ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
遅くなって申し訳ありません。次回の投稿はどうなるか分かりませんが、なるべく早く投稿したいと思っています。
「ふぁぁ……眠ぃ……」
「って、説明中に眠るな! 人の話を聞け!」
数日前に、俺の夢の中にゲームのキャラクター、アヴェンジャーが現れました。
なにやらヤンデレやらシャトーやら専門用語が飛び交う酷く長い説明(数分)が行われた。
その後に別の場所――今思えば監獄の様な薄暗い上に手入れも何もされていなかった石造りの建物に移され、眠気に従って寝ていたらよく分からないまま何かをクリアしてしまったようだ。
それから数日経ったある日……
「久しいな、仮初のマスター」
「あー……彼氏面の人!」
「違う! アヴェンジャーだ!」
今回ばかりは真面目に説明を聞こうかなと思いつつ、眠い目を擦りながら彼の話を聞く事にした。
要約すると、俺はヤンデレに襲われる場所に送られてた。
だけど寝た。
女性サーヴァントが3人しかいなかったので幸運にも寝ている間に誰も死なずにクリア出来た。
よろしい、ならばエクストラだ。
……みたいな感じらしい。
「でぇ……今から?」
「いや、今回は告知だ。
前回の反省を活かして、お前が睡魔に襲われていない時にやらせてもらう」
「ふぅーん……じゃあ寝る」
俺はこれ以上小難しい話を聞きたくないと微睡みに逃げ込んだのだった。
友人に誘われて、マイペースな俺はマイペースにFGOをプレイしていた。
最初はアニメを勧められ、見た通り、薄っぺらい感想を言ったら友人に思いの外喜ばれアプリゲームの存在を教えられた俺は、丁度魔法少女のイベント中にゲームを始めた。
友人曰く、何時も眠そうなお前が全話見るなんて中々無いから、きっと俺に向いた作品だと言っていた。
「あのアニメ、忙しいし専門用語多いし設定も長い。なぜ願いを叶える条件を7つの玉集めにしなかった。そっちの方が分かりやすい。
あとアレが向いてる人間て、まるで俺が痛い設定好きな中二病みたいじゃないか」
って友人に言ったら数日間口を聞いてくれなかった。何故だ。
女の子は可愛いが、もっとほのぼのした物が良かったなぁとか思った。
さて、そろそろ現実に目を向けるべきか。
「マスター、おはようございます」
「えへへ、マスターさん、おはようございます!」
「マスター、おはよう」
……なんだ、まだ夢の中か。寝よう。
「それで、君達は何なの?」
残念ながら俺の分しか俺が用意できなかった朝食を、食べる必要は無いと言って断った3人からお話を伺いながら食べる。
必要無いといった割には白い髪の女の子は涎を垂らしながら俺のクラブハウスサンド(トマトのマヨネーズ和えと卵焼き)を見つめているけど。
「貴方のサーヴァントです」
「サーヴァント……ああ、もしかして昨日の夢でアヴェンジャーが言ってた……あれ待てよ、じゃあこれって夢、熱っ!」
コーヒーが思い外熱かった。息を吹きかけながら話を続ける。
「夢じゃないみたいだね……あれ? 本物?」
「はい」
「って言うか、流石に鈍すぎない? 私達、大好きなマスターの可愛いサーヴァントなのに」
小学生に罵倒された。地味に傷付く。恐らく次は致命傷なりえてしまうだろう。
「なるほど、俺がゲームで手に入れたサーヴァントが君達なんだね?
