ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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クリスマスイベントが始まったと思ったらもうバビロニア!
只今、ギルガメッシュに褒められた辺りで止まっています。
なお、ガチャはストーリーもクリスマスも爆死したので新キャラはいません。(泣)


ヤンデレと指輪

 

 

「――此処がサーヴァント達の愛情度の設定だ。各サーヴァントごとに愛情深度、偏愛傾向を設定できる」

 

「なるほど……ここを弄れば良いのね!」

 

「言っておくがこのサーヴァントは本物では無く、カルデアにいるサーヴァントを元に、こちらで色々弄った……謂わばそれらしい自己を持った物でしかない。

 調子に乗るのは構わないが、こんなもので万能感だの優越感だのに浸り過ぎるなよ?」

 

「ええ、大丈夫よ! さあ、あの男をどう苦しめてやろうかしら!?」

 

「それでは、俺は此れで失礼する」

 

 エドモンが去った後、早速アヴェンジャー、ジャンヌ・オルタは設定を弄り始めた。

 

「モードは……ヤンデレ・シャトーで行こうかしら? あの男を苦しめるのに相応しいシナリオは…………」

 

 普段の何倍も集中して空中に浮かぶパラメーターを見続け、考え続ける。

 

「……! この設定よ! これなら、あの男だけじゃなくて他のサーヴァント共にも復讐出来るわ!」

 

「おい、ここで余り煩くするな。読者に聞こえるだろ」

 

 エドモンの注意にも機嫌を損ねず、ジャンヌ・オルタは設定を練り続けた。

 

 

 

「最近はすっかり来なくなったなヤンデレ・シャトー」

 

 鞄に文房具を入れつつそう呟いた。

 

「俺としてはちゃんと睡眠できるから良いんだが……

 もしかしてエドモン、病み上がりの俺を気遣いでもしたか?」

 

 あいつ結構常識人だからな、と思いつつも時計を見る。もう寝る時間だ。

 

「っ……フラグ回収の早い事で……」

 

 しかし、ベッドに寝っ転がった俺の背中に、安らぎと共に悪寒が走る。

 悪夢の中で清姫が急に現れた時に感じたりするモノと同じだ。 

 

「……なんだろう……なんか、ヤバイものが来そうな予感が……いや、いつもの事だ……寝よう」

 

 体は震えるが睡眠は必須だ。

 体は恐怖を覚えたまま睡魔に誘われ、悪夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

「漸く来たわね!」

「チェンジで」

 

 俺の前にはもう1人のアヴェンジャー、ジャンヌ・ダルク・オルタが立っていた。最近はサンタだのリリィだのが追加されたが一番ポンコツな方のジャンヌだ。

 

 そして、ある意味マスターを一番憎んでいる英雄でもある。

 何せ初生では敵として戦い、誕生の時も敵として戦ったのだから。

 

「残念、エドモン・ダンテスなら今は休暇中。

 この情け容赦の無い復讐者、ジャンヌ・ダルク・オルタこそが、貴方を地獄に送る案内人よ!」

 

 ジャンヌ・ダルクは黒い旗を縦に持ち、堂々と宣言した。

 

「さあ、恐怖しなさい。貴方を苦しめる為に考えた、この私がプロデュースした最狂最悪のヤンデレ・シャトー……!

 (トゥルー)・ヤンデレ・シャトー 破滅の婚約者(ブラッディ・マリッジ)

よ!!」

 

「…………」

 

 ドヤ顔をキメるジャンヌ・オルタ。

 

 なんてこった。エドモンがこんなに恋しくなる日が来るなんて。

 

「最狂にして最凶のサーヴァントを用意したわ! 更に、貴方には婚約者がいる設定よ! 全員が貴方の薬指を切り落とすつもりだから、覚悟する事ね!」

 

 リアクションが取れない俺に、情報だけが募っていく。

 ジャンヌ・オルタが旗を振るうと俺の指に婚約指輪が着けられた。

 

