ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

75 / 162
近々活動報告にてリクエスト企画をやると思います。
通知が来たら目を通してみて下さい。


ヤンデレ増える

 

「機種変したらワンチャンあると思ったんだけどなぁ……」

「生憎だな。この悪夢から逃れる術は無い」

 

 機種変をしてFGOの引き継ぎを行った俺は少しだけ期待していた悪夢の終わりが訪れずに、がっかりした。

 

「どうしても終わらせたければアンインストールするしかないな」

「誰がそんな勿体無い事するか!」

 

 課金こそしていないがそこそこ星5もいるし、恐らくこのデータを手放す事はないだろう。

 レベルを上げ終わってない星4も多いし。

 

「ふっ、その言葉に俺も安心したぞ。お前がマスターである以上、これは仕方の無い事だと割り切れ」

 

 アヴェンジャーがスッと俺の前に立っていた体を動かすと、その後ろから何かが素早く飛んできた。

 

「ごっしゅっじーん!」

 

 跳躍し、俺の上から迫り来るのはメイド服をきた狐耳、尻尾そして肉球を両手両足に持つタマモキャットだ。

 

「――うっご!?」

 

 取り敢えず体を屈めて回避した。頭から行ったらしい。

 

「水着ピックアップをすり抜けたキャット……」

「良かったな。新しい(ヤンデレ)だ」

 

 もう定員オーバー、募集も打ち切ってます。て言うかリストラしたい位だ。

 

「ぐぐぐ……シャトーの効果で霊基再臨した我が飛びつきを躱すか……やるなご主人」

 

「それで、今回はこいつの相手か?」

 

 水着イベントでキャットがアルターエゴになるとか妄想したが、まさかすり抜けて来るとは思いもしなかった。

 

「まあそれもあるが……今回のサーヴァントの数は4騎だ」

「いつも通りの人数だな」

 

「ふん、いつも通りとは思わない事だな」

 

 アヴェンジャーの不敵な笑みと獲物を見るようなタマモの眼光を最後に、ヤンデレ・シャトーの幕が上がった。

 

 

 

「ごしゅじぃぃぃん!!」

 

 全力で駆け出した。前方から俺を呼ぶ声が聞こえてきたので、迷う事なく逃走を選択した。

 

「何時もより明るいシャトーだなぁ!?」

 

 鬼の様に迫り来る猫メイドの姿がよく見える程に明るく照らされ、チリ1つ無い廊下を走りながらそう叫んだ。

 

「当然なのだ! 良妻たるもの掃除を怠る事など言語道断だワン!

 あとご主人、今のキャットの好感度を下げるのはあまりオススメしないぞ!」

 

「っ!」

 

 キャットの意味深な言葉に嫌な予感がし、思わず後ろを振り返った。

 

「な、なんだとぉぉぉ!?」

 

「「わははは! ご主人、複数人でやる追い掛けっこは楽しいな!」」

 

 増えてやがるー!? 嘘だろぉぉぉ!?

 

「「流石のご主人も取り乱したか!

 これこそ、キャットが綺麗にしたヤンデレ・シャトー5階!! 

 つまり、バカめ、そっちは本体だ!!

 と言う事だワン!」」

 

「なんにも理解できねぇよ!!」

 

 やばい、瞬間強化が切れる。いつの間にかループを一巡したのでどの部屋がキャットのかも分からない。

 

「「「ご主人、覚悟!!」」」

 

「サラッと増えてんじゃねえぇぇぇ!!」

 

 ヤケクソ気味に、隣にあった部屋に入った。

 

 

 

「「「「「「「……旦那様?」」」」」」」

 

 

 

 一斉にこちらを見た7人の清姫に、無言でドアを閉めた。

 

 そして、迫り来るキャット達に再び背中を見せた。

 

「ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!」

 

「「「「わははは! このシャトーはご主人を求めれば求める程にサーヴァントの分体が現れるのだ! 満足させないとドンドン増え続けるぞマスター!」」」」

 

「何それ怖っ!」

 

 残念ながら魔術の強化が切れた俺がキャットから逃げるのは不可能。

 4人のキャットは一斉に飛び掛かった。

 

「「「「さぁご主人! 我らTCB40/10とぐんずほぐれず握手会だぁ!」」」」

 

「な、何言ってるか全然分からな――」

 

「「「「――ゴアッ!?」」」」

 

 我先にと、一斉に飛び掛かったキャット達は当然の如く空中で衝突事故を起こした。

 

