ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回の話は複数のマスターが欲しかったので、以前行ったお礼企画で採用されなかった方から数名程選ばせて頂きました。
一緒に登場するサーヴァントもなるべく企画の方で希望されたサーヴァントになるようにしました。


滑り込みでソロモン行きのチケット手に入れました。
良い新年の為にも魔術王討伐、微力ながら助太刀させて頂きます。

メリーグランドオーダー!


ヤンデレ・クリスマス2016 マイ・マイン・プレゼント

「あ! そういえばトナカイさん、夜中に皆さんの枕元に置く為のプレゼントは用意しました!?」

 

 全てのサーヴァントをカルデアに帰えして来た俺とジャンヌ・リリィ。しかし、リリィが俺に突然そんな事を言い出した。

 

「ん? いや、何も……」

「じゃあ急いで準備しないと! こっちです!」

 

 リリィは慌てて俺を引っ張り始めた。

 

「さあ、どうぞ!」

「……工房?」

 

「いえ、アイテム交換ショップです! さあ、ドロップアイテムとプレゼントを交換しましょう」

 

 リリィがそう言うと俺が持っていた人形、カボチャ、ステッキ、ベルが机に置かれた。

 

「プレゼントはこちらになります!」

 

 そう言ってリリィはカタログを見せてきた。どうやら幾つか種類があるらしい。

 

「サーヴァントへのプレゼント……

アルトリア・サンタの皮肉セット、

ジャンヌ・リリィの実用セット、

エドモンの無難なセット、

ジャンヌ・オルタのヤンデレハードセット……説明求む」

 

「全員に渡すプレゼントです! 渡す物によっては反応が変わりますよ」

 

 つまり、渡す物によってはそのまま殺されたり捕まったりする可能性があるのか……

 

「最後は論外として……ヤンデレ関連だとエドモンも地雷な気がするな……なら1番か2番か……」

 

 内容が分からないんじゃ決めようが無い。

 決め兼ねていた俺をワクワクしながら待っていたジャンヌ・リリィの元に電話が届いた。

 

「はい、もしもし! こちらジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィのアイテム交換ショップで……はい! ジャンヌ・オルタのヤンデレハードセット、山本皐月さんですね! 直ぐに届けますね!」

 

「……え?」

 

 そんな危ない物を頼む奴がいるのかと驚いていると、ジャンヌ・リリィはプレゼントを担いだ。

 

「ではトナカイさん! ちょっとお届け物に行ってきますね!」

「ああ……」

 

 

 

「……よし!」

 

 プレゼントセットを受け取った僕は早速部屋へと向かった。

 

 モードレッドが大好きな僕からすれば1番の危険物こそ大当たりだ。間違い無い。

 

「ダブルモードレッドにヤンデレ気味に迫られるとかもうこれ勝者なんかじゃなくて覇者なんじゃないかな! 楽しみだな!」

 

 早速プレゼントセットの中身を確認する。中にはリストがあり、渡すプレゼントと渡される対象が書いてある。

 

(ふむ……プレゼントは夜中にそれぞれの枕元に届くのか)

 

「モードレッドには……婚姻届!

 水着のモードレッドにも、婚姻届!

 もう勝ち確定だ!

 あれ? これヤンデレじゃなくて普通にウェディングじゃない?」

 

 普通に嬉しいんだけど……と思いつつ他のサーヴァントに目を通すと、僕はそこで絶句した。

 

「……アルトリア一同は……セイバーとセイバー・オルタに名前の彫って無い婚約指輪!? リリィにはウエディングドレス2着!?

 乳上には人造生命用の長寿薬にオルタは受肉の叶う聖杯で、ヒロインXには魅了薬……?

