ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回は前話で休暇を貰った切大の代わりに別のマスターの話。
以前、記念企画で書かせて頂いたマイペース系マスター陽日君のお話。

珍しく第三者視点です。


高難度ヤンデレとマイペース

 

「ふぁー……」

「貴様は、何時も誰かに一服盛られているのか……?」

 

 寝ていた筈なのにいつの間にか夢の中にいるようで、取り敢えずアクビをした。

 

「失礼だなぁ……集中する時は思いっきり集中するよ俺。だけど……それ以外は力は抜いて行動するの」

 

「些か抜き過ぎな気がするがな……」

 

「で、今日は何? 寝て良い?」

 

「そうは行くか! 貴様には今日という今日こそ肝を冷やす程度の恐怖を味わってもらう!」

 

(俺、そこまでこの人に嫌われる事したかな?)

 

「仮初のマスター……陽日……! 今回のヤンデレ・シャトーで今度こそ悲鳴を響かせてやる……!」

 

 こうなっては仕方ない。固い床で寝る準備をしよう。

 

「お休みー……」

 

 

 

「ん……ん」

 

 何処かに飛ばされた事だけを理解した陽日は取り敢えず寝た。

 何処でも寝れるスキルなんて中学の終わりに既に身に着けていたのだ。

 

「……にゃむ……」

 

「……呆れた。こんな所で寝てるわね」

 

 そんな彼を黒い甲冑に身を包んだアヴェンジャー、ジャンヌ・オルタが発見した。

 

「まあ連れて行くのが楽で良いけど」

 

 寝ている彼に近付き、サーヴァントの力で難無く彼を持ち上げた。

 その際に、寝顔が彼女の方へ向いた。

 

「っ……! ……か、可愛い顔で、寝るじゃない……!」

 

 普段から引き締まる事があまり無い陽日の表情筋が緩みきったその寝顔に彼女は少し嬉しくなった。

 

「部屋に連れて行きましょう。

 こんな所で寝て風邪でも引かれたら溜まったもんじゃないわ」

 

 抱えた小さな幸せを軽い足取りで自分の部屋へと持ち去った。

 

「誰もいなかったわね……でも、このままだと誰かが来るのは時間の問題よね……」

 

 ジャンヌは陽日をベッドに降ろすとドアの外側にデフォメーションされたファフニールの掛け札を掛けた。“睡眠中”と書かれている。

 

「……じゃあ……どうしようかしら? マスターは寝ているし……」

 

 横目でマスターを見つつ此処から何をするか悩むジャンヌ・オルタ。

 

「じゃ、じゃあ、添い寝してあげましょうか……! 寝ている時にキスなんて、野暮ですもの……」

 

 自分に言い訳しつつジャンヌはそっと布団へ入り込んだ。

 

「……私が横にいるってのに、呑気に寝ちゃって……っひゃ!?」

 

 仰向けだった陽日の頭が動いて、ジャンヌの方へと向いた。

 

「う……こ、こんなだらしない顔、ちょ、直視してられないわ……!」

 

 恥ずかしそうに悶えるジャンヌだが、同時に無防備な唇が視界に入った。

 

「……キス……」

 

 ジャンヌ・オルタの心の中で自分の欲望を優先しようとする想いが溢れる。

 

 自制するべきだが、貪りたい。

 

 泣かせてしまっても構わないから、他の誰にも消されない程にあの唇を犯したい。

 

「……! が、我慢なんて……出来る訳無いじゃない……!」

 

 抑えようと考えたが、それは自虐的に浮かべたニヒルな笑みと共に消えた。

 

 元々自分は完璧な聖処女が反転した存在だ。それが想い人の安眠よりも己の快楽を優先しようと考える事の、何処が間違えだろうか。

 

「マスターが……悪い、から」

 

 そっと言い訳を零しつつ、唇を捉えて迫らせる。

 

「私の前で、こんな間抜けヅラを晒した事を、後悔しなさ――」

 

 葛藤を振り切った彼女の口付けを阻む様に、扉が壊れた。

 

「……マスターさん?」

 

 ジャンヌは飛び起き、寝間着姿だった己の服装を魔力で甲冑姿に変更した。

 

「あんたは……!!」

「あら、あらあら? マスターさんを攫ったのは貴方でしたか」

 

 ジャンヌ・オルタに余裕は一切なかった。現れたのは日本の英霊の中でも1、2を争い、世界トップクラスのサーヴァントとも肩を並べる実力者、源頼光だった。

 

