ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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ヤンデレ家庭未来図 終

「ん……」

 

 目が覚めた。しかし、感覚的に現実の我が家のベッドでは無さそうだ。

 何処に運ばれたらしい。誰かにぶつかって転んだ拍子に床に頭を打ったのが気絶の原因だろう。

 起き上がって辺りを見渡すと、カルデアの一室だと言う事は分かったが、マイルームでは無いようだ。

 周りにはワインのボトルや宝箱がそこらかしこに置かれている。

 

「海賊……? アンと、メアリーか……?」

「ご明察です、マスター」

 

 俺の呟きに返答したのは、金髪に赤い衣装を身に纏った長身の女性、かの有名な女海賊のサーヴァント、アン・ボニー。

 

「……っ!」

 

 姿を見たせいか警戒心が覚醒し、俺は思わず身構える。 

 

「マスター、無事?」

 

 アンの後ろからメアリーが顔を出す。

 

「っひぃ!?」

 

 思わず情けない声が漏れてしまった。

 

「マスター? 大丈夫?」

「何かあったんですか?」

 

「く、来るな!」

 

 ベッドの上で後退るが壁はすぐ後方に存在し、俺の退路は塞がっている。

 

「マスター?」

「来るなっ!」

 

 声を張り上げる。脳裏には居もしない娘が彼女達と手を繋いでいるイメージが映っている。

 

「……その命令には従いかねないね」

「ええ。私達に命令するには恐怖が勝り過ぎていますもの」

 

「は、放せ!」

 

 震えたまま暴れる俺を、アンが両腕を掴みメアリーが足を抑えて止める。

 

「それに僕達は海賊だからね」

「欲しい物は、力づくで頂きます」

 

「んっぐ!?」

 

 抑えられた俺の頭はアンの胸へと押しこまれた。

 

「はなっん、やめっ!?」

「ふふ……」

 

 笑いながらアンは俺を抑える力を少しずつ強める。

 

 少し落ち着いて抵抗は無駄だと理解した俺は、次第に暴れるのをやめる。アンもそれに従い力を緩める。

 

「落ち着くでしょ、アンの胸。僕も生前はやってもらったから良く分かるよ」

「ふふ、暴れるマスターも可愛かったです

よ?」

 

 いま顔を出すのも恥ずかしいがずっとこのままなのも恥ずかしいので、俺は緩くなった拘束から抜け出して顔を上げた。

 

「ありがと、落ち着いたよ」

 

「どういたしまして。それでマスター、一体何があったんですか?」

「随分取り乱してたみたいだけど?」

 

 落ち着かせては貰ったが流石にこの質問に答えるべきか悩む。まともに見えても彼女達もヤンデレになっている筈だ。

 俺の懸念を肯定するかの様に、アンの頬は発情したかの様に真っ赤だ。

 だが、もう娘を見せる相手も少ない。あと残っているのは彼女達と牛若丸だけだ。

 何より、答えずに不快感を与えれば捕まるかバラされる。

 

「実は……」

 

 

「マスターとの娘が……」

「はぁ……見てみたいですわね」

 

「で、俺は皆から逃げて多分アンにぶつかって気を失ったんだ」

 

「そんな事があったんだね」

「全く……私達なら娘もマスターも力づくで奪いますのに」

 

 メアリーもアンも娘に興味津々の様子だ。

 

「マスターはマタ・ハリと結婚したいの?」

「……」

 

 流石にあの光景を見た後に直ぐに頷く事は出来ない。

 

「……好きじゃない相手と結婚しても、意味がないでしょう? マスターは貴族でも王族でも無いんですから」

「マスターはあくまであの中から選ぶならマタ・ハリだって言ったんでしょ? 別にサーヴァントから選ぶ理由はないじゃん」

 

「でも、俺の娘は俺と英霊との間にって……」

 

「娘が姿を変えるほど曖昧な未来なのに、その一点だけは信じるの?」 

「っ! それは……」

 

 そういえばそうだ。ダヴィンチちゃんが言っていた事を丸呑みにしていたが、そもそもあれを確定した未来の事実だと信じて良かったのだろうか?

 カルデアには沢山のサーヴァントがいるからサーヴァントと結婚した可能性が高まっていただけじゃないのか? 

