ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
コタツでFGOばかりやっていないで、しっかり寒さ対策をしてポケモンGOをして体を動かしましょう。
「ゴッホ! ゴッホ!」
口に手を当て咳をする。
冬の訪れを前に風邪を引いてしまったようで、今日は学校に行かずにベッドで体を休めていた。
体がダルい。顔が暑い。鼻水もそこそこ。
この状態の俺にエナミが何を仕出かすか分からないので帰りに俺のクラスからプリントを取ってくる様に頼んで学校に向かわせた。
「さっさと薬飲んで寝よう……」
机に置かれたコップ一杯の水と薬を飲み干し、俺は体をベッドに預けた。
「さあ! 私の初仕事ね!
あの気に入らない男を、どう恐怖のどん底に突き落としてやろうかしら?」
『――』
「ん? システムメッセージ?」
『対象の体に異常アリ。ヤンデレ・シャトーはエドモン・ダンテスの良心設定、“看病モード”へ移行します。
なお、このモードでは司会役は不要です』
「な!? ちょ、ま、待ちなさい! 私の初登場よ!? システム、ストップストップ!」
『システムの変更にはパスワードが必要です。パスワードを入力して下さい』
「エドモン・ダンテスゥゥゥ!! 私の初登場を返しなさぁぁいぃ!!」
『エドモン・ダンテス、私の初登場を返しなさいは間違っています。
再度パスワードを入力して下さい』
「うーるーさーいー!」
『うるさいは間違って――』
「……ゴッホゴッホ……ゆ、夢の中でも体がダルい……」
今日も容赦なくヤンデレ・シャトーが訪れた。しかし、初期位置のマイルームのベッドから体を動かしたくない程体の具合は悪い。
「マスター、大丈夫ですか?」
早速誰かやって来た様だ。
ダルい頭を動かすと、ライダーのサーヴァント、聖女マルタが入ってきた。まだこちらに気付いていない。
「……」
寝たフリをしてスルーしよう。とてもヤンデレの相手をしていられる状態じゃない。
「寝てるのかしら?」
控えめな足音が近付く。しばらくすると音が消え、別の耳障りの良い小さな音が聞こえ始める。
近くにいるのは分かるのでそっとを目を開いて、何をしているか観察しよう。
「……あら? 起こしてしまったかしら?」
直ぐ目が合った。
ベッドの横の椅子に腰掛けて林檎の皮を向いていたマルタは優しい声で話す。
「……いや、大丈夫……眠れなかった」
「そう……林檎、食べる?」
林檎の刺さったフォークをこちらに向ける。
「……欲しい」
「はい、あーん……」
マルタはそっとフォークをこちらに向ける。俺はそれを頬張った。
「……マスター、自己管理はしっかりしないさい。他の誰でもない貴方の体なのよ?」
「はい……んぐ」
説教をしながらも次の林檎が口へと運ばれる。いつの間にか口調が素になっている事に本人は気付いているだろうか?