「マスターは寝てるわよ。静かに出て行きなさい!」

「でしたら、なるべく静かにくたばって下さい」

 

 一切の笑みが消えた頼光は刀を手に取るとジャンヌに向かって突撃した。

 

 振り下ろされる斬撃を旗で受ける程度ならば村娘に出来ない事でも無いだろうが、受け止めるとなると話は別だ。

 

「っう……!?」

 

 折れない旗で刀を止める筈が、その一撃で背中が壁まで押し出されてしまう。

 

「ば、馬鹿力ね……!」

「今のでお分かり頂けたでしょう? さっさとマスターをお渡し下さい。村娘に負ける程、軟な鍛錬は行っておりません」

 

「言ってくれわね……!

 こちとらアヴェンジャー……アンタから貰った痛み、返してやりたいって飢えてんのよ!」

 

「それじゃあ……死にな――」

「お母さん……喧嘩……しないでねぇ……」

 

 偶然にも聞こえた寝言に頼光の手に込められた力はみるみる抜けて、落ちた刀は地面に当たると粒子化し消えた。

 

「はぁ〜い! マスター、母は喧嘩なんて致しません」

 

 顔が喜びで一杯になった頼光は寝ている陽日の顔へと抱き付いた。

 ジャンヌは先までの戦いの雰囲気が一気に崩れ、どう反応すればいいか分からなくなっていた。

 

「んー、柔らかいけど……苦しい……」

「マスター……ふふふ、お寝坊さんですね?」

 

 目こそ閉じているが、流石に体を持ち上げられ胸を押し当てられた陽日は起きている様だ。

 

「…………えーっと……どちら様でしょうか?」

 

 目が覚めての第一声がそれだった。

 

「ま、マスター!? 私の事、ご存知無いですか!?」

「ゴメンね。うん。こんな胸の大きい知り合いはいない、かな?」

 

 顔と名前を覚えられない陽日だが、流石に日本人らしい慎ましさが微塵も感じられない巨乳を持つ目の前の女性に会っていれば絶対忘れないだろうと思い、会った事は無いと確信した。

 

「私です! 源頼光、貴方のサーヴァントです!」

 

「サーヴァント……? ああ、そっか、まだ夢の中だったね………………ぐぅ」

 

 ヤンデレ・シャトーの中にいる事を思い出した陽日は何の迷いも無く再び目を閉じた。

 

「ま、マスター?」

「眠いから……寝かせてぇ……」

 

 突然自分の胸の中で寝始めたマスターに頼光は戸惑うが、その赤子の様な寝顔に頼朝は興奮した。

 

「可愛い……! 可愛いわマスター!」

「っちょ、強く抱き締め過ぎよ! アンタ、マスターをトマトみたいに潰したい訳!?」

 

「え? あ……」

 

 ジャンヌの叫びに頼光は慌てて力を抜いた。陽日は寝てはいるが、その表情は苦痛で歪んでいる。

 

「い、いけないわ! ベッドに!」

「全く……!」

 

 ジャンヌはベッドの上から毛布を退けて頼光は陽日をそっと下ろした。

 

「ふぅ……とにかくこれで良いわね……」

 

 先まで殺す気で争っていた2人はマスターの表情が柔らかくなり、同時に安堵した。

 

「……で、どうする? 続けようかしら?」

「害虫退治と言いたい所ですが……マスターが眠ったばかりですし……」

 

「場所を変えようってわけ?」

 

 頼光はジャンヌの提案に頷く。2人は部屋のドアへと向かった。

 

 

「センパーイ! 此処で――もが!?」

 

 そんな空気なんて知った事かと、2人が出ようとしたドアから現れた後輩系黒幕サーヴァント、BBの口を2人は速攻閉じた。

 

「っしー!」

「マスターの安眠を妨害する耳障りな虫ですね……!!」

 

 流石のBBもバーサーカーである頼光の握力と眼光に、後輩系黒幕じゃなくて黒幕系後輩だとか、そんな巫山戯た発言は出来なかった。

 

「ぷはぁ! な、何ですかいきなり!?」

「残念だけど、私のマスターは私のベッドで寝てるのよ」

 

「え!?」

 

 BBはジャンヌが親指で指した先を見る。

 既に先程の苦痛の表情を微塵も感じさせない程にだらけきった表情に戻っている。

 

「ゃだ……ぅぃ……!」

 

「分かったら静かに――」

「――無理……尊い……! 