 そのまま4人はぶつかった位置から床に落ちた。

 

「……チャンス!」

 

 俺はその場を離れ、一旦距離を取る事にした。

 

「だけど……無理だよなぁ……」

 

 逃げていてはサーヴァントの数が増えて行くだけだ。

 

「サーヴァントは5騎、そして分体とか、最悪シャトーが埋め尽くされるな……」

 

 俺は覚悟を決めて清姫の部屋へと向かった。危険な爆弾は先に解体しよう。

 

「……清姫?」

 

 キャットが気絶している内に入ってしまおう。俺はノックをすると清姫の部屋へ入った。

 

 

 

「「「「「……! 旦那様!」」」」」

 

「「「「「どうしてこちらに?」」」」」

 

「「「「「ああ、いえ、決してマスターの帰宅に不満がある訳ではございません!」」」」」

 

「「「「「嬉しいです……!」」」」」

 

 

『旦那様ぁ……』

 

 ……思考ガ止マッタ。

 

 20人ノ清姫ハ、予想外ダナー。

 

「た、ただいま……」

 

 ポンッ、と音を立てて清姫の分体が1消えた。だが清姫達はそれを気にも止めずに、俺に近付いてきた。

 

「ああ、マスター!」

 

 俺の体に頭を預けた瞬間、その清姫は消えた。

 

「お帰りなさい!」

 

 また1人、また1人と次々に俺に触るとその度に清姫の分体は消えていった。

 

「ますたぁ……帰って来てくださって、清姫は本当に嬉しいです。

 ……あんな風に出て行ってしまったので、もう共に遺灰となって交わるしかないと思っていたしました……」

 

 焼身心中は勘弁願いたい。早めに戻って来て良かったぁ……

 

 俺が安心している内に部屋にいた清姫の数は5体まで減っていた。

 

「ますたぁ……」

 

 一向に消える様子の無いこの清姫こそが恐らく本物なんだろう。代わりに後ろにいる清姫が次々と消えていく。

 

「……? マスター、怯えていませんか?」

「あ、え……い、遺灰で交わるのは流石に嫌かなぁってさ」

 

 清姫の質問に正直に答えると清姫は顔を俯かせる。

 

「マスターは嫌ですか?」

「嫌だよ。好きな人には長生きして欲しいから」

 

 俺の臭いセリフと共に最後の分体も消えた。

 

「マスター!!」

 

 既に抱き付いたままだった清姫は更に強く俺を抱きしめた。

 

「どうか私を、末永く愛して下さいまし!」

 

 

 その言葉と同時に、部屋は20人もの清姫で埋め尽くされた。

 

『ま・す・た・ぁ……』

 

 

 

「ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!!」

 

 ヤンデレの貪欲を舐めていた。埋めた筈の欲求が倍くらいになって返ってきたので流石に退かざるを得なかった。

 

 なお、退き際に「また今度な」と言って清姫のおでこにキスしたのは俺の新たな黒歴史となっただろう。

 

「はぁー、はぁー……」

 

 膝で息をしていると前方から何か聞こえてきた。

 

「ご主人!」

「何処だワン!」

「キャットの嗅覚で、絶対に見つけてやるので覚悟するのだ!」

 

 冗談じゃない。て言うか始まりから走り過ぎでもう足はろくに動かない。

 

「ええい! 南無三!」

 

 死に行く覚悟と共に部屋を開けた。

 

「……な、なんだこれ……?」

 

 その部屋はピンク色の照明に彩られた

妙にエロティックな空間だった。

 完全に予想外である。

 

「ラブホだろ――っ!?」

 

 反射的にツッコミと同時に背を向けてその場から離れようとしたが、不意に巨乳な誰かに抱き締められた。

 

「あらー? お客さん、楽しんで行きたくないかしら?

 今日はお姉さん達がタップリと癒やして上げるんだけど?」

 

 この慣れた感じで誘ってくるのは見えてしまいそうな程に薄いストリッパー衣装のアサシン、マタ・ハリだ。

 だが今更分かっている地雷を踏む程、俺の危機管理能力は甘くない。

 断って出て行く事にしよう。

 

「マタ・ハリ、今日の所は――」

 

「……今日の所は」

 俺の背後から響く声。

 

「どうしますか?」

 前から聞こえる声。

 

「お客さん?」

 横から尋ねる声。

 

 そして、俺を囲んで輝く太陽の様な瞳。

 

「あ、ぁ――」

 

 すっかり抵抗の意思が消え、その指で撫でられた頬と腕を巻かれた首から感じる温度に頭がクラっとする。

 

「今日は普段の3倍くらいはサービスしちゃうわよ?