「情けない姿を見せて……これで敵に襲われたらどうするの?」
「……はい」
林檎はもう良いと手で止めると、皿を置いたマルタは俺の体を抑え、そっと寝かせた。
「やっぱり……隔離……私が管理――」
「――ゴッホ、ゴッホ! ごめん、何か言った?」
「う、ううん! 何でもないわ……ないです」
俺が咳をしている時にマルタが何か言っていた様だが、今回は本当に聞こえなかった。
「ちょっと用事が出来ました。
マスター、しっかり体を休めて早く治しなさい」
マルタはそれだけ言うと足早に部屋から出ていった。
どうやら今日はヤンデレでは無いらしい。良かった。
「マスター、風邪になったんだってね。大丈夫かい?」
次に見舞いにやって来たのはセイバーのサーヴァント、デオン・シュヴァリエ。
「まあ、寝てれば治るよ……」
「……私に何かして欲しい事はあるかい?」
「じゃあ、濡れたタオルが欲しいなぁ……冷たいの」
「分かった。直ぐに用意しよう」
そう言うとデオンは風呂場から洗面器を取り水を注ぎ冷凍庫から氷を入れ、タンスを開いてタオルを取り出すと小さく畳んで洗面器の中に入れた。
それをよく絞ってから俺の額に置いた。
「ありがとう」
「礼には及ばない。マスターの体を気をつけるのも従者の仕事だ。
所で、どこか痛い所はないかい?」
俺は自分の喉を指差した。
「喉が、少し痛い……」
「そうか……この部屋にハチミツは無いし……待ってて、喉に良いお茶を用意するよ」
デオンはそう言うとマントを揺らしながら部屋から出て行った。
「……こういう時に見舞いがあるって……嬉しいな」
俺は柄にも無く見舞いに来るサーヴァント達に感謝した。
「マスター! 風邪と聞きましたが、ご無事でしょうか!?」
「だらしないトナカイめ。さっさと治してクリスマスには間に合わせろ」
今度は一度にアルトリア・リリィとサンタのアルトリア・オルタがやって来た。
「ゴッホ! あはは……大丈夫、寝れば明日には治るから」
「そうですか……? あ、タオル交換しますね」
リリィは俺の額のタオルを取ると洗面器に入れて絞り、再び俺の額に置いた。
「情けないな……どれ、元気になるプレゼントをやろう」
そう言ってアルトリア・サンタは袋から1枚のカードを取り出した。
概念礼装、“好機”だ。
「……」
「む? どうした? 完治を願っているぞ」
「……うん、あ、ありがとう……」
要らないプレゼント貰った時の気持ちである。
「冗談だ、安心しろ。そんな安物をマスターにやるわけがあるまい」
そう言ってアルトリア・サンタは袋を漁る。
「これか」
渡されたのは、“黒の聖杯”。
「ナンデェー!?」
「風邪を治すように聖杯に頼め」
「これに頼んだら、死ねば風邪が消えるよね? って感じに殺されるだろ! っはぁ……っはぁ」
「マスター、落ち着いて下さい!」
いかん。ツッコミに力を入れ過ぎて無理矢理体を起こしてしまった。
リリィが慌てて俺を寝かせ、床に落ちたタオルを拾うとトイレに向かった。汚れたタオルを洗いに行ったらしい。
「……そんなに私のプレゼントが気に入らないか……」
少なくとも“黒の聖杯”は健康的でもなければ幸福や善良性の欠片もない。
「仕方あるまい。出直すとするか……リリィ、行くぞ」
「あ、ま、待って下さい!」
どうやら拗ねてしまった様だ。
去っていくアルトリア・サンタの後ろに着いて行こうとリリィは慌てて俺の額にタオルを置いて去っていった。
「そういう訳で、トナカイを治してもらいたい」
「えぇっと……?」
「……白い方を連れてくるか」
アルトリア・サンタが連れて来たのはキャスターのサーヴァント、アイリスフィールだ。聖杯の力をその身に宿している。
「ごめんなさい、此処で治すと後で悪影響があるかも知れないから……」
今治してしまうと現実世界で体は風邪のまま、精神的には完治というあべこべな状態になるかもしれないらしい。
「使えんな……」
アルトリア・サンタが顔をしかめていると扉から誰かが入ってきた。