「今だけ外せるわ。外して指輪に刻まれた文字を見てみなさい」

 

 細かい所まで練られた私の設定を見てちょうだい……って事ね。

 どれどれ……

 

「K・K & J・d'A・A・S・L……

 どっかで見た事あるぞこの中点の数」

 

「ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ……よ!」

 

 それを聞いた俺は小さく呟いた。

 

「……過去の自分自身だって分かってる……訳ないよな? 黙っておこう」

 

「さあ! さっさと苦しんでくると良いわ! 醜くて無様な逃走劇を、血で染められた愛憎劇を、私に見せなさい!」

 

 婚約指輪が再び嵌められ、抜けなくなった事を確認した俺の視界は歪み始めた。

 

 

 

「――!」

 

 最初に感じて、今も感じているのは悪寒だけ。

 

 どうやら既にサーヴァント達は結婚指輪の事を知っているらしい。

 ならばこちらに近付いてくるのは間違い無い。

 

(逃げる……のは駄目だ。それでは後で言い逃れも言い訳も出来無くな――)

 

「――っんー!?」

「んっちゅ……ん」

 

 まるで見えなかった。気が付けば唇を奪われ舌が口内を貪られていた。

 

「……っぷはぁ」

 

 こちらに気付かれずに接近しキスまでした相手は、高い気配遮断スキルを持つアサシン、静謐のハサン。

 

「……はぁ、はぁはぁ……」

 

 俺の体に僅かに熱が灯る。またしても口内に媚薬を塗りたくられたらしい。

 だけど、前とは違って直ぐに理性が溶けていく即効性は無い。

 

「……? 効き目が悪い?」

 

 彼女も首を傾げている。恐らく今までどんな相手も一度で仕留めてきた彼女にとって薬の効果に違いがあった事は無いのだろう。

 

 マシュの加護と今嵌められている指輪から感じる魔力の影響かもしれない。

 

「マスター……その指輪、外して下さい」

 

 拒否させるつもりの無い静謐は刃物を取り出すとそれを見せつける様に構える。

 

「出ないと……その指、切り裂きます」

 

 この指輪は外せない。

 どんなに頑張って引っ張っても外れないし、それを見せてもヤンデレからしたら葛藤し葛藤し幾ら待っても指輪を外さない男にしか見えないのだろう。

 

「さぁ、マスター……!」

 

 動かない俺に刃物を近付ける静謐。

 

 普段の彼女は決してマスターを望んで傷付けたりはしないし、この場合、精々ジャンヌ・オルタ・リリィを狙う筈だ。しかし、現状俺しかいないし、何より普段より暴走しているのは火を見るより明らかだ。

 

「……」

 

 指輪を外す動作すらせずに黙って彼女を見る。

 

「……ぅして……?」

 

 小さ過ぎてほとんど聴こえない呟き。

 

「……どうして!? どうして外してくれないんですか!?」

 

 虚ろな目に怒りを灯した静謐は刃物をこちらに向け、刺した。

 

「っう! っぐ……!」

 

 急所を避けて、だが倒れながらなるべく痛そうに苦しむ。

 そう考えていたが、その必要がない程に裂かれた腕は痛かった。

 

「あ……ぁ……!!」

 

 静謐は怒りに任せて向けた刃物で傷付いた俺を見て、ショックで言葉が出ない様だ。

 

 もし先の一撃で俺が死んでいても同じ反応をしていただろう。

 彼女にとって俺という存在は大きい。何せずっと願っていた触っても死なない人間だ。

 

「ごめん、なさい……!! 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! ん、レロレロ……」

 

 涙目で焦り恐怖し始めた彼女は俺の傷口を舐め始めた。これは医療行為ではなく、犬が腹を見せて服従を誓うのと同じ絶対服従の意思を込めての謝罪だ。

 浅い切り傷だったが、右手首から腕まで切り裂かれ、血が床まで流れている。

 