 いっぱい癒やされたくは……ないかしら?」

 

 地雷なんて……とんでもない。

 

 天使に手を引かれて天国に行く様な、そんな安心と幸福に満たされながら俺は部屋に入っていた。

 

 

 

「お姉さんのお膝に頭を乗せて、気持ちいいかしら?」

「うん、幸せだよぉ……」

 

 マタ・ハリは作戦の成功を喜んでいた。

 部屋に入って10分程経過している。その3分前には陽の目の魅了は解いたが、一向にマスターが正気に戻る気配も、分体を含めた自分から逃げる動作は見当たらない。

 

 この夢が始まる前からの入念なリサーチのお陰でマスターが母性的でお尚且つ母親よりもお姉さん程度の年齢の女性に魅力を感じる事を調べておいていたのだ。

 

「ねえマスター、もっと私にも構ってね?」

 

 甘えるのも甘えられるのも大好きなマスターの為に分体とは予め予習をしていた。

 取り合わずに、マスターに一切の不快感を感じさせずに……

 

(ふふ、家庭を築く事に焦って、私ともあろう女が接待を忘れていたなんて……だけど今はその願いで分体を維持出来てるし)

 

 その手をそっとマスターの頭に重ねて撫でる。

 

「マタ・ハリ……大好きだよ」

 

 

 ポンッと分体が消える音がした。

 そこで漸く、頭の中にかかっていた霧が消えた。

 

 ……え? 3分前から魅了されてなかった?

 な、なんの事ですかネー? お兄さん、ヤンデレじゃないお姉さんが好きだから良ク分カンナイヤー

 

 なんて冗談を言っている場合じゃない。

 清姫のお陰で学習した。ヤンデレは満たされると更に欲しがるのだと。

 

「……ま、マスター……お姉さんともっと、もーっと楽しい事、したくはないかしら?」

 

 どうよ。当たってただろう?

 なんて内心誰に向けたかも分かたないドヤ顔をしながら、6人に増えたマタ・ハリから逃げる方法を考えていた。

 

 逃げる素振りを見せれば陽の目が発動するので、目を合わせないのは大前提だが、アサシンから足で逃げるのも自信はない。

 

 俺が考えている間にも、マタ・ハリが左右から囁く。

 

「キスしながら手でされちゃったり……」

「体あちこち舐められるのは……」

 

「「とっても気持ちいいわよ?」」

 

 ……うん、一回位……

 

 なんて浮かんだ考えを振り払い、俺は本物であろうマタ・ハリの頬を撫でる様に指を動かし、頭の天辺まで持ってきた。

 

「マス――」

「【ガンド】」

 

 

 

 頭に直接命中させたガンドはサーヴァントであるマタ・ハリであっても中々の衝撃であったようで、彼女は気絶した。

 それと同時に彼女の分体も消えた。

 

「まあ、気絶している間はいくら俺が欲しくてもそれを考える事は出来ないからな」

 

 相変わらずマタ・ハリの対処に罪悪感を感じてしまう結果になってしまったが俺は部屋を出た。

 

(あんなアダルティックな部屋にいたら気絶したマタ・ハリに手を出しかねん)

 

 と思って部屋を出た瞬間――

 

『ますぅたぁぁぁ……どちらぁですぅぅぅかぁぁぁぁぁ?』

 

 清姫の声が、廊下に響いた。

 

「…………逃げよう」

 

 部屋に戻る事も考えたが気絶したマタ・ハリと一緒の部屋にいる所を見られればなんと誤解されるか分かったもんじゃない。

 

「ていうか、地響きが聞こえてくるんですけど、気のせい……だよな?」

 

『わははははは! きよひーよ! キャットは蛇を狩る者であって狩られる者ではないのだ!!

