ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回は主人公のキャラがブレてますが今回限りです、ご安心下さい。


ヤンデレ体験・ブリュンヒルデ

 

「……殺します」

「よし、今日のヤンデレ・シャトー終わりっ!!」

 

 あー、今日も起きたのに悪夢の記憶が無いなー

 きっと殺されたんだろうなー

 

 あ、エナミからメールが38通届いてる。昨日返信しないで寝たからなー

 

 さて、朝食でも作りますかー

 

 

 

 

「待て待て待て! 何を勝手に終わらせている!」

 

 アヴェンジャーが慌てて突っ込んで来たが俺は既に諦めている。

 

「だって、……困りますじゃなくて……殺しますって言ってるよこの人。無理無理、どう頑張っても終わってるだろこれ」

 

 アヴェンジャーの連れて来たサーヴァントはランサークラスの公式ヤンデレ、ブリュンヒルデ。

 生前愛した英雄シグルドを自ら殺意と共に燃やした逸話からシグルドに近い者、自分が好きになった者を殺そうとする危険なサーヴァントと化している。

 

「シャトー入る前から殺そうとしている相手にどうしろってんだ……」

 

 その場で寝っ転がった。生き残れる気がしない。脱力した。

 

「ええぃ、いじけるな! 安心しろ、開始地点は別だ」

 

「どちらにしろサーチ&デストロイだろうが!

 あーはいはい、精々がんばりますよーだ」

 

「っく……まさか此処までやる気を無くすとはな……」

 

「マスター……元気、出して下さい」

 

 

 

「やる気が、微塵も沸かない」

 

 俺はヤンデレ・シャトーに移されたが一向にやる気が沸かなかった。

 

「もうこれ殺されてゲームオーバーで良くないか?」

 

「…………」

 

 後ろを振り返る。誰か居たような気がした。

 

「? 気のせいか?」

 

 何もしない訳にはいかないので、俺はその場からゆっくり歩き始めた。

 

 

(マスター……なんて情けないお姿を……)

 

 覇気、所か生気すら感じられない歩き方をしている切大の後ろを狐耳があざとい巫女が音を立てずに歩いている。

 

 シャツを着てはいるが、その下は水着なランサークラスのサーヴァント、タマモは自らのマスターの情けない姿に涙を流していた。

 

(月での聖杯戦争や今までの人理修復で見せた生きる意思がまるで感じられません……

 なんて情けなくちっぽけな人間になってしまわれたんですか……!

 あれでは、私でなくとも他のサーヴァントもショックを受けて愛想を尽かし――)

 

「マスター、疲れているみたいだけど大丈夫?

 良かったらあたしに沢山、甘えたくない?」

 

 タマモが見てるとはいざ知らず、切大はライダークラスのサーヴァント、ブーディカと鉢合わせた。

 

「ブーディカさん……ぅん、いい、かな?」

「ふふ、素直でよろしい……さぁさぁ、入って入って」

 

(抜かった! 妙な感傷なんかに浸らず、マスターの弱っている心に漬け込んでしまえば良かった!)

 

「っは! まだです! まだ遅くはありません! 此処は先ずブーディカさんからマスターを奪って、私の持てる良妻力をフルに発揮してマスターの心を鷲掴みです!

 タマモ、ファイト!」

 

 タマモは急いで2人の入った部屋へと向かった。

 

 

 

「っぎゅ……」

 

 優しさに包まれるとはこの事か。

 部屋に連れて込まれた俺は現在進行形でブーディカの包容を受けていた。

 

 胸が当たるがそこにあるのは性欲や愛欲ではなく、子供を愛でる母性。

 頼光とは違い、独占欲の檻ではなく暗い気持ちを少しずつ溶かしていく毛布の様な暖かさ。

 

「お姉さんに一杯甘えていいからね……」

 

 これが本当に欲しかったとすら思えてくる。

 もう殺されるとか逃げるとか愛されるとかではなく、無償の優しさが嬉しくて、これ以上の愛など無い様に思えた。

 

「……」

 

 ブーディカは無言で俺を抱き締め続け、やがて、ポツンと呟いた。

 

「…………ねぇマスター、何か他にして欲しい事、ある?」

「……ん? いや、別に……」

 

