ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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例によって……

※FGOネタバレ注意
※キャラ崩壊注意
※公式の関係や恋愛模様が好きな人注意
※エリザちゃんはエイプリルフールだけに登場しただけで、今回は出ないよ!

さあ、難易度はイージーだ(錯乱)


終・ヤンデレ・シャトーを攻略せよ

 学校で1日中、悩みに悩んだ結果、誘惑に負けて10連を引いた。引いてしまった。

 寝る前の睡魔を利用して無心となり、物欲センサー対策に画面を見ずにタップした結果……

 

「爆死した……」

 

 10連引いたらものの見事に爆死した。

 AP無いし……寝ようかな……

 

「なんか、爆死したのに……安心感が……」

 

 ああ、清姫…………あれ、何故清姫に祈った、俺……?

 

 

 

「3日ぶりだな。元・仮初めのマスター」

 

 再び起こる悪夢。

 しかし、今回始めに現れたのはマシュではなく、エドモン・ダンテスの復讐者の側面のみで現界したサーヴァント、アヴェンジャー。

 

「アヴェンジャー!? お前がこの騒動の犯人か!」

 

 それを聞いてくだらなそうに鼻を鳴らすアヴェンジャー。

 

「フン、当然だ。

 女の嫉妬と色欲に睡眠という怠惰を遮られ、憤怒する事も出来ずに強欲にも平穏を望み、暴食と傲慢にそれを踏みにじられる。それが俺の、アヴェンジャーの復讐だ」

 

 また随分と凝った台詞を……

 

「じゃあ、何で愛を与えると言った?」

 

「俺と共に過ごした7日間をもう忘れたか? 

 主に見捨てられ、ファリス神父のいないあの監獄塔においても、微かな希望は確かにあっただろう?」

 

「……愛が、希望?」

 

「そうだ! お前の欲する愛こそ、狂ってしまった従者共を想う己の愛こそが、この塔に残った希望だ!」

 

「……」

 

「さあ、長いプロローグは嫌われるのが常。司会は闇に消えるとしよう」

 

 俺はあくまで悪人ぶって消えようとするアヴェンジャーに、素直じゃない礼を返した

 

「お前の愛も、だいぶ拗れてるぞ!」

 

「違うな、マスター! これは愛ではない! 復讐だ! 我が本領にして唯一の存在意義だ!!」

 

 そう叫ぶがどこか嬉しそうなアヴェンジャーはマントを翻し、そのままその姿を消した。

 

「因みに、今日限り体感時間は3時間だ」

 

 さらっと消えたと思ったらとんでもない事言っちゃったよ、コイツ!?

 

 

 

「ま・す・た・ぁ」

 

 目を開ければ何時でもそこにいる。

 真のヤンデレは目で愛す(はぁと)、とは真実だったようだ。

 

「貴方様だけの清姫、此処に参上いたしました」

「清姫、君は正常で安心したよ」

 

「ええ、そもそもヤンデレの大量生産なんてあってはなりません」

 

 どうやら今回のこの騒動にはご立腹のご様子だ。

 

「私のあいでんてぃてぃ、が崩壊してしまいます。他のお国の方々が真似するのも、おこがましいというものです。大体、私の性格や行動をジャンル化するなんて、やはり日本は奇っ怪な国で御座います」

 

(いや、恐らくだけどヤンデレの語源は別の人だと思います)

 

 膨らませた頬と口元を扇子で隠すその動作が可愛らしく、思わず頭を撫でる。

 

「ますたぁ……手を出すのが早いですね……良いですわよ……貴方の清姫、寝床を共にいたしましょう」

 

「いや、頭撫でただけなんですけど……?」

 

「もしかして……避妊の心配を?」

「何故そこに行き着いた?」

 

 この2日でだいぶ慣れたと思ったが、甘かった様だ。やはりヤンデレは俺に理解出来ない境地の様だ。

 

「何故、と問い掛けをしたという事は避妊無しでも問題ないという事ですね」

「だから、何故そうなった!?」

 

 いや避妊は大事だが、どこの世界に血が流れる戦場で童貞を捨てようとする馬鹿がいる。

 

「っ!」

「おわぁ!?」

 

 唐突に清姫から体を押され、後ろへ尻もちをつき、頭を上げれば目の前の地面に矢が刺さっていた。

 

「マスター……! ッシャー!」

 

 慌てて俺の手の引く清姫。矢が放たれた方向へと扇子を向け炎を放つ。

 

「……躾のなってない蛇ね。私に炎を向けるなんて」

 

 炎を避けた者の声が聞こえる。炎で照らされた小さな人影。

 紫の髪で背の低いアーチャーと言えば俺のカルデアに1人しかいない。

 

「エウリュアレ……!!」

 

 不味い、目で愛す(魅了)の本物の英霊はこっちだ!

 もう洗脳も惚れ薬も懲り懲りなんだけど!?

