ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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長い長いヤンデレ家庭未来図。今回で終了です。

2周年記念企画に関しては活動報告の方で本日中に告知します。もう暫くお待ち下さい。


第二ヤンデレ家庭未来図 七

 

 

 気絶中は悪夢の中ではあるが、眠らされた状態とは異なり周りの状況は一切分からず、目が覚めたら自分の目と耳で状況を判断するしかない。

 

「――で、誰か柱に縄で縛られながら娘と思わしき4人に囲まれている事に関しての説明をしてくれ……」

 

 チャイナ服の背の低い茶髪ツインテール、赤いパーカーの黒髪ツインテールは見覚えがある。

 しかし、残りの2人には見覚えがない……

 

 ロングヘアーの黒髪で学校指定であろう白いブレザーに赤のネクタイ、何故か両腕には攻撃力の高そうな手袋が装備されている。

 

 最後の1人は桜色の髪に羽飾りが1つ頭に付いており、ポニーテールの縛り目に飾られている。服装は母親を意識してかフワッとした装飾の少ない白いワンピースだ。手で小さな杖を握り締めている。

 

「あら、本当に説明してほしいのかしら?」

「本当はもう分かっているんじゃありませんか?」

 

 パーカーの娘とセーラー服の娘から更に一層ピリピリとした敵意を感じる。

 

「と、取り敢えず誰の娘かぐらい――」

『――貴方の娘です!!』

 

 4人同時に叫ばれた。

 その後、一番無口そうなチャイナ服の娘の溜め息と共に自己紹介が始まった。

 

「……私、哪吒の実の娘」 

「イシュタルお母様の娘よ」

 

 黒のツインテールを揺らし、俺と視線を合わせない。

 

「マルタお母さんの娘です」

 

 何故か手袋を確認してから拳に力を込めた。

 

「お母様は大魔女です」

 

 杖を振り回し、俺へと向けた。

 

 全員、テンションの低い声で誰が母親か教えてくれたが俺はもう殺されそうだ。

 

「怒っているのは理解しているつもりだけど……そもそも結婚してないから――」

「――結婚していなかったら私のお母さんじゃない人とイチャイチャして良いと思っているのかしら?」

 

 笑顔で腕を鳴らすマルタの娘。目がやばい。

 

「それなら、俺にどうして欲しいんだよ……」

 

「反省して、懺悔してくれればそれで良いわよ?」

 

 イシュタルの娘は随分簡単そうに言った。

 

「ぬるい。処すべき」

「牛さんに変えてあげます」

 

「あのね……この人が死んだら私達まで消えるのよ? 殺すのは論外よ」

「でも、そうなるとお母さんの怒りと悲しみはどう消化するべきでしょうか?」

 

 そもそも保護者となるはずのサーヴァントたちは一体何処へ……?

 

「あら、簡単よ。心を入れ替えて貰って私のお母様に一途になれば良いのよ」

 

 そう言って凛の様な見た目の娘が取り出したのは…桃色の小瓶。

 

「っげ!? 愛の霊薬!?」

「これを使えば私のお母様にメロメロ。もう余所見なんてさせないわよ」

 

「ちょ、ちょっと!? それじゃあ私のお母様はどうなるのよ!?」

 

「あら? どうせ1人しか駄目なんだから素直に諦めなさい。こんなロクデナシでもイシュタルお母様が幸せになるから私達が引き取ってあげるわ」

 

「駄目です。お父さんを更生させるのなら聖女であるお母さんが一番です。その薬は私が頂きます」

 

「駄目、父は私の母の物」

 

「それは私が貰う! (お母様からキュケオーンじゃなくて惚れ薬のレシピを聞き出せば良かった……)」

 

 個人的には……殺気が収まった事と娘達に救いようのない程に嫌われた訳じゃないと分かってホッとした。が、この状況で安心できる訳が無い。

 

「まて、そもそも惚れ薬を飲ませても相手が目の前にいないと面倒な事になる」

 

 取り敢えず母親を呼んで貰おう。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

『…………』

 

「え? 何で全員一斉に黙ったの?」

 

 するとイシュタルの娘は霊薬の蓋に手をかけた。

 

「じゃあ、全員がいるこの状態で飲ませましょう」

「恨みっこなしね」

「上等」

「良いわ、それで行きましょう」

 

 何を言っているんだこの娘達は――!?

