで行った。

 

「っ!?」

 

 僅かな痛み。何処かで切れ味の良い刀で斬られても痛みは感じないと言っていたが、本当な様だ。

 だが斬られた俺は流石にショックを受けて、血の気が引く。

 

「うっぐ……」

 

「もう1本も……」

 

 やばい。転がっている足がまだ体に繋がっているかの様に、その状態が分かる。

 血液が失くなって、足の温度が段々下がってる。

 このままもう1本の足も斬り落とされれば悪夢から覚めるまで、両足だけ凍りついたかの様な感覚と共に過ごす事になる。

 

(ご、拷問だ……! 間違いなく!)

 

 すでに知っていた事だが、改めて思い知る。徐々に斬られた足と体から痛みを感じ始めている。幻肢痛、失われた手足からあるはずの無い痛みを感じるなんて事があるらしいが、感覚の繋がった悪夢の中でそれが更に悪化している。

 

「がぁぁぁ……っぐぅぁぁ!」

 

「先輩♪ 助けて欲しいですか?」

 

 マシュがそう訪ねてくる。

 

「っぐぁぁぁ……ぐ、ぅ!」

 

 痛みが酷い、恐怖はある。それでもなお、マシュ・オルタの望む答えを出す事を、怒りと意地が許さない。

 

「あっは♪ そんな涙目で強がっちゃって……」

 

「失礼します」

 

 マシュが一瞬真顔になると同時に、牛若丸が足をに刀を刺した。

 

「っぐぁぁぁ、あああああ!!」

 

 刺したまま、刀が傷を広げ始める。

 刺さった刀を牛若丸が抉るの様に左右に動かしているんだ。

 

「ハハハ! 先輩、良いんですか? 夢の中じゃ、この程度では気絶しませんよ!?」

 

(痛い痛い痛い! やめろやめろやめろ!!)

 

 骨が斬られ、肉がかき乱され、血が吹き出る。

 どう足掻いても、長くは持たなかった。

 

「だ、だず、げで……」

 

「あっはは♪ 素直な先輩ですね♪」

 

 嬉しそうに笑ったマシュがゆっくりと動き出したと思ったら、次の瞬間、俺に覆いかぶさっていた式も、刀を動かしていた牛若丸も壁へと吹っ飛んでめり込んで、やがて消滅した。

 

「じゃあ、聖杯よ、先輩の傷を治したまえ〜」

 

 胸の間から聖杯を取り出したマシュが軽い口調でそう言うと、俺の斬られた両足が元に戻る。

 やがて、痛みも引いていく。

 

「……っはぁ、っはぁ、っはぁ……」

「わわ!? 先輩の顔、よだれと涙と汗で凄いくしゃくしゃですね! 今拭いてあげますね?」

 

 マシュは顔を近づけると、舌で額も鼻も口元も舐めてきた。

 

「美味しいな……先輩の体って本当に美味」

 

「ッヒィ!」

 

 首を舐めながらまるで本当に食べられるかの様な感覚に陥る。

 

「すっかり怯えちゃって……可愛いな、もう!」

 

 分かった気がする。このマシュ・オルタの真意が。

 

 アーサーがオルタ化した時、暴君としての側面がはっきりと現れたが、根本では何も変わっていなかったらしい。

 

 このマシュも、本来の彼女同様“守りたい”と言う決意は変わってはいない。

 

 だが、オルタ化して、ヤンデレと化した事で“こんな私でも、全力で守りたい”と言う献身的な物では無く、“私だけが貴方を守れる”と言う身勝手な物に変わってしまったんだ。

 

 先の式と牛若丸の拷問で追い込み、俺を守ったのでは無く、守る様に頼ませたのがその現れだ。

 

「まーた何か考えてるんですね、先輩♪ もっと私を見ないとダメですよー?」

 

 マシュは消える。

 先程まで立ち止まっていたデオン、エウリュアレ、ブーディカの3人がこっちに近づいてくる。

 

「マスター、遠くに行っちゃ駄目だ。ああ、離れられない様にしないと」

 

 主の望みを叶え、フランス王家とマスターである俺に忠誠を捧げていたデオンは、オルタ化の影響で自分の欲望に忠実になっている。

 

「マスター様! 何か欲しい物はございますか!? エウリュアレ、全力でお手伝い致しましょう!」

 

 自分が偉いのが当たり前、崇められて当然だとふんぞり返っていたエウリュアレはデオンとは対照的に盲目的に俺を信仰している様だ。

 

「マスター……逃げちゃ駄目だよ? アハハハ!」

 

 ブーディカに至っては浮気元々の迷いが吹き飛んで愛が暴走している。

 

「っく……!」

 

(これだったらマシュ・オルタに守られていたほうが良かった!)

