ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
学生の皆さんはそろそろ夏休みですね。ヤンデレも良いですけど、青春らしい甘酸っぱい恋愛、してみて下さい。
自分はヤンデレ以外お断りですけどねっ!!
「今回は久しぶりにデートだ」
「なんて不吉な単語だ……」
アヴェンジャーのテーマ発表に俺の体はブルブルと震えた。
その単語には今まで何度も酷い目に合されてきたのだ。覚えてないけど。
「個別……だと面倒だ。2人同時に行くぞ」
「だから、それはダメだろ!? ヤンデレだろうが!」
「えー! 先輩、デートするんですかぁ!? お相手は誰ですか? ねぇ?」
そして自然と混ざってくるBB。どうして此処にいる?
「……ねぇ、教えて下さいよ? ほら、早く言って下さい。誰が先輩と行くんですか?」
しかも何故かちゃっかりヤンデレてるし。
「……安心しろ。1人はお前だ」
それを言われても何にも安心出来ないんですが、アヴェンジャーさん?
「やったぁ! 嬉しいですよね、先輩!?」
「そーですねー」
お前ほどじゃないよ、と心の中で思ったが口には出さなかった。
「……で、もう1人は誰だ?」
「もう1人はキャスター、ニトクリスだ」
褐色肌のファラオを思い出す。BBと接点は無いが、恐らく新しく召喚された者同士という理由だろうな。
「つまり、その人を潰せば先輩とのデートなんですね? さっさとやっちゃいましょう!」
「そうはさせん。今回、サーヴァント間での戦闘、及び過剰な妨害は禁止とする」
何で肝心の俺はそのルールで守られて無いんですかねぇ?
「デートについてはお前らに端末を渡しておく。マスターは基本的に自由だ。サーヴァント2人から逃げ切れると思ったなら逃げても構わん。終了タイミングは体感3時間だ」
「はぁ……休暇開けていきなりハードだし……」
「先輩、逃げようなんて考えないで下さいね? ふふふ……すぐに逃げ出そうなんて考えなくなりますけど♡」
取り敢えず、普通に相手にする事にしよう。死ぬのだけは勘弁だ。
「で、既にBBがいる訳か」
「このまま2人でデートにしますか?」
取り敢えずカンペ、もとい、アヴェンジャーの言った端末を手に取る。BBも俺に習って開くが、同時に驚愕の声を上げる。
「な、なんですかコレ!?」
「えーっと、俺の予定、ニトクリスとのデート。待ち合わせ場所で待っている内にBBと鉢合わせて乱入される」
「こ、これじゃあ私がもう負けてるみたいじゃないですか!」
確かに、ニトクリスが正式な彼女でBBは2人の恋路を邪魔する後輩って感じだ。
「なんだ、ナイスキャスティングだろ」
「全然ちーがーいーまーすー! 何で私がどこぞの馬の骨とも知らない英霊に既に負けているんですかぁ!?」
講義の声を上げているが既に始まっているので変えようも無いだろう。
「お、遅くなって、申し訳ありま――」
「おはよう、ニトクリス」
息を切らしながらやってきたニトクリスがBBを見て固まっているが、俺はそれに自然な挨拶で返した。
「――おはようございます。そちらの方は誰でしょうか?」
折角デートに備えて用意したであろう白のノースリーブを消して、英霊の持つ本来の礼装を出現させたニトクリス。俺ごとBBを呪い殺す気か。
「偶々そこで会って話してただけだから!」
「…………ふふ、冗談ですよ」
思ったよりあっさりと、白のノースリーブに戻った。だが、ネタバラシするまでの間が長かった気がする。
「そちらの方がご同行するのは知っていました。お互い、あまり邪魔が出来ない様になっているそうですね」
ニトクリスは俺の腕に抱き付いた。
「でしたら、マスターとの一時を楽しむべきですね」
だが、徐々に顔が赤くなっている。自分から抱き付いておいて、どうやら恥ずかしくなっている様だ。
「そ、それでですねマスター……私、そのおかしな所はございませんか?」
白のノースリーブに黒いズボン。白に消されない褐色肌が肩まで見えるその姿は理性的なエロさを醸し出している。
「(なのに自信が無いとか、ギャップが凄いな)可笑しくないぞ、綺麗だ」
