ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
先ずはこれを本編とさせて頂きます!
なお、8の意見がカオス過ぎて手の付け方がわからない模様。
「……おい、何だこれ?」
クジの箱へ手を伸ばした俺は、その中の1つを取り出した……筈だった。
「どうやら、
俺の引いた三角形のクジの両端には、別のクジがくっついており、さらにそのクジの端に別のクジが、更にその端には……
「こんな偶然、あってたまるか!! パーティーの飾りみたいに丁寧にくっ付いてるぞ! ざっと数えて30枚はあるだろ……」
「じゃあ、ざっと数えて30日の悪夢だ」
「ふざけんなぁぁぁ!」
「っくっくっく……さあ、最初は……」
このアヴェンジャー、俺の苦しむ姿を見て喜んでいやがる……!
「じゃあ、貴様の引いたこのクジは……ほう、いきなりクライマックスだ」
【ドキドキデート大作戦 ヤンデレ編】
絶望への片道切符を見せつけるアヴェンジャー。
「嘘だそんなことぉぉぉ!!」
「さあ、ではルールを説明する。ヤンデレ5人とのデート、舞台はカルデアが在る事以外はお前の知るとある街と全く同じ。デートの約束から始まるが、断れば死が待っていると思え。
言うなれば、約束の時の従者共は爆発寸前の導火線、小さな刺激で暴走すると思え」
もはや返事する力も出ない。
「……へー、そーなんだー」
「まあ、5人ですむ上に、今日は経験者である紅い弓兵の意見を聞ける時間とデートへの準備時間が用意されている。この作戦は悪夢3日分あるからな。
因みに、2日目と3日目は合わせて体感時間18時間まで伸ばした。つまり、殆ど丸一日デートを楽しめるという訳だ。勿論、死ねば2日間死にっぱなしだ」
このままぼーっとしている訳にも行かないので、顔を上げ、アヴェンジャーに質問する。
「令呪は?」
「無い」
「自害するとどうなる?」
「起きるまで死んだままだ。その間は痛みを味わい続けるぞ?」
「ならサーヴァントを拘束……」
「出来ると思うか?」
駄目だ、俺の希望が次々と碎かれていく……
「では、精々準備し、デートを楽しむんだな!」
アヴェンジャーの消滅と共に、殺風景だった塔は、近代的な建物、カルデア内部へと変わった。
「……」
カルデアに変わって最初の難関は5人のサーヴァントからのデートの誘い。
携帯の様な端末にメールが届き、サーヴァント達から各部屋に呼び出された。
「遅れる訳には行かない……なら早い時間に約束したサーヴァントの順番で回ろう」
そんな確認を自分に言い聞かせる様にしてから、目の前のインターフォンを押した。
「……俺だけど」
『入っていいよ!』
ドアが開き、中に足を踏み入れる。
「……ごめんね、ご主人様を急に呼びだしたりして」
デオン・シュバリエ。白百合の騎士。
恐らくだが今は女性、だろう。
「それで、要件はなんだ?」
そんな事は分かってはいるが、自然な会話をする。
「うん、要件はね……私とデートして欲しいんだ」
そう頬を紅く染めながら笑顔で言った。
「マスターが私を好きにならない理由は……きっと他の皆が僕とは違う本物の女性で、魅力溢れているからなんだ」
おい、急にハイライトを消してしゃべり始めるな。まるでヤンデレみたいじゃないか。
「だけど、僕ならマスターの好みを理解できるし、私だってきっと可愛くなれる!」
そう言ってデオンは俺の両手を掴む。
「だから、マスター! 僕の服を選んで欲しいんだ! マスターが僕を好きになってくれるなら、僕は何でも着るし、何でもする!」
い、今なんでもするって言ったよね?
