ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
これからも応援、よろしくお願いします。
中学時代に突っ張っていた俺は高校デビューを機に、友人作りに精を出し始めた。
FGOをプレイしているのも、オタクな部活仲間の話題に入る為だ。最近都市伝説の様に噂になっているヤンデレ・シャトーが良く話題に上がるので、それに合わせてプレイする時間を増やしているが、一向に悪夢とやらを見る事は無い。
「なあ、キャラが全員いるって、そんなにおかしいか?」
『可笑しいよ、馬鹿!』
なんて言われた事も……あった……なぁ……ぁ……
「またとんでもない奴が来たな……」
アヴェンジャーだったか、エドモンだったか、そんな名前のキャラクターが俺の前にいた。
「……此処は?」
石で造られた古い建物。壁と床からそんな感想が漏れるが、それよりも体でひしひしと感じる事の出来る嫌な感覚。
「マスターとしての熱意は感じられないがそこそこ動けそうだな……」
「おい、此処は何処だ!」
俺は目の前の奴に声を掛けるが、それよりも先に俺の目の前から消える。否、俺の視界が黒くなった。
「ならばこちらの方が良いな」
「なに、が――?」
「……ん?」
「起きて、って起きたみたいだね」
目が覚めた俺の前には金髪の美……男の親友、デオンがいた。
「んー……寝てたのか、俺?」
「ああ、すっごく、気持ち良さそうにね」
寝てたのか。後で教師に怒られなければ良いが……
「……それよりも、君を迎えに来てる娘が居るよ? 部活の後輩だろ?」
そう言ってデオンは教室の廊下を指差した。その先には新聞部の後輩がいた。
もう春なのに、まだマフラー使ってるのかアイツ。
紺色のセーラーに赤いマフラー、眼鏡と白色に近い金髪は間違い無く後輩のXオルタだ。
「先輩、早く行きましょう」
「おう、すぐに行く。じゃあなデオン」
「うん……あ、そう言えばマリー部長が――」
「合唱部に入らない。まだ勧誘してくるか。俺今年は新聞部の部長だっての」
高校2年を迎え、部長にすらなった俺を未だに引き抜きに来ると思わなかった。
しかも、十数もの部活からだ。
「あはは、君は運動が得意だからね」
「手芸部やら調理部からもだ。ていうか、流石に部長は諦めろよ」
そもそも新聞部は当時、あらゆる方面から勧誘された俺の為に作られたと言っても過言では無い部活だ。
「カルデアール学園で貴重なマスター適正者って……大層な肩書だよなぁ」
詳しい部分は忘れたが、この学園は得意能力者であるサーヴァント適正者を教育する学園であり、俺はサーヴァント適正者の能力を引き出す事の出来るマスター適正者……なのだが、その力に惹かれてか、他の生徒とのトラブルやらなんやらに巻き込まれる事も暫しある。
「先輩、いつまで私を待たせる気ですか」
「悪い悪い……じゃあなデオン」
「うん、また明日! …………」
俺はXオルタと共に部室を目指した。
「Xオルタ、待たせて悪かったけど俺を待つ必要なんて無いだろ?」
じーっと見つめられているカバンのチャックを開きつつ、Xオルタにそう言った。
「何言ってるんですか、私は先輩の護衛です。
常に先輩を引き抜こうとする他の部員、部長から先輩をお護りする為に――」
「ほら、あんぱん」
「頂きます。――お護りする為に、モグモグ、いるんで、モグモグ」
随分とチョロい護衛がいたものだと思いつつ、角を曲がる。
「っきゃ!?」
「っぱん!?」
曲がったと同時にぶつかった…………狐耳の鈴鹿御前とXオルタが。
「……い、いたた……っち、外したか……
あ、足が痛ぁー……立てないかもぉ……
前半の「外したか」が無ければ多少マシだったのにと思いつつ、あざといを通り越して腹黒い鈴鹿御前を放っておいてXオルタに手を伸ばした。
「立てるか?」
「問題無しです……フッ」
Xオルタは鈴鹿御前を見下して嘲笑った。
「〜〜! 何よそのドヤ顔! ちょームカつくっしょ!」
やはり演技だった様で鈴鹿御前は苛立ちと共に立ち上がった。完全な逆恨みだが。