 それにもしかしたら……

 ……いや、それは無いか。

 

「ほら、マスター。ちゃんと今を生きなきゃ。じゃないと、勝手に娘が増えちゃうよ?」

 

 アンが笑ってそう言った。

 

「花より団子、結婚より冒険です!」

 

 メアリーが俺を引っ張り、起き上がらせた。

 

「あ、でも火遊びは駄目ですよ? メアリー以外との浮気は許しません!」

「アン、マスターと浮気するのは君。僕は正妻」

 

「どっちもお断りだ」

 

 2人のくだらない言い争いに、釣られて笑ってしまった。

 

「それじゃあ、後は牛若丸を見つけて皆の所に行くだけだな」

 

「マスター……折角ですから部屋を出る前に1度肌を重ね合いませんか?」

「それは本気で娘が増えるからやめて欲しい」

 

 俺は逃げる様に2人より先に部屋を出た。

 

 

「……娘が消えました」

「マスター……また誰かに会ったな」

 

「マスター、あぁ……マスター……」

「娘は、何処? お母さん?」

 

 メアリーとアンの言葉に立ち直った影響で、非常階段にいたサーヴァント達の娘は消滅した。

 

 彼女達が唖然としていた間に、1人残った娘も非常階段を出て何処かに行ってしまった。

 

「仕方ありません。マスターを拘束してすぐに子作りを行いましょう」

「それは手っ取り早いな」

「待ちなさい! 選ばれた私が先よ!」

 

「皆さん、お揃いでどうしたんですか?」

 

 扉の開いていた非常階段から声が聞こえてきた牛若丸がひょこっと顔を出した。

 

「……牛若丸さん」

「ちょっとな。未来からマスターの娘がやってきな」

 

「主殿の娘! さぞかし私に似て聡明な娘なんでしょう!」

 

「それがそうともいかないですよ」

 

 マシュが事情を説明すると、牛若丸は表情を変え鼻を鳴らし始めた。

 

「……クンクン、あっちですね?」

 

 牛若丸は自分の嗅覚に従い、マスターの居場所を探り出す。

 

「本当に分かるんですか?」

「牛若は天才ですから」

 

 そのまま鼻を頼りにマスターを探り始めた。

 

 

「パパぁ!」

 

 メアリー達より先に部屋を出た俺にマスター衣装を着た黒髪の娘が抱きついて来た。

 

「おー、よしよし。大丈夫か?」

「ひっく、っぐす……お姉ちゃん達が沢山いて怖かった……」

「皆の事、知らないっけ?」

「知ってるよ……何時もお母さんと喧嘩してた……」

 

 喧嘩なんかしてたのか。正妻戦争は未来でも行われてるって事か。嫌だなそれ。て言うか生きてるのか俺の嫁。

 

「マスター、待ってくだ――」

「アン、早く出――」

 

 2人が出て来た。そして、娘が2人現れた。1人は金髪で赤い衣装に眼帯をつけており、もう1人は銀髪に黒いローブ、首元には青いスカーフが付いている。

 

「母さん……」

「ママ!」

 

 大人しそうな金髪の娘はアンの手を取り、銀髪の娘は元気そうにメアリーに抱き着いた。

 

「か、可愛い!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて……もう……」

 

 アンは照れくさそうにしている娘に抱きつき、メアリーは戸惑ってはいるが嬉しそうに娘の頭を撫でる。

 

「はぁ〜……皆さんの気持ちがよく分かります。こんな可愛い娘なら、本当に欲しくなっちゃいます」

「母さん……くっつき過ぎ」

 

「ママ! おんぶ!」

「ちょ、ちょっと! 危なっかしいな……」

 

 なんとも見事に正反対な親子になったものだ。

 

「父さんにくっついてよ」

「おんぶはパパに頼みなさい」

 

「マスター!」

「パパぁ!」

 

「えぇい! アンはダメ! 娘はバッチコイ!」

 

 アンを避けて娘を受け止める。しかし、10歳は中々重い。瞬間強化を発動させて持ち上げておんぶした。

 

「ははっは! パパ!」

「おいおい、そんなに暴れないで……」

 

「むぅ……マスター! 私も一緒に」

「アンおばちゃんはダメ!」

 

「お、おば……ちゃん!?」

 

 メアリーの娘の発言にアンが目を見開き俺とメアリーを見るが、俺は苦笑いをしメアリーは知らん顔した。

 

「ほら?落ち込んでないでサッサと行くぞ」

 

 娘をおんぶしたまま部屋の前から移動しようとした俺の足は、逆方向から感じた小さな力に止められた。

 

「と、父さん……私もおんぶ、して下さい」

 

 ……うちの娘が可愛すぎるんですが。上目遣いに頬まで染めて天使かこの娘。本当にアンの娘なの?