 痛みと指輪の魔力で媚薬が効かないので傷口を舐められるのは問題無いが、染みて痛い。

 

「大丈夫、だから――」

「――まあ大変」

 

「ひっぐぅ!?」

 

 静謐を抱き締めて安心させるつもりだった俺の背後から弓矢が飛んできた。

 

「マスターが襲われているわ。大丈夫?」

 

 正確に静謐の足を貫いたのはアーチャークラスの女神、エウリュアレ。

 足に刺さった矢の痛みに苦しみながらも静謐は俺を抱き締める。

 

「……わ、渡しません……!!」

「邪魔よ」

 

 近付いたエウリュアレは弓矢を俺に向ける。

 

「マスターは、コレで私の物に戻るのよ」

 

 目と鼻の先から放たれた弓矢。魅了効果のある矢が俺の額に当たった。

 

 ……しかし、いつもとは違い、恋も信仰心もまるで何も湧いてこない。

 

「……さあマスター? 貴方が愛しているのは誰かしら?」

「勿論、女神様でっぐぅ!」

 

「マスター!?」

 

 普段の調子で返事をした筈だがエウリュアレは俺へ蹴りを浴びせた。その際、静謐から俺の体は離れた。

 

「……以前より声が低い、返事も数コンマ遅い……! マスター、私を愛していないわね!? 私を騙すつもりだったわね!?」

 

 エウリュアレは涙を浮かべつつも今までに見た事の無い怒りの表情を浮かべている。

 

「うっぐ……」

 

 その小さな足は今だ血が流れている右腕を踏み付けた。

 

「その忌々しい指輪のせいね!?」

 

 クリスマスに実用性重視のプレゼントを配っていたジャンヌ・オルタ・リリィの事だ。この婚約指輪には数多の加護が籠められているだろう。

 

「我慢ならないわ……! 貴方は私の物なのに!」

 

 エウリュアレはご立腹だ。今までどんな男でも虜にしてきた彼女にとっては屈辱だろう。

 その怒りは全て、踏み付けている俺の右腕を襲う。

 

「ぁうぁぁぁ……!!」

 

 痛みに襲われつつも頭の中で打開策を考える。

 指輪が外せない以上、彼女達との会話は不可能。かと言って素直に薬指切断はさせないし出来ない。

 

「マスター、私を愛しなさい」

 

 再び弓矢が放たれ、しかし、俺に触れる寸絶で矢は消える。

 

「愛、しなさい……! 愛しなさい愛しなさい愛しなさいッ!!」

 

 何度も何度も弓を離れ俺を貫こうとする矢。しかし、その全てが届く前に阻まれる。

 

「え、エウリュアレさん! それ以上は――」

「――煩い!」

 

 口を挟んだ静謐の足に、更に矢が刺さった。

 

「っあうぅ……!」

 

「マスター! いい、加減! 私の美に、染まりなさい!」

「ぐぁぁっがぁぁ……!?」

 

 更に踏み付けられた右腕の痛みは増していく。このままだと間違い無く骨が壊れる。

 

「……女神の嫉妬とは、見苦しいです、ね!」

 

 骨折を確信したと同時に、踏みつけていた足が消え、腕が自由になった。

 

「!? っきゃぁぁぁ!!」

 

 小馬鹿にした様なセリフと共に、エウリュアレはパラソルに薙ぎ払われて壁にまで吹っ飛ばされていたのだ。

 

「……静謐さんは、動けそうに無いですし、ほっときましょう」

「た、玉藻……さ、ん……!」

 

 現れたランサー、タマモは静謐をチラッと見ると構う必要が無いとばかりに俺へと視線を移す。

 

「マスター、直ぐに治療致しましょう」

 

 タマモは御札を俺の腕に貼る。

 傷が塞がり、流れる血も減っていく。

 

「失礼ですが私の部屋にご案内致します。本格的な治療はそちらで……」

 

