ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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遅くなって大変申し訳御座いませんでした。

活動報告にはもう書きましたが、最近リアルで少々トラブルが起きまして、更新が遅くなってしまいました。
ですがなんとかペースを戻していくつもりなのでどうかこれからも応援をよろしくお願いします。


ヤンデレ・シンプル

 

 

「今回のサーヴァントの人数は4人だ」

「うわー、すっごい久しぶりだなこの始まり方」

 

 最近、アヴェンジャーから登場サーヴァントの人数を教えてもらう事が無かったので、思わず口から率直な感想が漏れた。

 

「漸く、今まで何が足りなかったか理解出来たからな」

「足りなかった?」

 

 今までのヤンデレには病みも殺意も狂気も十分過ぎる程あった筈だ。それなのにこれ以上何を増やすと言うのか。

 

「……足りなかったのは、たった1つ。理由だ」

「理由?」

 

「愛は十分にあるにも関わらずそれが確固とした意思に繋がらなかったのは、それだけの理由が不足していたからだとな」

 

 意思? いや、どんなサーヴァントもヤンデレになると俺の話を聞かなかったり無理矢理迫ってきていた筈だが……

 

「行けばわかる。

 逝ってこい、仮初のマスターよ!」

 

 

 

「4人と分かっていれば別に無理矢理動く事も無いな」

「ええ、貴方の妻がお迎えさせて頂きます。旦那様」

 

 入って早々に清姫と最速エンカウント。一体何時からスタンバっていたんだろうか、この娘は。

 

「……こんばんわ、清姫」

「こんばんわですわ、旦那様。一緒に家まで帰りませんか?」

 

 質問している筈だが清姫は既に俺の腕に体ごと抱き着いている。

 優しく抱き着いてはいるが、離れる気が一切感じられない。

 

「い、家ねぇ……」

 

 此処で了承して家に着いてしまえば、そのまま清姫に喰われるのは目に見えているが、断る事は出来ない。そもそもヤンデレ・シャトーに安全な場所等ないので他に宛など無い。

 

「もしかして旦那様、何処か寄りたい場所が有るのですか?

 ……まさか、他の女の所へなどと、考えておりませんよね?」

 

 抱き着いて幸せそうな顔から一変、今にも俺を燃やし尽くしそうな顔でこちらを睨む。

 

「も、勿論そんな事はしない! さぁ、帰ろうか」

「……はい、帰りましょう」

 

 清姫に抱き着かれたまま歩き出す。ガンド辺りで動きを止めたい所だが最初のこの数分だけが平和に過ごせる時間だ、温存の意味も含めて使用は控えよう。

 

「先輩!」

 

 だが、後ろから別の声に呼ばれ、平和の時間が終了した。

 

「……マシュ?」

「まぁ」

 

 現れたマシュ・キリエライトは盾を構え、声を張り上げた。

 

「清姫さん、今すぐ先輩から離れて下さい」

「お断りします」

 

 マシュの要求をバッサリ切った清姫は俺の腕を握る腕に力を込める。

 

「何故私の旦那様から離れなければならないのでしょうか?」

「まだそんな戯言を……! 先輩は私の夫です! 夫と関係の無い他人が我が物顔で抱き着いているのを見過ごす訳にはいきません!」

 

 清姫の旦那様と言う呼び方は大して気にしていなかったが、マシュまで夫なんて呼び方をし始めれたので直ぐに今日のテーマが分かった。

 

「未だに夫を先輩呼びする妻などいません!」

「例え新婚しても先輩は先輩です! 私に色んな事、大切な事を教えてくれた先輩です!」

 

 アヴェンジャーの用意した理由とは、サーヴァント達が思い込んでいる関係の事だろう。

 

 清姫は(普段からだが)俺と夫婦であると思い込んでいる様に、マシュも俺と新婚関係だと信じているんだ。

 

「私の先輩に手を出さないで下さい!」

「旦那様、あの勘違いしている後輩さんに何か言って下さいまし。

 ア・ナ・タは、もう私しか愛していないのだと」

 

 なんと面倒な状況だろうか。これを俺にどうしろと……?

