ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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2周年記念最初の投稿は デジタル人間さん です。

名無しのマスターとの事だったので、切大では無い別のマスターのお話です。


ゆめのおわり 【2周年記念企画】

 俺がFGOをプレイしたのは数年前に放送していたFate/Zeroを観て、そこからハマったのが始まりだった。

 

 唯のアニメ、ゲーム好きな俺はその設定とキャラが気に入りFGOも始めた。

 

 そして、監獄塔のイベントが始まると俺はヤンデレ・シャトーに閉じ込められた。

 

「ヤンデレと化したサーヴァントに襲われるからなんとかして逃げろ」(意訳)

「なるほど、分かった」

 

 アヴェンジャーであるエドモン・ダンテスの割と丁寧な説明でそこがどんな場所か理解した俺はサーヴァント達から逃げる事に成功。

 

 その後、エドモンの召喚に成功した俺の前に別のアヴェンジャー、ジャンヌ・オルタが現れ悪夢を体験させ始め、数日後に召喚すると悪夢は止まった。

 

 今度は最初にして最弱のアヴェンジャー、アンリ・マユが俺に悪夢を見せ続け、後に現れたアヴェンジャーのゴルゴーンが彼と代わって現れ、彼女を引くと再びアンリ・マユが悪夢を見せ続けた。

 

 しかし、それも今日で終わりだ。

 

「お、都市伝説だと言われる程出なかったけど、遂に来たか」

 

 そう。遂に俺はアンリ・マユを引いて、FGOの中でも数の少ないエクストラクラス、アヴェンジャーのサーヴァントをコンプリートした。

 

 した瞬間――自分の部屋にいた俺は突然迫ってきた睡魔に耐え切れず、その場に崩れ落ちた。

 

 

 

「……ん……? んんっ……!」

 

 突然、悪夢の中に落とされた事を理解した俺は立ち上がって伸びをした。

 

「あ、なんか全員揃ってる!」

 

「相変わらず気の抜けた声で喋るマスターだな」

「こんな奴が私達のマスターなんて、世も末ね」

「手厳しいコメントだな。俺みたいなろくでなしでも養ってくれちゃう優しいあんちゃんなんだろ?」

「ふん、ヤンデレ・シャトーすら切り抜けてきたのだ、気の抜けた声も全くの約立たずではないだろうな」

 

 今まで司会役だったアヴェンジャー4人が俺の前に立っていた。

 

「……以前説明したが、ヤンデレ・シャトーはアヴェンジャーである我らの内の1人が管理している。しかし、今回の召喚でお前のカルデアに全員が揃い此処を動かす者がいなくなった」

 

「じゃあ、ヤンデレ・シャトーは終わりって事?」

「そうなるな」

 

 そっかぁ、じゃあお達者で。

 

 なんて終わり方じゃないのはなんとなく分かってた。

 

「今回はお前を最後の悪夢に落としてやろう」

「なるほど、そうくるだろうな」

 

「魔術礼装も概念礼装も効果はなくなり、令呪は使用不可能」

「最早サーヴァントとマスターって関係の意味がねぇな」

 

「そんな物が無いので当然サーヴァント達は今まで以上に容赦なしだ」

 

「アンタの好みを揃えてあげたから、精々感謝の涙を流しながら苦しむ事ね」

 

 過去最高に厳しそうだな……まあ、なんとかなるでしょう。

 

「では行くぞ――」

 

 

 

 ヤンデレ・シャトーに到着した。レンガで作られた塔は初めて来た時と変わらない姿で俺を出迎えていた。

 

「ほー……此処か」

 

 久しぶりにやって来た場所を眺めようと左右に首を動かした。

 そしてすぐに自分へと迫ってくる一筋の光と風を切る音が聞こえてきた。

 

「わー……イシュタルかな? あ、この羽はもしかして――うぉ、ぶっ!?」

 

 高速で飛来してきた幻想種グリフォンの突進を辛うじて避けたが、逆側からやって来た空飛ぶ弓からは逃れる事が出来ずに引っ張られてしまった。

 

