ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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長らくお待たせして申し訳ありませんでした!
完全に休みボケです!
来週から学校が始まるのでまた普段通りの更新速度に戻していけたらなと思っています!

本当に遅くなりましたが、佐々木 空さん、当選おめでとうございます!
また適当なUA数で同じ様な企画をしますが、その時は遅れないように頑張りたいと思います!

こんな未熟な作者ですが、これからも応援よろしくお願いします! 


プリズマっぽいヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【16万UA記念】

 学校も終わり、夏休みが始まる放課後。

 

「今度デートしましょう!」

「いや、毎日こうやって一緒にいるんだし、週末くらいゆっくりさせてくれ――っと、着いたな」

 

「むぅ……ちゃんと考えておいて下さいよ。さようなら、先輩」

「善処するよ……また明日」

 

 私、エナミハクツが先輩と一緒に過ごす様になってからもう随分と時間が経ったけど、先輩との距離が縮まっている気がしない。

 

 理由は分かっている。

 私がアプローチの度に近付くと、先輩が逃げる様に遠ざかってしまっている。

 

 私の激しいアプローチに、照れ屋な先輩が逃げている……だけじゃない。

 

(きっと今のままじゃ駄目なんだ!)

 

 先輩はあんな夢を見る程ヤンデレが好き。ならきっと私にヤンデレ(それ)が足りていないんだ。

 

 気合を入れなきゃ。

 今日にでもアヴェンジャーに頼んで、もう一度先輩の夢の中で一緒の時間を過ごそう!

 

「そうと決まれば……!」

 

 

 

「……頭を撫でる? ヤンデレの?」

 

「そうだ。全てのヤンデレの頭を撫でるだけだ」

 

 寝ても覚めてもヤンデレとは、本当に勘弁してほしい。アヴェンジャーの顔色を注意深く疑う。

 

 女性の頭を撫でる。

 此処ヤンデレ・シャトーに置いてそれは簡単な分類に入るスキンシップだ。

 

「当然ながらいつも通りのヤンデレサーヴァント共に、とはいかない」

「何が来るんだよ?」

 

「……モードレッド、玄奘三蔵、マシュ、そして……」

 

 アヴェンジャーは溜息を吐いてからその名を口にした。

 

「エナミとバーサーカー娘だ……」

 

知らない人達(未所持サーヴァント)危険人物(リヨ子)とか頭おかしいだろ!」

 

「それが……言い訳は無いな。エナミをお前の夢に入れるつもりだったんだが、その隙間を通って平行世界のお前のサーヴァントや、常識の通じないバーサーカーが一緒にやって来てしまった。その点は謝罪する」

 

 いや、ガチで頭下げられても反応に困る。

 そうこうしている内にアヴェンジャーの後方からやって来てきたのは、エナミとマシュだ。

 

「先輩! 夢の中で会うのはお久しぶりですね! 今日は先輩のハートを鷲掴みにしちゃいますからね!」

 

「先輩! 今日は普段の私とオルタで攻めさせて頂きます! 覚悟してくださいね♪」

 

「お前ら両方とも俺を先輩呼びしてるから区別が……」

 

「やっほー!」

 

 そこに頭上から加わる1つの声。

 間抜けた挨拶と上方という滅茶苦茶な方向から来る声は間違いなくリヨ子である。

 

「案外早い再開だったな! 運命の人! 今日こそこの悩殺メロメロボディで落としてやろ――おっと、こんな所に鏡が?」

 

 リヨ子とエナミは同じ外見だ。服も顔もそっくり。目に帯びた狂気の形で判断するしかない。

 

「誰ですか貴方は!? 先輩!? 夢の中で知らない女と会っていたんですね!?」

「おや? 鏡だと思ったら泥棒猫? ちょっと運命の人、しっかりしてよー? 私って言う者がありながら……!」

 

「いや、コイツと会うとか拷問以外の何物でも――」

 

「――続きはシャトーでしてもらおうか」

 

 アヴェンジャーがそう言うと俺の意識は微睡みの中に沈んでいった。

 

「ふぅ……今回はどうなる事やら?」

 

 

 

「……ん……」

 

 覚醒。目が覚めた俺の手には1枚のカードが握られていた。

 

「何だこれ? あ、アーチャークラスの絵が……」

 

『マスターであるエナミ、キダ、リヨ子には今回、クラスカードが与えられている』

 

 アヴェンジャーの声が響き、恐らくだが現在手元にある謎のカードの説明が始まった。

 

