ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
「お父さーん!」
「お母さーん!」
逃げ出してから1つ気づいた事がある。
「「捕まえたぁ!」」
サーヴァントに足で勝てる訳が無い。
サーヴァントから産まれた娘にもだ。
「は・な・せ!」
ジャックとその娘、幼女2人に組み伏せられた俺は抜け出す事も叶わず、叫ぶことしか出来ない。
「それで娘、どうすれば子供が出来るの?」
「お母さん、先ずは――」
娘がジャックに繁殖行為の説明を始める。
このままR18行きは勘弁して欲しい。
「誰かぁ! 助けてくれぇ!!」
こうなれば他人に頼るしかない。力の限り叫ぶと、速い足音が聞こえて来た。
「マスター、お呼びでしょうか」
「先輩、ご無事ですか!?」
「チェンジ! 呼んでない!!」
そりゃあ、来た道戻ったらいるよね。清姫も、マシュも。
「お父様を放しなさい! お父様の童貞は私が!」
「邪魔しないで! お母さんがお父さんと一緒に私の兄弟姉妹を作る所なの!!」
「パパはママと夫婦になるんです! 愛人の子供なんてこれ以上作らせません!!」
(やばい、3人も集まったせいで飛んでもなくやばい未来の可能性を見せつけられている……!? 何をどうしたらこんな家庭が出来る!? 3人と関係があって、10歳位の娘2人は性知識が豊富で、もう1人も愛人とか覚えちゃってるし……)
「マスター、余計聞きたい事が出てきましたね?」
「先輩は間違いなく人類史に名を残す色欲魔です。グランドクラスで喚ばれますね。変態の」
「頼むから俺の未来は俺に決めさせてくれ!」
清姫の娘とジャック親子が争っている間に体が開放されたのは良いが、目の前の2人の殺気がやばい。まだ助かってない。
「ったく、しょうがないな」
不意にそんな声が聞こえ、気付けば清姫とマシュの間をスルリと通り越していた。
「あ、式!」
俺はいつの間にか式の左腕で抱えられていた。
「この娘がオレを呼んだんだ。感謝しろよな」
そう言って式は左腕に抱えた女の子を見せる。
「ほら、令呪でブーストしてくれないと追いつかれちまうぜ?」
後ろを見ると俊敏性が式より何回りか下の筈の清姫が追ってきている。
俺達を抱えているせいだ。
「俺達を落とさず、食堂まで逃げ切ろ!」
「了解」
令呪が輝くと、あっという間に清姫との距離が離れ、食堂へと入っていた。
「……なんで食堂なんだ?」
「きっと他のサーヴァントも集まってる筈だし、娘を全員に見せないといけないからなー……」
「よく分からないが、まあ令呪での命令だし、聞くしかないな」
そう言って式は加速し、食堂へと入っていった。
その後ろでは、清姫達が3人で争い始めていた。
「誰もいないな」
「流石にそれは予想できなかった……まあ、待っていれば他のサーヴァントも来るだろうし、ちょっと一休み……くぅ〜」
食堂に逃げ込んだ俺は適当な椅子に座り、背伸びをした。
「じー……」
その俺を見つめる小さな視線。式同様の短い黒い髪。青い和式の羽織を着ているが、下はなぜかジーパンだ。
「……えっと……先は、ありがとう」
「そーいや、この娘は誰だ? なんか、羽織を着てジーパン履いてるけど」
「とーさん若くなってるのに、かーさんは変わんないんだ」
「えーっと、説明しづらいんだが……」
俺は式にこの娘が未来から来た俺達の子供だと説明した。それと、他のサーヴァントに会うと変わったり、増えたりする事も。
「へぇ……ちゃんと結婚できたんだな、そっか」
「アレ? 意外と落ち着いている? あとあくまで可能性だよ?」
「何だよ、お前はとっくの昔からオレの婿だぜ?」
あ、やっぱりマシュと同じ様にヤンデレ入ってるよ、この式。
「とーさん、もうかーさんと結婚してるの?」
「まあ、結婚しなくても婿だな。そんぐらいの関係だ」
「いや、俺はあんまりそれを受け入れてないって言うか……」
手間のかからなそうな大人しそうな娘だ。他の娘達はマトモだったのはあたふたしてたマシュの娘だけだったな。
「……じー」
「どうした?」
「かーさん、家にいる時はとーさんに抱き着いたりして何時もテンション高かった」
おい待て、俺のカルデアにテンション高い方の式はいないぞ!?