 抵抗する力も残っていなかった俺は、ただ黙って頭を頷く様に下げた。 

 

 

「はい、治療はもう終わりましたよ」

「……ありがとう」

 

 タマモが何を考えているか分からない。

 確かに腕の傷も消え、痛みは無くなったがタマモの狙いは見えない。

 

「……ご結婚、おめでとうございます、マスター」

「あ、いや……そうじゃなくて……!」

 

 俺は慎重に言葉を選んだ。彼女の前で下手な嘘は吐けないが、そもそも結婚をしたのがこちらからしたら事実無根だ。

 

「これは、リリィの方のジャンヌに嵌められて取れなくなっただけで、別に結婚したわけじゃないんだけど……」

 

「……マスター、清姫ちゃんでは御座いませんが、嘘はよろしくありませんよ?」

 

 タマモ俺の左手を掴んで薬指の指輪をあっさりと取った。

 

「っ!?」

「ほら、簡単に取れたでしょう?」

 

 そう言うとタマモは素早く薬指に別の指輪を嵌めた。

 

「これで今度は……いえ、今からは私だけの旦那様ですね?」

 

 はめられた指輪から怪しい魔力が流れてくる。

 先と同じで引っ張っても指輪は外せない。

 

「その指輪は一夫多妻を禁じます。愛人だろうと浮気だろうと、一切許しません」

 

 タマモはそう言うと御札を人形に貼って等身大のエウリュアレに変身させると、俺にその人形を投げた。

 

「うぉ、っ――!?」

 

 

 

『ふふふ……マスター』

 その一言が耳に届いた後、俺の腹に三本の矢が貫通し、開いた穴から真っ赤な血が流れる。

 

 エウリュアレはそれをそっと指で撫で、口に入れた。

 

『マスター……とっても美味しいわ』

 

 

 

 目が覚めた、というよりも目の前に存在していたモノが取り払われた感覚だった。

 

「……っはぁ、っはぁ……!」

「怖かったでしょう?

 あれが他の女どもの本性です。マスターに擦り寄るのは好意だけが目的では御座いません」

 

 そう言ってタマモは人形を元に戻すと俺の手を掴んだ。

 

「ですがご安心下さい。

 タマモはマスターのお側でずっと守って差し上げますから、ね?」

 

 言いながらも指輪を撫でる。先の媚薬の効果が薄れてきたはずなのに体の体温が再び上昇する。

 

「あんなお子様とでは味わえない大人の魅力、たっぷりとお教えますね♡」

 

 婚約指輪とは名だけ、先のジャンヌのアレが夫の浮気をさせない為の足枷だとしたらこちらはペットに着ける調教用の首輪、どちらも俺を縛って管理する為の物だ。

 

「――そこまでです! 私のトナカイ、いえ、旦那様に何をする気ですか!?」

 

 ドアを破壊し部屋にやってきたランサー、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィだ。

 

「あれれ? ちゃーんと、結界や迎撃手段を準備していた筈ですが?」

 

「聖杯戦争に置いて、キャスターはハズレ扱いされている理由、ご存知ですか?

 私の対魔力はなんとA+! 宝具や神代の魔術ならともかく、ランサーに変革した貴方の安っぽい呪術に負ける事など万が一にもありません!」

 

「……抜かしますね。まだマスターのサーヴァントとしても英霊としても日の浅い小娘が……しかも私の旦那様を自分のモノにしようだなんて……」

 

 タマモの魔力が高まる。このままだと、ジャンヌ・オルタ・リリィが負けるのは目に見えている。

 

「皆さんが私に劣っているだけです! 戦闘の為に呼び出されたサーヴァント同士が牽制しあって、それでも互いで争わずにマスターに近付こうとする……

 結婚とは契約! 紙に名前を書いてもらえば、拇印を押せば、渡された指輪を嵌めて貰えればその時点で結婚成立です!」

 

 論理的でしょ? と自慢げだが、無茶苦茶しか言ってない。

 