『手元のカードを各自所持している端末に当てる事でそのカードのサーヴァントの宝具を使用でき、カードを持って魔力を高めれば1度だけ1時間の間、英霊の力をその身に纏う事が出来る。上手く活用しろ。今回は令呪は無い』

 

 それだけ言うと電源の落ちたテレビの様にプツリと静かになった。

 

 Fateの派生シリーズにプリズマイリヤと呼ばれる魔法少女の話がある。その中に登場するクラスカードを使用する事でその英霊の宝具を使用する限定召喚(インクルード)とその英霊の力を使用する夢幻召喚(インストール)を行う事が出来る。

 

「――って、wikiに書いてあるな」

 

 残念ながらプリズマイリヤは未視聴だ。スマホの様な携帯端末に目を通し終わった後に周りを確認する。

 

「だが、これがあれば英霊に対抗できるって訳だな」

 

 クラスカードには英霊の姿は書かれていない。アーチャーだと言う事だけしか分からない。

 

「だけど、今回の目的はあくまでヤンデレ共の頭を撫でる事だ」

 

 無理に戦闘をする必要は無いと目の前のヤンデレ・シャトーの廊下を見る。どうやら誰か来ているらしい。

 

「運命の人、みーっつけた!!」

 

 最悪な事にリヨ子である。跳躍して上空から凄い勢いで迫る。

 

「グヘヘ、今すぐとっ捕まえて白目剥くまで気持ち良くしてあげるよ!」

 

 女子力の欠片も感じられないその動作はヤンデレと言うか病みの塊だ。

 

「っち! 迷ってる暇は無い!」

 

 端末にカードを当て、インクルードを行う。

 

「来い!」

 

 端末が変化し、握る腕に確かな重みが感じられる。

 咄嗟だったが成功した様だ。

 

「弓か! って、矢が無い!?」

 

 右手に黒い色の弓が現れるが矢が出てくる様子が無く、咄嗟に弓でリヨ子を殴った。

 

「おっと!? 何したか分かんないけど、同じ事すれば良いよね!?」

 

 殴られた筈のリヨ子はまるで応えた様子は無く、端末にカードを当てる。僅かに見えたのはバーサーカーの絵だ。

 

「来い、最強武器! ……あれ?」

 

 リヨ子の端末もカードも消えたが何かが現れる様子は無い。戸惑い、あちらこちらを見回すリヨ子

 

「チャンス!」

 

 その隙に俺はリヨ子から離れようと後ろへ走る。

 

「あ、待ってよー!」

 

 だが、素の状態では流石にあの化物から逃げ切るのは難しい。迫ってくるリヨ子の横腹を弓で殴った。

 

「あっぁん! ……はぇ?」

 

 何故か喘いだリヨ子は、体を見渡した後再びこちらに迫ってきた。

 

「っこん、の!」

 

 しつこいので結構本気で殴る。

 

「あっはぁん! ……力がみなぎるぞ!?」

「嘘だろ!?」

 

 殴った筈なのに喘いだと思ったら魔力が高まっていく。

 これは、まさか……!? 

 

「スパルタクス……!?」

「よく分かんないけどなんかチャンス! 今ならいくら殴られても気持ちいい!」

 

 退散だ、それしかない。

 あの頭のおかしいバーサーカーにトンでもない能力を与えやがったなアヴェンジャー!?

 

「くっそ! こっちは矢が出ないのにあっちは殴る度に強くなるし、最悪だ!」

 

 握っている黒い弓は恐らくだがアーチャーの方のエミヤの宝具で間違いない。となれば投影魔術で矢を作って撃ち出す必要があるが、インクルードで呼び出せたのは弓のみ、投影魔術が使える気配は無い。

 

 いつも通り瞬間強化で逃げ回っているが、とても逃げ切れるとは思えない。

 

「待て待てぇー!」

「これじゃ追い付かれる! っ!?」

 

 なんと都合の良い事に、俺の視界に扉が飛び込んで来た。

 

 あそこになら恐らくだがサーヴァントがいる。一度きりのインストールを使用せずにピンチを切り抜けられそうだ。

 

「頭を撫でればいいけど、リヨ子はとりあえず後回しでいいだろ!」

 

 俺は瞬間強化を最大限発動させ、扉を一気に開いて飛び込む様に部屋へと入った。

 

「んっ!? あっ! わわわ、マスター!?」

 

 いきなりの侵入に中にいたサーヴァントも驚いた様だ。

 

「はっはっは! 待てぇ運命の人ぉ! 圧制者は抱擁だぁー!」

 

 開いたままの扉からそんな声が聞こえ心臓が潰される様な錯覚に陥っていた。

 