「鈴鹿御前、気を付けろよ」
「先輩とぶつかって何をしようとしたか分かりませんが、私の目が黒い内はちょっかいを出すのはやめてください」
「な、なんのことぉ? あ、ヤッバ! 私急いでるから!」
鈴鹿御前は分が悪くなり退散していった。
「……やはり、護衛は必要ですね」
「いや、要らねえだろ?」
逃げ去った鈴鹿御前を見送ると、俺達は再び部室に向かった。
「おいーっす、皆いるかー?」
部長っぽいセリフと共に部室に入る。同時に3つある作業机の一角でバタバタと騒がしい音がした。
ヒロインXだ。
「こ、これはこれは部長……今日もいいお天気で!」
「何隠したかは聞かないが、物騒な物を持ってくるな」
明らかに剣らしき物を隠していたが突っ込むのはやめてやるのが部長の優しさだろう。
俺はヒロインXとは違い、堂々と椅子に腰掛けている部員に視線を向ける。
「遅かったじゃない、もうちょっと遅かったらこの部室燃やしてやろうかと――」
「――掃除してくれてありがとな、ジャンヌ・オルタ」
「あ、べ、別に……! も、燃えにくいものを取り除いただけよ!」
素行の悪いジャンヌ・オルタは、この新聞部を立ち上げる時に彼女の姉であるジャンヌ・ダルクから面倒を見る様に頼まれたが、新聞部員の中では比較的常識人だ。
「んー……相変わらず好感度爆上げっすね。いつ見ても見事なモテっぷりで、ジナコさん感心します。なのでさっさと爆発しろ」
「部長、ジナコはおやつをご所望らしい。買いに行っても宜しいか?」
「あ、でしたら私はチーズハンバーグが欲しいです!」
「私、カスタードシュークリームで」
「生クリーム入りあんぱん」
マイペースなジナコとそれに付き従うカルナ。カルナは度々ジナコの食べ物を買いに行くが結局全員分のパシリになる。
「分かった、買いに行こう。部長は?」
「俺は良い、何かあったら連絡してくれ。くれぐれも、この間みたいにピザを全種類を買ってくる様な事はするなよ」
「了解した、何かあれば直ぐに連絡しよう」
せっかく全員揃っていたが、カルナが出て行ってしまった。まあ、後でジナコが説明してくれるだろう。
(清姫さんが部長の机に潜んでるけど、黙っておこう)
全員の前に立って、俺はホワイトボードの位置を調節した。
「それじゃあ、早速今日の部活を始める。5月に張り出す新聞に書く内容について、何か意見が有れば言って欲しい」
「はいはい! 剣の上手い人特集が良いと思いまーす!」
ヒロインXが意見を言ったのでホワイトボードに一応だが書いておく。
「他には?」
「まだ5月よ? 1年生向けに教師特集が無難じゃないかしら?」
カルデアール学園は生徒もそうだが教師も個性的過ぎるから、十分に面白くなりそうだ。ジャンヌの意見をホワイトボードに書く。
「他には?」
「購買、特集……!」
Xオルタの意見も書いておく。確かにカルデアール学園の購買の商品は質が高ければも種類も豊富だ。特集を組むのもありか。
その後も幾つか候補が上がるが、あまりいい意見ではなかった。
「……他には?」
10回目の質問だが、誰からも意見が上がらない。なお、このまま行くと俺の中では教師特集で決まりなつもりだ。
「……それじゃあこの中から――」
――決めようと思ったそのタイミングで誰かが部室の扉をノックした。
「カルナだ、入っても構わないか?」
「おう、入れ入れ」
「失礼する……む、会議中だったか」
「あんぱん、あんぱん……!」
「Xオルタ、落ち着けって……
カルナ、次の特集について何か意見はないか?」
カルナはホワイトボードに書かれた意見に目を通すと、ジナコに視線を向けた。
「……ん? ジナコ、七不思議の意見は上げてないのか?」
「七不思議?」
「別にー……時期的に考えて、早過ぎるから言わなかっただけっすよ」
確かに、七不思議の話は出来れば夏の時期までとっておきたいネタではある。
だが、カールデア学園の七不思議は生徒の間では毎年違うのが当たり前、なんて言われる程だ。早めな調査が望ましい。
「……よし。なら、5月の特集は教師特集で行こう」
