ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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投稿に2週間近くかかってしまいまして、本当に申し訳ありません。
最近、動画編集に興味を持ったり、オリジナル小説を書いてみたいなど、執筆時間が無い上に個人的にやりたい事が多くなってしまい、この様な事になってしまいました。

出来れば、次の更新は謝罪も兼ねて普段より文章量の多い物を投稿出来ればと思ってます。


そして全員愛を囁く

 

 

 事の始まり――そうだ。全ての事には必ず始まりが存在する。

 そして俺は自分の見た事と感じた事の全てを伝えなくてはならない。

 

 だが、事の始まりはまるで時間を止められていたかの様に唐突に、なんの前触れもなく、手足を拘束され、目隠しをされた所から始まっていた。

 

「――ほっぐ!」

 

 おまけに猿轡まで嵌められたらしく言葉も出ない。

 

 以上が、俺の知る事の始まりだ。

 

 いつも通りならば、この悪夢はアヴェンジャーの登場から始まるはずだったが、今回に至ってはそれすらない。

 

 もしかしたらヤンデレ・シャトーと全然関係の無い悪夢かも知れないが、ここまで意識がはっきりしているのはヤンデレ・シャトー以外あり得ないと思う。

 

(なら拘束を外すしか――駄目だ、そもそも右手が左腕にも届かない。足だったら片方の拘束具に触れられるけど、外せない。穴みたいな物は感じられたから、鍵が必要だけど、そもそも目が見えなきゃどうしようもな――)

「――暴れないで下さい、先輩」

 

 戦慄。今の今まで独りで脱出を試みていた俺の心臓を掴む様に、耳元でそっと囁かれた。

 

 一切分からなかった人物の存在を、見えないまま肌で感じる。

 震える子供をあやすように、背中を擦っている。

 

「ん、っぐんん……!」

「え、誰か分からないんですか?

 私です、マシュ・キリエライトです。

 貴方の、唯一のサーヴァント、マシュ・キリエライトですよ、先輩」

 

 ようやく自己紹介をしてくれたが、拘束を外す気はまるで無い様だ。

 

「……なんで捕まっているのか、って考えていますよね? 先輩の考えている事は何でも分かります。

 だって、私が先輩のサーヴァントなんですから」

 

「……」

 

 猿轡で塞がれて話す事は出来ない。

 一先ず動きを止め喋らずにマシュの声を聞く事にしたが、耳元で囁かれては微塵も落ち着かない。

 

「説明して欲しいんですね。良い判断です。

 此処は先輩の知っている監獄塔の中ですけど、私達が今いるこの場所は4階、普段先輩が彷徨っている2階とは異なる階層で、まだ誰にも知られていない秘密の部屋なんです」

 

 つまり、誰にも邪魔されないヤンデレにとっての夢空間と言う訳か。悪夢の中だけど。

 

「……」

「つまり、先輩の面倒を見れるのは私だけ、と言う事なんですよ、ん……」

 

 何かが俺の頬をなぞった。濡れた感覚があるので恐らくマシュの舌だ。

 

「防音ではありますけどあまり煩くされては誰かに見つかる可能性がありますので、先輩には静粛に過ごして頂きたいです。

 大丈夫ですよ、私が先輩の面倒をしっかり見ますので」

 

 マシュの声が少し離れた。

 位置的には立ち上がろうとしているようだ。

 

「……少々、お待ち下さい。いきなりこんな状態では先輩も落ち着かないでしょうから、何か温かい飲み物でもお持ちしましょう」

 

 そう言って数回の足音とドアの開閉音が聞こえ、マシュの声は聞こえなくなった。

 

「んん……」

 

 さてどうしようか、そんな悩みの声も猿轡に塞がれては発声出来ない。

 

(最初から詰んでるし……)

 

 そう。普段の俺が恐れているのはこの状況、ヤンデレに捕まり何も出来なくなるこの状態を回避しようと奔走していた。

 

 だが、こうなってしまえば俺に出来る事は殆どない。

 何時もならば捕まっても口先三寸で説得を試みるがそれすら許されない状況である。

 

「……ひゃいっは」

 

 参った。何時もならば救出を待つのだが、先の説明だとそれも期待出来ない様だ。

 

(………………)

 

 それしたって静かだ。マシュはまだだろうか。

 そう思ってると、ドアの開く音がした。

 

“……マスター?”