心の中でした解説が口から出ない様に抑えつつ、当たり障りの無い言葉でニトクリスを褒めた。
「先輩! 私はどうですか!?」
先まで普通の礼装だったBBは、振り向いたら何故かスクール水着を着ていた。
「マイナス3ポイント」
「えぇ!? 何でですか!?」
「デートの格好じゃない、無理がある、痴女っぽい」
「ふふふ、どうやら最初は私の勝ちですね?」
勝ち負けなんかあったのか。今のどう考えてもBBのお巫山戯だっただろ。
「そういう訳でマスター、あんな恥ずかしい格好の女など忘れて、私と店を見て回りましょう」
ニトクリスの普段着もアレくらい露出が多くなかったかとは言わない事にしよう。
「店か……ニトクリスは何処に行きたいんだ?」
「そうですね……水族館に……言ってみたいです」
「ふふふ、水性動物が住む海こそ私のホームベース! 水族館で一気に先輩のハートをゲットです!」
「此処が、水族館ですかぁぁ……!」
着いてすぐに広がる水槽に、ニトリクスは歓喜している。俺も久しぶりの水族館に少しだけテンションが上がる。
「魚だらけですね!」
「海に棲むと言ったらやっぱり魚だからな。これはクマノミか……」
「んー……見慣れていたつもりですけど、やっぱり電子の海とは違いますね。魚を完璧に再現した泳ぐ観賞用オブジェクトやNPCなんてリソースの無駄ですから、セラフでは再現出来ませんね」
「このカラフルな物は、良くカルデアで出されるスープに入っている海藻でしょうか?」
「あれはワカメ、これはイソギンチャクだ。食べたりは……出来ないよな?」
「多くは毒を持っていますが、日本ではイシワケイソギンチャクと言う種類の物が珍味として食されているそうですよ?」
BBの豆知識にへーっと声を上げた。
「毒があるんですか……」
「自然界の派手な色の物には大抵毒があるそうだし、多分この先にも色々危険な生き物がいると思うよ」
会話をしながらの俺達は水族館の更に奥へと歩いていった。
「これはーー!? それはーー!?」
「シュモクザメと言ってーーシャチはーー」
見た事の無い海の生物に関心を寄せる生真面目なニトクリスと知識のあるBBの2人は、俺が口を挟まなくとも自然に、思っていたよりも争う事無く水族館の中を巡る事が出来ていた。
なので、2人には何も言わずにそっと側を離れていた。
「取り敢えず、2人の分のジュースでも買っておけば言い訳になるだろう」
ヤンデレと言っても年中無休24時間体制で俺を警戒する訳じゃないし、このまま水族館で1人で気楽に過ごすのも――
「――ん?」
不意に、誰かにズボンを引っ張られ、振り返った。
そこには、何処からか片手を出した白く小さなニトクリスの悪霊がいた。
「ハヤクカエレ」
「……」
一瞬で血の気が引いた。どうやらしっかり監視されている様だ。
「マジかよ……」
こんな風に釘を刺されて仕舞えば大人しく従うしかなかった。
「む、マスター。遅かったですね?」
「先輩、急にどこに行っちゃったんですか?」
「い、いや別に……」
合流した俺は取り敢えず2人に買っておいた飲み物を2人に差し出した。
「先輩にしては気が利きますね?」
「ありがとうございます、マスター。お代は返させて頂きます」
「いいんだよ別に。俺が勝手に買ったんだからさ。ほら、いつも通り受け取って、な?」
「そ、そうですか……でしたら、同盟者からの献上物として頂きます」
「ああ」
「せ・ん・ぱ・い〜?
先輩の方が美味しそうですね? 私に1口飲ませて下さい」
BBがそう言うが同じ炭酸飲料だ。味に違いは無い。
「いえいえ、私くらい優秀なNPCになると僅かな成分の違いも一瞬でスキャンできるんです。先輩のほうが美味しい可能性は十分にあります」
きっとその僅かな違いである俺の唾液を飲むのが目的だろうなぁーと思いつつ、缶の中身を飲み干した。
「ポイっとな」
「先輩、デートですよ!? もうちょっと恋人っぽい事しませんか!?」
「いや別に間接キスは恋人っぽい事では無いだろ」
「「――!?」」
2人は戦慄した。
いや、何でだよ?
