ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
送って下さったのは SE さん、EX-sはフルアーマー さん、陣代高校用務員見習い さんの3名でした。後者の御二人は本企画2度目の応募ありがとうございました。
記念しておいてなんですが、来月からまた更新頻度が落ちると思います。
ですが、これからも皆さんに楽しんで頂けるような話を書いていきますのでどうか応援よろしくお願いします。
8.二天一角馬(切大)
「――っどわ!?」
咄嗟に顔を右に動かして、迫ってきていた刃を躱した。出なければ、きっと浅く頬を切られるだけでは済まなかっただろう。
「おー、感心ね! これくらいならちゃんと見切れるのね!」
「いや、なんで挨拶したら刃が飛んでくるんだよ!?」
突きまでツーモーション位有ったから大事に至らなかったけど、命を落としていないのは奇跡だっただろう。
「ごめんごめん。今日ってハロウィンでしょー? ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど」
「武蔵ちゃんってやっぱり馬鹿だな!?」
こんな珍事をやらかした張本人、宮本武蔵はケロッとした顔で謝るだけだった。
しかも、その姿はピンク色に星柄の和服で、頭には柔らかそうな角の飾り物まで付けている。海外のアニメ、マイリトルなんちゃらを彷彿とさせるファンシーな衣装だ。
「そんなんだか……ら……?」
もっと悪態を吐こうとした俺の足元が突然フラつき、倒れそうになる体を武蔵が抑えた。
その顔に笑みを浮かべていたので、恐らくこれは彼女の仕業なんだろう。
そこまで理解できた所で――俺は意識を手放した。
「えへへへ……」
「え、お姉さん、誰……?」
か、可愛い……!
着ていた礼装の大きさが魔術的な作用で縮んで脱げなかったのは残念だけど、その姿余りの可愛さに見とれ、よだれを零してしまっていた。
私が刀に仕込んだのは若返りの霊薬。これがマスターの体に入って、今の彼は5歳程度の幼い姿と精神に戻っている。
ちょっと恥ずかしかったけどこのユニコーンだっけ? 一角獣のコスプレをしてまで参加してよかったぁ!
「これで、マスター君は私の物よね!」
「ちょ、ちょっと!? は、離して!」
ふふふ、暴れちゃって可愛んだからぁ!
でも、今の君には記憶が無いから例え逃がしても……
「え……ど、何処此処!?」
「カルデアの中なんだけど、覚えてないのかなぁ?」
「か、カルデア……? ま、ママは!?」
っんん!!
ママ! あの凛々しくて警戒しまくってたマスターがママ呼び!
「っう……うぅ!」
「あ、な、泣いちゃった……!」
「泣いて……泣いてない!」
必死に強がってる……! 可愛い……ああ可愛い。
「よしよし、なら、お姉ちゃんがお母さんの場所まで案内してあげる!」
「ほ、本当……?」
「うん、任せなさい!」
「ありがとう、角のお姉ちゃん!」
その呼ばれ方だけはちょっと複雑だけど……まぁいっか!
このまま私の事を大好きなお姉さんになってあげれば、他のサーヴァントに取られたりしない筈よね。
初恋のお姉さん……悪くない響きね!
「じゃあ、取り合えず私の部屋に行きましょう! この建物の人に電話すればきっとお母さんを呼んでくれるよ」
「うん!」
よしよし……このまま私の部屋に連れ込んであげちゃいましょうね。
「――此処がお姉さんの部屋よ」
「わぁ……え?」
まあまあ遠慮しちゃって……え?
「……道場?」
「道場ね……」
あれれ……? 前もこんな事があった様な…… (※ヤンデレ体験・武蔵参照)
「うーん、まあいいや。電話はあるからちょっと待ってね」
壁に備え付けられた電話を手に取って、取り合えず連絡するフリだけしておこう。
「もしもし」
『こちら、演出係のアベンジャーだ』
「あれ、いるの?」
『迷子なら、それらしい放送を流してやってもいいぞ』
「じゃあ、そうしてくれると助かるかな。思ったより不安そうだし」
『分かった』
そんな電話をして数秒後、お母さんに此処まで迎えに来る様にと言う放送が流れた。
「これで安心ね」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
よし、これで私は何の負い目もなくマスター君と触れ合える……!
