ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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25万UA記念企画、第二弾!

今回は くずもちさん の設定でお送りします。

モードレッド好きは一読の価値有り! ……かも?




大好きなヤンデレと過ごす1日 【25万UA記念企画】

「くぉら、エナミてめぇ!!」

「やあ、モー君」

 

「その愛しい愛称を侮辱して僕に使うの止めろ!!」

 

 朝のボランティアのゴミ掃除が終了し、家に帰ろうとしたエナミ兄をバールの様な物を片手に強襲したのは、彼のクラスメイトだ。

 

「危ないなぁー、友人の頭をかち割ろうとするなんて」

 

「てめぇが僕の携帯を交換しなきゃこうはならなかったよ! しかもお前の携帯のアプリの配置やパスワード、FGO内のキャラデータまでピッタリそっくりにしやがって! フレンドのサポートサーヴァントが違わなかったら気付かなかったよ!」

 

「いや、スマホの傷とかもっと気付いていい所あるでしょ?」

「てっきり僕のモーさんへの愛で修復したのかと喜んじまったよ!」

 

「はっはっは、やっぱり面白いね。モー君」

「ぶっ潰す!」

 

 振るわれるバールの様な物。当たれば間違いなく骨にヒビが入る程度では済まないであろうその攻撃を数回躱すとエナミ兄はポケットからスマホを迫り来るバールの前で取り出す。

 寸前でバールの動きが止まった。

 

「はい、返すよ。俺のスマホも返してね」

「っくのぉ……! ほら!」

 

 少し乱暴に渡されたスマホを受け取り、エナミ兄もスマホを返した。

 

「良かったぁ……っは! データの確認!」

 

「流石にそこまでしないよーじゃあね」

 

 データの確認に取り掛かったクラスメイトを置いて、エナミ兄は帰って行った。

 

 

 

「っはぁ……野郎、次会ったら覚えとけよ……!」

 

 山本皐月、それが僕の名前。モードレッドが大好きな型月ファン。

 だと言うのに一生の不覚だ……あんな奴に携帯を取られるとは……

 

 幸いにもスマホもゲーム内のモーさんも無事だった。

 

「良かったぁ……じゃあ、帰らないと」

 

 バールの様な物も片手に家へと変える。

 

「重いなバール……どうやって先まで振り回してたんだろう?」

 

「あ、山本さん」

「っ! は、ハクツちゃん……」

 

 帰り道に先まで殺意剥き出しで殺しにかかっていたエナミの妹、ハクツちゃんに出会った。

 

「うちの兄がすいません」

「あ、いや、えっと……だ、大丈夫、だ、よ?」

 

 先の勢いはすっかり無くなった。

 僕は女子と話すのが苦手で、1対1だと吃ってしまうのだ。

 

「兄にはよく言っておきますの……あ、すいません急いでいるので失礼しますね」

「あ、うん……じゃあ」

 

 行ってくれたか……すっかり落ち着いてしまった。

 

 アドレナリンも怒りもすっかり体の奥に収まってしまった僕は、家へと帰ったのだった。

 

 

 

「ふむ、久しぶりだな」

「エドモン!?」

 

 同じ日の夜、僕の前にアヴェンジャークラスのサーヴァント、エドモン・ダンテスが現れた。

 

 こいつが現れたのは今回が初めてじゃない。

 

 こいつのせいで夢の中でサーヴァントがヤンデレて、モーさんに愛され愛でる羽目になってしまって本当にありがとうございます!

 

「お、おうとも……(今程の勢いの礼は初めてだ……)」

「それで、なんの様ですかエドモンさん! またモーさんがヤンデレるんですかダンテス様!?」

 

「ど、何処まで崇めるつもりかは知らんが……まあ、その通りだ」

「本当ですか! なんてこった心臓を捧げます!」

 

 僕はこれ以上に無いほど素早く正確に手を胸に当て礼をした。

 

「(本当に何処まで崇められるか見てみたいが……止めておこう)詳しい事は説明しない。あっちで自分のしたい事をしてこい」

 

「了解です! ああ、モーさんがー――」

 

 僕の視界は、別の場所へと移動した。

 

 

 

「静謐さん、お話が御座います」

「なん、ですか?」

 

 清姫がちょちょんと扇で突付いた腕は静謐のハサン。

 見た事ある組み合わせとか言わないで。

 

