ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
最後の当選者は 第二仮面ライダーさん です。
次回からまた普通の更新に戻りますが、どれくらいで更新できるかは分かりません。
なるべく早く投稿したいと思っていますので、どうか応援宜しくお願いします。
「あ、アキラさーん」
「んー、なんだぁ?」
放課後の廊下を知らない誰かが早歩きで通り、先輩らしき人を呼び掛けている。
「ふぁ……」
逆の方から眠たそうな人があくびをしながらゆっくりと歩いている。危ないんじゃないかと思いつつも俺は昇降口を目指して歩いていく。
「――ェナミ!」
「ははは、こっちこっち」
聞いた事のある名前が校舎の外から聞こえて来た気がする。少し目を凝らすと2人の男子生徒が校門を走って通り過ぎていった。
「気のせいか……?」
「せんぱーい!」
後ろから何かが抱き着いて来た。いつも通りの鬱陶しい後輩だ。
「なんか、ヤンデレポイントが上がりそうな事を考えてませんか?」
「考えてない」
面倒な制度だ。と言うかその単語は夢の中でお腹が一杯になるまで味わっているので現実では使わないで欲しい。
「それじゃあ、今日も一緒に帰りましょう、先輩! 今日はどんな風に帰りましょうか? 夫婦ですか? それとも恋人? 兄妹とか、楽しいですよね?」
「いや、結構だ」
「えぇー……決めてくれないと病んじゃないますよ?」
一々病むだのなんだので脅しをかけてくる後輩が怖い……
「それじゃあ……エナミと帰りたい」
「…………そ、その手には乗りませんよ! これで、ご、5回連続なんですからぁ……!」
5回連続で同じ答えなのにエナミは顔を赤らめながらも体をすり寄せて来た。
ダメ押しに頭を撫でる。
「……し、仕方ないですね!? 今回だけですよ!」
もはや俺にこのセリフを言わせるのが目的なんじゃ……
(やっぱりチョロい……)
「おいアヴェンジャー……この格好はどういう事だよ!」
上半身裸、下にはブリリアント・サマーの水着。
悪夢に入った瞬間からこの格好である。て言うかもうそろそろ冬になると言うのに季節感が無さすぎるだろう。
「今回は風呂……もとい、温水プールだからな。水着の使用は絶対だ」
「R-18に引っ掛からない設定なのは分かったが、要はまた風呂って事だろ!? なんか去年をやらなかったかこのネタ!?」
アヴェンジャーは鼻を鳴らすと、文句を言うなと言いたそうな顔をして説明を続けた。
「今回はサーヴァントが3騎だ。それぞれに風呂を用意しているので一定時間入浴後、無事脱出すればそれでいい」
「簡単に言ってくれるな……3騎って、普段より少なめなのが気になるが……」
「行けば分かる。上手く行けば、何時もより簡単かもしれんな」
エドモンの表情は柔らかい。
警戒すべきかもしれないが、何処かその必要は無いと思わされた。
「さあ、ゆっくりと浸かってこい――」
「……此処は……」
男、女と書かれた暖簾が2つ。どうやら風呂の入り口から始まった様だ。
「……前は更衣室で始まらなかったか?」
まあ良いかと思いつつ、暖簾を潜った。
「――ぁ」
「っ!」
その先から何か声が聞こえ、思わず体はピクリと反応し止まった。
「――で――ぅ」
「はぁ!? コー――のが――」
耳を澄ますと聞こえてくる声が聞き覚えの無い男の声だと分かった。
「……男のサーヴァントか?」
それにしても聞いた事のない声だなと思いつつ、更衣室に入った。
そこには今の俺と同じ顔の――つまりFGO主人公の顔をした3人がいた。
「風呂上がりはコーヒー牛乳だろ!」
拳を握って力説している黒色のトランクスタイプの海パンを着ているぐだ男。心なしか、俺より目付きが鋭い。
「やっぱり牛乳が一番だと思うけど……」
その前で若干困り顔で反論しているぐだ男。何故か真っ赤な海パンにはモーさん命と書かれている。
「んぁー……フルーツ牛乳でいいんじゃないかなぁ……」
何故か更衣室のベンチに横たわりながら、目を閉めたまま自分の好みを口にしているぐだ男。
やる気の無さが着ている海パンにも現れているのか、白いトランクスタイプだ。
「な、なんだこれ? すっごいカオス……」
「お、新入りか? 丁度いいな!