「まあ、当然よね?」
ジャンヌ・オルタは採用されて満足な様だ。
「ジナコさんは構いませんよ。てかいつも通り、パソコン作業しか手伝いませんし」
「俺も、それで構わない」
「むぅー……セイバーの情報……いや、教師陣のセイバーを集めるのもアリか……?」
「お菓子ぃ……」
どうやら決まったらしい。なら後は人員を振り分けるだけだな。
「教師特集はジャンヌとヒロインXで事足りるだろう? 去年の反省を踏まえて、先に七不思議の調査もしようと思う」
「あー……去年は1ヶ月間調査したけど4つしか調査出来なかったわね」
「ジナコ、何か情報はあるか?」
「んー……夜中に何やら不可思議な事が起こっているそうですね。
石像が動くとかテンプレっすね」
「となると、適当な先生から許可を取る必要があるな」
新聞部だが、あくまで部活。夜中の学校に入れてくれそうな教師の顔を思い浮かべる。
「……よし、エレナ先生にするか」
『っ!?』
(確かに確実っすけど部長さん、見事に地雷踏んだなー……あと机がビクッて跳ねたけど私以外にバレてない清姫さんのステルスまじパネェっす)
「先輩、考え直すべき」
「他の奴にしなさい。ヴラドとかどうかしら?」
「そうです、キャプテ……ニコラ先生ならきっと許してくれます!」
「そうかもしれないけどヴラド先生、去年の10月頃から2人目が増えて厳しくなったし、ニコラ先生は研究忙しいしなぁ」
その点、エレナ先生はオカルト好きだし怪談なら手伝ってくれそうだ。
「…………むぅぅ……」
「じゃあ、俺ちょっと行ってくる。ジャンヌ、ヒロインX、教師への取材は頼んだ」
部室を出て、俺は早速エレナ先生のいるであろう職員室へと向かった。
「……エレナ先生、先輩を狙っている教師陣の中でも狙っている事を隠している伏兵的存在」
「どうせ今回の取材にも付き合う気よね……」
「ええ、部長本人からのお誘いです。乗らない方が可笑しいですよ」
(部長さん、地雷踏みすぎぃ! って言うか、出てくるタイミング見失った上にあんな話を聞かされた清姫、大丈夫っすかね?)
「…………」
エレナ先生からも許可が取れた。俺とXオルタは夜中の学園の校舎に侵入した。
「ふふ、2人とも、まだ無事な様ね」
失礼だが、見た目では子供にしか見えないこの人物が学園内でもかなり人気の高い教師だとは一目では分からないだろう。
「怖い事言わないで下さい、まだ何にも出会ってませんし襲われてない」
「それなら良いわ、じゃあ早速捜査開始ね」
後者に入る前に、俺の足はピタリと止まった。視界には桃色の花びらが映る。
「……あの桜、綺麗に咲いてるな」
「何を言ってるの、昼も咲いてたじゃない……でも、夜だとやっぱり雰囲気違うわね」
「……夜桜」
数秒程眺めた後、俺達は校舎に入った。
「それで、どんな怪談があるのかしら?」
「えーっと、いま噂になっているのは……夜の学園で獣の雄叫びを聞いた、二宮金次郎の像が動く、ですね」
「後者は、カルデアール学園にしてはお約束過ぎ」
「そうね……もう私、犯人が分かった気がするわ」
「まあ、他の七不思議を探す目的もあるから、時間がある限り調べていこうか」
未だに聞こえて来ない獣の雄叫びを探る為に、俺達は1階を歩き始めた。
(ふん、先ずはエレナ先生を玲と分断ね。Xオルタが抜け駆けしてなきゃ良いんだけど……)
「ふふ、先ずは私の炎で廊下を――」
――ポンポン。
「ん? 誰――」
《火の用心》
「――キ」
「キャアァァァァァ!!」
「おい、なんか悲鳴が聞こえて来たぞ! もしかしなくてもジャンヌの声だったぞ、今の!」
(あの憤怒の魔女(笑)、ポンコツを発揮しましたね)
突然廊下で響いた声に驚きつつ、俺達は慌てて悲鳴の発信源である階段に走った。
「!?」
階段にはジャンヌ・オルタと、気を失っている彼女を抱えている首の無い鎧が有った。
「っ……! 幽霊かなんだか知らねぇが、俺の仲間に手を出しやがったな!」
「ちょ、ちょっと玲君!?」
エレナ先生の声が聞こえるが知った事か!
