ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
「……で、マスターが気絶してから娘も寝たままでこの状態なのね」
メルトリリスはベッドで眠るマスターとその隣で寝ている黒髪の娘に目をやる。
「はい。マスターが起きれば……恐らく元に戻ると思いますけど……」
「全く、とんだ災難だわ! 令呪で追い出されたと思ったらまさか…………っ!」
メルトリリスは先の光景を思い出して顔を赤く染めた。
「……獣の様に盛ったマスターに求められ、衣類を剥ぎ取られそうになるなんて……羨ましいです」
「人が恥ずかしがっている事を全部言った上に羨望の眼差しまで向けるなんて、失礼だとは思わないのかしら!?」
静謐はそう指摘されながら、顔を染めてボソボソと喋り出した。
「だって……マスターに女として触れてもらえるなんて……」
「うっ……ま、まぁ当然よね? この体が至高の美だと言う事は明らかだし、それにマスターが興奮するのは……確定事項よ!
……まあ、貴方のそれも中々だけど、余計な脂肪が膨らんでいるようね」
そう言いながらメルトリリスは静謐の胸を見た。
(どうしよう……)
さて、そんなガールズトークと言うには少々棘のある会話が目の前で繰り広げられているので、意識を取り戻した俺は立ち上がるタイミングを逃していた。
「マスターは好きみたいですけど……」
「はぁ? そんな物があっても邪魔よ邪魔!」
そもそも起きても直ぐに取り押さえられそうだ。
「私がマスターを調教するから、例え脂肪が好きでも関係ないわ」
俺が拘束されていない理由はあくまで2人が牽制し合っているからだろうし。
「……ツンツン」
不意に、静謐が俺の頬を指で突いた。
「……マスターの肌、柔らかい……」
「ねえ、もう起きてるんじゃないかしら?」
メルトリリスにそう言われて俺は内心焦り始めた。
「起きてるんですか……? マスター?」
「……なら、少々痛くしましょうか?」
「起きる! 起きます!」
メルトリリスの刃が地面を引っ掻く音に慌てて飛び起きた。
「漸くお目覚めね?」
「おはようございます、マスター」
毒々しい2人のモーニングコールで目を覚ました俺は、取り敢えず部屋から出たいと言った。
文句有り気な2人に撒き散らされた毒(媚薬や興奮剤は薬物扱い)やらウィルス(娘のは例外)は大して効果が無いが、流石に空気以外の物を吸い続けるのは気分が悪いと部屋を出る事を提案した。
静謐は若干落ち込んだが、自分の娘が再び現れ慰めている。
「それで、何処に逃げ込む気かしら?」
「逃げるつもりはないけど;……」
「私はBB側、つまり悪夢の仕組みは理解しているわ。
大方、娘をサーヴァントに見せて回るつもりでしょうけど、それはリスクが高いわ」
そう言ったメルトリリス。俺の事を案じている様だ。
「……勘違いしないで! 私が心配なのは私の娘よ! 分かった?」
静謐から取り上げるように娘を細い腕で持ち上げて、俺に押し付けた。
その瞬間、自分の娘の姿に変わってか、彼女は小さな笑みを浮かべた。
「私との甘い一時を過ごすと決めてしまえばこんな事には――」
「――スネフェル・イオテル・ナイル!」
唐突に、カルデアの廊下の床に穴が空いた。
「なっ――!?」
「きゃ――!」
穴はメルトリリスと静謐を飲み込んだ。
娘と俺は穴から離れていたので落ちる事は無かったが、穴は直ぐに塞がってしまった。
「……どう考えても、俺との隔離が狙いだよな……」
「ですね。お母様にしては思い切った行動に出ましたね」
俺の右に座っていた娘が何時の間にか褐色肌に白いセーラー服姿に変わっていた。
紫色の髪だが赤いリボンで束ねられたおさげが特徴的で、メルトリリスや静謐の娘とは明らかに違う真面目さを感じる。
そして左からも同じ声が聞こえてきた。
「お父様は本当にモテモテですね」
メジェド様の布で体を覆ったギャグの様な格好で呆れているが、取り敢えず後ろにいるサーヴァントの顔を見る事にしよう。
「ふぅ……やりましたよ、私!」
「ええ! 不敬者を地下室に閉じ込めた今、マスターの愚行を直ぐにでも問い質しましょう!」
なにやら盛り上がっている様子の2人サーヴァント。しかし、水着と水着みたいに露出の多い衣装、娘に受け継がれた褐色肌に全く同じ顔。
別人扱いでありながら同一人物のサーヴァント、キャスターのニトクリスとアサシンのニトクリスだ。
「ニトクリスか……」
「「マスター! さあ、そこに直りなさい!」」
どうやら説教される展開の様だ。
杖と指を向けられ大人しく正座する事にしよう。
「よろしい。その素直さは僅かではありますが減刑を考えさせうる物になりうるでしょう」
「……取り敢えず、こうされる理由を教えてもらえる?」
「決まっています! 未来から来たとかそう言った事を省いても、不特定多数の女性と子供を持つなど、不敬が過ぎます!」
「猶予釈放の余地なく有罪です!
