ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回は主人公が出ません。

あれ? もしかして今回誰も得しない話なんじゃ……?


ヤンデレ三者面談

「では、これより三者面談を始めます」

 

 エナミは目の前の仇敵を睨みつけながら横にいる従者にも聞こえるように言い放つ。

 

「……我が主。どうして私がここに居るのでしょうか?」

 

 彼女の従者、ガウェインは暗く顔を俯かせていた。

 

 彼はエナミに惚れている。

 が、ヤンデレ・シャトーの覇者と化した彼女に従うことしか出来ず、理由も分からないまま自らの敬愛して止まない王の前に引き釣り出されたのだった。

 

「ガウェイン卿! お久しぶりです!」

 

 しかもそれが若き日の幼さと少女の可憐さの残る姿をしたアルトリア、セイバー・リリィなのだから余計にダメージが大きい。

 何故あの頃の自分はこんな少女にあんな重荷を背負わせ続けたのだろうか……

 

「今回は()の先輩を誑かすサーヴァントを評価し、振り返ろうと思います。その為に、生前の繋がりがあった貴方達を呼んだんです」

 

 その言葉にガウェインの表情は険しくなる。

 

「我が主よ、貴女が一途に想う男がいる事も、Sっ気がある事も承知しておりますが、今回はいささか度が過ぎているかと……」

 

「私達、貴女を想う者達に他の男との恋路を手伝えなど……」

 

 忠実な下僕であるはずのガウェインすら自分を含む男性サーヴァントを思い、進言せざるを得なかった。

 

「グダグダ言わない。さあ、始めます! 貴女は先輩をどうしたいんですか?」

 

 他人の恋話なんて聞きたくもないエナミは理由よりも目的を直接聞き出す。

 

「私はマスターと結婚して、2人でブリテンを救済したいです!

 アルトリアさんは王として1人、孤高の存在としてブリテンを治めたそうなので、私はマスターと2人で挑みたいです!」

 

「…………」

 

 ガウェインは口を閉ざした。

 幾つも言い訳が心の中で湧き出し反響し、それを言い訳だと一閃するを繰り返す。

 

 目の前の王では無い王に謝罪と失望とが混ざり合った感情をこねくり回している。

 

「ガウェイン? 補足があれば言ってほしいんだけど?」

 

「……え、ええ……お、か……こ、この者は私の知る王とは違います。ですが、使命も定めも同じ道を辿ります。ですので……!?」

 

 はっとした。今自分は何と言おうとしたのかと思い留まる。

 

(結婚を認めない? 許せない? 男として振る舞うべきだ? 王妃を迎えるべきだ?)

 

 それでは生前の間違いの繰り返しでは無いのかと怒りで自分を斬りたい衝動に駆られる。

 

「……ですので、彼女の意思で相手を決められないと思います」

 

 結局、僅かな時間で思い付いた適当な言葉を紡いだ。

 

「ふふ、マスターにはアルトリアさんはいません。頼れるセイバーは私だけ……あの忌まわしい男女を切り捨てるだけですね……」

 

 思わず目を見開いて驚いたが、自分がエナミ(マスター)に抱いた狂気的な愛と同じ物だと知り、安堵した。

 

「……貴方は、貴方の理想を。私では無い私もきっと貴方に従い、共に進むでしょう」

 

 ガウェインはそう言うと静かに頭を下げた。

 

「……何ちょっと良い話みたいな雰囲気で後押ししてるんですか?」

 

 エナミは口を尖らせてガウェインを問い詰める。

 それの姿もまた愛らしいと爽やかな笑顔を浮かべるガウェインは、してやったりと言いたげだ。

 

「おや? 何か問題でも? 彼女がその忌まわしい男とくっつけば、貴女の心も多少は私に揺れるでしょう?」

 

「ガウェインと貴女は退場! 次!」

 

 

 

「……それで? 私が呼ばれた理由は?」

「仕方ないじゃないですか。彼女との繋がりがあるのは貴方だけなんですから……」

 