お前、風呂上がりは何派だ!?」
黒色はこちらを見るといきなりそんな質問を投げかけて来た。どうやら今の不毛な争いに俺を巻き込む気のようだ。
「……コーラだけど」
「「「邪道だ(ねぇ)」」」
「そこは揃えるのか……」
このよく分からない集団に、俺は説明を求めた。
「まあ、お前もこのよく分からん夢の参加者だって事だな。俺は玲。取り敢えず、全員顔が似てるから海パンの色で判断してくれ」
黒色のアキラと名乗る男が自己紹介を始める。どうやら彼らもヤンデレ・シャトーの参加者らしい。
「僕はヤマモト。本名を教えるのはちょっと抵抗があるから、取り敢えずそう呼んでくれていいよ」
「俺は……ふぁぁ……陽日。太陽の陽に、日曜日の日で陽日……眠いから起こさないでね……」
中々個性の強そうなのが揃ってるなぁと思いながらも俺も自己紹介をした。
それが終わると、まるでそのタイミングを待っていたかのように更衣室のスピーカーから声が聞こえてきた。
『漸く自己紹介が終わったか』
「アヴェンジャー?」
『なら素早くプールに移動してもらおうか』
有無を言わせない口調。まあ、その気になればいつもの様に転移くらい楽だろし、俺は言われた通りプールへ向かう事にした。
「って、お前らそんなあっさり入るのか?」
「まぁ……」
「慣れてるしなぁ」
早速出て行こうとした俺とヤマモトに玲が小さなツッコミを入れた。
俺からしたらヤマモトがちょっと嬉しそうなのが気になる。
「で、陽日は?」
「俺は寝てるから大丈夫〜……」
ベンチに寝転んだまま片手を振って答える陽日。本当にこいつら、個性強すぎないか?
「前と同じくらいか……」
温水プールと言っていただけあって、50mの距離があるプールや、立ったままの俺達の腰辺りに水がくる子供用プール、外には混浴と書かれた露天風呂がある。
「広っ! ちょっとテンション上がるな」
「……! ……!」
「床は流石に冷たいから寝れない……」
玲は感心した様子で全体を眺め、ヤマモトは何故かプールのあちらこちらに視線をやりつつ何かを探している様だ。
意外な事に、アヴェンジャーに更衣室を追い出された気だるそうな陽日は最初に子供用へと近付き、入った。
「って、早くないか?」
「ん? いやだって床冷たいし……いい湯かぁ…………ぐぅ……」
寝た。最初にプールに入ってそのまま息を引き取る様に壁に寄り掛かって寝始めた。
「早過ぎだろ……」
「あんだけ早く寝れんのは羨ましいな」
「お一人様ぁ、ごあんな〜い♪」
「あ、マスターさんまた寝てる……」
そこから急に聞こえてきた子供の声に、慌てて首を動かした。
そこには褐色肌の美少女と、正反対な白い肌を持つ美少女の2人組がいた。
小学生らしいスク水姿で。
「く、クロエ!? イリヤまで……!」
「此処はヤンデレの跋扈するヤンデレ風呂……もとい、プールよ! 入浴した瞬間、その人の元にサーヴァントが現れるわ」
「他のマスターさんにも、準備しているサーヴァントさんがいますから早く入ってくださいね?」
「なんか、エロい店みたいだな……」
「手を出したら人生詰むんでそこは自己責任で、自重した方が――」
「――ならば、モードレッドと混浴露天風呂だぁ!」
急に走り出したヤマモトが意味不明な事を叫んで露天風呂へと走り去った。
「な、何だあれ……!?」
「モードレッドって、なんの事だありゃ?」
玲と2人で唖然としつつ、その視線を陽日へと移した。
「マスターさーん……あーん! 全然起きない!」
クロエがペチペチと頬を叩いているが陽日は起きそうにない。
「クロエ、こんなの見つけたよ!」
何やら作戦がある様だ。そんな事を考えていると不意に隣から大きめの水音がした。
「……ぷっはぁ! あー、やっぱプールつったら飛び込みだよなぁ!」
「結局入っているし……」
『うわぁぁぁ!?』
唐突に聞こえた叫び声。外の露天風呂からだ。