 

「ま、マシュ……俺、覚えがないんだけど……新婚ってどういう事?」

 

「なっ!? せ、先輩! 言ってくれたじゃないですか! 人理修復が終わって、カルデアの外で一緒に幸せに暮らそうって! あの空の下で、約束してくれたじゃないですか!?」

 

 ハードル高ぇぇ……第一部が終わったあのシーンで告白されたとか設定盛り過ぎだろ……

 断られたら予想も出来ない程のショックで錯乱するに決まっている。

 

《え……覚えが、無いって……嘘ですよね? 嘘ですよね!? 嘘だ…………

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!》

 

 それ全部妄想だよとか言ってみたらこうなる。発狂して狂気に陥るな、絶対。

 

「…………所でだが、清姫、俺達の馴れ初めは?」

 

「安珍様がマスターに生まれ変わって、私がそれを見つけて告白しましたら、マスターが「俺も愛してる」って仰って下さって――」

 

 垂れ流され続ける清姫の妄想を聞き流しつつ、この場を解決する策を考える。

 

 令呪やガンドで行動不能にすると後が怖い。

 オーダーチェンジも同じく。コマンドチェンジで気を変えさせても意味は無さそうだ。

 

 キス……されなかった方が狂って、された方が盛る。

 どっちも愛してる宣言……死ぬ。

 

「済まないが、俺はどっちの愛も受け取る事は出来ない」

 

 俺の言葉に清姫の目が獲物を捉える蛇の目に変わり、マシュも目が座った。

 

「俺は……マシュにした告白を覚えてないし、清姫の言った告白も、覚えてない……

 もしかしたら、言ったのかもしれないけど」

 

 清姫の目が見開かれた。 

 恐らく嘘を見抜く彼女には今の言葉が真実だと理解出来たからだろう。

 

「そんな……!?」

「先輩……嘘、ですよね!?」

 

「……記憶が無い以上、夫婦の契は結べない」

 

 良し、効いてる。

 アヴェンジャーの思い込ませた関係を覚えていないからと頭ごなしに否定するのではなく、覚えていないと言ってやんわりと否定した。

 これにより2人の頭には裏切られた、ではなく俺の記憶が無い事にショックを覚えるだろう。

 

 完全な記憶の喪失ではなく、自分達の立場が危うくなるこの状態ならば何とかしようと協力的になるだろう。

 

「……ど、どうすれば先輩は私との約束を思い出してくれるのでしょうか!?」

「旦那様、私の力になれる事があるのなら、何でも仰って下さい……!」

 

「うーん……そうだ、他のサーヴァントに話を聞くってのは――」

 

「駄目です」

「却下します」

 

 っち。やはりそう上手くは行かないか……

 

「じゃあどうする?」

「こうさせて貰います」

 

 俺から少し離れていた清姫は軽く跳ぶと俺の唇に自分の唇を重ねようとする。

 

「ほい」

「んー!?」

 

 なので頭を手で抑えてそれを阻止した。

 

「な、何をするんですか!?」

「それは俺のセリフだ」

 

 大方キスをして愛の再確認とか言うつもりだったのだろうが、それで妄想が実現する訳ないだろう。

 

「そうです! 例え先輩の記憶が失われても、もう一度やり直せば……!」

 

「そうですわ。さあ旦那様、どうぞ私に「世界で一番愛してるよ清姫、もうずっと離さない」と言って下さい」

 

「先輩、私にです! 私に「マシュ、何処に行っても何時だって一緒にいるから、外の世界で暮らそう」って言って下さい!」

 

「ぜ、絶対盛ってるだろそのセリフ……」

 

「さあ、旦那様!」

「先輩!」

 

 振り出しに戻った気がする。他のサーヴァントは何をやっているんだろうか。そろそろ迎えに来ても……

 

(まさか、旦那は絶対帰ってくるとか言う夫婦の信頼か、もしくは例え朝帰りになろうと帰ってくるまで待つとか言う依存系なのか!?)