「なんでも、私達のマスターが水着の方のモードレッドさんとお出かけするとの事です」

「っ! それは……」

 

「私はそれが許せません。マスターに愛してもらっているのに、普段はツンツンして時たまデレるあざとい男勝りなんかにマスターを渡したくございません」

 

 モードレッドのアイデンティティ、完全否定である。

 

「でも……マスターが愛していますし……」

「ならマスターのモードレッドさんへの好感度を下げましょう。恋が冷めれば、真にマスターを愛しているのは誰か、直ぐにマスターは気付くでしょう」

 

「っ……!」

 

 その言葉が、まるで清姫では無く自分にマスターが靡く様に聞こえ、静謐の頭の中では皐月との甘い一時が浮かび上がる。

 

 当然、清姫にそんなつもりは一切無い。

 

「どうです静謐さん、乗りませんか?」

 

「乗ります……! マスターを、モードレッドさんから、奪還してみせます!」

 

 清姫は開いた扇の下でほくそ笑んだ。

 

(これで、万が一失敗しても好感度が下がるのは静謐さんですね……)

 

 

 そんな2人の話を少し離れた場所から聞いていたサーヴァントが1騎……

 

「モードレッドが……!?」

 

 アルトリア・ペンドラゴン。聖槍を持ったランサークラスのアーサー王だ。

 

 ヤンデレ・シャトーの影響下だが、アーサー王は高潔な騎士だ。

 無理矢理マスターをモードレッドから奪おうなどと、考える事も無いだろう。

 

「許せませんね……!」

 

 しかし、このアルトリアは違う。

 聖槍を持ってブリテンを収めたアーサー王は体も心も成長した。そんな彼女がカムランの戦いの後にモードレッドに持った感情は、憤怒。

 

「マスターとデートならば、馬を持った私が相応しい筈!」

 

 憤怒……

 

「肩書だけライダーなあのドラ息子が、マスターをエスコートなど出来るものか!

 大体、騎乗スキルも習得していないなど話にもならない!」

 

 憤怒ぅ……

 

「そもそもだ! あんな破廉恥な格好でマスターと出歩くなど、騎士としてもサーヴァントとしても有るまじき暴挙だ!」

 

 上乳隠せよ乳上。

 

 

(……なんか槍の父上荒れてんなぁー

 にしてもマスター、何処行ったのかな?)

 

 

 

「マスター!」

 

 風景が監獄塔から街中に変わった事に気が付いたと同時に、背後から抱きつかれた。

 

 背後を見る必要も無く、この細くも力強い包容はモードレッドので間違いない。

 元気な声で抱き着かれて、既に頭の中で色んなエンジンが掛かっている。

 

「モードレッド……っ!?」

 

 完全に不意打ちだ。背後から抱き着くだけでは無い。

 

「えへへ……マスター!」

 

 振り返った僕の視界を覆ったのは背中で両手を組んだ水着モードレッドのセーラー服姿だ。焼けた肌が健康的で魅力的だが、それ以上に絶対領域と化したセーラーの裾が、下に水着を着ていると理解していても穿いているのか、穿いていないのか、シュレディンガー的な妄想へ至らせる。

 

 あの奥を見なければ、穿いているモーさんと穿いていないモーさんが同時に存在している……!

 

「……マスター? ……露出少なめの選んだけど、やっぱり水着で街中は変だよな?」

「そんな事はない!」

 

 笑顔を曇らせてなるものかと即答した。

 それに着替えるなんて勿体無い!

 

「……やっぱりマスターは、変態だな! こんなオレにメロメロなんてさ!」

 

 天使の様な笑顔で罵倒されたが、僕の業界では流行語大賞です! ありがとうございます!

 

「じゃあ、行こうか」

 

 僕はモードレッドへ手を伸ばす。それをモードレッドは笑顔で握ってくれた。

 

「おう!」

 

 

 

 動き出した彼を見つめる影が2つ。

 

「全く……此処はヤンデレ・シャトーですよ? なのにマスターと来たら、あんなにデレデレして……! 許しません!」

 

「どうやって、妨害を?」

 

 静謐の質問に清姫は立ち上がり、答える。

 

「先ずは、マスターが好きなモードレッドさんのイメージを崩して行きましょう! その違和感がマスターの好感度を下げる筈です」

「はい……!」

 

「その為に彼女の持っているバックにこれを仕込んで下さい」

「これは……?」

 

 清姫は手の平に収まるサイズの物を静謐へと手渡した。

 

 

 

「最初はどこに行こうか?」

「ん、飯……には少し早いし、かと言ってあんまし動いて汗をかくのもまだ早いしなー」

 

「じゃあ、買い物に行こうか。モーさん何か欲しい?」

「も、モーさんは止めろ! 

