ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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そろそろ新しいくっ殺編書きたいです。でもアメリカや砂漠には、書きやすい女性サーヴァントがいないんでよね。

新シナリオに期待します。


ヤンデレ・復讐者

 

「クッハハハハハハ!!

 よく来たな、仮初の、否!! 哀れなターゲットよ!」

 

 悪夢の中にやってきて直ぐに悪寒が走った。

 アヴェンジャーのテンションが可笑しい事や、俺の呼び名が可笑しいからではない。

 

「な、なんだこれ……!?」

 

「この塔は今っ! 憤怒で満たされている!! 例えそれが関係の無い貴様に向けられた物であっても、復讐者の俺を震わせる程の怒りだ!

 ハハハハハハ! 同情するぞマスター! 今回のアレ等は、お前を殺す気だ! 間違いなく、復讐の名の元に!」

 

 いや、ヤンデレならば殺しに来るの普通じゃないか、なんて口が裂けても言えなかった。

 

 それほどまでに、背中の震えが止まらないのだ。

 

「どうやら既に理解しているらしいな! さあ、逝ってこい! 恩讐の巣窟へ!」

 

 

 

 唐突にシャトー・デュフと化した現状に戸惑うが、一先ず顔を上げた。

 

「……ヤバイ」

 

 背中の震えは未だに止まらない。

 

 恐怖に視界が狭まれて、どこに何があるか、誰がいるかが分からず、足を踏み出す事すらままならない。

 

 踏み出せばそれだけで死ぬのではないかと、目に見えない不安が大きくなっていく。

 

「……!?」

 

 ビクリ。耳に届いた僅かな足音が体を跳ねさせた。

 

「っ……!」

 

 息を呑む。足音の方に耳を研ぎ澄ませる。

 

「……あら、マスター。此処に居らしたんですね?」

「……マタ、ハリ……」

 

 普段通りの様子のマタ・ハリが現れた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 マタ・ハリは俺に近付くとそっと俺を抱き締める。

 恐怖で動けなかった俺はその温もりが嬉しくて、思わず抱きしめ返した。

 

「可哀想なマスター……大丈夫ですよ。大丈夫。此処はもう安全ですよ」

 

 背中を擦る優しい手付きに、耳元に囁かれる愛の溢れる声に安息が震えていた心が安堵する。

 

「……ありがとう、マタ・ハリ」

 

 本当に、落ち着いた。

 いつも通りだ。いつも通りに行こう。

 

「マスター、私の部屋に行きませんか? 2人っきりなので、思いっきり甘えても良いんですよ?」

 

 そんな誘いを囁かれる。

 その不思議な魅力に、俺は迷う事無くコクリと頷いた。

 

「では、参りましょう」

 

 ……さて、どうしよう。

 何故か、手の甲の令呪が黒くなっているので恐らく発動できない。

 

 だが、このままマタ・ハリに着いて行くのは危険だ。彼女は気付いてないかもしれないが普段よりも動きに自然さが無い。

 

 ヤンデレの彼女なら俺を安心させたらそのまま俺を依存させる為にキスの1つ位していただろう。

 

「さあ、此処が私の部屋ですよ?」

 

 対策を考える時間も無く、すぐに着いてしまった。

 これは罠だ。入るのは、不味い……!

 

「カルデア戦闘礼装、【ガンド】!」

「っな!?」

 

 マタ・ハリの動きを止めた。只の時間稼ぎにしかならないのは重々承知なのだが、今逃げ出さないと間違いなく死ぬ。

 

 俺は力の限りを足に込めてマタ・ハリから離れた。

 

「っぶねぇ! 何だこの状況!? もうヤンデレとかそんな話じゃねえ! 本当に殺す気だぞあれ!」

 

 部屋の中は見ていないが恐らく入った瞬間に死んでいた。混乱の中それだけが理解出来た。

 

「……見つけた!!」

 

 だと言うのに、前から何かが突っ込んできた。

 

 2頭の馬が引っ張り走るチャリオット、否、恐らく戦車と呼ばれる類の乗り物だろう。

 

 廊下で扱うにはギリギリ過ぎる大きさのそれに唖然とする俺目掛けて、搭乗者である勝利の女王ブーディカが突っ込んでくる。

 

「私という者がいながら、ローマの愛を受けたお前を、許さない!!」

 

「っ、カルデア礼装! き、【緊急回避】!」

 

 彼女の怒号に呑まれる前に俺はスキルを発動させる。

 

 パッと消えた後に俺の後ろを戦車が通り過ぎていった。

 

「あ、危な……!? ヤバイ!」

 

 シャトー内部の廊下は広場へと続いており、その先を進むと広場前の廊下に無限ループするようになっている。

 つまり、ぼやぼやしているとブーディカが再びやって来るという事だ。

 

「……! ええい、ままよ!」

 

 近くにあった扉を開いて部屋に逃げ込んだ。

 迂闊すぎるかもしれないがブーディカとマタ・ハリがいる以上廊下の危険度は相当高い。

 

(頼む、無人(ブーディカ)の部屋であってくれ!)