「ま、マスターはもう……この程度では恋人らしさを感じないといっているのですか?」
「先輩は毒されているのです……きっと他のサーヴァントにもっと過激な事されて感覚が麻痺しているんですよ……」
なんかヒソヒソし始め、なんか涙目だ。
「ですがそんな先輩も私に掛ればチョチョイのチョイです! BBパニック・2nd!」
訳が分からないまま、BBがまた何か発動した。指揮棒から放たれた光に思わず目を閉じた。
「〜〜♪」
「……♪」
「あ、あんまりくっつくなよ……」
恥ずかしい。相変わらず周りの人々はNPCの如くこちらに一切関心は無いが、それでもこんなに人の多い所でBBやニトクリスの様な美女に抱き着かれるのは恥ずかしい。
「せんぱぁい? もしかして、照れちゃってます?」
「だから、抱き着くなって――」
「可愛いですね、先輩!」
更に胸を押し付ける様に抱き着くBB。
不意にニトクリスの腕を使う力が増した気がする。
「あ、あの……ニトクリス?」
「……なんですか?」
「恥ずかしいんだったら、無理に抱き着かなくても……」
ニトクリスの顔は赤く染まっている。明らかに恥ずかしがっている様子だ。
「嫌です! 私だって、もっとそばに居たいです!」
「わ、分かった分かった……」
ニトクリスもBB同様、更に胸を押し付ける。正直、気を抜くとすぐに間抜けな表情を晒してしまいそうだ。
(――って、なんで今更こんな事で恥ずかしがってるんだ俺は!? ほら、式とか清姫にもっとやばい事……あ、あれ……何されたんだっけ?)
「先輩って本当に初心ですねー…………
ほーら、素直に言ってくれたらもっと凄い事してあげますよ?」
「っ!」
耳元で蠱惑的な囁きをされ、体は思わずピクリと動いた。
「あはは、反応しちゃいましたね? 先輩って本当にスケベですねぇ?
……そうですね、此処はニトクリスさんにも、えい!」
「! な、何を!?」
「いえいえ、奥手な方が2人だとやりにくいのでちょっと大胆になってもらうかなって」
BBが棒を振るうとニトクリスが輝き、光を放つ。その中から何か聞き覚えのある効果音が聞こえてくる。
レベルが上がった音の様と霊基再臨の完成音が一緒に鳴り響いていたのだ。
音が鳴り止むとニトクリスは最終再臨の姿になっていた。
白のノースリーブの下に黄金の装飾を身に纏い、マントの様に見えた広く長い髪は2つ別けて縛られ、それすら黄金で飾り付けられている。
「……これは」
「これがニトクリスさんの最終再臨です。さあ、早速初心なマスターを2人掛かりで――」
「必要ありません」
ニトクリスは指を鳴らす。
現れたマミー達はBBの下半身を掴むと何処かへと連れ去っていく。
「ちょ、ちょっと何をするんですか!? あ、マミーさん達ストップ! 止まってくださぁぁい! せんぱぁぁぁい!!」
抵抗虚しく……BBは連れて行かれた。
「こちらですよ、マスター」
「え……あ、いや、全然状況が分からないんだけど……」
「そうですね、先ずは彼女の術を解いてしまいましょう」
ニトクリスは杖で地面を叩くと、俺のBBパニックは消え去った。
うん……むしろ先の様な反応が出来なくなった事の方が精神的にダメージがデカイ。
「マスターが初心であろうがなかろうが些細な事です。真なるファラオである私がマスターに最も相応しいサーヴァントである事を証明いたしましょう」
「いや、だけどラブホに行く理由にはならないだろ……デートだし」
「マスターはまだその気では無いと?」
「多分そんな気にはならないと思うけど……」
「ならばデートらしい事をしましょう。何処かで食事にいたしましょう」
「いらっしゃいませ……あら?」
「メルトリリス……何してんの?」
適当なファミレスにやってきた俺達をまだ引いていない筈のメルトリリスが店員として出迎えた。
「BBがいないじゃない。何処へ行ったのかしら?」
「知りません。それよりも、何故彼女の手の者が此処にいるのです?」
「勘違いしないで。私とリップは唯のNPC役よ。BBには何か思惑があるのでしょうけど、本人がいないなら私達が何かする事はないわ」
「……そうですか」
2人が何か話している間、俺は……
「この人がマスターさん? はくのせんぱいとは違うの?」
「違うんですよ」
案内された席でリップと幼女に絡まれていた。
「ちょっと、2人共! 今回私達は裏方よ。余り目立つとBBが後でうるさいわよ」
「「はーい」」
「それじゃあ、注文が決まったら呼んでちょうだい。
何だったら、私が素敵なサービスをしてあげるわよ?」
「要りません。マスターの相手は私です」
ニトクリスの機嫌は悪くなっているが、その間に俺は全く別の事を考えていた。
(あの中で、まともに料理出来るのは一体誰なんだろう……?