春休みだから良かったよ。今日は親は2人で旅行中だから事情を説明せずに済んだし」
「いえ、私達はマスターにしか見えないので、もし仮にご両親がいても問題ありませんでした」
「……今更で非常に申し訳ないんだけど、自己紹介してもらえないかな?」
「ほんっとうに今更ね? ……私はクロエ、どうせ長い名前を言っても覚えないでしょう? 私が貴方のサーヴァントで、お嫁さんって事だけ覚えてくれたら良いわ、ね?」
どうやらこの褐色少女は俺を狙っているらしい。自己紹介を頼んだだけなのにお嫁さん宣言までされてしまった。
「私はジャンヌ、ジャンヌ・ダルクです。宜しくお願いしますね、マスター?」
金髪の甲冑の様なドレスを着た人はペコリと頭を下げた。個人的にはこっちの方が年が近そうだし優しそうなので好印象だ。彼女にすると目立ちそうなので、お付き合いはお断りだが。
「私はイリヤ! クロとは姉妹で、顔も似てるけど私がお姉さんなの!」
「誰がお姉さんよ。イリヤみたいなお子様じゃなくて、私が姉でしょう?」
コラコラ喧嘩しないの。
と、心の中で仲裁して置こう。うん。
「それで、君達の目的って何? 俺、聖杯戦争は令呪使い切って寝たい派なんだけど……」
「どんな派閥よ!
そんな物騒な事に巻き込んだりしないわ。私はマスターの事が大好きだから会いに来たのよ?」
小学生に大好きと言われて思わず照れる……なんて事はない。少なくとも人のアクビを見てカバなんて呼ぶ残酷な生き物に、俺が照れる事は無い。
「会いに来た、つまり大した用事は無いって事だよね?」
「そうなりますね」
「じゃあ、俺は部屋に閉じこもってるから、帰りたくなったら帰って良いよ」
俺はそれだけ言うと席を立った。
「お皿、私が洗わせてもらいますね?」
俺が取ろうとした皿をジャンヌは先に取った。そういう事ならお言葉に甘えよう。
「じゃあ、お願いするよ」
俺はそれだけ言うとさっさと部屋へと戻った。家事を手伝ってくれるなら大歓迎だ。自由な時間が増える。
「…………ねぇ?」
「はい、なんですかマスター?」
「……頭撫でるの止めて、くすぐったい」
俺のベッドの上に正座して膝枕をしてくれるジャンヌ、ご馳走様です。
「ふふふ……マスター、気に入って頂けましたか?」
「膝枕は人類の目指すべき究極の枕だと思っているよ」
「今日は存分に堪能していいですからね?」
音声機能は枕には無用の長物、と考えていたが美少女の声という物には催眠効果があるのかもしれない。究極の枕の研究は進む。
普段よりも幸福な気分で寝れて、素晴らしい気分だ。
「マスターさん……私以外の女の人の膝で、幸せそうにしてるなぁ……」
イリヤは扉の隙間から自分のマスターを見つめていた。
「私の能力が制限されてなかったら、あんな人、直ぐに蒸発させれるのに……」
「イリヤ、物騒な呟きが漏れてるわよ……気持ちは分からなくも無いけど」
少女2人はこの状況を何とかしようと話し合いを始めた。
「ジャンヌさんも今は病んでるんだし、流石に本性を暴き出せばマスターも引くでしょう?」
「じゃあ、ジャンヌさんを思いっきり嫉妬させて、本性を暴き出すの?」
「そういう事よ。ついでにマスターへのアプローチもして一石二鳥ね」
「わ、私が先に行く!」
イリヤの提案にクロエは内心ほくそ笑んだ。
イリヤが失敗してから自分が行けばいいと、甘えん坊な彼女を焚き付ける事に成功した事を喜ぶ。
「良いわよ、譲ってあげる」
「うん! ま、マスターさん!」
クロエは高みの見物だと部屋の中を覗く。
「私も何か手伝いたいの!」
「んー……もう少しで寝れたのに……
もう枕はあるしなぁー……あ、抱き枕って試した事無かったな。ちょっと横来て」
「う、うん!」
「……え?」