なら、大人しくしてください。
「ふ、服って言っても、何処で?」
「□□駅の前に新しい服屋さんが出来たんだ! 明日の朝にそこに行って、お昼も一緒に過ごそう!」
前から覗き込む様に俺を見るデオン。恐らく断れば、「やっぱり、性別が曖昧な私は好きじゃないんだ……」とか言って斬られるだろう。
(まあ、断われば殺されるの確定だからな)
「……分かった。明日の9時半に駅の前で待ち合わせ、適当にお昼までだな」
唇が震えて言葉が掠れない様に必死にデートの時間を決めた。
「うん!! 絶対だよ! たとえ、他に女の子から誘われても断ってくれ!」
心臓がドッキっと跳ねる。
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、明日の9時半! 約束だよ!」
「…………次は……」
気が進まないが、俺は次の部屋へ向かいながら、□□駅を調べる。やはり、俺の住んでいる街と同じ様だ。
「……っと、着いたな」
震える指でインターフォンを押す。
『マスターね? 入っていいわよ?』
「何故分かった……」
何も言っていないのに開くドアに驚きつつ、エウリュアレの部屋へと入る。
部屋が……すっごいピンキーなんですけど……
どうやらそんな俺の行動がお気に召さなかった様で、女神様が若干不機嫌そうにしている女神様可愛い!
「マスター? 誰が部屋を見渡していいと言ったかしら?」
「すいません、女神様」
「あら、これではいけないわ。つい癖で魅了してしまうのよね」
解除される魅了。相変わらずこの心の満足感と喪失感には慣れない。
「最近、マスターは他の女に構い過ぎじゃないかしら? 今までは、どうせ私の
つまり、かまって欲しいんだな?
「ああ、すまない。寂しい思いをさせていたか?」
「違うわよ! 逆よ逆! 貴方が寂しがっているんでしょう? 貴方は人理守護やら人間に不相応の重荷を背負って、そのせいで私に奉仕する時間が減って、寂しいんでしょ!?」
なんか、ヤンデレとツンデレが混ざって面倒くさい事に……
「だからこそ明日は一日中、私と過ごしなさい。なんのしがらみもない私との楽しい一日を! 7時からずーっと! 夜は添い寝してあげるわ!」
「……」
「そして夜は……あら、あまり下品な事を考えないでちょうだい? 弄るだけじゃ済まなくなってしまうわ」
はい、もう時間が被った! だけど、この様子だと時間変更は認めないだろうし……ていうか、一日中とか無理だって!
「さ、流石に一日中は……」
「あら! あらあらあら! 私の心遣いを無得する気かしら?」
「エウリュアレをずっと見ていると、大事な使命を忘れてしまうんだ。だから、2時間に1時間の休憩を挟ませてくれないか?」
「私の事より、使命が大事なんていうのかしら?」
「だけど、人理崩壊が成されてしまえば、世界が消え、俺はエウリュアレの事を忘れてしまう」
ていうか2人仲良く消え去ってしまう。
「…………分かった。それでも、明日はなるべく私と一緒にいなさい。食事の時と寝る時は絶対一緒よ? 良いわね?」
「はい、ありがとうございます。女神様」
スケジュールは既にパンク寸前。デートスケジュールをメモった端末とにらめっこしながらも、次の扉へ。
正直、インターフォンを押す時の罪悪感が酷い。
『誰かな?』
「俺です、ブーディカさん」
次は優しいお姉さんのブーディカ。直ぐにドアが開く……が。
「マスター!」
「っ! ちょ、いき、な!」
開いた瞬間、中から伸びた腕に捕まり、更に何か柔らかい物を押し付けられながら抱き締められた。
「マスターは可愛いな……」
「い、いきなりなんですかブーディカさん!? 呼び出されたと思ったら、急に抱き締めて……」
なんとか放してもらったが心臓はバクバクととにかくうるさい。
あの胸は反則だ。
「明日、一緒にピクニックに行こうよ。この前はエネミーが出てきて散々だったけど、私の時代の良い所、ちゃんと見せてあげたいから」
「べ、別にいいけど……出来れば夜でいいですか?」
「……」
俺のその言葉に、ブーディカさんは目を見開き、驚いた表情を浮かべている。
「…………っあ、ご、ごめんね! まさか、マスターがそこまで積極的だったなんて思わなくって……」
「あ! いや、そういう意味じゃなくて! 本当に! 出来れば夜に出かけたいなって思っただけで……」
「うん、もちろんマスターが優しいのは分かってるよ。でもね、マスター。こうやってサーヴァントとして現界したんだし、過去の因縁や縁を忘れて新しい繋がりがあってもいいと、私は思うよ」
な、なんか凄い勘違いして上に、遠回しに浮気しようとしてるよね、これ!?