 

「っ!」

 

 聞こえて来た声に思わず顔を動かした。

 マシュの声ではない、彼女より幾らか幼い声だ。

 

“捕まっちゃったの?”

 

「ん、っぐ……!」

 

 声に頷いた。そして足音が近付いてくる。

 

 姿が見えないので誰かは分からないが、声の感じからしてジャックやナーサリー・ライムの様な見た目相応な少女な気がする。

 

(これで助かる! さっさとこの拘束具を外して貰って――)

 

「――ッ!?」

 

 目が塞がっていたせいか、その短い乾いた音は耳を伝って心臓に届き、鋭い痛みは頬を貫いた。

 

“……先輩、私以外を頼ってはいけませんよ?」

 

 聞こえていた声色が変わった。マシュの声だ。

 

「何で喜んだんですか? 先輩のサーヴァントである私が安全を保証しているんですよ? 先まで恐れ慄いていたのに、なんで他の声で安堵の表情を浮かべているんですか?」

 

 言葉で攻め立てながらも頬に何度もパンッパンとビンタされる。手加減はしている様だが、塞がれた視覚の分だけ痛みを強く感じる。

 

「……んっ……っぐ!」

「此処は先輩を守る為の愛の巣ですが、同時に最近の先輩の行動を反省させる為の反省部屋でもあります。しっかり反省して下さい、でないと目隠しは取りません」

 

 つまり、反省しても拘束を解く気は無い訳だ。

 

 足音は遠くに消え、再びドアの閉まる音。

 

(……現状、マシュの言う事を聞くしかない訳だ)

 

 

 

「……ほら先輩、おにぎりですよ。コレは鮭入りです」

 

 そう言うマシュはあむっと口に何かを頬張ると、俺の口に唇を重ねた。

 

「ん……じゅっ、ん……ぁん……」

 

 繋がったマシュの口内からおにぎりの一部だったであろう米と鮭が俺の中に送り込まれる。

 

 ビンタでの折檻の後、聞こえて来たマシュ以外の声を無視し続けた俺に機嫌の良くなったマシュが猿轡を外したと同時に、口移しでの食事が始まった。

 

「美味しいですね、先輩? やっぱり、大好きな人と一緒に食事を摂るともっと美味しく感じますね」

「うん、そうだね」

 

 口移しなんて慣れた、と思っていたが此処までガッツリさせられたのは久しぶりなので正直参ってる。

 

「次はたくあんです。食事が終わったら、お利口な先輩の目隠しを取ってあげますね?」

 

「ん……」

 

 喋れる様になったが余計な事を言ってしまうと何らかのペナルティが発生する可能性があるので、基本的に俺はマシュの言葉に肯定で返すしかない。

 

 令呪を使う事も考えているが、マシュが何らかの対策をしている可能性があるので出来れば何らかの行動を阻害する最終手段として残しておきたい。

 

「はん……ん、っちゅ…………はい、食事は以上です。

 食器を片付けたら先輩の目隠しを外して挙げますね?」

 

 そう言ってマシュはカチャカチャと食器を片付けるとその場を去っていった。

 

「……ごちそうさま」

「はい、お粗末さまでした!」

 

 マシュが去って行く音がする。

 出来ればさっさとこの目隠しを外して欲しい。口が自由になっても何も見えない状況では只々不安が募るだけだ。

 

「…………あれ?」

 

 腕、足から力が抜けていく。

 意識が遠退いていく。

 

「も、しかして……睡みぃ……」

 

 唯一残っていた首の力も抜けて、俺は頭を倒してそのまま寝てしまった。

 

 

 

「……何だったんだ、あの夢は……」

 

 夢の中で寝た俺はそのまま現実で起きていた。

 何があったかは徐々に思い出せなくなっているが、何かあったのは間違いない。

 

「……まあ、アヴェンジャーに聞けばいいか。夢の中でなら思い出せるだろうし」

 

 

 

「っ……!」

 

 また夢の中。

 だけど、手足は動かせない。目も塞がれている。

 

「これ、昨日の続きか!?」

 

 そう思い身構えるが、一向にマシュの声が聞こえない。

 

「……」

 

「…………マシュ?」

 

 返事は返って来ない。

 

「おーい、マシュ!」

 

 やはり、何も返って来ない。

 

「……もしかして、昨日のまま放置プレイか? 嘘だろ……」

 

