ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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セーフですよね!

何とかバレンタインデーの話が完成しました。
今回の話は甘いですよ。コーヒー推奨します。


ヤンデレ・バレンタイン

 

 今日は楽しい愉しいバレンタイン。

 リアルでは母チョコとエナミから手作りを貰った。

 

「……エナミから何を貰った、だと? チョコだけど渡された時に《私の前で食べて下さいね♡》って言われた」

 

「ほう、随分変わった渡し方だな。普通なら家で食べろ、だろう。女共は不味ければ縁を切られると思っているからな」

 

「変わった、で済ますな! どう考えても中身媚薬的な物に決まってんだろ!

 普通、そこは告白か味の感想を聞かせてくださいだろうに……」

 

 どうやら夢の中で静謐に弱かった俺を見て薬攻めを開始してきたらしい。

 

「ヤンデレ・シャトーもバレンタインデーの催しの用意ができているぞ」

「別に期待してないからな、そういうの」

 

 大体ヤンデレでバレンタインデーとかアレだろ? 血に染まる奴。

 

「折角だ、甘く過ごしていけ」

 

 アヴェンジャーらしからぬセリフをアヴェンジャーらしいニヒルな表情で言われた俺は不安を煽られただけだった。

 

 

 

「先輩……」

「マスター……」

 

「うぉ!?」

 

 シャトーに着いたと同時に背後から2人同時に声をかけられた。

 

 白衣姿のシールダーであるマシュ・キリエライトとライダークラスの聖女マルタだ。

 両方とも、その手にはチョコの入った箱が握られている。

 

「チョコレイト……食べて下さい」

「一生懸命作った手作りだから、受け取って……下さい」

 

 2人共既に何かに当てられた様に頬を染めて嬉しそうな表情を浮かべながら俺へと近付く。

 

「私の、大好きな先輩への、本命チョコですっ!」

「受け取ったら、その場で食べて欲しいわ……です。愛しい、貴方に」

 

「……えーっと……」

 

 渡してきたチョコレートを受け取るべきか考える前に、頭を悩ませるべき出来事が1つある。

 

「……そんなにくっついて、暑くない?」

 

 そう。マシュとマルタは近づくに連れて俺の正面に向かってくるのだが右からマシュ、左からマルタが迫るのでお互いの体がぎゅっと密着しているのだ。

 

「? まだ先輩に触れてませんよ?」

「誰にもくっついて等いませんよ?」

 

 …………これは。あれか。

 

(俺以外を認識していないパターンかよぉ!?)

 

 頭を抱えたい衝動に駆られるが、それよりも先に目の前の問題だ。チョコを受け取るべきかどうか。

 

(無理やり口に突っ込まれるよりマシか……)

 

 さっさと受け取ろうと俺はマルタのチョコを受け取ってポケットに入れるとマシュのチョコに手を伸ばす。

 

 しかし、チョコに触れる寸前でマシュの手が離れた。

 

「せ、先輩……そのポケットのチョコは、何ですか……!?」

「マスター、ポケットに入れないで早く食べてみて下さい」

 

「だ、誰から受け取ったんですか……!? 先輩の愛しい愛しい後輩で有る私以外の、誰から!?」

「ビスケットなので余り揺らすと壊れてしまいます。なのでこの場で食べて行って下さい」

 

 聖徳太子か俺は!

 マシュが詰め寄り、同時にマルタが催促をしてくる。

 どうこなせと言うのだ。

 

「マシュ、お前が好きになった俺が他の女性からも好かれない訳無いだろう? 安心しろって」

 

「……マシュ? マシュとはあの後輩さんの事ですか? もしかして浮気ですか?」

「そう、ですね……先輩は、好かれますもんね……はい! 私のチョコです! 受け取って……貰えますよね?」

 

「マスター、正直に答えないと今ここで天罰を下しますよ?」

 

 ダメだ! あっちは他のサーヴァントを認識していないが俺の話す言葉はどちらにも聞こえている。

 此処は口ではなく、行動で場を収めよう。

 

