ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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1周年を記念して全キャラ書こうとか思ったけど、気が付いたらなんか普通のヤンデレ・シャトーになってました。

まあ、お礼企画があるから良いですよね。(良くない)


ヤンデレ・バースデー

 

 

「……なんだこれ?」

 

 いつも通りの悪夢の中、の筈が何故か派手に飾り付けられたパーティー会場の様な場所に迷い込んでいた。

 

「来たか、岸宮切大」

 

 珍しい事に俺の名をフルネームで呼んだのはアヴェンジャーだった。

 

 普段のマントは外しており、パーティー会場と合わせたのかその姿は召喚された時の姿そのままだ。

 

「今日は貴様の誕生を祝う宴を用意した」

「俺の誕生日? あ……!」

 

 そうか、明日が俺の誕生日だと思っていたが、悪夢の中ではもう午前0時だ。

 

「まあ、ただでは祝わんがな」

「だろうな。で、今日もヤンデレか?」

 

「当然だ。全員がこのめでたい日に貴様の貞操を狙いに来るだろうな」

「いつも狙われてるけどな!」

 

 結局何も変わってない事にツッコんだ。

 

「パーティー会場まで捕まらずに来い。ヤンデレ共の数は7人。どうだ、縁起の良い数字だろ?」

「……年の数とかよりマシか」

 

 普段が多くても5人とかだったので増えてはいるが、最早何も言うまい。

 

 

 

「マイルームからスタートか……」

 

 パーティー会場から恐らく一番遠いマイルームに転移された俺は、ベッドから起き上がるとさっさと扉を開いて出ていこうとした。

 

「先輩、起きていらっしゃいますか?」

 

 しかし、俺より先に扉が外の人物によって開かれた。

 扉を開いたマシュ・キリエライト、シールダーのサーヴァントと対面した。

 

「あ……! ちょ、丁度起きた時でしょうか!」

 

 部屋に入ってきたマシュは慌てて片手を背中に隠した。いや、隠さなくてももう合鍵とかもう慣れたし。

 

「先輩、ハッピィーバースデー!

 誕生日おめでとうございます」

 

「ああ、ありがとうマシュ。所でその鍵は――」

「こんなに素敵な日は他にありませんねっ!」

 

 俺の指摘を強引に遮る。

 

「……えっと、俺に何か用か?」

「っ! はい! 先輩に日頃の感謝の気持ちを込めて、プレゼントをご用意しました!」

 

 マシュはそう言うと綺麗に包装された小さな箱を取り出した。

 

「受け取ってもらえますでしょうか?」

 

 さて、どうする?

 

 受け取らなければ病むのは間違いない。しかし、開けば何が起こるか分からない。最悪、浦島太郎の玉手箱の如く、開いた瞬間に煙状の薬品で眠らされるなり、発情されるなりするかもしれない。

 

「ありがとう。後で開けてみるよ」

「え?

 ……いえ、この場で開けては貰えませんでしょうか?」

 

 マシュの目が明らかに鋭くなった。下手な回答ではマシュは一気に覚醒するだろう。

 

「あはは、情けないんだけど女の子の後輩から贈り物なんてされた事無いから、開けたら泣いちゃうかもしれないんだ」

「……そ、そうです、か……」

 

「だから、コレは後で1人で開けるよ。ありがとう、マシュ」

「は、はい……先輩がそう言うのでアレば……」

 

 俺の言葉にマシュは明らかに動揺している。笑顔ではあるが、あれは罪悪感から来る苦しそうな笑顔だ。

 

 やはり何か仕掛けていた事を確信しつつ、ベッドの上にそのプレゼントを置くと俺は部屋から出た。

 

「先輩? どちらに行かれるんですか?」

「ん? なんかパーティーがあるって聞いたから、その会場に行くけど?」

 

「パーティー……ですか?」

 

 何故か俺の言葉にマシュは不機嫌になった。もしかして、パーティーはNGワードだったか?