「おい! 大じょ……?」
「な、なんでモードレッドじゃないんだぁぁぁぁぁ!!」
そこには風呂の端に慌てて逃げるヤマモトの姿があった。
そこにゆっくりと迫って行くのはセイバー・リリィだ。露天風呂ではあるが白いビキニを着ている。
「もう、またそれですかマスター? ふふふ、今日という今日こそは私がモードレッドさんよりも良い所、タップリお見せしますね?」
「モーさぁぁぁん!!」
俺は呆れ顔でその光景を覗いていた。
その隣に黒と白のビキニを着たヒロインXオルタを連れて見に来た玲が来た。
「おうおう、大変そうなこって」
「た、助けて下さい!」
救助を求められたが
「いや、無理です」
「まあ、童貞っぽいし、これを機に卒業すりゃあいいんじゃねぇの?」
俺達がそう言うとヤマモトは絶望の表情に染まり、セイバー・リリィは狂気に飲まれつつある表情で笑いながら抱き付いた。
「で、お前は?」
「……入るか」
玲に催促され、どうせ入らなければ強制的に入れられそうなので覚悟を決めて入る事にした。
50mプールに入ろうと片足を上げた瞬間――
「――あらよっと」
「っおわ!?」
押された。玲に押された俺は腹から温水に浸かる事になった。
「いってぇ……何しやがる!?」
「なんか1人だけ中々入んないのがムカつく……もとい、ちょっとしたイタズラだ。悪かったな」
笑いながら謝るがどう考えても前半のセリフが本音だろう。
「誰が好き好んで入るかっての! て言うか不良みたいな理由と足で落としやがって!」
「おう、俺は元不良だ。否定はしねえよ」
「別にそんな肯定はいらないつーの!」
「今宵は楽しそうですね、先輩?」
そんな俺の後ろから、マシュ・キリエライトが湧いて出てきた。
「……おお!? マジか! そいつか!」
何故かマシュを見て玲はテンションが上がった。
「俺実物見るの初めてなんだよ! あー、ヤバ、なんか上手く言えないけど命懸けで先輩を守る後輩なんて羨ましいな、オイ!」
そう言われて思わず振り向く。
桃色に近い薄い紫色の髪の少女は白いワンピース型の水着を着ており、おれに微笑んだ。
良く良く考えれば、マシュはFGOではほぼ全てのストーリーやイベントに登場し、ずっと一緒に戦うサーヴァントだ。ヤンデレ・シャトーなんて奇怪な場所でなければ俺もテンションが上がっていたかもしれない。
「くー……物静かそうだけどよく喋ってくれるのも何気にポイントが――うおっと!?」
どっかの映画で聞いた事がある光の刃が振られた音。それを右に避ける事で回避した玲。
「部長の視線を奪う者は……排除します」
光の刃を振ったのは当然ヒロインXオルタだ。その眼光は鋭くマシュを睨んでいる。
「先に俺を狙っておいて、良くそんな事が言えたなオイ。流石に自分の後輩が他人の後輩にちょっかい出すのは見過ごさせねえぞ?」
何故か玲はサーヴァント相手に戦闘態勢に入ろうとしている。
「邪魔をするのであれば部長から排除します。退いて下さい」
「おうおう、俺の視線を独り占めしたいってのに俺を排除とはさっすがバーサーカーって所だが……簡単に行くと思うなよ?」
「な、なんであの人サーヴァントと互角に戦えてるの!? おかしくない!?」
「ほえぇー……」
クロエはXオルタと玲の激化する戦闘に狼狽えていた。
それを眺めながらもイリヤは陽日を起す準備を進めていた。
「ん……? ぅるさぃ……」
イリヤとクロエによって大きな正方形型の浮き輪に乗せられながらも寝ている陽日はその音に文句を言いつつ、睡眠を続行している。
「……よ、よし! 取り敢えず準備は完了ね! イリヤ、一斉のーせよ!」
「うん!」
クロエの言葉に頷いたイリヤは浮き輪の左側に回り込み、クロエはその逆側で微笑む。
「「いっせい、のーっせ!!」」
2人は同時に浮き輪をひっくり返した。