 その間にスパルタクスの狂気に飲まれたのか、リヨ子は俺の消えた廊下を走り去っていく。

 

「……な、なんとか逃げ切った……」

 

 その場にへたり込む。もう気力は無い。

 

「マスター、大丈夫か!?」

 

 そんな問い掛けにそう言えばサーヴァントが居るんだなと顔をあげる。

 

「うおっ!?」

 

 顔を見たと同時に抱き着かれ、思わず妙な声を出してしまった。

 

「怪我は無いよな!? オレがいるからしっかりしろよ!?」

 

 赤い服装に金髪で男勝りな口調、引いた事は無いが見た事はある。

 

 叛逆の騎士、セイバークラスのサーヴァント、モードレッドだ。

 騎士王、アルトリア・ペンドラゴンの娘……彼女の姉モルガンによって作られたホムンクルスだ。

 

「あ、ありがとう。大丈夫だよ」

 

 チャンスだと思い、右手で頭を撫でた。

 

「お、おい!? 子供扱いすんなよ!?」

「ごめん、別に子供扱いじゃなくて……」

 

 モードレッドは好きな相手には子犬の如く懐くサーヴァント。ヤンデレになれば恐らくだが依存するタイプだ。

 

「髪が綺麗で、つい……」

「え……? あ、ば、馬鹿! きゅ、急に褒めんな!」

 

 顔が真っ赤になったと思ったらツンデレの様なセリフを吐いて、俺から離れた。

 

「……きゅ、急にじゃなかったら……もっと褒めて良いから……な?」

 

(おっふ……)

 

 ヤンデレに囲まれ過ぎていたせいか、モードレッドのツンデレがとてつもなく可愛く見えてしょうがない。

 

「…………マスターはオレが守るから、オレの側を離れんじゃねえぞ!」

 

 頼もしい事を言って、モードレッドは剣を手に持った。

 

(顔が真っ赤じゃなきゃ、凛々しいとか思ったんだけどな)

 

「見つけたわ!」

 

 第三者の声が聞こえ、すぐさまモードレッドが俺を庇う様にドアの前に立った。

 派手に吹っ飛ばされたドアがモードレッドへと向かうが、彼女の持つクラレントの切れ味の前では無力、切断された。

 

「誰だ!」

「……弟子の分際で、護衛、いや、害虫がいるようね。こんなのも払えないなんて情けない弟子ね。今から鍛え直してあげないと……」

 

「誰だって聞いてんだよ、答えろ!」

 

 モードレッドが声の主へと斬りかかる。

 

 クラレントはモードレッドが騎士王に叛逆し戦った逸話によって王位継承の剣から邪剣へと変化した剣だ。

 あのエクスカリバーと斬り合った剣に、アーサーの遺伝子を持ったモードレッドが使っているんだ。半端なサーヴァントじゃ太刀打ち出来ない。

 

「甘いわね!」

「っがぁ!?」

 

 フラグ回収早っ!

 突っ込んだ筈のモードレッドが一瞬で吹き飛ばされた。

 しかも床に叩き付けられたモードレッドの体は金の輪で縛られていた。

 

「さあ、こんな所からオサラバして一緒に過ごしましょう? 貴方の、お師匠様とね!」

「さ、させるか……!」

 

 モードレッドは拘束されたまま立ち上がる。

 

 睨みつけた先にいるのは、キャスターのサーヴァント、天竺を目指し孫悟空や妖怪を仲間にし過酷な旅を完遂したと言われる玄奘三蔵。

 

「あら? まだ立っちゃう?」

「ふざけやがって……! このオレが不意打ちだけでやられる訳がねぇだろ……!!」

 

 そう、先程モードレッドが吹っ飛ばされたのは完全に不意を突かれた一撃だったからだ。

 三蔵は手に出現させた三又槍で攻撃すると見せかけて、指の中に縮小させ隠していた如意棒を伸ばして攻撃したのだ。

 

「だけどその輪は御仏パワーで出来た物よ。破るどころか、私が念じればもっと強く締め付けるわ」

「そんな脅しが……!!」

 

「〜〜」

「っがあぁぁ!?」

 

 手を合わせ聞き取れない念を唱えるとモードレッドを縛っていた金の輪が更に締め付けだした。

 

「っぐぅ……こ、こんなもん……!!」

 

「ねぇ、仏弟子? あの娘、苦しんで困っているわね?」

「……」

 

 白々しい。満面の笑みを浮かべながら玄奘三蔵は言葉を続ける。

 