「ふふふ、捕まえたわよ私のマスター?」

 

 得意げに俺を見下ろすのはツインテールの女神様、アーチャークラスのイシュタルだ。

 

「またこのパターンですか……」

「そんな事言って、あのピンク色の頭の可笑しい奴のグリフォンは避けたじゃない。私は避けなかったって事は私ならOKって事よね?」

 

「いや、それは違うんだけど……」

「観念なさい。今は貴方のサーヴァントである事は、私には何の足枷にもならないんだから容赦はしないわよ」

 

 そう言って彼女は自分の宝具、マアンナの速度を上げ、僅かに浮くと、天井に向かって弓矢を放った。

 

「っはぁ!」

 

 光の矢は彼女の部屋の前の廊下を塞ぐ形で天井の瓦礫を降り注がせた。

 サーヴァントと言えど、この撤去には時間を要するだろう。

 

「おまけよ!」

 

 なんとあのイシュタルが、惜しげもなく宝石を両手の指全てに挟み、瓦礫へと放り投げた。

 

 投げられた宝石には魔力が込められていたようで、それらから眩しい光が放たれ散乱していただけの無残なバリケードは神を祀る神殿の様な神々しい壁へと変化した。

 

「美の女神のお誘い、断ったりしないわよね?」

 

 イシュタルは怪しい輝きを放つ視線で俺を見つめた。しかし、その手の魅了は効かない。なんか何時もより出力あげてるみたいだけど。

 

「断って引き下がるなら――」

「――しないわよね?」

 

 有無を言わせない口調で俺を睨むと、部屋のドアを開いて無理矢理入った。

 

 中はそこら中にある宝石が色とりどり輝いており、奥の方にはキングサイズのベットが置いてある。

 

「久し振りだな、この部屋」

「ふふふ、覚えていてくれたのね? 2ヶ月ぶりかしら?」

 

 以前やって来た時も宝石だらけで目立つ家具はこの巨大なベットだけだったのだ。

 

「あの時は両手縛られて大変だ――っ、マジですか?」

「ええ、大マジよ」

 

 懐かしんだ俺の両腕に金属が走り、縛り上げた。以前と同様に鎖で縛られたのだ。

 

「さあ、来なさい」

 

 イシュタルはその先端を引っ張ってベットの足に括り付けた。1mに満たない長さの鎖に繋がれ、押し倒された。

 

「私は女神よ」

 

 イシュタルは俺の顔に左手を添えた。

 

「私がしたいのは、今まで色んなサーヴァントがしてきたおままごとじゃなくて、本物の結婚よ」

 

「欲しいのは魅了されて頷くだけの人形じゃなくて、夫婦の愛なの」

 

「それは俺が好きじゃないと生まれないだろ」

 

 俺がそう反論するがイシュタルは嗤う。

 

「あら、少なくとも私は貴方のお気に入りのサーヴァントなんでしょう? だから私はここに居るんでしょう?」

 

 痛い所を突きながら、彼女はツインテールに束ねていたリボンを外した。

 

 今まで見た事が無かった、艶のある長い黒髪が真っ直ぐ伸びた彼女の姿に胸が高鳴った。

 

「あら、少し反応したわね? 見た事ない私の髪型に驚いたかしら?」

 

 俺は慌てて顔を横に振った。

 

「ねぇ、こんな私の姿、見れなかったでしょう? 私も見せるつもりはなかったけれど、夫婦になればいくらでも見れるわよ」

 

 ――毎朝、一緒のベットで起きるんだから、ね?

 

 耳元で囁かれて、いつの間にか彼女の体がピタリと俺の体に正面で重なっている事に気が付いた。

 

「貴方にご飯を作る時はエプロン姿にポニーテールも見せてあげるし、水着も浴衣も、コスプレだってしてあげるわよ。何に使うかは……言わなくても分かるわよね?」

 

 り、理性が……! 耐えきれない……!!