 

「マスター、こちらへ!」

 

 矢を掻い潜っての接近は無理だがエウリュアレは元々、激戦を戦い抜いた英霊では無く格の落ちた神霊、近づくのは危険だが、遠ざかれば弓で射られはしないだろう。本人があまり自分で動く様な行動力がないのも助かる。

 

「マスター、照れるのはいいけど、ちゃんと私の元に帰ってきなさい……もっとも、その先には行けばここに戻ってくるしか無いのだけど」

 

 エウリュアレを振り切った俺は、清姫に引っ張られる形で廊下を走る。

 そこに、今までと雰囲気の違う扉があった。

 

「ん?  この頑丈そうな黒い扉は?」

「私の部屋ではありません! 手形で入るタイプの所を見ると、マシュさんの部屋でしょうか?」

 

 が、清姫の目的地は自分の部屋の様なので、止まる事は無い。

 

(そう言えば残ってる女性サーヴァントってもう少ないよな? エウリュアレ、マシュ、清姫……後は……あ!)

 

「ざんねぇーん! 此処は通さないのだー!」

 

 笑顔で両手を広げて通せんぼをしている露出度の高い赤い服? ……衣装を着た残念そうな女性が現れた。

 エウリュアレと同じく、英霊では無く本来なら神霊クラスのサーヴァント……

 

「オリオ、じゃなかった! アルテミス!?」

「何故貴方が……オリオンさんは?」

 

 この見た目からして残念美人感が出ている目の前の女神様はオリオンと呼ばれる英霊……今では情けない、頼りないぬいぐるみになってしまった英霊の代わりにアーチャーを務めているアルテミス。

 そしてこの処女神、そのオリオンに恋しているんだ。

 

「……オリオンは留守番でーす! 今はマスターもなんか好きだけど、私は同じ女神のよしみと義叔母さんになるかもしれないエウリュアレちゃんを手助けしてるだけだから気にしないでね!」

 

 メドゥーサと海神のポセイドーンとの間に生まれたのが英雄オーリーオーンとされている。

 アルテミスがオリオンと結婚すれば義叔母さんは間違いではないかもしれない。

 

「う……マジか……」

「じゃあ、清姫ちゃんにはご退場願いまーす! 人の恋路を邪魔する者は、ケンタウロスに蹴られて死んじゃうんだよ!」

 

 白銀色の弓。魔法少女の様なその姿が放つ矢は強力で、か弱いエウリュアレとは違い、生天的な狩人の才能とオリオンの英霊の能力を一時的に借り受けているだけあって、一撃一撃が強力で研ぎ澄まされている。

 俺が清姫を庇う様に彼女の前に立たなければ、今頃清姫は射抜かれていた。レベル84は伊達では無い。

 

「マスター邪魔。そいつ殺せない」

「清姫、逃げるぞ!」

「ですが、前にはエウリュアレさんが……」

「流石にこっちには来てない筈だ! アレはこっちが動くのを待ってる!」

 

 俺は清姫の手を引いて、マシュの部屋に来た。

 

「この部屋は……」

「こういうのは、好きな奴と共有するのが基本だろ!」

 

 手形認証機に手を叩きつける。

 ピーッと機械音が鳴り、扉が開く。

 

「よし!」

 

「待てー!」

 

 笑いながら追ってくるアルテミスに若干の恐怖を覚えながらも、開いた扉に全力で逃げ込んだ。

 

 

「先輩! お、お待ちして――」

「――ふぅ……」

 

 俺の侵入に慌ててこちらを見る大盾を構えたサーヴァント姿のマシュだが、清姫を見てから目に見えてテンションが下がった。

 

「――先輩最低です。女性の部屋に別の女性を連れてくるのは、ロクデナシと相場が決まってます」

 

 マシュの絶対零度の視線が痛いが、こちらはそれどころでは無い。

 

「僭越ながら、修正して差し上げます。

 ええ、それはもう、さながら想いに想って私に先輩が溺れるように……」

「ああ、良かった……マシュは軽症だ」

 

 慣れとは恐ろしい物で、ヤンデレ化が軽い者に安心できる。これならゲーム通りの対応でなんとかなりそうだ。

 

「マシュの部屋は何でこんなに狭いんだ? あとドアが何故特別な作りに?」

「……部屋の大きさや家具はサーヴァント達が制限の中で自由に決められますが、大半のサーヴァント達は他のどのサーヴァントが召喚されるか分からないので、セキュリティでは無く先輩と楽しい事をする為に思い思いの部屋を作ります。なにせ、セキュリティを私みたいに最大にするとカルデアのワンルームな上に、ベッドと机、椅子と電気と水道だけになりますから、先輩を拘束できません」

 

「そうか、腕に自信があるサーヴァントは、守るより好きに出来る鎖や拘束具のが欲しいのか……」

「あと、怪しい薬や食料もです。ですが、私は先輩と狭い部屋で夜を……と、共に、出来れば……」

 

「そうですか、じゃあもう思い残す事はありませんわね? 去りなさい」

「っちょ、清姫!?」

 

 照れながら夜を共に過ごしたい(意味深)と言ったマシュを可愛いなと思ったら、清姫が扇子を構えだした。

 