「師匠の教え、覚えてる? 困っている人は見捨てるなって私言ったわよね?」

「っぐ、こんのぉ……!!」

 

 言いながらも輪は緩めない。

 

「モードレッドを放して下さい」

「駄目だね。彼女が縛られているのは貴方が彼女の部屋に入ったから。貴方が私を選ばなかったから」

 

 この師匠様は完全に目が逝っている。

 

「なら、ちゃんと彼女の前で私を選ばないと。私に彼女を選んだのは勘違いだって示さないと。キスでもして、ね?」

 

「んな必要は、ねぇ!!」

 

 モードレッドの魔力が高まり、両腕で金の輪を思いっきり引き裂いた。

 

「あらら? 罪人に解かれるような輪じゃないだけどなぁ?」

 

「マスターの為ならあんなもん、幾らでも破ってやる!」

 

 狭い部屋でいがみ合う2人。此処は言葉で止めるべきか。

 

「ちょっと待て! そもそも俺はどっちが良いなんて一言も言ってないよ!」

 

「……んー? それはどう言う意味かな? 弟子が師匠を選ばない、なんて言わないわよね?」

 

「マスター? オレを裏切ろうだなんて思っていないよな?」

 

 悪手だ、俺。2人の刃がこちらに向いただけでは無く、選択を迫られている。

 

「あ、えっと……俺は……」

 

 どっちを選んでもヤンデレだ。

 この際、都合良く誰か部屋に侵入してくれないだろうか? 

 そもそもエナミとマシュは何をしているんだ? もしかして、リヨ子と廊下で遭遇でもしたのか?

 

(これ以上コイツラと構っていると当選者さんの頼んだ出番の多さを守る事が出来なくなってしまう。此処でインストールを切るべきか!?)

 

「何を悩む必要があるのかな? 貴方は私の弟子よ?」

「マスター……オレを見捨てないでくれるよな?」

 

 やれやれ……だったら……

 

「そうだなー……? リヨ子を倒せる位強くないと、一緒にいられないかなー?」

 

 遠回しの頼み事。まるで付き合っている女子に貢げと言っているクズ男の様な発言だが……

 

「任せなさい!」

「オレなら楽勝だ! やってやるぜ!」

 

「あ、待って!」

 

 出て行こうとする2人を呼び止め頭を撫でた。

 

「オレ、信じてるよ」

 

「……お、おう! 任せろ!」

「はぁぁ……な、生意気な弟子ね!? ふん! お師匠様に任せなさい!」

 

 やる気が滾った2人はそのまま部屋から出て行った。自分の屑っぷりに呆れて声も出ない。

 

「なんとか誤魔化せたな……」

 

 精神的に、苦しい戦いだった。

 

 だがやはり頭を撫でるのは簡単だ。人数も後3人だけだし……

 

「先輩♪」

 

「おわ!?」

 

 2人が出ていったドア(があった場所)からマシュが入って来た。

 

「マシュ……!」

 

「邪魔者は消えました、先輩。さあ、一緒の時間を過ごしましょう!」

 

 マシュは素早く俺に迫り近付く。

 

「遅くなって申し訳ありません」

「本当にごめんなさい。他の女が鬱陶しくて……」

 

 マシュは現在オルタと体を共有しているので、2人が交互に話している。

 

 俺は後退るが、狭い部屋の中では背中が壁に着くのは早い。

 

「先輩、逃げないで下さい」

「大丈夫です、痛くはしませんから」

 

 優しく肩に手が触れて、首をすーっと上り、口に妖しく触れる。

 

「っ……!」

 

 体が強張る。このままだと、呑まれるのは間違いない。

 

「怯える先輩……」

「可愛いです♪ っあ……」

 

 ならばこちらもと手を伸ばして頭を撫でる。

 

「もう、先輩ったら……♪ ペットじゃないんですから女性の頭を軽々しく撫でてはいけませんよ?」

 

 よし! これで残るはリヨ子とエナミだけだ。

 

「お返しに、先輩の頭も撫でてあげますね?」

「お汁が出るまで、たっぷりと……」

 

「それは勘弁だ!」

 

 R-18発言に戦慄し、俺は緊急回避でマシュを避けて部屋を飛び出した。

 

「相変わらず照れ屋な先輩ですね?」

「大丈夫ですよ。ちゃんとイカせてあげますから」

 

 その後をマシュが追ってくる。瞬間強化がまだ使えない事に気付くが、それ以上の厄介事が目の前に飛び込んで来た。

 

「せ・ん・ぱ・い! 見つけましたよ!」

 

 くだ子……エナミだ。

 