 サンタには恐怖薬で水着には解毒剤……」

 

 そこまで読んでリストを地面に置いた。

 頭の中の恋愛シュミレーターと戦闘シュミレーターが同時に起動し始めた。

 

 つまり……

 

「マスター! お、オレと結婚してくれるのか!?」

「マスター、オレとだよな!? マスター!?」

 

 ダブルモーさんに迫られて……

 

「――違うな」

「私達に指輪が届いたんです。

 つまり、マスターの望まれているのは私達……そうですね、マスター?」

 

 ダブルセイバーから指輪を奪い取り……

 

「マスター……未熟な私ですけど、こんな……!

 こんな素敵な衣装を頂けるなんて……感激です!  

 マスター、一生幸せにして頂けたら、嬉しいです……♡」

 

 リリィからドレスを剥ぎ取って……

 

「マスター、モードレッドと長く過ごしたければ精一杯私に尽くす事です。

 モードレッドの伸びた寿命が無くなるまで、ですよ?」

「反逆者である息子の受肉など、許す訳がないだろう?

 どうしてもしたいと言うなら、身も心も、全て私に差し出せ、マスター」

 

 乳上2人から例のブツを奪って……

 

「え? 今日の私が魅力的、ですか?

 当然です。全てにおいて他のセイバーに勝るのが私の目的。マスターを虜にするのも当然私です。

 ……私の青いジャージを白く汚したいなんて、マスターは変態ですね。良いですよ、私は他のセイバーよりも寛容ですからね」

 

 ヒロインXの魅了に打ち勝ち……

 

「マスターと……こ、婚約?」

「っひぃ! こ、こっちに来るな!」

 

「恐怖薬を飲んだ2人はマスターに恐怖を覚える……

 あの状態のモードレッドに近付こうなんて、優しいトナカイなら出来ないだろう?」

「恐怖薬の解毒剤はこちらです。戦えるサーヴァントがいれば、私達に挑んで下さい。

 それとも……孤独なって人肌が恋しいでしょうか?」

 

 最後にサンタと水着を打ち倒せば晴れてハッピーウェディング間違い無し!

 

「そうと分かれば直ぐに対策を立てないと!」

 

 

 クリスマス当日、プレゼントにマイルームの合鍵を貰った静謐が一番に部屋に侵入し、婚約届を持ったモードレッド達が僕の隣で寝ている静謐を見て弁解する暇なく殺された。

 

 

 

「……さて、どうするか」

 

 俺はリリィが出ていって、戻ってきてからも悩見み続けていた。

 此処は皮肉か実用セットが一番良いと思うが……

 

「はいもしもし? 

 ……ジャンヌ・サンタの実用セットですね! お名前は?

 ヴォルフさん? 変わったお名前ですね……はい! 直ぐに用意致します!」

 

 またしてもリリィは注文を受けて届けに向かった。

 

 

 

 頼んで直ぐに届いた。

 ヤンデレ・シャトーの便利さに驚きつつも、ヴォルフと書いてある部屋に入る。

 

「確認、確認……!」

 

 実用セットを受け取った自分はマイルームでその中身を確認し始めた。

 

 ヤンデレサーヴァントに強制的な贈り物なんて嫌な予感しかしない。

 否、一部ぜひ迫られたいサーヴァントはいるけど……

 

「えーっと先ずは……ステンノへのプレゼントは……パールのイヤリングかな?」

 

 少し黄色が恐らくそういう色の真珠なんだろうと思い、次に目を通した。

 

「次はマタ・ハリ……セーターか?」

 

 思っていたよりもまともな物だと安堵した。色もオレンジで普通だし、安心だ。

 何か特殊な仕掛けがあるかも知れないけど……大丈夫、保温機能としか書いてない。

 

「タマモキャットには……首輪?」

 

 思わず落としそうになった。こんな物、イヤらしい事以外に一体どんな使い道があるんだろうか?

 

「静謐のハサン……ゴクリ! い、一番の難敵だなぁ……!(そわそわ)

 ……だ、抱き枕……だと…………?