 

(エプロン姿のイシュタルにお帰りとか言われてみたいし、水着イシュタルとプール行きたい。浴衣姿の凛と花火――違う、イシュタルとだった)

 

 Stay Nightの時から凛が好きだった俺に、そっくりさんのイシュタルの誘惑はクリティカルヒット過ぎた。

 

「そんなに、嫌かしら?」

「……い、嫌じゃ……ない、デス」

 

 幾多のヤンデレ・シャトーを乗り越えようと男の性からは逃れないという事か。

 

「私は、マスターが……好きよ」

 

 昂ぶり過ぎて足が震えている俺の耳元で響くイシュタルの告白に、両手の鎖を忘れて思わず抱き着きたくなった。

 

「まだ駄目よ、だってマスターから聞いてないんだもの。

 ……愛してるって、言ってくれるかしら?」

 

 言いたい。めっちゃ言いたい。

 

 だけど、アンリ・マユのヤンデレ・シャトーでそれをしてしまえば待っているのは死。

 悪夢の中で植物人間か、夢精してテクノブレイクするかのどちらかだ。

 

「う……っぐ」

 

 奥歯に力を込めて声を抑える。

 

「……そんなに、嫌なの?」

 

 彼女の泣きそうな声が俺の心に罪悪感の言い訳を擦り付ける。

 頷いて死ぬのも、現実で彼女がいない俺ならなんの問題もない気がする。してきた。

 

「い、イシュタ――」

「行っけぇ! ヒポグリフ!!」

 

 扉をぶち破り突入してきた1羽の幻想種。鷲の様な翼と顔を持ち、馬の下半身を持つその生物は壁を破った勢いでイシュタルに突撃する。

 

「っきゃぁ!!」

 

 人を乗せて飛べる程の巨体にも関わらず、イシュタルだけを壁に激突させたヒポグリフ。その背中からピンク色の髪と甲冑を纏った美少女……美少年が舞い降りた。

 

「やっほー、マスター! やっと来れたよ!」

 

 ライダーのサーヴァント、アストルフォ。

 性別は男だがその女装は誰から見ても少女と呼ばれる程だ。

 

「っぐ……ど、どうやって……私の神殿を……!!」

「んー? あ、もしかしてあの大層な壁の事かい?

 僕、理性は無いけど魔術の事なら昔手に入れた魔術書があるから、大抵の魔術なら破れるんだ」

 

 そう言って見せ付けられた宝具には見覚えがあった。

 

「破却宣言……!」

 

「じゃあヒポグリフ、その女神様は適当に投げといて」

 

「ちょ、やめ――」

 

 ヒポグリフは一鳴きすると傷付いて動けないイシュタルを啄んで、勢い良く放り投げた。

 

「――――」

「バイバイー! じゃ、行こうかマスター」

 

 投げ飛ばされたイシュタルには目もくれず、一切動かない視線で俺を見続け鎖を切り裂いたアストルフォ。

 

 ヒポグリフに俺を乗せると、俺の後ろから抱き着く様に手を出して手綱を掴んだ。

 

「上だよ、ヒポグリフ!」

 

 宝具であるヒポグリフの能力、次元跳躍を使って、天井をすり抜けて上の階に侵入した。

 

 ヤンデレ・シャトーは階によって病み方が変わったりするので天井を壊してもそのまま入る事は出来ないが、次元跳躍で違う次元に入ってから戻ってくる方法なら入れてしまうようだ。

 

「……あれ」

 

 ヒポグリフから降りたアストルフォはふらっと体が崩れ落ちそうになりながら、馬の体に取り掛かった。

 

「あれ……なんか、変だなぁ……」

 

 先のイシュタルの一件も合って声の掛けづらかった俺だったが、流石に心配しない訳にもいかない。

 

「大丈夫かアストルフォ?」

 

 具合が悪そうに頭に手の甲を当てるアストルフォ。ヒポグリフをしまいながらも俺に体を預ける。

 

「ふぅ……ん、ぁつぃ、マスターに触れてる所が……すごく熱い」

「ちょ、ちょ……ああ、これやばい奴だ」

 

