ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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前話でのミスで数十人位のお気に入り登録から外されて、落ち込んだまま打ち切らない様に早めに投稿しました。
自業自得ですし謝罪文はそれ位覚悟の上で投稿しましので、今後は二度同じ事をしない様にと、深く反省しておいます。

まずは活動報告を1週間に1度は投稿する様に心がけるつもりです。

迷惑や不快な思いをした読者の皆さんには今一度、お詫び申し上げます。


ヤンデレ・ファミリー リクエスト編

 

「で、またか……はぁ……」

「まだ機嫌悪いのか?」

 

 いや、これっぽっちも。

 

「良くなる事が無いだけだ」

「……兎に角ヤンデレ共と家族として過ごして貰う」

 

「異論なーし」

 

「覇気がまるで感じられない……慣れすぎたのかもしれんな」

 

 

 

 待たしても奇妙な家の中から始まった。正直、ベッドから出たくない。

 

「ならば、鍵でも掛けてしまおう」

 

 俺はベッドから立ち上がるとドアノブを確認してからドアの鍵を掛けた。

 

「内側で鍵さえかければ外から開かない仕様だな。これで一休みと行こうか……」

 

 ベッドにもう一度倒れる。枕に頭を乗せて、2度目の怠惰を貪ろう。

 

「……あら? まだ寝ていますか?」

 

 物音1つたてないで誰かが侵入してきた。

 頭上から声が聞こえてくるので恐らく窓から侵入したのだろう。

 現実ではいつも寝る前にロックしているので油断した……

 

(て言うか誰だこの声……どっかで聞いた事はあるけど、聞き慣れない……)

 

「お、起きてま――おわ!?」

 

 疑問が浮かんで応答が少し遅れたが、その瞬間、体に柔らかい感触が襲い掛かった。

 

「おはようございます、キダ」

「お、おはよう、ございます……」

 

 抱き付いてきたのは牛かと思う程大きな……ゴホン、立派な双山をお持ちの知性派バーサーカー、坂田金時の母親である源頼光である。

 

(また妹枠か? いや、ブーディカ以上にこの人はセーラー着たらただの犯罪だし……)

 

「さあ、早く起きて着替えましょう?」

「ちょ、ちょっと無理ですねー? 抱き着かれて起き上がれません」

 

「あらまぁ? 私ったら……はい」

 

 退いてくれると思ったら抱き付いたまま、俺を持ち上げ立たせた。

 

「昨日はお父さんの所で過ごしたようですが、よく眠れましたか?」

「はい」

 

 抱き付いたまま質問され、半分上の空で返した。

 

「それは良かった」

 

「所で離してくれないと着替えできないんですけど……」

 

「あらやだ、母の私が息子の邪魔をするなんて……」

 

 と言いつつ、源頼光は親指で3回程何かを弾いた。どうやら、砂利の様だ。

 

「早く降りてきて下さいね? 母のご飯はもう出来ていますよ」

 

「うん、すぐ行く……」

 

 閉じられたドア。しかし、閉扉音に紛れて小さく響いた音を俺は聞き逃さなかった。

 

「天井に砂利を弾いて背後にあったカメラを起動して録画ボタン押すとかどんな芸当だよ……」

 

 流石サーヴァントと溜め息を吐きつつ、カメラを止めた。

 

「……さて、どうなってんだろ?」

 

 昨日とはまるで違う家族……なら良かったんだが、どうやら昨日の最後に登場したセイバー・リリィ(父親)と関係のある家族らしい。

 

(実母……とか? マジですか……)

 

 きっと当たっているであろう予感を抱いて、着替え終わった俺は部屋を出た。

 

「あ、兄貴! おはよう!」

 

 バッタリ。

 部屋を出て三歩も待たずにエンカウントしたのは俺の予想を裏付けるかの様にセイバークラスのサーヴァント、モードレッドだ。

 

「お、おはよう……モードレッド」

 