「ちょ、ちょっと待って! そもそもこんなドア、アルテミスの宝具で壊されるんじゃ?」

「その点は安心してください! 最大セキュリティのドアは先輩と私の手形でしか開けませんし、防御力はヘラクレスさんと同じで、Bランク以下は無効化、それ以上の攻撃を13回受けなければ壊される度に瞬時に修復し、侵入を許しません! 宝具のチャージ時間を考えても、3時間ならば問題ありません! 私は式さんがいないのも把握済みでしたし!」

 

「なら用無しになった壁女には消えていただきましょう……」

「コードキャストの無い清姫さんと、無敵と防御のバフのある私では勝負になりませんよ!」

 

「健気なヤンデレは元祖本妻が至高! 後輩など最初から負けるが定め! 防御ならデバフで下げられますよ、火力不足の添え物ヒロインさん!」

「負けません! 先輩は私が守ります! メインヒロインの実力、甜めないで下さい!」

 

 勝手に進む女の鮮烈な争い。しかし令呪は無いし、なんとか止める方法は無いのか!?

 

「清姫、此処で炎は不味い! 燃えたらこの部屋の中で焼け死ぬよ! マシュも! そんな大盾振ってたら狭い部屋が壊れるって!」

 

「ますたぁ……その時は一緒に逝きましょう」

「先輩は私が守ってみせます! 最悪ベッドが無事なら問題ありません!」

 

 駄目だ、話を聞かない! いや、聞いてくれたけどまともな返事がない!

 だが外に逃げればエウリュアレとアルテミスに捕まる上に、マシュと清姫は殺し合い、死ぬ。

 

 あまり、脅したくなかったのだが……

 

「……マシュ、清姫」

「何でしょうか先輩」

「マスター?」

 

「戦うなら、俺は外に出てエウリュアレに匿って……」

「マスター、今なんと言いました?」 

「死にたくないから外に出るって言ってるの! 2人が戦い始めれば直ぐにも外に出るからな!」

 

「……参りましたね。先輩は有言実行する事には実績もありますし、信頼しています。このままだと……」

 

「では、私が折れます。マシュさんの同席を許可します」

「本当ですか! って、ここは元々私の部屋です!」

 

 マシュのツッコミと同時に、カシャリと音がマシュの腕から聞こえる。

 同時にマシュが倒れる。

 

「っ!? なに……したん、で……すか?」

「マスターに使う予定でした対人腕輪です。対象が純粋な人であれば力が奪う効果を増す概念礼装だそうですよ」

「それ……デミ・サーヴァントの私には……」

「効果抜群、ですね?」

 

 あっさりマシュが無力化され、清姫がこちらに来る。

 抵抗は死、受け入れようと俺も両手を広げて向かい入れる。

 

「……ますたぁ……」

 

 カシャリ。気が拔ける程あっさりした金属音が鳴る。

 

「……え?」

「ますたぁ……」

 

 俺はすっかり忘れていたが、此処はヤンデレ・シャトー。ヤンデレ化する塔の中だ。つまり、清姫の病みも更に増しているという事だ。

 

「マシュさんを庇うのは構いませんが、他の女性の世話になる等、嘘であれば許しませんし、嘘でなくても許しません」

 

 体から力が抜ける。駄目だ。立つ事どころか拳すら握れそうにない。

 

「ますたぁ……他人の前でなんてはしたないですが……清姫、この時をずっと待ってま――」

 

 清姫の言葉を遮る爆音。ドアが壊されたが直ぐに穴が修復された。

 

「アルテミス、もう一度よ!」

 

「騒がしい人ですね。ですが、13回撃たれなければ――」

 

「トライスター・アモーレ・ミオ!」

 

 再び放たれた恋の弓。

 

「な、何故宝具を2回も!?」

 

「トライスター・アモーレ・ミオ!」

 

 戸惑いと同時に放たれる3発目の矢。

 

「アルテミス、よくNP(宝具を使う為のポイント)を回復する手段なんか持ってたわね?」

「宝具使うとお腹が空くからクマとか牛とかのお肉沢山買ったの!」

 

(そう言えばEXTRAの主人公はパンとかでMP回復してたし、士郎は魔力の足りないセイバーにご飯を食べさせてたっけ)

 

 回復量以外は理にかなっているので俺は考えるのを止め、清姫を見る。

 

 そうこうしている内に既に6回壊された扉。あと7回破壊されれば修復できなくなる。

 

「……マスター。失礼します」

 

 清姫は俺を肩で担ぎ、扉の横に移動する。

 

「これで最後! トライスター・アモーレ・ミオ!」

 

 恋の弓矢に射抜かれて、ドアは爆発四散。慈悲はない。

 

「あれー? マスター?」

「? 何でマシュだけ……」

 

 清姫のヤンデレ属性は複数ある。

 良妻で大蛇で、相手を何処までも追いかけるストーカーと、およそヤンデレに必須な属性全てを兼ねている。

 しかし最後のストーカーは、本人曰く、「隠密的にすら見える献身的な後方警備」らしい。

 

「今のうちに……」

 

 つまりは、バーサーカーらしからぬ隠密行動が可能という事だ。

 

 此処で助けを求めた所でエウリュアレ達との戦闘になるのは目に見えているので、黙って清姫に運ばれた。

 

 

「着きました。では早速地下へ」

 

(地下ぁ!?)