当然、上に乗っている陽日はそのままプールへ落ちた。
「さーて、これでマスターさんも起きて……え?」
ゆっくりと浮かんで来た陽日はそのまま顔を上に向けて、背泳ぎの様な状態で眠っていた。
「ん……すぅ……っぐぅ……」
「う、浮く時の練習に水の中で眠るイメージって聞いた事はあるけど、本当に寝ながら浮くなんて……」
「マスターさん、私達の事、見てくれないんだね……」
「ま、まだよイリヤ! こうなったら意地でも起こすわよ!」
クロエはすっかり熱くなっており、目的もいつの間にか違う物に変わっていた。
「そうだわ! 私がキスして魔力補給をしちゃいましょう!」
「えぇ!? そ、そんな事させない! そもそも、そんな事したら余計にマスターさんが眠ちゃうんじゃ……」
そう言いつつもイリヤはマスターを再び四角い浮き輪の上に乗せた。
「ふふふ、甘いわねイリヤ! 魔力補給で魔力を奪われれば疲れるのは当然! だけど、逆にマスターに魔力を与えたらどうなるかしら?」
「ま、魔力をマスターさんに……? それって!?」
「ナマケモノなマスターさんもやる気になって抑えがつかないかもしれないわね?」
それを聞いたイリヤは頬を赤め、クロエはそれを見てニヤリと笑う。
「まあ、前はイリヤは抱き枕にされてたしぃ? 今回は私が良い目を見たって良いでしょう?」
「っう……! だ、駄目! 絶対に駄目!」
大声で否定するイリヤ。クロエは悪戯な笑みを浮かべ、イリヤに問う。
「じゃあ、イリヤがキスするの?」
「うぅ……で、出来るもん……!」
そう言ってイリヤは恥ずかしがりながらもゆっくりと陽日へ唇を近付ける。
「んー……!」
ゆっくり、ゆっくりと陽日に尖らせた唇が迫る。
「んー……っんぐ!?」
「っん!」
そんなイリヤの唇をクロエが奪った。
焦れったいイリヤにイライラしている様だ。
「……!? ん、っは、っちゅ!」
「ん、っん……! ん!」
魔力を奪おうとするクロエに、イリヤも抵抗し始め逆に魔力を奪おうと貪り始めた。
温水の中、少女達のキス合戦が始まった。
『この!』
『っは! 甘ぇ!』
『風呂桶っ!?』
『まだまだ行くぜぇ!』
ヒートアップし続ける玲対Xオルタの戦いに、俺は安全な場所に避難する為、サウナへと入った。
当然ながら、マシュも一緒に入った。
「……漸く、2人っきりですね、先輩」
サウナルームの中、隣に座っているマシュが体を近付ける。
「あの、マシュさん? サウナの中で余り暴れると人体に影響が……」
「フフフ、えぇ。ご存知です。先輩ならきっとそう言って私との行為を避けようとする事は知っていましたから」
小さく微笑んだマシュは自分の手を俺の手の甲に重ねた。
「暖かいですね、先輩。最近は冷えてきましたし、風邪には気を付けて下さいね?」
そう言って微笑むマシュは言葉を続けた。
「冬には温かいスープやシチューを食べて、ちゃんと暖を取ってください。ですが、こたつの入り過ぎには注意です。健康に悪影響を及ぼしたり、火事になってしまうかもしれません。灯油の供給時も要注意です」
まるで母親みたいだな、なんて思ってしまう程にマシュは俺を気遣ってくれている。
「きっと、先輩が風邪になったら私も看病いたしますが、その時の為にも1階のリビングの木製タンスの真ん中の段に熱さまシートや風邪薬を補充しておいて下さい」
気遣ってくれている……
「あ、レモンや梅干しも風邪に良いですからちゃんと常備する様にして下さいね? まあ、先輩の冷蔵庫の中の瓶にまだ梅干しはありましたね」
気遣ってくれて……
「予防接種には……先々週行ってますから、心配ありませんね?」
「怖い! 流石に怖い! なんで俺の家の事、俺以上に知ってんの!?」
「え? だって先輩、私の役目は先輩のメディカルチェックですよ? 先輩のお家の事くらい知っておかないと先輩の健康を守れません」
献身的だけど怖いよこの娘!
