ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
「先輩、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
現在の時刻は午後9時、学校の文化祭の打ち上げですっかり暗くなってしまった。
エナミを家まで送った後に、俺は自分の家へと帰った。
「ふぁ……寝みぃ……」
目を擦りながらも家に着いた。まずは風呂だ。ヤンデレ風呂ですっかり懲りたからさっと浴びた後にベッドで眠った。
「今日は文化祭だ」
「いや、もうお腹いっぱいです」
まさかの24時間文化祭祭り……いや、そんなバラエティ番組みたいなイベント要らないし。
「安心しろ、店を回ってスタンプを集めるだけだ」
そう言ってアヴェンジャーはA4用紙より少し小さい位のスタンプカードを渡してきた。
しかも、これ手書きだ。
デフォメキャラが8マス書かれているが、もしかして誇らしげに渡してきたアヴェンジャーのお手製だろうか?
「店の入り口にスタンプが置いてあるんだろうな?」
「安心しろ。各店長が持っている」
最悪だ。それ相手によってはスタンプを押して貰えない可能性があるぞ。
「当然全員ヤンデレだ。だが、スタンプは押す様に言ってあるから問題無い」
「本当だろうな?」
「心配するな。きっと良い文化祭になっている筈だ」
アヴェンジャーが変にテンションが高い。もしかして、今回一番コイツが頑張ったんじゃないか?
「……経費計算に、場所取り相談、飾り付け、書類の受理……こう言う祭りも、悪くないな……」
あ、青春を謳歌した目をしてるぞこのアヴェンジャー。
「うわぁ……ご丁寧に俺の学校だ」
景色が変わり、最初に見えたのは文化祭の文字が書かれたアーチの飾られた正門。
学校の中も中々楽しそうな雰囲気になっている。
「……人がいなくてガラガラだけどな……」
楽しそうではあるが、文化祭と言うには寂しい位人がいない。
「デートの時みたいに人出せばいいのに……」
ブツブツ呟きながら俺は校舎へと歩き出した。
「ん? なんだ、人がいるのか」
ある程度近付くと中は騒がしい事に気づいた。恐らく外に人がいないだけで中には何時もの邪魔をしない通行人が沢山いるのだろう。
「結構しっかりしてるなぁ」
1階、歩き慣れた校舎を新鮮な気持ちで歩く。教室はどうやら1階に3つ、2階に3つ、3階に2つの様だ。
俺の高校よりだいぶ小さくなっている。
「さて……何から回るべきか……」
スタンプカードには店の名前と教室が書かれている。
「……飲食店が3つ、お化け屋敷が3つ、その他が2つか……」
お化け屋敷とその他が曲者だ。ナニされるか分かったもんじゃない。
「まあ、花より団子。まずは腹ごしらえと行こうか」
最初に選んだのは、1階にある喫茶店、“妹喫茶”。その隣には“姉喫茶”がある。
「これが本当の姉妹店、てか?」
下らない事を言いつつ、店に入った。
「いらっしゃいませ、お兄ちゃん!」
入った瞬間廊下にいた筈の通行人が誰もいない事に気付いた。
本当に邪魔する気ないんだなこの通行人達。
さて、目の前のピンク色のエプロンを着たサーヴァントは……む?
「アストルフォ?」
「えへへ! 文化祭は僕にはうってつけな舞台だよ!」
なんと珍しい事に、ライダークラスのサーヴァント、アストルフォのお出ましだ。
このピンク髪の僕っ子は、男装をしているアルトリア顔達が霞む……どころか逃げ出すレベルに完璧な女装しているサーヴァントで、何処に出しても恥ずかしくない男の娘だ。
「アストルフォ、お兄ちゃんが入ったなら席に案内しなさい」
「はいはい、任せてよエウリュアレちゃん! そんな訳でお兄ちゃん、こっちこっち!」
案内されるまま教室の奥の席へと連れられる。本当に帰してくれるんだろうか?
「お兄ちゃん、ご注文は?」
ピンクのエプロンを着たエウリュアレが注文を取りにやって来た。
……顔がやたら近い……
取り敢えず机の上のメニューに目を通した。写真が貼ってあるので分かりやすい。
どうやら家庭料理で攻めてきたらしい。
「……じゃあこの“妹の手作り肉じゃが”と、コーラ1つ」
「お兄ちゃんの為に、頑張ってくるね!」
注文を取ったエウリュアレは厨房へと消えた。
所で、何人で回してるんだこの店?