 モードレッドはアルトリア・ペンドラゴンの息子だ。もう先の予想の11割が保証されたと言っても過言ではない。

 

「昨日は父上の所に行ってたんだろ? 父上どうだった!? 元気だった!?」

「あ、ああ……元気だったよ……」

 

「そっか! 良かった!」

 

 どうやらファザコンの様だ。出来ればヤンデレの対象もセイバー・リリィに向いて欲しい。

 

「さあ、早く行かないと! もう腹減ってしょうがねぇ!」

「ああ、先に行ってくれ」

 

 俺はそう言ってトイレに向かった。

 

 

「さあ、召し上がれ」

 

「頂きまーす!」 

「頂きます」

「頂きます」

「……頂きまーす」

 

 感謝の言葉の後、左に座っているモードレッドが茶碗に乗せられたご飯をかきこみ始める。

 箸が何度も茶碗にぶつかりカタカタと音を立てる。

 

「モードレッド、はしたないですよ。音を立てないで食べなさい」

「こんくらい、いいじゃね――ごめんなさい!!」

 

 ギロリ。反抗期が一瞬で消え去る鋭い視線。

 確かに怖いがそれで良いのか、叛逆の騎士ぇ……

 

 俺の右正面では金髪の美少女がモードレッドとは対象的な程に綺麗に食べているが、皿には魚の切り身が半分残されている。

 

「ジャンヌ、もっと魚を食べなさい」

「はい、分かってますお母様」

 

 姉はルーラクラスのジャンヌ・ダルクだ。金髪率の多い家族だと思いながら、その奥、もう1人の姉にも注目する。

 

「ジャルタ! 味噌汁を残さない!」

「はいはーい」

 

「こっそり野菜をジャンヌの皿に移さない!」

「っち……」

 

 完全にグレているのは2人目の俺の姉、ジャルタ……ジャンヌ・オルタである。オルタ化の影響か、ジャンヌとは性格がまるで反対だが、双子の姉だ。

 

 そして、俺の隣にはお母さんが座っている。

 

「はい、あーん」

 

 何故、家族が集合しているこの状況で公開処刑されなければならないのか。

 

「? どうしました?」

「いや、自分で食べられるから……」

 

 それを聞いて頼光は固まる。

 

「そんな……母はもう要らない、用済みだっていうのですか?」

 

 いや、そこまで言ってない。

 

「もしかして箸では無く、スプーンで食べたいのですか!?」

 

 違うから。だからその青いプラスチックで出来た子供用スプーンを下げろ。

 

「どうしましょう!? キダにも遂に反抗期が来たのですか!?」

 

 おい、先のモードレッドへ向けた眼光はどうした?

 

「兄貴! オレと一緒に母上に逆らおうぜ!」

「キダを貴女の反抗期に誘うのはやめなさい、モードレッド」

 

「良い子ちゃんぶっちゃって……あ、キダ、ジャンヌと席交換する? お姉ちゃんの隣に座る?」

「姉さん!」

 

 一気に食卓が騒がしくなったな。

 

「いや、モードレッドも1人で食べてるのに、兄の俺がお母さんに食べさせてもらうのは……」

 

「なるほど……そうですよね。キダが母を嫌いになるわけがありませんでしたね! それではモードレッド、こちらに来なさい。キダと一緒に母が食べさせてあげます」

 

「えぇっ!?」

 

 何 故 そ う な る ! ?