サウナにいるにも関わらず冷や汗をかいて、背中が冷たくなるのを感じた俺はそれでもサウナにいる間は安全だと、外を確認する。
『っく! まさか、風呂桶で邪聖剣ネクロカリバーに対抗するなんて……!』
『オラオラ! ぼやぼやしてると避けられねぇぞ!』
人間対英霊の戦いは両手で風呂桶を振り回している玲がやや優勢の様だ。
陽日はプールのど真ん中で1人浮き輪の上で寝ている。周りでイリヤとクロエが何かしている様だが、視線の間に陽日がいてよく見えない。
ヤマモトは……あ、必死な形相で露天風呂の出入り口から這いずる様に出て来た。
と思ったら足を誰かに捕まえられている様で、ドアに必死になってしがみついている。
あ、すごい顔で露天風呂に引きずり込まれた。
「外は地獄か……一番安全なのが此処なのか……」
「あの先輩、あんまり長くサウナにいると良くないので、そろそろ汗を流しませんか?」
「ん? ああ、そうだな……」
あんまり出たくないが、目が覚めた時に気分が悪かったりするのも嫌なので此処は大人しく出て行く事にしよう。
『――オールシャッフル!』
――唐突に俺とマシュが風呂に出た瞬間、誰かが何かスキルを発動した。
「な、何だ……?」
「ん? おい、どこ行ったXオルタ?」
少し辺りを見渡すと玲と対峙していたXオルタは消えており、慌てて振り返れば後ろにいた筈のマシュもいない。
「ど、どうなって――」
「――マスター!」
勢い良く誰かが背中に抱き着いて来た。
「って、セイバー・リリィ!?」
「えへへ、一緒に入浴いたしませんか?」
先まで露天風呂にいた筈のセイバー・リリィは何故かヤマモトではなく俺に抱き着いて来た。
「ちょ、俺は切大だ! ヤマモトはあっちだぞ!」
俺はヤマモトのいるであろう露天風呂を指差すが、セイバー・リリィは笑顔のまま首を傾げた。
「? それがどうしました? 私はマスターと一緒にいたいんです」
「いやいや、さっきまでアイツに引っ付いてた――!?」
唐突に彼女の手に握られた黄金の剣、カリバーンの切っ先が俺の首元に当てられていた。
「……マスター? 私が貴方を裏切ったとでも? 私は貴方のサーヴァントですよ? 他の誰でもない、貴方の者です」
笑顔のまま、だが楽しみの感情を一切発せずにリリィはカリバーンを只俺に突きつけ続ける。
どうやら、先のリリィはヤマモトのサーヴァントで、いま目の前にいる彼女は本当に俺のサーヴァントの様だ。
「ええい! ガキ共、ひっつくな!」
「そんな冷たい事言わないでよ〜おにぃーさん♪」
「クロエ、私のマスターさんに抱き着かないでよ!」
どうやら、全員のサーヴァントが入れ替わっている様だ。
ヤマモトも露天風呂からXオルタと手を繋ぎながら一緒に生還し、陽日のそばにはマシュがいる。
「先輩、起きて下さい先輩」
「……」
何故かその声に直ぐに陽日は目を覚ます。すると、先程まで乗っていた浮き輪を手に、プールから出て歩き出した。
なんとなくだが、その先の玲に引き剥がされたイリヤとクロエを見ている気がした。
「先輩、どこに行くんですか?」
「……子供用プールに、飽きた」
そう言って俺と玲の側を通りつつ、50mプールに浮き輪を投げ入れた陽日は、その上に乗って、再び寝始めた。
「ま、待って下さい、先輩!」