「……むすぅー」

 

 目の前にいる仏頂面の狐と無茶ぶりをするマスターに参っているのは、皿洗いが終わったばかりのエミヤだった。

 

「それは私では無い私であって私では……」

「じゃあその心眼と千里眼でズバッと見抜いちゃって下さい。女難スキルも今なら耀きますよ」

 

 無茶ぶりが過ぎると頭を振った。既に女難スキルは発動済みだ。

 

「随分失礼なお方ですね?」

「年中水着来てる様な人に失礼もありますか? さあ、貴女が先輩としたい事はナニですか?」

 

「そんな下品な事がしたくない訳……ゴホン、良妻系セレブ型サーヴァントである私がマスターとしたい事は唯一! 妻として側にいる事だけです! 例え小さなアパートの一室だろうと住食寝を共にするだけでも、タマモ幸せです!」

 

「彼女の言葉は……まあ所々邪念が混じってはいるが本心だろうな。

 彼女のマスターがどんな男は知らないが、男を立てる妻として、これ以上の良物件も無いだろうな」

「何でベタ褒めしてるんですか! 弱点っぽい事言って下さいよ!」

 

「想い人に対しては調子に乗りやすく、ノリが軽い。キャラのブレが激しいので、相手によっては好かれない……ぐらいだろうな」

「そう! ほぼ完璧な私に死角はございません!」

 

「じゃあ厄介ですね。先輩、軽い感じが一番好きですから……」

 

「! 当然です! タマモ、ますます張り切っちゃいますね!」

 

 その言葉を最後に、タマモは消えた。

 

「……ふふ、これでライバルが1人消えましたね」

「……あははは……」

 

 今だけ影響が薄いとは言え、ヤンデレ・シャトーにいるのでエナミに好意を持つエミヤは苦笑するしかなかった。

 

 

 

「なるほど、私に静謐を見極めろ、と」

「ええ、よろしくお願いしますね、呪腕さん」

 

「よ、よろしく……お願いします……?」

 

 現状に戸惑う静謐。目の前には恋敵と敬うべき先輩がいるので仕方が無い事だが。

 

「さあ、貴方は先輩と何がしたいんですか?」

 

「で、出来るなら……ずっと側で、触れていたい、です……」

 

「性的に、ですか? 粘膜接触ですか!? そのピチピチで開放的な姿で――」

「――主よ、あんまりいじめてやらないでくれませんか? 静謐は我々の中でも最も人との接触が少なく、感情も未熟な者ですので……」

 

 呪腕のハサンはエナミを宥める。それを聞いたエナミは息を吸って、毒を吐いた。

 

「触って死ななければ誰でも良いんじゃないですか?」

「……否定は、出来ません……」

 

「じゃあ、私が別の誰か……アーラシュさんを用意しますので――」

「――嫌です。マスターが、良いです……」

 

 呪腕はそれを見て参ったなと頭をかく。

 

「主、そのへんにしておきましょう。静謐がああもはっきりと言葉を口にするのは初めてです」

 

 エナミは息を吐いて、その後はっとした。

 

(アレ? もしかして、今私、恋敵の背中押した!?)

 

「では、失礼します……」

 

 

 

「次です! 次!」

「だから、なぜ私なんだ!?」

 

 再び呼ばれたエミヤ。面談相手はマタ・ハリだ。

 

「ええっと……なんの御用ですか?」

「私と彼女はまるで接点が無いだろ!?」

 

「人選理由は母性とオカンです!」

「っはぁ……まったく君は……」

 

 エナミはガッツポーズでそう言ったが、エミヤはツッコミ切れず頭を抑えた。

 

「それで貴方が先輩に求める物はなんですか?」

「マスターに私が求める物は人並みの幸せね。家庭を作り、子供達と幸せに暮らしたいわ」

 

