ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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2週間近く掛かってしまって申し訳無いです。
その間に活動報告ではリクエスト企画を初めていました。

締め切りは20日(水曜日)と書いてありますが、小説内での宣伝が遅れたので、22日(金曜日)まで受け付けます。
活動報告をしっかり読んで、自分に直接本サイトのメッセージ機能を使ってご応募下さい。


ヤンデレ・あにまる

「ヤンデレに時間停止能力を付与し――」

「「おいやめろバカ」」

 

 アヴェンジャーと俺の声がハモった。

 何でジャンヌ・オルタがいるんだ。そして何を考えているんだコイツは。

 

「そんな圧倒的な能力を与えてもシャトーがつまらなくなるだけだ」

「そっちか! て言うかどう考えても俺が対処できないから論外だ!」

 

「っち………うっさいわねー」

 

 ジャンヌは舌打ちするとキーボードに何か打ち込み始めた。

 

「そもそも、こいつのいる前であまりシャトーの仕組みを見せる様な事は遠慮願いたいんだがな……」

「別に良いでしょ、減るもんじゃないし」

 

 ジャンヌ・オルタは再びウィンドウとにらめっこを始めた。

 

「……なんだ、まだ設定出来てないのか」

「うっさいわねぇ! そこのアヴェンジャーが色々と制限するから進まないのよ!」

 

「お前が極端なだけだ」

 

 まあ、悪夢が無いなら無いで俺としては嬉しい限りだ。

 

「こうなったら――!」

 

 ジャンヌ・オルタは勢い良くキーボードを叩くと、俺をシャトーへと送り込んだ。

 

「うぇー……

 結局こうなるんですかぁー……」

 

 

 

 ……非常に、不味い。

 ヤンデレ・シャトー始まって以来の最大のピンチかもしれない。

 

 て言うかジャンヌ、結構ベタなネタをぶっこんで来たなぁーとしか思えない。

 

「クゥー、クゥー(まさか、犬になるとわ)」

 

 動物変身系で攻めてきたか。

 

 現在の俺は仔犬である。大きさ的には恐らく無人島のウリ坊達よりも少し小さい位だろう。

 フォウ君に見つかったら吠えられて逃げるしか無い程度に無力な存在となってしまった。

 

(足の毛は黒だが……ってそもそも犬に色を識別できる視覚能力は無い筈だけど……)

 

 まあ細かい事は気にしてもしょうがない。それにこれだけ小さければ例えヤンデレといえども隠れてしまえば見つけるのは困難だろう。

 

「ワンワン(よし、隠れよう)」

 

 そう思った時、何処かで扉の開く音が聞こえてきた。慣れない犬の聴覚に戸惑いつつも、その音から離れた。

 

(うん、中々便利じゃないか。ヤンデレ察知能力が高まってるな)

 

 そう思って歩いていると、別の、すでに開いている扉を発見した。

 

(む……この匂い、肉の様な……)

 

 ちょうど隠れなければ行けない所だったんだ。俺は開いている部屋に侵入し、辺りを見渡した。

 

(誰もいない……けど、椅子の上に肉料理が!)

 

 匂いの感じからして、チーズ入りのホワイトソースだろう。香ばしい匂いに心が踊る。

 

(それじゃあ、頂きます)

 

 犬の本能にリードされている事に気付かず、目の前の料理に食い付いた。

 カチャカチャと音を立てながら皿の中身を感触した。

 

 そして、食べ終わった後にはっとなった。

 

「ワン!」

(アレ、どう考えても今の料理って罠だろ!?)

 

 不味い不味い。料理は美味かったがそんな事よりも今この状況は不味い。

 

「先輩……よく食べましたね、偉い偉い」

 

 唐突に現れた後輩、マシュ・キリエライトに何時もなら見ているだけの立ち位置だった俺がフォウ君の如く抱き抱えられた。

 

「魅了の薬が効いたのでしょうか? 一心不乱に食べられてましたね?」

 

 食べ物に魅了されてたのかよ、俺!

 

「ですが……怯え、でしょうか? 私の事に夢中になっている様ではありませんね……もしや、こちらの愛の霊薬と性の乱薬は犬の体には通用しないのでしょうか?」

 

 そんな劇薬みたいなの混ぜてたの!? あの料理に!?

