ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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待たせたなっ! (土下座)

今回の記念企画最後の当選者は エイジさん です。
おめでとうございます。

実はUAとか色々更にお礼企画するべき事があるんですが、流石にこのままでは自分が持たないのでしばらくは流させて頂きます。

今回の企画に応募して下さった皆さん、本当にありがとうございました。


素直になれないヤンデレ 【2周年記念企画】

「……ん?」

 

 夕食の材料を買う為にやって来た俺、切大はスーパーで見た事の無い缶飲料があったから手にとって見た。

 

「なんだ、酒か」

 

 炭酸飲料の新商品かと思った俺はそれを元の場所に戻した。

 

「父さん、アルコールアレルギーだったな……まあ、そうじゃなくても俺は飲みたいとは思わないけど」

 

 そう呟いて俺はみりんと醤油を求めて飲み物のコーナーを後にした。

 

「コーラは……流石に今月キツイからやめとこ」

 

 

 

「……マジか」

 

 気が付けばカルデアだったが、珍しい事にマイルームの中では無く食堂の机に頭と腕を置いたまま寝ていた様だ。

 

「アヴェンジャーの言った通りなのか」

 

 先程、アヴェンジャーから説明された事を思い出す。

 今の俺にはマシュの加護とも言える酒の耐性は無い。

 サーヴァント達は普通だが、酔っ払ったサーヴァントがヤンデレになる。

 

 どんな酒やビール、ワインでも飲めば必ず俺もサーヴァントも酔ってしまうらしい。

 

「で、しかも耐久制かよ」

 

 食堂を出ようと出口へと向かった。ここに居るとすぐに酔っ払いの餌食だ。

 

『……すた〜…、ど……すかぁ〜?』

 

 しかし、ドアを開く腕は止まった。

 ドアの向こうから陽気な、酒の入った声で喋っているサーヴァントの声が聞こえて来たからだ。

 

『沖田さん、今寂しいのでマスターさんに思いっきり甘えたいですよぉ? なんだったら、胸とか触り放題ですよぉー……』

 

 なんつーセクハラ発言。オルタが出て来たんだから本家としてもう少し謹んで行動して欲しい物だ。

 

『えへへ……見つけたら、即押し倒して、私のオルタに見せ付けてやりましょう!

 沖田ちゃんより沖田さんです!

 ボーッとしてるあの娘には出来ない大人な攻めで人気を上げて、マスターさんの一番になれる、完璧な作戦! 沖田さん大勝利ですね〜!』

 

 駄目だ。酒が入って滅茶苦茶意味不明な事を言っている。

 

『マスター、何処ですか? 清純系人斬りサーヴァント、沖田さんですよー……』

 

 声は遠ざかっていった。良かった。

 これ以上聞いていたら俺の中での沖田さんの株が氷河期に突入していただろう。

 

「もう既に寒冷期だけどな……しかし、参ったなぁ。食堂から出るとあんな危ない沖田と鉢合わせるリスクがあるのか」

 

 何処で酒を飲んだか知らないが、アレと会って普段通り無事に済むとも思えない。

 

「……一応、もう1つの出口もあるが……」

 

 反対側のドアに目を移す。

 こっちよりも安全かと思い、ドアの前まで移動した。

 

「おわっ!」

「……何よ?」

 

 急にドアが開いた。

 現れたのは血の気の薄い肌と金髪、私服姿のジャンヌ・オルタだった。

 

(アヴェンジャーで司会側の人間だった筈なんだが……)

 

「いや、急に開いたからちょっと驚いただけ……何か食べに来たの?」

「別に、喉が乾いただけよ」

 

「そ、そっか……それじゃあっ」

 

 それで全てを察した俺はジャンヌの横を通り抜けてサッサと食堂を後にした。

 

「? 何よあいつ、逃げるみたいに……」

 

 

 

「取り敢えず食堂から脱出したけどこのカルデア、エレベーターも階段も使用禁止だし、食堂と医務室を除けばマイルームとサーヴァントの部屋くらいしか無いって……狭すぎませんかね?」