まさかの展開に驚くクロエ。そんな彼女1人を置き去りに、イリヤは自分のマスターのベッドに寝転がると、マスターに抱き着かれた。
「ひゃぁ!?」
「あんまり騒がないで……耳元だから響く」
「あ……ごめんなさい」
美少女の膝に頭を乗せ、美少女を抱きしめた彼女らのマスター、
「うん、思ったより丁度いい。やっぱり人間、人肌が最高の体温なんだなぁ」
「はぁわわわ……!」
両手でイリヤの体を抱きしめ体と体が接触しているのにも関わらず、陽日はまるで気にした様子は無い。
膝枕をしていたジャンヌも徐々に機嫌が悪くなって来たが、それよりも蚊帳の外であるクロエの方が既に静かにデットヒートしていた。
「…………許さない、私を裏切ったわね、マスター、イリヤ……」
「マスターさん、寝ちゃったね」
「ええ、そうですね……」
ポツリと呟いた2人は同時に顔を見合わせた。
『…………』
「あー! ジャンヌさん、聖処女なのにエッチな事考えてるでしょう!」
「か、考えてませんよ!」
イリヤはマスターの顔を見て笑う。
「でも、私はマスターさんとこんなに近いから、キスだって――」
「させません」
手を置いてジャンヌはイリヤの唇を遮った。
「ん……! 邪魔しないで下さいジャンヌさん!」
「マスターのくちづけを受けるのは私です。勝手に奪わせません」
「マスターさんは私を選んだんです。こんなに抱き締めて離さないのがその証拠です!」
「いいえ、マスターは私の事が好きに決まっています! 先程からずっと顔をこちらに向けて寝ているんですよ!」
2人の言い争いは最初こそ声量を気を付けていたが今ではそんな気遣いも無くなりそうだった。
「こうなったら――」
「…………ぅるさいとぉ……追い出……」
『っ!!』
突然聞こえてきた寝言に2人は驚き思わず体は硬直した。
『…………』
「ぎゅー……」
「ふふ……」
喋らなくなったマスターを見て、2人は言い争うのをやめた。
「……お昼、作らなくちゃなぁ……」
ジャンヌとイリヤのお陰で普段よりぐっする寝れた気がする。今は2人共寝てるし起こさない様にベッドから出た。
「そういえばもう1人……クロエ? って娘が来なかったけど、どうしたんだろう?」
そんな疑問を口にした俺が部屋から出るといい匂いが鼻を突いた。
「……カレーかな?」
取り敢えずキッチンに向かう。
近付くたびに匂いがはっきりと感じられ、リビングに着くとクロエがいた。
「……あら、マスター? 起きたのね」
「うん、クロエはカレーを作ったの?」
「ええ、私が貴方のお嫁さんだもの、当然よ」
微笑むけど、露出アピールの為に屈んだりしないでもうちょっと子供っぽく笑えないのだろうか?
「はい、どうぞ召し上がれ!」
盛り付けられたお皿を受け取り、椅子に座ると早速食べる。
「……ん、美味しいね」
「でしょう? もっと食べて良いわよ」
クロエはキッチンを離れ、リビングを出て行ったが俺は構わずカレーを食べ続ける。
シーフードカレーなんて小学生の給食位でしか食べなかったので久しぶりだ。
「……ホタテが入ってるけど、食材って何処から持ってきたんだろう? ……まあいっか」
あんまり考えると面倒そうなので考えない事にした。
「ふーふー……美味しいけど……辛い」
今日の昼食は食べ終わるのに時間が掛かりそうだ。
それでも皿一杯のカレーを水と交互に食べては飲み込んだ。
「中辛……だと思うけど水が少なかったんじゃないかな……もう一杯飲んどこ……」
「あら、食べ終わったかしら?」
キッチンで辛さを和らげようと水を飲んでいた俺の元にクロエが戻ってきた。心なしか、先よりも元気な気がする。
「うん、美味しかったよ」
「良かったわ。貴方の胃袋は掴めたみたいね」
小さく微笑んだクロエはスルリと俺に近付いて来た。
「今度はハートを頂くわ」
有無を言わさずにキスされました。