 ……マスターにだったら、ちゃんって呼ばれても……?

 いや、オレは叛逆の騎士だぞ!? 普通にモードレッドって呼べよ!」

 

 怒った顔で抗議するモードレッドが可愛い。

 

「ゴメンゴメン……モードレッド」

「お、おう……それで良いんだ、それで!」

 

 まだ少し照れているモードレッドは僕の手を乱暴に掴むと前に出た。

 

「さあ、行くぞマスター! 覚悟しろよ、オレは欲しいもんがいっぱいあるんだから!」

「うん!」

 

 モードレッドがどんなぬいぐるみを欲しがるのか想像しながらも、デパートへと入っていった。

 

 人はいるけど誰も彼もがまるで其処にいるだけ。

 モードレッドと僕の道を塞ぐ者は誰もいない。

 

「あ! ……なあなあ、先ずはあそこにしよう、ぜ?」

 

 最初に若干遠慮気味にモードレッドがワクワクしながら指差したのは店では無くゲームコーナーだ。

 

(買い物じゃなくて遊びを優先するのはモーさんらしいな)

 

「うん、入ろう!」

「よーし、早く行こうぜ!」

 

 ゲーム音で賑わい、騒がしいコーナーに入りUFOキャッチャーやシューティングゲームを遊び始めた。

 

「あーもう! 何で取れねえんだ!?」

「そこじゃなくて逆側を掴んだら?」

 

「おお! 取れたぞ、マスター!」

 

 取れたぬいぐるみを抱きしめ喜ぶモードレッド。

 

「あ……あとちょっとだったのに!

 ……あ、ま、マスター……?」

「いいよ、一緒にやろう」

 

「お、おう!」

 

 1人でクリアしてやると意気込んで、負けたら済まなそうに助けを求めるモードレッド。

 

「よーし! 負けねぇぞ!」

 

「もう1回だ!」

 

「……もう1回!」

 

「ま、マスターの……バカぁ……少しは手加減しろよぉ……」

「ゴメンゴメンゴメン!!」

 

 格ゲーで完封され連敗して泣き出すモードレッド。

 

 色んな顔のモードレッドが見れて僕の幸福ゲージはもう振り切れている。

 

 

 流石に2時間近くもゲームをしていると疲れたので2人でベンチに腰掛けた。

 

「楽しかったね」

「おう、すっげぇ楽しかった!

 でもこのぬいぐるみ、大きいから持ち運んでると邪魔になるなぁ……あ、そうだ!」

 

 何かを思い出したモードレッドはバックの中を弄り出した。

 

「確かドクターから転送装置を借りてきた筈……ん? 何だこれ?」

 

 モードレッドは見覚えの無い物を見つけた様で、バッグからそれを取り出した。

 

「……な、何だコレ!?」

「!?」

 

 モードレッドが手に取ったのはピンク色の球体からスイッチの付いたコードが出ている……所謂、ローターだ。

 

「わわわ……ち、違うぞマスター! オレは、こんなもん持ってきたりしてねぇー!?」

 

 慌てて弁明するモードレッド。

 僕は分かっているので頷いて、信じると伝える。

 

「うん、分かってるよ」

「だ、だよな!? だ、誰だよこんなイタズラしやがった奴!」

 

(エッチでお茶目なモードレッド、アリだと思います!)

 

 僕は理解あるマスターだ。モードレッドの全てを受け入れよう。

 

「マスター? 信じてくれてるよな!?」

 

 

 

「……効果、無いみたいですね」

「マスターはモードレッドさんに対して寛容的ですからね……やはり極太バイブの方が良かったでしょうか?」

 

 物陰から作戦の失敗を悟った2人は次の手を相談し始める。

 

「ならば手っ取り早く2人の絆に亀裂を入れましょう」

「そんな事、出来るんでしょうか?」

 

 静謐の質問に答える為に清姫は1本の薬を取り出した。

 

「ベタですが、こんな作戦でいきましょう」

 

 

 

「さあ、昼飯だ!」

 

 沢山食べるモードレッドの事を考えて食べ放題の店へとやって来た僕達。

 早速机の上はモードレッドの分で一杯だ。

 