 不味い。前門の後輩に後門の後輩……

 どっちも後輩だが、夢の中でリミッターやら常識が失われたエナミとオルタの影響でエロの化身と化したマシュが相手では状況は最悪だ。

 

「さあ先輩、2人で愛を育みましょう! 先ずは監禁から……」

「どんな始め方だ!」

 

 手錠を持って近付くエナミ。後ろはマシュで塞がれていて逃げられそうに無い。

 

「監禁して搾り取るのも良いですけど……衰弱させて介抱して、私の言う事を聞いてくれる様にするのも捨て難いですね」

 

 エナミが手を組んだまま頷いているが、俺にはその2択の良さがこれっぽっちも分からない。

 

「先輩を先輩のまま私を愛してくださる様に、手錠に繋がれた先輩にとって都合の良い女に……」

「ダメダメ。毎日ちゃんと面倒見てずっと繋いで、でもたまに激しく扱ってあげないと……♪」

 

 マシュもオルタと謎の自問自答を始めている。

 

「健気な後輩に内緒で後輩モドキと会っていたんですね? 先輩、ヤンデレポイント、3万行っちゃいますね?」

 

「可哀想に……先輩はこんな人と一緒に過ごしていたんですね? 大丈夫です、直ぐに開放してあげます!」

 

 エナミとマシュがお互いを挑発し始める。

 このまま2人で潰し合ってくれれば此方としては助かる。

 

「……ですが、同じ後輩のよしみで先輩を貸してあげます」

「その取引、乗ります♪」

 

 何も言えず出来ずにあっという間にマシュに体を捕まれ、エナミに手錠をかけられた。

 

「あ……れ……?」

 

「先の足止めは助かりました」

「いえ、こちらこそあの人を攻撃して貰って助かりました」

 

 何故か後輩2人が楽しく談笑しながら力の抜けた俺を運ぶ。

 どうやらリヨ子を2人で撃退したらしく、意気投合している様だ。

 

「先輩! 幸せですね! マシュさんの部屋、安全らしいですよ!」

「はい! 一緒に先輩を監禁しましょう!」

「イロイロ、教えてあげます♪」

 

 ろくな抵抗も出来ないまま俺は運ばれていく。

 手錠さん、いつもお疲れ様です。そろそろ休んだらどうですか?

 

 

「あーん!」

「あーん!」

 

 目の前にプリンとイチゴがあります。どちらを選びますか?

 

 なんて問題文が下に書いて有りそうな光景が目の前に広がっている。

 

「先輩の大好きなショートケーキですよ? はいっ!」

「先輩が食べ易い様にと用意させて頂きました、プリンです」

 

 スプーンとフォークが突き付けられ、思わずフォークの鋭利さにプリンの乗ったスプーンを選び、口に含んだ。

 

「先輩!?」

「いや、イチゴくれよ」

 

 なぜ遠ざかる必要がある? 両方頂きたいと俺はイチゴも頬張った。

 

「食後の腹ごなしには柔らかーいプリン、揉み放題ですよ?」

 

 マシュは俺の腕へと抱き着き絡む。

 

「吸っても噛んでも美味しいイチゴ、ちゃんと先輩のお口に立たせてあげますね」

 

 負けじとエナミも腕に抱き着いて耳元で囁く。

 

「所で、腕に抱きつくのは構わないが後ろに縛られたままじゃ触れないんだけど?」

 

 俺は両手首を縛られ、背中で必死にもがいている状態だ。勿論触るつもりはない。つるつるなプリンにも、赤く小さなキイチゴもだ。

 

「勿論外してあげますよ。先輩、変な抵抗はしないで下さいね?」

 

 手錠が外される。抵抗したいが令呪もなければ戦力にも差がある。インストールした所で、捕まるか殺されるのがオチだ。

 

「さあ、触って構いませんよ?」

「大きさは負けますけど、感度はマシュさんに負けませんよ」

 

 2人で胸部を露出し始める。

 

「あー! 俺は着衣が良いなー! すぐ裸とかロマンがないしー!」

 

 触る訳にはいかないし裸もダメだ。もし誰か侵入してこの2人が胸を露出していたらアウト。問答無用で殺される。

 

「分かりました。では……」

「優しくして下さいね……?」

 

 2人は胸を強調させこちらに近付く。

 触りたい衝動に駆られるがなんとかやり過ごす策を練ろうと頭を捻る。

 

「……どうしました?」

「さあ、早く!」

 

 更に近付く。

 そのはずみで揺れる双山に手が行きそうだ。

 もう片方も迫って来る。山は小さく揺れるが官能的なツボミを覗かせている。

 

 正直、触りたいです。

 

「……やっぱり、この牛女が邪魔ですね」

「ええ、先輩は私だけのモノでした。それを分かち合おうだなんて……」

「無理だったんですね」

 

 動かない俺を見て互いに矛先を向け合い始める。いや、近くに俺がいるんですけど!?