 顔が赤く、息も乱れている。

 間違いない。これは――

 

「発情してるな」

 

 そっとアストルフォを床に置いてその場を後にした。

 

「待ってよ!」

「うごっく!?」

 

 しかし、距離を取る前にアストルフォに背後から抱き付かれた。

 

「はぁはぁ……今日は絶対に、逃がさないから……」

 

 背後からガッチリ掴まれ、振り解けない。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

「えへへ……理性が、じょうはつしてるからかなぁ……抑えがきかないよぉ」

 

 俺の尻に当たる熱の籠もった物体に、悪寒が走った。

 

「さ、流石に……それは無理!」

「あぁ……ま、待ってよマスター!」

 

 体を倒して緩んだ拘束から逃げ出した俺はアストルフォから少しでも遠くへ逃げようと一目散に走り出した。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……まさかアストルフォが発情とか……唯の恐怖体験だぞ、男の娘に尻を狙われるとか」

 

 二次元なら確かに男の娘も良いとか思った事が無いわけじゃないが、そっちの気は微塵もない。

 

「わぁ、可愛い!

 とかそんな大きさじゃない……いや、何を言っているんだ俺は」

 

 思考がパニックで変になっているじゃないか? 

 

「せめて捕まったら俺が攻め……」

 

 いよいよ俺の正常心も死んだか。ナニを口走っているのか俺も分からない。

 

「て言うか逃げる方向は合ってるのか……ループするからどっち歩いても変わらないけどさ」

 

 そうブツブツ呟きながら廊下の先から聞こえる物音には最新の注意を測りつつ歩いていると、耳に音が届いた。

 

「後ろ? 前か?」

 

 振り返ったり正面を見たりを繰り返したが誰もいない。

 

「じゃあ、一体何処に――」

「――マスター!!」

 

 頭上、真上から迫るヒポグリフに気付く事が出来なかった俺は、数秒後に2つ下の階に次元跳躍した事だけを視界情報として認識出来た。

 

「――おわぁ!?」

 

 しかも到着したのはヤンデレ・シャトー1階のアストルフォの部屋。理性の無い彼の部屋に何故かあるトランポリンに落とされた。

 

「無事、到着!」

 

 ヒポグリフから飛び降りたアストルフォに抱き付かれ、数回トランポリンが揺れる。

 

「マスター!」

「マスター!」

「マスター!」

 

 そして何故かヒポグリフの背中から飛び降り現れたもう3人のアストルフォ。

 

 どうやら俺の真上に移動する際に他の階に行った影響をモロに受けている様だ。

 

「っぐ……ど、どう言う状況で……?」

 

「コラコラ! マスターは僕の物だよー?」

「何を言ってるの? マスターは僕のマスターさ!」

「んんー? おかしくない? 僕のマスターなんだけど? 僕の分身だからって調子乗ってる?」

「はぁはぁ、やばい……理性蕩けそう……」

 

 しかも、1人はドS化しており本物らしきアストルフォは発情したままだ。

 

「も、もう駄目ぇ……兎に角本物の僕がマスターを貰うからね!?」

 

 そう言って顔の赤くなっているアストルフォに足を掴まれた。

 

「はぁ? 君みたいな豚野郎が本物な訳ない、じゃん!」

「はぅー!?」

 

 大事な部分を分身に蹴られて悶える本物(だと思われる)のアストルフォ。

 

「なら僕が真のアストルフォだね!」

 

 そう主張し立ち上がる真のアストルフォはいつかの特異点で使っていたセーラー服を着ており、俺へと飛び掛かる。

 

「ぐほっ!」

「いやいや、僕だよ僕。君の服を見直しなよ」

 

 その横から普段の騎士甲冑のアストルフォが殴り、ブロックする。

 

「僕はパーフェクトアストルフォ!