「……んじゃあ、俺も」
玲も同じプールに入っていく。
それを見た俺も、何となく2人の意思を察して同じくプールに入った。
数秒程で、露天風呂からXオルタと手を繋いだままヤマモトが出てきた。
「っ!」
俺の左隣でプールの水が激しく動いた気がした。
「……皆、なんでそっちに?」
先迄違う場所にいたヤマモトは直ぐに理解出来ない様なので、俺は何となくセイバー・リリィの頭を撫でてみた。
「……ぁあ……なるほど」
ヤマモトは納得した様だが、納得した事には納得していない様な表情を浮かべながらプールに静かに入ってきた。
こうして、漸くと言うべきか、全てのマスターが1つの場所に集合した。
「ますたぁ……」
セイバー・リリィは恋しか映さない瞳をうっとりとさせ俺を眺めている。
そんな彼女の声に、静かに入ってきた誰かさんが右側で僅かに反応した。
そして、俺はマシュに構われている陽日を見て、支配下から抜け出そうとする感情の正体を掴んだ。
(情けない……)
自虐的に、そう思った。
(揃いも揃って、自分のサーヴァントを取られて嫉妬してやがる)
「……んじゃあ、聞くか」
数分程、ヤンデレ達の声だけが聞こえていたプール――誰も動かなかったのでほとんど風呂と化していた――に玲の声が響いた。その両手は、イリヤとクロエを抑えている。
「誰が先、妙なもんを使った?」
殆ど全員が一斉に俺の右隣、ヤマモトに視線を投げかけ、ヤマモト自身も手を上げている。
「オールシャッフルを使ったのは、僕だけど……解除ももう一度使うことも出来ないよ」
「どうやってそんなもん使えんだ?」
「この海パンに意識を集中すれば出来る筈だよ」
「ならやってみるか……」
再び発動されたオールシャッフル。
今度はセイバー・リリィが浮き輪に寝っ転がっていた陽日の横に、玲の横にマシュが、Xオルタは俺の前に、ヤマモトはイリヤとクロエに囲まれた。
「駄目か……」
「流石にそう都合良く行かないだっん!?」
玲の頬を頬を膨らませたマシュが両手で挟み、視線を彼女に合わせている。
「先輩、余所見をせずに、私だけを見て下さい」
「ぐっは!」
マシュのセリフに重い悲鳴を上げた俺は、その痛みに思わず胸を抑える。
そこに、柔らかな感触が俺の手に重なる。
「大丈夫ですか、マスター? 胸が痛い様でしたら、撫で撫で、しましょうか?」
「っぐ……!」
今度は玲が苦痛な声を上げた。
「……こうなったらヤケだ」
俺もオールシャッフルを発動させた。この礼装にはそれ以外のスキルは無い様だ。
「マスターさん♪」
「マスターさん♪」
「どわっ!?」
目前に現れ抱き着いてくるクロエとイリヤ。左隣の玲にはセイバー・リリィ、マシュがヤマモトに、陽日はXオルタを若干睨み、溜息混じりに声を発した。
「……オールシャッフル」
再び交換されたサーヴァント。だが、何故か今と同じ組み合わせだった。
「……手詰まり、だね」
「ご一緒します、マスター」
「……ぐぅ……!」
それで諦めたのか、陽日は目を閉じた。そんな陽日の隣で寝ようとするXオルタに玲は再びダメージを受ける。
俯向いた玲。その震える体は静かに、だが徐々に波音を立て響かせる。
「だぁぁぁぁぁ!! 面倒くせぇ!!」
それは元に戻らない組み合わせにだろうか、それとも煮え切らない自分の本心にだろうか。