 

 祈りつつ部屋に入った。

 

「…………誰も、いない?」

 

 良し。どうやら一応安全は確保できた様だ。

 

「はぁ、はぁ……はぁ……」

 

 一旦息を整えよう。

 今回のヤンデレ・シャトーは明らかに異常だった。

 

 マタ・ハリが何らかの罠にかけようとしていた事、ブーディカのあの状態。アヴェンジャーの言っていた憤怒という言葉に合わせれば……

 

「まさか全員がアヴェンジャークラスに!?」

 

 それしかなかった。しかし、それが分かった所でどうすれば良いのか分からない。

 

「……取り敢えず全員警戒するしかないな。なんだ、こうやって見ると普段と何も変わらないな」

 

 殺気に怯えていた自分がバカらしく思えてくる。何だ、いつもの事か。

 

「部屋から出るか出ないか決めないとな。ブーディカの過ぎる音を聞いたら出て行くべきか」

 

 ドアに耳を当てて外の音に拾おうと試みる。

 外から音は聞こえてこない。ブーディカの戦車が通ってくればこの部屋から脱出して別の部屋に移動して――

 

「――私の部屋の中、いるよね?」

 

 だが、無情にも扉の前に立っていた俺の目の前で扉は開かれた。

 

 赤い髪、勝利の女王ブーディカが俺の唯一の出入り口を塞いだ。

 その手に強く握られた剣が、殺意の高さを嫌でも示してくれる。

 

「ローマを許さない、貴方を許さない! 裏切った貴方を!」

 

 ローマに強い憎しみを抱いている彼女は、アヴェンジャークラスに相応しい存在だ。

 だが、ローマの愛とやらがネロの事を示しているなら俺には謂れのない事だ。

 

「っく!」

 

 間一髪、振り抜かれた剣から後ろに転がりつつ逃れたが、脱出口は遠のいた。

 

「これで、終わりだ!」

「魔術協会礼装、【コマンドチェンジ】!」

 

 俺がスキルを放つとブーディカの動きは止まった。

 コマンドチェンジは気が変わった、程度の精神操作能力だ。今の内にブーディカの横を通り過ぎていった。

 

「ぁ、ま、待て!」

 

 部屋を出れたがブーディカが追い掛けて来ればあっさり捕まるのは火を見るより明らかだ。

 

「カルデア礼装、【瞬間強化】!」

 

 全力で逃走するが、果たしてアヴェンジャーのブーディカに通用するかどうか。

 

「っ、戦車よ!」

「またか!」

 

 廊下に出たブーディカの呼び声に応じて戦車がやって来た。

 あれと追いかけっこなんてしていたら命が幾らあっても足りない。

 

 だが、部屋に入れば今度は部屋の住人とブーディカの挟み撃ちだ。そうなれば確実に詰む。

 

「マスター、こちらに」

 

 思考を巡らせながらも戦車から逃げていた俺の前に突然、炎の見える黒い着物が舞い降りた。

 

「き、清姫っ!?」

「……っしゃぁ!」

 

 放たれた炎に馬が怯え、その足を止める。

 その炎は止む所か、徐々にその大きさを増していき、壁となって道を塞いだ。

 

「さあ、こちらです」

「ちょ、ちょっと待て!?」

 

 強引に引っ張れた俺は清姫に部屋へと連れて行かれた。いつも以上の殺気にされたまま。

 

 

 

「……」

 

 閉められたドアの前に清姫は佇み、俺は彼女の視線を合わせる。

 

「マスター……」

 

 清姫はそっと腕を伸ばす。

 

 彼女もアヴェンジャーになったのならば、やはり狙いは俺か。

 清姫が怨むであろう相手は生前の想い人、安珍だ。通常の状態では俺がその生まれ変わりだと思い込んでいる。

 

「私は、裏切られました。

 あの人は私を偽った……私は怒り、竜になった……」

 

 清姫の手が俺の頬に届いた。

 

「貴方は、マスター、ですよね?」

「……ああ」

 

「あの人では、無いんですよね?」

 

 驚いた。まさか、清姫が真実(それ)を口にするなんて。

 

「安珍様ではない貴方を愛する事はできません……それで良いんです。

 貴方を愛せば、怨んでしまいますから」

 

「清姫……」

 

 アヴェンジャーになった事で、思考が正常になったのか?

 いや、この状態もブリュンヒルデの様で危険だが。

 

 アヴェンジャークラスはその在り方から、もっとも人間らしい英霊と呼ばれていた事を思い出す。

 

「さあ、ご命令をマスター。復讐者では御座いますが、サーヴァントとして全身全霊でお守りします」

 

「……兎に角今は篭城で良いと思う。このまま他のアヴェンジャーの侵入を許さなければ、安全だ」

 

「炎の壁はこの部屋の侵入を阻む様に両側に出しておきましたので、例え勝利の女王でも突破するのは困難でしょう」

 

 なんにせよ、清姫が味方なのは助かった。気を抜く気は無いが、打てる手があるならば打開は難しくない。

 

「ガンドと緊急回避はもう使えるが、コマンドチェンジ、瞬間強化は流石に駄目か」

 

「……」

 

 戦力確認は怠らない。まだ目覚めの時間ではない。

 

「…………」

 

「……清姫、魔力足りてるか? 今の内に礼装で――」

 

「……マスター、貴方は安珍様ですか?」

「――!?」

 

 その一言で俺は体を硬直させながらも立ち上がった。

 

「だんだん、だんだん……貴方を想ってしまいます……」

「な、なんで……!?」

 

 まさか清姫が持っている何らかのスキルの効果なのか? それとも外的要因……!?