 マスターに好かれるべく、欠点の無くなった完全なアストルフォさ!」

 

 パーフェクトアストルフォを名乗る彼は他のアストルフォと違いゆっくりと俺に近づく。

 

 なお、その間にドSアストルフォが足で本物のアストルフォを喘ぎまくらせている。

 

「常に新月状態だから、理性は蒸発してない! しかも、全部宝具が使える最強モードなのさ!」

 

 槍、笛、本とヒポグリフを同時出しするパーフェクトアストルフォ。これ、本当に強いサーヴァントなんじゃ……

 

「しかも、デオンみたいに自由に性別を変化できるから女装も女体化も自由自在さ!」

 

『…………』

 

 最後の一言で周りのアストルフォ達は急に黙った。

 

「うわぁ……ないわー」

「君、アストルフォの自覚ある? 無いよね?」

「発情してても分かる。君は最低なアストルフォだ」

 

 ボロクソ言われ始めた。

 

「ちょ、な、なんでさ!? 性別に縛られない体だよ!?」

 

「いや、シャルルマーニュ十二勇士のアストルフォは正真正銘の男だよ?」

 

「それを性別切り替え可能って……誇りも何もあったもんじゃないじゃん」

 

 まあ、自分から個性を捨てた様な物だし分からなくもないが……

 

 その間に俺は不安定なトランポリンの上からなんとか抜け出す為に立ち上がった。

 

「えい!」

「うぉ!」

 

 しかし、パーフェクトアストルフォの槍で転ばされる。

 

「逃さないよ?」

「マスター、一緒にいてね?」

 

 セーラー服と発情状態のアストルフォに両足を掴まれた。

 

「フフフ、退屈なんてさせないから、ね?」

 

 ドSアストルフォの両腕には振動し震えている大人の玩具が脱ぎられており、尻を狙われているのは確定的だった。

 

「しゃ、洒落になってないんですけどぉ!?」

「あはははは、大丈夫だよ。お薬もタップリ塗って、後ろを責められないとイケない体にしてあげるよ」

 

「大丈夫だよぉ、マスターのだったら僕が受け止めるから……」

 

 同時に迫る4人のアストルフォ。

 

『マスター、僕達は君が、大好きだよ』

 

 

 

 危機一髪、もう少しで尻を持っていかれる所で助けがやってきた。

 

 白の花嫁衣装を身に纏ったネロ皇帝、その俗称は嫁セイバー。

 

「美少年を手にかけねばならんとはなんとも心苦しいが、マスターの貞操の危機とあっては容赦する訳にいかんのだ」

 

 あっという間に切り伏せたが、本人的には躊躇があったようだ。

 

「うむ、そのかいあってマスターは余だけの物となったがな! さあ行くぞマスター! 2人の愛の巣へ!」

 

 言うが早いか俺を片手で担ぐと、アストルフォの部屋を出て無人となったヤンデレ・シャトー1階の廊下を走り、ネロの部屋までやってきた。

 

 花嫁らしい部屋……かは分からないが、派手好きなネロにしては輝かしい装飾が大人しめだ。

 

 キングサイズのベットはやたら高そうな天井付きだけど。

 

「夫婦の部屋だからな! マスターの趣味も考慮しての部屋だ!」

 

 そう言って装飾の控えめな方を指差すネロ。

 その先には巨大なショーケースが鎮座しており、ガラス越しに巨大な人形がよく見えた。

 

「おー……って、あれネロの!?」

「そうだ! ローマ一の美女にしてマスターの嫁! 余の1分の1等身大フィギュア、不夜の赤薔薇Verである!

 それだけでない! 普通のサイズのフィギュアも飾っておるぞ!」

 

 得意げに語っているネロ。ショーケースの中には彼女と同じ姿の人形だけが鎮座している。

 

「オタク、と言うのはよく分からんが取り敢えずマスターが大好きな余のフィギュアをあるだけ飾っておいた故、安心して愛でるがよい!」

「わー……凄い!」

 

 俺はショーケースに張り付く様にしてネロのフィギュアを眺める。

 

「すっごい、ディテール拘ってる!」

「そうであろうそうであろう!」

 

「下着のカラーも完璧……」

「うむ、うむ……!」

 