 

「よっと……はい、飲みなさい」

「……んっんん!」

 

 押し付けられた瓶に口を閉じる。これは飲んだらアウトだ。意地でも飲まない。

 

「飲んで」

「っ……!」

 

 哪吒の娘が俺の鼻を摘んだ。

 口を閉じているので空気の入る隙間がない。

 俺は僅かに口を開けざるを得なかった。

 

「――うっぷ!」

 

 入った。霊薬が口の中に入って体の中に取り込まれた。

 

「さあ、私よ。私を見なさい」

 

「お父さん、私の方をご覧下さい」

 

「しっかり見て」

 

「私を見てよ! 他の娘なんて見ないで!」

 

 娘達に呼ばれるがそうは行くかと、俺は強く目を瞑った。

 

「っぐ……!」

 

 しかし、薬の作用か声で呼ばれると体全体が思わずそちらに反応してしまう。

 耳を塞ごうにも熱くなる体を抑えているので動かせない。

 

「……うぐぐ……!」

 

「お父さん……私を見てくれたらもうロクデナシなんて呼ばない」

「嫌ったりもしない」

「一緒に、入浴」

「しっかり親孝行して、甘えてあげるから」

 

 耳元に集まり始めた娘達の声と誘惑に体は震える。

 

「――何してるのアンタ達!?」

「ようやく見つけたわ!」

「イタズラ、謝罪……!」

「もー! 折角作ったキュケオーンが冷めちゃうよ!」

 

 此処で漸く4人のサーヴァント達がやってきた様だ。

 

「全く、我が娘ながら薬に頼るなんて情けないんだから……美の女神の娘がこんな事をしてまで落としたい相手が実の父親なんて……」

 

「結婚相手は好きにしなさいと言ったかもしれないけど、マスターを選ぶなんてどんな教育したらこうなるのよ! マスター、そこも後でじっくり話し合いますからね」

 

「帰ろう、愛娘」

 

「ささ、説教は後にしてそういう訳で――」

 

『行く(わ)よ、マスター』

 

 目を瞑って体の熱に耐える俺に、4人の手が同時に触れた。

 

(あ、駄目だこれ)

 

 体の異常に苦しみながらも俺は瞬時に察してしまった。

 

 イシュタル、マルタ、哪吒、オケキャス。

 

 正直、攻撃的すぎるメンツだ。

 

「上等ね。相手になって――」

「――はい、ストップ。もう悪夢は終了だ」

 

 

 新しい声が聞こえてきた。

 悪夢が終了と言ったのは、カルデアのショップや工房でお馴染みのダ・ヴィンチちゃんだ

 

「はい。マスターはこれを飲んでー」

 

 愛の霊薬を打ち消す薬を飲まされた。飲んでみれば体の異常は無くなり、無事に開放された。

 

「じゃあ、マスターには悪夢を終わらせる為の大事なお仕事があるから協力してくれ」

「お仕事?」

 

「うん、全員に行き届いてしまった娘を返す為に彼女達の頭を撫でてくれ」

 

 そう言って言われるがままイシュタルの娘の頭を撫でた。すると娘の体はサーヴァントの様に消滅して消えた。

 

「ちょ、ちょっとダ・ヴィンチ!?

 そんないきなり終わりだなんて聞いてないんだけど!?」

 

「流石に長くなり過ぎたからね。これ以上はマスターの現実的な体に支障を来しかねないのさ。さあ、全員返そうか」

 

 顔を赤くするマルタの娘、そっぽを向いて無言な哪吒の娘、嬉しそうなオケキャスの娘。

 

 全員の頭を撫でると、ダ・ヴィンチに背中を押されて部屋を後にした。

 

「さあ、次だ次!」

「うお!?」

 

 廊下に出た先にはエルドラドのバーサーカー、アナと呼ばれる小さなメドゥーサ、ハロウィンのエリザベート2人とメカエリチャンがいた。

 

「……何? もう終わりだと!?」

「「うっそ!? 私達、珍しくシャトーでの出番だったのに!?」」

 

「……残念です」

「無念」

 

 娘をあっさり没収されて彼女達は落ち込んだ。

 エルドラドのバーサーカーに関しては凄い勢いで怒っている。

 

「マスター! 貴様、あの娘の格好はなんだ! あんなフリフリのスカートに花柄の洋服なんぞ着せおって! 私が娘位に綺麗だと思われたらどうする!」

 

 怒っているのはよく分かったがその理由についてはよく分からなかった。

 

 そして、その後も様々なサーヴァント達の娘を撫でて返し続けた。

 

 

 

