ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

146 / 162
なんとか間に合ったバレンタイン小話!
短いですが楽しんでいただけたら幸いです。



小話 バレンタイン・狂

 鬼一法眼編

 

「かんら、から、から!」

 

 現代のバレンタインデーを“わかりやすい”と評し、天狗のお面のチョコを俺に渡してくれた鬼一師匠。

 なんやかんや言ってもこのイベントを楽しんでいる様だ。

 

「それじゃあ、俺はこれで……」

 

 しかし、俺はそうもいかない。何せ、このヤンデレ・シャトーでサーヴァント達からチョコを受け取り切らねばならないからな。

 

「まあ、待て弟子よ。

 おまえ、その仮面は被らぬか?」

 

「さ、流石にチョコで顔が汚れますので……」

 

「ふーん? そうかそうか。遮那王であれば喜んで被っただろうが、まあおまえはおまえか。では、被らぬならどうする?」

「大事にいただきますけど……」

 

「……! かんら、から、から!」

 

 なんか笑われた。

 

「そうかそうか! よし、今すぐ夫婦となろう!」

「なんでっ!?」

 

「なんでって、チョコは好いてる者に想いと共に渡す物だろう? それを頂くと言ったのだから、婚約を了承したと受け取って差し支えなかろう!」

 

「めっちゃ差し支える!」

「あー、もう! 文句を言うな! 悪い様にはせん! むしろ幸せにしかせん!」

 

 言うが早いか、目で追えない速さで鬼一師匠は俺を右脇に抱えて、何処かへ向かうとした。

 このまま連れて行かれて堪るか!

 

「【緊急回避】!」

「むっ!」

 

 するりと師匠の抱擁をすり抜け、地面に着地した。

 

「【瞬間強化】! 【幻想強化】!」

「……ほほう……僕から本気で逃げるつもりか? その意気やよし。どれ、修行ついでに遊んでやろう!」

 

 先まで二人でいた部屋を抜け出して、全力疾走で逃げ続ける。

 強化魔術なんていくら掛けても、その気になれば首根っこを掴まれるのは目に見えているが、何か逃げ場を作らねば……!

 

「って、無理なんですけど……」

「かんら、から、から! まだまだ修行が足らんな!」

 

 魔術の効果が消れるより先に床に押し付けられ、背中に馬乗りにされてしまってはもう手詰まりだ。

 

「さてさて、逃げ出した弟子には師匠として折檻をしないとな」

 

 そう言って鬼一師匠は何か――打ち出の小槌を取り出した。

 

「まずは、お前をちゃんと弟子にしようか!」

 

 右手の甲に小槌を振るわれる。すると手の甲に煙で現れ、晴れる頃には先まであった令呪が消えていた。

 

「っげ!?」

「これでおまえは弟子! 僕は師匠!」

 

 小槌の横面に、令呪と同じ赤い印が刻まれていた。

 

「まあ、令呪は時間が経てば補充されてしまうからな。これは今の内に使っておこうか」

「だ、誰に……?」

 

 俺の言葉に鬼一師匠は何も言わず、ただ笑って小槌を振り上げて――

 

「――僕の事を好きになあれ! 好きになあれ! 好きになあれ!」

 

 

 

 

 水着獅子王編

 

 シミュレーター内の仮想空間に存在するカジノにやって来た俺は、そこの主であるバニー姿のルーラー、アルトリアの元に辿り着いた。

 他愛のない会話をして、カジノの外に出た俺は純白の水着に着替えた彼女からチョコを受け取った。

 

「――ではVIPルームに参りましょう。チョコレートに合うノンアルコールのカクテル等、振る舞わせて頂きます」

「いや、今日はまだ用事があるから……」

 

「そうですか」

 

 そろりそろりと彼女から離れようと試みる。

 

「……それ以上後ろに下がるのであれば、暇を持て余した私は先程の、共に過ごした時間の写真を他のアルトリアに自慢してしまいますが……宜しいですか?」

 