 

 再び絶望的状況に追い込まれ、そんな都合の良い事を考え始める。

 

「エウリュ――」

 

「――誰を呼ぼうとしてるの?」

 

 一番好意的なエウリュアレに助けを求めようとしたが、言い切る前にデオンが接近した。

 

「っ!!」

 

 首すれすれで刃を向けられ、そのままデオンが背後に回る。

 

「マスター、君が頼っていいのは僕だけだ。僕の言う事を聞いていればいいんだ」

 

(くそ! エウリュアレは地雷かよ!)

 

「駄目だよ、デオン。マスターは私の物だよ」

 

 ブーディカは剣を構え、デオンに向ける。

 

「マスター! お助け致します!」

 

 エウリュアレも弓矢を構えるが実質、デオンに捕まった俺に2人の武器が向けられている状況だ。

 

(どいつ頼っても駄目みたいだな……)

 

 と言うより、マシュを頼らなければならない状況が出来上がっているんだ。

 

「デ、デオン……放してくれないか?」

「断る。マスターは僕の物だ。誰にも渡さない」

 

「マスターを物扱いとは……度し難い。土に還らせましょう」

「マスター、今助けるから」

 

 ブーディカが駆け出す。同時に、デオンが俺を突き放す。

 

「ッ! 冗談だろ……」

 

 突き放されたせいで見えにくかったが、ブーディカが振った剣は俺の首があった場所を切り裂いていた。

 

「渡さない。渡すくらいなら私が殺す」

 

 滅茶苦茶だ。

 俺の動揺など気にも止めず、ブーディカは更に接近してきた。

 

「させない」

 

 それを阻むデオンだが、振った剣はブーディカの盾に阻まれた。

 

「マスターは、私がお守り致します!」

 

 エウリュアレは構えていた矢を放つ。

 やはり、言っている事とは裏腹に、狙いは俺だ。

 

「っく!」

 

 回避できたのはブーディカから逃げようと体を動かしていたからだ。

 

「嘘だろ……」

 

 しかも、放たれた矢は床に穴を開ける程の威力を持っていた。

 

 魅了の矢の威力じゃない。当たれば間違いなく死ぬ。

 

「マスター! 避けないで下さい! 今助けますから!」

 

「しゅ、【瞬間強化】!」

 

 再発動可能になったスキルを発動し、俺は駆け出した。

 

「マスター、逃げるのを許した覚えはないよ」

「アハハハ、すぐ捕まえてあげる!」

「マスター、お待ち下さい!」

 

 俺を追おうとする3人。こういう時は争わないのか……!

 

「逃げるたって……!」

 

 部屋が無い。廊下は一本道だ。瞬間強化が切れれば俺はあのサーヴァント達にあっさり捕まるだろう。

 

 部屋が無い理由は簡単だ。マシュ・オルタが召喚したサーヴァント達には部屋が与えられていないので、この長い廊下に部屋が1つしか無いんだ。

 恐らく、俺の逃げた方向とは逆の方向に。

「……く!」

 

 廊下は無限ループ。そのループを示す階段を降りる。 

 

 その先は、広場だ。

 

「……くそ……」

「マスター! お待ちしておりました!」

 

 広場に現れた俺に、両手を広げたエウリュアレの待ち伏せだ。

 後ろからは足跡も聞こえる。

 

(どうする!? 何か手は!?)