 実用性はあるけど……これじゃあ、迫ってくれないじゃないか!」

 

 一番の楽しみだったのにと肩を落とす。合鍵くらい渡しても良いのに……

 

「沖田さんかぁ……プレゼントはやっぱり薬かぁ……まあこんな物だろうな」

 

 勝手にプレゼントが届いてしまうそうなので自分はプレゼントを確認するとそのまま寝てしまった。

 

 

「……ふふふ、マスター……「まだ起きないの?」」

「……んぁ……?」

 

 誰かに呼ばれて目を開けた。聞いた事がある筈だが声が重なって聞こえるので誰かは分からない。

 

「マスター……早く起きないと……「抜け出せなくなるわよ?」」

 

 耳にその言葉が届き、優しい手つきで頭を撫でられるとボヤケた視界が晴れ渡った。

 

 その時既に体と心は既にその声に溺れていたんだ。

 

「――す、ステン、ノ?」

 

 思わず疑問が口から出てきた。

 紫色の美しい髪、幼くも完成された美貌。

 プレゼントとして送られたイヤリングを両耳に付けたステンノ……エウリュアレ?

 

「「どっちも違うわ。

 私は(ステンノ)でも(エウリュアレ)でも無い……2人だった女神が1人になっただけ……英雄を虜にする女神が、貴方だけを虜にする女神になっただけ……こんな奇跡、起こっていいのかしら?」」

 

 重なって聞こえる2つの声。

 揺れるイヤリングを見て、7つの龍玉を集める漫画を思い出したがそれもしゅんと頭から消えた。

 

「「つまらない事は考えなくていいの……ねぇ? 貴方の心も、思考も、体も、運命すら……私の虜なんだから……」」

 

 ああ……そうだ。そうだった。

 つまらない事を考えるのはやめよう……

 

「「貴方は私を愛するの。

 今までの私達に抱かされた信仰(イタズラ)の愛では無く……最愛の妹の様、最愛の姉の様に……そして、最愛の恋人として……」」

 

 その言葉に頷いた。

 

 自分はベッドに腰掛けて微笑むその姿を見て、寂しがり屋な妹に、欲しがり屋な姉に、恋人である彼女の唇に、重ねるだけのキスをした。

 それだけでは物足りないので、彼女を抱きしめた。

 

「「ん……抱き締めなくても、ステンノ()エウリュアレ()は逃げ無いわよ?」」

「寒いから、しばらくこうしてさせてくれないか?」

 

 自分の言い訳は彼女には通じず、見破った彼女は耳元で囁いた。

 

「「しょうがないわね…… 

 ……優しくして、ね?」」

 

 愛らしい顔でそう誘われてしまうと、もう抱き着くだけでは我慢出来なってしまった。

 

「――ちょーっと待った!」

 

 せっかくの良い雰囲気をドアと共にぶち壊して入ってきたのはセイバーのサーヴァント、沖田さんだ。

 

「お薬で体の調子が良くなって気分も昂ぶってきたのでマスターにお礼も兼ねて部屋を訪れたら別の女と抱き合ってるなんて……沖田さんプンプンです! 殺してでもそのポジション、頂きます!」

 

「「あらあら……物騒ね? そこまでしてマスターと抱き合いたいの?」」

 

「当然で…………あれ? 言われてみればそうでも無いような?」

 

 頭を掲げた沖田さんは刀を下ろした。

 

「「マスターの隣は私だけで、問題ないわよね?」」

 

「……はい! 構いません! お邪魔してすいませんでした!」

 

 沖田さんは納得してくれた様でそっと部屋から出ていった。

 

「「貴方を虜にするのは私だけ……他の女の愛情なんて要らないわ……そうでしょう?」」

 

 そう言って彼女は笑う。耳元で響くその声は甘美で、今すぐに彼女を優しく愛したくなる。

 

「もう! マスターったら大胆ね! 暖かいセーターだと思ったらこんなに谷間が見ちゃうなんて

 ……あらごめんなさい。ごゆっくりね?」

 

「マスターが他の女といるワン! この首輪、マスターに付けるべきと見た! 