「それじゃあ、マスター君は着替えなくっちゃ」
「着替え?」
「うん! 今日はハロウィンって言って、お化けの恰好をして驚かせる日なのです! お母さんを驚かせたくない?」
「……やりたい!」
「でしょー? じゃあ、こっちに衣装があるからおいでおいで!」
チョロい……いや、子供だから純粋と言うべきか。
こんな簡単に初対面の人を信じて付いてっちゃうなんて、お姉さん心配です。
「はい、服はこっちに置いてね?」
「これでいいの?」
美少年の上半身!
スベスベで、柔らかそう……ふふふ、私が二天一流を修めていなかったらもうペロペロしてたかもしれないわね。
「……お、お姉ちゃん? く、くすぐったいよ」
「ご、ごめんごめん……ええっと、君に合いそうなのは……これかなぁ?」
そう言って私が選んだのは、一番に似合いそうな全身包帯とスーツの透明人間姿。
「とと……落ちちゃったわ」
慌てて床に落ちた包帯を拾い上げる。
「よーし、今すぐ着替えさせて――あれ?」
え、消えた?
「や、山姥だ!」
僕は自分の服を良く分からない場所を走りながら、少し前に保育園のテレビで見た妖怪を思い出した。
山に住む人食いババアで、牛を丸呑みにしたりもする怖いお化け。
先のお姉さんが角が生えてて和服だったのは、きっと山姥が化けていたからだ。
鬼みたいな角を隠す為にあんな物を着けていたんだ。
だから、逃げないと……!
「まだ来てない! でもどこかに隠れないと!」
確かあのテレビだと足が速くて、このままじゃ追い付かれちゃう。
「此処に隠れよう!」
僕は近くにあった椅子の下に潜って隠れた。
「まーすーたー? どこ行ったの?」
「っ!」
慌てて両手を口に当てて、息を止める。
(もう、急にかくれんぼがしたくなっちゃったのかしら? あの椅子の下から気配がするけど……)
こっちに来てる……どうしよう、今から逃げる!?
(まあでも、ちょっと位付き合ってあげても良いかな)
「こっちの方かな?」
良かった、通り過ぎて行った……
「でも、山姥なんてどうやって倒せば……確か、お爺さんが大きなお湯の入った鍋に落としてたから、それを見つけないと!」
今度は元来た道を足音を立てない様にゆっくりと走っていた。
(……霊体化して見守ってたんだけど、え? 私、山姥と思われてる?
うーん、これはちょっと懲らしめてあげないといけないわよね?)
廊下を歩いて暫く歩いていると、見た事ない大きい扉を見つけた。
その上には開けてすぐに階段があった。
階段を上ると、直ぐ横にプールがあったんだけど湯気が出ていてとても熱そうだ。
(そうだ! この熱そうなプールの中に落とせば!)
「――可愛いあの子は、何処かなぁ?」
そんな事を考えていると、山姥の声が聞こえて来た。
すっごい悪そうな声。
「お姉さん、ちょっとお腹が減って来たのになぁ~?」
もうこっちに来てる……よし、入り口の横に隠れて、出て来た所を思いっきり押せば……!