「んっちゅ……ふふふ、マスターの初めて、頂きね?」
俺は嬉しそうに笑う彼女に謝った。
「……ごめん、いきなりキスされた衝撃よりもカレー食べた後でキスさせちゃった罪悪感が心の大半を占めちゃった」
「なんでよ!? キスに驚きなさいよ!」
「いや、小さい女の子とのキスは初めてじゃないし、8歳年下の従妹にされた事とかあるからあんまり動揺しない」
「しなさいよ!」
キスする直前の昼食にカレーを作る方が悪い。大体、小さい子とキスして騒いだら逆にロリコンみたいじゃないか。
「あーもう! こうなったら縛ってやる!」
言いながら出現させた鎖で俺の体と腕を纏めて縛った。
「……その年でSMプレイはお兄さん感心しないよ?」
「そんな酷い事する訳無いでしょう? 貴方が勝手に私から離れて他の女と会わない為の拘束よ」
小さいのに見事な独占欲だ、思わず感心した。
「ふーん……あの、これ痛いから外してくれる?」
「だーめ♪」
困ったな……これじゃあ洗濯物が出来ないし買い出しも行かないと夕飯が作れないし……
「……じゃあ洗濯物、干させてくれない? シワになると母さん、凄く怒るんだ」
「っはぁ!? そんなもの朝にやっておきなさいよ!」
ごもっともだけど休日の朝は寝て過ごすのが俺の過ごし方だ。
「私がやってあげるわ! だけど、それまで縛ったままだからね!」
「せめてこれ緩めてください」
「ハイハイ!」
逃げられないけど締め付けられる鎖の痛みはなくなった。クロエはそんな俺を置いて一目散に洗濯物を干しに行った。
「……はぁー……妙な事になったけど、なんか普段より楽だな、俺。こんな感じなら、毎日来てもらう事って出来ないかなぁ?」
鎖に縛られたまま地面に寝転がって、そのままそっと瞳を閉じた。
「鎖がジャラジャラするけど……これはこれでいいか」
「さぁマスター! 洗濯物も終わったし今度こそ楽しい事、させて貰うわよ?」
「ん……ジャンヌ、膝枕ぁ……」
「……寝言ですら他の女の名前を出して……! 良いわ、寝てる内にあんな事やこんな事を……」
「クロ!」
「クロエさん!」
「っ、イリヤにジャンヌ!」
「良くも寝てる私達から魔力を奪ったわね!」
「マスターへ捧げる私の唇を……!」
「今度はマスターの魔力を頂くわ。この世界で魔術を使うには大量の魔力が必要。貴女達から奪った魔力はもうスッカラカンだしね」
「っ、させない!」
「ええ、絶対にです!」
目を覚ましたら目の前で3人の美少女が喧嘩してた。
(面倒だな……あ、鎖なくなってる)
俺はそっと起き上がると3人にバレないように部屋へと向かう。
「あ、マスターさん!」
ミッション失敗。
イリヤに気付かれて3人ともこっちを見てくる。
「……俺、買い物行くんだけど誰か一緒に来る?」
3人の視線に耐かね、そろそろ買い物に行きたかったので誘ってみる。
「行くわ!」
「行きたいです!」
「行きます!」
どうやら正しかった様で、険悪な雰囲気だった3人は同時にそう言った。
「じゃあ、俺着替えるから」
「あ、じゃあ私が手伝ってあげるわ」
そう言ってクロエは俺の隣を着いて歩き一緒に部屋まで……は入れさせない。
「はい、そこで待っててね」
パタリとドアを閉めてさっさと着替える。あの年で痴女の片鱗が見えるんだから、お兄さん心配です。
「じゃあ、買い出しに行こうか」
「ただいまぁー」
「…………」
「…………」
「…………」
夕食の買い出しのみならず、4人分のおやつまで買って家に帰って来たが、3人は元気が無かった。
街の中では最初に言っていた様に誰にも見える事は無かったのでトラブルが起きる事も無く、俺は大変安心していたが3人はご覧の通り帰り道は無言で歩いていた。
「じゃあ、俺は片付けて来るから」