 ……あ、朝食食べないと……」

 

 彼女の唇をもう一度奪う。それでも瞳は彼女に奪われたままだ。

 

「「メリークリスマス、マスター。

 新たな女神の聖誕を、貴方の愛で祝ってちょうだい」」

 

 

 

「……なんか実用セットは伏兵な気がしてきた……」

 

 サーヴァント強化アイテムとかがプレゼントにされてしまうとどうなるか分からない。ならば此処は残った皮肉セットを選ぶべきか……

 

「トナカイさん? 早く選んで下さいね?

 あ、はいこちらジャンヌ・リリィです! アルトリア・サンタの皮肉セットを1つですね! 念覚(むねさと)さん……っと! ではすぐに届けますね、はい!」

 

 リリィは袋を1つ担ぐとまた出ていった。

 コレ、展開的にエドモンの無難なセットを選ばなきゃ駄目な奴か?

 

 

 

「……流石にリリィの未熟ぶりが恐ろし過ぎるから皮肉セットを選んだけど……

 安全とは言えないけど多分これで正解なハズ……」

 

 少し震える腕でプレゼントの入った袋を開ける。そして、その中に有ったリストに目を通した。

 

「セイバー沖田へは……写真? なんの?」

 

 気になってプレゼントを開けようとするが開かないので諦めた。

 

「セイバーアルトリア・オルタ……サンタセット?」

 

 サンタセットが通常のオルタにとっての皮肉なのか? 分からない。

 

「バーサーカークラスのナイチンゲール……本? 一体なんの本なんだ?」

 

 写真と同じ様に開く事が出来ないプレゼントに、苛立つ。

 

「ジャンヌ・オルタにも写真!?

 気になるけど、開けれないし……」

 

 2人も写真とは、果たして何なんだろうか?

 

「最後はアタランテ……ローション?」

 

 最後は随分直球なプレゼントが用意されていた。いかにもいやらしい事に使えと言ってるようなものだ。

 

「……どうしよう。

 結局、明日何が起こるかまるで分からないままだ……」

 

 それでも時間は過ぎて、俺は届けられるプレゼントに最善の期待を抱くしかなかった。。

 

 

「マスター……朝ですよー? 起きてくださーい」

 

 頬をペチペチと叩かれて目を覚ます。寝起きは悪い方だと自負していたが、覚醒しなければならない事態に陥っていた。

 

「お、沖田!? な、なんで捕まって!?」

 

 両手首を背中で組まれたまま縄で縛られていた。

 

「あ、マスター。お早う御座います。

 あんまり起きるのが遅かったので死んでしまった……死んで…………死……」

 

 沖田は目を伏せた。それが恐ろしく、私は彼女に問いを投げた。

 

「……ど、どうしたんだ沖田さん? 

 此処は、沖田さんの部屋だよね? なんで縛ってるの?」

 

 沖田は目を合わせず、懐から何かを取り出すとこちらにそっとそれを見せた。

 

 見せられたのは写真。写っているのは、傷付いて倒れている自分の姿だった。

 

「……マスター……なんですかコレは? 何でマスター、こんなにボロボロなんですか?

 マスター、沖田さんにこの事は何も言ってないですよね?」

 

 写真の裏には第5特異点にて、と書かれていた。恐らくレイシフトしてナイチンゲールに出会う事になった時の写真だ。

 

「マスター?

 沖田さんは今、凄く怖いです。マスターが、病弱な私の知らない所で傷付いて倒れるのが、凄く怖いです」

 

 沖田は漸くこちらに視線を向けた。その目には涙が浮かんでいた。

 

「マスター、ここにいましょう? ずーっと此処にいて下さい。沖田さんはマスターがいないと不安で不安で夜も眠れません」

 

 沖田は俺の手首を縛る縄をなぞって、俺の腕を触った。

 

「マスターは、ちゃんとここにいるんですね! 私の手が届く所にいるんですね! アハハハ!」

 

 笑う沖田。俺という存在に触れて、大喜びのようだ。

 