 あんな先輩、可愛過ぎです! 絶対私がお持ち帰りします!」

 

「させるとでも?」

「渡さないわよ?」

 

 こうして、一章ボス、イベントボス、ラスボスの三つ巴の戦いが始まった。

 

 

 

 

(やっと出て行きました……)

 

 物音1つ立てずにタンスの中から出て来たサーヴァントがいた。

 

「……マスター……お邪魔しますね?」

 

 スルリと寝ている陽日の隣に入ってきた褐色肌の美女、静謐のハサンだ。

 

「……可愛い寝顔……私の隣に……」

 

 念願の添い寝を達成した事で静謐のハサンはそわそわし始めた。本当に達成したのかどうか、実感を得たかった。

 

「……触れる……マスターが、暖かい」

 

 陽日の腕に触った静謐のハサンはその体温がある事に安堵した。

 

「……幸せです」

 

 それだけで満足したハサンだったが、寝ている陽日は当然ながら反応を示さない。

 

「…………」

 

 徐々に静謐のハサンに新たな願望が芽生える。

 

「……く、口付けくらいな――っひゃ!?」

 

 ――願望を行動に移そうとした瞬間、陽日はその両手でハサンを抱き締めた。

 

「え……マスター、もしかして起きて」

「イリヤ……動かないで……」

 

 瞬間、静謐のハサンの頭は冷水を浴びせられたかの様に冷え切ったが、マスターの顔が側にあった為、一瞬で正常な感情温度に戻った。

 

「うぅ……他の女だと思って抱かれてますけど……嬉しぃ……」

 

 当の陽日は本気で熟睡しており、起きる気配は微塵も無かった。

 強いていうなら、抱き枕から発せられる良い香りの睡眠薬で更に睡眠が深くなっている。

 

「BBちゃん、大勝利! これで先輩は私の物で――!?」

 

 急に戻ってきたBBはドアの先に広がっていた光景が不意打ち過ぎたので驚いた。

 

「っ!? ……ッフ」

 

 それに驚いた静謐だったがあまりにも滑稽な恋敵の姿に、ドヤ顔で返した。

 

「〜〜っ! ちょっと! 人の先輩と寝てるとかっ! あり得ないんですけど!?」

 

「……マスターから抱き着いてきました……」

 

「ドヤ顔でなんの報告ですか!? 良いですよ、貴方みたいな毒しか取り柄の無いストーカー、BBちゃんの手に掛かればあっという間に……!」

 

『きゃぁぁぁぁぁ!!』

 

 静謐を始末するつもりだったBBだが、行動を起こす前に後ろから聞こえてきた悲鳴にハッとなった。

 

「……誰の勝利、でしたっけ?」

「何なのよあの谷間お化け! 何時もの倍の威力で燃やしてやったわよ!」

 

 コロシアムと化した廊下から生還した頼光とジャンヌ・オルタはBBを睨みつけた 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! その前に此処で先輩の隣で寝ているストーカーに……って居ない!?」

 

 BBの指差したベッドは既に静謐のハサンだけではなく陽日の姿すら無くなっていた。

 

「っで……マスターをどこに隠したのかしら?」

「ふふふ、おかしな力を持っている様ですし、これは一度拷問をすべきですね」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい……BBちゃん、この件に関しては、何1つ関与して無いんですけど……!」

 

『問答無用!!』

 

「焼き尽くしやるわ!」

「プチプチと……潰しますね?」

 

「タイムー! タイムを要求しまーす!

 いやぁ、先輩、助けて下さぁい!!」

 

 

 

 

「静謐のハサン……です」

「……イリヤ……?」

 

「違います……抱き枕の名前は静謐のハサンです……」

 

「静謐の……ハサン……?」

 

 1人憤怒の業火と鬼神の刃から逃げ去った静謐のハサンは陽日に一生懸命自分自身を刷り込んでいた。

 

「そうです、静謐のハサンです……」

 

「……85点……」

「え?」

 

「匂い……強い……もっと励むべし……」

 

「は、はい! 私、もっと立派な抱き枕になります……!」

 

 逆に何か刷り込まれた。




復刻イベント来てます水着イベントまでガチャを引かない事に決めましたので、引きません。
引きません。


正直新水着サーヴァントよりも清姫が欲しいです。

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