ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
「さあ、何処へ行こうか」
スカサハはまるで何もなかったかのように文化祭を楽しむつもりの様だが、俺はだいぶショックだった。
前に一度だけフレンドのスカサハと話した事があったがあの時はあっさりと殺された。
スカサハは冷静で知的なイメージがあるが、どんな時でも自分の力に自信が有る為、手っ取り早く最も納得行く方法を選ぶ。
ヤンデレになった影響で俺に関しての事柄には普段の様な倫理的な考えはある程度度外視している。
今の様にエウリュアレと一緒に俺と歩くよりも、彼女を殺して俺と2人きりの方がいいと思ったから最速で殺して来たのだ。
「す、スカサハ……」
「安心しろマスター。エウリュアレは今頃喫茶店に戻っている。此処はそう言うルールだ」
何の問題もない。むしろ、なぜそんな事を気にしているんだと言う顔をこちらに向けるスカサハ。
「マスターが選べないのであれば私が選ぼう」
スカサハは俺の手を取ると近くの教室まで引っ張った。
「わ、分かったから引っ張るな!」
遅くなったが俺は覚悟を決める。
スカサハは俺を掴んで“
お化け屋敷で恐怖したサーヴァントは俺と一緒に文化祭を回れなくなるらしい。
しかし、スカサハは悪霊特攻のスキルを持つサーヴァントで、幽霊には滅法強い。スカサハと別れるのは少し難しそうだ。
「む……術で部屋を広げたか……」
「完全に墓場だな……」
中は黒い布で光を遮られ、左右に無数の墓石が鎮座している。
“浮気者、死”とか“滅一夫多妻”や“嘘厳禁”と赤い文字で書かれている。
どうやら墓石の配置が道になっているようだ。
此処には入りたくなかったな……
「この程度で恐れる訳がなかろう。行くぞ、マスター」
「お、おう……」
スカサハは落ち着いた様子で俺の手を握りつつ歩いている。
「……む」
スカサハは立ち止まると武器を取り出し目の前を切り裂いた。
ゼリーの様な柔らかい落下音と水音を何かが落ちて響かせた。
「……不可視にしたこんにゃくか。くだらん」
「一般人だったら驚くんだろうけどな」
「なんだマスター、怯え続ける私が好みか?」
「い、いや、別に……」
スカサハは問い掛けながらも俺へと顔や体を近づけるが過度な接近はやめてほしい。
瞬間、背中に悪寒が走った。
「――っ!」
「……ほう、中々の殺気」
スカサハも何か感じた様だ。俺からしたらまじでシャレにならない。
墓場に書かれた赤い文字で大体分かっていたが、間違いなくアイツがいる。
「立ち止まっている暇は無さそうだぞ、マスター」
スカサハの手に力が入る。
お化け屋敷の奥へと歩く。冷や汗は止まる所か踏み出す度に増えていく。
「っ!」
またしてもスカサハは武器を取り出した。今度は不可視のこんにゃくなんてチャチなモノでは無く、骸骨の様な見た目をした半透明の怪物、ゴーストだ。
「ふん!」
『ギャァァァ!』
が、容易くスカサハに切り裂かれ断末魔の声を上げる。
「マスター、少々下がっていろ」
スカサハは俺を握っていた手を放す。正面からやって来たゴーストの大群を迎え撃つ気だ。
「遅い!」
槍だけでは無く様々な形状の武器を取り出し臨機応変に仕留めていくスカサハ。
水着を着て浮かれていようと、その力は影の女王そのものだ。
1匹、また1匹と貧弱なゴースト仕留めていく。
「っ!? マスター!」
――しかし、戦闘能力が高ろうとそればかりに集中していては護衛は務まらない。
背後からやって来たゴーストにあっさり捕まった俺は何処かへと持ち運ばれてしまった。
なお、俺は口を御札で封じられているので喋れないどころか体から一切の音が鳴らなくなってしまったらしい。
「っく! 邪魔だ!」
スカサハは消滅覚悟で突っ込み始めるゴースト達に足止めされ、その間にも俺は黒いカーテンの奥へと連れ去られた。