「アハハハハ…………う、ぐふぅ!?」

 

 笑い過ぎたのか、病弱スキルの発作が起こり、抑えた口から少量の血が溢れる。

 

「っ……」

 

 数秒固まって発作に耐えた沖田は口元に浮かべた笑みを隠しながら、こちらに近付いた。

 

「んー!」

「っう!?」

 

 沖田の口から血が流れてくる。喉へと流し込まれ、防ぐことは出来ず、飲み込んでしまった。

 口一杯に鉄の味が広がる。

 

「っはぁ、っはぁ!」

 

 その味に吐き気が込み上げる。沖田がそっと背中を擦った。

 

「大丈夫ですよ。マスターの体と私の血は相性抜群です。だから、安心して栄養にして下さいね?」

 

「――殺、っ菌!」

 

 突然ドアが破かれたと同時に、バーサーカー、ナイチンゲールが現れ、沖田を蹴り飛ばした。

 

「っく! バーサーカー!?」

 

「マスターに血を飲ませた? 貴方の病が伝染ってしまったらどう責任を取る気ですか!?

 やはり、こんな不衛生な輩にマスターは任せられません!」

 

 ナイチンゲールは俺を縛っていた縄を取ると私を担ぎ、銃弾をバラ撒いた後に部屋から出ていった。

 

 

「マスター、貴方から頂いたプレゼントに、性病なる病の症状が載っていました」

 

 何故か医療ベッドに降ろされ、映画でしか見た事のない厳重な拘束を施された。

 その上、ナイチンゲールは手袋をしつつ器用にも慈悲と憎しみの宿った目をコチラに向けて来た。

 

「つまり、貴方の健康を約束し幸せにする性交相手は、私以外有り得ないと確信しました」

「!? なんでそうなった!?」

 

 ナイチンゲールはアルコールを手袋にシュッシュと吹きかけた。

 

「ご安心を。性管理は勿論、貴方の食事から掃除洗濯、全てにおいて完璧に清潔な事を保証します。人類を守る貴方の生活全てを私に委ねなさい」

 

 机の上にコップが置かれ、酒が注がれる。

 

「アルコールの取り過ぎは悪影響。お酒として飲める位の度数が丁度良いそうですので、先ずはこれで先程の血を消毒します。

 ですが飲食には適さない体勢ですので、此処は……」

 

 ナイチンゲールは口に酒を含むと口移しで飲ませてきた。

 

「んっぐ、ん……ん!」

 

 最初は丁寧に、だが抵抗しようとした俺に思いっきり押し込んで来た。

 

「っはぁ……安心して下さい。私の体は先程のサーヴァントとは違い爪の先から頭のてっぺんまで清潔です。

 ……強めのお酒でしたから、私も多少酔ってきました。

 どうです? 少しだけ、発散させておきましょうか?」

 

 本当にアルコールが強かったらしく、こっちは既に頭が回らなくなっていた。

 顔の赤いナイチンゲールを見る。顔が近い。

 

 その後ろに、何か迫った。

 

「っぐぁ……!?」

「私にサンタ衣装を送り付けて……さてはマスター、私は汝の剣だという事は忘れた訳ではあるまいな?」

 

 アルトリア・オルタが激高している。どうやら彼女には俺がサンタの方が好きだと伝わったようだ。

 

 更に誰かがやって来た。

 

「何よこれ! 何で幼い私やあの小娘とは手を繋いで笑ってるのよ! 私とはまだ一緒に出掛けた事も無いじゃない!」

 

 ジャンヌ・オルタが我儘を叫んでいる。まるで心配性な彼女のようだ。

 

「ま、マスター……済まない。

 純血の誓いを立てた私を尊重して、あんな物を送ってくるなんて、思ってもいなくてだな……」

 

 真っ赤な顔で2本の人差し指の先を合わせては放しを繰り返すアタランテ。

 やがてその手は弓を握る。

 