 

 だが、今までの傾向から考えると行動範囲の狭さはサーヴァントの数に比例している筈だから、数は少ないと考えるべきか。

 

「……ん?」

 

 廊下を慎重に歩く俺の視界に黒い何かが映った。いや、増殖するGとかじゃなくて。

 

「……うぅ……」

 

 何か呻き声を発しているそれはアルトリア・オルタだった。

 こちらもジャンヌ・オルタ同様に新宿のストーリーで着ていた私服姿だ。

 

 流石に酔っ払っているのかと警戒して、隠れながら様子を伺う。

 

「……腹が、減った……」

 

 ……おい、騎士王。

 

 溢れた一言でだいたいの状況を理解して、俺の警戒心はすーっと消えていった。

 顔も赤くなく酔っている訳ではなさそうなので俺は若干呆れながら近付いてた。

 

「……大丈夫?」

「マスター、丁度いい。

 見ての通り私は空腹だ。食堂まで私を運べ」

 

 先まで呻いていた事を無かった事にするかの様に偉ぶり始めた。

 本人は恥ずかしく思っていない様だが、俺は内心苦笑した。

 

(……て言うか、思わず声をかけたけど食堂まで連れて行ったらジャンヌと鉢合わせする!)

 

 取り敢えずアルトリアを立たせた俺は、ヤンデレではない彼女の頼みをやんわり断ろうと試みる。

 

「連れて行きたいのは山々だけど、ちょっと俺は野暮用があるから」

「……なるほど。マスターは、反転した私が嫌いか」

 

「いや、そんな事は無いけど……」

 

「何時も心優しいマスターだと思っていたがなるほど、やはり臆病な人間らしい。汚らわしい者とは触れていた無いという事だな。何、理解はしている。これからはなるべくお前の視界に入らぬ様に――」

 

「――連れてきます! 連れて行かせて下さい!」

 

 良心をグリグリと責められた俺は腹を括って彼女を食堂までエスコートする事にした。

 

「マスター、これからも心優しいマスターであれ。そして私にジャンクフードを寄越せ」

 

「はいはい……」

 

 肩で彼女の体を支えながら食堂まで戻ってきた俺。

 願わくば、ジャンヌが酔っ払っていませんように。

 

「……あら、冷血女。今日はやけに弱々しいじゃない。マスターに支えられてくるなんて」

「私の人望が羨ましいかトカゲ女。お前と違ってマスターは私に尽くしてくれるからな」

 

 ドアが開いてジャンヌがこちらに気付くと直ぐに険悪な言い合いが始まる。

 

 取り敢えず酔ってない事に安堵しながらも、アルトリアを席に座らせると冷蔵庫を開けてジャンクフードを探し始めた。

 

(ジャンクフードと言うか、雑な物で良いらしいし冷凍食品とかでも多分いいんだろうな)

 

「トカゲ女、貴様はその背中に隠した酒瓶で何をしている? もしや、開け方を知らないのか?」

「う、煩いわね! そう言う騎士王様は開け方をご存知かしら?」

 

 あれ? 冷凍庫には肉や魚だけ……よくよく考えれば日本の一般家庭じゃないし、冷凍食品が常備してる訳もないか……

 でも、緊急用の非常食とかだったら何か無いのか?

 

「っふ、素直に開けて下さいと言ったらどうだ?」

「何よ、1杯くらいなら飲ませて上げるわよ。細かい事をグズグズ言ってないでさっさと開けたら?」

 

 あー、あったあった。ツナの缶詰だ。

 ご飯は誰の残りかは分からないが拝借させて貰おう。

 

「……ふん、初めて見る銘柄だが、何処で手に入れた?」

「ジルが置いていったのよ。さあ、飲むんならさっさと飲みましょう」

 

 よし、茶碗に盛り付けたし早くアルトリアに持っていこう。

 

「アルトリア、出来た……あ」

 

 ツナをご飯の上に置いただけの茶碗を持ってキッチンを出た俺が見たのは、コップ一杯の酒を飲み干し頬を赤く染めた2人のオルタの姿だった。

 