「……! きゃあ!?」

 

 マルタの背中に左腕を回して抱きしめて、マシュのチョコを右手で受け取った。

 

「ま、マスター……」

 

 マルタが満足している内に右手と口を使ってマシュのチョコの箱を開ける。

 

「デカッ……!」

 

 マシュのチョコが1口で食べられるサイズでは無かったので思わず呟いてしまった。

 

「先輩が満足するのはそれ位の大きさじゃないと、と思ったので……」

「ちょっと! 想い人の胸が当たったからってそんな感想は……ゴホンゴホン、卑猥で――!?」

 

 しまった。呟きに釣られたマルタの視線が俺の手にあるチョコレートに向けられた。

 

「……なんですか、ソレは?」

 

 マルタの怒気を感じる。思わず抱き締めていた左腕が緩む。

 

「私を抱きしめたままいつの間に他の女から貰ったチョコを食べようなんて……」

「先輩? あの……食べるのでしたら、早く食べて見て下さい……」

 

 怒りを顕にするマルタに照れるマシュ。

 同時に捌くのは難しい。

 

 優先すべきはマルタの鎮火だが、この状況を同時に収める方法はある。

 

「……俺は、一番好きな物を最後に食べる主義だったんでな」

 

 俺はそう言いつつマルタの頬を撫で、右手で開いていたマシュのチョコの箱を閉めた。

 

「……先輩……嬉しいです」

「……ま、全くもう……む、ムードを考えて下さいね?」

 

 マシュは自分のチョコを最後に食べてくれると思い安堵して、マルタは自分が一番好きな相手だと思って静まった。

 

 しかし、このままでは限界だ。どうにかしてマシュとマルタから離れないと。

 

「先輩……私の部屋でお茶をお出ししますね?」

「マスター……その、ま、マスターのお部屋でなら……聖女じゃない自分を、曝け出せると、思うんです」

 

 このお誘いである。早い話が俺の体を半分にして欲しいらしい。

 

(大体俺の部屋なんてヤンデレ・シャトーには――)

 

 ――気のせいだろうか? 見た事もないチョコで出来た扉が廊下の奥に佇んでいる気がする。

 

「せ、先輩? 行きませんか?」

「マスター……」

 

 さて、どっちかの誘いに乗らないといけないが言葉を使うと同時に断るか誘うしかなさそうだ。

 

「……部屋で待っててくれ」

 

「「っ! はい!」」

 

 嬉しそうにマシュとマルタは廊下の奥へと消えていく。マルタはチョコレートのドアでは無く自分の部屋へと入っていった様だ。

 

「……よし、逃げるか」

 

 厄介な爆弾(手作りチョコ)を口の中で処理しながらなるべく遠くへと遠ざかった。

 

 

 

「……ふう、ここまでくぅ……!」

 

 フラグは自制しなければと思い口を抑えた。

 兎に角、マシュとマルタをどうするか。そして、部屋の扉の数がチョコの扉を除けば5つだったので残り3騎のサーヴァントをどう掻い潜るか。

 

 不幸中の幸い……とも言えないがヤンデレサーヴァント達はお互いを認識していないので戦闘に発生する恐れはない。

 

(敵が居ない=怒りだしたら俺だけを殺しに来るんですけどねっ!!)

 

 兎に角、先ずは2人にあってヘイトを下げてこないとな。マシュのチョコはまだ食べていないのでさっさとお茶と一緒に飲み込んでしまおう。

 

 普段よりデレてたし、1人なら案外簡単に捌けるかもしれない。

 

「……マシュ、入ってもいいか?」

「ど、どうぞ!」

 

 マシュの近未来的な扉が開き、中に入ると机の上に紅茶が2つ置かれていた。

 

「さあ、先輩。

 どうぞお掛けください」

 

「ああ……」

 

 今更ながら頭に罠の可能性が過るが仕方ない、このまま行こうか。

 

「チョコレートだけでは足りないと思ったので、ポテトチップスとスティックサラダもご用意しました……! どうぞ!」

 

「ありがとうマシュ」

 

 ……虎穴に入らればなんとやらだ。覚悟を決めて紅茶を口にした。

 

「……うん、上手い」

「先輩の好みのお砂糖の量はちゃんと熟知しています。

 さあ、チョコを机に置いてください」

 

「ああ……っ!」

 

 チョコの箱に触れてから気が付いた。

 もしかしなくても罠があるとすれば、チョコの方じゃないか?