「マスター、悪いモノを払える聖水を――どうやら、正拳の方が良いみたいね……」
聖水が入った瓶を持って来たマルタは先客を見つけると目を細めた。
聖女的にオルタはアウトらしい。
「貴方! なんてハレンチな恰好なの!?」
「え!? わ、私!?」
――と思ったが狙いはアイリスフィールの様だ。
「アウトよアウト! そんな衣を身に纏っておきながら胸当ても着けないなんて聖女として見過ごせないわ!」
マルタはアイリスフィールを取り出した縄で縛って引っ張ると部屋から出て行った。
「……仕方あるまい。私のプレゼントはどうやら貴様には無用の様だし、とっておきをくれてやろう」
まるで何事も無かったかのようにそう言ってアルトリア・サンタは袋をその場に下ろした。
「私が直々に添い寝してやろう」
アルトリア・サンタは違和感を感じさせない自然な動きでベッドへと――
「――いや、何でだよ」
むしろ違和感しか無かったので毛布を取ろうとしたアルトリアの腕を掴んで止めた。
「トナカイ、これは治療行為だ。体を温めるのに人肌は最適だ」
「毛布があればいらないだろ――!?」
俺がそう言うと、何かが破ける音がした。視線を動かせばアルトリア・サンタの握った部分から毛布が破けていた。
「……ふむ、どうやら、破けてしまったらしいな」
「……もう好きにしろよ」
疲れてしまった俺は観念した。どうせヤンデレでは無いんだし、あんまり拒んでも仕方が無いと思い、そっぽを向いた。
「では……」
毛布は剥ぎ取られ、アルトリア・サンタは俺の横に寝転がった。
「……じー」
顔を合わせない。
しかし、後頭部に視線が送られているのはよく分かる。
「じー……」
と言うか、見ている事を態々口で擬音として伝えているのだ。
「……ふぅー」
「うぉ!? 何!?」
急に耳に直接息を吹きかけられ無視する訳に行かなくなった。
「いくら私がサンタでも流石に隣で寝ているのに無視されれば傷付くぞ?」
そう言ってアルトリア・サンタは自分に体を向けた俺を逃さない様にガッチリ捕まえて来た。
「ずっと抱き締めて温めてやろう」
「……」
疲れたせいか、丁度いい体温だったせいか、俺はアルトリア・サンタを何も言わずに抱き締め返した。
「そ、そんなに気に入ったのか……?
ならば、思う存分抱き締めろ。今だけは、私は貴様の抱き枕だ」
「マスター!?」
忘れた頃になんとやら、マイルームに入ってきてアルトリア・サンタと一緒に寝ていた俺を見て、デオンが悲鳴に似た声を上げた。
「そこのアルトリア、何をしている! マスターは病人で!」
「マスターの毛布が破けてな。代わりにこの体で温めてやろうと添い寝をしていた」
デオンの手は剣の柄に重ねられていたが、デオンは一度深呼吸するとこちらにやって来た。
「マスター、喉に良い紅茶だ。飲んで欲しい」
渡されたカップには蜂蜜とレモンが香る紅茶が注がれていた。
「あ、ありがとう……」
やはりサーヴァント達が優しいのに少し違和感を覚えるが、嬉しい事だ。
ゆっくり飲み干して、カップを返した。
「……何か、ボーッとしてきた」
「安眠効果があるからね。
みんなが見舞いに来るから、ちゃんと寝れてないんじゃないかい?」
そう言えば先から一睡も出来てないな。
「アルトリアも、大人しく彼を寝かせてあげないと……」
「……仕方あるまい」
アルトリアがスッと離れる。人肌の暖が無くなった俺にデオンは新品の毛布をかけた。
「それじゃあ、おやすみ」
「しっかり寝ろ」
「うん、ありがとう……」
「ファリア神父!」
『――パスワードを確認、管理者と認識いたしました』
「アイツ、どんだけファリア神父が好きなのよ!?
本名、肩書、誕生日が違った後にファリア神父の発音に30回もダメ出しされるとは思わなかったわ!」
『現在、“看病モード”が実行されています。行えるのは難易度の変更とそれに合わせた登場サーヴァントの変更です』
「何これ、本当に良心設定ってワケ?