「……」

 

 コトッと皿を机の上においた俺はそっと食堂を出ていく事にした。

 

『――』

「……あ、詰んだ」

 

 ドアに近付いてから聞こえて来た何かを引き抜いた音に、思わずそう呟いた。

 

 そして食堂のドアは切り裂かれ、桃色の髪の酔っ払いが笑顔でそこに立っていた。

 

「えへへへ……マスター、此処にいたんれふかぁ〜? 探しましたよ〜」

 

 動揺して固まる俺に、刀を落とした沖田は目に見えない速さで俺に抱き着いてきた。

 当然ながら、受け止める事が出来ない俺は地面に倒れた。

 

「痛っ……!」

「ますたぁますたぁ! 沖田さんねぇ、今ねぇ、すっごくえっちな気分なんれふよぉ」

 

 そう言いながら俺の上で新選組の青い羽織を脱ぐ沖田。 

 霊基再臨的には下がっているが、脇の露出がやばいのは全てのFGOプレイヤーが理解しているだろう。

 

「じーっとしていてくださいね?

 私がますたぁをいっぱいいっぱい愛してあげますね?」

 

「い、いや、結構です」

 

「……遠慮しないで下さいね?」

 

 急に口調がマジになった沖田は俺を手を両手で被せる様に握ると、服越しに胸に当てた。

 

「黒い私の胸に夢中になったんでしょう? 本家である私にもちゃーんと同じ位の物がありますからね?」

 

 うりうりぃ〜と、俺の手を胸に押し当てる。

 うっかり揉みそうになる衝動を堪える。

 

 沖田は帯を緩ませて谷間を見せる。

 

「あーますたぁ我慢してますねぇ? あはは、えいえいっ!

 普段露出しない物が見えると、コーフンするんですよね……もう、沖田さんに魅了されてますかぁ〜?」

 

 シラフで冷静を保とうとする俺にこのノリは辛い。

 俺はアルトリアとジャンヌの方を見てみるが、2人共酔い潰れたのか微動だにしない。

 

「……ますたぁ……少し位反応してくれても良いじゃないですか?

 おっぱいですよ、おっぱい! 沖田の巨乳ですよ?

 好きなだけ揉んで良いんですよ? 何で嫌がるんですかぁ? 同性愛者なんですかぁ? それとも……他に好きな人が? いや、あり得ないですよね? だって、沖田さんぐらいマスターの事を守ってあげられて、勝手に聖杯持ち出したりもしなければ騒動を起こしたりしない。偉ぶったりしないし、命令にも逆らわない。マグマを泳いだりもしなければ、説教もしない。宇宙から来てないですし、夢の中に現れたりもしなければ彼氏面もしない。

 ただお側に仕えて、たまに起こる事件の解決に協力して大事な戦でも大活躍!

 そんな忠誠心と愛に溢れるサーヴァントが沖田さん以外にいますか? 沖田ちゃん? あの娘も元を辿れば沖田さんなので沖田さんはマスターの正妻、正ヒロインです証明終了!」

 

 早口で捲し立てて色々話したが俺がその内容を理解するには少し難解過ぎだ。

 

「マスター……こうなったら仕方ないです。お父さんになったら、嫌でも私の事を正妻として見てくれますよね?」

 

「ま、待った! ストップ、ストーップ!」

 

「大丈夫ですよ。沖田さんの敏捷なら言葉通り、天井のシミの数でも数えていれば終わります!」

 

 そもそもカルデアのシステム的な天井にシミなんてない……じゃなくて!