 

 

 

「それじゃあ母は買い物に行ってきます。キダ、ちょっと……」

 

 玄関前で頼光に呼ばれるが既にオチがわかった。

 

「っぎゅー…!!」

 

 やはり、抱き着かれた。

 

「いたたたたたっ!!」

 

 豊満なエアバッグがまるで効果ない。背中に伸ばした手の平にやたら力が篭っているからだ。

 

「あら、ごめんなさい! それじゃあ、良い子でお留守番して下さいね? 行ってきます!」

 

 危うく潰れたトマトにされる所だった……紛う事無きバーサーカーだな、あの人。

 

 今日も休日……まあ、夏休みなんだろう。部屋でゆっくりしようかと、玄関に背を向けるとジャンヌ・オルタがいた。

 

「ジャルタ姉さん?」

「オルタ姉さんと呼びなさい。

 そんな事より、ハーゲン○ッツ食べたくない?」

 

 何だと、あの高級カップアイスを!? いや、オルタが奢るなんて、そんな……

 

「私の部屋の掃除をしてくれたら、ね?」

 

 やはり無料では無いらしい。

 なんて露骨な罠。

 ヤンデレのホームグラウンドに入るなんてそんな馬鹿な真似はしない。

 

「じゃあ、いらな――」

「――そういえば、ジャンヌが時間があるなら聖書を読むのに付き合って欲しいって言ってたっけ? モードレッドと、キダに」

 

 オー、ホーリー・シット……聖書の音読だって?

 背筋伸ばして微動だにせず十数分が2時間に感じられる時間を過ごせ、だって?(主人公の偏見です)

 

「謹んで承ります」

 

 

 

 ジャンヌ・オルタの部屋は確かに散らかり放題だ。

 本が地面に落ちており、本棚の方はだいぶスペースがある。ホコリの類はそこまで酷くは無い。

 

「じゃ、お姉ちゃん監視してるからしっかりやってね。本の整理以外しなくて良いから」

「分かったよ」

 

 手始めに近くの本を手に取る。ジャンル別に本棚にシールが貼られているので、後は適当でいいとの事だ。

 

「生物図鑑……世界の芸術……ドラゴン図鑑……」

 

 だいぶジャンル別に偏っている。これなら直ぐに終わるだろう。

 そう思ってもう1つの本を手に取る。

 

「っ!?」

 

 表紙を見た瞬間固まった。

 

(《弟の躾け方♡》……!?)

 

 どう見ても如何わしい本だ。何故か表紙以外は別の本になっているが……

 

「……これ、何処に片付ければ……!」

 

 オルタはニヤニヤしながらスマホらしき端末で写真を取った。

 これが狙いか……!

 

「なーにー? 世界昆虫図鑑は図鑑の中よー?」

 

 仕方が無い……掃除を終わらせよう。

 そう思い別の本の山に手をかける。

 

(《お姉ちゃんの言いなり奴隷》……《イケない家族愛》……ええい! なんなんだこのセクハラは!)

 

「っぷ……っくく…………」

 

 あっちは爆笑し過ぎて腹を抱えているようだ。

 悔しいので残りの本はなるべく背表紙で判断して本棚に入れ、無表情で片付けた。

 

「終わったよ。約束のアイスを下さい」

「ちぇーつまんないのー」

 

「全く……もう良いだろ、さっさと食べに行こう」

 

 唐突にコンコンと誰かがドアをノックした。

 

「姉さん……」

 

 扉の向こうでジャンヌが小声で要件を言い始めた。

 

「姉さんに借りた《ナマイキな姉の調教日記》を返しに――」

「わあぁぁぁぁ!! 何言ってんの!?」

 

 誤魔化すには少し遅かったな。

 先の如何わしい本のタイトルと真逆だな。慌てぶりからして、そっちが本当の趣味か。

 まあ、MでもSでもヤンデレなら勘弁だが。

 

「ちょ、早く返して、早く帰れ!!」

「え、ね、姉さん!?」

 

 ドアを素早く開いて目にも止まらぬ速さで本を取った後に、背後に隠した。

 

 なお、スマホを放したのでその間に先の写真は消しておいた。メッセンジャーに保存する為に送った写真も、だ。

 

「私、弟モノの純愛を貸して欲しいですが……」

「あ、後で!」

 

 そこで漸くジャンヌが部屋の扉から離れて行った。

 

「…………」

 

「…………忘れなさい」

 

 俺は何も言わずに部屋から出て行った。

 

「(な、何たる、恥辱……)ハァハァハァ……」

 