「んー……? それはオレでも想像できないな」
「でも、落ち着いてる時もあったし、やっぱりかーさんで間違いないや」
そう言って娘は式に抱き着いた。若干頬が赤い。クールに見えても、やっぱり母親が恋しかったか。
「かーさん、私と結婚して」
「ッブゥー!!」
空気をぶち壊す勢いで俺は吹き出した。俺の娘にまともな娘などいないのだろうか?
「はぁ!?」
「かーさん、凄くカッコイイ……とーさんより強いし、テンション高い時はすっごく可愛い……だから、私と結婚しよう、かーさん」
この年で百合に目覚めている娘に、流石の式も動揺している。
というか、一体何があったんだ娘よ。
頼りない父さんを見て、男に絶望してしまったんだろうか?
「とーさんは別居扱いで、たまに会いに来る位なら許すけど、半径1mまで近づいたら強姦罪で通報する」
マジで何した未来の俺ェー!?
そして娘は式から離れると、俺に右手の平を差し出した。
「去る前に結婚指輪を買うお金下さい」
ニッコリ。今までで一番の笑顔でそう言われた。
父さん、此処で死にそうです。
「娘、あんまり父さんをイジメるなよ」
「かーさんも、困った時のとーさんが好きな癖に。とーさん、意地悪してごめんなさい」
「え……?」
おお、神よ! 俺は何を信じればいいんですか!? 娘が百合な事ですか!? ドSになった事ですか!?
「……」
「ん……、マスター。誰か来たぞ」
式の一言で顔を上げる。同時に食堂が開く。
「小腹が空いちゃっていたので助かります」
「リリィちゃんの為にお姉ちゃん、張り切っちゃうよ!」
金髪の少女、セイバーリリィと赤髪の熟女、ブーディカだ。
「あ、マスター!」
「本当だ。式もいるね。アレ? 見慣れない娘が……」
良し、俺! 先ずは状況をちゃんと説明しよう! そうすれば2人も分かってくれる筈だ!
「お父さーん!」
リリィの横に突然現れた少女は、俺に飛び込んできた。
「うぉ!?」
咄嗟に受け止めたが、床に落ちて尻餅をつく。
「……えっと、どういう状況ですか?」
「なるほど、この娘は私の娘なんですね!」
「そうです」
「それで、そっちの娘が式の娘?」
「ハイ、ソウデス」
俺は3人と2人の娘の前で土下座して状況を説明した。
「あくまでそう言う未来があるだけなんです浮気とか二股とかまるで考えてないですだからからどうかご容赦を俺はそんな馬鹿な事を考える愚かしい男ではないんです許して下さい未来の俺にはよく言って聞かせますんで本当に勘弁してください」
「お、落ち着いて下さいマスター!? まずは頭を上げてください!」
「首を吊れば良いんですか」
「お父さん、死んじゃだめー!」
リリィと娘の声に、土下座ではなく正座で向き合う。
「マスター、大丈夫です。私、どんな形でもマスターと家庭を持てて幸せです」
「リリィ……」
「ですから、そう自分を追い込まないで下さい」
そう言ってリリィは俺を抱きしめた。
「きっと、未来では素晴らしい日々を送っていますよ。こんなに、元気な娘もいますし」
「で、そろそろ好感度上げは終わったか?」
式の一言で感動のシーンがバッサリ切り捨てられた。
「私の子供はいないみたいだね。喜ぶべきか……」
「喜んで良いに決まってるじゃないですか! 人妻とか、俺的に絶対ダメなんで!」
「マスター……プラトニックな愛も、あるよ?」
そんな優しく言わないで下さい。他の2人が怖いです。
「そんじゃ此処は娘達の意見を聞こうじゃないか。2人は、母親が2人もいて、嫌か?」
「嫌です!」
「嫌」
「何か理由はあるか?」
「とーさんがたまにしか週末にいないから、旅行とか行けない。行っても、余計なもんがいるし」
「お父さんがたまにしか平日に帰って来ないから、一緒に寝れない!」
この可能性の未来の俺は平日は式と暮らして、週末はリリィの家に通っていたようだ。
(どんな暮らしだよ!?)