「何か、して欲しいんでしょう?」

 

 俺を抱き締めるブーディカの様子が少しおかしい。

 

「ブーディカがいるだけで俺は嬉しいけど」

「……ふふ、そっか」

 

 嬉しそうに笑うと、俺を抱き締め直す。

 

「もっとだよね? もっともっと……優しく抱きしめてあげる――」

 

「――そこまでです!」

 

 扉を開いて誰かが、ランサーのタマモが入って来た。

 

「……邪魔者かな?」

 

「ブーディカさんがマスターを甘えさせようとその牛の様な胸でギューっとしたのはお見通しです……マスター、私も胸と尻尾に自身がございますよ?」

 

 そう言って着物をはだけさせるタマモ。

 

 胸の間に御札――視線がその谷間に釘付けになる。

 

「雌狐め!」

 

 ブーディカが魔力を放つ様に剣を振るった。

 慌ててタマモが防御し、俺の視線が胸から外れた。

 

「マスター相手に魅了を使うなんてね」

「弱気なマスターに漬け込んだ貴方には言われたくありません。大体、何ですかその手の甲、ナニを我慢していたんですか?」

 

 タマモの言葉に俺はブーディカの手の甲を見た。そこには傷があり、血が流れていた。

 

「マスターと密着して、お預けでもされましたか? お世話大好きブーディカさんも、マスターの前だと性欲魔人の様ですね?」

「っ! 黙って! 私は君とは違う!」

 

「生前の行いなんかにいつまで足を取られているのでしょうか? 私は私を受け入れてくれるマスター一筋ですので、浮気とかしませんしー?」

 

「流石、傾国の狐は言う事が違うね?」

「今も過去も暗い感情を気にしている貴女みたいにはなりたくありませんもの」

 

 ブーディカはそのタマモの言葉に我慢が出来ず、足が前に出た。

 

 しかし、その足元には御札が――

 

「――氷天よ」

 

 ブーディカの足を捉え、直ぐに凍てつく氷はブーディカを包んで凍らせて行く。

 

「ま、ます……たー……」

 

「邪魔者は退散です。

 さぁマスター! 次はタマモちゃんがハグして差し上げます!」

 

 凍ったブーディカを他所に、俺に近付いたタマモは抱き着いた。

 

「きゃー! マスターに抱き付けて、タマモ幸せです! もう一生離しません!」

 

 弱気な今の俺には先から起こっている事に頭がまるで着いて来ない。

 

「先ずは私の部屋までゴー、です!」

 

 俺を抱えてタマモは部屋の外へと急いだ。

 

「部屋に入る時はクイズに答えて開くロックのお陰で侵入に手間が掛かりましたが出るのは簡単! 一直線に走って出るだけです!」

 

 そんな事を言いつつドアを蹴り破った。

 

「だ・っしゅ・つー……成・功です!」

「……マスター、頂きますね」

 

「――っひぃ!」

 

 俺は小さな悲鳴を上げてしまった。

 タマモが抱えていた俺へと細い腕がスルリと伸びて、俺の頬に触れたからだ。

 

「勝手に私のマスターに触らないで下さいまし?」

 

 その細い腕を払い除けてタマモはブリュンヒルデと距離を取ると、彼女を鋭く見つめた。

 

「……マスターを、渡して下さい」

 

 魔銀の槍が現れ、輝いた。

 

「体験で出てきただけのゲストキャラに渡す程、私のマスターへの愛は軽くないですよ!」

 

 タマモはパラソルを出現させ、自ら開いた距離を詰める。

 

(戦乙女……戦闘特化のサーヴァントになんちゃってランサーの私では部が悪い……ですがこちとら記憶は無くとも聖杯戦争を勝ち抜いたサーヴァント! 負けてやるつもりは――)

「――無い!」

 

 パラソルを開いて突撃。後ろにいる俺からは僅かだが手に御札が握られているのが見えた。

 

「……っ」

 

 ブリュンヒルデは盾の様に巨大な刃の部分でその突撃を防ぐ。

 

「密天よ――集え!」

 

 しかし追撃に放たれたのは防御破壊(ガードブレイク)の密天。動きの止まったブリュンヒルデを風が飲み込む。

 

「っく……!」

 