階段を飛ばして駆け上がり、接近する。
「タダで済むと――」
「――その人、用務員さんよ!」
握った拳が突き出される前に、エレナ先生の声が耳に届いた。
「っ! よ、用務員?」
見ると鎧は襟の部分が上下している。頷いているのだろうか、と思ったら小さなホワイトボードを取り出すとそこに書き始めた。
《用務員のヘシアンです》
《ジャンヌ・オルタさんが何やら火を起こそうとしていたので注意したら、驚かれました》
「……はぁー……」
俺は安心し、怒りを吐き出す為に溜め息をして――
「――すいませんしたぁ!!」
土下座した。
「え、えっと玲君? そこまでする必要は……」
「ジャンヌには厳しく言っておきますで、どうか退学だけは………!!」
《大丈夫です。ね、エレナ先生?》
「え、ええ! 彼女は退学にはならないわよ。普通の学校と違って、この学園は魔術的な防御のお陰で燃えたりしないし」
「本当に、すいませんでした!」
2人に許して貰い、俺は再び頭を下げ、用務員さんからジャンヌを受け取った。
「でも用務員さんは何故こんな時間に学園に?」
《実は、相棒であるロボが最近、この学園にこの時間に来る様になったんですよ》
「ロボ? 機械か何かで――」
『――ワォォォォォン!』
俺の間抜けた質問を妨げたのは、大きな狼の遠吠えだった。
「狼の声!?」
《私の相棒です!》
「用務員さんの!?」
既に用務員さんは階段を大急ぎで登っている。
「……屋上、ですね」
「兎に角行くぞ!」
俺達は急いで階段を登り2階、3階へと駆け上がり、屋上の扉を開いた。
「……着いた!」
カメラを起動しておいたスマホを構え、シャッターを押す準備と共に撮影対象を探して――
「……はい?」
デカイ、としか言い様の無い図体を持った白い狼が、白い犬とじゃれ合っていた。
その光景に、唖然とした俺はゆっくりになってしまった条件反射で、シャッターボタンを押した。
――タッタッタッタ!