兎に角、マスターの中で一番の危険人物は最高潮の怒りに身を任せて、一瞬で全サーヴァントの首に手刀をお見舞いした。
慌ててそれを受け止めた俺達。何とか全員を陽日が眠っていた浮き輪に無事に乗せた。
「……め、滅茶苦茶だなおい」
「せんせー、暴力はいけないとおもいまーす」
「僕が原因だけど、この解決法は……」
「うるせぇ!!」
その怒号は、俺達全員に沈黙を齎した。
『………………』
『………………』
「……なぁ」
唐突に、沈黙の張本人が口を開いた。
「お前らのお気に入りとかいんのか、サーヴァントの中で。俺はやっぱり、後輩のXオルタだな」
玲なりになんとか沈黙を破ろうとした事を理解した俺は慌てて答えを絞り出そうとした。
「俺は――」
「モードレッド!!」
が、俺の声はヤマモトの声に遮られた。
「モードレッドが、モーさんが好き! 一番好き! 愛してる! 男勝りな性格とか、たまに見せる女の子らしさとかもう最高! 不愛嬌に優しくされた日には死んでも良い! 水着モーさんのデレデレセリフを言われた瞬間、地獄すら天国だと思える幸福感を得られる! ああ、モーさんモーさん!!」
その余りの愛溢れるセリフには陽日ですら片目を開けて驚いている。
「お……おう……なんか、性癖を暴露された気分だが、まあお前がそんなノリなやつだって分かって意外だ、うん」
「……なら俺はマタ・ハリだな。お姉さんキャラならブーディカもいるけど、親戚ってよりも彼女って感じで甘えさせてくれそうな感じが好きだ」
「……地味な娘がいい」
「サーヴァントに地味な奴なんかいないけどな」
玲が陽日を茶化し始める。
「て言うか、ロリコンじゃなかったのか?」
「人のあくびを見て指を指しながらカバ扱いする生物だけが好きとかどんな捻くれた性癖だよ」
「お、おう……」
思わぬ早口な反撃に、玲は黙った。
「焼いてた割には、玲以外は全員好きなサーヴァントが違うんだな」
「も、モーさん以外に焼く訳ないよっ!!」
「……焼いてない」
どうやら先迄の自分達の態度には否定的な様だ。
玲がそれを見て笑い、それを止めると再び口を開いた。
「俺はこの悪夢だと新聞部の部長やってんだけど――」
「俺は普通にマスターで――」
「モーさんとデート――」
「眠い……」
その後、俺達の会話はそれぞれのヤンデレ・シャトーの武勇伝へと話題を変え、やがて、俺達はそれぞれの現実に戻っていった。
「あ、アキラさーん」
「んー、なんだぁ?」
放課後の廊下を知らない誰かが早歩きで通り、先輩らしき人を呼び掛けている。
「ふぁ……」
逆の方から眠たそうな人があくびをしながらゆっくりと歩いている。危ないんじゃないかと思いつつも俺は昇降口を目指して歩いていく。
「――ェナミ!」
「ははは、こっちこっち」
聞いた事のある名前が校舎の外から聞こえて来た気がする。少し目を凝らすと2人の男子生徒が校門を走って通り過ぎていった。
「気のせいか……?」
聞き覚えのある声と動作を行う人達に、通り過ぎた道を思わず振り返るが答えは返ってこなかった。
だけど、またいつかあの3人に会える気はした。
切大の好みのサーヴァントはちょくちょく変わります。
毎日夢の中で英霊の魅力に当てられたらそりゃあ、多少心象も変化しますよ……しませんか?