 

「そうですか……私も、ご一緒しますね?」

「お、おう……?」

 

 俺のポケットの中にはアヴェンジャーの用意したであろうメモが書いてあった。

 

 パーティーはカルデアの多目的ホールで行われるらしく、そこにつくまでに7騎のサーヴァントがいるようだ。

 当然、マシュもその内の1人だ。

 

「……こっちか」

 

 

「あらマスター、ごきげんよう?」

「奇遇ね。ちょうど貴方に会いたかった気分なの」

 

「ステンノさん、エウリュアレさん……」

 

 鏡の様にそっくりな姉妹のサーヴァント、アサシンのステンノ、アーチャーのエウリュアレに出くわした。

 

 この2人は男を虜にするチャームを持つ。ヤンデレになってもその能力は健在なので恐ろしい存在だ。

 

「今日は貴方の生まれた特別な日だって聞いて」

「私達が直々に弄び(愛で)にきてあげたわ」

 

「……先輩にまた難題を押し付けるつもりですか?」

 

 マシュは険しい表情を2人に向けて俺の前に立った。

 

「いえ、そんな事はしないわ」

「そんな怖い顔をしないで、メドゥーサも今はいないから、私達じゃマシュの相手も出来ないわ」

 

「だったらそこから退いて下さい」

 

「ええ、直ぐに退いてあげるわ」

「じゃあね、マスター?」

 

 ステンノとエウリュアレはその場から去っていく。去り際に、投げキスとウィンクをして。

 

「……何だったんでしょうか、あの二人目は? あ、パーティーに行くんでしたね。先輩、行きま――」

「エウリュアレ!」

 

 俺は、マ――エウリュアレを抱きしめた。

 

「ひゃ!? せ、先輩!? な、なんですか急に!?」

「急に、エウリュアレが恋しくなって……ああ暖かいよ、エウリュアレ」

 

「……先輩?」

 

 俺は衝動のままマ――エウリュアレの肌の温度をこの手で感じる。暖かく、柔らかい。

 

「エウリュアレの匂い……甘い」

「先輩! 正気に戻ってください! 私はマシュ・キリエライトです!」

 

 ああ知っている。彼女がマ――エウリュアレである事は。

 少し強引だったかもしれないが、嫌がる彼女は本気で嫌がってい――嫌がってはいない。これは彼女の望みだ。

 

「あ……!? せ、先輩……首、舐めて……!?」

 

 甘い匂いに誘われてエウリュアレの首を舐める。

 

「思ったより、不愉快ね」

「……す、ステンノさん……!」

 

「じゃあ、楽しんで貰ったようだし、今度は私達が楽しませて貰うわ」

 

 しまった――指の鳴る音を合図に俺は正気を取り戻した。

 

 どうやら俺はまたエウリュアレの魅了に掛かってしまったようだ。

 

「全く……何で私がマシュなのかしら?」

「ふふ……文句を言わないのエウリュアレ。貴女はこれでマスターの後輩よ?」

 

「先輩っ! 正気に戻ったんですね?」

 

「……エウリュアレ(・・・・・・)、魅了するのも程々にしてくれないか?」

 

 俺は、薄い紫色の髪のメガネを掛けた美少女、エウリュアレにそう言った。

 

「じゃあ、俺パーティーに行かないと行けないから……あれ、マシュは?」

「せ、先輩!? ま、マシュは私です! マシュ・キリエライトです!」

 

 何を言っているんだこのヤンデレサーヴァントは?

 流石に魅了された俺でもそれくらいは簡単に嘘だと分かる。

 

「マスター、私達がご一緒しますね?」

「所で、何処に行く気なのかしら?」

 

「何だ、マシュもステンノも一緒にいたのか。誕生日パーティーの会場に行く様に言われたんだけど」

 

「パーティー……? ああ、メドゥーサが準備に連れて行かれたアレね……」

「何で態々他の女性サーヴァントが集まっている場所に行かないといけないのかしら?」

 

 どうやらマシュとステンノもパーティー会場へ俺を連れて行くのは反対らしい。

 他の恋敵がいる場所に態々連れて行くのにいい顔をする訳がないか。

 

「ステンノさん、エウリュアレさん! 先輩に何をしたんですか!?」

 

「あら、まだいらしたんですか? 後輩さん?」

 

 俺はエウリュアレに視線を向ける。

 彼女は人間を魅了するチャー厶を持つサーヴァントで、理由は知らないが俺を先輩と呼んでいる後輩キャラ。

 

 マシュとステンノは大した力を持たないか弱いサーヴァント。ステンノはS気味のお姉さんで、マシュはツンデレ。

 FGOで最初からいるメインヒロインだ。

 