 

「だめぇ! パパは私をおんぶしてるの!」

 

 対してメアリーの娘は親に似ず元気一杯だ。肩を掴んでいる腕の力が増してギューっと俺に張り付いている。

 

「全く……全然前進しないよ、このままじゃ」

「あ、ママ!? ひゃぁ!? く、くすぐったい!?」

 

 メアリーがため息を吐きつつ、俺の背中にしがみついている娘をくすぐり、力が緩んだ所を剥がした。

 

「ほら、おんぶしてあげる」

「わぁ! 父さん、大好き!」

 

 おんぶすると嬉しそうにギュッと捕まるアンの娘。

 

「今度こそ行くよ」

 

 まだ少し落ち込んだ様子のアンがトボトボと俺とメアリーの後ろを歩く。

 

「見つけましたよ! 主殿!」

 

 が、歩き始めて早々に目的の人物に遭遇した。

 

「ほら、ノロノロしてるからあっちから来ちゃったじゃ――ッハ!」

 

 今の牛若丸の発言に、嫌な推理が俺の脳にアクセスしてきた。

 あの事情を知っていそうな台詞……まさか――

 

「主殿!? 背中の娘はまさか……!? 牛若と言う者がありながら、他の女と子供を成したのですか!?」

 

「事情、知ってる、だよな?」

 

「勿論です! ですが、実際この目で見ると牛若、図々しくも独占欲で抑えられない怒りが込み上げてきます!」

 

「悪いですが、見ての通りマスターには美人な嫁枠も可愛い系愛人枠も空いておりません」

「埋めた覚えはない」

 

「さぁ! 諦めて帰って下さい!」

「そう言う訳には参りません! マスターと契を結ぶのも、娘を成すのもこの私です!」

 

 牛若丸はそう吠えると日本刀を構える。

 

「それに、もう結婚指輪も完成しています! ぜひマスターの指に!」

 

 そう言って牛若丸はやけに大きく丈夫そうなチェーンで繋がった2つのリングを見せる。

 

「手錠!? いや、指錠!?」

「いつでも、2人でラブラブ! です!」

 

「なら、それは頂きです! マスター、ぜひ私とあれを身に着けましょう!」

「早い者勝ちだよ、アン。僕が奪ったら僕と一緒に……」

 

 アンとメアリーが戦闘態勢に入ったせいか、娘は消え、元の姿の1人になる。

 

「何で使いたがってんのあんなもん!? 絶対不便だし! ストレス溜まって離婚早まるし! て言うか絶対黒歴史だからなそんな物! ――ッ!?」

 

 とそんなツッコミをしていると、後方から物音が聞こえ、振り向いた。

 

「ますたぁ? まぁた浮気でしょうか? ママ、プンプンですよぉ?」

 

 マタ・ハリがいた。30cm先に。

 

「おわっ!?」

 

 驚き、倒れ込んだ。

 

「マスター? 私達3姉妹を裏切って」

「無事でいられると思わないでね?」

 

「っくぅあ!?」

 

 両手を縛られ天井に吊るされる。メドゥーサの鎖だ。

 

「マスター!?」

 

 今度こそ万事休すだ。令呪もなければ退路も無い。

 

「は、放せ!」

 

「マスター……ママは、優しいですから。マスターを許してあげますよ?」

 

 そう言ってはいるが、マタ・ハリに触られた先から血の気がサーッと引いていく。

 

「まずは娘を作って」

「毎日、私と起きて」

「毎日キスをして」

「毎日一緒に食事をして」

「毎日私に溺れて」

「何時でも一緒にいるの」

 

「毎日2人で一緒に過ごして、娘が生まれてたら3人一緒に永遠に暮らすの」

 

「それが幸せな、私達の家庭……」

 

 マタ・ハリは目を瞑り、吊るされた俺の唇に迫る。

 

「……っふん!」

「痛っ!?」

 

 腕も足も動かせないので、俺はマタ・ハリの顔に頭突きをかましてやった。

 

「お断りだ! 残念だけど結婚相手はまだ検討中だ!」

 

「〜〜っ! マスター!」

 

 マタ・ハリの動かした腕が俺の体に触れる前に、俺の意識は消えていった。

 

 

 

「っほ……」

 

 安心した。どうやらちゃんと朝を迎えられたらしい。

 

「全く、娘とか結婚とか……最近こんなのばっかりだな」

 

 ため息を吐きつつ、ベッドを出ていつも通りの1日を迎える。

 

「んー! 今日は週末かぁ〜」

 

「先輩! デートしましょうよ!」

 

 窓の外から大きな声でエナミが叫んだ。

 

「……近所に聞こえて恥ずかしいし、彼女じゃねえんだけどな……」

 

「先輩! まだ寝てるんですか?」

 

 俺は騒がしいエナミを黙らせるため、携帯のメール画面を開くのだった。

 

 

 

 その日の夜……俺はまたダヴィンチちゃんに呼び出され、黒髪でマスター衣装を着た10歳くらいの男の子に、服の裾を引っ張られていた。

 

「――で、この男の子は君の息子で間違いないよ」

 

「パパ! 遊戯王しようよ!」

 

「勘弁してくれ〜!!」

 

 




これにてヤンデレ未来家庭図完結! 牛若丸とメディア、ブーディカの娘が見たかった人には申し訳無いですが、展開の都合上登場しませんでした。

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