「いっただきまーす!」

 

 手を合わせて幸せな顔で食べ始めるモードレッド。

 モードレッドに食べられている料理になりたくなるくらい本当に嬉しそうに食べている。

 

「……ん? マスター、食べないのか?」

「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」

 

 席を立ち、僕は店員にトイレの場所を尋ねる。

 

「フードコーナー共通のトイレはあちらに御座います」

 

「あっちか……」

 

 店を出た僕は足早にトイレへと向かった。

 

 

「……さぁ、早く帰ってモードレッドとデートの続きだ」

 

「すいません……」

「ん?」

 

 トイレを出た僕に女性が話しかけて来た。紫色の長髪に白い服。中々美人な人だ。魅力と言う点ではモードレッドには遠く及ばないけど。

 

「食べ放題のお店って何処ですか?」

 

 店員さんに聞けばいいのに……まあ丁度同じ店だし案内してあげよう。

 

「こっちです。案内しますね」

「あ、ありがとうございます……」

 

 なるべく早く、だけど女性が置き去りにならないスピードで歩く。

 

 直ぐに店に着いた。

 

「此処ですよ」

「本当に、ありがとうございます!」

 

 女性は頭を下げて礼を言ったら店の中に入った。僕も入ろう。

 

「……マスター? 先の女は、誰だ?」

 

 席に腰掛けるとモードレッドが不機嫌そうに訪ねてきた。

 

「知らない人。店の場所を知りたがってたから案内しただけだよ」

 

「……ならいいけどよぉ」

 

 どうやら焼き餅を焼いているらしい。可愛いなぁ。

 

 若干食べる速度の早くなったモードレッドを見る。モキュモキュと美味しそうに食べている。

 

「あ……どうも」

「ん? あ、先の」

 

 僕達の隣の席に座ったのは先の女性だ。

 

「本当に助かりました。友人に席を取って欲しいと頼まれていたんですけど、初めて来たので何処にあるか分からなくて……」

 

「気にしないで下さい」

 

 頭を下げる女性の礼を受け取りつつモードレッドに視線を戻す。

 

「……」

 

 女性を見る目に殺気が篭っていた。

 

「お、落ち着いてモードレッド」

 

 小声とモードレッドを冷静にしようと声をかける。

 

「……マスターに馴れ馴れしくしてんじゃねぇぞ……ぶっ殺して……」

「おーい、モードレッドさぁん!?」

 

 モードレッドの前で、手をブンブンと振って正気に戻そうとする。

 

「……ふん!」

 

 どうやら殺気は引っ込んだようだが先よりも不機嫌になってしまった様だ。

 

 

 

「ふふ……此処ではサーヴァントの探知は出来ませんし、静謐さんの変装は完璧ですからまず気付かれません。マスターと談笑するだけでモードレッドさんは不機嫌になりますし、良い調子ですわ」

 

 清姫は作戦の成功を確信して笑う。

 

「私も次の作戦に移りましょうか……」

 

 

 

 不機嫌なまま食事を終え、しばらく無言でベンチに座り、アイスクリームで機嫌を取ろうとしたらモードレッドが僕へ文句を言い始めた。

 

「大体、マスターもオレがいるのに他の女に現を抜かしやがって! 胸か!? 髪か!? ……やっぱりマスター、オレみたいな奴、嫌いなんだ――」

「――いやいやいや、モードレッドがどんな時でも僕の一番だよ!」

 

「っう……ん、んな事は最初から知ってんだよ! 当然だろ!」

 

 良かった。どうやら機嫌が治ったらしい。

 

「オレの、オレだけのマスターだ! 目移りなんてさせねぇーし、したら絶対にゆるさねぇーかんな!

 それじゃあ気分を変えて遊園地にでも行くか、マスター!」

「うん!」

 

 モードレッドの提案に頷いて僕達は遊園地に向かう為のバスに乗った。

 

「あ、よく会いますね」

「そ、ソーデスネー」

 

 しかしバスの中で3回目のエンカウント。窓際に座ったモードレッドが僕の隣で威嚇している。

 

 あちらの奥の方にも友人と思わしき人物が座っている。

 

「私達、これから遊園地に行くんです!」

「へ、へぇー……」

 

 あ、これアカン展開だ。

 絶対妨害されてるよ、コレ。

 

「……どうする?」

 