 

 清姫は部屋に入るなり押し入れを開け、床を外すと階段がその姿を表す。

 

「さあ、ご主人様……私達の愛の巣です」

 

 うっとりしながらそう言われたが貞操と身の危険しか感じられない。

 

 階段へ下りる。狭いので手錠を外され、俺は後ろを歩く清姫に黙って従うしかない。

 階段は床を元の場所に戻したのでバレないと思われる。

 

「ご主人様……」

 

 なんかテンションが上がってるのか、後ろから何度も俺を呼んでくる。

 

「ご主人様……ご主人様……」

「ご、ごめん。何かな、清姫?」

 

 怖くて遅れてしまったが、返事をする。

 

「いえ、お気になさらず……呼んでみただけです」

 

 そんな短い会話が終わると、地下の隠し部屋にたどり着いた。

 電球もあり、明るい和室だが見せかけの窓すらないので閉鎖感を感じる。

 

 部屋にあるのは少し大きな布団だけ。

 

「ご主人様ぁ……」

 

 切なそうに俺を呼びながら、俺は布団に押し倒されられた。

 

(こ、このまま、童貞卒業して、いいのか!?)

 

「今、一つに……」

「待った待った!」

 

 俺は着物に手をかける清姫にストップを要求する。

 

「何でしょうか、ご主人様?」

「……」

 

 怖い。このまま流されてしまえば、何かヤバイことが起こる気がする。

 しかし、下手な嘘では清姫を刺激するだけだ。ならば……

 

「……その、俺よく考えたら清姫の事、よく知らないし……今から契を結ぶなら、相手の事をちゃんと知っておきたいなって……」

 

 事実、俺が知っているのは清姫が龍になったとか、好きな相手である安珍を焼き殺した事くらいだ。

 

 その前の彼女の事は何も知らない。

 

 だが俺の質問とは別に清姫はその短い人生を語りだした。

 

「……安珍様に出会うまでは唯の娘でした」

「安珍様にであって、乙女になりました」

「安珍様に裏切られてからは、龍になりました」

「私にとっては安珍様の愛こそ世界だった。なのに、私を裏切った」

 

 清姫は怒りと喜びの表情をこちらに向ける。

 

「ですが、マスターは、安珍様は此処にいます! 逃げない、嘘をつかない、私の安珍様!」

 

 

 違うだろう、と思った。

 

 

 “今の”彼女には安珍しかいない。

 彼女は安珍以外に求めるものを知らず、それ以外の全ては安珍を下回る。

 

 綺麗……安珍様には及ばないけれど。

 眩しい……安珍様の方が輝いてるけど。

 マスター……嘘をつかない安珍様の生まれ変わり。

 

 俺の事も、彼女はあくまで安珍様の生まれ変わりだと思っている。信じている。

 それを否定できない。俺が安珍様の生まれ変わりではない事は証明できない以上、どう言っても清姫はその事実を信じ続ける。

 

 だが、このままではダメなのだ。

 恋は、人を豊かにする為の一つの感情だ。

 それが、“今の”様に彼女を縛り付けているままではいけない。

 

(何より、そんな妄執はキャラクタークエスト(遠の昔)に超えたじゃないか!)

 

「清姫……」

「ご主人様……?」

 

 “今の”清姫にあるのは一途な恋心。対象は俺自身であり、それから目を逸らさせるのは難しい。

 龍になった彼女の悲しみ、乙女で有り続けようと抱く恋心。

 

 俺には彼女を殴って叱りつける事は出来ないし、彼女の歪んだ恋を受け止める必要も無い。

 

 だがマスターを、俺を守ると約束した筈だ。

 あの偽物の戯れ言を、虚言にしてみせると約束した筈だ。

 

 ならば、もう一度、正しく始めるしかない。

 

 俺は両手を床に付けて頭を垂れた。

 

「――俺は岸宮(キシミヤ)切大(キダ)と申す一介の学生で御座います」

「美しい娘様、どうか貴女の名前を教えて頂いてもよろしいか?」

 

 

 ……沈黙。

 果たして、これで良かったのか。

 見えはしないが、清姫は確かにこちらを見ている。

 

「……ご主人――」

「――どうか、この切大めに、名前を教えてもらえないだろうか、美しい娘様」

 

 彼女は俺を呼ばなくてはならない。でなければ、また彼女の伝説が繰り返されてしまう。

 

 俺は、彼女を待つしかない。それが、彼女の望みではないとしても。

 

「…………」

 

 

「――どうか、頭を上げてください切大様。

 私は、清姫と申す者です。この身、この魂を持って、全身全霊であなたにお仕え致します」

 

 彼女は、今確かに、俺の名前で呼んだ。

 

「――この岸宮切大、君と命運を共にしよう」

 

 俺が行ったのは、サーヴァントとの契約の真似事だ。

 だが、それでも幾らか清姫の目から落ち着きが見える。

 

【狂化EX→A+】

 