「お兄ちゃん! 料理の時間まで一緒に遊ぼう!」
と言って俺の向かいに座ったのは褐色ロリ……もといクロエ。
エプロンを着けているが、気のせいだろうか。下にスク水を着てる様に見えるが…
「トランプで私に勝てたらあーんってしてあげるね? 負けたら、お兄ちゃんが私にあーんってしてね?」
「……なにで遊ぶんだ?」
「ババ抜きよ」
2人でババ抜き……別に勝っても負けてもデメリットは少ない。
「あ、私が勝ったら口移しがいいな? 私が負けたら、追加でエプロンの下、見せてあげるから、ね?」
いきなりデメリットが跳ね上がった。
「それさ、受けないって選択肢無いの?」
「だーめー! 妹喫茶の名物よ。さぁ、始めましょう?」
逃げる間もなくカードが配られ、仕方ないのでカードを確認し、ペアを作り始めた。
流石にあちらも露骨なイカサマはしなかった様で、最初のペア作りでゲームは終わらなかった。俺が5枚、クロエが6枚でゲームが始まった。
「じゃあ、お兄ちゃんの番ね。お兄ちゃんに、ジョーカーを引かせてあげる」
クロエの宣言通り、俺が引いたのはジョーカーだ。
「あらら、引いちゃったわね? じゃあ、私は5を引こうかしら?」
クロエは5のカード引いてきた。そのままペアを作り、1枚減らした。
タネはすぐに分かった。心眼(偽)でコチラの目や僅かな動きで引くカードを予測している。
「それじゃあ次はー……3ね」
俺がジョーカーを握っている間は、クロエから何を引いてもペアが作れる。問題はいかにしてクロエにジョーカーを引かせるかだ。
ペアを作り机の上に。
5対4だ。
「それじゃあ、私はジャックを――」
「――そう言えば、イリヤとどっちが姉か喧嘩してたのに、結局妹喫茶にしたんだ?」
「言うな! こっちも気にしてるんだからぁ!」
怒りながらクロエはカードを引く。
「っげ!?」
「剥がしてやったよ、化けの皮」
引いたのはジャック……では無くジョーカーだ。
「っく……直ぐにジョーカーを引かせてや――」
「――クーローエー? バイトの癖に何をしているのかしら?」
注文を持ったエウリュアレが怒りを顔に滲ませて睨んでいた。
「お兄さんを持て成していたのよ、文句ないでしょ店長?」
「それは私の仕事よ……?」
「いいえ、早い者勝ちでしょう?」
クロエの言葉にエウリュアレは表情をピクリとも動かさずに肉じゃがとコーラを置いていく。
「ゆっくり食べてね、お兄ちゃん! さあ、バイトは退散しなさい」
「ちぇ……」
エウリュアレに言われ、クロエは席を離れ厨房へと向かった。
「さぁ、あーん」
「結局するのかよ!」
俺のツッコミなど意に介さない様で、クロエに変わって座ったエウリュアレが向ける箸はこちらに向けられたまま、動かない。
「あー……」
いつもの事だ。口移しじゃないだけマシだと割り切って食べる。
味は割りと普通。文化祭なんてこんなものだろう。
「どう? 美味しい?」
「ん、美味しいよ」
「えへへ、もっと食べてね、お兄ちゃん!」
どんどん肉やじゃがいもが箸に啄まれ、俺の口へと運ばれる。
「あ、お兄ちゃん、口にご飯付いてるよ? 取ってあげ――」
「―ぺろ。結構です」
このやり取りの後もエウリュアレは箸で肉じゃがを運んでくれた。
その間ずっとニコニコしていたのが、少し恐ろしかった。
「お兄ちゃん、おかわり欲しい?」
「いや、御馳走様。あ、スタンプ押してくれる?」
忘れない様にとスタンプカードを取り出す。
「はい、よいっしょ、っと……」
思っていたよりあっさりとスタンプを押して貰えた。
「お会計はあちらになります」
妹喫茶の厨房。マスターが出ていった後にエウリュアレ、アストルフォ、クロエの3人が集まっていた。
「分かってると思うけど、マスターが出て行った後も店は続けるわ」
「んー……でも、この中の1人だけマスターと一緒に文化祭を楽しめるんだよね?」
「ジャンケンで良いわよね? 恨みっこ無しの、ね」
エウリュアレが拳を前に出して構えるが、クロエがアストルフォを指差し質問した。
「その前に1つ……貴方、男の娘よね?」
「んー、そうだけど?」
「ジャンケンに勝っても、マスターと回れて嬉しいの?」
「もちろん僕が勝ったら…エウリュアレちゃんに譲るよ!」
「貴女、魅了したわね!?」
「……さあ、行くわよ! ジャンケン……!」
「さて、次は姉喫茶だな」
妹喫茶を出て直ぐ隣の教室に入った。
「お帰りなさい! お席に案内するわ!」
出迎えたのはエプロン姿のブーディカだ。
席に案内されるが、やはり教室の一番奥の席だ。
「ごゆっくりしてねー!」
メニューにはホットケーキやクッキーなど、焼き菓子が多い。
「……クッキーで良いかな。肉じゃがで結構腹膨れたし。あ、すいません、クッキー1つ」
ちょうどやって来た店員、ステンノに声を掛けた。
「あら、甘えん坊ね……待ってなさい。直ぐに作ってあげるわ……」
姉妹で姉妹店やってるんだな……
「どれ、メニューが来るまで私が相手をしよう」
そう言って向かいの席に座ったのは……
「スカサハ!? て言うかビキニエプロンって……」
レベル高い……じゃなくて、水着の上にエプロンは流行っているのか?