「子供達とは性欲旺盛ですね、引きました」

「マスター、挑発が過ぎるぞ」

 

 エミヤはエナミを咎める。しかし、マタ・ハリは笑う。

 

「ふふふ、マスターは私が骨抜きにします。浮気なんかさせないし、離婚なんかもってのほか。一生暮らすの……永遠に……」

 

「……彼女の想いは単純で純粋、故に重い。その重さを受け止めるには、真撃な態度が求められるだろうな」

 

「浮気をさせないには賛同しますが、ならライバルの多い先輩を諦めるべきでは? 奪われても先輩を攻めるんでしょう?」

 

「一度手に入れた物は決して奪わせませんよ?」

 

「――!」

 

 その言葉にエナミは脳裏でマタ・ハリを難敵と記憶した。

 

「貴女は何故、マスターが好きなんですか?」

 

 今度は逆にマタ・ハリがエナミに質問した。

 

「ヤンデレ・シャトーの影響外でも、貴女がマスターを気に入っている理由、教えてくれませんか?」

「嫌です」

 

 マタ・ハリの質問をバッサリ切ったエナミ。そのままエミヤもマタ・ハリも消えていった。

 

 

 

「マスター、少し落ち着いたらどうだ?」

 

「アーラシュさん? 貴方を呼んだ覚えが無いんですが?」

「おう! マスターの様子があまりにもアレなんでな、心配して見に来たんだ」

 

 アーラシュはエナミに近付くが、エナミは数歩下がる。

 

「……近付かないでくれませんか? 令呪使いますよ?」

「いやいや、そう警戒しないでくれよ! 俺は――」

 

 アーラシュの言葉を聞かずにエナミは耳栓をした。

 

「千里眼で思考が読まれている以上、貴方の言葉で安心するのは必然、なら聞かなければ問題ありません」

 

 更に鏡を取り出し背後を確認する。

 

「……無し。それで、何の用ですか?」

 

 そこで漸く耳栓を片方外し、文字通り聞く耳を持った。

 

「相変わらず警戒心高過ぎだろ……」

「何の用、ですか?」

 

 まるで会話をする気が無いエナミにアーラシュはやれやれと溜め息を吐く。

 

「アヴェンジャーがこれ以上は無理だとよ。残り時間もあるし、久し振りに――」

 

「――結構です。ホストにもヤンデレにも飽き飽きです」

 

 それだけ言ってエナミは夢から覚めた。

 

 

 

「っふぁ……今日も4時起きですか……」

 

 エナミは時計を確認して肩を落とす。

 

「仕方無いので、先輩の家にお邪魔しましょう!」

 

 が、直ぐに気分をリセットすると着替え始めた。

 

「待ってて下さいね先輩!」

 

「おい、ハクツ。こんな時間に起きるなんて何を考えているんだ?」

「貴方が言いますか?」

 

 階段を降りた先にはハクツの兄がいた。

 もう起きてる。

 

「俺は良いんだよ。ボランティアがあるしな」

「ボランティア、いつ聞いても意地悪な兄さんには似合いませんね」

 

「……否定はしないが、まあ、面白い物が見えるからな」

 

 そう言って兄は携帯を見せた。

 

「アレ? 兄さんのスマホ画面割れてたっけ?」

「画面の中の文字も読めないのか?」

 

 兄の言い方にムスっとしながら画面に映し出されているチャットを読む。

 

「……何これ? モードレッド?」

 

 チャットには今もなお送られて来るモードレッドを返せの文字。

 

「モーモー煩い馬鹿な友人君の携帯とすり替えて来た」

 

「兄さん……そのイタズラ、他の人に絶対しないでよ?」

 

「……善処しよう」

 

「あ、馬鹿な兄さんに付き合ってたら時間過ぎちゃった! もう! 行ってきます!」

 

「いってらっしゃい……

 アイツに付き纏われている男か……災難だな」

 

 そう言ってハクツの兄は楽しそうに、嗤った。

 




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