「……あれ、何処だここ?」
「ようこそおいで下さいましたご主人様!」
気が付けば暗い教室では無く和のテイストで飾り付けされた教室に運ばれていた。
「此処は和のコスプレ店、“浴間”で御座います」
「……先までお化け屋敷にいた筈なんだが……」
「清姫ちゃんに頼まれて悪霊を貸してあげたんです。お化け屋敷の悪霊はぜーんぶ私が作った使い魔です」
「……まさか」
「はい! これを利用して清姫ちゃんからマスターを奪いました」
タマモは上機嫌だが、今頃お化け屋敷は大変な事になっているだろう。スカサハも清姫も。
「ご安心を。清姫ちゃんはマスターのカードにスタンプを押してませんから自分の店から出られませんし、スカサハさんは今頃マスターの幻覚を見せ続け、悪霊と戯れています。
例えスカサハさんが来ようとも、こちらには心強いメディアさんがいますから!」
「アサシンが相手なら問題ないわ」
……フラグにしか聞こえないが、余計な事は言わない事にしよう。
「それではマスター、スタンプカードを出して下さい」
「? ああ……?」
タマモに言われるままカードを取り出したが、何か違和感を感じた。
「ポン、と!」
タマモはカードにスタンプを押した。
「さぁマスター、早速花婿衣装と殿様衣装を着ましょう!」
「和服姿のマスター……」
危ない雰囲気のタマモとメディアにそう言われるが、スタンプを押して貰った以上此処にいる理由も無い。さっさと店から出よう。
「さあ、あちらが試着室になります!」
デカイ。
指差されたのは1人だけで入るサイズでは無い試着室。どう考えても2人も一緒に入室する気だ。
「いや、俺はまだお化け屋敷を回り切って――」
店から出ようとする俺の意志とは裏腹に、足は試着室へ向かう。
まるで何かに操られているみたいだ。
「マスター、気付いてませんか?
下の階から上の階までマスターをお連れした悪霊、マスターの体に取り憑いてますよ?」
「っ――!」
自覚した途端、意識が体から隔離された様に感じ始めた。
タマモに言われた通りにすんなりと体が動くからおかしいとは思っていたが、俺の意思で話す言葉以外の全てが操られている。
「それではマスター、たっくさん服を見積もって上げますからね」
「ああ、先ずはどれに致しましょう?」
「あらあら、メディアさん? マスターの着替えは店長の私の仕事ですよ?」
2人が言い合っている間にも体を動かそうとするが、手応えを一切感じない。
「良いですか? お客様に何かあったら店長である私の責任です。ですので定員では無く私がその責務を果たします」
「いえいえ、店長がお客様の試着のお手伝いをするなんておかしいでしょう?」
店員だろうがバイトだろうが試着の手伝いは絶対しない。服の着方を知らない子供にならまだ納得だが、それならその子の親がやる。
やれやれと、俺は試着室の中で頭を抱えた。
「……!」
腕が動いた。体の自由が戻ったみたいだ。
「ですが――!」
「――だから!」
今の内に出て行きたいが、このまま出て行くだけでは間違いなく試着室の前で喧嘩している2人に捕まる。
都合良くスカサハが救出にくればいいのだが、それを待っている間に2人の喧嘩が魔術合戦にでも発展すれば色んな意味で危うくなる。
「分かりました。ならばこうしましょう。マスターの試着を手伝ったら文化祭を一緒に見回るのは無しです」
「なるほど……ですが、マスターの生着替えならそれを代償にしてでも一見の価値があります」
外では俺のSAN値を減らすだけの交渉が行われている。自分の生着替えとか言われると背中が痒くなるなんてレベルじゃない。胃がムカムカする。
「そうですか……分かりました。ではそちらにお譲りします」
交渉が終わったみたいだが、こちらは良い手が浮かばないままだ。
「さあマスター! 早速、これに着替えて頂きます!