 モードレッドに小声で尋ねる。

 

「オレは退かねえぞ。こんな事で撤退なんざ叛逆の騎士であるモードレッド様には似合わねえからな!」

 

 モードレッドがそう言うのであれば仕方が無い。遊園地では頑張ってご機嫌を取ろう。

 

「そっちも遊園地なんですね。なんだが、運命を感じます……」

 

 おいやめろ、モードレッドが色々お怒りだ。

 

 

 

「マスター! 先ずはジェットコースターだ!」

「うん!」

 

 到着早々モードレッドに手を捕まれジェットコースターへとやってきた。 

 

「あ、またまた奇遇ですね」

 

 サード・エンカウントッ! 到着して直ぐに走ってきたのにそんな偶然がある筈が無い。

 

「ワクワクするな、マスター!」

「わくわく、しますね?」

 

 隣で笑うモードレッドと背後から楽しそうに声をかける女性。

 

 その声も、最高速で下がった後の高速移動で遮られ、楽しそうな悲鳴に変わる。

 

 ジェットコースターは楽しかったがモードレッドは出入り口で貰った写真に自分達の後ろに座っていた例の女性を見て複雑そうだ。

 

「……次だマスター!」

 

 ジェットコースターを降りてすぐにモードレッドは別のアトラクションへと走る。

 次はコーヒーカップの様だ。

 

「うおぉ……!」

「楽しいな、マスター!」

 

 高速回転するカップに翻弄されるも楽しそうなモードレッドを見て持ち直す。

 モードレッドの笑顔は万能薬だ。

 

「あ、楽しんでますか〜ぁ?」

 

 が、隣のカップから聞こえてきた声に僕達のカップの回転は緩やかに止まった。

 

「次!」

 

 今度はお化け屋敷だ。2人乗りのコースターなので邪魔は入らないだろう。

 

「ギャァァ!!」

 

「ウワァァァ!」

 

「ヒィィィィ!!」

 

 しかし邪魔はなくてもモードレッドは落ち込んでしまった。

 

「こ、怖くなんて……無かったぞ……

 だ、だからマスター……う、腕……放さないでくれぇ……ひっぐっ」

 

 余程怖かったらしい。

 

「喉、乾いてませんか? 良ければジュースがありますけど……」

「――! いらねえ!」

 

 出口で待ち構えていた女性から逃げる様にモードレッドと共にその場を後にした。

 

 

 

「……参ったな」

 

 一生の不覚、まさか別れてしまうとは……

 モードレッドがあの女性を撒くために人混みへと入ったのだがそれがいけなかった様だ。

 手を繋ぐのも難しく気付けば離れてしまったらしい。

 

「あ、またお会いししましたね」

「……マジですか……」

 

 何回目の登場だ。しつこいぞ名も無き女性。

 

「あら? お連れの方は?」

 

 さて……どう答えようか。この流れだと、「見失った」と答えれば一緒に探すだろうし、「何処かで待ち合わせている」や「先にフードコーナーに」と答えても丁度そこ行くとか言われるオチが見える。

 

 ならば……

 

「ちょっとトイレに行きたくてね! じゃ、急いでいるから!」

 

 逃げよう。

 知らない女性と吃らず話せるのはモードレッドとのデートでハイになっているからだ。落ち着いてしまえば逃げるのも難しくなる。

 

「…………」

 

 

 

 逃げ出してから数分経ったが、依然としてモーさんの影も形も見つからない。テンションが下がる一方だ。

 

「モーさん……本当に何処言ったんだ?」

 

「マスター!」

 

 モーさんの声が聞こえた。

 

「何処だ?」

「マスター!」

 

 人混みを抜けて声の聞こえる北側に向かう。

 

「マスター!」

 

「おかしいな……声は聞こえるけど……」

 

 近付いている筈だがモードレッドは見えず、声も一定の距離を取って着かず離れずだ。

 

「マスター!」

「……誘導されてる」

 

 足を止める。これ以上おちょくられるの気分が悪い。

 

「だけど……こっちに誘導されたって事は逆の方向にモーさんが……?」

 

「マスター!!」

 

 南へ向かおうとした僕にモードレッドが抱き付いてきた。勢いがあり過ぎて受け止めきれず押し倒される様に地面に倒れる。

 

「マスター、マスター、マスター!」

「も、モードレッド……」

 

 最初とは違い泣きながら抱き着いているモードレッド。少し前なら泣いているモーさん可愛いだったが、今回は流石に自重する。

 

「良かった、見つかって良かったぁ……!