 

 もし俺の考えが当たっていたら前者にしろ後者にしろ、この状況で助けに来る事はない上に、もしオーダーチェンジでマシュか清姫と入れ替えたら浮気したとか思われて状況が悪化する。

 

「旦那様、後輩なんて青春の日々と消える者など忘れて私と永遠の愛を……」

 

「先輩、一緒に戦った特異点での戦い……その戦いの記憶こそ、きっと大切で素晴らしい出来事だった筈です!

 だから、私と今までの、そしてこれからの未来を、大切に……2人で一緒に過ごしましょう」

 

 どっちも重いんですけど……断ったら殺されるのが確定してるし。

 

 マシュなんてストーリー全部を使って告白してくるから、断ろうにも断れない。

 

「旦那様……迷う事など御座いません。貴方は私の旦那様、それ以上でもそれ以下でもありません。これは前世から決まっていた事なのです」

 

「世迷い言を! 先輩の妻として……足りない物はまだまだあると思いますが、それでも精一杯、寄り添って行きたいんです!」

 

「……よし、決めた」

 

 覚悟は出来た。俺は死を覚悟してその提案を口にした。

 

「……やっぱり他のサーヴァントに会いに行く」

 

「駄目です!」

「ええ、許しません」

 

「話を聞くだけだ。それとも俺の記憶、そのままにしておくつもりか?」

 

「で、ですが……」

「……ならばせめて私は着いて行きます」

 

 良し。これで漸く状況が変わる。

 

「じゃあそれで良い」

「あ、先輩! 私もご一緒します!」

 

 結局3人での行動と危険度に変わりがないが、俺は2人の気が変わらない内にと急いで他のサーヴァントの部屋に向かった。

 

 

 

「……いるか?」

 

 マシュでも清姫でも無いという部屋の前に立った俺は3回程ノックすると扉に向かって声を掛けた。

 

「……!?」

 

 ギィ、バタン! たった数秒の擬音だけで俺は扉の内側から出て来た住人に引っ張られた。

 

「お帰りなさいマスターお待ちしておりました帰ってくると信じてました他の女の匂いがしますけど構いませんさあ触れて私に触れて下さい激しくしても構いません痛くしても構いませんだから私に触れてその愛を証明して下さい、あぁぁ……マスターのお手が暖かいです」

 

 一言も返す事が出来ないままでいる俺の腕を掴んで離さないのは褐色肌の少女、静謐のハサンだ。

 

「あ……あのー」

 

「帰宅のお時間がだいぶ遅れてしまったようですけど浮気では御座いませんよね?」

 

 静謐のハサンは若干涙目ながらも俺の腕に頬ずりをする。

 

「もしかしたら妻なんて私には出過ぎた立場なのかもしれません。

 ですけど、私をお選びになったマスターの為にも精一杯お努めさせて頂きます」

 

 そう言って静謐はお盆に乗ったおにぎりを差し出して来た。

 

「マスターにしか食べる事の出来ない、いえ、マスターだけに食べて貰いたいおにぎりと沢庵です。

 私の手でたっぷり触れたので、食べた後の吐息で英霊すら殺せてしまう、一種の宝具と化しています……どうぞ」

 

 バレンタインデーを思い出す説明を聞きつつ、おにぎりをジッと見つめる。

 チョコが大丈夫だった以上、食べても死ぬ事は無いだろう。

 それでも怖いが――

 

「――そして、私が手で洗ったのでマスターにしか着れず使えず近寄れないお着替えです!」

 

 差し出されたキレイに畳まれたカルデア礼装。

 

「浮気撃退に持ってこいです。これを着ていれば浮気相手は死にます!」

「浮気どころか大量殺人犯御用達の服みたいだな、おい」

 

 幾ら何でも物騒なアイテムが多くないか?