 

「それじゃあ、イッちゃいましょうか……!」

 

 そう言って自分の下半身に指を伸ばして――気絶した。

 

「……うっさいわねぇ……人が気持ちよく寝ていたのに……」

「じゃ、ジャンヌ……おわっ!?」

 

「アンタもアンタね! 何自分のサーヴァントに馬乗りにされて良い様にされてるわけ!?」

 

 急に胸倉を捕まれ、大声で説教をされて俺は戸惑う。

 

「い、いや……不可抗力と言うか抵抗不可と言うか……」

「情けないマスターね。そんなんだから……ああもう!」

 

 唸ったジャンヌは何故か俺の体を抱きかかえると、食堂を出て行った。

 その間にも苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべており、俺も口を出すのは諦めた。

 

 そしてすぐ近くにあった女子更衣室の中に俺は連れ込まれた。

 

「……な、何で女子更衣室……?」

 

「……」

 

 ジャンヌはベンチに座らせた俺をジッと睨むと、息を吸いながらゆっくりと口を開いた。

 

「っ……マスター!」

「は、はい?」

 

「……っう……うぅ……!」

「……は……? あ、れ……え!?」

 

 怒鳴ったと思ったら突然泣き出した。

 

「良かったぁ……! 本当に良かった……! もしあの侍サーヴァントと変な事してたら、どうしようって……もうマスターが汚されていたらって……心配で心配で……!」

 

 泣き上戸なのだろうか。とっても情緒不安定だ。

 

 先まで怒鳴り散らしていたジャンヌ・オルタが俺に抱きついて泣いているこのシチュエーションは心に来るものがあるが……

 

「……ジャンヌさん? その手に持っているのは何ですか?」

「……これぇ? これは……」

 

 ジャンヌの手にいつの間にか握られていたのは、酒の瓶。彼女達が先まで飲んでいた物らしく、半分位しか残っていない。

 

「……マスターが飲む分よ」

「いや、俺は未成年だし……」

 

 やんわりと断ろうとするがジャンヌは止まらない。

 

「飲んで……くれないの?」

「うん飲まな――」

 

 甘えた声で勧めて来るのを断ると唐突に俺の後ろにあった更衣室のロッカーが1つ、炎に包まれ燃え尽きた。

 

「飲むわよね?」

「で、でも俺は未成――」

 

 今度はまとめて壁際にあった5つ全てが灰となった。

 

「の・ん・で? じゃないとどうなるか、分かるでしょう?」

「……」

 

 本当に情緒不安定だ。泣いてたのにずいぶんと高圧的になってしまった。

 

「…………しょうがないわね。じゃあ……」

 

 ジャンヌは手に持った酒を自分の口へと近づけた。

 

 口移しだと理解した俺は令呪の無い手を動かすと、乱暴だと思いながらも最速でジャンヌが持つ酒瓶を下へと叩き付けた。

 

 ガラスの割れる音とともに、俺達から数十センチ位離れた場所で酒瓶は砕け散った。

 

「これでよし……!」

「あ……あ……!? な、なんで……?」

 

 喜ぶ俺とは対照的に、ジャンヌは涙を流していた。

 

「何で……? そ、そんなに嫌だったの……? 私の……お酒、飲みたく……なかったの?」

 

「無理矢理は嫌に決まってるだろ?」

 

「……あ、ああぁぁぁ……!」

 

 ジャンヌは落ち込み、その場に座り込んで泣き崩れた。

 

「いや、泣かなくても……」

 

 泣き上戸だから仕方ない。そう思ったのも束の間、宝具である竜の旗が彼女の手に出現するのを見て、俺は感じた嫌な予感に従って後ろに下がった。

 

「……も、もう、嫌……私の……私の酒も受け取ってくれないなんて……やっぱりマスターは……あのサーヴァントに……」

 

 結果的に彼女の旗による突きは空振ったが、宝具の一撃である以上人間の俺がまともに喰らっていたら無事では済まなかっただろう。

 

「お、おいおい……酔ってるからってこれは……」

 

 やばい。酒を叩き付けただけで殺されるとは微塵も思っていなかった俺は彼女の行動に戦慄した。

 

「酒に溺れてこれって、言い逃れ出来ない殺人罪なんだけど……」

 

「罪……罪人……あははははっ、そうよね……主を憎みながら生まれた、生まれながらの罪人。

 その私が……愛するマスターを殺してしまうのは……運命なのよねぇ……?」

 

 酔っ払いながらトンデモ理論で納得してる……いや、流石に逃げないと不味い!