 オレ、マスターがいなくなっちまったと思って本気で心配したんだからなぁ……!」

「ご、ゴメン……」

 

「もう、放せねぇからな……」

 

 ジャラジャラと金属が擦れ合う音が聞こえる。どうやら手錠を取り出した様だ。

 

「ずっと……一緒だからな」

 

 カチリと嵌められ、モードレッドの左腕と僕の右腕が繋げられた。

 

「もう絶対、オレから離れんなよ……?」

「うん……勿論」

 

 

 

「……静謐さん? 何故モードレッドさんをお化け屋敷まで誘導しなかったんですか?」

「すいま、せん……」

 

 静謐のハサンはすまなそうに頭を下げるが清姫の怒りは収まらない。

 

「もう良いです……! こうなったら私直々に……!」

 

 

 

 唐突に、空が輝いた。

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)……!! っはぁぁぁ!」

 

 遥か上空から白馬に乗った騎士が流星の如く光を放ちながらモードレッドと僕へと迫る。

 

「っく!」

 

 モードレッドの魔力探知には引っかかった様だが宝具の真名開放は間に合わない。このままでは例え直撃は免れても衝撃波で大ダメージを受けるのは簡単に想像できる。

 

「マスター……!」

 

 が、僕とモードレッドは誰かに投げ飛ばされる。

 

 褐色肌に見覚えのある紫色の髪。

 静謐のハサンだ。

 

「……マスター、すいませんでした――」

「――っち……邪魔を!!」

 

 謝罪の言葉を最後に、降り注いだ光に飲まれ静謐のハサンは消え去った。

 

 

「一撃で仕留めるつもりだったのですが……」

「父上……!」

 

 白馬に跨りし白銀の騎士。手に持った槍は聖剣と比べても見劣りしない強力な物だ。

 

 その事実が目の前の存在がモードレッドの親にあたるアルトリア・ペンドラゴンである事を表していた。

 

「何のつもりだよ父上!?」

「決まっています。マスターの隣にいるべきは私です。断じて貴方でも正規のモードレッドでも無く、私こそが相応しい」

 

「勝手な事を……モードレッドこそが

僕の一番だ。勝手な妄想をしないで下さい!」

「マスター……! そういう事だぜ父上! マスターはオレのもんだ!」

 

「マスターがそんな妄言を吐く事は知っていました。だからこそ、この聖槍で魂を浄化し、輪廻の先で再会することにします」

 

「っへ、やらせねぇ!」

 

 ……啖呵を切ったのは良いけど状況は少し厳しい。水着モードレッドはライダーだ。使う武器はアーサー特攻のクラレントでは無く盾であるブルドゥエン。

 しかも手錠で2人の左腕と右腕が繋がっている。

 

「っはぁ!」

 

 走り出す白馬。聖槍の狙いは間違いなく僕だ。

 

「っこの!」

 

 ブルドゥエンが迫る槍を阻む。完全に足手まといだ。

 

「も、モードレッド! この手錠を外さないと……!!」

「無茶言うなよマスター! 父上相手にそんな隙ねぇよ!」

 

「当然だ。

 騎士たるもの、守るべきモノは己の背に預けるべき。常に隣に置こうなど、劣等感を抱いた愚者の行いだ」

 

「っく! 今日はやたら説教くせえぞ父上!」

「ならもっと言いましょうか? 

 なんですかそのふしだら格好は! おのが主に恥をかかせる気か!」

 

「っぐぁ!」

「っぅあ!」

 

 言い放った言葉と共に槍が盾越しにモードレッドと僕をぶっ飛ばした。

 

「従者として、騎乗すら満足に行えないなどもってのほかだ!」

 

「っく!」

 

 追撃。またしてもギリギリで盾が間に合ったがこのままではいずれ押し負ける。

 

 僕はポケットへと手を伸ばした。

 

「概念礼装、【コードキャスト】!」

「サンキュー、マスター!」

 

 時間制限はあるけど力と防御が上がる礼装だ。これでモードレッドがステータス面ではアルトリアに勝る筈だ。

 

「くらえ!」

 

 盾の先端から高圧水が発射される。

 

「ふん!」

 

 だが放たれた数発の水は当たる事なく回避される。

 

「どうした? 自慢のサーフィンテクとやらを見せなさい」

 