 

「エウリュアレ、退いてくれないか? 俺はそこを通りたい」

 

「ダメですよ! そんな事を言って、他の女に会いに行く気ですね!」

 

 駄目だ、話が通じない。

 

「マスター、私から逃げるなんて……許さない」

 

「マスター! 絶対に愛してあげる!」

 

 逃げる手段を失った! 令呪もないし、どうすれば……

 

(……チャンスがあるとすればエウリュアレの方向だが、もう強化は使えない。横を抜けようとして捕まったら元も子もない……)

 

 そもそもマシュ・オルタの狙いは俺に彼女を頼らせる事だ。もし死んでも、聖杯の力で生き返らせてくるだろう。

 つまり、俺が死ぬ事に恐怖を懐かず受け入れれば……

 

(できりゃあ苦労しないっての!)

 

 駄目だ。先の恐怖に体全体が死を拒絶している。大体、生き返らされる前に今のマシュに拷問されれば今度こそ心が折れる。

 

「さあマスター……殺して、愛してあげる」

 

「あは! マスターを抱きしめてあげないと!」

 

「マスター、一緒に旅立つましょう?」

 

 細剣に片手剣、弓矢。

 

 俺はエウリュアレへと走った。

 

「マスター、どうぞこの一矢で――」

「エウリュアレ、好きだよ!」

 

 向かってくる俺の告白に、エウリュアレの腕が止まった。

 

「っ!」

 

「っは!」

「ふっ!」

 

 同時に、怒りが湧き上がったデオンとブーディカの攻撃は更に速くなる。

 

 エウリュアレの2歩手前。剣が同時に俺を切り裂こうとするこの瞬間――

 

「【緊急回避】!」

 

 俺は2人の剣を避けてエウリュアレの背後へ。

 

「足止めよろしく!」

 

 エウリュアレへ無茶振りをしつつ、俺は広場を出て、廊下へと走った。

 

 

 

 

「マスター、辿り着いちゃいましたか♪」

「マシュ……」

 

 広場を出てすぐ、俺はマシュの部屋に辿り着いた。

 入らなければ3人に追い付かれる以上、入るしか選択肢がなかった。

 

「マスター……私が現れた理由、分かりますか?」

「……一昨日のアレ、か?」

 

「正解です♪ マスターが、あの雌豚と体を重ねていたのを思い出すだけで……!!」

 

 戦慄した。

 その怒りでマシュ・オルタの足元から何かが浮かび上がり、俺はその何かを見て震える。

 

「し、式……」

 

 着物もナイフも無残に壊された両儀式が、何人も何人もそこら中に倒れている。

 

「アハハハ! 聖杯でいくらでも呼び出せるからつい50匹位殴っちゃいました! おかげで、聖杯の魔力もすっかり無くなっちゃた♪」

 

 笑うマシュ。式……のよく出来た偽物は床の下へと消える。

 

「マスター……汚れたお体……綺麗にして差し上げます……♪」

 

 そう言うとマシュは唇を舐めながら近づき、笑顔を浮かべる。 

 

(くっそ! あの3人のサーヴァント、俺が部屋に近づけば近づく程歩みが遅くなってた……! 誘い込まれたと同時に、部屋の外では3人が待ち構えている筈……)

 

 ゆっくりとした足取り。

 それが逆にこれから俺を捕食しようとする口に見えて、焦燥感と恐怖心を煽る。

 

「どうしました、マスタっん!?」

 

 ならばと、こちらから唇を奪う。

 

「ん……」

「――」

 

 唇を重ねるだけの長いキス。俺はマシュの頭を優しく抑える。

 

「っはぁ……」

「んぁ……その気になってくれたんですね♪ マスター♪」

 

「お断りします」

 

「……マスター、なんて言ったのかしら?」

「断るって言ったんだ」

 

 今のマシュがどんな存在なのかなんて、詳しい事は分からないが、1つだけ、どんなに恐怖心が膨れ上がっても、1つだけバカバカしい事実がある。

 

「俺は! 今日初めて会った奴に無理矢理体を奪われたくない!」

 

「……?」

 

「それに、自分の物じゃない嫉妬を理由に迫られるのは絶対にお断りだ!」

 

「何を言っているです? 私はマスターを愛して――」

 

「愛はオルタ(お前)の気持ちだ! 嫉妬はマシュの物だ、他人がそれを代弁するな!」

 