 目が塞がれたまま、拘束されたまま1人なんてとても耐えられた物じゃない。

 

「誰かぁ! 助けてくれぇ!」

 

 俺は力の限り叫んだ。だが、返ってくるのは静寂だけだ。

 

「……いや待て、マシュは此処は普段の階の2つ上だって言ってた。

 つまり……叫んだ所で誰にも届かないって事か?」

 

 声は届かない。それならと俺は地面を蹴った。

 

「ッ! 駄目だ、全然音が……!」

 

 しかし、縛られた足ではまともに地面を蹴りつける事など出来ず、大した音は出ない。

 

「……よし、落ち着け……ヤンデレに出会うリスクと暗闇で時間一杯まで過ごす苦痛、それぞれを天秤に乗せて……」

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 …………駄目だ。

 

 時間がどれくらい進んだか、そもそも何処にいるのか。

 もしかして、昨日のマシュの様に誰かがすぐ側にいるかもしれない。

 

 目覚めるのは何時間後だろうか。

 

 ……そもそも目覚めは訪れるのだろうか。

 

「――っ、もう拷問だろこれっ!」

「……拷問、ですね」

 

 暗闇に耐え切れずに悪態を吐くと、唐突に声が聞こえてきた。

 

「大丈夫ですか、マスター?」

 

「その声は……静謐!?」

「そう、です……」

 

 何時もならアウトだが、今回ばかりは助かった。

 

「静謐さん、この目隠しを外してくれない!? マジで辛くて辛くて……」

「はい、分かりました」

 

 良かった。話が分かるサーヴァントに見つかって本当に良かった。

 

「……失礼します、ん……」

「っん!?」

 

 驚愕。何故か静謐は俺の唇を奪うとそのまま貪り始めた。

 

「っちゅ……生前、見えない方が興奮すると、とある国の将軍に教えられました。

 マスター、興奮しますか?」

 

「いや、それは女の場合の話だろ!?

 てか先ずは目隠しを外してくれ!」

 

「はい……」

 

 漸く、静謐は俺の目を覆っていた布を取ってくれた。

 

「……」

 

 そして視界が開けた先は、想像よりも随分と明るい場所だった。

 

 新築住宅の様に白い壁、綺麗な木模様の床、現代的な電球が照らしている。

 

「……で、これか……」

 

 両手足に枷がついており、鎖で壁に繋がれている。

 

「残念ですが鍵がないと、私の筋力ではこの枷を外せません」

「やっぱり鍵穴が有ったか」

 

 だが視界があるお陰で少なくとも先まで感じていた不安は無い。

 

「……それで、鍵を探して貰えないか?」

「ひゃい……ん?」

 

 何故彼女はそんな自然な動作で首を舐めているのだろうか?

 

「……れろ……がんばりまひゅ……ん」

「頼んだ」

 

 数回舐めてから立ち上がった静謐はその場を離れるとドアの向こうへ消え去った。

 

「……ふん!」

 

 その間もガチャガチャと拘束具を外そうと奮闘する。

 せめて壁と鎖を繋いでいる金具が外れれば自由に行動出来る筈だ。

 

「駄目か……レンガじゃなくて石だから砕くのも難しいだろうし……」

 

「……マスター」

「っおわ!?」

 

 また唐突に音を立てずに現れた静謐。しかし、その手に何か握っている様子は無い。

 

「すいません、見つかりませんでした」

「お、おう……そうか」

 

 謝りながらも静謐はゆっくりと近付いてくる。

 

「ですが、このままだとマスターが寒そうですので、私の肌で暖めましょう」

 

「いや、要らないからそのサービス!」

 

 と、俺の叫びを無視して静謐はぎゅっと抱き着く。

 

「……今のマスター、不思議です……」

「な、何が……?」

 

 寧ろ不思議っていうか可笑しい事をしているのは静謐の方なんだけど。

 

「嫌がってるのに……見ているととても愛おしいく見えます……」

 

 ……どうやら俺に対して危害を加えて来なかった、心優しい静謐のハサンに若干の加虐心が芽生え出した様だ。

 

「……あ、い、いえ! 別にマスターを拷問したいとか、そんな訳では……!」

「拷問はマジで勘弁願いたい」

 

 俺はそういう業界人じゃないからご褒美でも何でも無いので痛め付けないで下さい、お願いします。

 