 

「……ですがご安心下さい。持続時間内に先輩を人間に戻してしまえば、薬の効果も発揮されて先輩は私を……女にしてくれますから」

 

「ワンワンッ!(いや、しないから!)」

 

「そうですか、先輩も待ち遠しいですよね?」

 

 駄目だ。犬になった事で意思疎通が出来なくなりヤンデレは説得出来ない。

 

 確なる上は……!!

 

「ワンワン、ワンワン!」

「うわ、せ、先輩っ!?」

 

 マシュの腕の中で暴れ、スルリと脱出した俺は逃げ出した。

 フォウ君の常套手段である。

 

 

 

(あぶねぇ……て言うか、ヤンデレが元に戻す方法を知ってるのか)

 

 だが元に戻れても薬の効果が発動してしまえば意味がない。

 やはりヤンデレに捕まらないのが一番だろう。

 

(その為にもサッサと隠れる場所を……っ!)

 

 前方から足音が聞こえてきた。恐らく先程聞こえてきた扉を開けたサーヴァントだろう。

 

「…………ワン!」

 

 後方のマシュから逃げてきた以上、前方の方が安全だと信じて進むしかない。

 最悪、清姫だったら猛ダッシュで逃げるしかない。

 

「――!?」

 

 だが、その考えが甘い事に気付いた時はもう手遅れだった。

 

「……ワ、ワォォォ……」

 

 奴から放たれるオーラに俺はすっかり飲まれてしまった。

 時既に遅し、俺は思わず全力で走った。

 

 (マリー)目掛けて。

 

「まあ、貴方はマスターね! こんな可愛い姿になっちゃったの?」

 

 全力疾走した俺はマリーが伸ばす両腕へと迷わず跳躍した。

 

 うおぉぉぉぉぉ、犬の本能がこの人なら安全だと叫んでいる! この人に抱かれていたい!

 これがゆるふわ王女の持つ特殊能力か!?

 

「ふふふ、良い子良い子」

 

 撫でられるだけで興奮が収まり、心が安らかになる。

 うん……安らかな気持ちになるぅ……

 

「さあ、お家に帰りましょう?」

 

 

 パッと逃げ出した。

 

「あ! マスター!?」

 

 犬の本能が感じる安心感を一瞬だけ人間の直感で感じる事の出来た恐怖が上回った。なので軽く抱かれていただけのマリーの腕の中から逃げ出した。

 

「……」

 

 よっし、追ってはこなさそうだ。このまま逃げ切ってやる。

 マリーとの距離が離れている事が嗅覚で分かる。追ってこない理由が分からないので若干不安だ。

 

(察知や探知は出来るけど、そのままヤンデレに誘われるがままでは意味がない……本能が理性よりも体を支配してる事が多いのが原因だよなぁ……)

 

 犬の体は難儀だと思いつつ、ある程度歩いた後にその場に留まる。

 簡単に疲れたりはしないが、体力には余裕があった方が良い。

 

(っ!?)

 

 と思っていたが、俺はピクリと頭を動かした。

 

(口笛!? 一体何処から……?)

 

 聞こえる方へと体は歩き、少し進んでから後悔した。

 

(って、どう考えても誘われてんじゃねえか!)

 

 気付いたと同時に口笛を吹いていた張本人が現れた。

 

「あら、本当に仔犬なのね? 良いじゃない。人間の時より愛嬌はあるし、調教のしがいがあるわ」

 

 吹いていたのは紫色の髪の女神様、ステンノだ。

 俺を見て微笑んでいる。その笑顔に本能も理性も危険だと感じている。

 

(逃げるが勝ち!)

 

 慌てて尻尾を巻いて逃げ出した。

 ステンノの匂いは動かない。

 

「うふふふ……必死に逃げるのね、可愛いマスターね?