「お疲れちゃーん! もう残ったのは最初の娘だけだね」

「じゃあ、この娘を返せばこの悪夢も終わりか」

 

 長かったな今回。娘にヤンデられた時が一番焦ったけど。

 

「お母さん……」

 

 娘は元のダ・ヴィンチちゃんの娘に戻っており、不安そうに母親を呼んだ。

 それにダ・ヴィンチは意味有り気なウインクを返した。

 

「じゃあ、さようなら」

 

 俺は娘の頭に手を置いた。

 

 

「分解」

 

 

 ダ・ヴィンチのその一言で、俺は伸ばしていた手を引き戻して、床に膝を付けたまま体を抑えた。

 

「ぐぅっ!? こ、れ、は……!」

「お父さん! 大丈夫!?」

 

 呼び掛けた娘を見ながら、ダ・ヴィンチちゃんへと視線を動かした。

 

「霊薬を打ち消す薬なんて万能天才の私にかかれば不可能ではない。一時的に症状を無くして好きなタイミングで呼び起こす事もね。

 なにせ毒にも人工的なウィルスにも強いサンプルがカルデアの廊下にいたからね!」

 

 先まで隠れていたダ・ヴィンチちゃんの工房の奥に、2人のサーヴァントが僅かに見えた。褐色の肌と、鋭利な凶器が。

 

「これで君は私にメロメロさ」

 

「お、お母さん……!」

「ふふふ、娘よ。天才の力ならこの通り、例えヤンデレ・シャトーの歴戦の猛者だろうとこの通りだ。幸せな家庭を築き上げる方法も何重と――」

 

「爪が甘いよお母さん……お父さんを見なよ」

「ん?」

 

 俺は娘に抱き着いた。

 

「愛しの娘よ!」

「あ、き、切大君!? 何でそっちに抱き着いているのかな!?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの疑問の声が聞こえるが、そんな事よりも娘だ。

 

 なぜ俺はこんな可愛くて愛しい娘をあちこち危ないサーヴァントの前に連れて行ったのだろうか。

 これからはもっとしっかり守ってやろう。

 

「よ、予想すらしていなかった結果だ……くっ、こうなったら仕方がない! この“リセットハンマー ver.8.3”で霊薬を――」

 

 娘は何か危ない物を取り出したダ・ヴィンチちゃんに抱き着いた。

 

「お母さん1つだけお願いしちゃ、駄目?」

「な、なんだい娘よ。勿論良いに決まっているじゃないか! 天才の私に何でも話してみたまえ」

 

「……お父さんともう少しこのままでも良い?」

 

 そんな可愛らしいお願いに俺は更に強く娘を抱き締めた。

 

「ああもう、可愛いなぁー!!」

 

「うっぐ……む、娘のお願いだ……快了してやりたいが……今の私はヤンデレで――」

「――じゃあ、お父さんの代わりに私がお母さんを愛してあげる」

 

 そう言って娘はダ・ヴィンチちゃんの頭を撫でた。

 

「……み、みたまえ切大君! 私達の娘は天使だぞー!」

「うん、唯一無二の天使だー!」

 

 俺達は胸一杯の幸福と共に娘に抱き着き愛で続けた。

 それは目が覚めて正気に戻った俺が死にたくなる程までに続いたのだった。

 

 

 

 

 

「マスター、話がある。そこに座れ」

 

 座る場所に困る程に赤い槍に囲まれ、スカサハが前に立っている。

 

「トナカイさーん、私と子供を作りましょうよー?」

 

 子供の作り方と書かれた絵本を握りしめるジャンヌ・リリィ。

 

「美しいとも可愛いとも言わせんぞ……! 貴様の体に恐怖を叩き込んでくれよう……」

 

 いつも以上に長く太い鎖をジャラジャラと鳴らしてこちらを睨むエルドラドのバーサーカー。

 

「な、何をすれば……生きて帰らせて頂けますか?」

 

「子作りだ。それしかなかろう」

「赤ちゃん、作って下さい!」

「殺す! 死にたくなければ足掻け!」

 

 この日の悪夢は過去最速で死亡エンドだったらしいが、それは当然俺の記憶から忘れられる事になるのだった。







今回の反省点はですね……登場人物の多さ、ですね。書いてて失速しているのがよく分かりました。
次回があれば多くても10人程度でやります。

なおこの未来図を書いている間に三蔵ちゃん、不夜城のキャスター、モードレッドと色々引きました。
記念企画が終わったら登場させたいと思います。

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