 

「……アトラス院礼装」

 

 礼装を変えた俺は、マシュのチョコを食べた。

 

 舌に溶け出しべっとりとくっつく甘い味、マシュ可愛い。

 

 スタンダードな味わい、マシュ大好き。

 

 感謝の気持ちが身体に染み渡る様だ、マシュ結婚しよう。

 

「――【イシスの雨】!!」

 

 例によってやばい混入物がチョコの甘さの中に隠れていた。

 

「……先輩、私の事、好きですか?」

「好きだけどこの手の洗脳は駄目だろ?」

 

「洗脳ではありません。愛の霊薬を私専用に改良して100分の1まで薄めた惚れ薬です!」

「変わんないからな!?」

 

 やはり罠だったか……危なかった。

 

「ただ、薬を作ってる時に体に付着してしまったので……先輩を見ていると頭がぼーっとします」

 

 だから最初から少し様子が可笑しかったのか。

 

「先輩……ベッドに座って下さい。マッサージしますね?」

「たった今洗脳しようとした人の言葉を信じると思う?」

 

 怪しいお香を取り出しつつベッドを勧めるマシュにツッコミを入れつつハッとなった。

 

(そういえばマルタも様子が可笑しかったような……? まぁチョコは食べたけど、もう【イシスの雨】使ったし大丈夫だろ)

 

 数分前の自分の迂闊さに冷や汗をかきつつ取り敢えず安心したが、このままマシュと2人っきりでいると禄な目に合わないのは間違いない。

 

「先輩……あまり、この手は使いたく無かったのですが……」

 

 言いながら彼女の白衣姿から鎧を着た戦闘服に変わる。

 

「実力行使させて頂きますね?」

 

「……マシュ、ちょっと待って」

「はい、待ちます」

 

 薬の影響でか随分あっさりと言う事を聞いてくれる様で、マシュは俺の言葉と手の制止でその動きを止めた。

 

「……出ていきたいんだけど」

「駄目です。実力を行使します」

 

「待って」

「はい!」

 

 躾けられた飼い犬並に言う事を聞いてくれるが逃げる事は許さないようだ。

 

「こっちに来て」

「は、はい!」

 

 漸く観念した。そうマシュは思ったようだが、俺は近付いた彼女に人差し指を向けた。

 

「カルデア戦闘礼装、【ガンド】」

「……なっ……!?」

 

 体が動けなくなったマシュから急いで離れ扉から出て行った

 

 

 

「危なかった……あの扉、内側も俺の手形で開いてくれて助かった……」

 

 次は聖女マルタの所に向かうべきだろうか?

 

「行ってやらないと待ちくたびれて何しだすか分からないし……」

 

「おう、待ちくたびれたぜ?」

 

 振り返った先にはアサシンのサーヴァント、両義式が立っていた。

 

「っげぇ……!?」

「なんだよ、そんな露骨に嫌な顔をするなよ?」

 

 いや、しばらく会っていなかったがマジで逃げたい。どうする? こうなれば令呪で時間を稼ぐか?