……しかし、仮にも貴方はカルデア唯一のマスターです」
強気な表情で攻め立てるキャスターのニトクリス。アサシンのニトクリスは、何故か急にモジモジし始めた。
「死刑や懲罰を与えて、重大な使命に悪影響があってはいけません。なので……」
すっと俺を挟む様に左右にやって来た2人。どう考えてもこのまま拉致られそうだ。
「「お母様」」
「!」
「な、なんでしょうか?」
2人の娘に名前を呼ばれたニトクリス達は若干緊張を顔に浮かばせた。
「お父様を手に入れようと画策している様ですが、早く此処を離れ、宝具を解除するべきですよ?」
白い布から顔を出した娘が地面を指差しながら言った。
「下に閉じ込められた方々がなにやら有害な物を発動させ始めています。これ以上あの地下室に閉じ込めておくと解除と同時にカルデア中にそれらが充満してしまいます」
制服の方が杖で地面をコツコツと叩いてメジェド神を呼び出した。
「っう……い、急ぎましょう!」
「了解です、でませい!」
アサシンに急かされたキャスターはメジェド神達を呼び出し、自分とアサシン、娘は自分達を運ばせこの場を移動し始めた。
「お父様」
「マスター」
左右同時に伸ばされた腕に掴まれた。
「っちょ!? うぉぉぉ!?」
引きずられる事にはならなかったが体が宙に浮き続ける、余り胃に優しくない移動が始まった。
「っく……! 危なかったわね。もう少しで私のキャパシティを超える毒素を取り入れる所だったわ……っはぁ、はぁ……」
「私も……肌がヒリヒリとするこの感覚は……久しぶりでした」
全員が退散した後、ニトクリスの地下室から開放されたメルトリリスと静謐。
2人共、特に力任せな脱出を試みていたメルトリリスは疲労とダメージに息を切らしている。
「早く追わなくちゃ……もしかしたらマスターが何処かに閉じめられるかもしれないわ……」
「ですが……厳しいです」
満身創痍な2人。
その後ろからゆっくりと近付いてくる人影があった。
「……さて、マスターはどんな格好が良いですか? ファラオの夫になるのです、遠慮なさらずにお選び下さい」
俺は辟易としていた。ニトクリスが少し大きめなタンスを開けば、中には露出の多いエジプト衣装から現代のタキシードやスーツまで揃っていた。
鎖とのセットで。
「こちらはネクタイの色と鎖の色を統一してあって――」
「――に、ニトクリス? さ、流石に鎖はどうかと思うんだけど……」
その間にアサシンのニトクリスは娘達となにやら会話している様だ。
「お父様を縛るおつもりですか?」
「そんな事をして嫌われるとは考えておられないのですか?」
「うっ……で、ですが本来の私の行動ですし……」
アサシンのニトクリスは己を恥じて布に隠れた姿の為、普段のニトクリスより自己評価が低い。
逆に最大まで霊基再臨して力も自信も付いたキャスターは自分のしている行動になんの迷いも無い。
娘もそれを理解してか、2人でアサシンの方を責め立て止めさせようとしている様だが、効果は無さそうだ。
「決められないのでしたら、私が1つ見積もりましょう」
遂に鼻歌交じりにタンスの中をガサゴソジャラジャラと服を選んでいる時に鳴ってはならない音と共に一着の服を取り出した。
「はい! どうぞ!」
そう言ってメジェド神を呼び出すとあっという間に俺を着替えさせた。
「……で、しっかり拘束もすると」
「無闇に娘を増やした罰です。ですが、私という最も堅実な女を妻とするならばもう二度とそんな間違いは起きないでしょう……」