「此処かなぁ?」
「今だ!」
ばっと両手を前に突き出してこのまま山姥を落とせば――そう思っていたけど、僕の前から誰もいなくなり、気付いた時には僕がプールに落ちそうになっていた。
「う、わぁぁぁっ!?」
そんな僕の首は、山姥に掴まれた。
「ふふふ……ねぇ? このまま、このアツアツのプールの中に入りたい?」
「あ……う、い、いやだ……」
「でもなぁ? お姉ちゃん、山姥だから……君の柔らかいお肉、料理して食べてみたいなぁ……」
「あ、あぁぁ……」
(ちょーっとやり過ぎちゃったかな? でも、後はちょっと優しくしてあげれば――)
「――母スマッシュ!」
――突然、僕は誰か知らない人に抱きしめられ――
「母レーザー!」
――ママに抱き締められていた。
「ママっ!!」
「よしよし……もう大丈夫ですよ。母が来たからには、悪い鬼は勿論、侍も、我が子に触れさせませんから」
「っぐ、げ、源氏の侍大将!? な、なにその恰好!? 唯の今風の割烹着、エプロンじゃない!」
「今の私は、この子の母親ですので」
「まさか、ハロウィンに母親の恰好で参加したの?」
「ええ、我が子を襲う悪い鬼は私が母として、責任を持って処理せねばなりませんので――」
――後日、元の姿に戻った俺は暫く雷が怖かった事、そして自分の母親が母親で良かった事を深く感謝するのだった。
9.誠・オブ・ザ・デッド ~学校の怪談~(切華)
「っ! 此処は……」
私は、ゾンビになった沖田さんの頭を切り続けていたのに……いえ、それは昨日の出来事だったけ……?
兎に角、今私がいるのはカルデアール学園だ。
「なら、何処かに玲がいるよね。探さないと」
「切華さーん!!」
「っ!!」
その聞き飽きた声を聴いた瞬間、殆ど反射で背負っていた竹刀を握って後ろを一閃し――
「――っおわぁ!? ちょ、ちょっと!? どうして邂逅一番で頭を落としに来るんですかぁ!?」
「……ゾンビじゃない?」
其処に居たのは白い学生服を着て、頭には作り物だと分かる包丁が刺さった様に見える飾りを頭に着けている沖田総司だった。
「だ、誰が吐血ゾンビですか!? 沖田さんはご覧の通りピンピンして――コフ!?」
「あ、お、沖田さん!?」
口から吐血して倒れかけた彼女の体を支えつつ、なんとか立ち上がらせた。
「な、なんの……まだまだ行けますよ……」
「無理しないで……って、本当に大丈夫なんだ」
もう普段通りの足運びに戻ったのを見て感心しつつ安堵した。
「ええ! それもこれも、マスター候補の切華さんがお傍にいるお陰です。
ですから、学園に血痕を流さない為に今日も一緒に居ましょうね?」
「ごめんなさい、私ちょっと今日は用事があるから……」
「なら私もご一緒します!」
「……」
多分、このまま拒絶しても付いて来るつもりだろうし、時間を使ってもしょうがない。
「はぁ……じゃあ、行くよ」
「はい! 行きましょう!」
こうして沖田さんを連れて私は玲を見つける為に、夕方の校舎へと向かった。
今はハロウィン習慣らしく、コスプレしたり、校舎の外では食べ物を売ってる屋台もあるみたい。
「誰かを探しているんですか?」
「内緒」
「むむ、そうですか……折角ですし、何か食べ物を貰いましょう」
「別にいらない」
「そうですか? あ、すいませんイチゴのフルーツ飴を2本下さい!」
人の話を聞いていないのか、サッと行って帰って来た沖田さんは私にフルーツ飴を差し出してきた。
「沖田さんの奢りですよ!」
「……ありがとう」
受け取って食べてみると、カリカリとしていて甘い外の飴と瑞々しい中の果実の食感が、あっと言う間に口の中を満たしていた。
「どうです? 美味しいでしょう?」
「美味しい……」
「さあ、食べながら行きましょう!」
串に刺された5つのイチゴを上から順に頬張りながら歩いていると、漸く玲を見つける事が出来た。けど……
「謎のヒロインXオルタ……」
「あれが噂のマスター候補バーサーカーさんと付き添いの甘党さんですね。それで、甘党のXオルタさんに何か用事ですか?」
「違う。私は玲に用事があるけど……まずは邪魔者を」
「って、不味いですよ切華さん! カルデアール学園のマスター候補とは言え、流血沙汰になったら退学かもですよ!?」
「玲の隣に他の女がいるのに……」
「兎に角一度落ち着きましょう」
制止を振り切ろうとも思ったけど、確かに玲が近くにいたんじゃどのみち奇襲も効かない。
「闇討ちをする機会を伺いましょう。女子トイレとか、きっと1人になるタイミングがあります」
「流石新選組! 頼りになる!」
「えへへ、それ程でもあります!」
彼女の言葉を頼りに、私は気付かれない程度に距離を保ちつつ玲達の後を追う事にした。
やがて、彼らは家庭科室に入っていった。
入り口には看板が立て掛けれていた。
「喫茶店?」
「みたいですね……入ってみましょう!」
入って直ぐ、生徒達の中に玲とXオルタを見つけた。
私達はその斜めの席を陣取って監視を続けた。
「何を頼みます?」
「私は変な事をしないか見張ってるから勝手に頼んでて」
「はい! あ、すいませーん」
とは言え、校内で唯一飲み食いが出来るこの場所には沢山の生徒達がいるし此処で妙な事をするとは思えない……いや、油断しちゃダメ! 絶対ダメ!