 だけど……こちらに来なさい」

 

 犬の聴覚に女神の美声がスッと入ってきた。その瞬間、本能からも理性からも危険を告げる警報が鳴り止み、巻いていた尻尾を更に半周させた。

 

「ワンワン! (ステンノ様ぁ〜!)」

 

 うん、女神様は最可愛である。

 

「ふふふ、犬の姿も中々お似合いよ、マスター……人間の時みたいからかわられて戸惑う姿も良いけど、只々夢中で尻尾を振って媚を売る姿も、私が見たかった物よ」

 

「ワフゥゥ〜!」

 

 頭を撫でられてご機嫌である。女神様最高。ぺったんこは至高。

 

「ええ、えぇ……もっともっと私にだけ夢中になって……ふふふ、人間の姿に戻したらどれほど浅ましい姿が見えるのかしら?」

 

「マ・ス・ター!」

 

 ふと、名前を呼ばれた気がした。

 

「……あら、誰かしら?」

「……! マスター、そんな女神に誑かされてしまったの?」

 

 マリー・アントワネットが女神様の手の中で抱かれている俺を睨む。

 

 何故か、それが凄く悪い事の様に思えてしまう。

 

「――目覚めては駄目よ」

 

 女神様に撫でられ、微笑まれた。

 

「私から逃げ出したのに他の女性に夢中になるなんて、いけないわよ?」

 

 やっぱりその声を聞くとどうしても罪悪感と僅かな恐怖が心を覚ます。

 

「貴方も魅了しているのかしら? けど残念ね。女神である私に勝てる程ではないわね」

「その割にはマスターはだいぶ正気に戻っている様だけど?」

 

 その言葉にステンノは無言で俺を持ち上げると下から本日最高レベルの微笑みを見せた。

 

「余所見を許した覚えは、無いわよ?」

 

「先輩を放して頂きましょうか、ステンノさん!」

 

 女神……うぅ……頭がフラフラしますぅ……

 

 マリーの動物を懐かせるオーラとステンノの魅了に加え、先の食べ物に入れられた犬を魅了する匂いの付いたマシュの登場に俺の精神は不安定に揺れ続けた。

 

 体の奥が気持ち悪い位に揺らされていた。

 

「……! そういえば……マスターを人間に戻せるのよね?」

 

 唐突にステンノのが不敵に嘲笑った。

 

「それがどうかしたのかしら?」

「あ……!」

 

「匂いで魅了しようが、動物に懐かれようが、人間に戻してしまえば効果は無いわよね?」

 

「――っは!」

 

 ステンノのその言葉に、先に気付いたマシュは盾の一振りで答えた。

 嘲笑うかのようにそれを避けるステンノ。

 

「ふふ、人間に戻す方法はとっても簡単な事だったわね? 確か……」

「っく!」

 

 更に追い立てる様に振られた盾を、俺を前に出す事で勢いを殺させつつステンノは俺の耳を触って囁いた。

 

「――愛してるわ」

 

 

 

 体中の感覚が入れ替わった感覚。先まで感じてた精神的不安は無くなったが、体中の感覚でまだ人間ではない事を俺は理解した。

 

「……シャラァ……」

 

 手足は無い。口先では何故か舌の出し入れが止まらない。

 ステンノに抱き抱えられている部分が暖かい。

 

(って、これもう明らかに蛇に変身してんだろぉ!?)

 

 自分の嫌いな蛇に変身してしまった様だ。視界が狭い上に抱き抱えられていては動けないけど。

 

「な、何故蛇に……?」

 

「……可愛い。

 マスター、良いわ、凄く良いですわ!」

 

 マシュは戸惑っているが、ステンノは嬉しそうに強く抱きしめた。

 

(ちょ、待て待て待て!)

 

 ニュルニュルと長い体に戸惑いながらも、ステンノの腕からスルリと逃げた。

 

「あら?」

 

(さようなら!)

 

 地面に着地すると慣れない体で全力で這いずり去った。

 

 と思ったが、直ぐに待た捕まった。

 

「マスター、蛇になってしまったのね」

 

 逃走先に立っていたマリーに掴まれたが、不快感どころか喜びすら感じたのでそのままご機嫌にも彼女の肩から肩に長い身体を伸ばした。

 

「あはは、くすぐったいわマスター!」

 

「マスター……何を戯れているのかしら?」

 

 ステンノが怒り出したので、顔をサッとマリーの首の裏に隠した。

 

「……ふふふ、どうやら蛇になったマスターに貴方の魅了は通じない様ね?」

 

 よく分からないが、蛇になるとどうもステンノの魅了は効かないらしい。

 

「もし私がやったら何か別の姿になるのかしら?」

 

 マリーはステンノがやった様に俺の皮膚に隠れた耳に触れる。

 

「愛してるわ、マスター」

 

 その瞬間、再び体が変化した。

 今度はしっかりとした足が4本あり、変化の途中でそばを離れたマリーより大きくなる。

 

「ヒヒーン(馬かぁ……ガラス製じゃないだけましか)」

 

「まあ、素敵だわマスター!