【新しい宝具が開放されました】

 

「思い出したか? 約束を」

 

「……申し訳ございません、旦那様(マスター)。貴方をお守りすると決めたのは他でもない私自身でしたのに、危うく私は……」

「思い出したならいいさ」

 

 俺は安心したからか、背伸びをする。

 

 

「切大様、今宵は性の乱れを許さぬ気分なのは理解致しました。ならばせめて、はしたなく燃え上がってしまった私を鎮めては頂けないでしょうか?」

 

「結局そう来るんかい……」

 

 夜の営みの代わりにと、口づけを要求する清姫。

 

「うー……」

 

 唇をこちらに向ける。その動作で今だに強力な狂化が続いているのがよく分かる。

 

「さぁ、マスター……」

「わ、分かった……」

 

 このまま求められるのは嫌なので、頬へと唇を動かす。

 

「っん!」

「っ!」

 

 が、唇が頬にあたった瞬間、清姫の唇も俺の頬に当たった。

 

「マスター……頬が赤いですわよ?」

「べ、別に……いいだろ」

 

 

『さて、そろそろテコ入れの時間か』

 

 このタイミングで何処からかアヴェンジャーが何か話し出した。

 

『アンコールに応えるのが司会であり、司会の無茶振りに応えるのが役者だ。数合わせのようで申し訳ないが特別なゲストを用意した』

 

 その言葉と同時に、階段から板が転がる音がした。

 

「うわぁー、もう聞かないと思ったのにー」

「無粋な……覚えて置いてくださいね、アヴェンジャーさん?」

 

 

 階段を降りる足音が、部屋に入ってきた。

 

「2日ぶりだな、マスター」

 

 両儀式、セイバーの方はいないので本人であり同人格のアサシンだ。

 

「マスター。私の新たな愛、貴方にお見せいたしましょう」

 

 清姫は怯まない。俺の前で構える清姫は式を睨む。

 

「マスターはオレが貰う。まだアイスは半分以上残ってるし、何なら業務用を全部口移しで食べさせる」

 

「興味深いですね……マスター、口移しとは?」

 

「……ノーコメント!」

 

 清姫のターゲットが俺に向いたが、清姫は直ぐに式へ向き直す。

 

「では参りましょう」

 

「遅いね」

 

 式と清姫の敏捷性はA+とC、それ以外のステータスもだいぶ低い式と比べてみても清姫は壊滅的に低い。

 

 ――だが彼女が英霊と呼ばれる程の力を得たのは、自身の恋ゆえ。ならば人の身に宿る死の化身に、彼女の恋を阻む事など出来はしない。

 

「恋とは永遠、我が想いは燃え続け、未来までそれに恐れおののく……道成寺ノ呪鐘楼(恋ノ残リ火)!」

 

「何!?」

 

 現れたるは安珍が清姫から逃れる為に隠れた道成寺の鐘楼。嘘つきの墓であり、その後は良くない音と呪いを撒き散らした恋怨の鐘。鐘楼その物を呼び出し、式を閉じ込めたのだ。

 

「視覚と触覚が――」

 

 呪いによって内部にいる者の視覚と触覚を奪った。

 

「殺しは致しません。それは呪いこそが宝具であり、鐘は呪いの宿った当時の物を呼び出しました。貴方では殺す事は出来ないでしょう」

 

 今の俺が知る由は無いが、直死の魔眼は死を理解した脳と魔眼が揃って成り立つものであり、視覚を奪った上で人には死が理解出来ない材質で構成された聖遺物で閉じ込めるという、二重の手で式を封じる事に成功したのだ。

 

「とにかく、此処を出よう」

 

 なお、あの鐘には他に炎の呪いがあり、あれに閉じ込められたまま清姫の本来の宝具でも放てば死なない英霊の方が少ない。

 閉じ込めるだけならば与える被害は呪いだけだ。

 

「っく――マスター!」

「悪いね、式」

「行きましょう、ご主人様」

 

 清姫の手を引き、一緒に階段を駆け上がり、清姫の部屋に戻ってきた。

 

「見つけたわ、マスター!」

 

 待ち構えていたのはエウリュアレ。その声を聞いただけで、男ならば彼女の魅力に落ちるという。

 俺には多少の耐性があるが、彼女が本気で魅了しに来ればあっという間に操り人形だ。

 

「私のご主人様を誘惑しようなど、女神であろうと燃やします」

 

 とは言うものの、清姫で相手をするにはアルテミスとエウリュアレは厄介な相手だ。

 

「こちらに来なさいマスター。アルテミスがいる限り私の勝利は揺るがないわ」

「義叔母さんは私が守りまーす!」

 

(そうだ!)