難易度イージー……マスターの前では自重するレベル、喧嘩はしても殺し合いには発展しない。マスターへは絶対に殺傷行為は行わない……登場サーヴァントも、聖女や騎士、サンタみたいなマスターに友好的な奴らばかりね」
ジャンヌはニヤリと笑うと低く設定されていたパラメーターを上げ始めた。
「難易度ハード! 登場サーヴァントは危険度最大! 幸せ気分で呑気に寝てるみたいだけど、これで地獄を味わうと良いわ!」
『難易度の上昇により、制限時間を変更しました』
「先輩、御見舞に来ました……
寝てるみたいですね」
小声と共にマシュが入って来たようだが、例の悪夢内睡眠状態の俺は返事は出来ないし目も開けられない。
「既に誰かが額にタオルを置いてますね……
余計な真似を……洗面器ごと変えておきましょう」
僅かな水音に、開閉音。氷が割れた音が響く。
「さあ先輩、私の用意したタオルです。これでしっかり熱を取って下さいね?」
冷たい感覚を頭で感じる。マシュは隣に座って待機している様だ。
「……日本の看病は林檎の皮を剥いでウサギの形にして食べさせたり、お粥を振る舞うそうですが、寝ているとそれが出来ませんね」
どうやら独り言の様だが、聞けてしまっている俺は僅かながら気不味い。
「添い寝……なんて治療行為もあるそうですが起こしてしまうと逆に風邪の治りが遅くなってしまいます」
独り言……にしてヤケにはっきり聞こえる音量だ。
「空気の入れ替えも重要です。悪い空気は治りを遅くするどころか、免疫力低下中の先輩に更なる負担が掛かります」
声は聞こえるが、向けられている方向は俺ではなく、部屋の奥にいる俺にとって反対側……つまり、ドアに向けて喋っている様だ。
「ですのでお粥はいりませんし、爬虫類の体表と人肌で添い寝する必要もありません。毒なんて以ての外ですよ、清姫さん、静謐さん」
ドアの開閉音が聞こえると同時に、俺の意識は現実へと戻された。
「難易度変更で時間が短くなるなんて聞いてないんだけど!?」
『“看病モード”の仕様です』
「変な所で終わっちゃったじゃない! 修羅場一歩手前で終わる愛憎劇なんて誰も見ないわよ!」
『ご所望された設定通りです』
「私の出番は!? あの男を高笑いして出迎える役は!?」
『次回に続きます』
その後、ジャンヌ・オルタは顔を真っ赤にしながら偉そうにエドモンから取扱説明書を貸して貰い、ジルを呼び出して解説を頼んでも理解出来ず、更に顔を真っ赤にしてエドモンに解説を求めたとかなんとか……
「先輩、風邪は治りましたか?」
「まだ……5時間しか寝てねぇし。て言うか、何でもう家に居る?」
「早退しました! プリンとプリントはこちらになります!」
「言葉で分かり辛いモノをセットで持ってきやがって……」
「ヤンデレっぽく料理してあげたいですけど、素で流血沙汰になるんでやめました!
でもでも、添い寝だったらお任せ下さい!」
「いらない……」
俺は逃げる様に目を閉じた。
「今なら先輩を縄で縛っちゃったり出来ますね!」
やっぱり看病はヤンデレじゃなくて普通に行って貰いた――
『やっぱり……隔離……私が管理――』
“マルタはアイリスフィールを取り出した縄で縛って引っ張ると部屋から出て行った”
「先輩の下から2番目のタンスにある下着をオカズとして持ってたり……」
ヤンデレ、じゃなくて――
“デオンは風呂場から洗面器を取り水を注ぎ冷凍庫から氷を入れ、タンスを開いてタオルを取り出すと小さく畳んで洗面器の中に入れた”
『そうか……この部屋にハチミツは無いし……』
……今回も、ヤンデレだらけだったんだな。
クリスマスプレゼントは清姫・サンタ・アダルト・ライダーとか言う最強ヤンデレ彼女が欲しいです。
あ、ガチャは15回回して爆死したんで追加キャラ無しです。