「えと、お茶と後このカップル限定のドキドケーキを……え? 勿論カップルです! そうですよね切華さん?」
……? 集中して聞いてなかったんだけど……
「ええ」
「え、後ほど写真? はい、良いですよ!」
なんだろう……あの娘、不機嫌そうだけど喧嘩でもしたのかな? あ、こっそり笑った! 玲、アレでナチュラルに口説こうとする時あるから……中学の頃だって、何度も「一番好きだ」って言いながら私の竹刀を受け止めてたし……!
「あ、今です!」
パシャリと、定員さんがスマホでいつの間にか隣にいた沖田さんと私を写真に撮った。
「沖田さん? 邪魔してるの?」
「違いますよ。喫茶店の記念だそうです」
「そっか……」
「あ、ケーキ切りましたよ。食べましょう!」
「うん、ありがとう」
一切視線を変えずに皿を受け取ると、あちらにも定員がやってきた……って、アレは!?
(看板に書いてあったカップル限定のケーキ!?)
思わず腕に力が入る。
玲はそんな甘い物を食べないからアレはきっとXオルタの物だろうけど……やっぱり、フォークを玲に突き出して! あーんをする気だ!
「させるかっ――」
「――っあむ!」
「ちょ、沖田さん!?」
手に持っていたフォークを投げようとしたけど、沖田さんが先端を口に入れたので止まってしまう。
「むん……駄目じゃないですか切華さん。捨てるなんて勿体ないですよ?」
「べ、別に捨てるつもりじゃなくて私は!」
「大丈夫です。ほら」
沖田さんに指を刺され、慌てて玲へと振り返ると2人は誰かにケーキを奪われてそれを追いかけていた。
「っ、急がないと!」
「お会計は済ませて置きましたので、行きましょう」
もう家庭科室から出て行った玲を追って、私達も廊下に出た。
「でも、一体誰がケーキを?」
「あの人を狙うサーヴァント候補生は多いですからね。きっとその内の一人でしょう」
「へぇ……多いんだ」
つまり、あのケーキを持っていったのは敵。玲の隣にも敵。
「全員倒せば、当然私が玲に……」
「切華さん、止まって!」
2階から1階への階段で沖田に肩を掴まれ、階段の陰に屈んだ。
「気配からして、盗人は囲まれたみたいです」
「囲まれているのは……沖田オルタ!」
何かを話している様だ。近付いて話を聞いてみる。
「……部長、私は新聞部として食べ物の情報を集めていた……そして、このドキドケーキにまつわる伝説も耳に入れた」
「伝説ぅ?」
「愛の女神であるカーマ先生が年中女難なエミヤ先生と一緒に作ったこのケーキを分かち合い、食べたカップルはその翌年まで一緒に居られる。
だから先程、部長とXオルタのあーんを阻止した!」
「っえ!? そうなの!?」
「これは、少しどちらにつくか考えないといけませんね」
「そして部長、今度は私のあーんを受けてもらうぞ! あむ、あーん!」
「させないわ」
沖田オルタがフォークを突き出すと同時に、包囲していた和服姿の美人さんが日本刀でそのフォークを切り裂いた。
「それじゃあ部長、私と一緒に食べましょう?」
「どっから出したそのフォーク」
「ふざけないで下さい。そのケーキは私が部長と一緒に頼んだドキドケーキです」
なんだが……混乱しているみたい。
「切華さん。どうしますか?」
「切り込むにしても混戦してるし……ん?」
不意に私は2階に現れた気配に目を向けた。
その先には金色の髪を後ろに縛った女子生徒が――
「――っ! 沖田さん!」
Xオルタの機嫌を取る為にハロウィンデートをしていた筈だが、いつも部活メンバーである沖田オルタ、謎のヒロインX、式セイバー、そしてジャンヌ・オルタに囲まれ何故かケーキの争奪戦に巻き込まれる羽目になった。