 

 嘘に入るか分からないグレーゾーンではあるが、アルテミスの動きを止められるかもしれない。

 

「アルテミス! 一説によると、ポセイドーンとの間にオリオンを産んだのはエウリュアレらしいぞ!」

 

 

「…………え? 義叔母さんじゃなくて、義母さん……?」

 

「もし俺がエウリュアレと結婚したらオーリーオーンが生まれないかもしれないぞ!」

 

「えー!?」

 

「アルテミス! 落ち着きなさい! オリオンは消えはしないわ。もう人類史に刻まれ、英雄の座にいるのだもの! それに、間違いなくオリオンはメドゥーサの子よ!」

 

 エウリュアレの説得も思い込みの激しいアルテミスには届いていないようだ。

 

「ふえぇぇぇ!? ど、どうしよー!?」

「あ、アルテミス!?」

 

「……」

 

 慌てて騒ぎ始める2人を無言で通り抜けて部屋から出る清姫。

 

「……嘘ではありませんよね?」

「推測で物を言うのは嘘では無いと思います!」

 

 清姫の声に震えながら答え、廊下を走る。あいも変わらずこの塔に安全な場所など無いのだが。 

 

 

「見つけましたよ、先輩」

 

 廊下、自身の部屋の前でマシュが待ち構えていた。

 

「退きなさい」

 

 清姫は1歩前に。

 

「退けません」

 

 マシュも更に一歩前へ。

 

 どちらも退く気など無い。盾も扇子も既に構えられている。

 

「マスター、手出し無用です」

「私にも、です」

 

 その言葉を聞いた俺は清姫の後方へと下がる。それが合図となった。

 

「シャー!」

「っやぁぁぁ!」

 

 扇子から放たれる数発の火球。

 それを盾で受け止め、更に前へと進む。

 更に数発放たれるが盾はなんの問題も無く受け止め続ける。 

 

「っはぁ!」

「っく!?」

 

 あと数歩で辿り着く――だが、マシュの大盾に清姫は強力な火球を放ち、走り続けた姿勢のマシュは踏ん張りが遅れ、扉の前にまで下がってしまう。

 

「……これは……」

 

 マシュは大盾で小さな火球を防ぎながら前進し、強力な一撃は踏ん張って耐えなければいけない。

 

 そして清姫はマシュより先にNPを溜めて大盾が届く前に宝具で勝負を決めなければならない。

 

「参りましたね、火力には自信がありましたが、この状況は……」

 

 シールダーは本来の7騎のクラスから外れた、影響を受けず与えられないクラスだ。

 バーサーカーの長所の攻撃力も短所の防御力も無くなっている上に、清姫は狂化ランクも変わったせいか、本来の攻撃力が発揮されない。

 

「――ステータスアップ、頑張ります!」

「逃しません……!」

 

 スキル、今は脆き雪花の壁とストーキングが発動する。

 互いに防御力を上げては下げるが、清姫のストーキングはデメリットとして攻撃力が上がる。

 マシュを近づけさせない覚悟がある。

 

「行きます! 何度でも!」

「打ち込みます、何度でも!」

 

 盾は駆け出し、扇子は動く。

 先とは違い、盾の向こうからマシュは清姫を見据えている。

 

「――ッシャー!」

「っ!」

 

 足が止まる。強力な火球を防ぎきり、微動だにしない。

 

「――行ける!」

 

「させません!」

 

 足の止まったマシュの動きを止める為に複数の火球が放たれる。

 しかし、そんな衝撃に足を止める訳がなく、マシュの足は爆発の衝撃など気にせず動き出す。

 

「っはぁ!」

 

 すかさず駆ける為に足を上げたマシュへ強力な一撃をお見舞いする。

 

「っ! ま、だぁ!」

 

 僅かに下がる。しかし、盾を地面に食いこませる様に押さえ、その体勢のまま前進する。

 

「どうかご照覧あれ!」

 

 だが突っ込んで来たマシュへ清姫は宝具を開放する。

 

「……燃え尽きなさい! マシュ・キリエライト!! ――転身火生三昧!!」

 

「――」

 

 龍の炎がマシュを飲み込む。

 

「マシュ!」

 

 思わず叫ぶ。果たして、【応急手当】で間に合うか――

 

「……っはぁ!」

 

 だが俺の心配は無用だと言うかの様に清姫は炎が揺れる空間へと火球を放った。

 

「――まだです!」

 

 火球を盾で振り払ったのはマシュ。

 どうやら、彼女のスキル、時に煙る白亜の壁で耐えたようだ。

 

 炎から飛び出したマシュは火球を吐く速度が落ちた清姫へと飛び掛かった。

 

「っ……!」

 

 マシュの振り下ろした大盾は、地面を砕きながらも、清姫の前で止まった。

 

 

「……参りました、私の負けです。マスターは、お好きになさい」

 

 意外な事に清姫は俺をマシュに差し出した。

 

「……清姫さん」

「勘違いしないで下さい。本妻は私です。浮気や嘘は嫌いですが、私の認めたマシュさんならば6ヶ月に1度位、頬への接吻くらいなら許してさしあげましょう。それに……今回の自分の行動には、負い目がありますので……」

 

 そう言うと清姫は俺達の前から消えて、何処かへ歩いていった。

 

「……先輩! 扉はもう直しました。清姫さんの許可も頂きましたし、部屋に入りましょう! そして、夜の営みを!」

 

 そうだ! 何故か流される様に清姫からマシュへと受け渡されてしまったが、俺はあと2時間程ヤンデレな彼女達から殺されない様に立ち回らなければならない。

 一度破壊された以上、マシュのセキュリティは安全とは言えない。

 

「入りましょう!」

「うお、ちょっと待て!?」

 

 しかし、考え事をしている内にマシュに引っ張られて中へと入れられてしまう。

 

 そして何が起きたかも分からないスピードでベッドの上に押し倒される。

 

「マスター……っはぁ、はぁ」

「……えーっと」

 

 何でこの娘発情してんの!?