「ですが……嫌がってるマスターのその、唇を…………ん、っちゅぅ……」

 

 弁解しようと言葉を探していた静謐のハサンは何故かそれより先に2度目のキスをし始めた。

 

「……ん、っはぁぁ……嫌がってるマスターを、気持ち良くしたいです……」

 

 唾液を口移しされ、押し込まれた俺は数回呼吸をして息を整える。

 

「っは、っはぁぁ……快楽は要らないから、いい加減拘束を解除……し…………て……」

 

 だが、呼吸が落ち着いた頃には俺の頭は微睡みに落ち始めた。

 

(まさか…静謐の……? でも、なんか……)

 

 

 

 腕を動かせば、金属音が何もない部屋に響いた。

 

「いや、もう良いだろ!? まさかの3日連続で拘束!?」

 

 昨日、一昨日に続いてまたもややってきてしまった拘束部屋。今回は目隠しが既に外されている。

 

「この感じ、絶対誰か来るだろうな……ああ、なんでこんな目に……」

 

 若干の絶望に苛まれながらも、取り敢えずドアを見つめる。

 

(……水着の復刻、30連近く回しても何も来なかったな……

 新しい水着イベントの為に石を残しているから、出来ればそっちで何か来れば良いんだけど……) 

 

 ガチャ報告もそこそこに、漸くドアが開いて誰かがやって来た。

 

「あら、ますたぁ……お無体な……」

 

 現れた黒い着物と白い髪に心臓を掴まれた様に錯覚した。

 

「……マジかよ……」

 

 清姫である。

 清姫である。

 

 清 姫 で あ る 。

 

「マスター……なんだか私、興奮してきましたわぁ!」

 

「いや、待て!」

 

 頬を染めた清姫は俺の元へ駆け寄り、抱き付いた。

 

「あぁ……マスターが、こんな、お捕まりになっていると言うのに……端ない私をお許し下さい。ですが……滾ってしまいます……!」

「落ち着け清姫! 頼むから先ずはこの拘束を解除してくれ!」

 

「……ふふ、駄目です……だって私、この気持ちに嘘を吐きたくございません。

 身動きの取れないマスター……大変窮屈でしょうが、私は今の旦那様にご奉仕したくて堪りません」

 

 清姫は暴走状態だ。俺の言葉に耳を貸さずに俺の下半身を弄る。

 

「先ずは、舐めて差し上げますね?

 ご安心下さい。口は小さくともカッコイイ清姫の長い舌で、全体をきれいにして差し上げます」

 

「タンマ! って言うか、幕間でカッコイイって言われた事まだ根に持ってたのか!?」

 

 

 

「あれ、もう終わりでしょうか? まだご奉仕2回目だと言うのに……」

「す、吸い取り切られる所だった……」

 

 悪夢の終わりが早くて助かった。もう俺の意識は微睡みに――

 

「ふふ、他の女なんてマスターに見て貰いたくありませんわ。先程見つけたこれとこれ、嵌めさせてもらいますね?」

 

 清姫は俺の視界を遮る目隠しと、口を塞ぐ猿轡をしっかりと嵌めた。

 

「……あら?

 もしかして、鍵が無ければ開かない物だったのでしょうか?」

 

 

 

 

 

「マスター、何で捕まってるんだ?」

 

「お母さん? 捕まっちゃったの?」

 

「あら? マスターが捕まっているわね?」

 

 

 拘束具の鍵を持っているのはマシュだけ。

 そしてこの悪夢は、全てサーヴァントと順番に会う悪夢だ。

 

「マスター? もう何を覚えているのかしら? お茶会」

 

「ちょっと、血を吸わせて貰うわね?」

 

 怪我や精神異常は現実には影響しないが、記憶は引き継がれる。

 気持ち良かったり痛かったり、それがどんどん蓄積されていく。

 

 それでも夢だから、現実には何も影響はない。

 

 

「あっは! 先輩、後輩である私に拘束されて興奮しているんですかぁ? こんな変態が現実にもいるんです、ね!」

 

 何も、影響は、無い筈だ。

 

 エナミの機嫌が直るまで拘束され、弄られ続けるている間、俺は覚えていない筈の悪夢を見た気がした。

 

 

 

 

 




ヤンデレ・シャトーのバッドエンド1、みたいな感じで書きました。

別にまだまだ終わりませんのでご安心下さい。


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