 

「オレはチョコを渡しに来ただけだ。ほら」

 

 式からチョコの入った紙袋を受け取る。

 

「……ありがとう。取り敢えず、持って帰って食べるよ」

「おう、そう言うと思った、っよ!」

 

 俺が手に持っていた紙袋が投げナイフによって破かれ、中に入っていた粉末状の何かが俺に向かって破裂した。

 

「ゲッホッゲッホ! な、何して――!?」

 

 ヤバイ、例の愛の霊薬か……式……

 い、【イシスの雨】を……式……

 さき使ったばかりだから使えな――好きだ。

 

「オレもだぜ、マスター」

 

 式……

 

「マスター、部屋に行こうか」

「……ああ」

 

 小さく頷いた。

 

「これでマスターはオレの物だな」

「マスター!!」

 

 式の後を追っていこうとしたが、後ろから声が聞こえてきた。

 

「余りにも遅いので迎えに来ましたよ! さあ、一緒に行きましょう!」

 

 聖女マルタ……無視してもいいか。

 

「どうしたマスター?」

「いや、なんでもないよ」

 

「……はぁぁぁぁ!!」

 

 気合が入った声でマルタが近付いてくる。式には聞こえていないので気付いていない。

 

 そしてマルタは手に持っていたビスケットを俺の口に無理矢理放り込んだ。

 

「さあ、誰が貴方の僧侶ですか!? お答え下さい!」

 

 俺の、僧侶? 好きなのは勿論……勿論……し、し、マル、式? マルタ? あれ? 

 式? マルタ? 

 

「マスター……?」

「……式、マルタ……大好きだ」

 

 その言葉に式は目を見開き表情を変えた。

 

「何で他の女の名前が……!?」

「マスター? 浮気は駄目ですよ? 私だけが、好きなんですよね?」

 

「……ああ、マルタの方が好き――」

 

「っく! この!」

 

 式はマルタに向いたままの俺に香水のような物を吹き掛けた。 

 

「……マルタ、マルタマルタマルタ……!!」

 

「っく……! 霊薬をそのまま吹き掛けたのに! マスターには他の女が見えてるのか!? オレの魔眼でも見えないのに!?」

 

 俺はマルタを抱き締めた。マルタは慈愛に満ちた顔で俺の頭を撫でつつ優しく囁いた。

 

「おかえりなさい、マスター……ふふふ。これからは私がぜーんぶ、気を付けてあげるわ」

「マルタ……! ずっと一緒にいてくれ……!」

 

「はぁ……マスターかそんな風に求められたら、このマルタ、貴方の僧侶に……いえ、敬語は要らないわね。

 貴方の妻になるわ。ふふふ、素敵な日になったわ」

 

 マルタの唇に吸い寄せられる様に、俺は顔を近付けた。

 マルタも目を閉じて、受け入れてくれ――

 

 

 

「……させるか」

「…………マスター? 寝てしまったのかしら?」

 

 式に気絶させられたマスターを見て、マルタは疑問符を浮かべる。

 

「マスターにしか認識できなかろうが、マスターの体を抱き締めているなら……!

 これで、殺せる!」

 

 式は恐らくマスターを抑えているであろう敵の位置にナイフを振り下ろした。

 

 しかし、ナイフは見えない何かを切る事は無かった。

 

「何!?」

 

 式は見えない巨大な何かの出現を感じてその場から離れた。

 

「誰かがマスターが気絶させたみたい……タラスク、注意して下さい」

「何か召喚されたか……? くそ、迂闊に近付けない……!」

 

 やがて、マスターの姿はチョコレートのドアの中へと消えた。

 侵入も考えたが、デカイ何かがドアの前にいるせいか、近づくと押し返される。

 

「……魔眼で見なきゃ死は切れない……」

 

 

 

「マスター、起きて……」

 

「んぁ……? マルタ?」

 

 マルタの霊薬入りビスケットと式の霧吹きの効果は気絶している間に解けていた。

 少量だったおかげか。

 

「マスター……この部屋に入った以上私はただのマルタよ……さあ、貴方だけのマルタにして頂戴……」

 

 聖女とは思えない妖艶な仕草で誘惑し始める。

 ゆっくり服を脱いで、隠す様に、注目させる様に秘所に自分の手を持ってくる。

 

 ベッドに仰向けのままそんな光景を下から眺めさせられると不覚にも欲情してしまいそうなる。

 

「ま、待った!」

「どうしたのマスター? ……やっぱり、私には魅力が無いのかしら……? 聖職者だから処女だし……」

 