 馬乗りで俺の上に乗る彼女の赤い顔に驚いていると、サーヴァントの戦闘服から白衣とメガネの私服に変わった。

 

(美少女が上に乗るのは2回目だな……俺、もう死ぬんじゃないか?)

 

「大丈夫です、最初が痛いのは女性だけだと聞いています。では……」

「……?」

 

 どうしたのだろうか? マシュの動きが止まった。

 

「……よ、夜の営みを……」

 

 何でこの娘今更恥ずかしがってんの!?

 いや、なんかしてしまったらアウトな気がするからいいんだけど。

 

「ま、まずは……ふ、服を……」

 

 戸惑いながらもマシュは慎重に、手順を確認しながら動き出す。

 

「マシュ!」

「っひゃ、はい!?」

 

 名前を読んだだけでこの感じ、完全に緊張している。

 

「……ただ、寝よう」

 

 そう言って俺はマシュが上に乗っているので多少力強くで体を右向きにした。

 

「だ、大丈夫です! で、デミ・サーヴァントとして、か、必ず……」

「じゃあさ、寝たいから膝枕してくれる?」

 

 そう言って俺はなるべく物欲しそうな顔をする。

 

「っう……その飼い主を無くした子犬の様な姿は反則です! 分かりました! 先輩の快眠の為、このマシュ・キリエライト、全力で膝枕を致しましょう!」

 

 ベットの上で正座をするマシュの膝の上に頭を置く。

 

「柔らかい……」

「せ、先輩が満足そうで、嬉しいです……」

 

 頬を赤く染めて笑うマシュの顔が見上げられる。

 

「じゃあ、お休み……」

「はい、お休みなさい、先輩…………永遠に……愛しぃ……」

 

 何か不安なワードがうっする聞こえた俺だが、睡魔に勝てずに眠りに落ちた。

 

 

「――冷た!」

 

 顔に冷たい液体をかけられ、目が覚めた。どうやら夢の中でも自ら眠ると意識すら落ちるらしい。

 

「マ・ス・ター?」

 

 目が覚めるとエウリュアレが――女神様が目の前にいた。

 

「全く、手錠を外してあげた恩を仇で返すなんて、ねぇ? マシュマロ?」

 

 視線を女神様と同じ方向へ向けると、マシュが例の手錠で縛られて倒れていた。

 

「式、ご苦労様」

 

「全く……鐘楼がトラウマになりそうだ……」

 

 2日前の式の部屋には女神様とアルテミス、式がいるようだ。

 

「マスター、いえ、私の下僕? 今までの無礼は水に流してあげる。私は寛大だもの」

 

「はい、女神様」

 

「でも、無礼を許したなら貴方は私に貢ぐべきよ。愛とか、愛とか」

 

「はい、女神様」

 

「そういう訳で、式には口移しでアイスを食べさせたのでしょう? なら、私にも同じ事をしなさい?」

 

「はい、女神様……え?」

 

 女神様の要求を了承すると同時に、エウリュアレの魅了が解かれた様だ。困惑する俺に、エウリュアレは愉快そうに笑う。

 

「はい、お願いね、マスター?」

 

「……はい」

 

 笑顔で差し出されたスプーンとアイスカップを受け取る。観念しよう。逃げるのは不可能だ。

 

「…………ん」

 

 相変わらず美味いアイスだな……なんて感想も、目の前のエウリュアレの唇を見て詰まる。

 

「早くなさい。貴方から、してね?」

 

 エウリュアレは気に入った人間を弄くり倒す、支配系ヤンデレだ。世話焼きな式と違い、俺からの行為と好意を望んでいる。

 

 口の中で殆ど溶けてしまったアイス。俺は笑顔のエウリュアレと唇を重ねて、待ちくたびれた彼女に舌を入れられた。

 

「んっ……ん」

 

 式とは違うか弱くも強引さを感じる舌の動きに只々飲まれる。

 

「へぇー、オレはこんな恥ずかしい事してたんだな」

 

「っ! んー」

「ん……っちゃ、っちゃ」

 

 隣から覗きながら感想を口に出す式に

思わず口を離しそうになるが、エウリュアレはまるで見せつけるかの如く舌の動きを激しくする。

 

「―っぷは。ほら、次のアイスを」

「っはぁ、っはぁ……」

 

 息が続かない。まるで、呼吸すら出来ない程の幸せに溺れている様だ。

 

「……しょうが無いわね……私からしてあげる」

 

 エウリュアレは小さじ一杯のアイスを口に入れ、再び俺の口内を貪り尽くす。

 

「……そろそろ見てるのも飽きたし、俺も味わうかな」

 