 

「帰りの遅いマスターの事を想いながら家事をしているとどうしても文明の機器では無く、生前の様な手作業のほうが落ち着いてしまって……」

 

 照れた様な困った様な表情を浮かべているがやっている事が洒落になってない。

 

「さあマスター、どうぞご夕食を……」

 

「あ、いや……実は今、マシュや清姫にも俺が2人と結婚してるって言われて――」

「――間違いです。マスターは私以外とは婚約しておりません」

 

 そこだけはきっぱりと答えて来た。

 

「そ、そうは言うが……」

 

 チラッとドアへと視線を向けて漸くおかしな事に気がついた。

 

 清姫もマシュも部屋に入って来ないのだ。

 

「外の御二人には眠って頂きました」

「っな!? いつの間に……?」

 

「マスターの腕を掴んだ際に睡眠ガスの玉を投げて置きました」

 

 ちょっと何時もより攻めてませんか、静謐さん?

 

「……少し、本当はいけない事ですけど……私なんかがマスターの女性関係に妬けてしまうなんて……いけない事だと分かっているのですが……」

 

 静謐は何やら謝罪の言葉を呟いてはいるがそっと手錠を取り出した。

 

「マスター、妻が誰だか忘れてしまう程に他の女性の所で過ごすなんて、まるで……浮気です」

 

「だから! そもそも誰とも結婚していない――」

「――私との婚約、忘れないで下さい」

 

 静謐はあっさり接近すると俺の両腕に手錠を施し、俺の体を押して背中が壁に付くと有無を言わさずにキスをした。

 

「ん……っちゅぅ……ん」

 

 媚薬の可能性が頭に過るがキスをしても体が興奮する様子は無い。だが、静謐の舌はいつもよりも貪欲に動く。

 

「んぁ……ん……! ……っはぁ」

 

 漸く離した。

 

「忘れないで……下さい。

 私が……貴方の妻です……私には、貴方しか、いないんです…………」

 

 壁に背中を預けた俺に静謐は体を預ける様に抱き着いた。

 

「……ご飯にしますか? ……お風呂、湧いてますよ?

 …………それとも、私と……床をご一緒しませんか?」

 

 耳元に魔性の声でそう囁かると思わずコクリと頷いてしまいそうになった。

 

「あ、いや……」

「嫌……なんですか?」

 

 泣きそうな顔が答えを急かす。可愛いなこんちくしょう……

 

「そういう意味じゃなくて……ご飯で!」

 

 取り敢えず一番危険度の少ないご飯を要求しよう。

 このまま目覚めるまで安全に過ごせれば良いのだが。

 

「……まぁすぅたぁー?」

 

 この殺気である。

 

 思わず大事な所がヒュンっとなってしまう程の殺気を感じた。

 

「ほぉーら、清姫ちゃん、マシュちゃん? 起きて下さいまし」

 

 明るい声で部屋の中に連れて来た2人を起こして、今にもこちらに飛び掛かろうとしているサーヴァント、ランサーの水着タマモ。

 

 良妻を名乗る彼女と浮気と言う行為の相性は当然ながら最悪。

 

 浮気どころかハーレムのハの字すら赦さない彼女は間違いなく今もっと恐ろしい存在だ。

 

「う……た、タマモ、さん……?」

 

「マスター? ちょーっと、火遊びがお過ぎでは御座いませんか? 私という良妻がありながら後輩さん、清姫ちゃん、静謐さんと随分多くの方に色目を使ったのでは?」

 

「は、反省……じゃなくて! そもそも誰とも結婚してないって!」

 

「ほぉー……それはつまり、アレですか?

 『今フリーだから』と女を本気にさせて別の女の世話になってる事を隠す、クズ男の古典的な言い訳、でしょうか?」

 

「いやいやいや、誰とも遊んでないし!」

 

「全員本気とか、さっすがマスターですね。お仕置きが必要です」

 

 ああ、駄目だ……会話が出来ない……

 

「お覚悟、して下さいね?

 太陽神だろうが海の神だろうが、巻き込まれたくなきゃ股を抑えてさりやがれ、です!

 一夫多妻去勢拳(飛び蹴り)!!」

 

 

 

 目覚めた後、その日は全くと言っていい程に息子が立たなかったのであった。

 

 




FGOの新宿シナリオ、全然手を付けていませんので出来ればコメント欄でのネタバレはお控え下さい。

次回はどうしましょうか……

あ、最近ゴッドイーターになりました。海外なんでまともにプレイできませんけど。

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