「ま、マルタの魅力はそうじゃないと思うんだ!」

「え……?」

 

「プラトニックに……性交だけが愛の示し方じゃないだろう? 一緒にいれば、それだけで幸せな関係だってあるよ」

 

「マスター……!」

 

 マルタは俺の言葉に感激したのか俺の両腕を掴んだ。

 

 ムニュ。

 

「やっぱり、貴方になら処女を捧げて良い! 貴方との子供が、欲しい!」

 

 聖女、では無く面倒見の良い姉御の性格がヤンデレだと重視されている様だ。

 

 そして今の俺の言葉を性交がしたくなければ無理のしなくていいと言っている様に聞こえたらしい。

 

 両手は彼女の胸に当てられているが、そのまま彼女はゆっくりと頭を俺に向かって下げて来た。

 

「……んー……」

 

 頬を染めて、期待の表情で俺の唇へと迫る。

 

「待って、待った、待って下さい!」

 

 動けない。マルタは俺の両腕を開放したが素早く両肩を掴んで抑えている。

 

「……!! タラスク!?」

 

 あと僅かの所で彼女が立ち上がった。どうやら外に置いておいたタラスクに異変があったらしい。

 

 助かったか?

 

「……ま・す・た・ぁ……見つけましたよ?」

 

 げぇっ!? 助かってない!

 

「……ドアが勝手に開いた。タラスクも倒されている……マスター? 誰がいるの?」

 

「き、清姫……」

 

「はい、マスター……貴方の妻、清姫ですよ?」

「清姫、あのバーサーカーね?」

 

 マルタは拳を握る。だが、認識阻害がされている以上正確な場所を知るのは不可能だ。

 

 そして、清姫は既に俺の前まで来ていた。

 

「何やら不可視の壁がございましたので宝具で突破いたしました。結界、にしては生物的でした」

 

「ああ、そう……」

 

 タラスクすら焼き尽くしたのかこのバーサーカーは……

 

「何処にいるのかしら? マスター、側にいなさい」

「さあ、マスター!」

 

「こうなるのかよ!」

 

 清姫がパッと抱き着き押し倒してきた。俺はベッドに倒れる。

 

「ふふふ、どうか私を……

 た・べ・て?」

 

 清姫は嬉しそうに微笑みながら俺の上で着物を脱ぎ始める。

 その下にはリボンでラッピングされている幼くも魅力あふれる肢体が……

 

「っきゃぁ!? な、なんて破廉恥な!?」

 

 お前が言うな。

 思わずそう言ってやりたかったが、そんな事よりもまさかマルタに見えているのか?

 

「……あら? そちらは聖女のマルタさんではないですか。どうかいたしましたか?」

「どうもこうも! そ、そんな破廉恥極まりない格好でマスターの上に跨っている痴女がいれば、普通は驚くでしょう!?」

 

 どうやら、清姫は今この瞬間だけ俺が手にしたチョコレートに認定されているようだ。

 

「…………き、よひめ……」

 

 駄目だ。清姫の体から僅かに甘い匂いがする。

 どいつもこいつも、今日は霊薬のバーゲンセールか。

 静謐の媚薬とは違うが、清姫が欲しくて欲しくて仕方がない。

 

「マスター! 今お助けします!」

「駄目ですよマルタさん? マスターは私を欲しているのですよ? マスター? マルタさんに邪魔をしないようにお願いしてください」

 

「清、姫っ! 清姫、清姫! 清姫清姫清姫っ!」

 

 想う相手がいて、目の前で扇情的な肢体を晒していてはそれ以外考えられなくなる。

 

「清姫が、欲しい!」

「マスター……今目の覚まさせて……! 