 アルトリアの挑発。しかし、今のままではモードレッドのブルドゥエンに乗っての攻撃は行えない。

 2人を繋いだ手錠が完全に仇となっている。

 

「では、もう一度我が聖槍を輝かせ、終わりにしましょう……!」

 

 再び輝きを纏うロンゴミニアド。これを喰らえばお陀仏は間違いない。

 

「概念礼装【月霊髄液】!」

 

 これで3回だけモードレッドに無敵が付加された。

 この時は咄嗟で気付かなかったが、アルトリアのロンゴミニアド相手にこれは愚策だ。

 

「っ! マスターはどうする気だ!?」

「残念だけど……そこまで考えてないよ」

 

 咄嗟だったのでモードレッドを守ることしか考えていなかった。

 そうこうしているうちにアルトリアは上空に跳んだ。

 

「私としては望む所だ……マスターだけを輪廻へと届けれるのであればな」

 

「くっそ! そんな事させるかよ!」

 

 モードレッドはブルドゥエンから高圧水を撃ち出すが、アルトリアは被弾しても気にも止めず槍を構える。

 

最果て(ロンゴ)――」

 

「転身火生三昧!!」

 

 輝く槍の落下を止めたのは炎の竜だ。

 

 光を飲み込まんと襲い来る炎竜に、流石のアルトリアも不意を着かれ、被弾した。

 

 

 

「全く……情けない姿を見せないで下さいまし」

「清姫……」

 

「さっさとその目障りな手錠を外しなさい。貴女の父親はあの程度で息絶えるようなお方ではないでしょう」

「っ……分かってるよ!」

 

 モードレッドは盾で手錠の鎖を破壊し、構える。

 

 アルトリアは上空から静かに落下し、鼻を鳴らす。

 

「ふん……邪魔が入ったか……」

 

「もう一度宝具を撃たれたらお終いです」

「分かってる、その前に終わらせる!」

 

 モードレッドはブルドゥエンを地面に投げるように置くとその上に乗りサーフィンの要領で素早くアルトリアに接近する。

 

「っはぁ!」

 

 白馬に鞭打ち動き出すアルトリア。聖槍の先端はモードレッドを狙う。

 

「隙だらけだ!」

「どうかなぁ!」

 

 素早く突き出された聖槍。

 足場にしていた盾は宙に飛び、ロンゴミニアドは間違いなくモードレッドに直撃した。

 

「おっらぁ!」

 

 だが、そんなことお構い無しにモードレッドは盾を掴むと馬ごとアルトリアを盾で殴りつけた。

 

「っぐぅ!?」

 

「ぶっ飛べぇ!」

 

 更に盾で追撃。アルトリアはたまらず距離を取る。

 

「ロンゴミニアドの連発でだいぶ消耗してるな、父上!」

「っく……マスターの付加した礼装の効果か……」

 

 月霊髄液は3回まで攻撃を受けない無敵状態にする礼装だ。これがある間はロンゴミニアドの真名開放以外の攻撃を防げる。

 

(あくまでゲームシステム的……だけど)

 

「このまま叩き込めるだけ叩き込んでやる」

 

 だけど無敵の回数はあと2回。それまでに倒しきらないと……!

 

「っらぁ!」

 

「っふん!」

 

 盾による連続攻撃を叩き込もうとモードレッドはブルドゥエンを振り下ろすが槍で防がれる。

 

「そんな力任せが届くと思うな!」

「うぉぉ!」

 

 槍対盾。

 傍から見ればシュールかもしれないが交わされる一撃はどれを受けても死人が出る威力だ。

 

 数十秒間の間に何度も行われる槍撃と盾撃の応酬。

 このままだと先に音を上げるのはモードレッドだ。

 

 馬に乗っているアルトリアとの高低差、槍との合間に襲い来る馬の蹴り。

 何より、龍の心臓を持つアルトリアとは違い、モードレッドの魔力はランクBだ。魔力による身体能力の強化をしている2人の間でその差は大きい。

 

「……ここで決めてやる!」

 

 アルトリアから距離を取ったモードレッドの魔力が増す。どうやら遂に宝具を放つらしい。

 

「見せてやるぜ、父上! オレを選んでくれたマスターの為にも絶対勝つ!」

 

(モードレッドの体は既に疲労している筈。恐らく宝具に最後の魔力を込めるだろう。ならば……カウンターで仕留める!)