「嬉しかったです……トナカイさん、私の渡した指輪をちゃんと薬指に嵌めて下さったんですから!」

 

 もう大体察しが付いた。

 きっと俺は指輪を渡されて、着ける素振りを見せないとジャンヌが泣き始めたから仕方無く嵌めたら抜けなくなったんだな。

 

「その指輪は今は私の元にあり、マスターの薬指には私の指輪が有る事は、知っているでしょう?」

 

「そんな物、直ぐに外せば良いだけです! その為に貴方を倒します! 優しいお兄さんと結婚したいと言う子供の夢を奪う悪い大人には消えて頂きます!」

 

「上等です! そんな生意気な夢から、すぐにでも目を覚まさせてあげます!」

 

 お互いに槍を構える2人。

 

 水着とサンタ服なのがシュールだが本人達は本気だ。

 

「はぁ、はぁはぁはぁ、はぁ……!」

 

 だが、俺の方は色々限界だった。体に燃え上がる熱、どうにかなりそうだ。

 

「……不健全ですね。私の指輪は浮気も発情も禁じる色欲封じの効果があったのに、貴方はマスターを発情させる上に他の女性と触れるだけでマスターにトラウマを見せる幻覚作用まで……これだから大人は不潔で乱暴なんです」

 

「子供のママゴトなら他所でなさい。こっちは初めから本気で添い遂げると心に決めているのです!」

 

 お互いの槍がぶつかる。しかし、体格差もある2人には差があり過ぎる。

 

「たぁぁぁ!」

「っちぃ!」

 

 ――と思ったが意外な事にジャンヌが少し優勢だ。

 タマモの鋭い突きを交わし、逆に踏み込んだタマモが距離を開けなければならなくなった。

 

「筋力も耐久も貴方に劣りますが、神殿作成に治療、大分魔力を使いましたね!」

 

 ランサーとなったタマモの魔力はキャスターだったとは思えない程に低い。Bランクのジャンヌの魔力でパラメーターの差をひっくり返される程に。

 

「どうでしょうか……ね!」

「っ!」

 

 タマモはパラソルで踏み込んできたジャンヌの攻撃を受け流すと、後ろに下がった。ジャンヌを誘っているのが分かるが、当の本人であるジャンヌはそれに気付かない。

 

 足が床に付いた瞬間、床に仕込まれていた札が発動される。

 

「っく、風が……!」

 

 札を中心に全方向から集った強風にリリィの動きが止まる。

 

「――受けやがれ! 日除傘寵愛一神!!」

 

 跳躍からの蹴り。斜めの角度から狙うのは急所のみ。

 子供だろうと一切の容赦はしない。

 

「っく――あぁぁぁ!」

 

 辛うじて手に握った武器を前に出して防いだ様に見えたが、見た目以外は宝具級の攻撃を前にジャンヌは後方へと吹き飛ばされ壁に激突した。

 

「あっぐぅ……」

 

「……ふうぅ……どんなもんですか!

 さあマスター、早速夫婦の営みを……」

 

 こちらを向いたタマモはそのままの態勢で固まった。

 

「だいぶ……楽になった……」

 

「冷蔵庫と冷凍庫を開けっぱとか、地球温暖化が加速してしまいます!?」

 

 未だに頭がぼーっとしている。

 こうでもしないとナニをしでかしてもおかしくなかった。

 

「焦らせてしまって申し訳ありません。早速夫婦の初夜を迎えましょう!」

 

 Yes枕を抱えたタマモはそれを放り投げると俺を冷蔵庫から放して俺をベッドへと連れて行く。

 

「っはぁぁぁ!」

 

 が、そうはさせないと槍が突っ込んで来た。ジャンヌ・オルタ・リリィが瓦礫を増やしながらも壁を蹴ってこちらに突っ込んで来た。

 

 タマモは跳躍して避けるとベッドに俺を置いた。

 

「っく! 流石に倒し切るとは思ってませんでしたが……!」

 

「これで終わりにします!