勿論、下着は全部脱いで褌に着替えて――」
「待て待て待て! それ絶対邪な考えがあるだろ!」
女性の前で下を脱げとか唯の羞恥プレイだ。
「恥ずかしがる事はありません。此処は試着室です」
「目の前に人がいれば恥ずかしいに決まってるだろ!」
メディアの手が伸びる。体の自由は効いているし、逃げるなら今しかない。
「やっぱり駄目です!」
が、逃げようとカーテンを潜ろとした俺に向こう側から何かがぶつかって来た。
「マスターの裸が私以外の女に見られるなんて想像するだけで堪忍袋が切れそうです!」
タマモだ。最悪な事に試着室の入り口を阻む形で侵入してきた。
「もうこうなったら理屈抜きです! 力技でマスターを我が手中に収めます!」
『そこまでだ』
すると何処からともなくアヴェンジャーの声が響いた。
『文化祭の風紀を乱す“浴間”は閉店とする! 他店の客を力づくで奪った罰だ!』
「ちょっ――」
無情にも教室は閉められ“浴間”の看板は消え去った。
閉店と同時に俺だけ外に出されたが扉の窓を見れば教室の中から扉を叩き続けるタマモとメディア。
「普段だったら絶対干渉しないのに……」
今回ばかりはアヴェンジャーの本気具合に助けられた。
『……揉め事やトラブルもまた、文化祭か……』
どんだけ楽しみだったんだよ……と思いつつ、俺はお化け屋敷に戻った。
「……見つけた、マスター。見つけたぞ、マスター」
「消えませんよね? もう消えたりしませんね?」
戻ってきた途端、スカサハと清姫に抱き着かれ……では無く泣き着かれた。
俺がいなくなって相当不安だったらしい。
「もう放さないぞ……一緒にいろ」
「もう脅かしたり致しませんから……私をお許し下さい……」
お化け屋敷は見るも無残な変わりようだった。
そこら中に赤い槍が刺さっており、飾りの墓石は真っ二つに切り裂かれている。
更には武器が刺さったまま絶命寸前で絞り出したような悲鳴を上げるゴーストもいる。
壁に貼り付けられたり、床に突き刺さったままだったりと見てて哀れに思えてくる。
「マスター、マスター……」
「マスター……」
それ以上に哀れなのがこの2人。まるで生気が感じられない。
スカサハは放さないと言っているが、俺が少し本気で抵抗すればすんなりと逃げられるだろう。普段の慧眼は暗闇で濁って見える。
清姫に至ってはお化け屋敷の衣装である白い着物がまるで患者の様で、支えてないとその場に倒れそうな程に弱っている。
「だ、大丈夫? と、とりあえずちょっと失礼……」
「どこを触られても清姫は受け入れますから、いなくならないで下さいまし……」
清姫の首から掛けているスタンプをスタンプカードに押した。
これでこのお化け屋敷はクリアだ。
「と、兎に角コレで清姫も出れるよな? まだ行ってない喫茶店もあるし、そこに行こうか?」
「マスターが何処かへ行くなら私も行く……」
「お、置いて行かないで下さい……お願いします、お願いしますお願いします」
弱々しいスカサハの手を握りつつ、倒れそうな清姫に肩を貸した。
「――! 先輩! いらっしゃいま……なななんですかその状況!?」
「すいません、6名のテーブル用意できる?」
1階の最後の喫茶店、マスター喫茶。
サーヴァント達が魔術礼装を着ている喫茶店の様だ。
スカサハの手を握り、清姫を肩で運んでいる俺にアトラス院の礼装を着たマシュが驚いた様だが、座らないと瞬間強化の効果が切れて清姫を支えるのが困難になるので早くして欲しい。
「こ、こちらになります……」
案内された席の奥へとスカサハを座らせ、その隣に座り、清姫を俺の左隣に座らせた。
「6名と言ってましたが後3人はどちらにいらっしゃいますか?」
メモを手に持ったマシュの頭には帽子、短めのスカートに太ももを隠すニーソ……メガネも普段使っているだけあって似合っている。
だが、アトラス院なので下には何も着けてない可能性が……
そこまで考えると急に左右から悪寒を感じたので止めた。
「いや、2人がこんな状態だから3人が隣り合って座れる席が欲しかっただけだ」
スカサハは手を放す気は無さそうだし、清姫は俺から放れれば発狂しても可笑しくない。
「そうですか……ご注文は?」
「2人は……答える元気も無さそうだなぁ……」
取り敢えず2人に元気になってもらわないと不味いな。
「何か元気になる物はある?」
「元気になる物…………甘い物、でしょうか?
それなら封印指定のフレンチトースト、ムーン・ロールケーキ、森盛フルーツポンチ……等がおすすめです」
「じゃあそれ1品ずつ。あと、飲み物は?」
「オーダーソーダ、スナイパーブラック、フェイクオレの3種類ですね。
スナイパーブラックはブラックコーヒーで、フェイクオレはカフェオレです」
「じゃあオーダーソーダ3つで」
「かしこまりました。直ぐに持ってきますね」
さて、注文が来るまでの時間潰しに今回は誰が来る?
出来ればこの2人を刺激しないで欲しい。
「マスター、ご機嫌よう」
……わぁ、接待のプロ……って言うかその服絶対サイズ合ってませんよね?
その服そんなに胸元開ける服じゃないですよね?