 ダメージを受けながらも槍を振ってタマモのパラソルを弾いた。

 

(むぅ……決定的な隙を作る為の密天があまり効いていない……耐久はBランク以上って所ですか……呪術では大したダメージは与えられない)

 

「……致し方ありません」

 

 ブリュンヒルデは魔槍に炎を灯した。

 

「私の槍は愛する者を殺す槍……ですが、反英霊である貴方を愛する事は不可能……憎しみの炎で、焼かせて頂きます」

 

「そんな軽い槍で私のタマが取れるとは、思わないで下さいまし!」

 

 炎を纏った魔槍がパラソルとぶつかる。

 ルーン魔術で強化した槍はタマモを殺傷するのに十分な威力を付与されたのだ。

 

「はぁ……」

「おりゃ!」

 

 突くのに不向きな魔槍は振り上げ、振り払われ、逆に突きの威力が高いパラソルは線の攻撃を防いで点を突く機会を探る。

 

「炎天よ――」

 

 不毛な槍撃の境で放たれる炎。

 

「頂きます」

 

 しかし、ブリュンヒルデが魔槍で炎に触れるとそのまま槍へと蓄積される。

 

「人様の炎を取ってパワーアップですか!」

 

 呪術で消費できる魔力に限りのあるタマモは悪態を吐く。

 

(マスターを殺させる訳には参りません。て言うか、殺される位なら私が殺しちゃいたいです!)

 

「氷て――」

「させない!」

 

 ブリュンヒルデはタマモの次に放つ一撃を理解するとその妨害に走った。

 

「っく!」

 

 妨害が間に合った槍をどうにかパラソルで受け止める。

 

「氷天で消火は出来る様ですが、簡単にはさせてくれませんか……!」

 

 再び槍の範囲。

 線の攻撃に特化した魔銀がタマモを狙う。

 

 パラソルで受け止めるが足に力を込めて跳ぶ前にブリュンヒルデの追撃。

 距離を開かせない為に攻撃は一向に止まない。

 

「し、しつこ、い!」

「逃さない……!」

 

 炎の熱が肌を焦がす接戦。タマモの動きが徐々に鈍る。

 

「ジリ貧は御免です!」

 

 パラソルを開いての無理矢理防御。

 

「密天よ――!!」

「っぐ……っぅう!」

 

 ヤケクソ気味に御札から放たれた風は、ブリュンヒルデの腹部へと直撃し、吹き飛ばした。

 

「氷天よ――」

 

 タマモは倒れたブリュンヒルデを凍らせる。これで彼女は動けないと確信し、追撃を狙う。

 

「砕――」

「魔力を……!」

 

 それより早く自らの閉じ込めた氷を、魔力による炎の熱気で内側から溶かしたブリュンヒルデは槍を真っ直ぐ構えるとそのまま突撃した。

 

「炎の乗せられていない槍なんて――!?」

 

 パラソルで受け止めたタマモは今までにない槍の手応えに驚き、目を見開いた。

 

「っく……! あ、貴女! まさか、マスターに向かって突撃を……!?」

「マスター、マスター……ますたぁ……!!」

 

 恐怖で顔が引き攣った。

 タマモに阻まれている筈なのに彼女はその後ろにいる俺を真っ直ぐ見つめている。

 

「っ……!?」

 

 受け止められていた槍がパラソルの下にスルリと入る。

 

 そしてそのまま槍はタマモの右足へと刺さる。

 

「っぐぁ……っくぅ!?」

 

 痛みに意識を向けたタマモをすかさず蹴り飛ばした。

 

「……漸く、辿り着きましたね。マスター」

 

 タマモの立ち上がらない内にと、ブリュンヒルデは俺に近付く。

 

「っく……、来るな!」

 

 俺は右手の令呪を見た。そうだ、さっさと自害させれば……!