「あ、あの……俺はただ星が見たかっただけなんですけど……」
「あ……うん、そうだよね」
何で露骨に残念そうな顔をするんだ!?
「じ、じゃあ……明日の午後7時でいいですか?」
「うん、楽しみにしているね」
(なんか、無理ゲーな気がしてきた……いや、最初から無理ゲーなんだけど……)
心境は推理ゲームの最後のステージ、会話と証拠集めに時間が掛かり過ぎて、やる気が失せる感じだ。
「……よし、行くぞ」
ボタンを押して、返事を待つ。
『どちら様でしょうか?』
「俺でーす」
『主どの! 今開けます!』
開かれるドア。この部屋は牛若丸の部屋だ。
「お邪魔しま――」
「主どのー!」
入った瞬間に跳んで、抱き着いてきたのは牛若丸。鎧も体も軽いが、見事に俺の腹へ衝撃を与えた。
「っぐぁ! ……そ、それ、で……なんで呼び出したんだ、牛若丸」
痛みを抑え、返事をする俺だが牛若丸は鼻を鳴らした。
「……主どのー……なんで他の女の匂いがするんですか?」
オーマイガー!! 先のプーディカに抱きつかれて匂いが付いたのか!?
だが、そんな時の対処法は知っている。嘘をつくなら大胆に、だ。
「先、廊下でブーディカにぶつかってな。倒れそうな所を抑えてくれたんだ」
「……そうですか。こんなに匂いが付くまで?」
「ブーディカの性格は知ってるだろ? お前だって抱きつかれたんじゃないか?」
「そういえばそうですね。ブーディカ殿にはそんな悪癖がありましたね」
どうやら納得してくれたようだ。
「……それでですね。主どの。明日は是非! 牛若と遊びに出掛けましょう!」
「……別にいいけど、何処へ?」
「主どのは何処かいい所を知っていませんか?」
そう言われて、俺は頭を捻り出す。
現状、デオンには9時半から14時位が目安だと考えている。
エウリュアレは2時間に1回別れる、ブーディカは夜。そして、牛若丸は……
「じゃあ、14時半からで良いか? 朝の内に済ませないと行けない用事があるから」
「分かりました」
「場所は……そうだな。公園でいいか?」
「構いません! では、明日の14時に公園で待ちあわせですね!」
さあさあ、もはやスケジュールパンクなんてレベルじゃないね。
グランドサーヴァントが4騎で人理崩壊しようとする程にやばい話になってきた。
(って、それ俺確実に死ぬんだけど……)
「おーい、マスターだぞー」
最後のインターフォンを鳴らす。
「……ほら、入っていいぞ」
最後はこの人、両儀式。
「マスター、急に呼び出して悪いな」
「いや、別に良いけど、どうしたの急に?」
「新しい喫茶店が出来たんだ。そこのアイスパフェがカップル限定だから、付き合ってくれないか?」
「……別に良いけど何時から?」
スケジュール表を出しながら聞けば、気遣いの出来る式の事だ。こちらに指定を任せてくれるだろう。
なお、今開いているスケジュールは偽装した物だ。見られても問題ない。
「何時が開いているんだ?」
「……15時なら1時間位大丈夫かな?」
「そうか……限定アイスパフェは明日までだし、それで手を打つか」
「決まりだね。じゃあ、その後はバーサーカーと一緒にトレーニングで……」
「……意外と、ハードなスケジュールなんだな……」
(ハイ俺死んだー! 無理だよ無理! どうしろって言うんだよ!?)