俺達より先に着いていた用務員さんは狼を見つけると慌てて駆け寄った。
「……グルル!」
「! ……?」
「ォォン!」
無言で狼、ロボと会話する用務員さん。暫くするとこちらに体を向けた。
『お騒がせしました……似た様な姿の友達が出来て喜んでいたそうです』
「似たようなって……」
人間の背丈並みの大きさを持つ狼と、人間の膝程度の大きさの白い犬。
余りの違いに、俺は苦笑いをこぼした。
「これが怪談の正体って事ね……狼の大きさは怪談級ね」
「おっきい……」
『私達はもう暫く此処にいますね』
用務員さんがそう言うので取り敢えず子犬と狼の写真を数枚取ると、俺達はその場を後にした。
「次は二宮金次――」
「――来る時はなんの異常もありませんでしたので、監視カメラを設置しました。」
エレナ先生のセリフを遮りつつ、前に出て来たXオルタは俺に敬礼しつつそう報告した。
「良くやった!」
俺はXオルタの頭を撫でた。
「撫でるべし、撫でるべしです……フッ」
「っ! じゃ、じゃあ、早速行きましょう」
呆れてしまったのか、エレナ先生は先に階段を降り始めた。
「ほら、行くぞ」
「はい」
未だに気絶しているジャンヌを担いでいるので慎重に階段を降りて、正面玄関へ戻った。
「二宮金次郎は左だな」
正門を出ると先についてたエレナ先生とXオルタがカメラを手に驚いていた。
「何これ!?」
「先輩、先輩、大変です……!」
「どうした?」
「金次郎の像がありません!」
指差したその先には確かに二宮金次郎の姿は無い。2人は隠しカメラを確認しているので、俺もそれを後ろから覗き込む。
カメラの中では暫くの間は石像が動く気配を微塵も感じられなかった。
しかし、唐突に二宮金次郎の両目が輝き、体育館方面へと走り出した。
「……体育館、だな」
「行きましょう」
エレナ先生の声は若干怒りを含んでいた。
「今すぐとっちめてやるわ!」
どうやら最初に言っていた様に石像について心当たりがある様だ。1人で歩いていくエレナ先生の後ろに着いていく。
「ん……? っは、はぁぁ!?」
「お、起きたか?」
背中から響く声。ジャンヌ・オルタが目覚めた様だ。
「な、ちょ、降ろしてよ!?」
「わ、分かったから暴れるな!」
俺は慌ててジャンヌを降ろした。
「お前、用務員さんに驚いて気を失ってたみたいだけど、大丈夫か?」
「へ……そ、そうだわ、首無し騎士!」
「だからそれは用務員さんだっての……まったく……大体なんで――」
「――学園の設置物を使うとか、貴方達馬鹿じゃないの!?」
エレナ先生の怒号が聞こえて来たので、俺達は体育館の扉を覗いた。
そこでは科学の教師であるエジソン先生とニコラ先生が正座していた。
「い、いや……ロボットを作る過程でその……事故で……」
「……出力を確かめて見ようとボールの投擲を行ったら……地蔵の足を壊してしまったのだ」
「だ、だから慌てて直そうとしたんだ! だが、この交流バカが駆動回路を作り出して!」
「直流のアホが、電球やいらん機能を追加したのだ!」
『…………』
共犯者であるにも関わらず此処まで仲が悪いのかと正直驚いた。
それよりも、後に聞こえてきた先生の怒鳴り声に驚いたけど。
「……こ、このぉ……電流バカコンビィィィ!!!」
「で、先生は2人を連れて帰って行った訳か」
「動く二宮……かっこいい」
「も、もうお開きよねぇ……?」
正座する顔の濃い男とライオンヘッドを写真に収めた後に、夜の学園にビビリ始めたジャンヌとテンションが上がったXオルタを連れて、校舎前まで戻ってきた。
「まぁ……七不思議調査って気分では無いなぁ……お」
俺の視線に再び、夜に咲き誇る桜の木が見えた。
「折角だ、桜をバックに写真でも取るか」
「構いません」
「ふ、ふん……取ってやろうじゃない」
俺はXオルタから三脚を受け取ると、2人より先に桜へ行き三脚を設置しようとした。
「――――」
「――――」
「……ん?」
カメラの角度をどうしようかと思っていると、声が聞こえてきた。
楽しそうな女の声だ。
「――良いわよね、此処は楽しそうな学園だわ。式も楽しそうに過ごしているし」
「私は――それを終らせてしまう」
何なんだと思いつつ、慎重に近づいていく。桜の木に寄りかかっている様だ。
「あーぁ、私も学園に入って見たいわ。だけど、私達は桜が咲いている間、桜から散る魔力によって現界出来る幽霊の様な者」
「――楽しみたい」
桜の陰では白い着物を着た、長い黒髪が腰どころか足まで届きそうな楽しそうに話す女性と、同じ位長い白髪を持つ黒と赤のラインが印象的な、やや露出気味な服装の物静かそうな褐色肌の女性。
外見的な特徴だけなら、真逆な印象を受ける2人。
「……あら?」
「……人間?」
「あ……」
目が合ってしまった。
「先輩、どうかいたしまし――」
「ちょっと、まだか――」