 

 【瞬間強化】でジャンヌより早く更衣室を出ようとするが、炎がそれを阻んだ。

 

「あははははは! ……酒に火が付いて、もう此処も直ぐに燃え尽きる!

 ……私と一緒に、灰になりましょう」

 

 それは勘弁願いたい。

 しかし、ジャンヌは更に炎の勢いを増しあっという間に更衣室は燃え上がった。サーヴァントの炎に囲まれては……

 

 考え続ける俺だが、ジャンヌは魔力を使い過ぎた為かその場に座った。

 だが、それなら俺が何をしようと邪魔はされないだろう。

 

(だけど……ほおっておくのは……!)

 

 自業自得なんだろうが、先程自分の口から出た“殺人罪”の言葉が引っ掛かり、彼女を見殺しにする事を拒んでいる。

 

「……ええい! 南無三!」

 

 【幻想強化】で力を引き上げた俺は、ジャンヌの腕を手に取った。

 酔っ払っているせいか脱出する気がないからか、抵抗は一切なかった。

 

「自分の炎で焼かれないだろう! 火傷しても恨むなよ!」

 

 俺は自身に無敵状態を付加する【オシリスの塵】を発動させて炎へと飛び込んだ。

 

 切れかかっていた【瞬間強化】と【幻想強化】で溶けていたドアの残骸を蹴り飛ばし、無敵化のお陰で魔術礼装も体も燃える事は無かったが、数秒程過ごした炎の中には空気がない上にそれは俺の体からも遠慮なしに奪っていく。

 

(っが、い、息が……!? 肺が……空っぽに……!?)

 

 更衣室からもとい、炎の中から出る頃には意識は朦朧としており俺はジャンヌと共に地面へと倒れた。

 

 

 

「……っ」

 

 医務室……の様だ。初めて来た。

 

 頭を抑えながら起き上がった俺は、そこで異常に気がついた。

 

「! 縛られてる!?」

 

 体がダルくて気付かなかったが腕にも手足にも、鎖が巻き付いている。

 そして、そんな俺の膝辺りに、目を擦っているサーヴァントがいた。

 

「……んー……目が覚めたか、マスター」

「あ、アルトリア・オルタ……」

 

「なんだ。拘束している事に何か言いたそうだな」

 

 見た感じは、酔っている様に見えない。

 なのにヤンデレ……もしかして、一回酔うとそのまま病むのか?

 

「……しかし、私も酒に呑まれていたのでな。何でこんな事をしたのかは覚えていない。本当に、不本意だった」

 

 彼女は目を伏せた。

 

「だが、それだけマスターを大事に思っていたのだろう。私はそう認める事にした」

 

 そう言ってアルトリア・オルタは俺に微笑んだ。

 

「……取り敢えず、これを外してくれるかな?」

「ああ、そうだな……」

 

 しかし、アルトリアは動かない。

 

「…………?」

 

(やばい……凄く良くない感じが……)

 

「マスター……実は先から気分が優れん……」

 

「マスターを拘束を解く。勿論それは当然で、当たり前なのだが――」

 

 片手で頭を抑え、苦しげながらも笑うアルトリアは俺の縛る拘束具を撫でた。

 

「――どうしても、惜しいと思ってしまう」

 

 そんな彼女を見て、俺は確信した。

 

(二日酔い……! どれだけ寝てて夢の中の時間がどれくらい過ぎ去ったかはしらないが二日酔いでヤンデレになってる……!)