荷物を持たせる事もさせなかったので疲れている訳では無いだろうけど、商店街を通った辺りからこの状況だ。
「……マスター」
「? どうしたのジャンヌ? 片付けなら1人で――わぁ?」
「――駄目ですよ……誰にでも頼るなんて……」
いきなりジャンヌは俺の背中に抱き着いて来た。片付けが出来ない……
「誰でもって……」
「道端でも、商店街でも色んな女性にも声を掛けて頂いていましたよね? 値引きにお茶に誘われて……」
自慢ではないけどこの警戒心のない顔と礼儀の正しい口調のお陰で顔を覚えて貰った人には優しくしてもらっているのは確かだけど、お茶は別だ。アレはただの逆ナンパと呼ばれる迷惑行為だ。
「マスターは私を頼って、私だけを頼れば良いんですよ……ね?」
「いや、ねって言われても……」
「私じゃ駄目ですか? 膝枕だけの都合の良い女が良いんですか?」
「いや、そこまで言ってないけど……」
「ジャンヌさん、マスターさんの邪魔しないで下さいよ。マスターさん、この買い物、何処に入れれば良いんですか?」
「えーっと、そこの棚にお願いします」
ジャンヌを剥がしたイリヤは俺の代わりに荷物を片付け始める。
「……何ですか? 今度は私の邪魔ですか?」
「……私がやります、マスターのお邪魔をしてしまったんですから、私が全て……」
「離して下さい。マスターさんに任されたのは私ですよ?」
「駄目です、マスターの全ては私が気を付けます」
「2人共……喧嘩なんてしないで、ね?」
俺は喧嘩する2人の間に入って袋の中に入っていた買い物を棚の中にパパっと入れた。
「あ……」
「あ……」
何故かショックを受ける2人。何故だ?
「マスター、お菓子は机の上に置いたわよ。早く食べましょう?」
「あ、うん。今行く」
クロエに呼ばれて机の方へ向かう。
「ほら、2人も」
俺は2人に声をかけるが反応は無い。クロエは机ではなく俺の前に立っていた。
「……クロエ?」
「ねえマスター? 3人のお姉さん達に声を掛けられた後、私、居なくなったわよね?」
「うん、そういえばそうだね。何処行ってたの?」
クロエは小さく微笑むと、俺の耳元で囁いた。
「魔力補給、お姉さん達の唇、頂いて来ちゃった」
「……はい?」
「本当はマスターに遊び感覚で近付いてくる女なんて嫌だったんだけどね、魔力を奪えばちょーっとだるくなるし、罰にはちょうどいいかなーって思ってね?」
そう言ってクロエは何やら呪文を唱えると再び鎖が出現する。
今度は両手両足に1本ずつの計4本が俺を縛る。
「またマスターに逃げられたら嫌だからね?」
「あのー……何する気ですか?」
「ふふふ、もしかしてマスター、期待してる? 小学生の私に、あんな事やこんな事されちゃうの、期待してるの?」
「出来ればして欲しくないんだけど……」
「ざんねーん、しちゃいまーす」
クロエが笑って俺に近付き、そっとズボンのチャックに手を伸ばす。
「……!? い、イリ――むぐっ!?」
だけどそれより早くイリヤがクロエの後ろから近付き唇にキスをした。
「ん……っちゅ……」
「〜〜!?」
此処から見えないけど長いから恐らく深い方している……小学生同士で。
(鎖で縛られたまま女の子同士のキスを見せ付けられているこの異常な状況……本当に現実なのか疑いたい)
「っぷはぁ! 何時ものお返し……ぜーんぶ私が貰ったわよ」
「っちょ……! か、返しなさいよ!」
「えへへ、マスターさん。今すぐマスターさんを開放するね?」
イリヤが触る鎖があっという間に消えていき、俺は自由の身となった。
「怪我は無いですか?」
「うん、ありがとう」
「あ、あの……撫でてくれませんか?」
そう言って頭を少し下げる。俺はその頭そっと右手を乗せて動かした。
「マスターさんの手……もっと撫でて下さいね?」
「……もう良い?」
「もっとです!