「っ! んー!」

 

 そんな事を耳元で囁かれ、式は俺の耳タブを甘噛みし始めた。

 

「っん、っははは! 暴れちゃって! マスターってば、駄妹(メドゥーサ)みたいで可愛いわ! 私も……」

 

「ちょっと、ま……ん、っ……!」

 

 再び舌を入れられ、耳も口も未知の快感に襲われる。

 

「…………いいなー」

 

 テンパって必死な俺にそんな声が聞こえてきた。

 

「ん、ちゅ……アルテミス、貴女もマスターで遊びたくなっちゃった?」

 

「でも、私にはオリオンがいるし……でも、マスターは……」

 

「じゃあ、練習って事でいいんじゃないかしら?」

 

「そっか! じゃあ、夜枷の練習を!」

 

 処女神! あんた処女神!

 

「そんな事はさせないわよ」

 

「むー、エウリュアレちゃんワガママー……じゃあ、マスターを星座に……」

 

「「させない(わ)」」

 

 月の女神ぇ……

 

「……あ、エウリュアレちゃん! あと10分しか時間ないよ!?」

 

「嘘!? それじゃあ、そろそろ、ょ、夜……に……」

 

「ウブなんだな、アンタ」

 

「私は女神よ! 人間と、交わるなんて……」

 

 照れてる女神様可愛い……じゃなくて! えぇ!? 遂に童貞卒業詐欺じゃなくて本当に……!?

 

「――そこまで許すつもりは御座いませんわよ?」

 

 ですよねー。この小説R-18指定じゃないしねー。

 

 現れた清姫に、全員が戦闘体勢を取り、直ぐに解いた。

 

「……やめときましょう。もう、そんなに時間ないし」

 

 あ、危ねぇ……こんな所で死にたくないからな……

 

「もう8分しかないし、争って時間を使うのは得策じゃないな」

 

「……そうね。それにマスターは、私の物よ!」

「はい、女神様」

 

「あら、それは宣戦布告でしょうか?」

 

「オリオン……私の心は、いつでもオリオンの物だよ……」

 

 もはや収集つきません。女神様可愛い。

 

「先輩……」

 

 マシュは誰にも見られず、立ち上がろうと奮闘しているようだ。

メインヒロイン……

 

『ええい! やはり俺に物書きの真似事は無理だな! 役者が揃いも揃って大根、愛憎劇は見るも無残な喜劇に!』

 

 アヴェンジャーさん、逆ギレして文句を言わないで下さい。

 

『仕方あるまい。なら終わらせるだけだ』

 

 そう言ってアヴェンジャーの声は聞こえなくなり、天井からご本人が現れる。

 

「FGOの最後はやはり、戦闘が相応しい! さあ、我が復讐を超えてゆけ――!」

 

 

「トライサー・アモーレ・ミオ! (自己強化+男性特攻)」

 

「転身火生三昧! (狂化EXに戻ってる)」

 

「直死――死が、俺の前に立つんじゃない!」

 

 

「……アヴェンジャーが死んだ!」

 この人でなしー!!」

 

 俺の1人芝居を最後に、ヤンデレ・シャトーは完全消滅した。

 

 

 

「ひどい目にあったな……」

 

「いや、最後自分で突っ込んだだろうに」

 

「仕方あるまい。復讐こそ俺の本領なのに、あの菌類、「シリアスの後はコメディでちゅ」……等とほざいて……」

 

 アヴェンジャーは怒りを内側に溜め込みつつ、俺を見た。

 

「では、最後にお前に褒美をやろう。あのふざけた塔を乗り越えた褒美だ」

 

 そう言ってアヴェンジャーは俺にスマフォを渡してきた。

 

「1つ目はこの悪夢の記憶、そしてそこにあるガチャだ」

 

「……なんのガチャ? おい、勝手に引かれてるんだが……」

 

「登場サーヴァント実体ガチャ。ほら、愛だぞ、喜べ」

 

 嫌な予感しかしない画面を見届けている内に、俺は目が覚めた――

 

 

 

「ま・す・た・ぁ? 何故、私と私が許したマシュさん以外に唇を許しているのでしょうか?」

 

 悪夢から覚めた俺への第一声は、悪夢の続きだった。

 

「ひぃい!? 何で清姫が……あの夢、マジだったのか!?」

 

 上に乗られ、暴れようにも見動きできない。

 

「お仕置きです、覚悟してくださいね(はぁと)」

 

 その後、俺の上に馬乗りで現れた清姫に休日をまるまる絞り取られたのであった。

 

                   完




はい、ヤンデレ・シャトーこれにて完結。

 暇つぶしに始めましたが、やっぱりに二時小説はいいなと思いました。
キャラ崩壊が怖くて、ヤンデレというより、好感度高めってだけになった感がありますが、個人的には満足です。
 みなさんはどうでしたか?
 この小説ヤンデレの恐怖がみなさんのガチャ防止になればいいな(えっ)
 
 因みにこの小説は作者のヤンデレ愛と引けなかったアヴェンジャーへの憎しみで出来ています。

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