なんでも、アレを俺が食べれば一年間一緒に入れるそうだが、そもそも俺はまだ2年生なので来年も一緒に居られるのは当然だろうに。
「セイバー死すべし! ついでにケーキをよこしなさい!」
「誰にも渡しません! これは私と部長のケーキです!」
「ふふふ、安心なさい。ケーキ以外は全て黒焦げしてあげます」
「此処で貴方達との腐れ縁も切ってしまおうかしら?」
「む、このケーキ……美味しい! だが、部長の分は残さなければ……!」
しゃーない。アレを取り戻さないと、Xオルタの機嫌が斜めなままだ。
「好き勝手言いやがって……良いぜ、こうなったら纏めて相手してやらぁ!」
俺が両拳を鳴らした、その時――
「――二歩!」
俺が気付くより早く、既に一歩で加速した水色の誠が俺の横を通り過ぎていた。
「三歩!」
自分の周囲を警戒していた沖田オルタの手の中からケーキを奪ったそれは、器用にも半分に切られたホールの形を崩さないまま俺達の頭上へと投げてきた。
「よっし、このままキャッチして――あだっ!?」
「三歩!」
今度は切華が踏み込み、その際に俺の肩を踏んづけてケーキを搔っ攫いやがった。
「っと!」
「逃がすか!」
「ケーキをよこしなさい!」
階段へと逃げる奴をXオルタと他の全員が追いかける。
俺もその後に続いて階段を登り切るとそこには――
「――ふぅう、ご馳走様でした」
あの一瞬でケーキを完食した金髪の三年生――アルトリア・ペンドラゴン先輩がいた。
『…………』
その余りの速さにか、それともケーキがなくなり呆然としているのか部員の誰もが口を開いたまま言葉を発さずにいた。
「……ん! そこの眼鏡姿の貴女!」
「……え? 私ですか?」
突然、彼女はXオルタを指さした。
「私の直感で分かりました! 貴方は食に通じていますね! 丁度良かった。今度アルトリア・ペンドラゴン部でパーティーの幹事に選ばれたので誰かに菓子を見積もって頂こうと思っていたのです。貴方は間違いなく適任です!」
「え、いや、まずはケーキの弁償を……」
「さあ、行きましょう! 丁度貴方は私っぽいですし入部してみるのも良いと思います!」
「いや、なんで勝手に話を――部長、助けて下さい!」
あっという間にXオルタはグイグイと引っ張られていく。
「ああ、そう言えばあのケーキを分かち合った2人は次の年も一緒に居られるって噂でしたね……」
「大丈夫か? あのまま引き抜かれたりとか……」
「いえ、どうせ1話完結の話ですし次回には綺麗さっぱり戻って来る事でしょう」
謎のヒロインXがだいぶメタい説明をしてくれた所で、俺は3階への階段を睨んだ。
「……まあ、落とし前はしっかり着けて貰わないとな」
見事に場を引っ搔き回してくれた幼馴染を追う為に、俺は階段を登ったのだった。
「――……沖田さん」
「楽しかったですか?」
夜空を眺める様に倒れた私を、沖田さんは見下ろしていた。
満身創痍。疲労困憊。
突然乱入して、ケーキを奪った挙句アルトリア先輩に食べさせた私に玲は説教だと拳で語ってくれた。
余りにも激しくて時間すら忘れてしまう程に苛烈な
「――勿論、楽しかった」
「そうですか。それは良かったです」
私の横に並ぶ様に沖田さんはその場に倒れた。
「私も、楽しいトリートでした」
そう言えば今日はハロウィンだった事をその言葉で思い出して、わたしも笑った。
「沖田さん、先のあれは
「……私も、トリックが成功して良かったです」
「え? 何か悪戯したの?」
「ええ。沖田さん、大成功です」