私、良い子なんですよ?
マスターさんが、ナンパされる度に女の人をどうしようかって思ったけどちゃんと怒りを沈めたし、買い物だってお片付けしましたし……
クロにマスターさんが縛られてる時だってマスターさんにえ、エッチな事……したかったけどしないで助けてあげましたよ? もっともっと、撫でてください、褒めて下さい!」
「ああ、うん……拗らせてるね」
だるいけどイリヤの頭を適当に撫でた俺は嬉しそうに頬を緩める彼女を見てもう良いかと手を離した。
「……マスターさん?」
「もう良いかな? 俺、部屋に戻るね」
「……りないです」
「え?」
「まだ、足りないです」
イリヤは若干頬を膨らませて俺に擦りついて来た。
「マスターさん、お部屋に戻るならまた休むんですよね? 今度は私が膝枕してあげます。そしたら、もっと褒めてくれますよね?」
イリヤちゃん、何か変なスイッチ入っちゃったみたいだ。
「膝枕……お願いしようかな?」
でも膝枕は魅力的だ。
「やったぁ! マスターさんに頼られた!」
喜ぶイリヤと共に俺は部屋へと入った。
「うーん……油断、て言うか警戒を放棄したのが悪かったね、この場合」
部屋に入ったイリヤは俺をベッドに押し倒すと見下す様に俺の前に立った。
「男の人って、気持ちいいのが好きだってクロエが言ってたから……あ、あんまり良く分からないけど、精一杯、頑張ります!」
「ごめん、出来れば何も頑張らないで。もっとエッチな事を我慢して」
「私、もしかして凄くエッチな子なのかなぁ……でも、マスターさんは喜んでくれますよね?」
ベッドに押し倒されただけなら良かったけど体がベッドに貼り付いたのか、体は微塵も動かせない。
「……先ずはズボンを下ろす所から……でも、先にキスでマスターさんを骨抜きにしないと駄目なんだよね?」
「俺に聞かないの。何もしないで自由にして下さい」
「やっぱり、素直になるには気持ち良くさせちゃえばいいんだね? て、手で擦れば良いんだよね? ……うん、頑張る!」
「誰かー、助けてー」
正直若干諦めてます。こんな魔法みたいな事出来る娘を相手にどうしろって言うんだ。
右手が赤く光ったけど血が出てる訳じゃないよね?
そんな心配をしていると、いつの間にかジャンヌが俺の前に現れていた。
「……ます、たー……?」
「なんで現れたかイマイチ分からないけど、お願いします。助けて下さい」
困惑気味の彼女に申し訳ないが俺は早速助けを求めた。
「また他の女の人……! 邪魔!」
イリヤは何処からともなく何かステッキっぽい物を出すと、あっという間に魔法少女の様な衣装に早着替えした。
「私の全力で、終わらせる!」
「マスター! 私に力を!」
「良くわからないけど……頑張れ!」
また赤く光る俺の右手。ジャンヌはその手に旗を持つ。
「これが私の全て! クウィンテットフォイア!!」
何か物騒な光線を放って来た。
真っ直ぐ飛んでくる見るからに強力そうなそれをジャンヌは旗で受け止めた。
「魔力が足りてない様ですね!」
「う……拘束魔法に使い過ぎた……! だけど、まだ!」
「…………温い炎です。マスターを燃やさない様にと手加減をしているみたいですが、この程度で焼ける程私はか弱くはありません!」
ジャンヌは余裕そうに受け止めてくれている。良かった。
「……なら、マスターさんと一緒に燃えて下さい!!」
『筋系、神経系、血管系、リンパ系――疑似魔術回路変換、完了!』
「正真正銘、これが私の……! クウィンテットフォイア!!」
何かヤバそうなのがイリヤの杖から放たれる。ジャンヌも苦い顔をする。
「ならこちらも――リュミノジテ・エテルネッル!」