 笑顔でこちらに端末の画面を見せる彼女に、俺は顔をしかめる。

 

 ……しかし、冷静に考えよう。

 例え自身と同じ存在であって、分け合う事なんて出来ないのがヤンデレだ。つまり、他のアルトリアを挑発して此処に呼ぶ様な真似をする必要は無い筈だ……令呪もあるし、此処は強気にいこう。

 

「悪いけど、俺はまだ用事が――っと!?」

「では忠告した通り、マスターと共に一夜を過ごした写真を後程、私以外のアルトリアに送りますので……まずは部屋にご案内しますね?」

 

 日傘を片手で持ったままライオンの様に飛び掛かって来たアルトリアに押し倒された。

 このままだと、舌なめずりをしてこちらを見つめる彼女に間違いなく喰われる。

 

「【オーダーチェンジ】!」

 

 位置を入れ替える魔術で彼女の上に移動すると同時に、急いで立ち上がった。

 

「っ……も、もう行くから!」

 

 驚いた顔の彼女を置いて、シミュレーター室の出口に走って向かう。理由は分からないが、彼女は結局追っては来なかった。

 

 安心して良いのかどうかも分からなかったが、兎に角一度休みたかったので俺は部屋に戻った。

 

「ふー……もう疲れた」

 

 あの水着獅子王から全力で逃げた後だ、もうこれ以上は勘弁してほしいがまだまだ受け取っていないチョコがある。

 

「……行こう」

 

 次のサーヴァントは……アルトリア・オルタ。

 またアルトリアかと頭を抱えながらも、早速彼女の現在地を端末で確認する。

 

「マスター」

「っ!?」

 

 不意に聞こえて来たアルトリアの声に、跳ねる様に背筋が伸びた。

 

「先程は大変失礼しました」

「あ……アルトリア……」

 

 そこにいたのはバニーの姿に戻った水着獅子王。

 

「先のご無礼を謝りに来ました」

「う……い、いや、俺もちょっと驚いただけ、だから」

「それで、出来ればマスターのお役に立ちたいと思いまして――」

 

 水着アルトリアがこちらに端末を見せて来た。

 それはカメラの中継映像な様で、そこにはランサー、サンタ、リリィ、キャスターと彼女とは異なる姿のアルトリア・ペンドラゴン達がカジノのVIPルームに集まっていた。

 

「――マスターの会いたい私を集めておきました」

 

(な、なぁっ!?)

 

全員がその手にチョコの入った箱を持っているのが確認出来た。そして、とても穏やかな雰囲気とは言い難い状況であることも。

 

「どうかしましたか? シミュレーター室はこちらですよ?」

 

 惚けた様子で首を傾げて笑っているが、どう考えても怒ってる。

 

「――では」

 

 戸惑ってその場から動かない俺に、彼女は近付いてきた。

 

「次は私を、拒絶しないで下さいね? んっ」

 

 耳元にそっと囁くと、唇を奪った。

 ――それと同時に、小さな電子音が響いた。

 

 俺と彼女のキスを、彼女の端末のカメラが映像としてしっかりと捉えていた。

 そして、画面に映り続けていたアルトリア達は驚き、こちらを睨む様な表情を浮かべてから画面から消えて行った。

 

「っ――!? あ、アルトリア!?」

「えぇ、ご安心をマスター。貴方が望むなら、私は何時だって貴方を御守りしてみせます」

 

 

 

 

メイヴ(セイバー)編

 

「――と言う訳で、はい! 本命チョコ!」

 

 何故かシミュレーターのビーチで1人黄昏ていた女王メイヴに声を掛けたら、彼女のこの日の為の“待ち”作戦を説明された上でチョコレートを貰った俺。

 

 そのまま彼女は俺に勇士達を呼んできてと頼んできた。仕方ない。このヤンデレ・シャトーで男を見た覚えはないが歩き回っている時に運よく会えたら声を掛けてやろう。多分玲とかなら条件を満たしている筈だ。

 