「先輩! ステンノさん達に魅了されているんです! 記憶を改竄されてますよ! しっかりして下さい!」

 

 エウリュアレが滅茶苦茶を言っている。いや、流石に2人がイタズラ好きでも記憶を改竄したりしないだろう。

 

「仕方ありません。マスターが望んでいるのでしたら私達もパーティー会場までご一緒します」

「ええ、そうしましょう」

 

「別に着いて来なくてもいいぞ?」

「あら? 私達がいると何か不都合でも?」

 

 ステンノが俺の言葉に威圧しながら返してくるので、俺は諦めて歩き始めた。

 

「せ、先輩! ……私も行きます!」

 

 こうして、4人での移動が始まった。

 

 

 

「このメモだと……次はここを曲がるのか」

 

 曲がり角を曲がった先の廊下、その右側には部屋がある。

 

「……次は誰だ……」

 

 既に左手のみならず、メモを持った右手すらマシュとステンノに抱き着かれ占領され、後ろからは盾を持ったエウリュアレの視線で殺されそうになっている。

 

(先輩に掛かった洗脳を解除するには術者を倒すと言う方法も考えましたが、魔術的な手段で解除できるサーヴァントに頼めるのであればそちらで行きましょう)

 

 誰も来ない事を祈りつつ部屋の前を通り過ぎる。

 

「…………? ふぁ……」

 

 急に眠くなった。俺はその場で立ち止まり目を擦る。

 

「……あらあら……すでに魅了に掛かっているなんて……可哀想なマスターさんね。

 大丈夫よ……私がすぐに解除してあげるわ……」

 

「っげぇ……め、メディア……か……?」

 

 面倒な相手を目にして落ちそうになる意識を覚醒するために、俺は足を抓る。

 だが、やがて腕からも力が抜けていく。

 

「嫌がるなんて、酷い殿方……大丈夫、誕生日に最高の贈り物をしてあげますからね?」

 

 メディアがそう笑うと俺は限界を迎え、その場で倒れた。

 

 

「魅了は解除しましたし、後は私の愛の記憶を脳に焼き付けるだけ……ふふ、マスターの誕生日なんて素敵な日に私達は結ばれるのね……」

 

「っはぁぁぁ!」

 

 マシュ――正真正銘のマシュ・キリエライトの声がメディアに突撃した。

 

「っ……!? な、何故!? 私の夢人形に相手を任せた筈……!」

「趣味が悪いですね……私の求めた先輩に変化する人形だなんて……ですが、十数分前に似たような事を味わった私には通用しません! 没収させて頂きます!」

 

「結局欲しがってるじゃない! あの人形は私の最高傑作、本物も人形も渡しません!」

 

 言いながらメディアが放つ魔弾をマシュは盾で防ぎ切る。

 曲弾すら盾を捌いて防いだマシュは、魔弾の切れる頃合いを見図ったが止む気配の無い弾幕に突撃を決意する。

 

「――っは!」

 

 地面を蹴ってメディア目掛けて走り出す。

 軌道を変えて魔弾が迫るが無視してただただメディアへ突撃する。

 

「なら、これならどうかしら?」

「っ!?」

 

 メディアは意識を失い地面に倒れた自分のマスターを糸状の魔力でマシュへ見せ付ける。

 

 突撃を続ければマスターを傷付ける事になると理解したマシュは慌てて自分にブレーキをかけて――

 

「っく――っ!!」

 

 ――そのまま跳んだ。

 マスターを飛び越え、メディアの頭上で天井を踏みつけた。

 

「っな!?」

「これで――」

 

 慌てて魔力の障壁を形成するが、落下のタイミングで腰の剣を取り出したマシュは障壁を一閃。

 

「――終わりです!」

 

 盾で崩れた障壁の先にいるメディアを殴り倒した。

 

 

 

「――先輩!」

 

 目が覚めるとマシュが目の前にいた。

 

「えーっと……何がどうなって――」

 

 絶句した。マシュの盾に赤い物がこびり付いているからだ。

 

「良かった……洗脳も解けたんですね、先輩!」

「あぁ……所で、その血は……?」

 

「これですか? メディアさんが先輩に悪さをしたのでちょっと盾で殴ったんですけど、峰打ちに失敗してしまって……」

 

 マシュは恥ずかしそうに顔を赤く染める。見れば地面に頭から血を流して倒れているメディアがいる。消滅していないので死んではいないだろう。

 