「マタ・ハリ……」
「ふふ、お相手いたしますね?」
魔術礼装・カルデア。
俺が着ている礼装の女性版を着て現れたマタ・ハリだが、その豊満なバストは胸部分の上下に付いたベルトでは留め切れなかったようで、上のベルトは外されている上に谷間は丸見えだ。
「っ!」
清姫に肩を抓られた。
「私も……お相手致します……」
そう言ってマタ・ハリの隣の席を1つ空けて座ったのは静謐のハサン。
着ているのは、月の海の記憶。言ってしまえば学校の制服だ。
容姿の幼さから後輩の様な雰囲気を醸し出している。
首元の青のリボンがマッチしており、この礼装の標準装備の黒いニーソでは無くあえて色黒い足をそのまま見せているのもポイント高い。
「に、似合ってるでしょうか……?」
「ああ、似合ってるっ――!」
スカサハに掌を抓られた。
「そ、そうですか……? 嬉しいです……!」
「さぁマスター、注文が来るまで、私達が相手をしてあげるわ」
「……両手塞がってますけど」
右手はスカサハが強く握っており、左手も清姫が両手で抑えている。
「ではポッキーゲームを……」
「ごめん、そのネタ過ぎた。後そういう系は飲食店で殆ど毎回やってるから」
俺が丁重にお断りする。静謐はメタの意味が分かっていないのか首を掲げた。
「むー……向かいにいると接客も満足にできませんね。
……悔しいのでポールダンスとストリップショー、どちらかを披露したいのですがいいのでお好みな方を選んで下さい」
「あ、ダンスなら私も出来ます……」
「良いわね、コラボレーションといきましょう」
「死人が出ますのでやめて下さい!」
何とも良いタイミングでマシュが注文を手に帰ってきた。
「さあ、マタ・ハリさんも静謐さんも離れて下さい!」
「残念」
「マスター……またお会いしましょう」
離れていく2人。机の上には注文が置かれていく。
「オーダーソーダ3つに、封印指定のフレンチトースト、ムーン・ロールケーキ、森盛フルーツポンチです」
「ありがとう……2人も、手を放して、な?」
頼むとあっさり手を放してくれたので取り敢えずフルーツポンチを手に取り、スカサハへと運んだ。
「ほら、食べて。あーん」
「あー……」
スプーンで掬い上げたカットされたバナナとパイナップルをスカサハは食べた。
「清姫も、ロールケーキだよ」
「あー……ん」
良かった。2人共スイーツを食べる元気はまだあったみたいだ。
「マスター……ロールケーキ」
「はい、ロールケーキね」
ボソとスカサハに呟かれたのでロールケーキを突き出した。
「フルーツポンチ、欲しいです……」
「ほら口開けてね」
今度は清姫にフルーツポンチを運んだ。
「「次はフレンチトースト、口移しで」」
「お前ら、もう元気だろ?」
どうやら甘やかし過ぎたみたいだ。
「マスターが、思いの外優しくしてくれたのでな」
「ご主人様の深い愛を感じまして、この清姫、惚れ直しました」
そんな恍惚な表情で言われても……
どう対処するか悩んでいるとマシュが此方に手を振ってきた。
「先輩、スタンプ押しますね?」
マシュは俺のスタンプカードを受け取るとそのまま押した。
「では、誰が先輩と文化祭を回るか決めてきますので、ゆっくりして行ってくださいね」
マシュも離れていき、俺は頼んだ物を食べ始めた。
「封印指定のフレンチトースト……悪魔のフレンチトーストと言われる蜂蜜と砂糖のトーストに生クリームを追加した凶悪なシュガーモンスターだな」
「ムーン・ロールケーキはスポンジがバニラ、クリームはカスタード……む、カスタードの中にホワイトチョコが仕込まれてますね」
「森盛フルーツポンチは……うむ、何度も食材を取りに行ったイベントクエスト周回を彷彿させるな」
最後にレモン汁の効いたオーダーソーダを飲み干して、口の中をさっぱりとした後味で流してから席を立った。
「む……マスター、私は店に戻る。どうやら時間が来てしまったようだ」
自由時間に制限があった様で、スカサハは足早に俺から離れる。
「“姉喫茶”はお前を何時でも待っている。用があればいつでも来い」
それだけいうとエプロンに着替えたスカサハは教室へと消えていった。
「さあご主人様? お次はどこに致しましょうか?」
だが、まだ一番のヤンデレは残っている。
やっぱりですね、ヤンデレを書いているか不安になります。
血の入ったチョコと名前にブラッディって付いているワインを混ぜたチョコ位違う物を書いているじゃないかと思うですよ。
……因みに自分的には『っく……殺せ……! オルレアン編』のマルタの話が一番ヤンデレっぽい気がする。