「あ、このポーズあのシーンの再現が……」

「う、うーむ…………ま、マスターよ」

 

「あ! このフィギュア、キャッチャーで取れなかった奴だ! ネロ、このケースどうやって開け――」

「――バカモノォー!」

 

 振り返った俺の顔に涙目なネロのビンタが打ち込まれ、その力で俺は床に叩き付けられた。

 

「い、痛い……普通に痛ぃ……」

「本物のネロ・クラウディウス、しかも貴様の花嫁である余が目の前にいると言うのに、余を愛でずに人形を愛でるとはどう言う思考をしておるのだ!?」

 

「い、いや……だって俺の趣味だって」

「マスターの趣味イコール、マスターの好きなモノ! マスターの好きなモノイコール、余であろう!

 そのフィギュアは余がいなくて寂しい時にのみ愛でよ! そしてショーケースは開かん! どうしてもお触りしたければ余を存分に触れるがよい!」

 

 そんな生殺しじゃないですかー! 生ネロを触れば死ぬんだから。

 

「全く……こほん、しかし、マスターがそこまで余を愛でたいと言うのであれば、嫁である余が一肌脱ぐべきだな!」

 

 そう言って花嫁衣装の胸元に手をかけるネロ。それを慌てて手で静止した。

 

「待った待った!」

「む、何だマスター? もしかして、直々に脱がせたいのか? もちろん、構わんぞ」

 

「いや、ネロ……その、取り敢えず添い寝しない?」

 

 流れに任せ、ヤンデレ・シャトーの終わる時間を稼ぐ方法で行こう。

 先のつまらないジョークで悪夢を出ると言う重大な目標に気付いたが故の行動だ。決して、変な欲望は抱いていない、筈。

 

「そうか、マスターは着たままが趣味であったか!

 愛する夫の為だ、後でシワは直す故、激しく交じりあおうではないか!」

 

 ネロは何か変な事を考えているらしい。

 

 それでも俺はネロと向かい合う様にベットに倒れ、お互いに見つめ合う。

 

「……! ……!」

 

 ネロは我慢出来ないと言わんばかりの顔で俺を見ており、今にも襲って来そうだ。

 

「…………!」

 

 なので俺から両手でネロを抱きしめる事にした。密着し、互いの温度が均一になるのが暖かさで分かる。

 

「ますたぁ……!」

 

 抱きしめているだけで満足しそうな俺とは違い、ネロはこれより先を強請る甘えた声を耳元で囁く。

 

 俺は更に力を込めて抱きしめ続ける。

 

「……ますたぁ……」

「――!」

 

「……」

 

 不意に、抱きしめているネロの体から力が抜けた。

 

「……?」

「マスター……」

 

 口を開いたネロの優しい声が聞こえてきた。

 

「余はな、今凄く嬉しい。

 何故なら余の愛するマスターが余を抱きしめて離さんからな」

 

 そう言って手を俺の手に重ねた。

 

「……余は美しいを芸術で表現する。そうするとな、見栄えが良いのもあるが、今の幸せを周りの者に知ら占める事が出来る。

 これは余が皇帝だった故かもしれぬが、今もこの在り方は余の中に染み込んでおる」

 

 そう言ったネロは微かに笑った。

 

 次の瞬間、横にあった俺の視界は一変、上を向いた。

 真上にはネロの顔があった。

 

「だからな、マスターが余りにも余を幸せにするからな、どうしても他の者にも見せたくなってしまったのだ」

 

 

 

【余の、“幸せ”を……】

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

『悪夢は終わりだマスター』

 

 ま、また生殺しですか……?

 

『そういう事だ。

 だが――そうだな』

 

「ん?」

 

『お前が望むのであれば

 ――待て、しかして希望せよ。

 お前を苦しめる、新たな復讐者を――』

 

 




シャトー歴が長いベテランでもサーヴァントの誘惑は抗え難いです。

次回はツイッター側の当選者さんの話を書きます。
気長に待って頂けたら幸いです。


2部のサーヴァントは果たして自分のカルデアに来るのだろうか……

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