「ひゃっ!? も、もう……マスターったら……」

「すっごく気持ち良さそうな顔しちゃって……女神に絞られるのがそんなに良いのかしら……?」

 

 何故か目を閉じたままエウリュアレとステンノは幸せそうだ。

 

「あの御二人はメディアさんの幻覚であの調子です。人形は没収したんですが……」

「……ほっとこう」

 

 俺は深く考えるのは諦めて、寧ろチャンスだと思ってこの場から立ち去る事にした。

 

「あ、先輩! 待って下さい!」

 

 

「誕生日、おめでとうございます!」

 

 休む間もなく次のサーヴァント、セイバー・リリィが現れた。

 

「あ、ありがとう……」

「えへへ……マスターさん、また大きくなっちゃいましたね!」

 

 所で、出会い頭に抱き着くのはやめて貰えないだろうか? 後ろにいるマシュさんの視線が明らかに厳しい物……いや、最早殺気を含んでいる。

 

「それでは、私の部屋でぜひ乾杯して行って下さい!」

「先輩! パーティーの会場まですぐ近くです! 急ぎましょう!」

 

 マシュは俺の手を引いてリリィから離れようとする。

 

「パーティー……ですか?」

「何か問題でもあるのか?」

 

 俺がそう聞くとリリィは俯く。

 

「……嘘ですよね?

 マスターさん……冗談ですよね?」

「え?」

 

「他の女性が集まっているパーティーに、私の誘いを断って向かおうだなんて……嘘ですよね?」

 

 リリィは言いながらもカリバーンを出現させ、握る。

 その目に光は灯っていない。

 

「マスターさんは、私と一緒にいてくれますよね? 私の事、蔑ろになんて、しませんよね?」

 

「リリィは来ないの?」

 

「…………ご一緒して、良いんですか?」

 

 振り上げかけていたカリバーンが下がる。

 

「その方が楽しいだろ?」

「……はい!」

 

 セイバー・リリィはカリバーンを消してまた笑顔で抱き着いてきた。

 

「リリィさん、先輩に抱き着き過ぎです!」

「マシュ……さん?

 マスター、もしかしてマシュさんも誘ったんですか?」

 

 またしても声のトーンが下がる。耳元でそんな声を出されると思わず恐怖で足が竦んでしまう。

 

「そうだけど……何か問題でもあるか?」

 

「……いいえ、マスターが良いのであれば、私はそれに従いますが……

 そうやって誰にでも思わせぶりな態度を取らないで下さいね? 本命である私と勘違いしてしまう人達が悲しみますから、ね?」

 

「リリィさん!」

 

 マシュがセイバー・リリィを引き剥がした。

 

「マシュさん……ふふふ、大丈夫ですよ? マスターをお迎えした暁には、偶にマスターを少しだけお貸ししますよ? 未来の私と、ランスロットさんみたいな間違いが起こらない様に……」

 

 マシュとリリィが険悪な雰囲気になっているが、俺は2人を置き去りに先を急いだ。

 

 

 

「マスター、誕生日おめでとう」

 

 此処でまさかの初登場キャラが現れた。て言うか引いてからもう大分経ってるんですけど……

 

「お祝いの為の料理を作ったの! 食べてくれるわよね?」

 

 お姉さん口調、と言うか世話焼きな人なのだが身長的な意味で俺はその人を見下ろしていた。

 

 キャスターのサーヴァント、エレナ・ブラヴァツキー夫人。身長は145cm。

 

 魔術師としては天才だが、バレンタインデーのチョコがUFO型で飛行能力を有するなんてトンデモ料理を作った事がある人物だ。

 

「えーっと……俺これからパーティーに行くから食事はちょっと……」

「駄目よ! 誕生日に栄養バランスの悪い物を食べて寿命を縮めるつもり!? 私の作った料理の方が健康にも良いし美味しいわ!」

 

 その小さな腕で俺を引っ張れるのは流石サーヴァントと言うべきか、部屋へと連れてこられた。

 

「さぁ、召し上がれ!」

 

「召し上がれって……」

 

 予想通りと言うべきか、オムライスらしき物が飛行しており、ハンバーグらしき物が皿の上で浮きながらゆっくり回転している。

 野菜だけは普通かと思ったが、盛り皿の中で風もないのに小さく揺れている。

 