 

「――見つけたぁ!」

 

 更にそこにドアを破ってもう1人入って来た。

 リヨ子討伐の命を与えた筈のモードレッドだ。

 

「マスター……今助けてやる!」

 

「邪魔ですよ。これから先輩の唯一の後輩を決める戦いなんですよ、邪魔しないで下さい?」

「モードレッドさんの相手はその後してあげますよ」

 

「……そうかよ」

 

 言うが早いか、モードレッドは魔力を放出させ俺を奪って逃走した。

 

「ならマスターを貰っていくよ!」

 

 

 モードレッドに連れて行かれた俺だが、なんとモードレッドは自分の部屋に戻ると俺の手錠を切り裂いて膝を床に着けた。

 

「許してくれ!」

「……え?」

 

 流石に驚いた。今の今までヤンデレに殺されたり捕まった事はあるがこんな風に謝られたのは初めてだ。

 

「オレは、マスターの命令を無視して敵前逃亡した……マスターの身の安全の為とはいえ、オレはマスターの命令に背いた……」

「も、モードレッド? 少し落ち着い――」

 

 戸惑いながもモードレッドに頭を上げてもらう様に説得しようとしたが、モードレッドは俺の両腕を取った。

 

「――なんでもするから! マスターに許して貰えるならなんでもするからぁ! どんな処罰も辱めも受けるから! オレから離れないでくれ!!」

 

 泣きながらも、モードレッドの腕に込められた力が強くなる。

 

「だ、大丈夫だよ! モードレッドは俺の為に来てくれたからね、そんな事で処罰も無いから……」

 

「うぅぅ……ほ、本当に、叛逆の騎士と呼ばれたオレの命令違反を、許してくれるのか? 嫌いに、ならない?」

 

「ああ、勿論だ」

 

 それを聞いたモードレッドは今度は思い切り抱きついてきた。

 

「あぁ……マスター……」

 

 頬を染めてこちらに顔を預けて来る。まるで仔犬だ。

 

「……そろそろ離してくれないか?」

「あ、お、おう……」

 

 残念そうな顔をして離れるモードレッド。そんな顔を直ぐに普段の表情に戻して、こちらを向く。

 

「今度こそマスターの期待に答えてみせる! あの女を倒して、マスターへの忠誠、必ず示す!」

 

 その誓いを立てたと同時にやる気に満ちた顔で廊下へと向かう。

 

「うんめぇぇいぃのぉぉひとぉぉぉ!? 何処にいるかなぁぁぁぁぁ!?」

 

 そのタイミングでリヨ子の声が聞こえる。

 

「よっしゃぁ! 任せろ!」

 

 勢い良く廊下へ飛び出したモードレッドはリヨ子と対峙する。

 俺も廊下へ飛び出したがリヨ子の変わり具合に戦慄する。

 

「なんだあの化物は!?」

 

「圧制者は抱擁だぁぁぁ!!」

 

 筋肉ダルマとはまさにこの事。女性と呼ぶのが他の女性に失礼な位だ。

 

 2mの巨体に女性的魅力どころか男性的筋力が垣間見れる筋肉。

 

 宝具を呼び出すインクルードだけでここまでスパルタクスに近付くのかと戦慄を禁じ得なかった。

 

「三蔵は!?」

 

「化物の後ろでグッタリしてるぞ!」

 

 モードレッドの指差す方向には気を失っている様子の三蔵が床に倒れたまま動かない。

 

「ミーツーケーター……」

「今度こそ、ぶっ潰す!」

 

 俺を掴もうと伸びる腕。それを阻もうとモードレッドが俺の前に立って剣を振るって構えた。

 

 それをあざ笑うかのように、リヨ子はクラスカードを手に取った。

 魔力が風を起こしながらもクラスカードに収束し、その量を高めた。

 

「イ・ン・ス・トー・ル ! ! !」

 

 

 

 閃光。体を襲う衝撃。

 

 モードレッドが咄嗟にクラレントを真名開放しリヨ子に炸裂させたが、その衝撃で俺は元いた位置から吹き飛ばされた。

 

 だが、魔力のぶつかり合いが起こした煙の先には倒れる事の無い巨大な影が見える。

 