なんの知識の無い俺でも分かる。
これは激しい攻防だ、って事くらいは。
「マスター……私を頼って下さったんですね?」
「まあ、来てくれて助かったよ」
小学生にどうこうされる事無く終わってくれて本当に助かった。
「これからも、もっと私に頼って下さいますか?」
「うん」
今回の教訓としては取り敢えず肯定するして置かないと痛い目を見るって事が分かったので頷いておこう。
「では、早速食事をお作りしますね!」
「うん、俺は大人しくしておくよ」
と言う訳で食事を作る時間もリビングのソファーに寝っ転がる楽しい時間になりました。
なおクロエとイリヤは魔力を使い過ぎてダウン中らしい。取り敢えず適当な部屋に鍵を掛けて放り込んでおいた。
テレビを見ているとカチャカチャと食器の音が聞こえてきた。
「シチューが出来ましたよ、マスター」
食べ終わって席を立つ。
「お皿は洗わせて下さい、マスター」
番組が終わってソファーから立ち上がった。
「お風呂が湧きましたよ、マスター」
「タオルとお着替えを用意しましたよ、マスター」
「膝枕をどうぞ、マスター」
……うん、もう夜中でもう直ぐ帰るとはいえ中々の堕落人間製造機……
ジャンヌの膝の上でそう思った。
「マスター……快適ですか? 何か不満はありませんか?」
「全然無いよー……ん……そろそろ寝ようかな?」
「では、部屋までお運びしますね?」
俺を持ち上げると部屋にまで運んでくれる。
「……あれ? 膝枕はしてくれない?」
「いえ、今度は抱き枕です。失礼します」
ジャンヌはそう言うと俺のベットに入り込んだ。
小学生よりも一部柔らかそうなのでちょっと抵抗はあったが、抱きしめると先より全然良いかもしれない。
膨らみって、大事だったのか。
「……愛してますよ、マスター」
「うん……ありがとう…………」
耳元で囁かれ、ウトウトし始める。俺は耳が弱いのか。
「……私の声、聞きながら眠って下さいね?」
「……うん…………」
「大好きですよ、マスター」
「愛してます」
「ずっと一緒です」
「離れません」
「頼って下さい」
「捧げます、この身全てを」
「今日も頑張りましたね」
「休んで下さい」
「瞳を閉じて」
「愛してます」
「愛してます」
「求めて良いですか?」
「愛してます」
「明日はもっと一緒です」
「隣にいさせて下さいね」
「愛してます」
「信じてます」
「愛してます」
「これからは毎日、一緒にいましょうね」
「うん……うん…………うん」
よく聞こえないけど取り敢えずの相槌を打ちながら、眠りについた。
「――て、事があったからアンインストールしようと思うんだけど」
「いやいやいや、勿体無いから。星5サーヴァント2人だぞ? あとそのヤンデレ・シャトー展開が羨ましい」
「ヤンデレ・シャトー? 何でもいいや、俺はアンインストールする。ヤンデレとか恐ろしいし」
「じゃあ、何が好きなんだ? 俺がおすすめのゲームを教えてやる」
「んー……そうだなぁ……」
「モンストなら友達作りが出来るかもな」
「……あ、そうだ。
俺の身の回りの事、全部気を付けてくれる金髪美少女のゲームがいい」
「おま……そんなヒモみたいな主人公のゲームなんかあったか……? て言うか、お前がそんな目立つ色の髪が好きなんて意外だなぁ」
調教されてしまった事にはまるで気付かず、俺はきっとこれからも、彼女の面影を追いかけ続けるのだろう。
寂しくはないけど、ふとした拍子に思い出す程度には。
「あ、やっぱり黒髪メガネで」
「地味好きは健在だな……」
イースターですね。
私の住んでいる国ではチョコが貰えますので当分、糖分に困りませんね。(寒い)