そして会計で1人だけ静かなヴァイオレットォ……)
「……」
「何処を見ているのですか? マスターのサーヴァントは私ですよ?」
ニトクリスは顎を掴むと俺の顔をクイッと自分に向け、ニッコリと笑った。
「ああ、そうだな」
「そうです」
その笑顔が怖かったので肯定しておいた。
「では注文、どういたしましょうか?」
「んーそうだなぁ…………
あー、こう言うパターンか」
俺はメニュー名を見て全てを悟った。
『トラッシュ&サンド&クラッシュ』
『レベルドレインのブルーソーダ』
『クラックアイスコーヒー』
『グロウナップルグロウ』
ファミレスなので他にも普通のメニューがあったので、迷う事なく普通のメニューを注文した。
「こちら、サービスのブルーソーダで――「いらない」。そちらのステーキとの相性は素晴らしいの――「いらない」試し下さい」
「はい! これはトラッシュ&サン――「いらない」&クラッシュです! サンドイッチを100個を1つに圧縮――「いらない」そんなこと言わないで食べて下さい!」
「このグロウナップルグロウは食べ切らないと無限に大きくなり続けるパイナップルで――」
「クラックアイスコーヒー、飲めばずっとこの店の中に縛り付ける束縛の飲料――」
「おっそろしいメニューを勧めてくるなぁ!」
ニトクリスは鏡の中にそれらを全て放り投げている。
「どうですかマスター? これで私がまるごしシンジ君なる物より優れている事が証明できましたよ」
「なんでそんなドヤ顔が出来るんだよ……」
結局、レストランを出るまで俺1人だけが戦慄し続ける結果となった。
「……さて、でなそろそろ男女の営みと参りましょう?」
「いや、だからラブホに引っ張るなって!」
「……もしかしてマスターは野外での情事がお望みでしょうか?」
「だから……別にそれを望んでいないって」
精神的に疲労困憊している俺は近くにあったベンチに腰掛けた。
「そうですか……マスターは私の体に、興味はありませんか?」
隣に座ったニトクリスは俺にそっと近付き、問い掛けた。
「いや、別に興味が無い訳じゃないさ……でも、そんな事をしなくても俺達はちゃんと繋がっているだろ?」
「マスター……」
「繋がってるなら……それを一々確かめなくても、強く縛り直さなくても、ずっと一緒だろ?」
……
…………
………………
良し! それっぽい事言って誤魔化して――
「――誤魔化しては駄目ですよ? っん!」
ニトクリスに唇を重ねられ、押し倒された。
「っちゅん……ぅん、んん……!」
そのまま上から抑えられたまま貪られる。
「んぁはぁ……繋がってる者が多過ぎるマスターの一番で、居たいんです。
明言しましたね? 私こそが、最も優れたサーヴァントだと証明すると……」
「ニトクリス……!」
「確固とした愛は何度も確かめ合う事で強くなって行くのです。何もせず繋ぎ続けていられる愛なんて、ファラオである私には向かって……不敬です。
罰として、今宵はずっと愛を確かめ合いましょう」
月の光で黄金と、ニトクリスの瞳が妖しく輝いた気がした。
「――させませんよ!」
此処で空気を読まずにBBが復活した。いや、こちらとしては有り難いが。
「先輩は私の物です! 大体、褐色肌枠は既に月に居るんですからこれ以上要りません!」
「不敬な……真なるファラオに勝るとでも?」
「令呪を持って命ずる! ニトクリス、BBを愛せ!」
久しぶりに令呪を使う事にした。
「って、先輩その命令は!?」
「BB……今宵は私と不変の愛を……!」
ニトクリスがBBに抱き着くと、そのまま口付けをしようと迫る。
「令呪を持って命ずる! BB、オチよろしく!」
「またこんな役回りですかぁ!? って、なんで先追い払ったマミー達が!?」
BBの背後から迫るマミーの群れ。その全ての白かった布には、ピンク色の文字でBBLOVEと書かれていた。
「大人気だな、BBちゃん!
じゃあ、ファンサービスよろしく!」
「うわぁぁぁ! この前の優しさは何処に行ったんですかぁ!? せんぱぁぁぁい!!」
次回は……そろそろ夏っぽい話、書きたいです。
8月まで取っておくのも手ですかね……
あ、新しいバーサーカーを引きましたけどまだストーリークリアしてないので登場はまだだと思います。
コメント欄でのネタバレも控えてくれると嬉しいです。
自分は土下座のシーンまで進んでいます。
水着イベント早く来て欲しいです。はい。