マイルームで頭を抱えながらも、気晴らしにサーヴァント表を見る。
(やっぱり、俺の持ってるサーヴァントしかいないな。エミヤは持っていないのに、紅い弓兵に何処で会えば……)
「キャスターはジル、アンゼルセン、メディア……あ」
そこで僅かに閃いた。
「よし、急ぐぞ!」
俺は僅かに見えた希望を繋ぐ為に、走り出した。
「――そこから先は地獄だぞ」
あれから1時間程経ったあと、フレンドのサポートサーヴァントに会える喫茶店に向かった。
例の先人、紅い弓兵を見つけ、俺はデートの話をした。
それを聞いて男は語り出した。
「確かに、未熟な頃の俺はそんな事をしようとした。全ての幸せを願い、平和を理想とし、体を走らせた」
彼は思い出し、皮肉にも見える様な笑顔を浮かべる。
「だが、結果は無残な物だった。俺は小さな幸せを忘れ、正義の光の元に下された鉄槌を受けて、
全て遠き理想郷と悟ったのだ」
その男は、全てを失ったように見えた。
だが、それは違う。
失わない様に意地を張った結果が今の彼なんだと俺はそれを理解した。
「……だが君と私とでは状況が違う。君は、たった1人を選ぶ事も出来ないのだろう」
「……ああ」
「それに、君は未熟な俺とは違う様だ。それなりのプランを用意したのだろう?」
「……」
俺は、喫茶店にあったホワイトボードで弓兵に説明を始めた。
「対ヤンデレ・ドキドキデート大作戦!! これが俺のプランだ!」
ホワイトボードにスケジュールを書いた。
テンションが可笑しい? 知った事か!
「先ずは7時からのエウリュアレ! 俺は既にドクターロマンにパラケルススに手伝いを頼んだ!」
「っ何!? 役に立たない事に定評があるドクターに、常に黒幕疑惑のあるホーエンハイムだと!? 正気か!?」
「ああ! だが、これくらいのリスク、承知の上だ! パラケルススには睡眠薬を用意させた! 効果は睡眠時間を18時間固定だ! ドクターの協力とフォウを買収して、通気口にお香タイプの睡眠薬を何時でも発動できる様に設置している!」
「なんだと!? 昼過ぎまで寝させる気か!?」
現代で規則正しい生活を心がけていた弓兵は、薬で相手の睡眠を操る俺の策に戦慄禁じ得なかった。
「つまり、俺のデートは9時半のデオンから始まる訳だ! これは午前中にデオンの買い物を終わらせ、適当に昼食済ませた後、急用ができたと言って帰る! 急用を聞かれれば、意味深なセリフを言って帰る!」
「下手な事を言えば、尾行されるだけだぞ!?」
だがその忠告をニヒルな笑いで吹き飛ばし、プランを続ける。
「その後は牛若丸との待ち合わせ場所の公園へ! 因みに、エウリュアレのドアに7時と9時と12時にインターフォンを押した事を教える紙をドクターに貼って貰う!」
「アリバイ工作……だと……!?」
念入りな策に弓兵はその手があったかと恐れ慄く。
「牛若丸は映画館に連れて行き、14時45分公開の侍映画を見せる! その間、15時には抜け出して、アイス食いに式の元へ!」
「映画、館……抜け出す……」
弓兵のトラウマを刺激した様だがそれに構わずプランを練り続ける。
「お香の効果は23時に発動させる為、17時には目覚める計算だ。牛若丸が2時間半の映画を楽しんでいる間に1度席に戻ってからエウリュアレの様子を見に行く!」
「此処は3人のローテーション、正念場だな」
その通り。此処でしくじれば全てが終わる。
「エウリュアレを寝過ぎだからと医務室連れて行き、強制検査! その間に牛若丸に会って別れて、エウリュアレを構う!」
「……さあ、最後か。さあ、ブーディカはどうする!?」
「ブーディカには飲み物に混ぜた睡眠薬でご退場だ!」
「早い!? 物凄いスピードで斬り伏せた!」
「エウリュアレENDで終わり、これが俺のデートプランだぁぁぁ!」
「……」
「どうだ!?」
俺の渾身のドヤ顔に、弓兵はなにか呟いた。
「……貴様、忘れているのか? それとも、惚けているのか?」
「ん、なんだって?」
「戯け! 貴様を監視する清姫はどう躱す気だ!?」
「………………」
「………………」
「…………っは」
乾いた笑い声を出した俺の心は、明日どうすれば苦しまずに死ねるかを考えるのに必死だった。
一応、全員を睡眠薬で眠らせる策も浮かんだが、アヴェンジャーに睡眠薬の使用対象と回数は2人に2回までと禁じられているので、このプランを続けるしかなかった。
そして、俺は悪夢を忘れながら現実へと戻った。
さてさて、どうなる主人公!? 絶望編へ続く!