「私はその感情よって生み出された反英霊ですよ? 人格は異なりますが――」

 

「なら、他人だ!」

 

「何故です? 私の体は間違いなくマシュ・キリエラ――」

 

「オルタだからだ! お前がオルタなら、どんなにマシュと同じであっても他人だ!」

 

 そうだ。アーサー王であろうと、聖女ジャンヌであろうと、クー・フーリンであろうと、オルタである以上、体と背負った運命が同じだけの他人でなければならない。

 

「……屁理屈を。それにどんなに言葉を並べられても、体を重ねてしまえば――」

 

「――その態度が一番気に入らない!」

 

「マスター……あまり怒らせない方が――きやっ!」

 

 俺は尻を叩いた。

 

「現実的に考えて尻を意識して動き過ぎ、胸を動かし過ぎ、間抜けなビッチ臭して萎える。慣れている雰囲気出すな、童貞のハード上げてるだけだし。

 キャラとしてもお色家担当はヒロイン枠から不憫やら百合枠への異動の可能性があがる。マシュはセクハラされるキャラだけどお前は存在自体がエロいから、サブヒロイン枠何処ろか尺稼ぎにしかならんし、そもそもFateのサーヴァント舐めんな。黒化してエロくなるだけじゃキャラが弱い。あと――」

 

 と、思いつく限りのダメ押しをしてやった。

 

「――以上! じゃあ、マシュ・オルタ実装開始な。カルデアでガチャ回して、当てて良いんだな?」

 

「すいません、私が悪かったです……」

 

 頭を下げるマシュ・オルタ。俺は厳しい視線を浴びせ続ける。

 

(……なんか圧倒できて助かったー……もうなんか偉そうな事言って怯ませるしか手がなかったし……)

 

 内心、めっちゃ安心していた。

 

「……オルタッシュ」

「雑ですね! すっごい雑な渾名!」

 

「Fateファン舐めんな。公式の失敗やら公認ネタでもっと呼び安くて屈辱的な渾名を作るぞ。マシュ・アダルタナティブとか」

 

「うー……そもそも、話を逸し過ぎです! 私の怒りはこんなものじゃ……」

 

 気づけばすっかり、紅いラインも見えなくなり、鎧の色もいつも通りになっている。

 

 俺は両手を広げて、マシュへと向き直す。

 

「ほーれ、好きなだけ怒れ怒れ。本物のマシュならその資格があ――」

 

「じゃあ、遠慮なく♪」

 

 完全に油断してました。

 

 

 

 ベッドに押し倒され、左腕と左足、右腕と右足に柔らかい体を押し付けられて動けない。

 

「……えーと……正直調子乗ってました」

 

「そんな事ないですよ?」

 

 右でマシュが優しい笑顔を浮かべ、

 

「遠慮しないで、ね♪」

 

 左ではオルタが、楽しそうに笑っている。

 

「さ、流石に3Pは……」

 

「じゃあ」「1体1なら良いんですか?」

 

 最初にオルタが消え、入れ替わる様にマシュが消えオルタが現れる。

 

「お、俺……彼女いるし」

 

 テンパった俺、それは完全に悪手である。

 

「あっは♪」

「じゃあ、いっぱい練習しないと♪」

 

「い、いえ……マジで結構なんで……」

 

「満足させてあげます」

「彼女の事、忘れる程に……」

 

 

 

 “夢精したら、2倍って言いましたよねぇ? しかも、2人でなんて、ねぇ?”

 

「ヤンデレポイントォ……貯まちゃったじゃないですかぁ?」

 

「っひぃ!? 何でいんの!? 合鍵なんて渡してないだろ!?」

 

「3000の倍に2人分ですので更に倍で、12000ポイント、ですね?」

 

「両手足が縛られてる!? ちょ、タイム! マジで止まって!」

 

「許す訳ないじゃないですか」

 

「先輩が私だけを見て、私だけで達する様になるまで、扱いてあげます」

 

「夢であろうと……ね?」




その後、主人公を見た者はいない……

GAME OVER

さて、次回からどうしよう?
よし、別の主人公を投入しよう。(嘘)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。