 

「ふふふ……暴君である私にこんな心が残っていたなんてな……」

 

 こっちは鳥肌と背中を走る震えが止まらない。

 

「どうしたマスター? 怯えているのか? ……ああ、その平凡さが愛らしい」

 

 彼女は床に置いてあった何かを持ち上げ、俺はそれに戦慄した。

 

「……これは、私にこの気持ちを気付かさせてくれた酒だ。私にとっては思い出深い物となるだろう。私に聖杯を捧げる時はこの酒を注いでおくようにな」

 

 銘柄は“鯉の夢”。洒落た銘柄だが、そんな事よりその字を隠すような赤い点が目に入った。

 

「何か恐れている様だが、安心しろ。この血はマスターの物だ。破片で足を切っていたのを止血した時に私に付いてしまったようだ……んっ」

 

 そう言いながらも、酒瓶に付いた血を舐めた。

 

「……ああ……じわりと、マスターの欠片が私に入って溶けていく……」

 

「あ、アルトリア……?」

「ああ、そうだったな……今マスターの為に注いでやろう」

 

 更にコップを取り出し、酒を注ぐ。

 

「さあ飲めマスター」

「い、いや……俺は未成年だし」

 

 差し出されたコップをやんわりと断る。先みたいに手を出せば二の舞になりかねない。

 

「二日酔いの私に飲め、と? いくらマスターでも難しい注文だな」

「いや、俺は飲めないし……」

 

「分かった……未成年だから酒が飲めない。なら、私の唾液なら、飲んでも問題あるまい?」

「え、いやそうじゃなくて……!」

 

 アルトリアはコップに口を付け、そのまま俺の唇へと迫る。

 

「ま、待ってっ!」

 

 だけど、アルトリアは止まらない。

 両手で止めようとしたが、彼女は拘束具で繋がれた俺の両腕を片手で引っ張ると、背中にもう片方の手を回して抑えられると何も出来ずに唇が重なった。

 

 彼女の口にある未知の液体が俺の舌を通るが俺は好みではその味に苦しむ。

 

 

(臭い、苦い……! むっむ無理! 俺は無理……!!)

 

 大量のアルコールが喉へと飲み込まされたそれが、俺の中へ――

 

 

 ――視界が、思考がボーッとする。

 

 暖かい。

 

 魔術や宝具によって認識や記憶を歪められるのとは違う、暖かさを感じる事の出来る浮遊感。

 

 ……ああ、なんかどーでも良くなってきた。

 

 ヤンデレとか関係ないじゃん。めっちゃ美人なサーヴァントがあっちから寄ってくるって最高だぁー……

 

 だって手を伸ばせば……鎖邪魔だなぁ、なんて面倒な事すんの? いいから外せよー

 

 あ? 嫌だじゃないよ、外せったら外せよ!

 

 ……れいじゅが発動したな。よし、外したなじゃあー……

 そのまま自分を縛れ。

 そうだ足も手もだ。

 

 お前は俺のサーヴァント……なら、俺が閉じ込めるのはお前だけじゃない。

 

 ……? お、沖田ナイスタイミング。

 

 お前もれいじゅー……そういやジャンヌもいるから全員縛るの無理か? でも俺のサーヴァントだからちゃんと手元に置いときたいなぁ、え? 何? 沖田さんだけ見ろって?

 

 何で、じゃないよ? わがまま言うと契約破棄するよ?

 

 そーうそーう、よく謝ってくれたね。そうだよ、俺のサーヴァントだからね、俺の言う事ちゃんと聞くよね?

 それじゃあ、自分の部屋に居ようか。で、ちゃんと自分を縛って自分を監禁してね? 出来るよね?

 

 良かったぁ……そうだよ、俺のサーヴァントだもん。アルトリアも沖田もジャンヌも大好きだ。

 

 大好きだ。

 だからちゃんと俺が面倒を見るんだ、うん。

 

 

 

 

「き、気分わりぃ……」

 

 目が覚めた俺はその日、目覚めの悪さに日朝を見逃すハメになった。

 

 味噌汁を飲んで少しマシになったが、何もする気が起きなかった。

 

「……うっぷ」

 

 チラリと見えた料理酒が、何故か少しだけ悪化させた。

 

 

 




ヤンデレ・シャトー2周年企画終了、これからも応援よろしくお願いします!


次回は夏らしい話を投稿出来たらな……と思っています。
アナスタシアとか不夜キャスとか清サーとかいますし。

今年の水着イベントも迫ってますし、原作のFGOの方も一緒に楽しんでいきましょう! では、また次回!

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