「……無理じゃね?」

「そんな事無いわ! 待ってなさい、今捕まえてあげるわ!」

 

 小さな網を手に持った大佐人形がオムライスを確保し皿に戻した。

 ハンバーグは浮いたままだが、仕方ないので少しだけ頂く事にした。

 

 一応、アトラス院礼装に着替えておいた。

 

「い、頂きま――」

「はい、あーん」

 

 椅子に座った俺が取ろうとしたスプーンを取ったエレナはオムライスを掬うと俺に突き出した。

 

「……あーん」

 

 先まで元気一杯に動いていたオムライスを口に含んだ俺をエレナは嬉しそうに見つめる。

 味は決して悪くは無いが、やはり先のインパクトのせいか、口の中で動いているんじゃないかと思うと気分は宜しくない。

 

「さあ、次はハンバーグよ!」

 

 大佐人形に抑えてもらいながらスプーンで切ったハンバーグ。こちらも味はいいのだが、やはり先の浮いている光景が味を正確に認識させてくれない。

 

「……美味しい……ね」

「でしょう! もっと食べても良いわよ!」

 

「あ、でも……やっぱお祝いの席で食べたいし……」

 

「……何よそれ……私の手料理よりも……パーティーの、他の女の料理が良いって言うの……?」

 

 やばい、覚醒させてしまったか? 思わず身構えた俺だが、エレナはその場で座り込んだ

 

「……っぅ……ひっく……そんな……ひどぃ……!」

 

 泣き出した。両手を目に当て流れる涙を拭いながらも涙は止まらない。

 慰め始めた大佐人形がこちらに非難の視線を浴びせる。

 

(えぇ……何、俺が悪いのこれ? て言うか、演技じゃなくてマジで泣いてるのか?)

 

「私……やっぱり、いらないサーヴァントなのね……幼児体型だし……」

「いや、そこまで言ってない」

 

 さて、どうしようこのサーヴァント。ヤンデレっていうか相手をするのが面倒なだけな気がする。

 

「じゃあ、明日また食べに来るからオムライスとハンバーグ残して置いてくれよ」

 

 取り敢えずそれだけ言い残すと俺はドアノブを手で握った。

 

「…………ちぇ、引っ掛からないか」

 

 彼女がそう呟いた瞬間、俺の体は浮き上がり天井に引っ張られる様に貼り付けられた。

 

「どうかしら? これがマハトマ式捕縛術よ!」

「どう考えてもキャトルミュー……」

 

「女の子の涙に言葉も投げかけないなんてマナーのなっていないマスターね。教育が必要よ」

 

「……せんせー、どう考えても天井と先生の身長が合ってないんですけどー?」

 

 天井が約2,50mなので手を伸ばそうと届かない。

 

「……じゃあ、床に固定してあげる」

 

 天井から離れた俺の体は1回転させられ、床に背中を向けた体勢でまた不思議な力で貼り付けられた。

 

「ふふ、これでもう弄り放題ね?」

「なんか、小人に縛られたガリバーの気持ちだな」

 

 ガリバーと違って自力で拘束を破れないけど。

 

「さ、さっきから小さい小さいって……遠回しに私をバカにして! 私だって生前は夫人よ! 大人のテクニックで骨抜きにしてあげるんだから!」

 

 エレナは頬を膨らませつつこちらに近付く。俺は脱出を試みた。

 

「この拘束術は外部から永続的に縛られているタイプと見た! 【オシリスの塵】!」

 

 予想通り、無敵状態を付加するスキルを俺自身に発動させた途端、体は自由になる。

 

「あ、ちょっ、待ちなさい!」

「待たない! カルデア戦闘服、【ガンド】!」

 

 ガンドをお見舞いした俺は急いでその場から立ち去った。

 

 

 

「危なぁ……流石に未知との遭遇は焦った……」

 

 一息着いた俺の前に漸く多目的ホールが見えた。

 

「あそこがゴールか」

 

 俺は足早に廊下を駆け抜ける。他にサーヴァントもいない。これで俺の大勝――

 

「マスター……!」

 

 残り数歩の所で背中に抱き着かれ、動きが止まった。

 て言うか、この声は……

 

「……せ、静謐……」

「マスター……漸く来てくれた……!」

 