 駄目だ、アレで逆に興奮してる。

 

 

 

「あ、兄貴! 何処行ってたんだよ!? ジャンヌ姉ちゃんのクソつまんねー聖書の音読、オレだけ付き合うハメになったじゃねぇか!」

 

「ちょっとオルタ姉さんの部屋の掃除にな」

 

 それを聞いたモードレッドはつまらなそうな顔をした。

 

「っち……あ、じゃあ兄貴、オレの部屋も掃除してくれよ!」

「あら、モードレッド? 貴方の部屋は昨日、お母様に言われて掃除したばかりよね?」

 

 ジャンヌが現れ横から口を挟んだ。

 

「うっ……ちょ、ちょっと汚くしてくるから待ってろ!」

 

 それを聞いたジャンヌが走り出したモードレッドの首根っこを掴んだ。

 

「何を考えているのですか! 部屋は何時も清潔にと、お母様に言われてるでしょう?」

 

「放せよジャンヌ姉さん! 兄貴に掃除させる為なんだよ!」

 

「馬鹿な事を言わないの!」

 

 やれやれ、姉妹喧嘩は当人達に任せよう。

 俺は自分の部屋へ帰ろうとした。

 

「分かったよ! じゃあ、兄貴の部屋に行こうぜ!」

「頑固拒否する」

 

 この夢の中の部屋には色こそ違えど家具は全て再現されている。如何わしい物など無いが、部屋を荒らされるのは勘弁ならない。

 

「怪しいですね……まさか、如何わしい物を隠しているのでは?」

「ジャンヌ姉さん、顔を赤く染めながら言われると説得力が無いですよ」

 

 どう見てもガサ入れする気だな。させてたまるか。

 俺は素早く部屋へと移動し、鍵を閉めた。

 

「やっぱり、如何わしい物があるんですね!?」

「兄貴! 変なことしないから入れてくれよ!」

 

「誰が開けるか……」

 

 溜め息を吐く。これで暫く1人きりだろ。

 

「ミコーン!? 密室でご主人様と2人きり!? もしや交尾のチャンス!?」

 

 ……は?

 

 溜め息を吐くために下げた頭を上げると、俺のベッドに狐耳の美女が正座していた。

 

「何やら懐かしいですね。

 まるでこう、遠き月の日を思い出させる感じ……

 和では無く一般的なマイルームなのもそれはそれで家庭感溢れる恋人みたいで乙なモノです……!」

 

 キャスター……では無く恐らくランサーなのだろう。白いTシャツだし。

 

(いや、あのTシャツは俺のだ。サイズが合ってない。あと下に巫女服来てる……)

 

 訂正、キャスターの玉藻の前で間違いないようだ。

 

「その声は変態狐! お前、母上のペットの分際で兄貴の部屋で何してやがる!?」

 

 まさかのペット枠……だが地下室のロボット枠のバベッジの登場は無い。

 

「お子様に言うにはすこーし過激で、イケない事をするんですよー! 鬼の居ぬ間になんとやら、です! 

 さあ、マスター! 2人で愛を育みましょう!」

 

「失礼しました」

 

 ドアを開けてさっと退出した。

 どうやらこの家に安息の地は無いらしい。

 

「兄貴! ゲームでもしようぜ!」

「良いけど、ジャンヌ姉さんは?」

「やらせて頂きます」

 

「私も一緒にやらせてくださいな!」

「俺のシャツ返したらな」

 

「ミコーン!?」

 

 何故驚いた。当たり前だろ。

 

「負けたら罰ゲームな!」

「何しましょう?」

 

「着てる物を脱ぐとかいいじゃないですか?」

 

 タマモがそんな提案をする。

 

「いいじゃんか! おもしれぇ!」

「ふ、服……です……か?」

 

「因みにー、今日のタマモは巫女服の下に何も着けてませんので2回も負けたら、ご主人様にぜ・ん・ぶ……見せちゃいます!」

 