スカサハ、水着なのでアサシンクラスのサーヴァントだ。出会ったのはこれが初めてだ。
「姉喫茶……客に姉の真似事をするらしいが、普段通りでと店長に言われたので、普段通りいかせてもらう。
さあ、何をして欲しい? 姉が何でもしてやろう」
この人は基本万能なので本当に何でも出来そうだ。
「将棋か? カードか? 何だったら私が性管理をしてやろう」
「い、いえ!? 結構です!」
いきなりの不意打ちだ。机の下で裸足をこちらに伸ばし、刺激を与えてきた。
「む、そうか」
「こ、怖いよこの人……あ、じゃあ……」
道具を使わず、手だけを使う遊び。
「いっせのーせ、2!」
「甘いな。いっせのーせ、1!」
親指を上げる数を当てるいっせのーせを始めた。
流石にこれには身体能力も心眼も役には立たないだろう。
読心術があれば話は別だが。
「私の勝ちだな」
「魔境の叡智はチート。あれ、でもアサシンになったら消えているんじゃなかったけ……?」
「修行が足らん。上げた指をすぐ下げる程度の動きをしてみせろ」
「それはルール違反だろ……」
そりゃあ負けるわ。
「はーい、クッキーが焼けたわよ」
ちょうどステンノがクッキーをもってやって来た。
「スカサハ、さっさと退いて頂戴? ここから先は店長の仕事よ?」
「分かった」
スカサハはステンノに言われあっさり席を立った。
「さぁ、お姉さんが食べさせてあげるわ」
「結局それか……」
俺が頭を抑えていると、ステンノはクッキーを口に挟んだ。
「んー」
「さ、流石にそれは無理なんだけど……」
「んー……」
クッキーを挟んだままステンノはポケットから何かを取り出す。
スタンプだ。恐らく、脅迫されている。
「……マジですか……」
仕方が無いので、クッキーへと口を開き近付ける。
「んっ」
しかしステンノは急に前へ動き、俺の唇へ自分のを重ね、クッキーを置き去りにしてすぐに離れた。
「美味しい?」
「いや、美味しいけど……普通に食べさせてくれない?」
「じゃあ、あーん」
「じゃあの意味が分からない……」
その後、小さな皿に入っていたクッキーを完食すると、さっさとスタンプを貰って出て行った。
「2階に到着……見事にお化け屋敷だらけだな……」
2階の教室は外からでも分かる程にオドオドしい雰囲気で並んでいる。
「さて、何処から入ろうか……」
「マスター!」
「ふむ、間に合ったか」
後ろから2種類の声が聞こえてきた。エウリュアレとスカサハだ。
「な、なんで2人が……」
「マスターが出入りした店の店員1人はマスターと一緒に文化祭を楽しめるの」
「ジャンケンで中々手こずったがな」
なんて嫌な付き人だ。ヤンデレが営業している店に女と入らないといけないなんて……
「さあマスター、どのお化け屋敷に――!?」
エウリュアレは俺の手を掴もうとして1歩前に踏み出したが、それと同時に体に穴が空き、倒れ伏した。
「す……スカサ――」
数秒経たずに消滅し、俺の前にはエウリュアレを消滅させた張本人のスカサハだけが残った。
「さあ、邪魔者は消えた。行こうかマスター、祭りを楽しもう」
何ともない顔でエウリュアレに刺したゲイボルグを回収し、こちらに向かって小さく微笑んだ。
俺は、急な事態に頭の中がパニックになってしまっていた。
「マスターに必要なのは強いサーヴァント……つまり、私1人で十分だ。安心しろ、近付く女は皆殺す」
殺気を込めながらこちらへ微笑むスカサハに恐怖するが、俺の文化祭スタンプラリーはまだ始まったばかりだ。
ガチで殺しきてますねー。