10.瞳/それが見たら終わり(オリジナル)
目を閉じて微睡へと落ちて行き、夢の中でぼんやりとした意識が浮かび始めた時、既にひんやりとした感触に頭を預けていた。
「……んっん」
毛布は無い。だけど夏の暑さが体に伝わっていたからオイラにはその冷たさが丁度良かった。
――もっとも、目を開けたと同時に赤い瞳と目を合わせた時は流石に体中がゾッとしたけど。
「おはよう、ございます」
「お、おはよう……ございます」
長い紫色に近い紺色の髪の女の子を見て浅上藤乃で間違いないと思ったけれど、その衣装は普段とは異なる白一色で、こうして彼女の膝枕を堪能していなければオールドタイプの幽霊と見間違えていただろう。
「此処でお会いするのは2度目ですね」
「え、えっと……なんで膝枕なのかお伺いしても?」
「深い意味はありませんよ? ただ、こうしていると……貴方が良く視えますので」
「……」
彼女は英霊ではないが今はアーチャークラスのサーヴァントとして存在してる。
その由来は歪曲の魔眼。
視たものを捻じ曲げると言うおっかない瞳。それを理解している一般人のオイラはこの時点でビビっている。
「え、ええっと……あの、顔を上げても?」
「駄目です」
問いかけつつ顔を上げようとしたけど、答えの前に顔を手で抑えられた。
「折角再会できたのですから、どうかこのまま目を逸らさずにいて下さい」
「……」
そう言われると、むしろ別の方へと目を向けてしまいたくなる。
なんだか古そうな和室の中……もしかして。
「こら。駄目じゃないですか」
「此処ってまさか……」
「? ああ、そうでした。
そうです。私達が夏のひと時を共に過ごしたあの民家です」
って、それって3分の1の分岐でバッドエンドだったじゃないですか!?
「大丈夫ですよ。今日はハロウィンですのでそんな酷い事はしませんよ」
「……」
そんな自然に心中を察せられたら安心できないです。
「あ、じゃあトリックオアトリート!」
此処は自分から強請ってしまおうと、軽口の様な口調で彼女に言った。
しかし、彼女はまるで小さな子供を見つめる様な優しくも何処か余裕のある笑みを浮かべると、こちらにそっと紙袋を差し出してきた。
「はい、どうぞ」
「あ、ご丁寧にどうも……って、これ!?」
紙袋の中身は、仕事帰りのコンビニで金銭的に買うのを諦めた期間限定商品のホワイトチョコチップクッキーだった。
喜ぶ俺の手からパッケージに入ったままのクッキーをふじのんが取って、視線の真上で揺らした。
「これ、食べたかったんですよね?」
「ありがとうございます! ……あの?」
「開けてあげますね」
パッケージを開けて、1枚だけ入っている拳程度の大きさのクッキーを彼女は俺の口へと持ってきた。若干強引だったので、奥に入って噛みにくい。
「それじゃあ、私も」
「っ!?」
逆側からふじのんがクッキーを噛んだ。前に突き出された彼女の胸が視界を覆う。
「……ん! んぐんぐ……! 美味しいですね。
あ、後は全部食べていいですよ?」
いや、そんな場合じゃないだろ。そんなツッコミを入れなくてもすべて理解していると言わんばかりの笑みに、味も分からないままクッキーを食べて終わった。
「ふふふ、トリックもトリートも用意していましたよ」
「こっちはあんまり面白くないんだけど」
「そうでしたか? でも、流石にこれ以上はしたない真似をしろだなんて……」
「言ってないから! しなくていいから!」
やばい……ずっとふじのんにペースを握られている……ああ、恥ずかしい。
……ん? あれ、なんかデジャブ……?