俺へと迫り妖艶な表情を近付けるニトクリス。
少し離れた場所で水着の方があたふたしており、2人の娘の方は顔を赤くしながらもしっかりと見ている。
「あれは2ヶ月に1回突発的に発動する良妻賢母モードですね……!」
「水着のお母様とは大違いの魔力と迫力です……!」
「マスターにあんなに接近して……不敬ではないのでしょうか!?…否、あの私が間違っている筈が無いのですが……寧ろ、私も一緒に迫るべきなのでは……?」
首を繋ぐ鎖を握られ後退る事も出来ない。
「さあ、今宵の私の昂ぶり……どうか受け止めて下さい」
鎖は握ったまま、片手は顔に添えられ唇が重なった。
「はぁっん……んん」
「んんっぐ……!?」
抵抗する俺は唐突に開いた扉から飛び出した新たなサーヴァントに驚いた。
背後からの奇襲だったがニトクリスは背後に向かって怪光線を放つ。
思わぬ反撃だったが怪光線は金色の光に阻まれ、爆発を引き起こした。
「っく……!」
「っふ!」
流石に俺を放し、接近してきたサーヴァントの武器を杖で受け止めた。
「影の女王……!」
「何やら、楽しそうな事をしているではないか。私も交ぜて貰おうか?」
「同盟を裏切った罪は重いぞニトクリス! 覚悟せよ!」
「皇帝ネロ!? それに貴女は!?」
「ますたーときすしたやつ……ぶっころす!」
剣を振り回してセイバークラスのフランが現れた。
部屋の入り口で黄金の浮遊武装を構えているのは水着ネロ、ニトクリスと睨み合っているのは水着スカサハ。
「はっはっはっは! これぞ新・水着同盟だ!
因みに、キャス狐とセイバーの余は魔力切れで倒れていたので霊基保管室に閉じ込めておいた!」
高笑いするネロにニトクリスは苦い顔をする。
忘れられているかもしれないが、聖杯戦争において最弱に位置付けされているキャスタークラス。実力のある英霊に数で劣っている以上覆すのは難しい。
「――そんな訳無いですよ。似姿の私!」
「は、はい!」
アサシンのニトクリスに呼び掛けたと同時にニトクリスは宝具である鏡を発動させる。
「アンプゥ・ネブ・タ・ジェセル!」
「……スネフェル・イオテル・ナイル!」
スカサハから迫る赤槍、フランの怒りの込められた雷の刃、ネロが放った金色の光弾。その全てが鏡から現れた闇に飲まれる光景を眺めたまま、俺、ニトクリス達と娘達は落下した。
「此処は地下室の名を持った一種の固有結界。暫くは身を潜めていられるでしょう」
「さ、流石に宝具の連続使用は……魔力消費が……」
体の疲れが見て取れる水着ニトクリス。その前に首輪を握られた俺は連れて行かれる。
「ならマスターから魔力供給を受けなさい」
「え!?」
「ふ、不潔ですよお母様!?」
娘もニトクリスも、キャスターのニトクリスの発言に驚きの声を上げている。
顔を手で覆って隠す娘達だ、目の部分に若干の隙間が空いたり閉じたりしている。
そんな事に興味がある様だが俺は冗談じゃない。
「て言うか、同じ自分とは言え別人だろ!?」
「おや? マスター、もしかして私に独占されたいのですか? でしたら、今からでもお相手しますよ」
なんて言って鎖を引っ張るニトクリス。また唇がくっつきそうな程に近い距離だ。
「……確かに、不敬で不潔ではありますが水着の私に魔力を補給しなければ此処が保てないのでは致し方ない事です」
そう言ったニトクリスは顔を俯かせ、余裕そうな表情が曇り始めた。
「幾ら頂に立っても、未熟なファラオであった事は覆らないのです。