 

 突然大きな波が押し寄せる。その先ではブルドゥエンに乗ったモードレッドがアルトリア目掛けて一直線に突っ込む。

 

「どんな波も壁も超えてやる! これがオレの、逆巻く波濤を制する王様気分(ブルドゥエン・チューブライディング)!!」

 

 盾の先端をアルトリアへと狙いを定めたモードレッド。勢いも威力も仕留めるには十分だ。

 

「甘かったな、モードレッド!!」

 

 だが、馬が跳躍し、モードレッドの上を取った。下へと落下していたモードレッドにコレは致命的だ。

 

「既に礼装の効果は、無い!!」

 

 振り下ろされる槍に、僕の手が動いた。

 

「【緊急回避】!」

 

 アルトリアの槍は空振り、その目前にモードレッドが現れる。

 

「っな!?」

 

「サンキュー、マスター!!」

 

 ブルドゥエンは、確かにアルトリアへと届き、続く波が2人をふっ飛ばした。

 

 

 

 モードレッドによって生み出された波はすぐに消えて、モードレッドは地面にたおれていた。セーラー服は流され水着姿になっている。

 

「モードレッド! 大丈夫!?」

「……お、おうマスター……オレ、やったぜ? 父上に、勝ったぞ……」

 

「ああ、ちゃんと見てた。凄かったよ」

 

「へへへ……ちょっとめちゃくちゃになったけど……デートの続き、しようぜ?」

 

「ああ、思いっきり楽し――」

「――あふんっ!」

 

 折角いい雰囲気だったのに後方で清姫が気の抜ける悲鳴を上げた。

 

「清姫、何して――」

 

「――何してんだ、マスター?」

 

 真のラスボス、セイバークラスのモードレッドの登場だ。

 

「……今日はマスターとデートだって聞いたのに、カルデア中を探してもマスターいねえし、聞けばとっくに出っていったって言うし……」

 

「も、モードレッド……」

 

「……嫌いになったのかと思って不安になってたオレを差し置いて……水着のオレとデートしてたなんて……」

 

 モードレッドの瞳から涙が溢れる。

 

「ゴメンゴメンゴメン!! でも別にモードレッドの事を嫌いになった訳じゃ――」

 

「マスター!? オレを、選んでくれたんじゃないのかよ!? やっぱり、オレじゃなくてそっちのオレの方が大事なんだな!?」

 

 弁明しようとしたら今度は水着のモードレッドに泣き付かれた。

 

「マスター……どっちを選ぶんだ?」

「マスター、オレだよな!?」

 

 2人の目からハイライトが消え、僕に詰め寄る。

 選べない……だってどっちもモードレッドだ。

 僕はどっちのモードレッドも愛している。

 

「マスター!?」

「マスター!」

 

「……魔術礼装【愛の霊薬】」

 

 だから僕は、パンドラの箱を、開けた。

 

 

 

 狭い観覧車。椅子に座っている僕の右足に、モードレッドが座った。

 左足には、水着のモードレッドが腰掛けた。

 

「マスター……大好き……」

「マスター……愛してる……」

 

「うん……僕もモードレッドが大好きだよ」

 

 夕日がオレンジ色に染める景色の中、2人の顔が同じ視界に入る。

 

 愛の霊薬の効果でモードレッドの2人は現実が見えていない。僕との愛の時間に溺れて、2人きりと思い込んでいる。

 

「マスター……キス、してくれ」

「マスター……撫でて」

 

 セーラー服のモードレッドが気持ち良さそうに目を細めている間に、モードレッドと深いキスをする。

 

 唾液が混じり合いピチャピチャと音を立てている間に、水着のモードレッドの頭を撫で続ける。

 まるで清楚な彼女に隠れて浮気をしているかのような背徳感が僕を次のステップに導く。

 

「っはぁっはぁ……マスター……や、優しく頼む、な? オレ、初めてだから……」

 

「マスター……もっと、違う所も、撫でたくないか?」

 

 僕の手を自分の胸に当てる水着のモードレッドと、服を脱いでいくモードレッドを見て、僕は、やっぱモードレッドはエロいなと思いつつ、笑ったのだった。

 

 




今回の主人公の皐月さんは別にチートとかじゃなくて、概念礼装は3枚まで、魔術礼装のスキルは一度だけ、な感じの縛りがあります。
別に、アルトリアがどうしても倒せなかった訳ではございません。(真顔)

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