「オレ、鎧取ってくる!」

 

 モードレッドは趣旨が分かっていないようだな。

 

「や、やっぱりその……服はちょっと……そ、そうです! キスにしませんか? ビリの人は1位にキス!」

 

 この聖職者、下心丸見えである。そのルールならばキスする側とされる側、どちらか2つになる可能性がある。

 

 しかし、これ以上妙な案が出てそれに決定されるのも嫌だ。

 それにそれならば……

 

 

「も、モードレッドですか……」

 

 文句を言いつつジャンヌの尖らせた唇がモードレッドの頬に触れる。

 

「わー!? 兄貴、見るな見るな!」

 

 

「ぐへへ、その体に消えない跡を残しやる……って、ご主人様言われたいです……」

 

 タマモの頬にモードレッドの唇がそっと当たる。

 

「オレも、キスするなら兄貴がいい!」

 

 このルールならば2位か3位になればキスされない。残念だったな。負けない事と勝てない事に定評があるんだ。

 

 

 

「さあ、召し上がれ」

 

『頂きます!』

 

 頼光が帰ってきて、1時間と待たずに昼食を食べる為に皆が集まった。

 

 しかし、オルタ姉さんはいない。どうやらまだ恥辱に身を任せている様だ。

 

「み、ミコーン……」

 

 床で油揚げを貪っているタマモの頭にはタンコブが出来ている。俺のシャツの匂いについて尋問された結果だ。

 

(ヤンデレ要素はあまり見えなかったな。今の所は精々、変態家族のレベルだが……)

 

 どちらにしろ勘弁だな。

 

「御馳走様」

 

 最速で昼食を終わらせた俺は、部屋へと駆け込んだのだった。

 

 窓にもドアにも鍵を掛けた。カーテンも閉じた。後は大人しく悪夢から覚めるのを待つだけだ。

 

「はぁ……流石に強行手段で入っては来ないだろう。ドアに昼寝中って書いた紙貼ったし」

 

 と言う訳でベッドでゴロゴロしてるが、不安はやまない。

 

 起きたら縛られているなんて事もあり得る。

 

 が、俺の心配とは裏腹に何も起きないまま1時間が過ぎ、俺の体は目が塞がれたまま動かなくなった。

 

(寝たのか……寝てても意識あるからいつ寝たのかまるで分からないが)

 

 結局2時間程で目を覚ましたが、本当に何も起きなかった。

 

 拍子抜けだな、と思いつつトイレで顔を洗う為に部屋を出た。

 

 

「キダ……! 大丈夫ですか!?」

「兄貴!? リンゴ食べるか!? ヒエピタか!?」

「梅お粥です!」

「皆、大袈裟過ぎ……胃薬か頭痛薬? 風邪のシロップ薬もあるわよ?」

 

 部屋の前で家族全員に凄い勢いで心配された。

 どうやら昼寝なんか滅多にしないから、病気だと思われた様だ。

 

「だ、大丈夫だよ……」

 

「それは良かった」

「本当に大丈夫か? なんでも言ってくれよ?」

「お粥はレンジに入れておきます」

「だから言ったのに……予防薬いる?」

 

「いや、本当に大丈夫だって……」

 

 なんとか落ち着かせれた様だ。 

 が、頼光が俺の腕を引っ張った。

 

「母を心配させた罰です」

 

 そのまま抵抗出来ずに連れて行かれる。

 

「っちょ、何処に行く気!?」

「母の部屋です」

 

 

 

 引っ張られるまま連れて来られたのは和室だった。

 畳の上には布団が敷かれている。

 

「さあ、其処に座りなさい」

「いや、あの、俺は昼寝してただけだし……」

 

「座りなさい」

 

 強い口調で布団を指差され、仕方が無いので布団の上に座った。

 

 頼光は体温計を取り出すと、俺に脇に挟む様に言った。それに黙って従うと頼光も布団に座り、自分の膝を叩いた。

 