「っく……ぅっそ……!」

「運命の人ぉ……逃げないでよ?」

 

 自身に向けて宝具を放ったモードレッドを壁にめり込ませたリヨ子は静かにこちらを見る。

 

 ダメージが魔力ヘと変換された事であらゆるパラメータが強化された化物は止まらない。

 

「っく!」

 

 逃げの一手だ。たとえ不可能でもそれしかない。

 

 俺のクラスカードはアーチャー、エミヤは宝具の贋作を造れる魔術、投影を行える。

 あの化物を倒したければ魔滅の槍ゲイ・ジャルグの様な魔力を無効化する宝具が必要だ。それをインストールで行えるかどうかなど、分が悪すぎる賭けだ。

 

「先輩には、触れさせません!」

 

 逃げるのに必死な俺へと腕が届く瞬間、大盾がそれを払い除け、俺とリヨ子の間に入り込んだ。

 

「マシュ!」

 

「ご無事ですか、先輩!?」

 

「インストール……ブリュンヒルデ!」

 

 更にエナミも英霊を体に憑依させる。憑依させた英霊の名を聞いた俺に、悪寒が走った。

 

 ブリュンヒルデは大神オーディンの娘であり、ワルキューレの1人。

 英雄シグルドと恋に落ちるものの、最後は殺意の炎で殺し、自殺した。

 

 ……当然、大半のマスターからヤンデレ認定されている。

 

 ブリュンヒルデの如く、悲しみを色にしたかの様な青色の装束に身を包んだ。

 

「……先輩、私から離れて下さい。先輩が近くにいる間は……」

 

 殺さない自信がありませんと言われ、俺は急いでその場を離れた。

 

 

「……行きます」

 

 魔銀の槍を手に、エナミはリヨ子へと迫る。

 

 リヨ子は武器らしい物は持っていないが、攻撃を受けるほど強化されるあの肉体は脅威だ。

 

「っはぁ!!」

 

 槍がリヨ子の体へと届く。しかし、リヨ子はそれを気にした様子は無く腕で弾いた。

 

「……化物、ですね」

 

「わっはっははは!! 死ぬが良い!」

「っうぅ!」

 

 エナミへと迫る拳をマシュが盾で受け止めつつ後方へと下がる。下がらなければ受け止め切るなど不可能だった。

 

「不味いですね……!」

 

 1度だけの攻防。しかし、それだけでこれでもかと言う程伝わって来た絶望感。

 

 防御は不要。攻撃はまともに受ければアウト。

 

「なら、宝具しか無い!」

 

 エナミは盾を構えるマシュの後ろで槍を構え、魔力を高める。

 

「先輩が好きです。故に今一瞬だけ、貴方への道を阻む壁すら愛しましょう……」

 

 エナミが言葉を紡ぐと槍は炎に包まれ、マシュは退散した。

 

「ブリュンヒルデ・ロマンシア!!」

 

 何倍にも巨大化した槍を平行に構え、魔力の篭った足で地面を踏むと外す事なくリヨ子へ迫っていった。

 

「ふん!! ぬうううぅぅぅ!!」

 

 しかし、なんの冗談かリヨ子は槍の先端を体に届く前に両腕で掴み、床をその力と重さで破壊しながらも抑えた。

 

「っく! ですが読めてました!」

 

 エナミは槍をそのままにして後ろへ跳んだ。

 

「ブロークン・ファンタズム」

 

 紡がれた言葉が、爆発を生んだ。

 

 

「やりましたか?」

 

「た、多分……う……」

 

 エナミはインストールが終了し、その場に倒れ込んだ。魔力切れだろう。

 

「宝具を失う代わりに秘めている魔力で爆発を起こすブロークン・ファンタズム……もうこれしか手が無かった……」

 

 マシュと共に静かに煙の先を見る。

 

「……ゴッホゴッホ! うっひゃー……酷い目にあったなぁー」

 

 だが、信じられない事に間抜けた声とともにリヨ子は戻って来た。

 

 大きなクレーターの様な穴から這い上がって来た様だ。もう既に筋肉ダルマでは無いが、破けた服と対象的な程に無傷な精神が不気味である。

 

「良くもやってくれたなー! 覚悟しろよー!」

 

「どうしよう……インクルードも使えないし……」

 

「こっちに来たらどうだ?」

 

 リヨ子の背後から俺は声をかけた。

 

「その声は運命の人! そっちから声をかけてくれるなんて!」

 

「じゃ、先行ってるから」

 

 俺はなるべく早くリヨ子から離れる。

 千里眼のおかげか、リヨ子の位置はよく分かっている。

 