 

「駄目、です……」

 

 目で追い付けない速度で近付いたブリュンヒルデは俺の令呪の上に御札を貼った。

 

「対魔の札……タマモさんから拝借させて頂きました」

 

 そう言うとブリュンヒルデは俺を抱き締める。

 

「もう離れません……マスター」

 

 お休み下さい、囁かれた俺は急な睡魔に抗う事なく意識を閉じた。

 

 

 

 無理矢理眠らされた俺をブリュンヒルデが運ぶ。

 

 部屋らしき場所に横向きで置かれた様だ。正直、いつ殺されるか分からないのでこの時間はただの恐怖でしかない。

 

「……お目覚め下さい」

 

 耳元で囁かれ、ふっと目が覚めた。辺りを見渡せばブリュンヒルデの部屋で間違いない様だ。

 当然ながら、ブリュンヒルデは俺を見つめている。

 

「……殺さないのか?」

「随分、変わったお目覚めの挨拶ですね……」

 

 俺の問に冗談めいた答えを返すブリュンヒルデ。

 

「夜食か朝食かと言うには曖昧な時間ではありますが、食べますか?」

 

 彼女の服装を見ると、黒いセーラー服の様な衣装の上に白と黄色の、家庭的過ぎるエプロンを着ていた。

 

「……」

 

 机からいい匂いがする。トマトソースの様な、それよりも香ばしい匂い。

 

「ラザニアです……朝食にしては重い料理ですので、夜食としてお食べ下さい」

 

「食べる料理で夜食に変化するのか……便利な時間帯だな」

 

 皮肉交じりにそう言った俺は机に座る。ブリュンヒルデは丁寧にラザニアを切り分けると俺の皿に置き、皿の横にカップを置いた。

 

「……コーヒーです。朝食のお供に、どうぞ」

「……」

 

 もはや突っ込むまい。

 

「ブロッコリーと玉ネギと一緒に炒めた牛ひき肉をトマトソースに入れ、その上にホワイトソース、ラザニアの生地、ハムチーズの順番で3層重ねました」

 

「美味しいけどさ……食べないの?」

 

「……よろしければ、ご一緒させて頂きます」

 

 ブリュンヒルデは音を立てずに、俺の横に座った。

 

 思っていたよりも随分と理性的な行動に戸惑う。正直タマモが敗れた時点で死だと確信していたのに。

 

「…………私は私の愛する者を殺す英霊です。ですが、今のマスターは、殺す(愛する)のに相応しい方ではありません」

 

「……」

 

 ブリュンヒルデの挑発めいた――恐らく事実を口にしただけなんだろうが、その言葉に怒るべきかホッとするべきか分からない。

 体がダルい。

 

「保身に走るお姿を否定する訳ではありません。ただ、それは唯の人、英雄の行いではありません」

 

「そーですか」

 

 彼女の言葉が耳に痛いが、まともに言葉を返すだけの元気が出ない。

 

「ただ……」

 

 頭を両手で抑える。

 先から、急に風邪の様なダルさを感じる。ブリュンヒルデの言葉が頭に入ってこない。

 

「……他のサーヴァントに甘えていたマスターのお姿は……羨ましいと思ってしまいました」

 

「っはぁ……っはぁ……」

 

 べ、ベッドに行きたい……

 

「辛そうですね……私が寝床までお連れします」

 

 そう言って俺を抱き抱えたブリュンヒルデはベッドまで俺を連れて行く。

 

「あ、ありがとう……」

「いえ……」

 

 丁寧な手付きで毛布を掛けられる。

 

「はぁ……こんな事をして申し訳ない気持ちで一杯……なのに、マスターに頼られる事で得られる満足感……」

 

「ぶ、ブリュンヒルデ……薬とかある?」

 

「はぁい、マスター……直ぐにお待ちします」

 

 心地の良い足音が響く。ブリュンヒルデが近付く。

 

「お薬です、マスター」

「ん……ありがとう」

 

 俺がお礼を言うと、貰った薬を飲んだ。

 

 だが、貰った薬を飲んでも一向に眠れる気がしない。

 

「……手を握っても、いいか?」

 

 

「! 駄目、です……! もう、限界……です!

 ああ、マスターの弱ったお姿が愛おしい!

 英雄らしからぬ、保身に走る生き汚いお姿が愛おしい! 

 ――ああ、私はマスターを」

 

 

「――愛したい(殺したい)

 

 




エナミの出番があると思った方、残念ながらありませんでした!


そろそろこの小説も1年が経ちます。UA50万突破が先か、1周年が先か……どちらにしろ結構前からやるやると言っていたお礼企画をさせて頂きます。25日の活動報告をお待ち下さい。

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