「恥ずかしいですか? そうですよね。貴方は立派な社会人です。
自分の半分以下の小学生に好き勝手にされたりして、悦びを覚える様な人ではないですよね?」
「も、勿論……」
「……忘れていますね」
「え?」
「私、実はこの空間から貴方をずっと監視していたんですよ。昨日何が起きたかは勿論、貴方がこのおかしな悪夢を見始めた時から」
その言葉に、一気に血の気が引いていく。
昨日の事は覚えていないけど、こんな事を暴露している彼女から怒気を感じているのはきっと気のせいではない。
「……小学生に馬乗りにされて……抵抗して抵抗して……でも最後に、貴方はどうなったと思います?」
「……え、ええっと……」
彼女の眼に、魔力が溜まっていくのを感じる。
あのシナリオでバッドエンドを体験したからだろうか、段々体が勝手に震えている気がしてきた。
「そうだ。先週のローマ皇帝さんのベッドの寝心地も教えて頂けますか? 狐さんのお楽しみは楽しかったですか? 月のマイルームはどうでしたか?」
「っひ!?」
徐々に周囲の空間が凶がり始めている。天井も壁も、柱も……だけど目の前の彼女だけははっきりと、そのままの姿でこちらを見ている。
「聖女さんとデートしてましたね。私以外にもお姉さんがいたんですね。お母様も力強そうでしたし、今度会う時は紹介して下さい」
「あ、す、すいません! ごめんなさい!」
「何を謝っているんですか?
1つくらい答えて下さい。私、ホラー映画が好きですからジャック・ザ・リッパーやサロメにも興味があります」
どれもこれも、全く身に覚えが無い。
だから俺は必死に、必死に謝った。
「ごめんなさい!」
彼女の言葉を聞くと、どんどん悲しくなってきた。忘却していた筈の悪夢の記憶の蓋が取れかけそうで、心は不安で満ちて行く。
何度も何度も謝っている内に、涙が抑えきれなくなっていた。
「ご、ごべんなざい……!」
「っ! ……」
「ほ、本当に、もう許してくだざい……!」
情けない事に膝枕のままだったから謝罪相手の膝を濡らしながらも、必死に謝った。
「……!」
彼女の手が、そっとオイラの目下に触れて涙を拭いた。
「そ、その……やり過ぎて、しまいました」
「……藤、乃……?」
「ごめんなさい……少々、怖い思いをさせてしまい」
「あ、いや……オイラは大丈夫」
「……大丈夫ですか?」
「うん、もう平気」
「じゃあ、その……もっと言ったりして、良いですか?」
「う、ぇえ!?」
「冗談です」
そう笑われてしまい、もう何もわかんなくなったオイラは両手で顔を覆い隠した。
「あ……あの、顔を隠さないで……」
「……」
彼女の言葉を無視してそのまま両手で覆い隠し続けた。
もう少し、心の整理をさせて――
「0点です」
その言葉を聞いた途端、目を見開き慌てて手をどかそうとした。しかし、その上からサーヴァントの両手が重なって、むしろ何も見えなくなってしまった。
「や、やめてくれ!」
「どうなるかは知ってますね?」
「待ってくれ!」
「そうです」
「おしおきのねじりです」
「ふぅ……やってしまいました」
私は1人、反省していた。
マスターをずっと、来る日も来る日も観察して漸く人の心を理解した――と思ったら、あの日の様に昂ってしまった。
「……でも、ねじりましたし、これで記憶は失われますね」
結局私は彼の多くのサーヴァント同様、今宵の失態を忘れて貰う為に止めを刺した。
次こそは、しっかりとしたお姉さん像を壊さない様に接しなければ。
「はぁ……」
漏れてしまったのは苦労の溜め息……
「次はもっと、苛めてしまいそう……」
……と言うには、少し甘美だったかもしれません。
まだ気が早いかもしれませんが今年のクリスマスイベントも楽しみですね。果たして今年のサンタはどんな英霊に……
因みに今回の企画、ハロウィン短編と言う事で今までの企画以上にルールを設けましたが、それについても何か意見や感想があれば書いて下さると幸いです。
「普段通り好きに書きたかった」でも「サーヴァント1人だけ選ぶの無理でした」とかでも構いません。次回からの参考にさせて頂きます。
次回は……そろそろ、長編とか書いちゃいますか?(本当に未定)