 んー……でも、どうやったら人間に戻るのかしら?」

 

 ジャンヌ・オルタが皆に態と間違った情報を渡したようだが、今は感謝だ。

 

(この足なら――逃げられる!)

 

「ねえマスター……あら?」

 

 再び魅了されてしまう前にその場から馬の脚力を使い本気で逃げ始めた。

 

「どうどうどう……です、マスター」

 

 盾を構えて退路を絶とうとするマシュ。だが、俺は此処で切り札を切ることにした。

 

(【瞬間強化】!)

 

 動物の姿でも出来るか不安だったが、俺が未だに皆のマスターである以上、魔力はある。

 

「ヒヒーン!!」

「っく!?」

 

 マシュの盾を1回のジャンプで飛び越えた。頭上を通った俺にマシュは驚き、その間に着地し駆け出した。

 

「ヒヒーン!(さよなら!)」

 

 

 

 馬の体はタフだ。限界知らずのスタミナで走り続けて、あっという間に3人を置き去った。

 

(だがしかし……これは予想外だなぁ)

 

 捕まった。

 そう、捕まったのだ。全力で走ってようやく広場に着いたと同時に並みの人間以上のサイズの馬が両手でボールを取る様に簡単に捕まったのだ。

 

「マスター、変わった姿だね。私が女の子なのも変だけど、今のマスターも変」

「ヒヒーン!(放してくれー!)」

 

「んー? なんて言ってるか、わかんないや」

 

 緑色のコートと茶色の長ズボンの少女、だがその大きさは座っているが圧倒的で、10mはありそうだ。

 

(計測の度に大きさが変わるとは知っていたけど……デカ過ぎだろ)

 

 両手の中にキレイに収まった俺を、ポール・バニヤンは眺めている。

 

「マスター……耳はこれかな?」

 

 人差し指でちょんと、耳を抑える。手加減してくれているがその圧倒的な物量差で抑えられると痛い。

 

「……愛してる」

 

 バニヤンが呟く様にそう言うと、俺の体はバニヤンの手の中で形を変えた。

 

 あまり考えたくない変身シークエンスが完了すると、俺の体は漸く人間に戻った。

 

「……あ、あー……

 よ、ようやく喋れた……」

 

「うん、やっぱりマスターは人間じゃないとね」

「おわ!? ちょ、いきな――」

 そう言ったバニヤンは俺を掴むと彼女の服のポケットに入れられた。

 

 布袋の中に倒れ込んだ俺の耳にはバニヤンの声だけが聞こえてきた。

 

「――――」

「マスターなら、私を見て逃げちゃったよ?」

 

「……」

「……うーん……馬の姿だったから簡単に掴めなかったよ。

 捕まえたら私にマスターくれる? ……訳無いよね、うん」

 

 暫くしてバニヤンが誰かと話し終わると、俺はポケットから取り出された。

 

「もう誰も追ってきてないよマスター」

「匿ってくれた、のか?」

 

「うん、だってマスターは私の物だもん」

 

 やはりヤンデレだ。

 

 人間の姿に戻れた事と匿って貰った事、それとマシュの薬の効果が切れていたのは助かったが、文字通りヤンデレの手の平の上では危機を脱したとは言えない。

 

「私の体は大きいけど、マスターへの愛はそれ以上だよ。

 だけど、潰されない様に気を付けてね、マスター」

 

 バニヤンはそう言うと両手の中の俺を見つめながら自分の顔に近付けてきた。

 

「マスターにね、お家を作ったよ。

 ちょっと私には小さいけど、マスターの全部が見えるんだ」

 

 まるで小鳥を巣に返すかの様に、バニヤンは壁の高さ2m辺りの穴を開けて作った家の入り口に俺を降ろした。

 

「私も、体が小さくなったらそこに入るから、楽しみに待っててね」

 

 そう言ってバニヤンは、ドアを閉めた。

 

 

 悪夢が終わるまで、俺はそこでずっとバニヤンの視線を感じ続けていた。

 




活動報告でリクエスト企画実施中です。締め切りは22日まで引き伸ばしますので、興味があればご参加下さい。
(大事な事なので2回書きました)

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