2人もやって来た。それを見た謎の女性達は動揺もなく、小さな反応を見せる。
「ふふふ、見つかっちゃったわね」
「……珍しい」
「アンタ達は……」
「! 先輩、もしかして去年調査出来なかった七不思議の1つ、桜で笑う女性……?」
「あら、そんな噂になっていたのかしら?」
「微弱だけどこの感じ、サーヴァント適正者、だな」
「それが分かる貴方は、マスターさんかしら? 私達が見えるなんて随分能力が高いみたいね」
「…………」
「どうやら、魔力で体を維持している様だけどとても脆い姿の様ね」
「先輩が1年間サーヴァント適正者と関わって、マスターとしての能力が高まったので認識する事が出来たみたいですね」
「……でもこれって……写真には取れない、よな?」
「ええ、映れるほどの存在では無いわね」
「……別に、映りたく、ない……ない」
参った。写真が取れないと載せられないし、何か困っているみたいだから力になりたいんだが……
「おお、彼女達が見える様になったのかい」
そこに、俺達の後ろから別に声が聞こえてきた。
正体は明るい茶髪を後ろに縛った白衣の男性。どことなく情けなく、役に立たなそうな印象を受ける。
「……あ、保健室の……」
「保険医のロマニ・アーキマン、皆にはドクターロマンと呼ばれているよ。
と、そんな事よりも、彼女達が君には見えているだよね? 本当は放課後に君に彼女達と合わせるつもりだったが、手間が省けて助かるよ」
「ロマニ、あまり話している場合じゃないだろ。生徒を遅く帰らせる訳にはいかない、始めるなら直ぐに始めてしまおう」
更に芸術の先生であるダヴィンチ先生まで現れ、流石に状況が分からなくなった。
「先生、何をする気なんですか?」
「契約さ」
「っ!?」
「!?」
「契約って……マスターが行える、サーヴァントと魔力のパスを繋ぐって奴ですか?」
「ああ、彼女達はサーヴァント適正者から生まれた可能性の存在、世界への存在証明が出来ておらず、魔力が無くて完全な現界が出来ないが、君と契約すれば彼女達もサーヴァント適正者として学園が迎えるだろう」
「け、契約って、普通まずは授業で生徒のサーヴァント適正者と行われる物じゃないのかしら!?」
ジャンヌ・オルタがロマニ先生に詰め寄った。
「そ、そうなんだけどね……彼女達は桜の木から溢れ出た魔力で現界しているから、桜の咲いている時期に不定期に出現するんだ……本当は僕達だって様子を見に来ただけなんだけど、折角のチャンスだから、ね?」
「ね、って……!!」
「すまないけど、そういう訳で彼女達との契約、お願いできるかな?」
ロマニ先生に頼まれて少し考える。この2人がどんな存在かは分からない事が多いが、それは2人も同じ筈だ。
新聞部は部員が少ないし、2人も入れば色々と助かるかもしれない。
「……構いません。ですが、1つだけ条件を受け入れてもらえますか?」
「ふむ、言ってみたまえ」
「彼女達を、新聞部に入部させてやって下さい。丁度、部員が欲しかったんで」
「あら、良いのかしら?」
「……新聞部には興味ある」
「それだったら、本人達も了承しそうだし、構わないよ」
「先輩、契約……するんですか?」
「おう、授業で習ったし、呪文さえ噛まなければいけるいける」
「で、でも……」
「ん?」
「…………何でも、ありません……」
「じゃあ、契約を始めようか」
「ほら、先ずはそこに立って――」
先生達の協力の元、契約は無事終了した。
契約したサーヴァントとマスターはある程度近くにいなくては行けないらしい。先生からは半径250mの距離を維持して欲しいとの事で、今日の夜は家に帰らず保健室で一夜を開ける事になった。
初契約の後と言う事で、俺は翌日の授業は早退する事となり、3年の教室にいる、式セイバーと魔人セイバーの仮の呼称で呼ばれている2人を迎えに行った。
「ふぁぁぁ……寝みぃな……」
目を擦った俺の手は、反射的に壁に掛けてあった消化器に伸びた。
「――っ!」
「――!」
Xオルタが放った鉄パイプによる一撃を辛うじて受け止めた。
「おいおいおいおい、手加減したとはいえ、部長を鉄パイプで不意打ちしようなんて、穏やかじゃねぇな、オイ!」
「……サーヴァントの攻撃に、反応……!」
「何のつもりだよ、Xオルタ?」
俺の質問にXオルタは眉をひそめる。
「……マスターと、初契約したサーヴァントは……83%」
「あん? 何が83%だって?」
「…………初契約のサーヴァントとマスターが結婚する、確率」
「はぁ? 仮にそれが本当だとして、なんで俺を襲うんだよ? レズか?」
「……乙女心の分からない先輩を、教育」
「っち、面白ぇ冗談だな! なら俺が返り討ちにしてやらぁぁ!」
俺が吠えるとXオルタは鉄パイプを構えて接近する。
(俺のマスターとしての能力がこいつを強化してやがるな……まるで大の大人と戦っているかのように一撃が重い!)