「な、何で静謐が此処に? て言うか、多目的ホールでパーティーがあるんだろ? 何で入り口で待ち伏せしてる訳?」

 

「……パーティーの準備を手伝うと、邪魔になるから追い出されました」

「あぁー……」

 

 静謐のハサンは全身毒のアサシンだ。料理どころか皿洗いやテーブル拭きですら事故に繋がりかねない。サーヴァントの中には暗殺や毒で死んだ王様とかもいるしあまり良い印象は持たれないかもしれない。

 

「なので……私、拗ねました。マスターを独り占めしたいです……」

 

 頬を若干膨らませて怒っている事をアピールするハサンの頭をポンポンと撫でる。

 

「そう言わずに、な? 俺が許すから一緒にパーティーを楽しもう、な?」

 

「……むすぅ……」

 

 しかし、彼女はまだ怒っているようで、俺に抱き着いたまま一向に離れる気配がない。

 

「参ったな……」

 

「先輩! 見つけましたよ!」

「マスターさん! 何故静謐さんに抱き着かれているんですか!? 私を裏切るんですか!?」

 

「……女神の魅了、今度は本気でやらせて頂くわ」

「もう絶対逃げられない設定を練ったわ!」

 

「マスター! 私に魔術で挑んだ事、後悔させてあげる!」

 

 メディア以外の全員が俺へと向かってくる。

 

「な、なんだか沢山来てます……!」

 

「カルデア礼装、【瞬間強化】!」

 

 驚いて静謐が離れたと同時に瞬間強化で多目的ホールに手を伸ばし、俺は脱兎の如き勢いで扉を開いて中に入った。

 

「おっしゃぁ! 漸く辿り着いた!」

 

 

 

「遅過ぎたな。もうパーティーの時間は過ぎたぞ」

 

 パーティー会場に入った筈の俺の前にあったのは、監獄塔の背景とアヴェンジャーのみだった。

 

「」

 

「他のサーヴァント達もガッカリしていたが、まあ仕方あるまい。

 せめてモノ情けだ。用意してやったケーキは現実に届けてやる」

「え、マジで!?」

 

「ふん、料理の上手いサーヴァント共が作った力作だそうだ。心して食うがいい」

 

 

 

 

 

「……って言ってたけど、俺のベッドの側には無かったし、冷蔵庫の中も机の上にもない……期待したけど、やっぱり夢かぁ……」

 

 ちょっとガッカリしつつも朝食を作り始める。

 

 暫くすると、玄関のチャイムがなった。

 

「……エナミか……30分位早いがあいつ、俺の誕生日だから何か仕掛けて来やがったか?」

 

 俺は確認もせずに扉を開いた。

 

「…………へ?」

「お、お届け物です……マスター」

 

 扉の前に、ケーキの入った箱を持ってきたのは静謐だった。

 

「それと、今日は一日中……お邪魔します」

「い……いやいや待て待て! どう考えてもアウト! 家にタイツ姿の褐色美女とか置いてけない!」

 

「大丈夫です。私はマスター以外の方には見えませんし、毒も今だけ無効化されてますから」

 

 どうしようかと悩む俺。だが、外に放り込むのは気が引ける。最近は暖かくなったとは言え見た目タイツだけの静謐を、他の誰にも見えないとは言え外に放って置くのは……

 

「せーんーぱーい? 私を差し置いて、何で他の女と話してるんですか?」

 

 悩む俺に怒りの表情のエナミが更に爆弾を投下した。

 

「見えてるし!」

「“マスター”でしたら誰でも見えます」

 

「あれー、いつぞやのサーヴァントさんじゃないですかー……先輩? 遂に実体化させましたか? 私では物足りないので二次元嫁を実体化させたんですね?」

 

「えぇい! 事情は説明してやるから取り敢えず2人共中には入れ!」

 

「お、お邪魔します…………

 あ、マスター、1つだけ言い忘れている事がありました」

 

「な、なんだ? まだ何か――」

 

 振り返った俺の唇に、静謐はそっとキスをした。

 

「――ッチュ。お誕生日、おめでとうございます」

 

 




現在活動報告でお礼企画を開催しています。
そちらをよく読んで、ご要望があれば本サイトのメッセージで自分に直接送って下さい。

1年間、ありがとうございました!
これからも頑張って続けて行ければと思っていますので、どうか応援宜しくお願いします。

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