「複雑な家庭なんだね、マスター」
ブーディカは完全に他人事の様に俺の頭を撫でながら聞いている。
「って事は、娘の為にもオレが唯一の妻にならないとな」
「っな!? この娘に消えろというのですか!? 上等です! 成敗して差し上げます!」
遂に、互いに武器を構えてまた争いに発展し始めた。正直ちょっとウンザリである。
「……アレ?」
2人の武器が交差した瞬間、2人の娘が消え、元のマスター衣装の黒い髪の女の子が1人残った。
「ちょ!? 洒落にならん! リリィ、式! ストップだぁ!!」
俺は声を張り上げ、それを聞いた2人の刃が止まった。
「何だよマス――」
「心配しな――」
2人が争いをやめると、黒髪の女の子はまた2人の娘に戻った。
「……こういう事だ。2人が争えば、子供の未来が消えてしまう」
「う……」
「仕方ねぇ」
2人が武器を下げると、娘達は彼女達に抱き着いた。
「うぉ……」
「かーさん、大丈夫。とーさんがいなくても、かーさんと一緒だから楽しい」
「私もです、お母さん!」
「……」
2人は娘の頭を撫でる。何とも微笑ましい光景だが、何故だろう、俺の心にはずっと黒いモヤモヤがのしかかってる。
「まるで俺が……」
「……仕事はしてるみたいだけど、やっぱりクズだよね、マスター」
「言わないで……」
ブーディカに痛い所を突かれ、正直もう休みたい。
「あ、膝枕してあげる」
「ありがとうございます……」
俺は誘われるがまま、ブーディカの膝に頭を置いた。
正直色々あって疲れ過ぎて、警戒する気も起きない。
「とーさん! かーさんはコッチ!」
「お父さん! お母さんの膝枕の方が良いよ! オバさんよりもお肌ツルツルだもん!」
「お、オバ、さん……」
「落ち着いて下さい、ブーディカさん。
あの子達くらいの年ならブーディカさんをその呼び方でも仕方無いでしょう? 俺からしたら綺麗なお姉さんですから」
「マスター……
イケないないな、もう……妻子の前で人妻を口説こうなんて」
「……マスター、今すぐ立ち上がらないと身の安全は保証できないぞ?」
「お灸を据えてあげましょうか?」
「すいませんでした!」
まだ寝ていたいが俺は体を起こし、土下座をした。
だが、正直辛い。あと何人残ってんだ、女性サーヴァント。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻ろうかな」
いつまで食堂で待っていても女性サーヴァントが来ないので、こちらから行く事にした。
「おい、オレも行くぞ」
「私もです! 娘が心配です!」
問題は保護者だ。一緒に行けば、確実に正妻戦争が勃発し、ハリウッドが作った昼ドラみたいな展開――アクションと愛憎劇が待っているに決まっている。
「……いや、大丈夫だって。ちょっとカルデアを見て回るだけだから」
「それが心配だ。拒否権は無い。オレも一緒に行く」
駄目だ。良い言い訳は浮びそうにない。
仕方無いので、娘と手を繋ぎつつ、式とリリィと一緒に食堂を出る。
「「あ」」
が、食堂を出て直ぐに会いたくなかった女性サーヴァントに遭遇する。
「マスター、おはよう」
「お、おはよう……デオン」
シュヴァリエ・デオン、性別不明のサーヴァント。
「……あれ? 式やリリィも一緒なんだ」
声のトーンが明らかに低くなった。
だが、どうやら娘はいないようだ。
(そりゃあ、流石に三股は無いだろ……うん。おいそこ! 清姫、マシュとジャックについては聞くな! 絶対に何かの間違いだ!)