畏れ多くもオジマンディアス様の様に振る舞ってみせても、マスターの喪失が私の心を不安で押し潰そうとしています……」
ニトクリスは水着のニトクリスに鎖を持たせた。
「幸い、どちらも私です。未熟なファラオの私ではマスターが満足できないのであれば2人でお相手致しますので、どうか愛を……」
他人と愛し人を共有するヤンデレなんて……と思ったが言うなれば愛人でいいから愛して欲しいタイプだろうか。受け入れ易い協力者がいるが故の病み方だろう。
「お父様……お母様を助けてあげて」
「受け入れてあげて」
どうやら娘も似た様な性格に育っている様で、母親を愛せと俺にせがむ。
此処で受け入れたが故の未来かと納得した俺。
「断る」
俺の言葉に、ニトクリス達も娘達も固まった。
そしてこの地下室本来の機能、水攻めが始まった。
「――不敬だ、ニトクリス! 俺が欲しかったらファラオも天空も冥界の神も関係なく、唯の1人のニトクリスとして欲して来い! 俺はもっと貪欲な、独占的なヤン――!」
「……あー! ますたー、おはおは!」
目が覚めたら包帯だけで体を覆ったセイバーのフランの顔が見えた。
「目が覚めたかマスター! うむ、早起きで何よりだ!」
喜びに顔を綻ばせるネロ。
顔を動かしてそちらを見れば床に2人のニトクリスが寝そべっていた。
「あの鏡、中々強力な宝具であった」
「スカサハ」
水着姿のスカサハが俺の体全体を確認すると、淡々と喋りだした。
「あれだけ近くにいたのだから仕方がないが、危うくお前の精神をあの女の世界に閉じ込められる所だった」
そう言われ先程までいた地下室が、鏡に映ると言われていたニトクリスの精神世界だと言う事に気が付いた。
それに少し恐怖を感じた。
「ん、んんー……」
向こうから可愛らしい声が聞こえてきた。娘が起きたらしい。それと同時にその姿も変わった。
元の、1人だけのニトクリスの娘の姿に。
「――――」
「っ!」
口は動いたが声が聞こえないまま、娘の姿は再び変わった。
だけど、なんとなくお礼を言われた気がした。
(……別に、こんな悪夢にそんなお約束は要らないだろ)
照れ臭かったので、心の中ではそう誤魔化した。
ガッと言う音ともに、蹴り投げられた槍が壁にめり込んで、俺の首に繋がる鎖の先端を壁に張り付けにした。
「さてマスター。独占されたいそうだな。タップリと私がお前を愛してやろう。先ずは他の女の娘が産まれぬ様にルーンでお主の体を私専用に作り変えてやろう。泣いて喜べ」
「おばさん、としきつい。
ふらん、ぴちぴちのしんぴーん!」
「薔薇の花弁を好んでも、棘を好く者はおらん! 故にマスターは余と結婚するに決まっている!」
娘は3人に増えた。
「冬なのに、母上が盛ってる……」
「ままー、きょうもこどもつくっちゃうの?」
「母上の水着、母上の水着、母上の水着、母上の水着、母上の水着……!」
そこで漸く、まだ危機を脱して居ない事を理解した俺は、泣いた。
「泣くほど嬉しいか?」
「よしよし……ふらんがなぐさめてあげる」
「むぅ……娘よ? 少々距離が近くは無いか? いや、別に離れろなどとは言わんぞ? 母の背中は大きかろう!」
「そ……」
「そこはお約束通り、終わってくれよぉぉぉぉぉ!!!」
まだ、ヤンデレ巡りの旅は終わっていなかった。
塔は150階まで行きました。バレンタインは今の所新しいサーヴァントは引けてません。
今回の話は深夜テンション的な物に身を任せて書きましたので数日後には「なんだこれ?」みたいな感想が出てしまう気がする。