 

「清姫、部屋から出るぞ!」

 

 マタ・ハリの仕業に違いない。前もって細工を施すのであれば、ブーディカよりも彼女の方が向いている。

 

「はぁぁ……マスター……安珍様ぁ……」

 

 手遅れだと思いつつも、俺は部屋から飛び出した。

 

 

 

「ようやく、出て来たね」

 

 部屋の前ではブーディカが待ち構えていた。

 

「炎の壁は…!?」

「私はサーヴァント、あんな炎で私の恩讐が、消えるものか!」

 

「っく! ……!」

「ふふふ、捕まえました」

 

 慌てて下がる。剣は回避できたが、同時に背後から動きを封じられた。

 

「ま、マタ……ハリ……!」

 

「ブーディカさん、直ぐに殺す気ですか?」

「当然。私はそいつを殺す」

 

「もう、乱暴ですね……なら殺す前に少しだけ、私に彼で遊ばせて下さいな」

 

「……良いだろう。だけど、もし温い事をしたら、許さないから」

 

「あん、ちん、様…………」

 

 捕まった上にアヴェンジャー3人に囲まれた。

 此処から、どう逃げ出せば……!?

 

「先ずは魔術を封じて……」

 

 鎖を着けられ、礼装から感じていた魔術的な能力が消え去っていく。

 

「ふふふ、それじゃあ、お部屋に案内してあげるわ」

 

 

 

「何でこんな事をする、マタ・ハリ!?」

 

 手錠に繋がれ、首輪を着けられしまいには服すら破かれ全裸となった、無様な男が此処にいた。

 

「全ては復讐ですよ、マスター。生前の私の人生は男に狂わされた。

 だからアヴェンジャーとなった私が望むのは……男から全てを奪う事」

 

 言いながらもマタ・ハリは首輪に繋がれた鎖を引っ張った。

 

「もう抵抗の手段は奪いました。サーヴァントも全員がマスターを殺したがっています」

 

 その視線が唇を狙っている。

 

「なので今から、マスターの魔力を奪って差し上げます。精々、無様に喘いで下さいね?」

 

 このままだと、テクノで死ぬのは免れない。

 

(少し前に静謐の一件があったから控えようと思ったんだがな……)

 

 仕方ない。今すぐ殺されよう。

 

「ろ、ローマ万歳!! ネロ皇帝、万歳!!!」

「っ!! マスター!」

 

 ブーディカは激情に駆られて剣を振るう。これで悪夢から覚めて――

 

 

 

 

 

「――アレ? 死んでない……?」

「ふん。無差別な復讐など、ただの八つ当たりだ。俺がそんな物を用意すると思ったか」

 

 どうやらヤンデレ・シャトーが終わったようだ。

 

「俺が欲しかったのはただ1つ。

 サーヴァントがお前を愛情無しで殺そうとした、この事実だ」

 

「……なんだって?」

 

「さあ! 今度は先程の自分達の行動を悔やんでいるサーヴァントを慰めてこい。自殺させればその時点で失格だ」

 

「っはぁ!?」

 

 アヴェンジャーの突然の無茶振り。まさかのヤンデレ・シャトー二段構え。

 

 

 

 

 

「何時も、貰ってるから……? ちょっと位酷い事されても、奪われても……嫌いにならない、ですか? ……優しいのが、好き……

 じゃあ……結婚して甘々なんて、どうですか?」

 

「ネロより私の方が可愛いって……本当に? お姉さんをからかってない?

 でも、浮気は駄目? ……そうだ! 私の娘と結婚させよう! そしたら一緒に暮らせるよ。浮気なんかしなくても、ね?」

 

「安珍様への怒りは、前世に置いてきた筈ですのに……喧嘩くらい恋人でも夫婦でも?

 で、ですが妻である私が……マスターを、怒りで殺めようとした事は……

 そ、そんな……私の事、嫌いだなんて……!?

 え? 嘘? 今の嘘を許して、私も許して欲しいなんて……許しません。

 私の事、好きですか? なら許します。もう2度と、嘘を吐かないで下さいまし」

 

 その後、依存と自己嫌悪が酷くなったマタ・ハリ、ブーディカ、清姫の3人を慰めたら好感度が更に上昇して病みも深まりましたとさ。

 




バレンタインイベントももうすぐ終わりですね。リアルでは自分でチョコチップクッキーを焼いて食べました。


いつの間にかお気に入り登録数2000人、UAは45万を突破しました。本当にありがとうございます!
お礼企画はまだまだ先になりますが、これからも応援、よろしくお願いします。

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