 故に、来るな! 寄るな! 近づくなぁぁぁぁ!!』

 

 どうやらとばっちりでタマモキャットが襲われている様だがそのまま犠牲になってもらおう。うん。

 

「……っひ!?」

 

 首元に忍び寄ってきた刃に情けなくも思わず小さな悲鳴を零した。

 

「動くな。

 あの蛇女が来る前に移動する。付いて来い」

 

 赤いジャンパー、その下には青い着物。

 最近は全く出番がなかったので、懐かしさすら感じるその姿は、アサシンクラスの両義式だった。

 

 

 

「久しぶりだな、マスター」

 

 恐らく本物であろう式が寛ぎながら俺に話しかけてくる。

 恐らく、と言うのは両義式が他にも部屋に3人程いるからだ。

 

「ひ、久しぶりです……」

「何緊張してるんだ? 今更オレが複数人いても驚く事じゃないだろ?」

 

 それはそうだが1人は俺の後ろで部屋のドアに背中を預けてこちらを見ており、もう1人も押し入れの戸に持たれながらこちらを見ている。

 最後の1人は俺の横でナイフを投げたり回したりしている。

 

「今のオレは嫉妬深いけど、それ以上に冷静だ。安心しなよ」

「ははは……」

 

 正直、最初のヤンデレ・シャトーでの出来事が強烈過ぎて苦手意識がある。

 

「……メイドと追い掛けっこした時にマスターが必死に逃げてたのは知ってる。

 あの後に、蛇女の所に行ったのは疑問だけど……まあ、直ぐに逃げてきたみたいだから許してやる。

 だけど……キャバクラは駄目だろ?

 お前にはオレがいるんだ、アレに関しては謝ってくれるよな?」

 

 怖い。何で最初から最後まで全部知った上で見逃しているんだよ。怖い。

 

「言っただろう? 嫉妬深いけど冷静だって。

 マスターは勿論、他のサーヴァントだって殺さないさ。

 だけど、ケジメはちゃんと付けてくれ。そして二度としないって誓ってくれよ」

 

「……分かった。

 ごめん、式。もう二度としない」

 

 取り敢えず、俺は頭を下げて土下座で謝った。

 式は少し微笑んだ。

 

「よろしい。

 ……じゃあ、ほいっと」

「うお!?」

 

 式は俺の腕を掴むとそれを引っ張って床に倒れた。

 まるで俺が式を押し倒したかの様な体勢だ。

 

「オレが許してやった理由は、他のサーヴァントからちゃーんと逃げてきたからだ。

 なら、オレの事は求めてくれるよな?」

 

 式が再び微笑んだ。

 

 普段のクールな印象を受ける笑い方ではあるが、頬は僅かに赤く染まっておりそれが妖艶な雰囲気を醸し出している。

 

 自分の顔の真下にいる事もあって、直ぐに届きそうな距離に思わず自分の中の男が反応する。

 

「……我慢、するのか?」

「っ!?」

 

 式の残念そうな、拗ねた様な表情に反射的に答えたくなる。

 

「…………」

「…………」

 

 それでも、俺はなんとか――

 

「っぅ!?」

「なら、我慢出来なくさせてやる」

 

 業を煮やした式は強気な笑みを見せると両足で俺を捕まえて密着した。

 

「なんかコレに恥ずかしい名前があった気がするけど……」

 

 お互いの体を密着し合うこの状態に反応しない程、俺は賢者では無い。

 

「……やる気に、なったか?」

 

 

 

 

 

「っち、後もうちょいだったのになぁ……!!」

 

 式がボヤきながらも俺を片手に運びつつ、ヤンデレ・シャトーの廊下を走る。

 

『私はぁぁぁ……

 清姫ぇ、そしてその分身23人が交わって生まれたぁぁぁ存在ぃぃぃ……』

 

 自己紹介しながらも全長10m位はありそうな上半身が清姫なラミアがこちらに迫ってきた。

 

『その名も……ニシ清ひーなりぃぃぃ!!!』

 

「24でニシ、それにニシキヘビと清姫を掛けたのか……」

「ネーミングの解説とは、意外と余裕そうだなマスター!」

 

 式が走ってくれるので図体のデカイ清姫は追い付けない。

 わりと余裕である。

 

「マスターマスターマスターマスターマスター」

「マスターマスターマスターマスターマスター」

「マスターマスターマスターマスターマスター」

「マスターマスターマスターマスターマスター」

 

 なお、通った場所から更に分体が現れている。

 

「式ー……助けてー」

「――ったく、頼られると弱いんだよなぁ……後でじっくり絞ってやるから覚悟しろよ!」

 

 

 

 なお、清姫の魔力が尽きると同時に式に睨めつけられながら唇を貪られ悪夢から覚めたのは別の話。

 

 




最近出番のなかった式を引っ張り出したお話。
そういえば配布サーヴァントのエリちゃんの出番がほとんど無い上に、茶々は1度も書いてませんね……

……うん、追々ですね、追々。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。