 優雅に歌え、かの聖誕を!!」

 

 ジャンヌが槍を掲げて歌い始める。 

 

 しゃんしゃんしゃん、しゃんしゃんしゃん、と子供らしい可愛らしい声が響き、上から何かが降ってくる。

 

 プレゼントだと思ったそれはタマモの周りで大爆発を起こし、俺の頭上から落ちてきた白い袋は覆い被さるとそのままリリィの元へと移動していた。

 

「さあトナカイさん、急ぎましょう!」

 

 袋越しで触れられているせいか例の幻覚は発動せず、発情させられてボーッとしている俺は只々運ばれるだけだった。

 

 

 

「これで良し……っと! 全く、タマモさんにはやはりモラルが足りませんね! 子供も多いカルデアで、こんな破廉恥な指輪をつけるだなんて、プンプンですよ!」

 

 外した指輪を破壊したジャンヌは自分の指輪をそっと付けた。

 

「本物の指輪は子供では手が届きませんが、加護の効果は本物です! 私がしっかり大人になるまで、トナカイさん、待ってて下さいね?」

 

 後ろで両手を組んで頼む仕草が可愛らしいが、俺は今の状況に大変な不満があった。

 

「……で、この首輪は?」

 

 俺は自分の首を指差した。

 

「子供の私がトナカイさんを管理するにはこれくらいが必要かと思いまして……

 でも大丈夫です! 健康管理から将来の事も、全部私が完璧に管理してみせます!」

 

 そう言うとジャンヌは手帳を開いた。

 

「トナカイさんに最適な睡眠時間は夜9時から朝6時です。カロリーの取り過ぎが見られるので食生活も見直します。

 男性フェロモンが高まると他の女性にモテてしまうそうなので…………さ、流石に……ほ、本番は無理です、けど! て、手で、適度に発散させて、しっかり管理させて頂きます!」

 

 子供にやらせる事じゃない。

 顔を真っ赤にしながら何か読み始めているジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィに不安を感じる。

 

「男性は発散させないと、体がそれを繁殖機能的に異常だと感じて、フェロモンを出してしまうそうです! 他の女の人、特に正しく育ったジャンヌ・ダルクが迫ってきたら、トナカイさんでもイチコロです!」

 

 あわあわと焦り始めるジャンヌ、多分そろそろ始めてしまうだろう。

 

「トナカイさんが! 急がないと、取られてしまいます!」

 

 暴走状態のリリィが迫る。小さな手が俺のズボンに迫った――

 

 

 

「――ストップ! ストップ! 何をしようとしてるのよ、幼い私は!?」

 

 司会役からストップがかかった。漸くサンタ・リリィが過去の自分だと認識したらしい。

 

「それに、なんで指輪の話をしただけで自害した奴もいるの!? 全然盛り上がらないじゃない!?」

 

 エドモンが解説を始めた。

 

「ふん、ただ難易度を上げて性格を変に歪ませるだけではそうなる。

 マタ・ハリは病みが足りなかったせいで指輪の話を聞いてあっさりと諦め自害し、清姫は病みが深過ぎて自分以外と結婚するのは安珍では無いと安珍に会うため自害した」

 

「性格が面倒な奴らが多過ぎるのよ!」

 

「……」

 

 エドモンが黙った。恐らく、ジャンヌ・オルタのセリフが見事過ぎるブーメランだったからだろう。

 

「やれやれ……どうやら、貰った暇も直ぐに終わりそうだな……」

 

 エドモンの溜息を最後に、俺は現実に目覚めた。

 

 

 

 そろそろ、クリスマスだ。




次回はクリスマスっぽい話が書きたいなぁ……更新が遅れない様に頑張りたいと思います。


UAが35万を超えました!
お礼企画はまだしませんが、大変嬉しいです! 読んで下さった皆さん、本当にありがとうございます! 

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