 リヨ子が追いかけてくるのを確認しつつ、俺は裁きの間、広場へと足を運んだ。

 

「何処だぁ! 運命の人!」

 

 リヨ子も広場に到着した。

 

「此処だ」

「見つけた! あり? なんか赤いマント着てる?」

 

 俺を見つけたリヨ子はゆっくりに俺へと近付いてくる。

 

「ブロークン・ファンタズム」

 

 近付くリヨ子の足元を見て、俺はそれを呟いた。

 

 彼女の足元を砕きながら爆発するのは無銘の剣。投影で造った宝具モドキの剣達。

 

 威力はブリュンヒルデの魔銀の槍を数回りも下回るが、人が落ちる穴を作るくらいなら訳ない。

 

「うわぁぁー……わっ!?」

 

 落ちながらも気の抜けた顔だったリヨ子だが、落下中に体が静止し焦る。

 

 静止した理由は彼女の両腕を掴んだ鎖だ。

 

「鎖がうまく行かなければ最悪剣で両脇を支えるつもりだったのだが」

「ちょ、ちょっと!? 頭撫でてないでこれ外して!!」

 

 俺はリヨ子の頭を撫でつつ千里眼でシャトーを見る。

 

「……マシュだけか」

 

 気絶していないのはマシュだけ。残る3人は気を失い、眠っている。

 

「ちょっと! 聞いてる!?」

「外すわけ無いだろ」

 

 リヨ子は確かに人間離れしているがそれはあくまで身体能力だけだ。

 

 跳べば十数メートル行くし、腕力なら(冗談だと思うが)ソロモンを倒せる。

 

 しかし、いま鎖は緩めに彼女を縛っている。力を込めて鎖が破られる事が無ければ地面を蹴ってジャンプする事も出来ない。

 

 何よりもう頭は撫でた。悪夢から覚める為に全員の頭を撫でた筈だが覚めなければ、1人だけ何故か気絶していないマシュが怪しそうだ。

 

「おーい! 無視しないでぇ!」

 

 エミヤへのインストールが終了する前に

マシュの元へと駆け出した。

 

 

「で……何で撫でたのに帰れない?」

「さ、さぁ? な、なんででしょう?」

 

 問い詰めたがなぜ終わらないのかマシュは吐かない。一応頭も撫でたが、帰れそうにない。

 

 どう見ても何か知っているが話さないつもりなのでモードレッドの部屋にて投影した鎖で繋いで壁に縛り付けている。

 

「さて……どうした物か……ん?」

 

 ふと廊下を見ると倒れている玄奘三蔵を見つけた。インストールは続いてるので部屋に運び込んでマシュの前に戻って来た。

 

「な、何をする気ですか?」

 

 俺は未だ気を失ったままのお師匠様の頭を膝の上に置いた。

 

「せ、先輩?」

 

 インストールを解除したが、手錠は消えない。

 元の姿に戻ってお師匠様の頭を撫でる。

 

 常人なら何でもない事なのだが、ヤンデレ相手だと……

 

「あ……あぁ…………」

 

 すでに涙目である。

 

「お師匠様……起きて下さい。朝ですよ……」

 

 耳元で囁く。正直自分も恥ずかしいが……

 

「だ、駄目です……先輩が他の女性にモーニングトークだなんて……!!」

 

 見ればマシュの鎧に赤い線が現れている。

 

「お、落ち着いて私! 先輩が他の女性に靡く訳が……!」

 

「こうか?」

 

 俺がマシュの頭を撫でると、目覚めの前兆が訪れた。

 

「あ……」

「なるほど。オルタとマシュ、体は同じでもカウントは別だって事ね」

 

 納得しつつ、俺は漸く夢から覚める事ができた。

 

 

 

 普段通り目が覚めたが、机の上にはクラスカードが置いてあった。

 

「……インストール! 出来ないな……」

 

 インストールは出来ないが、どうやらこれがあると多少身体能力が上がるらしく、視力も集中すると双眼鏡の半分位細かく見れる。

 

「エナミから逃げるのとポケモンGOに役立ちそうだな」

 

 いうが早いか、玄関のチャイムがなる。丁度良い。ポケモンGOをやりつつ本屋に行く為に早速使わせてもらうとしよう。

 

「せーんーぱっい! おはようございまーす!」

 

 ニッコリと笑いながらエナミは挨拶をする。手を顔の高さにまで上げて。

 

「早速ポケモンGOでもしに出かけませんか!?」

 

 クラスカードを見せながら。

 




16万UAありがとうございました!

これからも精進します!

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