啖呵を切ったが、獲物が消化器では防ぐので手一杯だ。
「こん、のぉ!」
俺はXオルタが連撃を辞める一瞬を狙って消化器を投げ込んだ。
手ぶらなら逃げるのはそう難しくない。
「一旦引くしか――おわぁ!?」
慌てて右に跳んだ。俺のいた場所を炎が奔って行った。
「……燃やすのよ……燃やして……灰を聖杯に注げば……私の求めた彼が手に入る……!!」
「ジャンヌ・オルタか! 面倒だな!」
旗を揺らせば飛んでくる炎を左右に動いて避ける。一発入れてやろうと考えていたが、背後にXオルタがいるので止まるのは得策ではない。素通りして、階段を登った。
「おお、玲君。彼女達を迎えに来たんだ――って、えぇぇぇぇ!?」
「ロマ公、邪魔だ!」
背後から迫る炎を回避しつつ、俺は式セイバーと魔人セイバーの手を取った。
「あら、愛の逃避行かしら?」
「随分と展開が早い」
「いや、よくこの状況で余裕あるなお前ら!?」
「……ふふ、楽しい学園生活になりそうね?」
「戦い、それが私の運命」
それぞれが刀を抜くとXオルタを受け止め、炎を振り払った。
「良いわよ、マスターさん。楽しんでいきましょう?」
「終わらせてしまおうか、この運命」
2人も好戦的な様だ。
「見っっけたぁぁ! セイバー、ついでに恋敵殺すべし! 慈悲は無い!」
ヒロインXは光り輝く剣を手に、式セイバーに斬り掛かってきた。
「……ますたぁ……許しません……」
更に清姫も現れて体を蛇に変え襲い掛かってきた。
「もうどうなってんのか分からねぇが……ええい、切り抜けてやらぁ!」
「と、行った感じで切り抜けた猛者がいたな」
「やばいなそいつ」
アヴェンジャーから玲と呼ばれるマスターの話を聞きながら、俺はXオルタの頭を撫でていた。
「もっと、もっと撫でて下さい先輩」
「ますたぁ、ん……駄目です、もっと撫でてても許しません」
文句有りげな清姫の頭も念入りに撫でておく。
「マスターさん、膝枕の調子はどうかしら?」
「さっさと交代しなさいよ! 次は私よ!」
「違う、次は私」
式セイバーに頭を撫でられ、ジャンヌと魔人セイバーが抗議の声を上げる。
「何か、して欲しい事って、あるかい?」
デオンの質問には手を振って答えた。
「……貴様はそれ以上な気がするがな」
「何処が!? エレナに捕まって全員から監視されてるっつーの!」
(なんやかんや殺されてない上にヤンデレに囲まれて生きながらえている自覚は、無いのだろうな……)
今回は学園モノを濃くしたのでヤンデレは少なめでした。
コラボガチャ、78連回して☆4以上のサーヴァントが鈴鹿御前だけって……………………………
本編に登場させなかったからかなぁ……(遠い目)