 清姫が、消えた……?」

 

「マルタさんが消えましたね。もしかして、マルタさんに令呪を?」

 

 首を横に振りつつ、両手は清姫の胸へと伸びる。

 

「ぁ……ん……」

 

 清姫の口から切ない声が――

 

「ッ鉄拳、制裁!!」

 

 気付けば横からぶっ飛ばされた。

 

 

 

「マスターを殴った様ですね……許しません……!! ですが認識できないのでは攻撃しようがありません。マスターを介抱しなければ……」

「あのバーサーカーよりも先にマスターを拾ってこの部屋を出れば……!」

 

「門番の龍は消えた。全速力で行けば……!」

「先輩……! やはり私がお側にいなければ!」

 

 全員が一斉に俺へと近付く。何故誰も他のサーヴァントが見えてないのか不思議でならない。

 

(マルタが手加減したみたいだけどそれでも痛いっ!

 ……このまま倒れて流れに身を任せるしかない……)

 

 正直もう疲れた。早く覚めてくれ……

 

「越えて越えて虹色草原」

 

 途端に聞こえてくる明るい声。

 

「白黒マス目の王様ゲーム――」

 

 子供の無邪気な童謡。

 

「――走って走って鏡の迷宮」

 

 なのに、背筋には冷たい何かが走る。これは恐怖だ。

 

「みじめなウサギはサヨナラね?」

 

 

 

「…………こ、此処は……」

 

「マスターがマシュと聖女様に迫られた場所よ」

 

 幼い声が聞こえた。

 俺の前に立っていたのはキャスタークラスのサーヴァント、全てが黒一色のナーサリー・ライムだった。

 

「ナーサリーライム……」

「シェイクスピアのおじ様は虫歯が痛いって言っていたけど、マスターと一緒に過ごすバレンタインなら、甘くて、痛くない素敵な日になるわ!

 さあ、マスター? 私と一緒に楽しみましょう?」

 

「……もしかして、他のサーヴァントがお互いの認識を阻害されてたのって……」

 

「うん、それは私よ。皆を絵本にしたの。 

 4つの絵本にして、王子様の名前は皆一緒! でもねでもね、最後の最後で王子様は、本当のお姫様とね、永遠に、幸せに暮らすの!

 それが私の永久機関・少女帝国(ハッピーエンディング)!」

 

 名無しの森が強力過ぎて忘れてしまうが、彼女の持つ永久機関・少女帝国は時間を巻き戻して繰り返す宝具。

 

 魔法の域には達していないが、名無しの森と同様に強力だ。

 

 そしてナーサリーライムは両手を広げて笑い始める。

 

「今度は、こんな絵本にしてみたの!!

 マスターを無理矢理襲ったりした悪いお姫様達はね!」

 

 ナーサリーライムの背後にあった扉が音を立てて開いた。

 

「みーんな、みーんな」

 

「本当のお姫様と王子様に、罰を与えられました!」

 

 彼女の後ろに裸のまま首輪と鎖で壁に繋がれたサーヴァント達が現れる。

 

「可愛い盾のお姫様は、自ら建てたお城の中にずーっと暮らして!」

 

 マシュを縛る鎖が更に壁から放たれ、マシュを縛りながらもどんどんその数を増していく。

 鎖が止まった時には、マシュの色は鎖で見えなくなり、壁にピタリとくっつきその一部となった。

 

「かっこいい刃物のお姫様は戦場の中、死から目を逸らす事を許されず」

 

 式は直視の魔眼が強制的に発動し始め、気絶した。

 床に倒れた式はうなされ始め、今は悲鳴を上げている。

 

「神に仕えていたお姫様は醜い黒い翼与えられ、人々に悪魔と囁かれ」

 

 マルタの背中からは悪竜の如き禍々しい翼が生える。

 マルタはしきりにやめてやめてと叫び、その度に顔や体に何かが当たったかの様に血が滲み出し、青く腫れる。

 

「怖い竜のお姫様は、王子様の輝く剣で殺されてしまいました」

 

 清姫の腹に光り輝く剣が飛来し、小さく悲鳴を上げた清姫はその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

「そして本当のお姫様と王子様は子供達に囲まれていつまでも幸せに暮らしました。

 めでたしめでたし♪」

 




ほら、甘かったでしょう?

バレンタインデーと言えばナーサリーライムちゃんですよね。
少女の幸せな夢、プライレス。

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