「じゃ、邪魔な者共を蹴散らしたら……

 その……は、初めてだから……沢山塗って、優しくしてほしい……」

 

 アタランテは照れながらも笑ってそう言った。何を何処に塗って欲しいのか、良く分からないデスネ。

 

「恋を捨て救命に走った天使に、復讐の標的にしている者、誓いに縛られている窮屈な女など、マスターに相応しくはあるまい。

 前々からサンタの私は邪魔だった。

 この際、奴に剣を突き立てこの衣装でマスターの希望を叶えるのもまた一興か」

 

「沖田さんもいますからね!? マスターは私が護ります!」

 

 先の酒にやられて視界は歪み、起きているのも辛くなった俺の気はもう現実へと引っ張られていた。

 ……もう少し、ヤンデレ(無償の愛)を堪能したかったと頭の隅で思いながらも、現実の海へと沈んだ。

 

 

 

「エドモンの無難なセットで!」

「了解しました」

 

 ジャンヌ・リリィが帰って来て直ぐに注文した。

 こういう物は、選ばないと大抵酷い残り物が待っている筈だ。

 

「……じゃあ、次の人にはアンリ・マユの最悪セットとゴルゴーンの巨悪セットのどちらから選んでもらいましょう」

 

 危なっ!……マジで選んでおいて良かった……

 

「トナカイさん、それじゃあ早速パーティーに行きましょう! プレゼントはこちらから時間になったら届けておきますね!」

「その前にプレゼントの中身くらい確認させてくれないか?」

 

「ダーメーです! トナカイさんのプレゼントも入ってるんですから!

 ほら、早く行かないとマシュさん達がへそを曲げてしまいますよ!」

 

 ジャンヌ・リリィに押されて、結局プレゼントを確認せずにパーティーへと連れて行かれた。

 

 

 

「それじゃあ我らがカルデアのマスター、乾杯の音頭を頼むよ!」

 

 マイクを持ったドクターロマニに頼まれ、俺はサーヴァント達の前にコップ片手に立った。

 

「……――せー、のっ!」

 

『かんぱぁーい!!』

 

 

 時代も国も越え、人理を守る為に集まった英霊達。

 

 クリスマスとは名ばかりに、宗教も主従も忘れ、今宵は皆が笑って過ごすだろう。

 

 歌う者もいれば、唄う者もいる。

 

 食う者がいれば、食い散らかす者もいる。

 

 飲み干す者、呑み潰れる者、武を語る者、頷く者。

 

 そこに混じって語り合い笑い合うこの時間を、彼らと共の戦った日々と同じ位、誇りに思い、大事な思い出にするだろう。

 

 可愛らしくも頼もしい、後輩と共に……

 

 

 

 

 

 楽しかったパーティーも終わり、自分の部屋に入った俺に勝手に明りが点いた。

 

 目の前には清姫が全裸にリボンを巻いただけの姿で立っていた。

 

「……マスター(旦那様)

 私からのクリスマスプレゼント、受け取って下さいまし」

 

 両手を広げて、俺の答えを待つ清姫。

 

 ……そろそろ、良いか?

 

 俺は清姫の伸ばした腕の先、彼女の手の平に自分の手の平を重ねた。

 

「ああぁマスター……やっと私の願いが成就します……」

 

 赤く、されど純真な笑顔を浮かべる彼女の耳元でそっと囁いた。

 

「清姫……」

「はい、だんなさまぁ………」

 

 

 

 

 ――令呪を持って命ずる、出てけ。

 

 




「で、アンタの用意したプレゼントって何だったの?」

「マスターが心の中で本当に望んでいるサーヴァントがマイルームで出迎える、だが?」

「サーヴァントには?」

「それぞれにあった酒、衣類、電子機器を配った」

「本当に無難な物を選んだわね。
 ……って言うかヤンデレ関係無いじゃない!?」

「聖誕祭を血に染めるのは恩人に申し訳が立たん」

「…………(相変わらず、例の神父には義理深いわね)」

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