「あ、ちょっと待て」

「ぐへっ!?」

 

 海辺から出て行こうとした所で、メイヴは俺の襟の裏を掴んできた。

 

「丁度待ち過ぎて体が火照ってきてたのよね。チョコの感想も聞いておきたいし、それ食べて私と愛し合わない?」

「人に渡したチョコレートをねじ込もうとしながら言う事ですかねぇ!?」

 

 メイブは強引に、俺の頬に塗りたくる様にチョコを押し込んでくる。何とか顔を動かしつつ抵抗しているが長くは持たないだろう。

 

「……ええい! 【エスケープ・ポッド】!」

 

 魔術を発動させるとユニバース仕様の礼装に変わり、頭部を覆う様にガラスが展開され、背中のジェットが噴射した。

 

 その勢いでメイブを振り切りそのまま上空に脱出――と思ったら、水着のメイヴはお構いなしに抱きしめてくっついていた。

 

「そんなイロモノ魔術で私から逃げられると思ってるの?」

 

 いや、こんな感じになるなら使ってなかったです。

 

『――ッ! ――ッ!』

 

 しかも、唐突にアラームが鳴り響いた。

 ガラスに映る警告は、どう見ても――

 

「あ、やばい。もう魔力切れで落下する」

「ちょ、ちょっと、噓でしょ!? 早過ぎよ!」

 

 下を見れば砂浜から結構離れている。このままだと海に水没するだろう。

 

「あ、あそこ! 小島があるわ! 着陸しましょう!」

「し、仕方ない!」

 

 燃料が切れる前に角度を調整して、なんとか小島に辿り着けた。

 途中で魔力が切れて急に落下するアクシデントもあったが、メイブに着地を任せる事でなんとかなった。

 

「ふぅ……間一髪だった」

「全くよ。私のチョコから逃げようとするから」

「はいはい……ん?」

 

 上空から見下ろした時は必死だったからゆっくり島を見ていなかったが、此処はどうやら無人島と言う訳ではない様だ。

 人工的な明かりが、木々の間を照らしている。

 

「あっちに建物があるのか?」

「そうね。此処からマスターを連れて泳いでいくのも面倒だし、一度休憩しましょう」

 

 そう言ってメイヴの先導で建物の前に到着して――急いでUターンをした。

 

 何故なら、こんな島にある筈の無いピンク色のホテル。

 その上に設置された看板はこれでもかと派手な電飾でウィンクするメイヴ、その横の吹き出しにはデカデカとWelcomeの文字とハートが点滅している。

 

 恐らく、ほぼ間違いなく――ラブホである。

 

「此処まで来て逃がすと思って?」

 

 そして再びあっさり捕まる俺。もはやお約束。

 

「私ちょっと怒ってるのよ? 本当はクーちゃん達と一夜を過ごそうと思ってたのに、此処に来たせいでちょっと汗かいちゃったし! 

 今からシャワー浴びてまた砂浜で待つなんて嫌。こうなったら、マスターには私の相手をして貰うから」

 

「ぐ、お、俺はそろそろお眠の時間なんですが……」

 

「大丈夫よ? 私の作った濃厚カカオチョコを食べればそんな寝言も言えなくなるわ。万が一寝てしまっても、私が作り上げたこの最高のモーテルで休めるだから安心して横になってて良いわよ? 勿論、寝かせたりなんてしないけど」

 

「ぜ、絶対……! 嫌だぁぁぁ!!」

 

 その後、彼女に連れ込まれるより先に再び使用可能になった【エスケープ・ポッド】で小島を脱出に成功した。

 

 

 

 

 

 ……はずが、水着女性サーヴァント達が集まるホテルの一室に突っ込んでしまうのだが、それはまた別の話。

 




そろそろ、記念企画の時期ですね。何年続くんだこのヤンデレ小説。

5年目……なにか変わった事がしたいとも思いますけど、例年通りのリクエスト企画になると思います。その日になったら活動報告で宣伝しますのでどうかよろしくお願いします。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。