「頭をこちらに」

 

 膝枕か。俺は体温計を落とさない様に膝に頭を預け、体を倒した。

 

「貴方は昔から健康でしたが、母はそれが余計に心配になります」

「いや、別に大丈夫だって……」

 

 くすぐったい。頭を撫でながら頼光は喋り続ける。

 

「何か悩みがあるんですか? 母が聞いてあげますよ」

 

 悩みの元から悩み相談され複雑な心境です。

 

「別に……疑問ならあるけど。

 母さんは何で父さんと離婚したの?」

 

「それは……子供ができたからです」

 

「……は?」

 

 いや、どう言う意味だろうか?

 

「勘違いしてはいけませんよ? 別に貴方達を望まずに産んだとか、貴方達のせいで……と言う訳ではありません」

 

 俺の体温計を取りつつ、頼光は続ける。

 

「貴方達はとても可愛くて(いと)しくて(あい)らしくて……私の愛情はあの人では無く、徐々に徐々に貴方達へと注がれて行きました。あの人もそれに気が付いて、それでも結婚した相手ですから、一緒に住み続けました」

 

「ですが――」

 

『リリィを蔑ろにするとは何事ですか!』

『我らの家名を名乗り続ける事を、許すつもりは無い』

 

「Xお義母様とオルタお義父様はそれを見抜いて、結果、離婚しました……」

 

 カオスな家系だな、お父さん。

 しかも祖父母は同一人物か。

 

「……ですが、きっとこれで良かったのです」

 

 耳元で囁かれた。内側に入ってきたはずの声に、包まれるかの様な錯覚に陥る。

 

「私は、貴方も、ジャンヌもオルタもモードレッドも愛します。死ぬまで、いえ、死んでも、魂の欠片も残らなくなっても、ずーっと……愛してます」

 

 背中に何かが走る。悪寒……だけではない。

 

 守られている安心感に愛の感情が与える快感。声だけで理解した。

 

 この人が母性の化身(母親)である事を。

 

「モードレッド、ジャンヌ、オルタ……入ってきなさい」

 

 名前を呼ばれた3人は部屋へと入ってくる。

 

「母は、貴方達になら何でもしてあげます。何でも差し上げます」

 

「母さん……」

 

 オルタがこちらに近付いてくる。

 

「ほら、こっちに来なさい」

 

「……お母様」

 

 続くジャンヌ。

 

「ちゃんと教えてあげます」

 

「母上……」

 

 モードレッドも大人しく、騒ぎもしない。

 

 既に俺にも、抵抗の意思は存在しなかった。

 

 先程からタマモの焚いているお香の効果なのか、この人の狂おしい程の愛情に当てられたのかは定かでは無い。

 

 唯、頭の片隅に消え去っていく1つの推測。

 

 この人の愛は家族全員に平等で、そのバランスは姉妹達の愛が俺に集まった事で崩れたんだ。

 

 

 

「母の愛情を……愛しい人の、愛し方を」

 

 

 

「……ギリギリだったな……」

 

 最後は殆ど堕ちていたが、おっ始まる前に終わって助かった。

 家族全員で5Pとか正気の沙汰じゃない。

 

 今回は未所持サーヴァントのみでのヤンデレ家族だったが、やはり知らないサーヴァントに囲まれるとやり辛い事この上ない。タマモはキャスタークラスの方は持ってなかったし。

 

 まあ、所持サーヴァントでも懲り懲りなんだけど。

 

「……所で……俺の腹の上の箱は一体……?」

 

 恐る恐るダンボールを開いた。

 中には手紙と、瓶が入っていた。

 

“軽度の精神安定剤です。常に心は穏やかに……貴方の母より” 

 

「つくづく化け物だな……頼光母さんは……」

 

 俺はそっと箱を閉じた。

 




水着イベントが終わったので第6章に戻り、ガウェインを突破したいですね。星5アーチャーは2体いるのになぜ攻略できないんだ……


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