1つだけ薔薇色な想像が頭に浮かんだが、それを直ぐに振り払う。それ以上はイケない。
「ん? その小さい娘は?」
「オレとマスターの娘だけど?」
デオンの質問に式がドヤ顔で即答した。
「……随分悪趣味な冗談だね?」
「じゃあマスター、こいつに説明してやれよ」
なんて無茶振り!? しかしここまで来ると嘘は吐けない。
俺はリリィを交えて、未来から来た娘がいる事と、可能性について説明した。
「――つまりだが、三股の可能性は無いからデオンの子供が現れないんだと思う」
「ふーん、なるほど」
デオンが一応納得してくれた様だ。
尚、この説明の間、式と娘は見せ付ける様に抱っこにおんぶをして、リリィと娘はその後ろで何か楽しそうに話をしている。
「それじゃあ――」
口を開いたデオンは俺の腕に抱き着くと、耳元に囁いた。
「――ますたぁ、今日だけはいっぱい甘えさせてあげる」
その言葉が脳に入ってきた瞬間、デオンの隣に娘が現れた。
「っなぁ!?」
当然驚いた。なぜあんな一言だけで……
「マスター!?」
「おい、なんで急に……!?」
「予想通りだね。未来なんていくらでも変えられる。こうして起きそうなシチュエーションを思い起こさせる言葉を囁けば、新しい可能性が生まれるんだ」
「いや、そんな簡単に、そんな偶然が合ってたまるか!」
俺がそう言うとデオンは人差し指で俺の口を指で抑える。
「偶然じゃないよ。
式やリリィと暮らす毎日は、マスターを強制させ、マスターにひたすら依存を求める日々が続く」
デオンは愛おしそうに娘の頭を撫でながら話を続ける。
「だから、僕は未来のマスターが欲しそうな言葉を囁いたんだ。甘えて良いよ、ってね」
そこまで説明されると、なんとなく想像できてしまう。
仕事に疲れ、帰ってくれば平日は式に振り回され、週末はリリィにひたすら抱き着かれ、そうなれば癒やしが欲しくなるだろう。
「……いやいやいや、無いナイナイ」
(おい、未来の俺ぇ!? どう見てもそれは見えてる地雷だろうが!? ヤンデレ三股とかアウト通り越して人生からの永久退場だよ!? 絶対次会った時にハイライトの消えた目で「……出来ちゃったね」とかお腹さすって言われるだろうが!?)
「ママ、今日はパパがいるんだね」
「やめてぇ!? 想像したくない未来がぁぁぁ!?」
5歳位の金髪の娘が嬉しそうに笑っているが、俺にとってその言葉は心の奥に染み渡る程にキツイ言葉だ。
「パパ、今日は何で何処に行くの? 電車? 新幹線?」
(嫁にバレない様に遠出してるのが余裕でわかる!?)
「フフ、マスター……私、もう1人娘が欲しいな」
「おい、あんまり調子に乗らない方が身のためだぜ?」
「正直、二股も不潔ですし、此処でまとめて成敗させて頂きます」
遂に各人が武器に手をかけた。娘が消えるが、どうやら全員が後でどうにかしようと考えている様だ。
黒髪の娘の手を握ると、俺は駆け出した。
「……パパ、止めなくて良いの?」
「……未来のパパは止めてた?」
「んー、いっつも逃げてた!」
笑ってそう言われてしまえば、俺も笑うしかない。
「じゃあ、逃げよっか」
「せんりゃくてきてったい、だね!」
俺は争い始める3人と食堂でお菓子を作り始めたブーディカを置いて、安全な場所を目指して駆け出した。
「あ、マスター!? その娘は一体……」
「余所見とは随分余裕だな! マスター、後で見つけてやるからな」
「マスターは、絶対に渡しません!」
冷や汗が止まらないまま、俺は後方で争う3人と食堂でお菓子を作っているブーディカから離れて行った。
更に積み重なる理不尽な免罪。
果たして、マスターは全てのサーヴァントに会う事が出来るのか……